説明

サーモグラフィー装置、画像処理方法、及びプログラム

【課題】温度レンジが広い対象物の温度分布を撮像する場合に、連続して対象物の画像データを出力する。
【解決手段】センサ制御部11は、第1又は第2の温度レンジのいずれかに所定のタイミングで切り替え、赤外線センサ4に、切り替えた第1又は第2の温度レンジに関する情報を供給する。信号処理部12は、第1又は第2の温度レンジに関する情報に基づいて、画像信号を所定期間で加算平均する。書き込み部18は、第1又は第2の温度レンジ毎に、処理後の画像信号から得られる画像データを画像記憶部に書き込む。温度レンジ検知部17は、画像データより、対象物の温度レンジを検知し、対象物の温度レンジに合わせて第1又は第2の温度レンジを選択する。そして、読み出し部19は、温度レンジ検知部17が選択した第1又は第2の温度レンジに合わせて、画像記憶部から第1又は第2の温度レンジのいずれかで書き込まれた画像データを読み出して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、温度の増減が大きい対象物を撮像して、熱画像として出力する場合に適用して好適なサーモグラフィー装置、画像処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物の温度分布を色分けした熱画像として表示装置に表示可能なサーモグラフィー装置が用いられている。サーモグラフィー装置は、対象物から放射される赤外線光の強度に応じて、例えば、高い温度は白色、低い温度は青色のように色分けした熱画像として表示される画像データを表示装置に出力する。
【0003】
サーモグラフィー装置では、温度測定が可能な温度範囲を表す温度レンジが多くの場合2つ予め用意されている。そして、サーモグラフィー装置が対象物の温度を測定するとき、対象物の最高温度に応じて温度レンジを変更する。温度レンジとしては、例えば、第1の温度レンジが摂氏0度〜120度、第2の温度レンジが摂氏0度〜300度、第3の温度レンジが摂氏200度〜1500度といった具合に予め設定されている。サーモグラフィー装置は、温度レンジを切り替える温度レンジ変更装置を備え、温度レンジ変更装置は、センサの感度を変化させるため蓄積時間を変更する処理機能を有し、カメラ部が備える光学系の絞り及びフィルタを該光学系の光軸に挿入するか挿入しないかを制御する機構を備える。この温度レンジ変更装置が、センサの蓄積時間を変更したり、絞り及びフィルタを動かし、カメラ部の光学系から赤外線検知素子に導かれる赤外線量を制御したりすることによって温度レンジを変更することができる。
【0004】
図5は、対象物の温度と赤外線検知素子が出力する値との関係を温度レンジごとに示す。
特性線aは、第1の温度レンジが選択されたときの対象物の温度と赤外線検知素子に入射する赤外線のエネルギーとの関係を示す。
特性線bは、第2の温度レンジが選択されたときの対象物の温度と赤外線検知素子に入射する赤外線のエネルギーとの関係を示す。
特性線cは、第3の温度レンジが選択されたときの対象物の温度と赤外線検知素子に入射する赤外線のエネルギーとの関係を示す。
【0005】
図5より、サーモグラフィー装置は、予め、各温度レンジにおける赤外線検知素子の出力と温度との関係を温度テーブルとして記憶する。そして、赤外線検知素子で赤外線の受光エネルギーを検知すると、対象物の最高温度に応じて温度レンジを変更し、各温度レンジの温度テーブルに赤外線検知素子の出力を参照して温度データを得る。このようにして、サーモグラフィー装置は、対象物の温度を正確に測定することが可能となる。そして、サーモグラフィー装置は、変更された温度レンジの範囲内であれば、熱画像として適切に色分けをして表示装置に表示させることができる。
【0006】
ここで、対象物の温度が−20℃〜400℃の範囲で増減する場合を想定する。このとき、第1の温度レンジとしたままでは、対象物の最高温度が300℃〜400℃まで増加しても白色が表示されるのみであり、ユーザは温度の増加を知ることができない。このため、ユーザは、第1の温度レンジから第2の温度レンジに変更する操作を行う。この操作により、対象物の最高温度が300℃〜400℃まで増加すると新たに異なる色で表示され、ユーザは温度の上昇を知ることができる。
【0007】
また、対象物の最高温度に合わせて適切な温度レンジが設定されていなければ、別の不具合が発生する。例えば、対象物の温度が30℃〜80℃の範囲で増減するのであれば、第2の温度レンジに設定されたままでは表示される熱画像にノイズが重畳しやすくなり、熱画像の視認性が低下する。このため、対象物の温度によって、適切な温度レンジに変えることで視認性を高める必要がある。
