説明

シクロフィリンA結合部位に基づく免疫原性組成物およびワクチンの開発方法

本発明は免疫原性組成物に関する。より詳細には、本発明は、HIVキャプシドタンパク質上のシクロフィリンAの少なくとも1つの結合部位に対して免疫反応を導き出すことに向けられた組成物である。本発明は、3つのカテゴリーの実施形態、すなわちタンパク質またはタンパク質断片、メッセンジャーRNAまたはDNA/RNAを企図する。DNA/RNA組成物は、むきだしでも組換えでもよい。本発明は、さらに様々な免疫刺激剤との使用を企図する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年10月23日に出願の米国仮出願第60/513,827号の優先権を請求する。
【0002】
本発明は、ウイルス学および免疫学の分野に関する。特に、それだけに限定するものではないが、本発明は免疫反応、およびそれを達成するためのHIVシクロフィリンA(CypA)結合部位に基づく物質を誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
序論
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、スローウイルスまたはレンチウイルス群のレトロウイルスであり、後天性免疫不全症候群(エイズ)の原因である。多くのエンベロープを有するウイルスのように、HIVはウイルスおよび細胞の膜を融合して、感染およびウイルス複製を導く。一旦それが宿主細胞に融合すると、HIVはそのゲノムをウイルスおよび細胞の膜を通過させて宿主細胞に移す。
【0004】
HIVは、逆転写を通して標的細胞内で相補性のウイルスDNAを作製するためのテンプレートとして、そのRNAを使用する。ウイルスDNAは、次に感染宿主のDNAに統合することができる。HIVは表面CD4を有する細胞、例えばリンパ球およびマクロファージに感染し、CD4陽性のヘルパーTリンパ球を破壊する。(CD4は、Th1およびTh2両細胞の一部である分化抗原クラスターno.4を表す。)細胞膜分子は、白血球を様々なエフェクターサブセットに分化するために使用される。一般に、分化クラスター(CD)としても知られている4種類の細胞膜分子の詳細が明らかにされている。I型およびII型は原形質膜を横切る反極性を有する膜貫通タンパク質(TP)である。III型のTPは原形質膜を数度横切っているので、孔またはチャンネルを形成することができる。IV型TPは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)に結合される。CD4は、ヘルパー/インデューサーT細胞、単球、マクロファージおよび抗原提示細胞を含む様々な細胞で発現するI型膜貫通タンパク質である。
【0005】
この過程はgp41グリコタンパク質の成分である融合タンパク質に一部依存する。Fタンパク質構造は、プロテアーゼ抵抗性である。(Weissenhorn、Nature、387、426〜430(1997))。X線結晶学を使用して、Fタンパク質の三次元特性が詳述された。
【0006】
HIVウイルスの外膜タンパク質gp41およびgp120は、互いに非共有結合で結合している。HIVビリオンの表面では、gp120およびgp41は集合して三量体単位を形成している。gp120の3つの分子は、3つのgp41分子と会合される。
【0007】
gp120分子は、マクロファージおよび単球と同様にヘルパーT細胞の表面のCD4受容体と結合する。この結合の特徴は、2つの分子の間の高親和性である。ウイルス表面の高いシアル酸含有量は、反発する静電力を克服するために必要な閾値結合エネルギーを減らす。(Sun、2002)標的宿主細胞へのHIV粒子の膜融合は、したがって以下のステップを含むと考えられる。
1.ウイルス結合CypAと宿主/細胞ヘパリンとの相互作用。
2.CypA/ヘパリン相互作用による標的細胞へのウイルスの付着。
3.標的細胞のCD4分子へのgp120結合。この過程は、ケモカイン受容体(T細胞のためのCCR5およびマクロファージのためのCXCR4)としても知られる補助受容体タンパク質を必要とする。ウイルスは次に細胞と融合し始め、構造または配座の変化をもたらして他の受容体を露出させる。
4.gp41の融合ドメインまたはFタンパク質を露出させているgp120分子の配座の三次元変化および/または三次構造変化。
5.高次構造変化およびgp120の脱落の結果としてのgp41分子からのgp120の解離;
6.標的細胞の原形質膜を貫通する前のそれ自体へのgp41のフォールディング。
7.Fタンパク質のアンフォールディング。
8.ウイルス粒子および宿主細胞の膜の融合。
融合ペプチドの挿入は、対象の宿主細胞膜内の脂質の完全性を崩壊させる。Fタンパク質はウイルスおよび細胞の膜を結合するので、融合タンパク質がアンフォールドすると同時に、標的細胞の原形質膜およびウイルスの膜は互いにスプライシングされる。
【0008】
HIVウイルスの膜は、ウイルスが細胞の膜を貫通して出芽するときに感染宿主細胞の原形質膜から形成される。したがって、エンベロープは宿主細胞の脂質およびタンパク質構成要素のいくつかを含む。(Stoiber、1996)(Stoiber、1997)一部のエンベロープを有するウイルスは、標的細胞受容体と結合し、また他の標的細胞に入るために宿主分子を模倣するために、スパイクタンパク質その他を使用する。しかし、これらのスパイクは、免疫系認識およびウイルスの破壊のための抗原性表面ともなる可能性がある。HIVは、宿主による免疫的攻撃(液性のおよびCD8媒介の)から身を守る。高次構造変化の変わりやすさに加えて、gp120は免疫的検出および攻撃に対して偽装するための他の表面特性、例えば糖タンパク質コーティング、共有結合性シアル酸残基または位置的閉塞を提供する。(Haurum、1993)すなわち、HIVはそれ自身に有利なように様々な免疫反応を起こさせる。
【0009】
HIVビリオンのコアは、コマンドセンターとして機能する。HIVビリオンの中には、ウイルスタンパクp24(CA)からなるキャプシドがある。キャプシドは2つのRNA一本鎖も保有し、各鎖は15のタンパク質をコードするHIVの9遺伝子のコピーを提供する。9遺伝子のうち、3つ(gag、polおよびenv)は必須であると思われる。6つの他の遺伝子も、9キロ塩基対RNAゲノム内で見られる(vif、vpu、vpr、tat、revおよびnef)。より具体的には、env遺伝子はgp120およびgp41に分解されるgp160の作製のための情報またはコードを保有する。同様に、gag遺伝子はマトリックス(p17またはMA)、キャプシド(p24またはCA)、ヌクレオキャプシド(p9、p6またはNC)をコードする。pol遺伝子は、逆転写酵素ならびにインテグラーゼ酵素およびRNAseH酵素を生産するための遺伝情報を、ウイルスに提供する。その他の6つの遺伝子は調節遺伝子であり、感染および複製の機構を調節する(tat、rev、nef、vif、vprおよびvpu)。とりわけ、nef遺伝子は効率的な複製のための情報を保有し、vpuは感染宿主細胞からの新しいウイルス粒子の放出を調節する情報を保有する。最後に、HIVが標的細胞に感染するためには、標的細胞細胞質にHIV遺伝物質を注入しなければならない。
【0010】
上記したように、nef遺伝子は、HIVの効率的な複製を助けると思われている。新しいウイルス粒子の生成は、宿主細胞の膜で起こる。nefは、複製を最適化するように感染細胞の環境に影響を及ぼすようである。ウイルスタンパク質は宿主細胞膜の近くに集まり、膜内で出芽してそこから脱出する。これらのタンパク質は、3つの構造タンパク質(gp160、gp120、gp41)さらに他の2つの内部前駆ポリタンパク質(GagおよびGag-Pol)である。Gag-Polタンパク質は2つのプラス鎖RNAを芽に運び、プロテアーゼは自己を切断して遊離する。ウイルスが出芽した後、プロテアーゼはそれ自体を切断して遊離し、GagまたはGag-Polの残りのタンパク質を切断して様々な構造タンパク質および逆転写酵素を放出する。それらがプロテアーゼによって分離されるまで、ウイルスタンパク質は機能しない。したがって、プロテアーゼはGag-Polおよびより小さなGagポリタンパク質の、構造タンパク質への切断を担う。放出されたタンパク質p24、p7およびp6は新しいキャプシドを形成し、脂質膜の基部にはp24がある。この過程において、gp160は宿主酵素によってgp120およびgp41に分解される。
【0011】
gag遺伝子は55キロダルトン(kD)のp55とも呼ばれているGag前駆体タンパク質を生成し、これはスプライシング前のウイルスのメッセンジャーRNA(mRNA)から発現される。翻訳の間、p55のN末端はミリスチル化され、細胞膜の細胞質側とのその結合を引き起こす。膜関連のGagポリタンパク質は、感染細胞の表面からのウイルス粒子の出芽を起こす他のウイルスおよび細胞のタンパク質と共に、ウイルスゲノムRNAの2コピーを召集する。出芽の後、ウイルスの成熟の過程で、p55はウイルスによってコードされたプロテアーゼ(Pol遺伝子の生成物)によってMA(マトリックスまたはp17)、CA(キャプシドまたはp24)およびNC(ヌクレオキャプシドまたはp9およびp6)と称される4つのより小さなタンパク質へと切断される。(Cohen,P.T.ら、The AIDS Knowledge Base、149(1999))したがって、HIVコアはp24を含む4つのタンパク質を含む。
