説明

サーマルプリントヘッドおよびその製造方法

【課題】サーマルプリントヘッドの耐摩耗性を維持しつつ、ワイヤ接合の接合品位を高める。
【解決手段】まず第1の長辺31と第2の長辺32とを持つ長方形のセラミック基板23の表面に形成された保温層24の表面に抵抗体層25および電極層26を所定のパターンに形成する(第1工程)。次に、全面保護被膜層41を形成し(第2工程)、その全面保護被膜層41を覆うポジレジスト層42を形成する(第3工程)。次に、電極端子となる部分43を感光させ(第4工程)た後、ポジレジスト層42を覆うネガレジスト層46を形成する(第5工程)。次に、ネガレジスト層46の抵抗発熱部側の領域を感光させ(第6工程)、現像し(第7工程)、エッチング処理を行い(第8工程)、残ったポジレジスト層42を剥離する(第9工程)。これにより、保護被膜層に段差が形成されたサーマルプリントヘッドを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルプリントヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリントヘッドは、近年、ビデオプリンター、イメージャー、シールプリンターなどの出力用デバイスとして注目されている。このサーマルプリントヘッドは、基板上に配列された発熱抵抗体を発熱させることにより、感熱紙や製版フィルム印画紙、メディアなどに記録を行うものである。サーマルプリントに関しては、低騒音、低ランニングコストの観点などから、様々な開発が行われている。
【0003】
サーマルプリントヘッドは、アルミナなどのセラミック基板上に保温層としてグレーズ層を形成した支持基体を有している。この支持基体上に発熱抵抗体と、アルミニウムなどの電極となる導電層とがスパッタ法などの薄膜形成方法によって積層形成される。その後、フォトエングレービングプロセスを施すことによって、一直線上につながる発熱抵抗体と個別電極との対を、間隔を置いて配列したパターンを形成する。さらに、発熱抵抗体および電極を覆う保護被膜層をスパッタ法などの薄膜形成法で形成し、個別電極の端子部の保護被膜層を除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−137284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サーマルプリントヘッドにおいて、保護被膜層が厚いと個別電極の端子部と回路基板とのワイヤ接合の邪魔になり、接合品位が低下し、場合によっては接合不良が発生する。しかし、保護被膜層を薄くすると、耐摩耗性が低下する。
【0006】
そこで、本発明は、サーマルプリントヘッドの耐摩耗性を維持しつつ、ワイヤ接合の接合品位を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明は、サーマルプリントヘッドの製造方法において、第1の長辺と第2の長辺とを持つ長方形の絶縁基板の表面に前記第1の長辺に沿って間隔を置いて配列された抵抗体と前記抵抗体よりも前記第2の長辺に近い位置に配置された端子まで前記抵抗体から延びる配線とを形成する第1工程と、前記第1工程の後に前記抵抗体と前記配線と前記端子と前記絶縁基板との全体を覆う全面保護被膜層を形成する第2工程と、前記第2工程の後に前記全面保護被膜層の表面全体を覆うポジレジスト層を形成する第3工程と、前記第3工程の後に前記端子部分を感光させる第4工程と、前記第4工程の後に前記ポジレジスト層の全体を覆うネガレジスト層を形成する第5工程と、前記第5工程の後に前記端子よりも前記第1の長辺側で前記第2の長辺に沿って延びる境界と前記第1の長辺との間の領域を感光させる第6工程と、前記第6工程の後に現像する第7工程と、前記第7工程の後に前記ポジレジスト層と前記ネガレジスト層と前記全面保護被膜層とをエッチングして除去する第8工程と、前記ポジレジスト層を剥離する第9工程と、を具備することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、サーマルプリントヘッドにおいて、第1の長辺と第2の長辺とを持つ長方形の絶縁基板と、前記絶縁基板の表面に前記第1の長辺に沿って間隔を置いて配列された抵抗体と、前記抵抗体よりも前記第2の長辺に近い位置に配置された端子まで前記抵抗体から延びる配線と、前記端子部分が開口し、前記端子よりも前記第1の長辺に近い側で前記第1の長辺に沿って延びる境界よりも前記第1の長辺側に前記端子の近傍よりも厚さが厚い部分が形成された保護被膜層と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サーマルプリントヘッドの耐摩耗性を維持しつつ、ワイヤ接合の接合品位を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一実施の形態を断面図とともに示すフローチャートである。
