説明

サーミスタ素子

【課題】電気的特性の変化を抑えつつ、電極部と金属酸化物の焼結体(サーミスタ部)との密着力を向上することができるサーミスタ素子を提供する。
【解決手段】サーミスタ素子1は、温度に応じて抵抗値が変化する板状のサーミスタ部10と、サーミスタ部10の両面に形成された電極部20と、電極部20に接続されたリード線40とを有している。そして、サーミスタ部10には、ペロブスカイト型の結晶構造を有する導電性の金属酸化物と、絶縁性の金属酸化物とが含まれている。また、電極部20には、Pt等の導電性の金属と、サーミスタ部10との密着力を向上させるための共材として、サーミスタ部10に含まれている絶縁性の金属酸化物が含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面に電極部が形成された板状の金属酸化物焼結体からなるサーミスタ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
温度に応じて抵抗値が変化する板状の金属酸化物焼結体であるサーミスタ部と、該サーミスタ部の両面(対向し合う2つの面)に形成された電極部と、それぞれの電極部に接続されたリード線とからなるサーミスタ素子が知られている。
【0003】
このようなサーミスタ素子は、次のようにして製造される。すなわち、サーミスタ部を構成するための粉末を板状に成形して焼成することで得られた金属酸化物焼結体の両面を研磨し、その両面に電極ペーストを塗布して焼き付けを行うことで電極部を形成し、サーミスタウエハーを得る。そして、ダイシングによりサーミスタウエハーから所定サイズの切片を切り出し、該切片にリード線を接合することで、上述のサーミスタ素子を得るのである。
【0004】
ここで、電極部を形成する金属としては、一般的に白金が用いられる。また、特許文献1に記載されているように、電極部を形成する金属として、白金に替えてより安価なパラジウムを用いることも提案されている。しかしながら、白金やパラジウム等といった金属のみを用いて電極部を形成した場合には、電極部と金属酸化物焼結体との密着力が弱くなってしまい、サーミスタウエハーのダイシングやリード線の接合を行う際に、電極部が金属酸化物焼結体から剥離してしまうおそれがある。このような問題に鑑み、特許文献1には、電極部を形成するための電極ペーストに金属酸化物焼結体に含まれる金属酸化物を共材として用いるために混合することで、電極部と金属酸化物焼結体との密着力を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−59755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、共材として用いられる金属酸化物が導電性を有している場合には、電極ペーストにおける該金属酸化物の混合比によっては、サーミスタ素子の実使用時に、抵抗値やB定数等といった電気的特性が大きく変化してしまうおそれがある。
【0007】
本願発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、電気的特性の変化を抑えつつ電極部と金属酸化物焼結体であるサーミスタ部との密着力を向上することができるサーミスタ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑みてなされた本発明は、温度に応じて抵抗値が変化する板状の金属酸化物焼結体であるサーミスタ部と、サーミスタ部の両面に形成された電極部と、それぞれの電極部に接続されたリード線とからなるサーミスタ素子であって、サーミスタ部には、ペロブスカイト型の結晶構造を有する導電性の金属酸化物と、絶縁性の金属酸化物とが含まれており、電極部には、導電性の金属と、サーミスタ部に含まれる絶縁性の金属酸化物とが含まれていることを特徴とする。
【0009】
このサーミスタ素子には、サーミスタ部と電極部とに共材となる同一の絶縁性の金属酸化物が含まれている。したがって、導電性を有する材料を共材としてサーミスタ部と電極部とに含ませる場合に比べ、電気的特性の変化を抑えつつ電極部とサーミスタ部との密着力を向上させることができる。
【0010】
なお、共材である絶縁性の金属酸化物とは、当該サーミスタ素子の電気的特性を調整するためにサーミスタ部に含まれるものであっても良い。