【0012】
連続した6つのキャプシド残基は広くHIV分離株で保存され、キャプシドタンパク質上に位置している。(Vajdos,Felix F.ら、J.of Protein Science 6:2297〜2307(1997))この6キャプシド残基、87 His-Ala-Gly-Pro-Ile-Ala 92(HAGPIA)は、細胞質タンパク質シクロフィリンAの主な結合部位である(CypA)。CypAはウイルス形成の間のGagポリタンパク質との相互作用を通してHIVに取り込まれ、宿主標的細胞の感染の間に使用される。(Sherry,Barbaraら、Proc.Natl.Acad.Sci.95、1758〜1763(1998))CypAは、キャプシドコアの分解で使用されると思われている。(Braaten,D.ら、J Virol.70:3551〜3560(1996))CypAは、ビリオンのマクロファージおよびCD4+Tリンパ球への組込みのためにも必要である。約200の別々のCypA分子は各HIVビリオンに取り込まれ、キャプシドタンパク質と結合する。約2,000の別々のキャプシドタンパク質は、ウイルスRNAを含む。CypA分子の小部分は、細胞表面で発現される。(Saphire,Andrew、The EMBO Journal、18、#23、6771〜6785(1999))宿主由来または細胞のヘパリンは、CypAのウイルスの細胞とは無関係であるか、脂質二重層内に包埋された部分と相互作用する。細胞ヘパリンとの相互作用の後、HIVに結合したCypAはこれらの標的細胞上のCypA結合部位と相互作用して、感染を可能にすると思われる。(Sherry,Barbaraら、Proc.Natl.Acad.Sci.、95、1758〜1763(1998))これは、ウイルスの付着および標的細胞の貫通の第1段階であると考えられる。
【0013】
CypAは、HIVビリオンの感染性を調節する。(Braaten,D.ら、The NEBA Journal 20(6):1300〜1309(2001))さらに、CypAはHIV複製を容易にする際に、配列特異的結合タンパク質として作用する。CypA活性部位は、高度に保存される。(Thali,M.ら、「Functional Association of Cyclophilin A with HIV-1 Virion」、J.of Nature、372(6504):363〜5(1994))CypA欠失ウイルスは標的細胞に付着することができないので、複製しない。CypAはウイルス膜上で露出し、HIV-1の付着を媒介する。ヘパリンは、CypAのための独占的な細胞結合パートナーである。CypAは、公知のヘパリン結合モチーフに類似した塩基性残基が豊富なドメインを通して、直接ヘパリンと結合する。露出したCypAおよび細胞表面ヘパリンの間のこの相互作用はHIV-1付着の最初の段階を表し、CD4へ結合するgp120に必要な前駆体である。結論として、標的細胞へのHIV-1付着は、最初のCypA-ヘパリン相互作用とその後のgp120-CD4相互作用を必要とする、多段階過程である。(Saphire、1999)
【0014】
CypAはHIV-1gagの高次構造を調節するとも思われている。(Brighton,D.ら、「Cyclophilin A Regulates HIV-1 Infectivity as Demonstrated by Gene Targeting in Human T Cells」、Emba J.、Vol 20、#6(January 18 、2001))CypAが欠けているHIV-1ビリオンは、ウイルスライフサイクルの初期に欠陥を生じる。HIV-1複製の動態は、CypA発現量によって調整されるようである。(Brighton、2001)シクロフィリンAは、HIV-1感染性のために必要なHIV-1キャプシドタンパク質に結合する。
【0015】
したがって、HIV-1疾患では、CypAタンパク質は2つの機能を有する:(1)HIV-1gagの高次構造の調節、および(2)ヘパリンとの結合によりgp120とCD4受容体およびT細胞との相互作用を開始すること。
【0016】
ウイルスのエンベロープスパイクに対する中和抗体の生産を誘発しようとして、大部分のHIVワクチンはエンベロープ糖タンパク質(gp160、gp120およびgp41)の一部を使用する。(Johnstonら、2001)高力価の中和抗体の生成に成功した例もある。この方法の背後にある考えは、これらの糖タンパク質と結合する抗体はウイルスを中和して感染を予防するということである。機能している免疫系は次に補体系を作動させ、これは溶解をもたらしてウイルスを破壊する。補体系は、抗体の役割を「補う」一連の循環タンパク質である。補体系の成分は順番にまたは入れ替わり活性化される、補体カスケードである。補体の終結はタンパク質複合体である膜侵襲複合体(MAC)であり、侵入生物の表面に付着して、その細胞膜に穴をあけることによってそれを破壊しようとする。
【0017】
免疫反応
したがって、HIVの一次作用はCD4 T細胞を減少させることであり、それは全体的な免疫活性を低下させる。上記のように、HIV感染はCD4 T細胞を中心に起こるが、B細胞、血小板、内皮細胞、上皮細胞、マクロファージ、その他にも感染する。CD4 T細胞が減少するに従って、B細胞反応は調節されなくなる。無効な抗体によるグロブリン過剰血症が、HIV進行の特徴である。さらに、細胞傷害性CD8 T細胞は無効にされ、ウイルス感染を認識して攻撃することができなくなる。これは、感染したCD4細胞で製造されたtatタンパク質による非感染CD8細胞のトランスフェクションが、原因の一部である。
【0018】
CD4 Tヘルパー(Th)細胞はサイトカインを産生し、Th1細胞またはTh2細胞に分類される。Th1細胞は細胞媒介性免疫を進める一方、Th2細胞は体液性免疫を誘導する。サイトカインは、免疫性反応を調節する化学伝達物質またはタンパク質誘引物質である。HIV疾患におけるCD4+ヘルパー細胞の減少は、ある種のサイトカインの合成の減少および他の合成の強化をもたらす。サイトカイン脱調節は、ナチュラルキラー細胞およびマクロファージの活性を低下させる。さらに、インターロイキン2の損失は、成熟T細胞のクローン展開および活性化を遅くする。
【0019】
異なるウイルスの形質は、細胞媒介性および体液性反応を増大または減少させる。一部の系統および進行の段階において、HIVは過敏性であるが無効なTh2反応を伴うTh1反応の欠陥として特徴づけられる。Th1およびTh2免疫反応の間の均衡は、1つにはHIV系統に、また1つには患者の遺伝的環境に依存するようである。例えば、長期非進行者は、HIV疾患に対する有効なTh1反応を装備している。(Pantaleo、1995)
【0020】
均衡のとれた免疫反応の生成および特定のウイルスによって抑制される種類の免疫反応の強化および補強に向けられる免疫原性化合物は、価値があろう。(Hogan、2001)
【0021】
細胞反応
HIVは、経時的に維持されずに最終的には感染の制御に失敗する、当初は強い細胞免疫反応を作動させるようである。(McMichael、2001)
【0022】
CD8細胞傷害性T細胞(Tc)は、表面のMHC(主要組織適合遺伝子複合体)クラス1分子により外来性抗原を提示している細胞を認識して、それを攻撃する。CD4ヘルパー細胞(Th)は、ウイルス性微生物を殺すために摂取したマクロファージを刺激する。CD4細胞によって産生されるサイトカインまたはインターロイキンは、一部、病原体に対する免疫性反応が主にTH1またはTH2によって促進されるかを決定する。一部の感染では、CD4細胞は、B細胞選択性のインターロイキン-4およびインターロイキン-5を産生する。B細胞は、MHCクラスII分子と複合体を形成する抗原を提示する。他の感染においては、CD4細胞は細胞傷害性T細胞選択性のIL-2を産生する。抗原を認識する機能のこの分割または制限は、時々MHC拘束と称される。MHCクラスIは通常、内因的に合成されたウイルスタンパク質などの抗原を提示するが、MHCクラスIIは一般に抗原提示細胞によって貪食された細胞外の微生物または抗原、例えば細菌またはウイルスのタンパク質を提示する。抗原提示細胞は、次に表面でその抗原をMHCIIタンパク質と結合させる。CD4細胞はそのT細胞受容体を通してこの抗原と相互作用し、活性化される。このことは、不活化ワクチンのTc細胞傷害反応を生じる効力の喪失に寄与する。(Levinson、2002)
【0023】
