説明

シイタケラッカーゼ及びそれをコードする核酸及びそれらを用いた基質の酸化方法

【課題】シイタケのラッカーゼ及びそれをコードする核酸、これらのラッカーゼを用いたフェノール系物質の酸化方法を提供する。
【解決手段】シイタケ子実体由来のラッカーゼ遺伝子Lcc4、特定のアミノ酸配列を含むタンパク質、又はその1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含む、ラッカーゼ活性を有するタンパク質、及び上記タンパク質をコードする核酸配列の一部若しくは全てを含む核酸。また、それらのタンパク質を用いた、基質、代表的にはフェノール系物質の酸化への適用、例えば、土壌浄化、脱リグニン処理、食品添加物としての利用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シイタケのラッカーゼ及びそれをコードする核酸に関し、さらにこれらのラッカーゼを用いたフェノール系物質等の基質の酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラッカーゼ(E.C.1.10.3.2)はフェノール系物質等様々な基質の酸化を触媒する銅含有酸化酵素である。ラッカーゼは多種多様な生物から報告されており、高等植物から真菌、昆虫から原核生物まで広く自然界に存在している(非特許文献1、2)。
【0003】
ラッカーゼは主にフェノール系基質からアリールオキシ基中間体を生じ、ダイマー、オリゴマー及びポリマー反応産物を生成する。植物においてはリグニンの重合反応を担うと考えられているが、真菌ではリグニン分解をはじめ形態形成や防御応答等多様な役割を持つと考えられる。一般にラッカーゼは基質特異性が広いことから、潜在的な産業的用途を有する。製紙工程でのリグニン処理、洗剤における染料の転写の阻止、繊維の脱色、フェノール樹脂の製造及び廃水処理などである。種々のラッカーゼが触媒する反応は類似しているが、反応の至適温度及びpH等が異なり、その基質特異性も相違する(非特許文献1、2)。すなわち、多種のラッカーゼを利用する事で、様々な産業用途への適用が進むと考えられる。
【0004】
木材腐朽菌は様々なリグニン分解酵素を多量に分泌することが知られており、ラッカーゼはその代表である。日本で生産されている木材腐朽菌の中で最も生産量が多いシイタケについて、培養菌糸からの分泌量が多いLcc1、子実体中に発現が見られるLcc2、Lcc3について、アミノ酸配列をコードする核酸、酵素の生産法、各々の酵素活性、発現様式、及びそれらを用いたフェノール系環境汚染物質分解、新規色素製造法については、特許文献1〜3、非特許文献3〜4に記載されている。
【0005】
しかしながら、Lcc1はDOPAを酸化できず、カテコールなどの酸化活性も弱い。Lcc2、Lcc3についてはシイタケにおける発現量が少ないため、基質特異性等の酵素学的な性質についての解析がほとんど進んでいない状況であり、リグニン処理、廃液処理等における機能も不明である。そこで、Lcc1より広範な基質特異性を有するラッカーゼの探索が求められていた。
【0006】
シイタケ子実体は菌床から採取した後、保存中に傘の下側にある白色部分が数日で黒く変色する。これはメラニンの合成が原因であると考えられた。メラニン合成にはチロシンからチロシナーゼによって生じるドーパという酸化物が関与しており、ドーパがさらに酸化重合を繰り返すことで黒色のメラニンが生産される。ラッカーゼはこのドーパを基質としたフェノール化合物の重合を促進し、メラニン合成に関与すると考えられている。したがって、シイタケ子実体が菌床から採取された後、数日を経て発現する新規ラッカーゼの存在が示唆されていた。
【0007】
特許文献1に記載のシイタケの各種ラッカーゼは、遺伝子工学的手法による改良と生産が期待されており、新規のラッカーゼについても遺伝子配列及び、遺伝子配列から推定されるアミノ酸配列の解明と、遺伝子工学的手法による改良と生産が期待されていた。
【0008】
【特許文献1】特開2002−65282号公報
【特許文献2】特開2004−159号公報
【特許文献3】特開2005−348693号公報
【特許文献4】特開2005−341882号公報
【0009】
【非特許文献1】Riva, S. Trends in Biotechnology Vol.24 No.5: 219-226 (2006).
