説明

シイクワシャー果皮ペースト又はシイクワシャー果皮ペースト冷凍物の製造方法

【課題】 微生物の増殖をより防止することができ、しかも−20℃という冷凍状態にあっても、固い凍結状態になく、解凍容易な、シイクワシャー果皮ペースト又はシイクワシャー果皮ペースト冷凍物を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 シイクワシャー搾汁残渣を、除核した後、又は除核することなく、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕するか、或いはここまでの工程において除核していない場合には糖液を加えながら磨砕装置にて破砕すると同時に除核し、糖度30%以上のペーストとすることを特徴とする、シイクワシャー果皮ペーストの製造方法、並びに、前記方法により得られたシイクワシャー果皮ペーストを冷凍することを特徴とする、シイクワシャー果皮ペースト冷凍物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シイクワシャー果汁の製造工程で産出される搾汁残渣を原料とした、シイクワシャー果皮ペースト又はシイクワシャー果皮ペースト冷凍物の製造方法に関する。
さらに詳しくは、本発明は、シイクワシャー果実の搾汁残渣から、シイクワシャー果実に含まれる有効成分であるノビレチン、タンゲレチンなどのポリメトキシフラボノイドを高含有する食素材である、シイクワシャー果皮ペースト又はシイクワシャー果皮ペースト冷凍物、並びにシイクワシャー果皮飲料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シイクワシャー(シークワーサー)(学名:Citrus depressa )は、沖縄在来の柑橘類として古くから知られている果物である。
このシイクワシャーには、血圧の上昇や血糖の上昇を抑制する効果があることが伝承されてきている。血圧の上昇や血糖の上昇を抑制する理由については、必ずしも明確ではないが、シイクワシャーには、ノビレチン,タンゲレチンなどのポリメトキシフラボノイドが含まれていることが何らかの影響を与えているものとも考えられる。ノビチレンは、発ガン抑制作用、ガン転移抑制作用が認められているポリメトキシフラボノイドである(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
従来、シイクワシャーは、主にジュースを得る目的で加工用原料などとして用いられており、果肉部の利用に留まっていて、果皮部は廃棄されているのが実情であった。
【0004】
ところが、近年、シイクワシャーに含まれるノビレチン,タンゲレチン等は、果肉部よりも果皮部に多く含まれていることが知られるようになった。このため、果皮部を再利用することが試みられてきている。
【0005】
シイクワシャーの属する柑橘類における果皮部の再利用については、果汁製造工程で産出される残渣を、例えば家畜等の飼料、土壌改良剤などとして、また果皮からの精油の抽出などに利用することが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
このように柑橘類においては、果汁製造工程で産出される搾汁残渣を利用した研究が始まっている。
しかしながら、シイクワシャー搾汁残渣からの果皮部を有効利用することには、以下のように多くの問題がある。
【0007】
シイクワシャー果実は、温州みかんなどよりも小型であり、しかも果皮(内果皮、外果皮)が薄く柔らかい。このため、他の柑橘類の搾汁に用いられているインライン搾汁機などとは異なった搾汁機械・搾汁方法が用いられている。シイクワシャー果実の搾汁には、通常、プレス搾汁や遠心搾汁が用いられている。しかしながら、プレス搾汁や遠心搾汁により得られる残渣には、インライン搾汁機などを使用した場合とは異なり、果皮、じょうのう膜(砂のうを包む膜)、種子、一部の果肉部等が混在している。そのため、これを食素材として用いる場合には、苦味成分を有する種子を除去する必要がある。収穫時期により変動するが、シイクワシャー果実の種子は、果実1個あたり10個から18個程度も含まれており、果実重量の約5〜10%を占めている。従って、人力でシイクワシャー果実の種子を除去するのは実際上困難である。
また、果汁の精製を目的として行われる遠心分離処理により排出される微細な不溶性固形分(パルプ)については、これといった利用すべき用途がなく、廃棄されているのが実情である。
【0008】