上記したように、T細胞は細胞反応を媒介する。抗原提示細胞はMHC分子(またはヒト白血球抗原-HLA)と共に、HIV抗原(またはエピトープ)のペプチド部分をそれぞれのT細胞へ提示し、T細胞反応を引き起こす。T細胞に提示されるエピトープの型は、HLA分子(例えばHLA A、B、C、DR、DQ、DP)およびペプチド内のアミノ酸の型によって決まる。HLA分子または変異体エピトープにおける遺伝的限界は、エピトープエスケープおよびHIV残存をもたらす可能性がある。(McMichael、2001)上記したように、Th細胞は一般的(すなわちTh1およびTh2)免疫反応のためにサイトカインを産生するが、HIVの場合、これはTh細胞の感染によって抑圧されている。HIV抗原に反応するHIV特異Th細胞は、結局感染し、破壊されるか抑圧される。このことは、細胞傷害性T細胞に対する二次的影響をもたらす。細胞傷害性T細胞は、MHCクラスI分子に結合している感染細胞上の外来抗原を認識して攻撃した後に、様々な抗ウイルス活性(例えばパーフォリン、グランザイム、FasLおよびサイトカインの生産)を示す。HIVは感染細胞内のHLAクラスI分子の発現を減らし、感染したTh細胞を認識して攻撃する細胞傷害性T細胞の能力を低くすることができる。さらに、Th細胞の感染および消耗は、成熟して変異体ビリオンに対処する細胞傷害性T細胞の能力を崩壊させる。(McMichael、2001)一般的に、ウイルス性感染症において、細胞傷害性T細胞はウイルスを排除するか抑制する。しかし、HIVは免疫細胞に感染して、Th細胞および細胞傷害性T細胞の反応を弱めることによって細胞免疫反応に対抗する。
【0024】
したがって、Th1活性を刺激する免疫原性化合物は、HIVに対する好ましい免疫反応を促進するであろう。
【0025】
体液性反応
免疫系の液性部門は、刺激により抗体を産生する形質細胞に分化するB細胞からなる。最初に出現する抗体はIgMであり、次に血中のIgGまたは分泌組織中のIgAである。これらの抗体の主要機能は、感染症およびそれらの毒素から保護することである。抗体はウイルスおよび毒素を中和するだけでなく、微生物をオプソニン化する。オプソニン作用は、抗体が、ウイルスまたは細菌が食細胞によってより簡単に摂取され、破壊されるようにする過程である。食細胞としては、多形核好中球(PMN)および組織マクロファージがある。PMNは、非感染性患者の血液で白血球の約60%を構成する。PMNおよび組織マクロファージの数は、ある種の感染障害により増減する可能性がある。例えば、腸チフスは白血球数の減少を特徴とする(すなわち白血球減少症)。PMNおよびマクロファージの両方とも、細菌およびウイルスを貪食により消費する。PMNはヘルパーT細胞に抗原を提示しないが、マクロファージおよび樹状細胞はする。
【0026】
食作用は、(1)マイグレーション、(2)摂取および(3)殺滅を含む。感染領域の組織細胞は、ケモカインとして知られている小さなポリペプチドを生産する。ケモカインは、PMNおよびマクロファージを感染部位に引き寄せる。その後、細菌は細菌周囲のPMN細胞膜の陥入によって摂取され、液胞またはファゴソームが形成される。この貪食またはオプソニン作用は、細菌の表面へのIgG抗体(オプソニン)の結合によって強化される。補体系のC3b成分は、オプソニン作用を強化する。(Hoffman.R.、Hematology Basic Principles and Practice、Ch.37(3rd ed.、2000))PMNおよびマクロファージの細胞膜は、C3bおよびIgGのFc部分のための受容体を有する。
【0027】
貪食では、呼吸バーストとして知られている代謝経路が誘導される。その結果、2つの殺菌性作用物質、スーパーオキシドラジカルおよび過酸化水素がファゴソーム内で生産される。しばしば活性酸素中間体と呼ばれているこれらの非常に反応性の化合物は、以下の化学反応によって合成される。
O2+e-→O2-
2O2-+2H+→H2O2(過酸化水素)+O2
【0028】
第1の反応は分子酸素を還元して、弱い殺菌剤であるスーパーオキシドラジカルを形成する。第2の反応はファゴソーム中の酵素スーパーオキシドジスムターゼによって触媒され、過酸化水素を生産する。一般に、過酸化水素はスーパーオキシドラジカルよりも有効な殺菌物質である。呼吸バーストは他の殺菌剤である亜酸化窒素(NO)も生産する。NOは好中球およびマクロファージによって貪食されて摂取された、ウイルスおよび細菌の酸化的殺滅に加わるフリーラジカルを含む。ファゴソーム内のNO合成は、食作用の過程によって誘導される酵素、NO合成酵素によって触媒される。
【0029】
ファゴソーム内の生物の殺滅は、脱顆粒とそれに続く殺菌性作用物質で最も有効な次亜塩素酸塩イオンの生産からなる、2段階の過程である。2つの型の顆粒が、好中球またはマクロファージの細胞質の中で見られる。これらの顆粒は、ファゴソームと融合してファゴリソソームを形成する。顆粒の内容物は、次に空にされる。これらの顆粒は、殺滅および分解に必須の様々な酵素を含むリソソームである。大きさによって区別される2つの型のリソソーム顆粒が特定されている。全体の約15%を構成する大きい方のリソソーム顆粒は、ミエロペルオキシダーゼ、リゾチームおよび他の分解酵素を含むいくつかの酵素を含む。残りの85%はより小さな顆粒であり、それらはラクトフェリンおよび他の分解酵素、例えばプロテアーゼ、ヌクレアーゼおよびリパーゼを含む。微生物の実際の殺滅または破壊は様々なメカニズムによって起こり、これらは酸素依存性のものもあれば酸素非依存性のものもある。最も重要な酸素依存性メカニズムは、ミエロペルオキシダーゼによって触媒される次亜塩素酸塩イオンの生産である。
Cl-+H2O2→ClO+H2O
【0030】
抗体は軽(L)および重(H)ポリペプチド鎖から構成される糖タンパク質である。最も単純な抗体は「Y」形を示し、2つのH鎖および2つのL鎖の4つのポリペプチドからなる。ジスルフィド結合がこれら4つの鎖を結合する。個々の抗体分子は、同一のH鎖および同一のL鎖を有する。L鎖およびH鎖は、可変および定常の2つの領域に再分割される。これらの領域は、三次元的にフォールドされて繰り返されているセグメントまたはドメインを有する。L鎖は、1可変(V1)および1定常(C1)ドメインからなる。大部分のH鎖は、1可変(VH)および3定常(CH)ドメインからなる。可変部は、抗原(ウイルス、細菌または毒素)との結合を担う。定常部は、補体結合および細胞表面受容体への結合を含むいくつかの必要な生物学的機能をコードする。補体結合部位は、CH2ドメインに位置する。
【0031】
L鎖およびH鎖両方の可変部は、抗原結合部位を構成するアミノ末端部分に3つの非常に可変性の(または超可変性の)アミノ酸配列を有する。各超可変部の5〜10のアミノ酸だけがこの部位を形成する。抗原抗体結合には、静電力およびファンデルワールス力が含まれる。さらに、抗原および抗体の超可変部の間で水素結合および疎水結合が形成される。各抗体の特異性または「ユニークさ」は、超可変部に存在する。超可変部は、抗体の指紋である。
【0032】
各L鎖のアミノ末端部分は、抗原結合に関与する。カルボキシ末端の部分は、Fcフラグメントに寄与する。Fcフラグメント(抗原結合部位を残りの分子またはFcフラグメントから分離している抗体分子のヒンジ部のタンパク分解性切断によって生産される)は、定常部の生物学的活性、特に補体結合反応を発現する。H鎖は、5つの免疫グロブリンクラスのそれぞれで異なっている。IgG、IgA、IgM、IgEおよびIgDの重鎖は、それぞれγ、α、μ、εおよびδと称される。IgG免疫グロブリンクラスは、微生物をオプソニン化する。したがって、このクラスのIg(免疫グロブリン)は、食作用を強化する。(Hoffman,Ronaldら、Hematology Basic Principles & Practice、第36章と39章(第3版、2000))(Levinson,Warren、Medical Microbiology & Immunology、Ch.59 & 63(7th ed.、2002))IgGのγH鎖のための受容体は、PMNおよびマクロファージの表面で見られる。μH鎖のための受容体が貪食細胞表面に存在しないので、IgMは微生物を直接オプソニン化しない。しかしIgMは補体を作動させ、貪食細胞の表面にC3bのための結合部位が存在するので、C3bタンパク質はオプソニン化することができる。(Levinson、2002)IgGおよびIgMは、補体カスケードを開始することができる。実際、IgMの単一分子は、補体を活性化することができる。IgGによる補体の活性化は、2つの架橋IgG分子を必要とする(IgG1、IgG2またはIgG3サブクラス、IgG4は補体活性を有しない)。細菌内毒素などの様々な非免疫性の分子も、直接補体系を活性化することができる。
【0033】
補体系は、通常血清中にある約20のタンパク質からなる。用語「補体」は、これらのタンパク質がどのように免疫系の他の成分、例えば抗体および免疫グロブリンを補足または増加させるかを示す。補体カスケードは、3つの重要な免疫効果を有する。(1)微生物の溶解;(2)炎症に関与してPMNを引き寄せる媒介者の生成、および(3)オプソニン作用。