【0008】
特許文献1には、対象物により、蓄積時間を調整する技術が開示されており、特許文献2には、対象温度により自動的に温度レンジを変更する技術が開示されている。そして、特許文献3には、対象温度により、センサ外部回路がゲイン等を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−26936号公報
【特許文献2】特開平9−101207号公報
【特許文献3】特開平8−223485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、温度レンジを手動又は自動で変更すると、変更された温度レンジで熱画像が更新表示されるまでに数秒程度の時間を要していた。
ここで、第1及び第2の温度レンジは、画像信号を出力する赤外線センサのダイナミックレンジに相当する。そして、赤外線センサが出力する画像信号を一定時間溜めておく時間を示す積分時間が長くなるとダイナミックレンジが狭くなり、積分時間が短くなるとダイナミックレンジが広くなることが知られている。
【0011】
そして、サーモグラフィー装置の設定を、第1又は第2の温度レンジのいずれかに変更すると、変更した温度レンジに合わせて赤外線センサの積分時間を変更しなければならない。また、赤外線センサには、変更された温度レンジに適したセンサオフセットデータ(以下、単に「オフセットデータ」と呼ぶ。)が設定される。オフセットデータは、温度レンジが変更されると、赤外線センサを初期値に設定するデータであり、赤外線センサが備える複数の素子が1素子毎に出力する画像信号のレベルのバラつきを平坦化し、画像信号のノイズを除くために用いられる。そして、積分時間とオフセットデータの設定が完了するまでに数秒程度の時間がかかるため、熱画像の表示が途切れ、ユーザは対象物の温度変化を連続して把握できなかった。
【0012】
例えば、第2の温度レンジ(0℃〜500℃)で対象物の温度を測定した場合を想定する。このとき、対象物の最高温度が100℃以下になると、第1の温度レンジ(−40℃〜120℃)に変更して、対象物の温度変化を詳細に観察すると共に、熱画像に重畳されるノイズを減らしたいという要求がある。しかし、第2の温度レンジから第1の温度レンジに変更すると、オフセットデータを赤外線センサに設定するため、画像が数秒間途切れていた。
【0013】
また、特許文献1に示した技術では、赤外線センサにおける画像信号の積分時間に相当する蓄積時間を変更した後の安定化時間を考慮しておらず、画像データを常に取得できない。このため、温度レンジを切り替えると、熱画像を更新するために多くの時間を要する。
【0014】
また、特許文献2に示した技術では、対象温度により自動的に温度レンジを変更しようとしても、オフセットデータをセットしなければならず、すぐに温度レンジを切り替えて画像を更新できない。
また、特許文献3に示した技術を用いると、例えば、プリアンプのゲインを2倍に調整すると、2倍のノイズが発生するため、ノイズを除去する機構が新たに必要となり、装置を小型化することが困難であった。
【0015】
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、最高温度の増減が大きい対象物を撮像して熱画像を得る場合に、温度レンジの切替えを伴っても、連続して対象物の熱画像として表示部に表示される画像データを出力することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、対象物の最低温度から最高温度までの温度範囲を含む温度レンジのうち、対象物の最高温度が所定の閾値未満である場合に設定される、第1の温度レンジと、対象物の最高温度が所定の閾値以上である場合に設定される、第1の温度レンジと異なる第2の温度レンジのいずれかに所定のタイミングで切り替え、対象物から放射される赤外線光の強度に応じた画像信号を出力する赤外線センサに、切り替えた第1又は第2の温度レンジに関する情報を供給する。
次に、所定のタイミングで切り替えて供給される第1又は第2の温度レンジに関する情報に基づいて、赤外線センサが出力する画像信号を所定期間で加算平均する。
次に、所定のタイミングで切り替えられた第1又は第2の温度レンジ毎に、処理後の画像信号から得られる画像データを画像記憶部に書き込む。
次に、画像データより、対象物の温度レンジを検知し、対象物の温度レンジに合わせて第1又は第2の温度レンジを選択し、選択した第1又は第2の温度レンジに合わせて、画像記憶部から第1又は第2の温度レンジのいずれかで書き込まれた画像データを読み出して出力するものである。