【非特許文献2】Baldrian, P. FEMS Microbiol. Rev. Vol.30:215-242 (2006).
【非特許文献3】Nagai, M., Kawata, M., Watanabe, H., Ogawa, M, Saito, K., Takesawa, T., Kanda, K., Sato, T. Microbiology. Vol.149:2455-2462(2003).
【非特許文献4】Nagai, M., Sato, T., Watanabe, H., Saito, K., Kawata, M., Enei, H. Appl. Microbiol. Biotechnol. Vol. 60 No.3:327-335(2002).
【非特許文献5】Gomi, K., Iimura, Y., Hara, S. Agric. Biol. Chem. Vol. 51:2549-2555(1987).
【非特許文献6】Karimi, M. et al. (2002) Gateway vectors for Agrobacterium-mediated plant transformation. Trends Plant Sci. 7(5): 193-195.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、新規ラッカーゼをコードする核酸を提供すること、及びその核酸配列からアミノ酸配列を決定すること、及び既知のラッカーゼ遺伝子の一部を組み入れることによって、基質特異性が広く分泌生産が可能な、新たな性質を有する融合ラッカーゼを創出することを課題とする。
より具体的には、L, D, LD-DOPAを酸化可能で、カテコール、グアヤコール、などに関しても、効率良く酸化することができるタンパク質を提供することを課題とする。
また、新規なラッカーゼを用いた基質の酸化方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、褐変化したシイタケ子実体由来のcDNAより新規のラッカーゼ遺伝子Lcc4をクローニングすることに成功した。また、Lcc4を用い麹菌においてLcc4を分泌生産させ、その基質特異性を確認すること、及びペプチドシークエンスで決定した内部配列が、塩基配列から推定される配列と一致することによって、シイタケ保存過程後期に発現するラッカーゼと同等の性質を示すことを確認した。
【0012】
すなわち本発明は、以下の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質、又は、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、ラッカーゼ活性を有するタンパク質を提供するものである。
【0013】
ここで、Lcc4は、Lcc1〜3とは相同性が6割程度(61〜〜64%)であり、新規なラッカーゼである。
【0014】
本発明のタンパク質は、例えば配列番号2のように,N末端側は配列番号1に記載されているLcc4のN末端側1〜280番目のアミノ酸配列(240番目にグリシンからセリンへの1アミノ酸変異を含む)からなり、C末端側が特許文献1に記載されているLcc1を構成するアミノ酸配列のC末端側274〜518番目のアミノ酸配列からなる融合ラッカーゼを含む。
【0015】
また本発明は、以下の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつラッカーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸配列、好ましくは配列番号3の配列に表される塩基配列を含んでなる核酸を提供する。
【0016】
さらに本発明は、配列番号2のアミノ酸配列をコードする核酸、好ましくは配列番号4で表される塩基配列を含んでなる核酸を提供する。
また、本発明は該核酸を鋳型として生産されたラッカーゼタンパク質を含み、加えて、本発明は該新規なラッカーゼを用いた基質の酸化方法を提供するものである。
具体的には以下の各技術を基礎とする。
【0017】
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含む、ラッカーゼ活性を有するタンパク質。
【0018】
(2)上記(1)に記載のタンパク質において、C末端が配列番号1のC末端側のアミノ酸配列からなり、N末端側が特許文献1に記載されているLcc1を構成するアミノ酸配列のN末端側の部分配列からなる、配列番号2で表される融合ラッカーゼ。