【0034】
補体カスケードは、3つの経路の1つを通して起こる。(1)古典経路、(2)レクチン経路、および(3)第2経路。(Prodinger,Wm.ら、Fundamental Immunology、Ch.29(1998))これらの経路は、図1で図示する。破線は、矢印の先端の分子のタンパク分解性切断が起こったことを示す。複合体の上の線は、それが酵素的に活性であることを示す。C2の大きな断片は慣例上、時々C2aまたはC2bと互換的に呼ばれるが、ここでは小断片は「a」と、すべての大きな断片は「b」と命名される。それ故に、C3コンバターゼはC4b,2bである。マンノース結合レクチンと関連するプロテアーゼはC2と同様にC4も切断する点に注意する。これらの経路のそれぞれは、膜侵襲複合体(MAC)の生成をもたらす。
【0035】
ウイルスまたは細菌の特定の成分と結合した抗体では、MACは微生物の保護カバーに穴をあけて血漿および電解質が微生物に入れるようにすることが可能であり、また同時に、微生物の内部構造成分の排出手段を提供する。
【0036】
古典的な経路では、抗原抗体複合体は、C2およびC4を切断してC4b,2b複合体を形成するプロテアーゼを形成するように、C1を活性化する。C1は、3つのタンパク質、C1q、C1rおよびC1sから構成される。C1qは、IgGおよびIgMのFc部分と結合する18のポリペプチドから構成される。Fcは多価で、いくつかの免疫グロブリン分子を架橋させることができる。C1sは切断されて活性プロテアーゼを形成するプロ酵素である。カルシウムは、C1の活性化のコファクターとして必要である。さらに、C1の活性化は、IgGおよび/またはIgMのFcドメインの複数箇所への、C1qの少なくとも2つの球状ヘッドの結合を必要とする。複数のFc免疫グロブリンの結合によりC1qで誘導された変化はC1rsサブユニットに伝達され、その結果C1r二量体のタンパク分解性自己活性化をもたらし、これは次にC1sをタンパク分解的に活性化または切断する。上で見られるように、活性化されたC1sはC4およびC2のタンパク分解性スプライシングのための触媒部位を有する。酵素複合体C4b,2bが生産される。これはC3コンバターゼとして機能し、これはC3分子を2つの断片C3aおよびC3bに切断する。C3bはC4bおよびC2bと複合体を形成して、C5コンバターゼである新しい酵素(C4b,2b,3b)を生産する。
【0037】
レクチン経路では、マンナン結合レクチン(MBLまたはマンノース結合タンパク質)は、マンナンを発現している微生物表面と結合する。MBPはC1qのそれと類似した構造を有し食作用を強化するC1q受容体と結合する、血漿中のC型レクチンである。マンノースは、様々な微生物の表面で見られるアルドヘキソースである。レクチン経路の第1の成分は、マンノース(またはマンナン)結合タンパク質(MBP)と称される。C末端の糖認識ドメインはN-アセチルグルコサミンへの親和性を有し、MBPがマンノースの豊富な表面被覆を発現している微生物を直接オプソニン化する能力を賦与する。血液内で、MBPはC1r様プロ酵素およびC1s様プロ酵素(それぞれMBP関連セリンプロテアーゼまたはMASP-1およびMASP-2と称される)との安定複合体として循環する。MBP-MASP-1、MASP-2複合体は、適当な糖表面と結合する。この結果、MASP-1を活性セリンプロテアーゼに変換する内部ペプチド切断によるMASP-1の自己活性化をもたらす、MBPタンパク質の高次構造変化が起こる。C1rと同様に、活性MASP-1はそれを活性化するMASP-2を切断する。活性MASP-2は、C4およびC2をタンパク分解的に活性化してC4b,2b(C3コンバターゼ)酵素複合体の集合を開始する能力を示す。古典経路と同様に、これはC5コンバターゼの生産をもたらす。
【0038】
第2経路では、多くの無関係な細胞表面構造、例えば細菌性リポ多糖(エンドトキシン)、糸状菌細胞壁およびウイルスエンベロープは、C3(H20)およびB因子に結合することによってその過程を開始することができる。この複合体はプロテアーゼ、D因子によって切断されてC3b,Bbを生産し、これはより多くのC3bを生成するC3コンバターゼとして作用する。古典経路の逐次的な酵素カスケードと対照的に、第2経路は正のフィードバックを使用する。主要な活性化産物C3bは、C3b,Bbのためのコファクターとして作用し、これはそれ自身の生産も担う。したがって、第2経路は爆発的なC3活性化のために連続的に刺激される。C3活性化速度は、C3b,Bb酵素複合体の安定性によって支配される。D因子によるB因子のタンパク質分解からは、小断片(Ba)および大断片(Bb)が生じる。大きな方のBb断片は、C3(H20)またはC3bと結合する。Bbの触媒部位を通して、複合体C3(H20),BbはC3をC3aおよびC3bにタンパク分解的に変換することができる。このメカニズムで生成される発生期のC3bは、更なるB因子との結合が可能である。したがって、補体活性化第2経路は、C3bの生産を強化する少なくとも2つの正のフィードバックループを有する。図1で示すように、この経路はC5コンバターゼの生産ももたらす。
【0039】
各経路では、C5コンバターゼ(C4b,2b,3bまたはC3b,Bb,C3b)がC5をC5aおよびC5bに切断する。C5bはC6およびC7と結合してC8およびC9と相互作用する複合体を形成し、MAC(C5b,6,7,8,9)を最終的に生産する。(Hoffman、2000)
【0040】
どの補体経路が活性化されるかに関係なく、C3b複合体は補体カスケードの中心的分子である。免疫学的に、C3bは3つの役割を果たす。
1.他の補体成分と逐次的に結合してMAC(C5b,6,7,8,9)の生産をもたらす酵素C5コンバターゼを生成する
2.微生物のオプソニン化。貪食細胞はその細胞表面にC3bの受容体を有する。
3.抗体産生を大きく強化する、活性化されたB細胞表面のその受容体への結合。(Parham,Peter、The Immune System、Ch.7(2nd ed.、2004))
体液性反応は、HIVによる搾取の格好の対象であるこの系のある種の調節因子、例えば補体因子Hを含む。補体カスケードの活性を制限する能力を有するいかなる微生物も、理論的には免疫系の液性部門から身を守ることができるであろう。(Stoiber,Herbert、「Role of Complement in the control of HIV dynamics and pathogenis」、Vaccine 21:S2/77-S2/82(2003))したがって、補体カスケードは液性部門のアキレス腱である。
【0041】
体液性反応とのHIV相互作用
レトロウイルスは、抗体が存在しない場合も、補体系を活性化することができる。(Haurum,J.、AIDS、7(10)、1307〜13(1993))HIVエンベロープ糖タンパク質による補体活性化は、ウイルス感染細胞内で生産された自然のエンベロープタンパク上、ならびにグリコシル化組換えエンベロープタンパク上の糖へのMBPの結合によって媒介されることがわかった。(Haurum,John、AIDS、第7巻(10)、1307〜13頁(1993))(Speth,C.、Immunology Reviews、157、49〜67(1997))レトロウイルスエンベロープによる古典的補体経路およびレクチン経路の活性化は、エンベロープ糖タンパク質の炭化水素側鎖へのMBPの結合によって開始される。HIV-1、gp41の膜貫通タンパク質は、gp120と非共有結合的に結合することが示された。補体成分C1qも、gp41と結合する。gp41の細胞外部(外部ドメイン)で、3つの部位(aa 526〜538;aa 601〜613およびaa 625〜655)はgp120およびC1qの両方を結合する。したがって、C1qおよびgp120は、共に構造的かつ機能的に相同である。gp41およびC1qの間の相互作用はカルシウム依存性であり、カルシウム非依存性であるgp41およびgp120の結合と異なる。
【0042】
HIVは、HIVによる補体受容体陽性細胞の感染をもたらす抗体非依存的方法で、古典経路およびレクチン経路を作動させる。gp41へのC1qの結合は、異なる方法で感染を助長することができる。C1qは、HIV-1にも感染しているHIV感染細胞と直接結合する。C1qは、コレクチン受容体としても知られるC1q受容体と結合するその能力を保持する。さらに、gp41はマクロファージの原形質膜上に固定されたC1qと直接的に相互作用する。両方の場合とも、HIVは細胞とのC1q媒介性CD4非依存性接触の機会を有する。
【0043】