【図2】本発明に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一実施の形態で製造されたサーマルプリントヘッドの断面図である。
【図3】本発明に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一実施の形態で製造されたサーマルプリントヘッドの平面図である。
【図4】本発明に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一実施の形態で製造されたサーマルプリントヘッドの一部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るサーマルプリントヘッドの一実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、この実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれらに限定されない。
【0012】
図2は、本発明に係るサーマルプリントヘッドの製造方法の一実施の形態で製造されたサーマルプリントヘッドの断面図である。図3は、本実施の形態で製造されたサーマルプリントヘッドの平面図である。図4は、本実施の形態で製造されたサーマルプリントヘッドの一部拡大平面図である。
【0013】
サーマルプリントヘッド21は、放熱板10と発熱体板22と回路基板11とを有している。放熱板10は、たとえばアルミニウム製の板である。
【0014】
発熱体板22は、セラミック基板23と保温層24と抵抗体層25と電極層26と保護被膜層27とを有している。セラミック基板23は、第1の長辺31と第2の長辺32とを持つ長方形の板であり、たとえばアルミナ製である。保温層24は、セラミック基板23の表面に形成された、たとえばガラス製の層である。抵抗体層25および電極層26は、保温層24の表面に積層される。
【0015】
抵抗体層25および電極層26は、セラミック基板23の短辺方向に直線状に延びている。直線状に延びた抵抗体層25および電極層26は、セラミック基板23の第1の長辺31に沿って間隔を置いて配列されている。抵抗体層25の一部の表面には電極層26が形成されていない空隙があり、この空隙部分の抵抗体層25は抵抗発熱部28となる。抵抗発熱部28は、セラミック基板23の第1の長辺31に沿って直線状に配列されている。直線状に延びた電極層26の抵抗発熱部28の反対側の端部には、電極端子29が配置されている。つまり、第1の長辺31に沿って間隔を置いて配列された抵抗発熱部28とこの抵抗発熱部28よりも第2の長辺32に近い位置に配置された電極端子29との間には、電極層26に形成された配線が延びている。
【0016】
保温層24と抵抗体層25と電極層26とは、電極端子29を除き、保護被膜層27に覆われている。保護被膜層27は、たとえばSiONで形成される。
【0017】
電極端子29よりも第1の長辺31に近い位置に第1の長辺31に沿って延びる境界33を境として、保護被膜層27の厚さは異なっている。この境界33よりも抵抗発熱部28側すなわち境界33と第1の長辺31との間の領域の保護被膜層27の厚さは、この境界33よりも電極端子29側すなわち境界33と第2の長辺32との間の領域の保護被膜層27の厚さよりも厚い。したがって、この境界33には保護被膜層27の段差が形成されている。この段差の高さは、0.2μm〜10μmである。
【0018】
回路基板11は、たとえば印刷回路が形成されたエポキシ基板である。回路基板11上には、ドライバIC(Integrated Circuit)12が搭載される。
【0019】
発熱体板22および回路基板11は、放熱板10の同一面上に載置される。発熱体板22および回路基板11は、たとえば両面テープ15で放熱板10に固定される。
【0020】
ドライバIC12と電極端子29との間には、ボンディングワイヤ13が架け渡されている。ドライバICと回路基板11上に形成された端子との間にもボンディングワイヤ13が架け渡されている。ドライバIC12とボンディングワイヤ13と電極端子29とは、封止樹脂14で封止されている。封止樹脂14の最頂部の高さは、たとえば500μmである。
【0021】
保護被膜層27の境界33部分における段差によって、封止樹脂14は境界33よりも抵抗発熱部28側には流れ込まず、境界33よりも電極端子29側にのみ存在する。
【0022】
次に、このサーマルプリントヘッドの製造方法について説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態におけるサーマルプリントヘッドの製造方法を断面図とともに示すフローチャートである。
【0024】