こうすることにより、電気的特性の調整のためにサーミスタ部に含まれているものとは異なる材料を新たに共材としてサーミスタ部と電極部とに含ませる場合に比べ、サーミスタ素子の電気的特性の変化を抑えつつ、電極部とサーミスタ部との密着力を向上させることができる。
【0011】
また、サーミスタ部の両面に形成された電極部は、例えば、サーミスタ部の表面に電極ペーストを塗布して焼き付けることにより形成されたものであり、電極部はサーミスタ部に比べ体積が小さいという場合が想定される。
【0012】
そこで、本発明に係るサーミスタ素子は、サーミスタ部に含まれている絶縁性の金属酸化物の平均粒径は、電極部に含まれている絶縁性の金属酸化物の平均粒径よりも大きいことを特徴とする。
【0013】
こうすることにより、サーミスタ部及び電極部において、同じような程度で、共材である絶縁性の金属酸化物を部位全体に隔たり無く行き渡らせることが可能となり、これにより、サーミスタ部と電極部との密着性をより高めることができる。
【0014】
なお、電極部に含まれている絶縁性の金属酸化物の平均粒径は、1μm未満であると良い。
こうすることにより、共材である絶縁性の金属酸化物を、より一層、電極部全体に隔たり無く行き渡らせることが可能となり、サーミスタ部と電極部との密着性をより高めることができる。
【0015】
また、電極部に含まれる共材の量が少なすぎる場合には、電極部とサーミスタ部との密着力が低下してしまう。一方、電極部に含まれる共材の量が多すぎる場合には、電極部の内部で導電性の金属により形成される導電パスが少なくなってしまい、電極部の抵抗値が増加する。そして、これにより、サーミスタ素子の電気的特性が変化してしまうおそれがある。
【0016】
そこで、本発明に係るサーミスタ素子は、電極部における共材である絶縁性の金属酸化物の含有量は、0.5vol%以上60vol%以下であることを特徴とする。
こうすることにより、サーミスタ素子の電気的特性の変化をより確実に抑えつつ、電極部とサーミスタ部との間の密着力を向上させることができる。
【0017】
また、例えば、サーミスタ素子が高温に晒された場合や、サーミスタ素子が長時間にわたり使用された場合等には、サーミスタ部の内部において、当該部位に含まれる導電性の金属酸化物と共材である絶縁性の金属酸化物との間で、これらを構成する元素の移動が生じ、これらの金属酸化物の組成が変化してしまうおそれがある。また、サーミスタ部と電極部との間においても、同様にして元素の移動が生じ、サーミスタ部や電極部に含まれる金属酸化物の組成が変化してしまうおそれがある。そして、金属酸化物の組成の変化により、サーミスタ素子の電気的特性が大きく変化してしまうおそれがある。
【0018】
そこで、本発明に係るサーミスタ素子では、ペロブスカイト型の結晶構造を有する導電性の金属酸化物は、化学式ABO3と表記され、サーミスタ部及び電極部に含まれる絶縁性の金属酸化物は、導電性の金属酸化物を表す化学式ABO3のAサイト或いはBサイトに位置する金属元素から選択された少なくとも一つの金属元素をMeとした場合に、化学式MeOxと表記される金属酸化物であることを特徴とする。
【0019】
こうすることにより、サーミスタ素子が高温に晒される等してサーミスタ部の内部、或いは、サーミスタ部と電極部との間で元素の移動が生じたとしても、金属酸化物の組成が大きく変わってしまうことを防ぐことができる。このため、サーミスタ素子が高温に晒された場合や、長期間にわたり使用された場合等の電気的特性の変化を抑えることができる。
【0020】
また、本発明に係るサーミスタ素子では、絶縁性の金属酸化物とは複酸化物であり、該絶縁性の金属酸化物を表す化学式MeOxに係るMeは、導電性の金属酸化物を表す化学式ABO3のAサイトに位置する一つ以上の金属元素と、Bサイトに位置する一つ以上の金属元素とを表すものであっても良い。
【0021】
こうすることにより、共材である絶縁性の金属酸化物の化学的安定性が向上し、該絶縁性の金属酸化物を構成する元素の移動をより抑えることができる。このため、サーミスタ素子が高温に晒された場合や、長期間にわたり使用された場合等の電気的特性の変化をより抑えることができる。
【0022】