このため、シイクワシャー搾汁残渣から、シイクワシャーペーストを製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。
このシイクワシャーペーストによれば、従来廃棄されていたシイクワシャー搾汁工程で産出される残渣を利用して有用な食素材を製造するため、廃棄物量が大幅に減少する。その結果、これまで当該廃棄物の処理に要していた費用が大幅に軽減されるものであった。
【0009】
しかしながら、流通性向上の観点から、微生物の増殖をより防止することができ、しかも−20℃という冷凍状態でも、固い凍結状態になく、解凍容易な、シイクワシャー果皮ペースト又はシイクワシャー果皮ペースト冷凍物が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−168372号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Bracke, M. E. (1994), Food Technology, 48, 104
【非特許文献2】「果汁・果実飲料辞典」、(株)朝倉書店、1978年9月30日発行、p.408〜412
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このようにシイクワシャー果汁製造の際に産出される搾汁残渣を有効利用し、微生物の増殖をより防止することができ、しかも−20℃という冷凍状態にあっても、固い凍結状態になく、解凍容易な、シイクワシャー果皮ペースト又はシイクワシャー果皮ペースト冷凍物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、請求項1に係る本発明は、シイクワシャー搾汁残渣を、除核した後、又は除核することなく、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕するか、或いはここまでの工程において除核していない場合には糖液を加えながら磨砕装置にて破砕すると同時に除核し、糖度30%以上のペーストとすることを特徴とする、シイクワシャー果皮ペーストの製造方法を提供するものである。
請求項2に係る本発明は、シイクワシャー搾汁残渣を、除核した後、又は除核することなく、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕するか、或いはここまでの工程において除核していない場合には糖液を加えながら磨砕装置にて破砕すると同時に除核し、糖度30%以上のペーストとし、次いで冷凍することを特徴とする、シイクワシャー果皮ペースト冷凍物の製造方法を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、シイクワシャー果皮飲料を製造するにあたり、主原料として、請求項1記載の方法により得られたシイクワシャー果皮ペースト、又は請求項2記載の方法により得られたシイクワシャー果皮ペースト冷凍物を用いることを特徴とする、シイクワシャー果皮飲料の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シイクワシャー果汁製造の際に産出される搾汁残渣を有効利用し、微生物の増殖をより防止することができ、しかも−20℃という冷凍状態にあっても、固い凍結状態になく、解凍容易な、シイクワシャー果皮ペースト又はシイクワシャー果皮ペースト冷凍物の製造方法が提供される。
即ち、本発明によれば、水分活性が低くて腐敗しにくく、しかも解凍しやすく、流通性に優れたシイクワシャー果皮ペースト又はシイクワシャー果皮ペースト冷凍物が提供される。
本発明によれば、従来廃棄されていたシイクワシャー果実の搾汁工程で産出される搾汁残渣を利用して、シイクワシャー果皮ペースト又はシイクワシャー果皮ペースト冷凍物、並びにシイクワシャー果皮飲料を製造するため、廃棄物の量を大幅に減少させることができる。その結果、当該廃棄物の処理費用が大幅に軽減されるというメリットがある。従来は、当該廃棄物の処理方法として、当該廃棄物を畑等に放置して自然腐敗による消滅を図る方法も行われていたが、この方法により生ずる環境上の問題や腐敗による異臭発生等の問題も解消される。