【0017】
このようにしたことで、第1又は第2の温度レンジを切替えても、連続して対象物の熱画像として表示部に表示される画像データを出力することが可能となった。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所定のタイミングで切り替えられる第1又は第2の温度レンジによって赤外線センサが出力する画像信号を処理し、この画像信号から得られる画像データを常に画像記憶部に記憶させておく。そして、対象物の最高温度に合わせて、画像記憶部から第1又は第2の温度レンジのいずれかで書き込まれた画像データを読み出して出力する。このため、温度レンジの変更に要する時間を短くすることができ、連続性を保って画像データを出力できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態における赤外線撮像装置の例を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態におけるサーモグラフィー装置の画像データを取得する処理例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施の形態における書き込み部が第1及び第2の画像記憶部に画像データを書き込むまでの処理例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施の形態における読み出し部が第1及び第2の画像記憶部から画像データを読み出す処理例を示すフローチャートである。
【図5】従来の対象物の温度と赤外線検知素子が出力する値との関係を温度レンジごとに示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照して説明する。本実施の形態では、自動的に温度レンジを変更して対象物2の赤外線光を撮像し、熱画像として表示装置5に表示される画像データを出力するサーモグラフィー装置1に適用した例について説明する。
【0021】
図1は、本例のサーモグラフィー装置1の内部構成例を示す。
サーモグラフィー装置1は、対象物2が放射する赤外線を透過させ、所定の位置に赤外線を収束するレンズ3と、レンズ3によって収束される赤外線光の強度に応じた画像信号を出力する赤外線センサ4と、画像信号に所定の処理を施す画像処理部10と、画像処理部10から出力された画像データに基づいて、対象物2の温度分布に応じて色分けした熱画像を表示する表示装置5と、を備える。
【0022】
画像処理部10は、ボロメータ型の赤外線センサ4の動作を制御するセンサ制御部11と、赤外線センサ4から入力する画像信号に所定の処理を施す信号処理部12と、信号処理部12が処理を施した画像信号から得られる画像データを一時的に保存する第1の画像記憶部20a,第2の画像記憶部20bを備える。また、信号処理部12は、画像信号を加算し、平均化する加算/平均部12aを備える。また、画像処理部10は、第1の画像記憶部20a,第2の画像記憶部20bに画像データを書き込む書き込み部18と、第1の画像記憶部20a,第2の画像記憶部20bから画像データを読み出す読み出し部19を備える。
【0023】
また、画像処理部10は、信号処理部12から出力される画像データを受け取って、対象物2の最高温度を検出して、熱画像の表示に適した温度レンジを検知する温度レンジ検知部17を備える。温度レンジ検知部17は、読み出し部19に画像データの読み出しを指示し、読み出し部19は、第1の画像記憶部20a又は第2の画像記憶部20bから読み出された画像データを表示装置5に出力する。表示装置5は、読み出し部19から受け取った画像データに基づいて、対象物2の熱画像を表示する。
【0024】
また、画像処理部10は、センサ制御部11に所定のクロックを供給するクロック出力部13と、第1の積分時間を記憶する第1の積分時間記憶部14aと、第1のオフセットデータを記憶する第1のオフセットデータ記憶部15aを備える。同様に、画像処理部10は、第2の積分時間を記憶する第2の積分時間記憶部14bと、第2のオフセットデータを記憶する第2のオフセットデータ記憶部15bを備える。第1及び第2の積分時間と、第1及び第2のオフセットデータは、センサ制御部11が第1又は第2の赤外線センサ4にセットされるデータである。サーモグラフィー装置1が行う撮像プロセスの開始前に予め取得し、第1のオフセットデータ記憶部15aと第2のオフセットデータ記憶部15bにそれぞれ格納しておく。
【0025】