gp120およびC1qの相同性は、gp120が直接C1q受容体と相互作用し、それによってCD4非依存的にHIVがマクロファージに入るのを促進することができる可能性を提起する。(Stoiber,Heribert、European Journal of Immunology、24、294〜300(1994))gp120に対する抗体はC1qと交差反応することができるので、少なくとも一部はHIV-1患者でC1q濃度がかなり低いことの原因となる可能性がある。C1qは不溶免疫複合体の一掃の原因の1つであり、それが存在しないことはHIV感染者で見られるかなり高い濃度の不溶免疫複合体に寄与しているかもしれない。(Procaccia,S.、AIDS、5、1441(1991))HIV疾患の特徴である低補体血症は、HIV関連の日和見感染症およびウイルス関連の悪性疾患と相関している。
【0044】
補体活性の調節因子は、原形質膜と結合しているのが見られる。他は、ヒト血漿およびリンパ液内を自由に循環する。補体活性の多くの調節因子(RCA)の特徴が明らかにされているが、3本の経路のすべての実質的にあらゆる段階は正および負の調節を受ける。3つの酵素複合体(C3コンバターゼ、C5コンバターゼ、MAC複合体)は補体カスケードの焦点であり、複数の阻害因子または触媒の影響を受ける。
【0045】
補体活性化経路を制御するいくつかのタンパク質は可溶性分子として血漿中を循環し、液相でC3活性化を制御するか、細胞表面のMACの形成を妨げることができる。H因子および低分子のH因子様タンパク質などの補体調節因子は、この機能を媒介することが示された。H因子はgp120と相互作用して、シンシチウム形成およびエンベロープ糖タンパク質(env)複合体の可溶性CD4(sCD4)誘発性解離を促進する。H因子はCD4との結合後活性化されたgp120だけと結合するが、このことは結合部位がenv複合体の中に隠され、gp120とCD4との相互作用の後にだけ露出することを示唆している。(Pinter,C.、AIDS Research in Human Retroviruses、11、(1995))gp120分子は、ヘルパーT細胞上のCD4受容体と結合する。ウイルスは、次にT細胞と融合する。融合ドメインは、gp41の上に位置する。融合後、gp120断片は脱落する。gp41外部ドメインは、gp120の脱落後、露出する。gp41上のC1qおよびH因子の結合部位が露出する。
【0046】
HIVは、特異抗体がない場合でもヒト補体系を活性化する。(Stoiber,H、J.Ann.Rev.Immunology、15、649〜674(1997))この結果、補体が妨害されないならば、ウイルスの不活化が起こるであろう。妨害されなければ、補体過程により膜侵襲複合体(MAC)が生成し、ウイルス溶解現象が起こる。しかし、HIVは、その構造に補体を調節する様々な宿主分子(例えばDAF/CD55)を取り込むことによって、ウイルス溶解を回避する。HIVは感染細胞からの出芽時に、またはgp41およびgp120構造への付着によって、これらの分子をウイルス膜に取り入れる。(Stoiber,H、J.Ann.Rev.Immunology、15、649〜674(1997))補体成分とのこの相互作用は、HIVが感染性、小胞局在化を強化して、その標的細胞範囲を広げるために補体成分を利用することを可能にする。同時に、HIVは液性部門に対して防御する。
【0047】
H因子およびCR1などのタンパク質は、C3コンバターゼに対してコファクターおよび崩壊促進活性を有する。(Stoiber,H、J.Ann.Rev.Immunology、15、649〜674(1997))C3b完全性は、補体カスケードが細胞溶解に達するために必須である。C3bは、適当な補体受容体との相互作用の後、セリンプロテアーゼ(補体因子1-CF1)によって急速に切断される。この反応を媒介するタンパク質は、CF1のためのコファクター活性を有する。一部のタンパク質は、C3bおよびC5bを生成する酵素(コンバターゼ)の集合を妨げることによりかつ/またはそれらの解離を促進することにより、補体活性化を下方調節する。この活性は崩壊促進と呼ばれ、CD55(DAF)タンパク質分子の特徴である。
【0048】
H因子が不足している血清はHIVおよび感染細胞を溶解するが、非感染細胞は溶解しない。(Stoiber,H.、J.Exp.Med.、183:307〜310(1996))H因子の存在下では、H因子の結合がgp41内のH因子結合部位に対するモノクローナル抗体によって阻止されたときに、HIVの溶解が起こることが示された。しかし、現在まで、HIVおよびH因子とヒト補体との関係についてのこの増大する知識をどのように実行に移すかについては示されていない。
【0049】
関連技術
懸命な努力にもかかわらず、HIV用の治療ワクチンはない。HIVライフサイクルの様々な段階が、発明者によって対象とされてきた。現在まで、免疫抑制性レトロウイルスHIV-1に対して有効な免疫反応を促進する組成物は見つけられていない。ウイルスのエンベロープスパイクに対する中和抗体の生産を誘発しようとして、大部分のHIVワクチンはウイルスの表面糖タンパク質のエンベロープ(gp160、gp120およびgp41)の一部を使用する。(Johnstonら、2001)高力価の中和抗体の生成に成功した例もある。この方法の背後にある考えは、これらの糖タンパク質と結合する抗体はウイルスを中和して感染を予防するということである。機能している免疫系は次に補体系を作動させ、これは溶解をもたらしてウイルスを破壊する。しかし、上述の体液性反応の障害は、これらのワクチンの効果を制限する。いくつかの薬剤または組成物(AZT、ddl、ddC、d4Tおよび3TC)は、逆転写を妨げる。これらの2',3'-ジデオキシヌクレオシド類似体はある種の系統に対して有効であるが、HIVのゲノム易変性に対して弱い。(Deeks,Steven、The Medical Management of Aids、Ch.6(6th ed.、1999))これらの医薬品は、毒性、コスト、複雑な治療計画、薬剤間相互作用ならびに薬剤耐性の問題にも直面する。
【0050】
HIVライフサイクルの他の態様に干渉することはあまり一般的ではない。一部の研究開発では、CypA阻害剤に注目する。例えばBukrinskyらへの米国特許第5,840,305号は、CypAのそのヒト細胞結合部位への結合を妨害することを目的とするHIVの治療法を開示する。この発明は、宿主細胞へのCypAの結合を妨害するための外来性のシクロフィリン、シクロスポリン、シクロフィリン抗体、その他の投与を含む。しかし、HIVビリオン上のCypA結合部位を標的とし、細胞性免疫および液性免疫の反応の個々の要素を刺激する免疫原性組成物および方法の必要性が依然としてある。
【特許文献1】米国仮出願第60/513827号
【非特許文献1】Weissenhorn、Nature、387、426〜430(1997)
【非特許文献2】Sun、2002
【非特許文献3】Stoiber,H.、J.Exp.Med.、183:307〜310(1996)
【非特許文献4】Stoiber,H、J.Ann.Rev.Immunology、15、649〜674(1997)
【非特許文献5】Haurum,J.、AIDS、7(10)、1307〜13(1993)
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【非特許文献8】Sherry,Barbaraら、Proc.Natl.Acad.Sci.95、1758〜1763(1998)
【非特許文献9】Braaten,D.ら、J Virol.70:3551〜3560(1996)
【非特許文献10】Saphire,Andrew、The EMBO Journal、18、#23、6771〜6785(1999)
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【非特許文献13】Brighton,D.ら、「Cyclophilin A Regulates HIV-1 Infectivity as Demonstrated by Gene Targeting in Human T Cells」、Emba J.、Vol 20、#6(January 18 、2001)
【非特許文献14】Johnstonら、2001
【非特許文献15】Pantaleo、1995
【非特許文献16】Hogan、2001
【非特許文献17】McMichael、2001
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【特許文献2】米国特許第5840305号
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【非特許文献65】Fishelson,Z.ら、J.of Immun.、Vol.129、pp2603〜2607(1982)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0051】