ところで、サーミスタ素子におけるリード線には、一般的に、電極部に含まれる導電性の金属が含まれており、該リード線は、該金属を含むペーストにより電極部に付着された状態で焼き付けを行うことで電極部に接合される。つまり、リード線と電極部と各々の接合部とには、同一の材料が含まれており、これにより、リード線と電極部との密着力が向上される。
【0023】
そこで、電極部とリード線とを接合する接合部には、絶縁性の金属酸化物が含まれていないことを特徴としても良い。
なお、接合部とは、上述のペーストの焼き付けが行われた後の、リード線を電極部に付着させる部位に相当する。
【0024】
こうすることで、リード線と電極部との接合性をより向上させることができる。また、上述のペーストに、サーミスタ部と電極部との間の共材である絶縁性の金属酸化物を混合する必要が無くなり、サーミスタ素子の製造コストを低減することができる。
【0025】
また、本発明に係るサーミスタ素子では、サーミスタ部、電極部、及び、リード線における電極部と接続される部位が、ガラスで被覆されていることを特徴とする。
こうすることで、サーミスタ素子の実使用時に、サーミスタ部が外部の雰囲気の影響を受けて特性が変化するのを効果的に抑制することができる。また、リード線における電極部と接続される部位がガラスで被覆されるため、両者の接続状態を安定して維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】サーミスタ素子の構成を示す説明図である。
【図2】サーミスタ部等がガラスにより被覆されたサーミスタ素子の外観を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。尚、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0028】
[構成の説明]
図1(a)は、NTC(負抵抗温度係数)サーミスタ特性を有する本実施形態のサーミスタ素子1の外観を示す説明図である。図1(a)に記載されているように、サーミスタ素子1は、温度に応じて抵抗値が変化する板状の金属酸化物焼結体であるサーミスタ部10と、サーミスタ部10の両面に形成された電極部20と、それぞれの電極部20に接続されたリード線40と、電極部20とリード線40とを接続する接合部30とを有している。
【0029】
サーミスタ部10には、(Y0.9Sr0.1)(Al0.60Mn0.38Cr0.02)O3の組成を有するペロブスカイト型の結晶構造の金属酸化物である導電体と、当該サーミスタ素子1の抵抗値を調整するための絶縁性の金属酸化物(絶縁体とも記載)とが含まれている。なお、該絶縁体は、平均粒径が2μmとなっている。
【0030】
また、電極部20には、Pt等の導電性の金属が含まれていると共に、サーミスタ部10との密着力を向上させるための共材として、サーミスタ部10に含まれている絶縁体が含まれている。
【0031】
なお、図1(b)には、サーミスタ部10及び電極部20における、電極部20の対面方向に沿った断面図が記載されている。図1(b)の断面図は、サーミスタ部10に、上述した導電体11が含まれていると共に、電極部20に、上述した導電性の金属21が含まれていることを示している。また、サーミスタ部10及び電極部20に、共材として上述した絶縁体12が含まれていることを示している。
【0032】
また、接合部30やリード線40はPt等から構成されており、接合部30やリード線40には、上述の共材である絶縁体は含まれていない。
次に、上述のサーミスタ素子1として構成された実施例1〜17のサーミスタ素子と、上述のサーミスタ素子1とは電極部20の組成が異なる比較例1〜4のサーミスタ素子について説明する。表1には、実施例1〜17、及び比較例1〜4のサーミスタ素子のサーミスタ部,電極部の組成について記載されている。
【0033】
【表1】

【0034】
表1における「サーミスタ部」,「電極部」は、上記サーミスタ素子におけるサーミスタ部,電極部の組成を示す項目である。
「サーミスタ部」の「導電体」は、サーミスタ部に含まれるペロブスカイト型の結晶構造を有する導電体の組成を示す項目である。また、「絶縁体」の「組成」は、サーミスタ部に含まれる上述の共材である絶縁体(絶縁性の金属酸化物)の組成を示す項目であり、「含有量(vol%)」は、サーミスタ部における該絶縁体の含有量を示す項目であり、「平均粒径(μm)」は、該絶縁体の平均粒径を示す項目である。