本例では、第1の温度レンジは、対象物2の最低温度から最高温度までの温度範囲を含む温度レンジのうち、対象物2の最高温度が所定の閾値未満である場合に設定される。第2の温度レンジは、対象物2の最高温度が所定の閾値以上である場合に設定される温度レンジであり、第1の温度レンジとは異なる。本例では、第1の温度レンジとして、−40℃〜120℃が設定され、第2の温度レンジとして、0℃〜500℃が設定される(図5参照)。
【0026】
次に、サーモグラフィー装置1の動作例を説明する。
センサ制御部11は、クロック出力部13から供給される切替えクロックを用いて、所定の切替えタイミングで第1又は第2の温度レンジのいずれかに切り替え、切り替えた第1又は第2の温度レンジに関する情報として、この温度レンジに対応する積分時間とオフセットデータを赤外線センサ4と信号処理部12に供給する。
【0027】
対象物2の赤外線光がレンズ3を介して赤外線センサ4に入力すると、赤外線センサ4は、信号処理部12に画像信号を出力する。本例の赤外線センサ4は、センサ制御部11から供給される積分時間により、赤外線光から画像信号を出力する際のダイナミックレンジが変えられる。
【0028】
タイミング16aは、第1の積分時間記憶部14aから読み出される第1の積分時間と、第1のオフセットデータ記憶部15aから読み出される第1のオフセットデータは、同一のクロックでセンサ制御部11に入力することを示す。同様に、タイミング16bは、第2の積分時間記憶部14bから読み出される第2の積分時間と、第2のオフセットデータ記憶部15bから読み出される第2のオフセットデータは、同一のクロックでセンサ制御部11に入力することを示す。このように、センサ制御部11は、所定のタイミングで一組の積分時間とオフセットデータを得て、この積分時間とオフセットデータを赤外線センサ4に入力することで第1又は第2の温度レンジに切り替えている。
【0029】
そして、第1及び第2の積分時間と第1及び第2のオフセットデータは、センサ制御部11によって、信号処理部12に同時に入力される。このため、信号処理部12は、赤外線センサ4がどの温度レンジで画像信号を出力したのかを知ることができる。
【0030】
信号処理部12が備える加算・平均部12aは、センサ制御部11から所定のタイミングで切り替えて供給される第1又は第2の温度レンジに関する情報に基づいて、赤外線センサ4から入力した画像信号に対して所定の期間(本例では、フレーム数)で加算処理と平均化処理を行う。そして、加算・平均部12aは、処理後の画像信号を書き込み部18に出力する。
【0031】
信号処理部12は、センサ制御部11から受け取る第1又は第2の温度レンジに関する情報に基づいて、赤外線センサ4が第1又は第2の温度レンジのいずれの温度レンジで画像信号を出力したのかを判別する。そして、信号処理部12が画像信号を出力する際には、第1又は第2の温度レンジに関する情報を画像信号から得られる画像データに付す。
【0032】
第1又は第2の温度レンジに関する情報には、画像信号がどの温度レンジで出力されるかを示す情報が含まれる。また、第1の温度レンジに関する情報には、画像信号を積分する第1の積分時間と第1のオフセットデータが含まれ、第2の温度レンジに関する情報には、画像信号を積分する第2の積分時間と第2のオフセットデータが含まれる。
【0033】
書き込み部18は、信号処理部12から画像データを受け取ると、画像データに付された温度レンジに関する情報に従って、センサ制御部11によって切り替えられた第1又は第2の温度レンジ毎に、第1の画像記憶部20aと第2の画像記憶部20bへ画像データを書き込む。本例では、赤外線センサ4が第1の温度レンジに設定された場合に、書き込み部18は、第1の温度レンジで出力された画像信号から得られる画像データを第1の画像記憶部20aに書き込む。一方、赤外線センサ4が第2の温度レンジに設定された場合に、書き込み部18は、第2の温度レンジで出力された画像信号から得られる画像データを第2の画像記憶部20bに書き込む。
【0034】
そして、画像データが第1の画像記憶部20a又は第2の画像記憶部20bに書き込まれるのと同じタイミングで、この画像データが温度レンジ検知部17に供給される。温度レンジ検知部17は、取得した画像データから対象物2の温度レンジを検知し、対象物2の温度レンジに合わせて第1又は第2の温度レンジを選択し、適切な温度レンジの熱画像として表示できる画像データの読み出し指示を読み出し部19に行う。
【0035】