さらに、得られるシイクワシャー果皮ペースト又はシイクワシャー果皮ペースト冷凍物、並びにシイクワシャー果皮飲料には、シイクワシャー果実飲料と同様に、ノビレチン,タンゲレチン,シネフリン等が高含有されている。従って、これを摂取することによって、血圧の上昇や血糖の上昇を抑制する効果が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、シイクワシャー果皮ペーストの製造方法(以下、第1の方法と称することがある。)に関し、シイクワシャー搾汁残渣を、除核した後、又は除核することなく、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕するか、或いはここまでの工程において除核していない場合には糖液を加えながら磨砕装置にて破砕すると同時に除核し、糖度30%以上のペーストとすることを特徴とするものである。
【0016】
本発明においては、シイクワシャー果皮ペースト或いはシイクワシャー果皮ペースト冷凍物を製造する原料として、シイクワシャー搾汁残渣を用いる。
本発明に用いられる原料であるシイクワシャー搾汁残渣は、特別な方法により得られるものである必要はなく、これまで行われている一般的なシイクワシャーの搾汁方法、例えばプレス搾汁機、遠心搾汁機などを用いて行われる搾汁方法(圧搾処理)によって得られるものであればよい。
得られるシイクワシャー搾汁残渣は、完全に潰れた形となっているが、種子は破砕しておらず、果皮は残った状態で圧搾されている。
【0017】
本発明においては、シイクワシャー搾汁残渣として、このようなシイクワシャー搾汁工程の搾汁時に排出される果皮、じょうのう膜、及び種子を含んだ残渣と、果汁精製時に排出される微細な不溶性固形分(パルプ)とが使用される。
【0018】
本発明においては、このようなシイクワシャー搾汁残渣を、除核した後、又は除核することなく、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕する。
【0019】
ここでの除核処理、即ち種子の除去処理は、具体的には例えば、シイクワシャー果実の搾汁時に排出される搾汁残渣を、シイクワシャー果実の種子が十分に通り抜けられるほどの大きさの網目を有する容器に入れ、酸溶液(具体的には塩酸水溶液など)及びアルカリ溶液(具体的には水酸化ナトリウム水溶液など)に順次、浸漬し、撹拌することにより行われる。これにより、種子、じょうのう膜などが取り除かれた果皮部を採取することができる。
なお、単に、シイクワシャー果実の搾汁時に排出される搾汁残渣を、シイクワシャー果実の種子が十分に通り抜けられるほどの大きさの網目を有する容器に入れ、一定時間撹拌するだけでも、種子を除去することができる。この場合、酸溶液とアルカリ溶液を用いてのじょうのう膜の除去処理は、別途行えばよい。
このとき除去された種子は、リモニン等、昆虫の禁忌成分を含んでおり、さらに抗がん抑制作用も期待され、様々な用途に有効に利用することができる。
なお、本発明においては、搾汁時に種子が粉砕されないため、種子粉砕による苦味、油分の混入のおそれがない。
【0020】
酸溶液、アルカリ溶液としては、酸、アルカリ共に、0.01〜1%、好ましくは0.1〜0.5%、より好ましくは0.2〜0.4%の溶液が用いられる。ここで用いる酸の濃度が1%を超えると、果皮自体が分解されるという問題があり好ましくない。一方、用いる酸の濃度が0.01%未満であると、十分な処理効果が得られない。なお、アルカリ溶液での処理は、酸溶液での処理後に行われるため、アルカリ溶液の濃度は、酸を中和するに必要な量といえる。
【0021】
酸溶液、アルカリ溶液に浸漬し、撹拌するときの撹拌回転数は、酸溶液、アルカリ溶液共に、20〜60rpmである。また、このときの撹拌時間は、酸溶液、アルカリ溶液共に、5〜30分間、好ましくは10〜20分間である。ここで撹拌時間が30分間を超えると、果皮自体が分解されるという問題が生じ、好ましくない。一方、撹拌時間が5分間未満であると、十分な処理効果が得られない。
【0022】
上記の酸溶液やアルカリ溶液による処理が終了した後、酸やアルカリを除去するため、必要に応じて、水晒しをするとよい。この水晒しは、流水により行うことがより好ましい。水晒しは、例えば酸溶液やアルカリ溶液による処理が終了した後の搾汁残渣を含む溶液中に水を加えて一定時間、浸漬し撹拌することにより行うこともできるし、酸溶液やアルカリ溶液による処理が終了した後の搾汁残渣を含む溶液中に流水を流して行うこともできる。
これらの一連の操作により、果皮、じょうのう膜、種子等が混在していた残渣より、種子やじょうのう膜が除去され、ノビレチン,タンゲレチン等のポリメトキシフラボノイドを高含有する果皮部を選択的に採取することができる。
また、本発明で用いるシイクワシャー搾汁残渣は、農薬等の残留が規定以下のものであるが、上記の酸溶液やアルカリ溶液による処理、さらには水晒し処理によって、残留農薬をほぼ完全に除去することができる。