【0035】
また、「電極部」の「金属」は、電極部に含まれる導電性の金属の組成を示す項目である。また、「絶縁体」の「組成」は、電極部に含まれる共材である絶縁体の組成を示す項目であり、「含有量(vol%)」は、電極部における該絶縁体の含有量を示す項目であり、「平均粒径(μm)」は、該絶縁体の平均粒径を示す項目である。
【0036】
なお、実施例4のサーミスタ素子の「電極部」の「金属」には、“Pt−10Ir”と記載されているが、これは、Ptの含有率が90%,Irの含有率が10%である合金を意味する。また、実施例13のサーミスタ素子の「電極部」の「金属」にも、“Pt−10Rh”と記載されているが、これは、Ptの含有率が90%,Rhの含有率が10%である合金を意味する。
【0037】
また、比較例1のサーミスタ素子の電極部には、共材となる絶縁体が含まれておらず、「電極部」の「絶縁体」の「組成」,「平均粒径(μm)」は空欄となっている。
表1に記載されているように、実施例1,3〜11,13〜17のサーミスタ素子における共材である絶縁体は、サーミスタ部に含まれる導電体(ペロブスカイト型の結晶構造の金属酸化物)のAサイト或いはBサイトに位置する金属を含む金属酸化物となっている。なお、実施例3〜11,13〜17のサーミスタ素子においては、サーミスタ部に含まれる絶縁体は、サーミスタ部に含まれる導電体のAサイトに位置する金属と、Bサイトに位置する金属とからなる複酸化物となっている。
【0038】
そして、実施例1のサーミスタ素子においては、共材である絶縁体は、サーミスタ部に含まれる導電体のBサイトに位置する金属の単酸化物となっている。また、実施例2のサーミスタ素子においては、共材である絶縁体は、サーミスタ部に含まれる導電体のAサイトに位置する金属の単酸化物と、サーミスタ部の導電体に含まれない金属の単酸化物を含む。さらに、実施例12のサーミスタ素子においては、共材である絶縁体は、サーミスタ部の導電体に含まれない金属の酸化物となっている。また、実施例3〜11,13〜17のサーミスタ素子においては、共材である絶縁体は、サーミスタ部に含まれる導電体のAサイトに位置する金属と、Bサイトに位置する金属とからなる複酸化物となっている。
【0039】
[製造方法について]
次に、上述のサーミスタ素子1として構成された、実施例1〜17、及び比較例1〜4のサーミスタ素子1の製造方法について説明する。
(1)Y,Sr,Cr,Mn,Alの酸化物、或いは該元素の炭酸塩を、サーミスタ部10に含まれる、化学式(Y0.9Sr0.1)(Al0.60Mn0.38Cr0.02)O3のペロブスカイト型の結晶構造を有する導電体の組成となるよう秤量し、混合,仮焼により導電体仮焼粉を得る。
(2)実施例3〜11,13〜17,比較例1〜4のサーミスタ素子1に関しては、Y,Sr,Alの酸化物、或いは該元素の炭酸塩を、サーミスタ部10に含まれる絶縁体の組成となるよう秤量し、混合,仮焼により絶縁体粉末を得る。また、実施例1,2,12のサーミスタに関しては、Al23、Y23、Yb23、或いはSiO2の原料粉末を、絶縁体粉末とする。
(3)上記導電体仮焼粉と絶縁体粉末とを、各実施例或いは比較例のサーミスタ部における絶縁体の含有量に合わせて秤量した後混合粉砕し、得られた粉末に適宜バインダー等を添加した後、金型に充填し、一軸プレス機を用いて直径40mm,厚さ5mmの円板状に成形する。
【0040】
なお、上記では導電体仮焼粉と絶縁体粉末とを混合粉砕して、サーミスタ部の原料となる粉末を作製する方法について説明をしたが、導電体仮焼粉と絶縁体粉末とを別々に用意することなく、結果的に各実施例或いは比較例のサーミスタ部における絶縁体の含有量となるように、各元素の酸化物等の化合物を秤量、混合及び仮焼してサーミスタ部の原料となる粉末を作製するようにしてもよい。
(4)円板状に成形された粉末を所定の温度で焼成し、導電性酸化物焼結体を得る。
(5)導電性酸化物焼結体の両面を研磨し、厚さ0.5mmのサーミスタウエハーを得る。
(6)上記(2)で得られた絶縁体粉末を、各実施例或いは比較例のサーミスタ素子1の電極部20に含まれる絶縁体の平均粒径となるよう粉砕し、各サーミスタ素子1の電極部20に含まれる絶縁体を得る。