具体的に説明すると、温度レンジ検知部17は、信号処理部12から画像データを受けると、画像データに含まれる温度データから、1フレームの熱画像における温度の最も大きい値のデータを最高温度として検出する。その温度データは、12ビットで表されており、16進数表記で000〜FFFまで変化する。温度レンジ検知部17は、最高温度を8フレーム分の熱画像信号に関し受けると、その8フレーム分の画像データから得た8個の最高温度を平均し、平均最高温度を生成する。ここで、1フレーム分だけの熱画像に関する最高温度ではノイズにより、対象物の真の最高温度を過って検出するおそれがある。このため、温度レンジ検知部17は、8フレーム分の熱画像に関する最高温度を平均し、平均最高温度を求め、その平均最高温度を対象物の真の最高温度として、第1又は第2の温度レンジのいずれかに切り換える際の判断基準に利用する。
【0036】
読み出し部19は、温度レンジ検知部17からの読み出し指示に基づいて、第1の画像記憶部20a又は第2の画像記憶部20bのいずれかから第1又は第2の温度レンジのいずれかで書き込まれた画像データを読み出して、表示装置5に出力する。表示装置5は、この画像データと、画像データに付された温度レンジに関する情報に基づいて対象物2の熱画像を表示する。
【0037】
本例のサーモグラフィー装置1で用いる画像表示アルゴリズムは、以下の2条件によって、表示装置5に表示する熱画像を異ならせる。
第1の条件:対象物2の最高温度が閾値(例えば、120℃)未満である場合、第1の画像記憶部20aから読み出した画像データに基づく熱画像を表示装置5に表示する。
第2の条件:対象物2の最高温度が閾値(例えば、120℃)以上である場合、第2の画像記憶部20bから読み出した画像データに基づく熱画像を表示装置5に表示する。
そして、画像処理部10は、表示装置5に表示する熱画像を2Hzで更新する。
【0038】
図2は、赤外線撮像装置と信号処理部12が行う画像データを取得する処理例を示す。
始めに、センサ制御部1は、第1の積分時間記憶部14aから読み出した第1の積分時間と、第1のオフセットデータ記憶部15aから読み出した第1のオフセットデータを、赤外線センサ4にセットする(ステップS1)。
【0039】
次に、赤外線センサ4は、セットされた第1の積分時間が安定化するまで待機する(ステップS2〜S4)。ステップS2における待機時間は1フレーム分の時間に相当し、以降のステップS2〜S4についても同様である。そして、赤外線センサ4は、合計10フレーム分の時間(167ミリ秒)だけ画像信号の出力を行うことなく待機する。
【0040】
次に、赤外線センサ4は、レンズ3を介して入力した赤外線光より第1の積分時間で対象物2の画像信号を出力し、信号処理部12は、画像信号を取得する(ステップS5〜S7)。ここで、信号処理部12が画像信号を取得するためには、3フレーム分の時間(50ミリ秒)を要する。
【0041】
そして、信号処理部12は、取得した画像信号を加算平均し、書き込み部18は、画像信号から得られる画像データを、第1の画像記憶部20aに書き込む(ステップS8)。ただし、信号処理部12は、加算平均を行うことなく、得られた画像信号をそのまま出力し、書き込み部18は、この画像信号から得られる画像データを第1の画像記憶部20aに書き込んでもよい。
【0042】
次に、センサ制御部1は、第2の積分時間記憶部14bから読み出した第2の積分時間と、第2のオフセットデータ記憶部15bから読み出した第2のオフセットデータを、赤外線センサ4にセットする(ステップS10)。
【0043】
次に、赤外線センサ4は、セットされた第2の積分時間が安定化するまで待機する(ステップS11〜S12)。ステップS11における待機時間は1フレーム分の時間に相当し、以降のステップS12〜S13についても同様である。そして、赤外線センサ4は、合計10フレーム分の時間(167ミリ秒)だけ画像信号の出力を行うことなく待機する。
【0044】
次に、赤外線センサ4は、レンズ3を介して入力した赤外線光より第2の積分時間で対象物2の画像信号を出力し、信号処理部12は、画像信号を取得する(ステップS14〜S16)。ここで、信号処理部12が画像信号を取得するためには、3フレーム分の時間(50ミリ秒)を要する。
【0045】
そして、信号処理部12は、取得した画像信号を加算平均し、書き込み部18は、画像信号から得られる画像データを、第2の画像記憶部20bに書き込む(ステップS17)。ただし、信号処理部12は、加算平均を行うことなく、得られた画像信号をそのまま出力し、書き込み部18は、この画像信号から得られる画像データを第2の画像記憶部20bに書き込んでもよい。
【0046】