(3)上記(1)又は(2)に記載のタンパク質をコードする核酸配列の一部若しくは全てを含む配列番号3又は配列番号4で表される核酸。
【0019】
(4)上記(1)又は(2)に記載のラッカーゼ活性を有するタンパク質を用いた、基質の酸化方法。
【0020】
(5)上記(3)に記載の核酸を鋳型として生産したラッカーゼ活性を有するタンパク質を用いた、基質の酸化方法。
【0021】
(6)上記(4)又は(5)記載の酸化方法によって酸化された基質を、メディエーターとして用いる酸化方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、子実体保存過程において発現する新規ラッカーゼ、Lcc4のアミノ酸配列、及び核酸配列が明らかとなり、該核酸を用いた各種遺伝子工学的応用が可能となる。本発明に含まれるLcc4とLcc1のアミノ酸配列を合わせ持つ、新規融合ラッカーゼの創出はその一例であり、さらに、該ラッカーゼタンパク質の遺伝子工学技術を用いた生産と利用が期待できる。
本発明のLcc4は、Lcc1では酸化できないL,D,LD-DOPAを酸化可能で、カテコール、グアヤコールなどに関しても、Lcc1よりも効率良く酸化することができる。Lcc4はシイタケにおいては、子実体内部に蓄積されるが、配列番号3で表される核酸を鋳型とすることによって、麹菌を宿主として分泌生産が可能である。また、Lcc4とLcc1のアミノ酸配列を合わせ持つ、新規融合ラッカーゼは、Lcc4と同様にL,D,LD-DOPAなどを効率良く酸化することができ、植物細胞を宿主としてLcc1のように分泌生産可能である。
本発明は遺伝子工学技術を用いた産業応用を可能にするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
遺伝子資源としては、レンチヌラ・エドデス(H600)株を用い、菌傘の膜が切れた段階で収穫した子実体を、湿度約80%、25℃の環境下で保存試験を行った。収穫直後を0日目とし、4日目まで毎日子実体を回収した。子実体は、柄、傘、ひだに分けた後、液体窒素で凍結保存した。遺伝子発現の比較は、0日目と3日目の子実体のひだを用いて行なった。各子実体ひだ1gより、ISOGEN(日本ジーン)を用いてRNAを抽出し、PCR−select subtraction に供した。PCR−select subtraction はクロンテック社の受託解析により行った。
得られたサブトラクション済みのクローンは、三日目の子実体で発現量の増加が期待できる576クローン、発現量の減少が期待できる576クローンを大腸菌を宿主とするライブラリーとして保存した。
ライブラリーに対して、Nested Primer 1(TCGAGCGGCCGCCCGGGCAGGT)とNested Primer 2R(AGCGTGGTCGCGGCCGAGGT)を用いてPCRを行い、得られたDNA断片を鋳型として、前述のNested Primer 1を用いて各クローンの塩基配列を解読した。得られた配列に対してBlast検索、及びInterProScan(http://www.ebi.ac.uk/InterProScan/)によるモチーフ検索を行い、遺伝子機能の推定を行った。その結果、三日目の子実体で発現量の増加が期待されるクローンの中に、ラッカーゼと相同性があるが、既に単離されているLcc1、Lcc2、Lcc3(特許文献2)のいずれとも異なるクローンがあった。配列を元に3’及び5’RACEをそれぞれ、SMART RACEキット(BD Biosciences)およびGeneRACERキット(Invitrogen)を用いてcDNA全長のクローニングを行った。その結果1872bpのcDNA配列を得ることが出来、これをLcc4とした。ORFは527アミノ酸、分子量57kDa、pI値5.31であった。推定アミノ酸配列をホモロジー検索にかけたところ、シイタケLcc1と61%、Lcc2と60%、Lcc3と63%の相同性を示し、活性に重要なヒスチジン残基、立体構造に寄与するシステイン残基が保存されていた。Lcc4は、Lcc1、Lcc2、Lcc3の塩基配列をクローニングしたときに用いた縮重プライマーを用いたPCR法ではクローニングできず、上記のPCRサブトラクションという方法をもちいて、はじめてクローニングできた新規遺伝子である。
【実施例2】
【0025】
<麹菌を用いたラッカーゼ分泌生産の効率化>