先に述べたように、HIV感染はシクロフィリンに依存する。宿主CypAはHIVと6キャプシド残基87 His-Ala-Gly-Pro-Ile-Ala 92(HAGPIA、HVGPIAまたはHMGPIA)で結合する。結合したCypAは、次に宿主細胞上の結合部位へのHIV結合に関与する。補体調節因子を攻撃するかまたはそれと結合することによって免疫反応を阻害することに加えて、HIVはしたがってマクロファージなどの細胞と結合し、攻撃することができる。したがって、本発明はキャプシドタンパク質上のCypA結合部位に基づく免疫原性組成物、およびそれを調製し使用する方法である。本発明は、3つのカテゴリーの実施形態を企図する。すなわち、タンパク質またはタンパク質断片、メッセンジャーRNAまたはDNA/RNA。DNA/RNA組成物は、むきだしでも組換えでもよい。本発明は、さらに様々な免疫刺激剤との使用を企図する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
A.序論
本発明はHIVのキャプシドタンパク質上のサブユニットCypAエピトープまたは結合部位に基づく免疫原性組成物である。上記したように、この部位はキャプシド配列87 His-Ala-Gly-Pro-Ile-Ala 92にある。CypAは宿主誘導性であり突然変異誘発性ではないので、HIV上の対応する結合部位もいくぶん不変でなければならない。(Sherry,Barbaraら、Proc.Natl.Acad.Sci.、95、1758〜1763(1998))ala 88残基がより大きな残基のValまたはMetで置換されている、いくつかのHIV系統が単離された。宿主CypAと結合するこれら2つの突然変異の可能性の結晶構造は、最小限の三次元変化を示す。(Vajdon,Felix、「Crystal structure of cyclophilin A complexed with a binding site peptide from the HIV-1 capsid protein」、Protein Science 6(11)、2297〜2307(1997))有効な宿主免疫反応は、通常ウイルスのカプセルまたは封入構造の保存領域を対象とする。成熟および未熟な形のHAGPIAペプチド(またはHVGPIAまたはHMGPIAペプチド)を使用することができる。さらに、コードする遺伝子配列も、組換え型の細菌またはウイルスの実施形態を生産するために使用することができる。HIV-2およびSIVはCypAをパックしていないので、このような他のレンチウイルスは本発明で企図されていない。
【0053】
上述の免疫機能に加えて、他の機能は抗原の「記憶」の形成である。同じ抗原への後の曝露は、次により有効な初期応答を刺激するかもしれない。この記憶は、抗原特異リンパ球によって形成される。したがって、記憶リンパ球は他の細胞および因子と共に、末梢組織での即時保護を提供し、第2リンパ器官での記憶反応を開始する。活性化されるとリンパ球は増殖し、免疫反応の一部として抗原特異リンパ球のクローン集団が拡大する。新しい抗原特異リンパ球は、後の曝露の場合に反応で利用できるエフェクター細胞か記憶細胞である。免疫記憶は、ワクチンとしての免疫原性組成物の使用を可能にする。
【0054】
先述したように、CypAはHIV-1が新しい細胞に感染するために必須の宿主細胞タンパク質である。しかし、ウイルスタンパク質と異なり、宿主細胞タンパク質は突然変異することができない。(Cummings,Melissaら、PR NewsWire(1996))CypAは突然変異することができないので、CypAのためのウイルス受容体は結合を阻止するような方法で突然変異することができない。この概念を裏付けるように、プロリン1つの阻害によりin vitroでのgag-シクロフィリン相互作用が阻止され、ビリオンのCypA取り込みが妨害され、HIV-1の複製が妨げられることが明らかにされた。したがってシクロフィリンAが結合して取り込むためには、HIV-1gagポリタンパク質で保存されるプロリンの豊富な領域が必要であり、またこの領域の変異に対してビリオンは耐容性ではない。gag-シクロフィリン相互作用は、感染性ビリオンの形成のために必要である。(Franke,E.K.ら、Nature、372(6504):319〜20(Nov.24、1994))
【0055】
感染ビリオンの領域がより保存されているほど、そのアミノ酸配列はサブユニットワクチンの生成および生産のためにより適当である。HIVによるシクロフィリンA受容体の変異は、感染性および病原性の欠如をもたらし、したがってCypA結合部位はサブユニットワクチンまたは組換えワクチンのために使用することができた。ビリオンシクロフィリンA受容体およびシクロフィリンA分子は、鍵と錠に例えられる。鍵は宿主細胞シクロフィリンA分子であり、錠はビリオン粒子上のCypAのための受容体である。1つの鍵だけが特定の錠に合う。
【0056】
15の公知のヒトシクロフィリン中では、CypAだけがHIV-1ビリオンで検出された。(Brighton、2001)シクロフィリンは、当初、同種異系移植片拒絶反応を予防するために使用された免疫抑制薬である薬剤、シクロスポリンとの高親和性のために発見された。この薬剤の臨床効果は、シクロフィリン機能の抑制から生じるとは考えられていない。その代わりに、シクロフィリン-シクロスポリン複合体が、刺激されたT細胞内のIL-IIを含む多くのサイトカイン遺伝子の転写活性化のために必要なカルシウム依存性のセリン-トレオニンホスファターゼである、細胞質のカルシニューリンと結合して阻止するときに免疫抑制は起こる。シクロフィリンは、シクロスポリンおよびHIV-1gagのための結合部位の役目を果たす疎水ポケットと8本鎖のバレルを形成する約150のアミノ酸の保存配列によって規定される。CypAのような一部のシクロフィリンは、このコア領域だけからなる。その他の場合、シクロフィリン領域は、より複雑なタンパク質の中に包埋される。シクロフィリン領域を含んでいるタンパク質はタンパク質分泌、ミトコンドリアの機能、RNAプロセシングおよび転写調節を含むいくつかの細胞過程に関係していることが示されているが、コアシクロフィリン領域の細胞内の正確な生化学機能はまだ知られていない。1つの機能はおそらく適当なタンパク質立体配座のメンテナンスであり、その理由はシクロフィリンが、in vitroでモデルタンパク質のリフォールディング速度を促進することが示された活性であるプロリンN末端のペプチド結合のシス-トランス相互転換を触媒するからである。したがってCypAはHIV-1gagの高次構造を調節すると思われている。(Brighton、2001)
【0057】
一見したところ、HIV-1疾患のCypA受容体を使用したサブユニット組換えワクチンでは、自己免疫反応が起こるかどうかに関して疑問が起こる。しかし、下記いくつかの理由により、これはあり得ないことではないが可能性は低い。
1.免疫反応は、CypAタンパク質自体のいかなる成分でもなく、CypAのためのHIV-1ウイルス受容体に向けられる。
2.HIV-1 gagと同じCypA部位の受容体と結合する免疫抑制薬シクロスポリンは、自己免疫疾患をもたらさないことが示された。
3.CypAは、ヒトT細胞の生存または増殖のために必須でない。おそらく他のシクロフィリンファミリーメンバーまたはペプチジル-プロリルイソメラーゼ活性を示す他のタンパク質ファミリーによる機能的冗長性のために、CypAはタンパク質フォールディング細胞にとって一般的に重要ではないようである。
4.CypAは、約150のアミノ酸から構成されるタンパク質である。キャプシド配列(87 His-Ala-Gly-Pro-Ile-Al2 92)の6つのアミノ酸だけが、主なCypA結合部位を含む。HIV-1ビリオンのための結合部位が、タンパク質アンフォールディングにおいて宿主細胞によって用いられるのと同じ結合部位である可能性は低いようである。(Brighton、2001)
【0058】
したがって、努力の一部はCypA機能の阻止に向けられたが、本発明はCypA結合部位に向けられる。したがって本発明の目的は、HAGPIAペプチドへの反応を含む均衡のとれた免疫反応である。
【0059】
B.サブユニット組成物
本サブユニットイムノゲンは、免疫反応および免疫記憶を引き起こすために、ペプチドまたはその部分、あるいはタンパク質またはタンパク質セグメントをコードする遺伝子配列を含む。本発明では、所望の免疫反応はHIVキャプシドタンパク質上のHAGPIAペプチド(またはHVGPIAまたはHMGPIAペプチド)、あるいはその部分、例えばコードする遺伝子に向けられる。重要なことは、組成物は正しく免疫系に提示されなければならない。核酸、ペプチドおよびタンパク質の単離および使用は、当業者には周知であり、また本明細書でも記載されている。
【0060】
サブユニット組成物の利点の1つは、治療用途において感染性が欠如していることである。したがってHIVと同様に、サブユニット組成物はウイルスの病原性が極めて強烈なときに役立つ。HIVなど一部のウイルスには高度の変異が起こり、したがってワクチンまたは治療で使用される弱毒系統はより病原性の強い系統に自然復帰する可能性がある。したがって、HIVでは、生きているウイルスベクターの使用は危険である。また、ウイルスがうまく培養できないときにも、サブユニット組成物またはワクチンを使用することができる。サブユニット組成物は、速く、比較的安価に生産することができる。