なお、ステップS2〜S4、S11〜S13における待機時間は、10フレーム(167ミリ秒)に限らず、第1のオフセットデータを第1のオフセットデータ記憶部15aにセット後、安定化する時間だけ待てばよい。また、ステップS5〜S7、S14〜S16における画像を取得するための時間は、3フレーム(50ミリ秒)に限らず、1フレームでも10フレームでもよい。
【0047】
図3は、書き込み部18が第1の画像記憶部20a又は第2の画像記憶部20bに画像データを書き込むまでの処理例を示す。
【0048】
始めに、センサ制御部11は、赤外線センサ4に第1の積分時間と第1のオフセットデータをセットする(ステップS21,S22)。次に、赤外線センサ4から出力された画像信号を信号処理部12が処理を行った後、書き込み部18は、第1の画像記憶部20aに画像データを書き込む(ステップS23)。
【0049】
次に、センサ制御部11は、赤外線センサ4に第2の積分時間と第2のオフセットデータをセットする(ステップS24,S25)。次に、赤外線センサ4から出力された画像信号を信号処理部12が処理を行った後、書き込み部18は、第2の画像記憶部20bに画像データを書き込む(ステップS26)。
【0050】
図4は、読み出し部19が第1の画像記憶部20a又は第2の画像記憶部20bから画像データを読み出す処理例を示す。
【0051】
始めに、温度レンジ検知部17は、信号処理部12から出力される画像信号より得られる画像データに基づいて、対象物2の温度レンジを検知する(ステップS31)。次に、温度レンジ検知部17は、画像データから対象物2の最高温度を検出し、最高温度と閾値を比較して、熱画像の表示に適した温度レンジが、第1又は第2の温度レンジのいずれであるかを判断する(ステップS32)。
【0052】
第1の温度レンジが適切であると判断した場合、上述した第1の条件に合致するため、温度レンジ検知部17は、読み出し部19に第1の画像記憶部20aから画像データを読み出すよう指示を与える(ステップS33)。一方、第2の温度レンジが適切であると判断した場合、上述した第2の条件に合致するため、温度レンジ検知部17は、読み出し部19に第2の画像記憶部20bから画像データを読み出すよう指示を与える(ステップS34)。
【0053】
そして、読み出し部19は、指示された第1の画像記憶部20a又は第2の画像記憶部20bのいずれかから画像データを読み出して、表示装置5に出力する(ステップS35)。
【0054】
以上説明した本実施の形態に係るサーモグラフィー装置1によれば、常に、2種類の温度レンジで対象物2の画像データを交互に記憶している。このため、対象物2の最高温度が変わり、温度レンジの変更が必要となった場合であっても、数十ミリ秒程度の遅れで表示装置5に表示させる熱画像を切替えることが可能である。そして、温度レンジを瞬時に切替えることで、NETD(Noise Equivalent Temperature Difference:雑音等価温度差(温度分解能))のより良い熱画像を表示装置5に良好に表示できるという効果がある。
【0055】
また、2種類の積分時間を切替えて赤外線センサ4から画像データを取得するため、赤外線センサ4のゲイン等を変更するよりも、NETDが向上するという効果がある。
【0056】
また、第1の温度レンジに関する情報として、第1の積分時間と第1のオフセットデータを含ませ、第2の温度レンジに関する情報として、第2の積分時間と第2のオフセットデータを含ませている。そして、赤外線センサ4が第1又は第2の温度レンジに関する情報を受け取ると、赤外線センサ4は、この情報に合わせて画像信号を出力できる。このため、赤外線センサ4は、センサ制御部11が設定した第1又は第2の温度レンジに合わせて、適切な画像信号を出力することができるという効果がある。
【0057】
また、赤外線センサ4は、セットされた第1又は第2の積分時間が安定するまで待機するため、出力される画像信号のレベルが安定する。また、信号処理部12は、画像信号を所定のフレーム数毎に加算平均するため、得られる画像データのノイズが均一化されるという効果がある。
【0058】
<変形例>
積分時間を変更できる赤外線センサ4の代わりに、バイアス電圧やゲインを変更する赤外線センサを用いてもよい。この場合、センサ制御部11は、バイアス電圧の変更指示を赤外線センサに与えるだけで、表示装置5に表示する熱画像の温度レンジを変更することができる。
【0059】
また、用いる温度レンジは2種類に限らず、3種類以上の温度レンジを用いてもよい。これにより、きめ細かく温度レンジを変更し、対象物2の温度変化に追従した熱画像を表示することができる。また、第1又は第2の温度レンジの切替えは装置内部で自動的に行わず、ユーザの手動操作により第1又は第2の温度レンジを切り替えてもよい。