まず、セラミック基板23の表面にガラスペーストを所定のパターンで印刷し、焼成することにより、セラミック基板23の表面に保温層24が形成された絶縁基板50が得られる。
【0025】
次に、保温層24の表面に抵抗体層25および電極層26をスパッタ法などの薄膜形成法によって積層する。これらの抵抗体層25および電極層26の一部をフォトエングレービングプロセスによって除去し、所定のパターンを得る。これにより、第1の長辺31と第2の長辺32とを持つ長方形の絶縁基板50の表面に、第1の長辺31に沿って間隔を置いて配列された抵抗発熱部28と抵抗発熱部28よりも第2の長辺32に近い位置に配置された電極端子29まで抵抗発熱部28から延びる配線とを含む配線層51が形成される(第1工程)。
【0026】
絶縁基板の表面に所定のパターンで配線層51を形成した後、基板の全体を覆う全面保護被膜層41を形成する(第2工程)。つまり、図1に示すように、抵抗発熱部28と電極層26と電極端子29とこれらの配線で覆われていない保温層24の表面は、すべて全面保護被膜層41によって覆われる。
【0027】
第2工程の後に、図1に示すように、全面保護被膜層41の表面全体を覆うポジレジスト層42を形成する(第3工程)。ポジレジスト層42の厚さは、2μm〜10μm程度である。
【0028】
第3工程の後に、マスク44を被せた状態で、電極端子29部分を感光させる(第4工程)。このマスク44には、電極端子29に対応する部分に開口が形成されている。これにより全面保護被膜層41の電極端子29に対して反対側と接する部分43のポジレジスト層42が感光する。
【0029】
第4工程の後に、感光した部分43を含めポジレジスト層42の全体を覆うネガレジスト層46を形成する(第5工程)。第5工程の後に、マスク45を被せた状態で、露光する(第6工程)。このマスク45は、完成後に保護被膜層27の段差が形成される境界33を端縁とし、その境界から電極端子29側を覆う。これにより、電極端子29よりも第1の長辺31側で第2の長辺32に沿って延びる境界33と第1の長辺31との間の領域が感光する。その結果、電極端子29よりも第1の長辺31側で第2の長辺32に沿って延びる境界33と第2の長辺32との間の領域47が感光していない状態となる。
【0030】
次に、ポジレジスト層42およびネガレジスト層46を現像する(第7工程)。これにより、ポジレジスト層42の感光した部分43およびネガレジスト層46の感光していない領域47が取り除かれる。
【0031】
第7工程の後に、たとえばドライエッチング法によってエッチングする(第8工程)。このエッチングにおいて、まず、全面保護被膜層41のポジレジスト層42が形成されていない部分、すなわちポジレジスト層42の感光した部分43が取り除かれて露出した部分が時間の経過とともに取り除かれていく。この際、ポジレジスト層42のネガレジスト層46で覆われていない部分も同時に取り除かれていく。ネガレジスト層46で覆われていない部分のポジレジスト層42がなくなると、その部分でも全面保護被膜層41は時間の経過とともに取り除かれていく。このエッチングは、電極端子29の表面の全面保護被膜層41がなくなるまで行われる。
【0032】
その結果、電極端子29よりも第1の長辺31側で第2の長辺32に沿って延びる境界33を境として、厚さが異なる保護被膜層27が形成される。なお、電極端子29の表面の全面保護被膜層41がなくなるまでエッチングすることにより、境界33部分に所定の段差が生じるように、ポジレジスト層42の材質および厚さ、エッチングガスなどを選択する。
【0033】
このようにして、保護被膜層27を形成した後、残存したネガレジスト層46およびそのネガレジスト層46で覆われたポジレジスト層42を剥離する(第9工程)。これにより、発熱体板22が完成する。
【0034】
その後、この発熱体板22および別途製造した回路基板11を放熱板10に載置し、固定する。次に、放熱板10に固定した発熱体板22と回路基板11上のドライバIC12との間をワイヤボンディングする。さらに、ドライバICおよびボンディングワイヤ13を封止樹脂14で封止することによって、サーマルプリントヘッド21が完成する。
【0035】
電極端子28近傍の保護被膜層27は、抵抗発熱部28近傍の保護被膜層27に比べて厚い。このため、保護被膜層27が邪魔をしてワイヤボンディングが困難になる可能性が小さい。その結果、ワイヤ接合の接合品位が向上する。また、電極端子29近傍の薄い保護被膜層27の表面は、封止樹脂14によって保護されることとなるため、健全性が損なわれる可能性は小さい。一方、被印刷媒体と接触する抵抗発熱部28近傍では、保護被膜層27を厚くしているため、所定の耐摩耗性能を確保することができる。
【0036】
ポジレジスト層42は、ネガレジスト層46に比べて、微細なパターニングに適している。したがって、ポジレジスト層42を用いることによって、保護被膜層27に段差を形成するネガレジスト層46で覆われる領域よりも小さな複数の開口を形成することができる。