麹菌を宿主としてラッカーゼを分泌発現するため、分泌シグナルペプチド配列を検討した。モデルとして、既知のLcc1のcDNAを用いた。Lcc1のシグナルペプチド配列を推定するため、Lcc1のアミノ酸配列をSignalP 3.0 プログラム(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)によって分析した。その結果MFYFSSFLLLGPIGGALAという19アミノ酸残基が分泌シグナルとして機能することが予想されたが、真核生物の一般的な分泌シグナル配列とは異なり、麹菌で機能するか不明であった。そこで、麹菌で機能しやすい分泌シグナル配列としてMRWKFTLSFLLLLSGRALAというアミノ酸配列(SP)を新たに考案し、これをコードする塩基配列を持つDNA(ATGCGCTGGAAGTTCACCCTCTCCTTCCTCCTCCTCCTCTCCGGCCGCGCCCTCGCC)を合成し、Lcc1のシグナルペプチド部分のcDNAと置換し、麹菌での分泌生産に適していると思われるSP−Lcc1をコードするcDNAを得た。次に、Lcc1、SP−Lcc1それぞれのラッカーゼを麹菌で発現するため、図1に示す麹菌用の発現ベクターpPAmyBSPへ制限酵素NaeI/AflIIサイトを用いてcDNAをクローニングした。非特許文献5の方法に従い麹菌RIB40株を形質転換し、形質転換体は0.1μg/mlのピリチアミン耐性を指標として最小寒天培地(チャペックドックス培地)上で選抜した。二週間おきに耐性菌糸を3回植え継ぎ形質転換株を単離した。それぞれ48株について炭素源としてマルトースを用いて調整したチャペックドックス液体培地に植え継ぎアミラーゼプロモータ下にあるラッカーゼの発現誘導を行った。5日後にそれぞれの培地のラッカーゼ活性をABTSを基質に測定し、最もラッカーゼ生産性が高い株を選抜した。Lcc1及びSP−Lcc1それぞれを培地中に高分泌する株について、液体静置培養を行い、分泌されたラッカーゼ活性(U/l)を図2のグラフに示した。形質転換を行う前のRIB40株はnonと表示した。この結果から、SPをN末端に付加することにより、麹菌においてラッカーゼを効率良く分泌生産出来ることが示された。
【0026】
<麹菌を用いたLcc4の分泌生産>
前記ペプチドを用いて、麹菌によるLcc4の分泌生産が可能か検討を行った。Lcc4のアミノ酸配列をSignalPを用いて解析したところ、N末端より17アミノ酸残基がシグナルペプチドとして働き、成熟型のラッカーゼは18−527番目のアミノ酸配列である可能性が示唆された。そこで、1−17番目の配列がSPとなるようにcDNAを構築し、前述の方法にしたがって図1のベクターへクローニングし、形質転換麹菌株を得た。ラッカーゼ活性が高い株を選抜し、液体培地へ分泌されるラッカーゼ活性(U/l)を測定した。図3のグラフに示すように、SP−Lcc1の10倍程度のラッカーゼ活性が確認され、麹菌を用いたLcc4の分泌生産が可能であることが示された。
【0027】
<麹菌によって生産されたLcc4の基質特異性>
シイタケ菌糸液体培養培地から精製したLcc1と麹菌によって生産したLcc4について、幾つかの基質に対する反応性について比較実験を行った。シイタケLcc1は非特許文献4に記載の方法によって精製した。Lcc4は麹を培養した培地を回収し12,000xg10分遠心した上清を口径0.45μm の滅菌ろ過フィルター(ミリポア社)に通したのち、プロテアーゼ阻害剤(complete:ロシュ社)を加えた後、限外濾過により濃縮した溶液をプロテアーゼインヒビター入りのマッキルベインバッファー(pH4.5)を用いて透析したものを用いた。Lcc1、Lcc4共にABTSを基質としたラッカーゼアッセイを行い、その値を100として、各基質に対して分解活性を測定し表示(%)した。その結果を表1に示す。
【0028】
測定法は非特許文献3記載の方法に寄った。表1はLcc1及びLcc4の各種基質に対する酸化活性(ABTSの分解活性を100とした時の相対値)を示している。
その結果、Lcc4はLcc1が酸化できないL, D, LD−DOPAを酸化可能で、カテコール、グアヤコールに関しても、Lcc1よりも効率良く酸化することが示された。
【0029】
【表1】

【実施例3】
【0030】
<タバコ培養細胞を宿主としたLcc4/1融合ラッカーゼの分泌生産>