【0060】
また、各記憶部を別個のブロックとして示したが、一つのメモリを用意し、このメモリの領域を所定の大きさに論理分割することで、各記憶部の機能を実現しても良い。このようにメモリを構成すると、画像処理部10に搭載する部品を減らすことができ、耐故障性を高めることができるという効果がある。
【0061】
また、表示装置5の代わりに警報装置を設けても良い。この警報装置は、対象物の最高温度が所定の閾値未満又は所定の閾値以上となる場合に、読み出し部19から出力される画像データに基づいて警報を発する。例えば、対象物2の最高温度が第1又は第2の温度レンジのいずれかに該当する場合に、警報装置が音声等による警報を行うようにしてもよい。
【0062】
また、上述した実施の形態例における一連の処理は、ハードウェアにより実行することができるが、ソフトウェアにより実行させることもできる。一連の処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムを、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータ、または、各種のプログラムをインストールすることで各種の機能を実行することが可能である。例えば汎用のパーソナルコンピュータなどに所望のソフトウェアを構成するプログラムをインストールして実行させればよい。
【0063】
また、上述した実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記録媒体を、システムあるいは装置に供給してもよい。また、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPU等の制御装置)が記録媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行することによっても、機能が実現されることは言うまでもない。
【0064】
この場合のプログラムコードを供給するための記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどを用いることができる。
【0065】
また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、上述した実施の形態の機能が実現される。加えて、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどが実際の処理の一部又は全部を行う。その処理によって上述した実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【0066】
また、本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を取り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0067】
1…サーモグラフィー装置、2…対象物、3…レンズ、4…赤外線センサ、5…表示装置、10…画像処理部、11…センサ制御部、12…信号処理部、12a……加算・平均部、13…クロック出力部、14a…第1の積分時間記憶部、14b…第2の積分時間記憶部、15a…第1のオフセットデータ記憶部、15b…第2のオフセットデータ記憶部、16a,16b…タイミング、17…温度レンジ検知部、18…書き込み部、19…読み出し部、20a…第1の画像記憶部、20b…第2の画像記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の最低温度から最高温度までの温度範囲を含む温度レンジのうち、前記対象物の最高温度が所定の閾値未満である場合に設定される、第1の温度レンジと、前記対象物の最高温度が所定の閾値以上である場合に設定される、前記第1の温度レンジと異なる第2の温度レンジのいずれかに所定のタイミングで切り替え、前記対象物から放射される赤外線光の強度に応じた画像信号を出力する赤外線センサに、切り替えた前記第1又は第2の温度レンジに関する情報を供給するセンサ制御部と、
前記センサ制御部から前記所定のタイミングで切り替えて供給される前記第1又は第2の温度レンジに関する情報に基づいて、前記赤外線センサが出力する前記画像信号を所定期間で加算平均する信号処理部と、
前記センサ制御部によって切り替えられた前記第1又は第2の温度レンジ毎に、前記信号処理部から出力される処理後の画像信号から得られる画像データを画像記憶部に書き込む書き込み部と、
前記画像データより、前記対象物の温度レンジを検知し、前記対象物の温度レンジに合わせて前記第1又は第2の温度レンジを選択する温度レンジ検知部と、