(7)上記(6)で得られた絶縁体粉末と、平均粒径2μmのPtの粉末(実施例4,13のサーミスタ素子1に関しては、それぞれ、平均粒径2μmのPt−Ir合金、或いはPt−Rh合金の粉末)とを、各実施例或いは比較例の電極部における絶縁体の含有量となるよう混合し、エトセル及びターピネオールと共に混練して電極ペーストを得る。なお、比較例1のサーミスタ素子1に関しては、絶縁体粉末を混合することなく、上記Ptの粉末から電極ペーストを得る。
(8)上記(5)で得られたサーミスタウエハーの両面に、電極ペーストをスクリーン印刷する。そして、熱処理により電極部を焼き付けた後、ダイシングによりサーミスタウエハーから0.5mm□×0.5mmのサーミスタチップを取り出す。
(9)サーミスタチップに焼き付けられた電極部とリード線とを、Ptの粉末(実施例4,13のサーミスタに関しては、Pt−Ir合金、或いはPt−Rh合金の粉末)と、エトセル及びターピネオールとを混練して得られた電極ペーストを用いて接合し、サーミスタ素子を得る。
【0041】
なお、共材である絶縁体が電極部に含まれていない比較例1のサーミスタ素子に関しては、電極部とサーミスタ部が密着せず、製造することができなかった。
[実験例]
実施例1〜17、及び比較例1〜4のサーミスタ素子1の電極部20とサーミスタ部10との密着性、及び電気的特性を評価するため、以下の実験を行った。
【0042】
まず、引き剥がし強度の試験用の試料を作製した。すなわち、上記(5)にて得られた各実施例1〜17、及び比較例1〜4のサーミスタウエハーの両面に、上記(7)で調製した各実施例1〜17、及び比較例1〜4に対応するそれぞれの電極ペーストを用いて2mm□の電極部を形成して各試料を作製した。次に、各試料の電極部に針金をハンダ付けし、引っ張り試験機により電極部にハンダ付けされた針金を逆方向に引っ張ることで、サーミスタ部から電極部を引き剥がす実験を行い、電極部をサーミスタ部から引き剥がすのに必要な強度を測定した。表2における「引き剥がし強度について」という項目は、該測定の結果を示している。該項目における“○”は、引き剥がしに必要な強度が5N以上であることを示し、“△”は、該強度が3N以上5N未満であることを示し、“×”は、該強度が3N未満であることを示している。
【0043】
また、実施例1〜17、及び比較例1〜4のサーミスタ素子1について、周囲の温度を室温から900℃に上昇させた後に2時間放置し、その後、室温まで下げた後に再度900℃に上昇させる実験(900℃繰り返し温度上昇実験とも記載)を行った。そして、1回目に900℃に上昇させた際にリード線40を介してサーミスタ素子1の抵抗値を測定すると共に、2回目に900℃に上昇させた際にも同様にしてサーミスタ素子1の抵抗値を測定し、2回目の測定値が1回目の測定値から何%変化したかを測定した。表2における「抵抗値の変化率(%)」という項目は、2回目の測定値が1回目の測定値から何%変化したかの測定結果を示している。
【0044】
なお、既に述べたように、比較例1のサーミスタ素子1に関しては、電極部20とサーミスタ部10とが密着せず、製造することができなかったため、表2の「引き剥がし強度について」には“×”が、「抵抗値の変化率(%)」には“−”が記入されている。
【0045】
【表2】

【0046】
[効果]
本実施形態のサーミスタ素子1によれば、サーミスタ素子1の電気的特性を調整するためにサーミスタ部10に含まれている絶縁性の金属酸化物が電極部20にも含まれており、この絶縁性の金属酸化物が、サーミスタ部10と電極部20との密着力を向上させるための共材となっている。このため、導電性を有する材料を共材とする場合や、電気的特性の調整のためにサーミスタ部10に含まれているものとは異なる材料を共材とする場合に比べ、電気的特性の変化を抑えつつ電極部20とサーミスタ部10との密着力を向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態のサーミスタ素子1として構成された実施例1〜17のサーミスタ素子1に関する実験の結果より、以下のことが言える。