ラッカーゼは麹菌以外にも、植物、タバコ培養細胞等、を用いても効率良く生産できることが分かってきている。タバコ培養細胞BY−2を用いて、ラッカーゼの生産を試みた。融合ラッカーゼはLcc1にあるBamHIの制限酵素部位 (5’末端のATGより828番目の塩基)で切断して3’側の配列を残し、その5’側にBamHIの制限酵素部位を添加したLcc4の (1−849) 断片を結合した、SEQ ID No.5に示した配列を持つ。また、240番目アミノ酸がグリシンからセリンに変わる点突然変異が入っている。このことは活性に大きな影響を与える可能性は少ないと考えられた。クローニングに用いたプライマーはそれぞれLcc1−5’(5’−ATGTTTTACTTCTCATCTTT−3’)、 Lcc1−3’(5’−TTAATTTCCACCAAGTTGTGC−3‘)、 Lcc4−5’(5’−ATGCGTCTACTCTTGACTTC−3’)、Lcc4−852e 3’(5’−ATTGGGAGAAGCCCGGATCC−3’)、Lcc4−3’(5’−TCAAAGCTGGTCGGGCTTGAG−3’)である。
【0031】
融合ラッカーゼを発現させたベクターは、pK2GW (非特許文献6) で、GATEWAY system(Invitrogen)を用いて作成した。比較対象にBY−2で発現したLcc1およびLcc4を用いた。それぞれのコンストラクトを導入したアグロバクテリウムGV3101を作成し、Matsuoka (http://mrg.psc.riken.go.jp/strc/BY-2tran.htm) の方法に従い、BY−2に導入した。200μg/lのカナマイシン耐性を指標として、MS寒天培地上で形質転換体を選抜した。選抜した耐性コロニーを1mlのMS液体培地に植え継ぎ、1週間振盪培養したそれぞれ28系統についてラッカーゼの活性測定を行った。ラッカーゼ活性はABTSを基質に測定し、高いラッカーゼ活性を示した上位3系統を選抜した。これら3つの系統について、100mlのMS液体培地で振盪培養を行い、培地中に分泌されたラッカーゼの活性(U/ml)を測定した結果が図4である。Lcc4導入系統ではほとんどタンパク質が発現せず、培地中のラッカーゼ活性はLcc1導入系統の1/1000程度と非常に低いのに対し、融合ラッカーゼは培地への分泌が見られ、ラッカーゼ活性としてBY−2が分泌したLcc1の約1/5量、麹菌に生産させたLcc4によるラッカーゼ活性(3U/l)の20倍相当の生産量を示した。さらに基質特異性に関しては、Lcc4と同様に幅広い基質特異性を示した(表2)。またLcc1とLcc4ではpH3〜4を反応の至適pHとしてpHが上昇するにつれ活性が低下するのに対し、融合ラッカーゼではpH3とpH5付近にそれぞれ至適pHを持つため、弱酸性域での酸化反応にも使用可能である。
【0032】
【表2】

【0033】
すなわち、融合ラッカーゼは、酸性から弱酸性の環境でLcc4に近い基質特異性を示し、Lcc1に近い生産特性を持つことによってLcc4よりも大量の分泌生産が可能な実用的なラッカーゼである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以下に、本発明のラッカーゼ及びそれをコードする核酸の産業上の利用可能性について説明する。しかし、本発明の利用はこれらに限定されるものではない。
【0035】
<ラッカーゼを用いた土壌浄化>
Lcc4又はLcc4/1はLcc1よりも広い基質特異性を持つ。したがってLcc1を用いた場合よりも、多種のフェノール基を持った環境汚染物質を無毒化出来る可能性がある。特に、シイタケ上面栽培にて排出される上面栽培廃液をラッカーゼと共に、ノニフェノールやビスフェノールAなどフェノール基を持つ内分泌撹乱物質に作用させた時に、効果的に無毒化出来ることが分かっている(特許文献3)。そこで、ラッカーゼを内分泌撹乱物質で汚染された土壌等の浄化に適用することが考えられる。麹菌によってLcc4を生産、あるいは植物を用いてLcc4/1融合ラッカーゼを生産し、これを0.1U/mlとなるよう、シイタケ上面栽培廃液である上面水(特許文献4参照)と共に環境汚染土壌へ汚染の度合いに合わせ0.1〜50l/mとなるように土壌表面、あるいは地下へ直接、あるいは徐放性かつ蓄水性の担体に吸収させた形で投与、あるいはタンクから配管を通し、少しずつ土壌表面あるいは地下に拡散するように放水する形で環境浄化を行う。
【0036】
<ラッカーゼを用いた脱リグニン処理>