前記温度レンジ検知部が選択した前記第1又は第2の温度レンジに合わせて、前記画像記憶部から前記第1又は第2の温度レンジのいずれかで書き込まれた前記画像データを読み出して出力する読み出し部と、を備える
サーモグラフィー装置。
【請求項2】
前記第1の温度レンジに関する情報には、前記画像信号を積分する第1の積分時間と、前記第1の積分時間と対で用いられ、前記赤外線センサを前記第1の積分時間に合わせてオフセットする第1のオフセットデータが含まれ、
前記第2の温度レンジに関する情報には、前記画像信号を積分する第2の積分時間と、前記第2の積分時間と対で用いられ、前記赤外線センサを前記第2の積分時間に合わせてオフセットする第2のオフセットデータが含まれる
請求項1記載のサーモグラフィー装置。
【請求項3】
前記センサ制御部は、前記赤外線センサに前記第1又は第2の積分時間をセットし、安定化するまで待機させ、
前記信号処理部は、前記赤外線センサが出力する前記画像信号を所定のフレーム数毎に加算平均する
請求項1又は2に記載のサーモグラフィー装置。
【請求項4】
さらに、前記読み出し部から受け取った前記画像データに基づいて、前記対象物の熱画像を表示する表示部を備える
請求項1〜3のいずれか1項に記載のサーモグラフィー装置。
【請求項5】
さらに、前記対象物の温度レンジが前記所定の閾値未満又は前記所定の閾値以上となる場合に、前記読み出し部から出力される前記画像データに基づいて警報を発する警報部を備える
請求項1〜4のいずれか1項に記載のサーモグラフィー装置。
【請求項6】
対象物の最低温度から最高温度までの温度範囲を含む温度レンジのうち、前記対象物の最高温度が所定の閾値未満である場合に設定される、第1の温度レンジと、前記対象物の最高温度が所定の閾値以上である場合に設定される、前記第1の温度レンジと異なる第2の温度レンジのいずれかに所定のタイミングで切り替え、前記対象物から放射される赤外線光の強度に応じた画像信号を出力する赤外線センサに、切り替えた前記第1又は第2の温度レンジに関する情報を供給するステップと、
前記所定のタイミングで切り替えて供給される前記第1又は第2の温度レンジに関する情報に基づいて、前記赤外線センサが出力する前記画像信号を所定期間で加算平均するステップと、
前記所定のタイミングで切り替えられた前記第1又は第2の温度レンジ毎に、加算平均された前記画像信号から得られる画像データを画像記憶部に書き込むステップと、
前記画像データより、前記対象物の温度レンジを検知し、前記対象物の温度レンジに合わせて前記第1又は第2の温度レンジを選択するステップと、
選択した前記第1又は第2の温度レンジに合わせて、前記画像記憶部から前記第1又は第2の温度レンジのいずれかで書き込まれた前記画像データを読み出して出力するステップと、を含む
画像処理方法。
【請求項7】
対象物の最低温度から最高温度までの温度範囲を含む温度レンジのうち、前記対象物の最高温度が所定の閾値未満である場合に設定される、第1の温度レンジと、前記対象物の最高温度が所定の閾値以上である場合に設定される、前記第1の温度レンジと異なる第2の温度レンジのいずれかに所定のタイミングで切り替え、前記対象物から放射される赤外線光の強度に応じた画像信号を出力する赤外線センサに、切り替えた前記第1又は第2の温度レンジに関する情報を供給する手順、
前記所定のタイミングで切り替えて供給される前記第1又は第2の温度レンジに関する情報に基づいて、前記赤外線センサが出力する前記画像信号を所定期間で加算平均する手順、
前記所定のタイミングで切り替えられた前記第1又は第2の温度レンジ毎に、加算平均された前記画像信号から得られる画像データを画像記憶部に書き込む手順、
前記画像データより、前記対象物の温度レンジを検知し、前記対象物の温度レンジに合わせて前記第1又は第2の温度レンジを選択する手順、
選択した前記第1又は第2の温度レンジに合わせて、前記画像記憶部から前記第1又は第2の温度レンジのいずれかで書き込まれた前記画像データを読み出して出力する手順と、を
コンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−106885(P2011−106885A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260354(P2009−260354)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(596118600)NEC Avio赤外線テクノロジー株式会社 (13)
【Fターム(参考)】