すなわち、実施例1〜17のサーミスタ素子1の実験結果と、比較例2〜4のサーミスタ素子1の実験結果から、共材として同一の絶縁性の金属酸化物を用いた場合のほうが、電極部20とサーミスタ部10との密着力が向上し、また、900℃繰り返し温度上昇実験における抵抗値の変化率が小さいことがわかった。このため、共材として同一の絶縁性の金属酸化物を用いることで、サーミスタ素子1が高温に晒された際の電気的特性の変動を抑えつつ、電極部20とサーミスタ部10との密着力を向上させることができる。
【0048】
また、実施例1〜16のサーミスタ素子1の実験結果と、実施例17のサーミスタ素子1の実験結果から、サーミスタ部10の共材の平均粒径よりも電極部20の共材の平均粒径を小さくすることで、電極部20とサーミスタ部10との密着力を向上させることがわかった。また、電極部20に含まれる共材の平均粒径が1μm未満とすることで、電極部20とサーミスタ部10との密着力を向上させることができることがわかった。
【0049】
また、実施例1〜4,6〜14のサーミスタ素子1の実験結果と、実施例5のサーミスタ素子1の実験結果から、電極部20における共材の含有量を0.5vol%以上とすることで、電極部20とサーミスタ部10との密着力を向上させることができることがわかった。
【0050】
また、実施例1〜4,6〜14のサーミスタ素子1の実験結果と、実施例15,16のサーミスタ素子1の実験結果から、電極部20における共材の含有量を60vol%以下とすることで、900℃繰り返し温度上昇実験における抵抗値の変化率を小さくすることができることがわかった。
【0051】
このことから、電極部20の共材の含有量を0.5vol%以上60vol%以下とすることで、サーミスタ素子1が高温に晒された際の電気的特性の変動を抑えつつ、電極部20とサーミスタ部10との密着力を向上させることができる。
【0052】
また、実施例1〜11,13,14のサーミスタ素子1の実験結果と、実施例12のサーミスタ素子1の実験結果から、サーミスタ部10に含まれるペロブスカイト型の結晶構造を有する導電体のAサイト或いはBサイトに位置する金属を含む金属酸化物を共材として用いた場合のほうが、900℃繰り返し温度上昇実験における抵抗値の変化率を小さくすることができることがわかった。
【0053】
さらに、実施例1,2のサーミスタ素子1の実験結果と、実施例3〜11,13,14のサーミスタ素子1の実験結果から、サーミスタ部10に含まれる導電体のAサイトに位置する金属と、Bサイトに位置する金属とを含む複酸化物を共材として用いた場合のほうが、900℃繰り返し温度上昇実験における抵抗値の変化率が小さくなる場合が多いことがわかった。
【0054】
このことから、共材となる絶縁体を、サーミスタ部10に含まれる導電体のAサイト或いはBサイトに位置する金属の酸化物とすることで、サーミスタ素子1が高温に晒された際の電気的特性の変動を抑えることができると言える。さらに、共材となる絶縁体を、上記導電体のAサイトに位置する金属と、Bサイトに位置する金属とを含む複酸化物とすることで、さらに、高温に晒された際の電気的特性の変動を抑えることができると言える。
【0055】
[他の実施形態]
(1)本実施形態のサーミスタ素子1のサーミスタ部10には、(Y0.9Sr0.1)(Al0.60Mn0.38Cr0.02)O3の組成を有するペロブスカイト型の結晶構造の金属酸化物である導電体が含まれているが、これに限定されることはない。具体的には、ペロブスカイト型結晶構造を示す化学式ABO3のAサイトとして、Y,Nd,Sm,Gd,Yb,Sr,Ca,Mg等を含んでも良い。また、Bサイトとして、Al,Cr,Mn,Fe,Co等をサーミスタ部10に含ませて、実施例1〜17のサーミスタ素子1を構成しても良い。このような場合であっても、同様の効果を得ることができる。また、この場合、絶縁体として、Y23,Al23等を用いてもよい。このような場合であっても、共材であるY23及びAl23は、サーミスタ部10に含まれるペロブスカイト型の導電体のAサイトまたはBサイトに位置する金属の酸化物であるため、高温に晒された際の電気的特性の変動を抑えつつ、電極部20とサーミスタ部10との密着力を向上させることができる。