【0037】
また、全面保護被膜層41の取り除くべき部分43のポジレジスト層42を感光させた後に、その表面にネガレジスト層46を形成している。このネガレジスト層46は、現像後に残すべき領域47を感光させればよい。このため、ネガレジスト層46を光が透過してネガレジスト層46の背面のポジレジスト層42が感光したとしても、感光した部分はネガレジスト層46で覆われているため、エッチングの際に取り除かれることはない。よって、一回のエッチング処理で電極端子29部分を露出させるとともに、境界33に保護被膜層27の段差を形成することができる。
【0038】
このように、本実施の形態によれば、サーマルプリントヘッドの耐摩耗性を維持しつつ、ワイヤ接合の接合品位を高めることができる。
【0039】
また、保護被膜層27の境界33部分における段差によって、封止樹脂14は境界33よりも抵抗発熱部28側には流れ込まず、境界33よりも電極端子29側にのみ存在する。このため、抵抗発熱部28と電極端子29とを近接させたとしても、製造時の抵抗発熱部28の近傍への封止樹脂14の流れ出しを考慮する必要がないため、サーマルプリントヘッド21を特に短辺方向に小型化することができる。
【0040】
なお、ここでは、1枚のセラミック基板23から1つのサーマルプリントヘッド21を製造する場合について説明したが、1枚のセラミック基板23に複数のサーマルプリントヘッド21となる部分を形成し、その後分割することにより、複数のサーマルプリントヘッド21を製造してもよい。また、ドライバIC12は回路基板11上に搭載されるものとしたが、ドライバIC12が発熱体板22側に搭載され、そのドライバIC12から回路基板11側にボンディングワイヤ13が架け渡されようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10…放熱板、11…回路基板、12…ドライバIC、13…ボンディングワイヤ、14…封止樹脂、15…両面テープ、21…サーマルプリントヘッド、22…発熱体板、23…セラミック基板、24…保温層、25…抵抗体層、26…電極層、27…保護被膜層、28…抵抗発熱部、29…電極端子、31…第1の長辺、32…第2の長辺、33…境界、41…全面保護被膜層、42…ポジレジスト層、44…マスク、45…マスク、46…ネガレジスト層、50…絶縁基板、51…配線層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の長辺と第2の長辺とを持つ長方形の絶縁基板の表面に前記第1の長辺に沿って間隔を置いて配列された抵抗体と前記抵抗体よりも前記第2の長辺に近い位置に配置された端子まで前記抵抗体から延びる配線とを形成する第1工程と、
前記第1工程の後に前記抵抗体と前記配線と前記端子と前記絶縁基板との全体を覆う全面保護被膜層を形成する第2工程と、
前記第2工程の後に前記全面保護被膜層の表面全体を覆うポジレジスト層を形成する第3工程と、
前記第3工程の後に前記端子部分を感光させる第4工程と、
前記第4工程の後に前記ポジレジスト層の全体を覆うネガレジスト層を形成する第5工程と、
前記第5工程の後に前記端子よりも前記第1の長辺側で前記第2の長辺に沿って延びる境界と前記第1の長辺との間の領域を感光させる第6工程と、
前記第6工程の後に現像する第7工程と、
前記第7工程の後に前記ポジレジスト層と前記ネガレジスト層と前記全面保護被膜層とをエッチングして除去する第8工程と、
前記ポジレジスト層を剥離する第9工程と、
を具備することを特徴とするサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記第9工程の後に前記抵抗体を駆動する駆動素子と前記端子とをワイヤで接続するボンディング工程と、
前記ボンディング工程の後に、前記境界よりも前記第2の長辺側に樹脂を塗布して前記駆動素子と前記ワイヤとを封止する封止工程と、
を具備することを特徴とする請求項1に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項3】
第1の長辺と第2の長辺とを持つ長方形の絶縁基板と、
前記絶縁基板の表面に前記第1の長辺に沿って間隔を置いて配列された抵抗体と、
前記抵抗体よりも前記第2の長辺に近い位置に配置された端子まで前記抵抗体から延びる配線と、
前記端子部分が開口し、前記端子よりも前記第1の長辺に近い側で前記第1の長辺に沿って延びる境界よりも前記第1の長辺側に前記端子の近傍よりも厚さが厚い部分が形成された保護被膜層と、
を具備することを特徴とするサーマルプリントヘッド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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