【0023】
本発明においては、このようにして採取された果皮部について、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕(荒粉砕と微粉砕)し、糖度30%以上のペーストとする。
ペースト化の方法は、例えば、予めダイスカッター等を用いて細かく切断した後、磨砕装置を用いて行う。磨砕装置としては、例えばマスコロイダー(増幸産業(株)製)を用いることができる。マスコロイダーは、間隔を自由に調整することのできる上下2枚のグラインダーによって構成される、石臼形式の超微粒磨砕装置である。
【0024】
即ち、まず磨砕装置を用いて、採取された果皮部を300〜500μm程度に荒粉砕する。次いで、水分を全体の10〜80重量%、好ましくは30〜50重量%となるように加える。さらに、磨砕装置の磨砕部におけるクリアランスを20〜100μm、好ましくは40〜80μm程度に調整して微粉砕する。
【0025】
本発明においては、この磨砕装置にての破砕(荒粉砕と微粉砕)を、糖液を加えながら行う。糖液を加えて水分活性を下げておくことにより、得られるシイクワシャー果皮ペーストについて、冷凍後の解凍を容易に行うことができ、また微生物の増殖を有効に防止することができる。この意味から、水分活性は、0.8%以下となるようにすることが好ましい。
糖液としては、例えば果糖ブドウ糖液糖などを用いることができる。
糖液の添加量は、糖液の糖度によって異なり一義的に決定することは困難であるが、得られるペーストが糖度30%以上のものとなるように、使用する糖液の糖度と添加量を決定することが必要である。例えば、糖度60%の糖液を用いる場合、採取された果皮部1重量部に対して、前記糖液を1重量部用いることにより、糖度30%以上のシイクワシャー果皮ペーストを得ることができる。
ここで糖度30%以上のシイクワシャー果皮ペーストでないと、水分活性を0.8以下とすることができず、微生物の増殖を有効に防止することができないと共に、冷凍したときに固い凍結状態となり、解凍が容易なものとならない。
【0026】
なお、糖液を加えてペースト化する際に、必要に応じて加水することもできる。加水に用いる水は、果汁でもよく、また、微細なパルプやクエン酸等の食品添加物を溶解したものであってもよい。
さらに、ペースト化する際に、果汁精製時の遠心分離操作によって得られる微細な不溶性固形分、即ちパルプを加えることもできる。遠心分離操作によって得られたパルプは、ペクチナーゼなどの酵素を失活させるため、予め90〜100℃で1秒〜20分間加熱処理を行った後、本発明に用いることが望ましい。パルプの添加時期は、果皮部をペースト化する前後、及びペースト化処理中のいずれでもよい。
なお、パルプには、ノビレチン,タンゲレチン等のポリメトキシフラボノイドが含まれているので、ペースト中におけるこれら成分の調整剤として用いることができ、該ポリメトキシフラボノイドの割合を高めたい場合は、上記の範囲を超えてパルプを加えることができる。さらに、パルプの添加により、得られるシイクワシャー果皮ペーストの食味を向上させる効果も得ることができる。
【0027】
本発明のシイクワシャー果皮ペースト中には、果皮部をペースト化する前後、及びペースト化処理中のいずれかの時期に、増粘剤,甘味剤,酸化防止剤,保存料,着色料、強化剤等を適宜加えることもできる。
【0028】
このようにして、シイクワシャー搾汁残渣を、除核した後、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕し、糖度30%以上のペーストとすることにより、目的とする糖度30%以上のシイクワシャー果皮ペーストを得ることができる。
【0029】
また、本発明には、上記のように除核した後、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕する方法の他に、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕すると同時に除核し、糖度30%以上のペーストとする方法もある。
磨砕装置にて破砕すると同時に除核する操作は、マスコロイダーにおける上下2枚のグラインダーの間隔(クリアランス)を調整することにより行うことができる。
この他の操作は、除核した後、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕する方法において記載した通りである。