【0061】
例えば、クローニングされた遺伝子の酵母細胞での発現によって得られるB型肝炎ウイルス表面抗原を使用しているサブユニットワクチンが、今日利用できる。このワクチンは台湾で成功のうちに使用され、幼児における原発性肝癌の発生率を減らしたようである。(Wagner、1999)
【0062】
タンパク質の直接投与は、生ウイルスワクチンがそうするのと同じ様には細胞媒介性反応を誘発しない。サブユニットワクチンの他の利点としては潜在的感染性の欠如があり、その感染性は弱毒系統の場合は穏やかで、強毒株の場合は激しい。さらに、本発明は免疫刺激剤および他の免疫原性組成物との併用を企図する。
【0063】
B細胞および抗体反応の強い刺激は、感染直後の主要なHIVタンパク質すべてで明白である。(Goudsmit、1988)未知の理由のために、これは保護的または効果的な中和抗体の生産をもたらさない。それどころか、これらの抗体はCD4リンパ球以外の細胞によるHIVの取り込みを強化し、それによって、ウイルス表面の補体断片の付着のために、抗原提示細胞(APC)内のより効率的な局在化を促進することができる。(Stoiber、1997)促進抗体への中和抗体の転換において、濾胞樹状細胞は重要な役割を演ずることができる。これまで、ワクチン接種によって中和抗体を生成する努力は不成功であった。(Cohen,P.T.ら、The AIDS Knowledge Base、Ch 22(3rd ed.、1999))
【0064】
したがって、本発明の組成物は、好ましくはヒトを含む動物で免疫反応を誘発する方法を含む。この方法は、組成物の調製、および液性または細胞性免疫反応を開始することができる動物への投与を含む。免疫反応は、当技術分野で公知の一般的な測定法を使用して検出することができる。本発明は、研究用手段の開発および免疫反応の研究のために使用することができる。さらに、本発明はHIV感染者へ投与するためのワクチン、または感染はしていないが免疫反応が望まれる対象で免疫反応を起こすためのワクチンの開発を助ける。
【0065】
C.調製法
開発、調製および投与のための様々な方法が本発明によって企図される。そのような方法は、特定の系統への有効性および被験動物の反応に基づいて選択されることが予想される。図2で示すように、このサブユニット組成物は、調製目的についてタンパク質またはペプチドの単離、メッセンジャーRNAまたは核酸DNA/RNAの発現のように分類することができる。したがって、結合部位にはタンパク質またはそのタンパク質断片、およびその遺伝子発現または遺伝物質が含まれる。
【0066】
したがって、本発明は当業者が利用できる様々な方法の任意の1つまたは複数を使用して調製することができ、これらの方法としてはそれには限定されないが以下がある。
1.HIVのキャプシドタンパク質上のCypA結合部位の精製および単離。
2.HIVのキャプシドタンパク質上のCypA結合部位を発現するメッセンジャーRNAのクローニング。
3.大腸菌などの適当な細菌、または酵母、またはウイルス、またはCypA結合部位の裸のDNA/RNA内へのキャプシドタンパク質のCypA結合エピトープの組換えDNA/RNAクローニングおよび発現。(Aroeti、1993)抗原提示細胞は食作用によって外来性タンパク質を取り込み、イムノゲンおよび免疫反応の提示を導く。上のリストに関して、実施形態1はタンパク質断片に依存するが、実施形態2〜3は核酸および組換技術に依存する。実施形態2〜3は、核酸の合成的in vitro製造を含むこともできる。(Aroeti、1993)
【0067】
C.1.タンパク質をベースにした組成物
タンパク質のエピトープは、1つのウイルス粒子またはウイルスの培養物から単離することができる。単一粒子の場合、酵素的(タンパク分解性)分解を使用することができる。例えば、成熟タンパク質は、成熟ウイルス粒子を個々のタンパク質成分に分解および酵素消化することによって、ウイルス粒子から単離することができる。「精製」は、治療的使用が可能になるように、単にタンパク質が十分他の細胞サブユニットまたは混在物を含まないことを意味する。組成物は、完全に純粋である必要はない。タンパク質部分をウイルスの培養物から単離することもできる。ウイルス構造の各タンパク質は、ウイルスの複製のために必要な量を超えて生産される。したがって、個々のウイルスタンパク質は、様々な培地におけるそのタンパク質の特有のサイズ、形、溶解特性、静電位、密度および/または浮力および沈降率に基づいてウイルス分離株から単離および分離することができる。したがって、この手法は、免疫反応を導き出すための特定のタンパク質断片またはペプチドの使用を含む。
【0068】
C.2.核酸をベースにした組成物
一般に、核酸をベースにした組成物は、裸のDNA/RNA、組換えDNA/RNAまたはメッセンジャーRNAを含むことができる。裸のDNAに基づく組成物は、通常界面活性剤またはフェノールによる処理によってヒストン(小さなアンフォールドされた染色体タンパク質)またはタンパク質が取り除かれている結合部位をコードしているウイルス抗原のDNAを使用する。以下に詳細に議論されるように、組換えDNAは異なる生物からのDNA断片を再結合することによって作られる、遺伝子操作されたDNAである。両実施形態のDNA/RNAまたはmRNAは、当技術分野で公知の、本明細書で部分的に記載されている手法を使用して単離、精製および増幅することができる。
【0069】
さらに、また下記のように、mRNAをベースにした免疫原性組成物およびワクチンは、タンパク質をコードする裸のDNA/DNAまたはrDNA配列の使用の代替概念である。メッセンジャーRNAは2つ(DNAおよびタンパク質)の間の仲介者であって、細胞をトランスフェクションするために使用でき、宿主細胞内で翻訳されて当のウイルスタンパク質を生産することができる。
【0070】
C.2.1.DNAおよびRNAの単離
核酸の獲得は、3つの基本段階を必要とする。(1)プロセシングのために好まれる核酸を露出させるための細胞の溶解、(2)他の細胞成分からの核酸の分離、および(3)精製された形の核酸の回収。(Nichollss,Desmond、An Introduction to Genetic Engineering、Ch.3(2d ed.、2002))「精製」は、治療的使用が可能なように、単に核酸が十分他の細胞サブユニットまたは混在物を含まないことを意味する。
【0071】
核酸を回収するためにあり余る程の方式を使用することができる。多くは非常に単純であり、少数の段階だけを必要とする。いくつかの異なる段階を含んでいるさらに複雑な精製手法は、当業界で標準である。市販のキットは、様々な供与源からの核酸の容易な精製を可能にする。
【0072】
いずれの単離プロトコルの第1段階は、出発材料の崩壊である。細胞壁を開放するために使用される方法はできるだけ穏やかでなければならず、好ましくは細胞壁物質の酵素的分解および細胞膜の界面活性剤による溶解を利用する。より激しい細胞破壊方法が必要であるならば、大きなDNA分子を切断する危険があり、これにより以後のプロセシングでの代表的な組換え分子の生産が妨げられる可能性がある。
【0073】
細胞破壊の後、細胞タンパク質を除去する。フェノールまたはフェノール/クロロホルム混合物が、抽出手法でしばしば使用される。相を分離するために遠心分離すると、タンパク質分子はフェノール相に分配され、境界面に集積する。それらの固有の親水性のために、核酸の大部分は上部水性のスペースに残存し、イソプロパノールまたはエタノールを使用して溶液から沈殿させることができる。
【0074】
DNA調製が必要であるならば、調製でRNAを消化するために酵素リボヌクレアーゼ(RNA分解酵素)を使用することができる。mRNAがcDNA合成のために必要ならば、真核生物のmRNAのポリ(A)テールと結合するためにオリゴ(dT)-セルロースを使用して更なる精製を実施することができる。これによりmRNAが実質的に濃縮され、混入しているDNA、rRNAおよびtRNAの大部分の除去が可能になる。
【0075】
DNA、特にプラスミド(pDNA)を単離するために、密度勾配遠心分離が多用される。DNAを塩化セシウム(CsCl)溶液に溶解し、高速の超遠心分離器で分離する。時間(場合によっては48時間)の経過に伴い、密度勾配が形成される。pDNAは、遠心分離管内の1つの位置に、簡単な識別が可能なバンドまたはラインを形成する。このバンドは細胞混在物を含まず、取り出すことができる。透析を使用してCsClを除去すると、pDNAの純粋な調製物が得られる。サイズ排除クロマトグラフィーは、超遠心分離法に代わるものとして使用することができる。しかし、多くのプラスミドDNAが市販されている。(Nicholls、2002)
【0076】