(2)また、サーミスタ素子1は、図2に示すように、サーミスタ部10、電極部20、及び、リード線40における電極部20と接続される部位(図2における接合部30に相当)が、ガラス50で被覆した構成を採っても良い。ガラス50としては、結晶化ガラスであっても非晶質ガラスであってもよい。ガラス50を用いることで、サーミスタ素子1の実使用時に、サーミスタ部が外部の雰囲気の影響を受けて特性が変化するのを効果的に抑制することができる。また、リード線40のうちで電極部20と接続される部位(接合部30)がガラス50で被覆されるため、両者の接続状態を安定して維持することができる。
(3)さらに、本実施形態のサーミスタ素子1は、特開2009−170555号公報に例示される温度センサに組み込み、自動車の排気ガスなどの被測定流体の温度を検出する温度センサ向けに用いることができる。
【符号の説明】
【0056】
1…サーミスタ素子、10…サーミスタ部、20…電極部、30…接合部、40…リード線、50…ガラス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度に応じて抵抗値が変化する板状の金属酸化物焼結体であるサーミスタ部と、前記サーミスタ部の両面に形成された電極部と、それぞれの前記電極部に接続されたリード線とからなるサーミスタ素子であって、
前記サーミスタ部には、ペロブスカイト型の結晶構造を有する導電性の金属酸化物と、絶縁性の金属酸化物とが含まれており、
前記電極部には、導電性の金属と、前記サーミスタ部に含まれる前記絶縁性の金属酸化物とが含まれていること、
を特徴とするサーミスタ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサーミスタ素子において
前記サーミスタ部に含まれている前記絶縁性の金属酸化物の平均粒径は、前記電極部に含まれている前記絶縁性の金属酸化物の平均粒径よりも大きいこと、
を特徴とするサーミスタ素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のサーミスタ素子において、
前記電極部に含まれている前記絶縁性の金属酸化物の平均粒径は、1μm未満であること、
を特徴とするサーミスタ素子。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載のサーミスタ素子において、
前記電極部における前記絶縁性の金属酸化物の含有量は、0.5vol%以上60vol%以下であること、
を特徴とするサーミスタ素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載のサーミスタ素子において、
ペロブスカイト型の結晶構造を有する前記導電性の金属酸化物は、化学式ABO3と表記され、
前記サーミスタ部及び前記電極部に含まれる前記絶縁性の金属酸化物は、前記導電性の金属酸化物を表す前記化学式ABO3のAサイト或いはBサイトに位置する金属元素から選択された少なくとも一つの金属元素をMeとした場合に、化学式MeOxと表記される金属酸化物であること、
を特徴とするサーミスタ素子。
【請求項6】
請求項5に記載のサーミスタ素子において、
前記絶縁性の金属酸化物とは複酸化物であり、該絶縁性の金属酸化物を表す前記化学式MeOxに係る前記Meは、前記導電性の金属酸化物を表す前記化学式ABO3のAサイトに位置する一つ以上の金属元素と、Bサイトに位置する一つ以上の金属元素とを表すこと、
を特徴とするサーミスタ素子。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載のサーミスタ素子において、
前記電極部と前記リード線とを接合する接合部には、前記絶縁性の金属酸化物が含まれていないこと、
を特徴とするサーミスタ素子。
【請求項8】
請求項1から請求項7のうちのいずれか1項に記載のサーミスタ素子において、
前記サーミスタ部、前記電極部、及び、前記リード線における前記電極部と接続される部位が、ガラスで被覆されていること、
を特徴とするサーミスタ素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−74604(P2012−74604A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219452(P2010−219452)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】