このようにして、目的とする糖度30%以上のシイクワシャー果皮ペーストを得ることができる。
【0030】
また、本発明は、シイクワシャー果皮ペースト冷凍物の製造方法(以下、第2の方法と称することがある。)をも提供するものである。
シイクワシャー果皮ペースト冷凍物を製造するには、シイクワシャー搾汁残渣を、除核した後、又は除核することなく、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕するか、或いはここまでの工程において除核していない場合には糖液を加えながら磨砕装置にて破砕すると同時に除核し、糖度30%以上のペーストとし、次いで冷凍する。
冷凍操作以外は、上記第1の方法の説明中に記載した通りである。
冷凍操作は、特に制限はなく、通常、−20℃程度以下とすればよい。
このように冷凍下に流通させることにより、より一層微生物の増殖を有効に防止することができる。
【0031】
なお、冷凍する代わりに、得られたシイクワシャー果皮ペーストを、80〜90℃程度に加熱し、殺菌した後に冷蔵することもできる。このように、加熱殺菌後に冷蔵することにより、冷蔵下に流通させることも可能である。
【0032】
さらに本発明は、シイクワシャー果皮飲料の製造方法(以下、第3の方法と称することがある。)をも提供するものである。
このシイクワシャー果皮飲料の製造方法は、シイクワシャー果皮飲料を製造するにあたり、主原料として、前記第1の方法により得られたシイクワシャー果皮ペースト、又は前記第2の方法により得られたシイクワシャー果皮ペースト冷凍物を用いることを特徴とするものである。
本発明のシイクワシャー果皮飲料の製造方法においては、主原料として、前記第1の方法により得られたシイクワシャー果皮ペースト、又は前記第2の方法により得られたシイクワシャー果皮ペースト冷凍物を用いること以外は、通常の果汁飲料の製造方法と同様に行うことができる。
なお、本発明のシイクワシャー果皮飲料の製造方法においては、主原料として、前記第1の方法により得られたシイクワシャー果皮ペースト、又は前記第2の方法により得られたシイクワシャー果皮ペースト冷凍物を、飲料全重量に対して、それぞれ、通常、4〜8%の割合で用いる。
即ち、上記主原料に、味を調えるために、クエン酸などの酸味料、シイクワシャーフレーバーなどの香料、糖類等を加え、必要に応じてpH調整し、味を調整することにより製造することができる。通常は、濾過処理後、容器に充填され、製品化される。
【0033】
このようにして、シイクワシャー果皮飲料を製造することができる。
このようにして得られたシイクワシャー果皮飲料は、シイクワシャー果汁飲料と同様の組成を有しており、機能性成分として知られる、ノビレチン,タンゲレチン,ヘプタメトキシフラボンなどのポリメトキシフラボノイドや、アドレナリン様作用を示すフェニチルアミン等を含んでいる。
従って、従来廃棄されていたシイクワシャー搾汁工程で産出される残渣を利用して、有用な飲料を得ることができ、資源の有効活用化が達成される。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1(シイクワシャー果皮ペーストの製造)
シイクワシャー果汁を製造するための搾汁工程で得られた搾汁残渣(果皮、じょうのう膜、種子を含む。)20kgを原料として、以下の実験に供した。
上記原料を、2cm角の網目を有する容器に入れ、これを0.3%塩酸水溶90Lを入れた水槽(酸水槽)中で15分間撹拌しながら浸漬した。次いで、上記原料を入れた容器を0.3%水酸化ナトリウム水溶液90Lを入れた水槽(アルカリ水槽)中に移し、15分間撹拌しながら浸漬した。
さらに、酸、アルカリ水溶液を除去するため、上記原料を入れた容器を、水90Lを入れた水槽(水槽)内にて15分間浸漬し、撹拌した。その結果、20kgの原料から、約30%にあたる約6kgの果皮が得られた。
各水槽内で処理した後、除去された原料中の各成分量(kg)についての測定値を表1に示す。なお、括弧内の数値は、除去された成分の重量%を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、原料のシイクワシャー果実の搾汁残渣を、酸処理及びアルカリ処理することによって、じょうのう膜の全量と種子の大部分を除去することができた。この処理で、苦味成分を有し、食素材として好ましくない種子を除去することができることが分かった。
【0038】