製紙工程における、木材からの脱リグニン処理は大きく2段階に分けて行われる。第1段階としては、パルプ原料となるチップに対し強アルカリ処理を行い、繊維間を接着しているリグニンの大部分を除去する。この工程から、茶褐色の繊維(化学パプル)が得られ、これをそのまま製紙材料として使用することも可能である。また、機械的な粉砕や圧縮といった操作によって繊維を得る手法もあり、この方法によれば剛直でリグニンを多量に含む製紙材料(機械パルプ)が得られる。第2段階では、さらにリグニンを除き、白い紙を製造する。ここでは化学的な漂白剤が用いられる。ラッカーゼは特に第2段階の漂白工程において使用出来る可能性がある。麹菌を用いて生産したLcc4、あるいは植物で生産したLcc1/4融合ラッカーゼを、1−hydroxybenzotriazole等の基質存在下で化学パルプ、あるいは機械パルプに作用させる。ラッカーゼの作用でラジカル化した基質が、パルプに含まれるリグニンを酸化漂白する。この工程が可能になれば、漂白剤の使用量削減が可能になる。特に、粉砕して製造した機械パルプをラッカーゼで脱リグニン処理することが出来れば、使用する化学物質の量が劇的に削減可能である。
【0037】
<食品添加物としてのラッカーゼの利用>
シイタケ子実体は食品であるため、Lcc4を含むタンパク質抽出液、あるいは粗精製Lcc4を調製して、これを用いた加工食品とすることが可能である。あるいは、安全性の高い麹菌を宿主として生産したLcc4を、必要な審査を行って食用用途に利用してもよい。Lcc4は様々なフェノール性物質を基質とすることができ、ポリフェノールの重合反応なども触媒する。様々な健康機能が報告されている茶カテキンもポリフェノールの一種であるが、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートなど様々なものが知られている。これらの茶カテキンには、脂肪の分解を行うリパーゼを阻害することで脂肪吸収阻害作用を発揮することが報告されており、重合度が高いポリフェノールほど脂肪吸収阻害能が高いとされている。したがって、ラッカーゼと茶ポリフェノールを食品に加えることで、より強い脂肪吸収阻害効果を発揮することが期待できる。あるいは、茶ポリフェノールのラッカーゼ処理成分を機能性成分として、様々な機能性食品素材、サプリメント素材として活用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】麹菌形質転換用ベクターを示す図である。アミラーゼプロモータを有し、目的タンパク質をマルトースを含む培地にて誘導することが可能。
【図2】実施例1(麹菌によるLcc1の分泌生産)における分泌されたラッカーゼの活性を示す図である。培地中に誘導されたラッカーゼ活性をABTSを基質として測定。
【図3】実施例2(麹菌によるLcc4の分泌生産)における分泌されたラッカーゼの活性を示す図である。培地中に誘導されたラッカーゼ活性をABTSを基質として測定。
【図4】実施例3(BY−2によるLcc1、Lcc4及びLcc4/1融合ラッカーゼの分泌生産)における3つの系統についてラッカーゼ活性を測定した結果を示す図である。培地中に分泌されたラッカーゼ活性をABTSを基質として測定。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含む、ラッカーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質において、C末端側のアミノ酸配列が配列番号1で表され、N末端側のアミノ酸配列が別のタンパク質由来のアミノ酸配列からなる、配列番号2で表されるラッカーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタンパク質をコードする核酸配列の一部若しくは全てを含む、配列番号3又は4で表される核酸。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のラッカーゼ活性を有するタンパク質を用いた、基質の酸化方法。
【請求項5】
請求項3に記載の核酸を鋳型として生産したラッカーゼ活性を有するタンパク質を用いた、基質の酸化方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載された方法によって酸化された基質を介して行なう酸化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−189329(P2009−189329A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35207(P2008−35207)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(390025793)岩手県 (38)
【Fターム(参考)】