上記のようにして酸、アルカリ処理して得た果皮を、予めダイスカッターを用いて細かく切断した後、磨砕装置としてマスコロイダー(増幸産業(株)製)を用いて、200μm程度に荒粉砕し、次いで、水分を全体の25重量%となるように加え、さらに、磨砕装置の磨砕部におけるクリアランスを20μm程度に調整して微粉砕した。このとき、糖液を加えながら行った。糖液としては、糖度60%の液糖を、果皮1重量部に対して、1重量部の割合で用いた。
このようにして、シイクワシャー果皮ペースト10kgを得た。
酸、アルカリ処理する前後の果皮に含まれるノビレチンとタンゲレチンとシネフリンの含量を表2に示す。
【0039】
【表2】


*:括弧内の数値は、酸、アルカリ処理後/酸、アルカリ処理前の割合(%)
【0040】
表2によれば、ノビレチン、タンゲレチン、シネフリンのいずれとも、酸、アルカリ処理による減量は比較的少なく、80%以上が処理後においても残存していることが分かった。
【0041】
また、得られたシイクワシャー果皮ペーストについて、−20℃で保管した後の微生物(一般生菌数、カビ・酵母、大腸菌群)の増殖の有無、色の変化、香りの変化を調べが、保管前後で特に変化はなかった。
【0042】
実施例2(シイクワシャー果皮ペースト冷凍物の製造)
実施例1で得られたシイクワシャー果皮ペーストを、−20℃以下で冷凍処理して、シイクワシャー果皮ペースト冷凍物を製造した。
得られたシイクワシャー果皮ペースト冷凍物は、−20℃の冷凍下においても固い凍結状態ではなかった。
また、得られたシイクワシャー果皮ペースト冷凍物について15℃の条件で解凍したところ、解凍が容易であった。
【0043】
実施例3(シイクワシャー果皮飲料の製造)
実施例1で得られたシイクワシャー果皮ペースト、又は実施例2で得られたシイクワシャー果皮ペースト冷凍物に、表3に示す各所定割合で、それぞれクエン酸、及びシイクワシャー果汁又はシイクワシャーフレーバーを加えて、シイクワシャー果皮飲料を製造した。
製造されたシイクワシャー果皮飲料は、糖度8%、酸度0.25%であり、シイクワシャー果皮ペーストが4.0〜8.0g/100gであった。
【0044】
【表3】


得られたシイクワシャー果皮飲料は、いずれもシイクワシャー果実飲料と同等の食味を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、シイクワシャー果汁製造の際に産出される搾汁残渣を有効利用し、微生物の増殖をより防止することができ、しかも−20℃という冷凍状態にあっても、固い凍結状態になく、解凍容易な、シイクワシャー果皮ペースト又はシイクワシャー果皮ペースト冷凍物の製造方法が提供される。
しかも、得られるシイクワシャー果皮ペースト又はシイクワシャー果皮ペースト冷凍物、並びにシイクワシャー果皮飲料には、シイクワシャー果実飲料と同様に、ノビレチン,タンゲレチン,シネフリン等が高含有されている。
従って、本発明は、食品産業において有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シイクワシャー搾汁残渣を、除核した後、又は除核することなく、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕するか、或いはここまでの工程において除核していない場合には糖液を加えながら磨砕装置にて破砕すると同時に除核し、糖度30%以上のペーストとすることを特徴とする、シイクワシャー果皮ペーストの製造方法。
【請求項2】
シイクワシャー搾汁残渣を、除核した後、又は除核することなく、糖液を加えながら磨砕装置にて破砕するか、或いはここまでの工程において除核していない場合には糖液を加えながら磨砕装置にて破砕すると同時に除核し、糖度30%以上のペーストとし、次いで冷凍することを特徴とする、シイクワシャー果皮ペースト冷凍物の製造方法。
【請求項3】
シイクワシャー果皮飲料を製造するにあたり、主原料として、請求項1記載の方法により得られたシイクワシャー果皮ペースト、又は請求項2記載の方法により得られたシイクワシャー果皮ペースト冷凍物を用いることを特徴とする、シイクワシャー果皮飲料の製造方法。

【公開番号】特開2012−191900(P2012−191900A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58881(P2011−58881)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(300029592)学校法人中村学園 (9)
【出願人】(511069987)沖縄総合農産加工株式会社 (1)
【Fターム(参考)】