好ましいDNA配列の増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって達成することができる。(Nicholls、2002)。単純さ、優雅さおよび高い特異性がPCRの特徴であり、PCRは伝統的なクローニング方法と入れ替わった。PCR過程において、DNA二重螺旋は加熱され、それによって二重螺旋は変性および巻き戻しされて、鎖は分離する。各一本鎖は、DNAポリメラーゼによって複製される。この過程は何度も繰り返され、結果として複製数は指数関数的に増加する。
【0077】
C.2.2.組換技術
組換えDNAを生産する際に使用される方法は概念的に単純であり、当技術分野で公知である。HIVキャプシドタンパク質の遺伝子は、大腸菌などの担体のDNAに組み入れることができる。推奨する担体のリストを図3で示す。図4で示すように、細菌の担体は、プラスミド、染色体の組込みまたは組合せによってリボソームDNAを含むことができる。図5で示すように、ウイルスの担体は、核酸の染色体組込み、ウイルス外皮へのドナーDNAによってコードされるタンパク質の挿入、または両者の組合せによって組換技術を支えることができる。担体が複製するとき、イムノゲンは宿主染色体に挿入されるならば増殖する。プラスミドDNAは、非複製細胞中でも複製することができる。制限酵素による遺伝子の切断または単離は、本明細書で記載されている通りであり、また公知である。
【0078】
rDNAの調製
電気泳動は、DNA断片の分離、同定、および精製を可能にする。マトリクスの多孔性は、得られる分離の程度を決定する。2つのゲル型、アガロースおよびポリアクリルアミドが当技術分野では一般的に使用されている。海藻から抽出されるアガロースは乾燥粉末として市販されており、これは適切な濃度でバッファー中に溶かされる。冷却によって、アガロースは硬化またはゲル化する。ポリアクリルアミドの孔の大きさはアガロースより小さいので、ポリアクリルアミドゲルを使用して小さな核酸分子を分離する。ポリアクリルアミドは、わずか1ヌクレオチド長さが異なるDNA分子を分離することができる。核酸サンプルをゲル中に置いてそれ全体に電位を印加することによって、電気泳動を行うことができる。DNAは負に帯電したリン酸基を含み、したがって正電極に移動する。マーカー色素、通常はブロモフェノールブルー(充填前にサンプルに加える)がゲルの端部に達するとき、電位を除去する。ゲル中の核酸は、挿入用色素臭化エチジウムで染色することによって目に見える状態にすることができ、UV光下で調べることができる(Nicholls、2002)。100,000もの多くの塩基対を含む大きなDNA断片は、パルスフィールドゲル電気泳動として知られる他の方法によって分離することができる。
【0079】
パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)およびシンプルゲル電気泳動によって、大きさに基づいてDNA断片を分離することが可能であり:断片が小さいほど、移動はより迅速になる。全体的な移動率および分離に関する大きさの最適範囲は、ゲルの化学的性質によって、およびゲルの架橋の程度によって決定される。充分に架橋したゲルは、小さなDNA断片の分離を最適化する。色素臭化エチジウムはDNAと結合すると、鮮やかに蛍光する付加生成物を形成する。少量の分離したDNA断片は、ゲル上で単離することができる。この色素はDNA塩基(挿入物質)間に結合し、紫外線で照らすとオレンジ色に蛍光する(Nicholls、2002)。特異的DNA断片の同定は、相補的配列を含むプローブによって実施することができる。
【0080】
すべての電気泳動の方法は、中性pHでの核酸(RNAおよびDNA、一本鎖および二本鎖)のポリアニオン性、すなわち核酸がリン酸基上に多数の負電荷を有することを利用する。これは、分子は電場中に置くと正電極に移動することを意味する。負電荷はDNA分子に沿って均一に分布するので、電荷/質量比は一定であり、したがって移動性は断片の長さに依存する。この技法は、大きさに従い核酸分子を分離するゲルマトリクス上で実行することが好ましい(Nicholls、2002)。
【0081】
制限酵素またはエンドヌクレアーゼは、細菌が相同DNAと異種DNAを区別するのを可能にする。これらの酵素は、制限部位として知られる特異的部位においてDNAを加水分解および切断する。配列認識のこの特異性によって、DNAワクチンの基礎であるDNA断片調製物を正確に選択することができる。制限酵素系を有する細菌は、制限部位を修飾することによってその独自のDNA中に認識部位を隠す。切断部位又はその近辺のアデニンまたはシトシン残基にメチル基を加えることによって、その独自の核酸が保護される(Brooks,Geo、Medical Microbiology 102(23rd ed.2004))。
【0082】
細菌の制限修飾系は2つの大きなクラスに分けられる:制限活性と修飾活性が1つのマルチサブユニットタンパク質において組み合わさったタイプ1の系、および別個のエンドヌクレアーゼおよびメチラーゼからなるタイプ2の系。(Brooks、2004)
【0083】
標準的な研究室のデバイスとなっている制限エンドヌクレアーゼと、外科医のメスの間の相似性は明らかである。制限エンドヌクレアーゼは通常、そこから酵素が単離されている命名済みの生物の3または4文字の略称によって命名される(Brooks、2004)。その中で酵素が形成される生物の一般名称および特定名称を使用して、一般名称の最初の文字を含み特定名称最初の2文字である名称の第1の部分を与える。したがって、大腸菌の菌株由来の酵素はEcoと命名され、Bacillus amyloliquefacien由来の酵素はBamである。(Nicholls、2002)
【0084】
制限エンドヌクレアーゼは一般に、反射鏡様式で2本のDNA鎖中のリン酸ジエステル結合を切断する。制限酵素は同じDNA配列を認識および切断し、特定の配列のみを切断する。制限酵素によって認識されるDNA配列の大部分はパリンドロームである;すなわちDNAの2本の鎖は、5'から3'方向に読むと対称軸の片側に、反対方向に広がる同じ基本配列を有する(自己相補的)。これらの酵素によって作製された断片は通常「粘着性」である(すなわち、その生成物は末端が一本鎖であり、一方の鎖が他方より突出している)。しかしながら、時折生成物は二本鎖末端が平滑である。異なる特異性を有する500を超える制限酵素が、単離され特徴付けられてきている。大部分は研究室用ツールとして容易に利用可能である。
【0085】
DNAの制限断片を使用して、遺伝子中の塩基配列の違いを確認することができる。しかしながらDNAの制限断片を使用して、in vitroで組換えられた異なる供給源由来のDNAの分子から構成される、キメラDNAとも呼ばれる組換えDNAを合成することもできる。2つの無関係なDNA断片の粘着末端は、それらが相補的な粘着末端を有する場合、互いに接合させることができる。相補的末端は、制限酵素がパリンドローム鎖を認識する場合、同じ制限酵素で無関係なDNA鎖を切断することによって得ることができる。断片の粘着末端が互いに塩基対を形成した後、次いでこれらの断片はDNAリガーゼの作用によって共有結合させることができる。(Smith,Coleen、Basic Medical Biochemistry:A Clinical Approach、Ch.17(2d ed.1996))。DNAリガーゼは、アトランダムあるいはDNA複製または組換えの結果として生じる可能性がある、破壊されたリン酸ジエステル結合を修復する細胞の酵素である(Nicholls、2002)。最も頻繁に使用されるDNAリガーゼはT4DNAリガーゼであり、これはバクテリオファージT4に感染した大腸菌細胞から精製することができる。断片中のギャップを塞ぐ事が粘着末端によってまとまるとき、この酵素は最も有効であるが、それは平滑末端のDNA分子とも適切な条件下で1つに接合する。DNAリガーゼによって、5'リン酸基と3'ヒドロキシル(OH)基の間にリン酸ジエステル結合が生成する。この酵素は37℃で最も有効であるが、さらに低い温度で使用することができる。一本鎖末端の熱変性は、しかしながら高温(37℃)で起こる。したがって、この酵素反応のプロセスを低温で実施して高純度に影響を与えることが多いが、全体的なプロセスは幾分遅い。(Nicholls、2002)
【0086】
制限酵素によって生成されるDNA断片の長さは、DNA配列の特性のため非常に変化する。大部分の制限酵素は、幾分ランダムに存在するパリンドローム配列を認識する。さらにDNA断片の平均長は、制限酵素によって認識される特異的な塩基対の数によって大部分は決定される。15個までの塩基配列を認識する制限酵素が特徴付けられてきているが、しかしながら大部分の制限酵素は、4、6、または8個の塩基配列を認識する。4個の塩基を認識することによって、250塩基対の平均長を有する断片が生じ、したがって遺伝子断片を分析または操作するのに一般に有用である。制限酵素によって認識される塩基対の数が増大すると、ヌクレオチド配列の平均長は対数的に増加する。例えば、6個の塩基を認識する制限酵素によって、約4,000の塩基対の平均サイズを有する断片が生成する。8個の塩基を認識する制限酵素によって、64,000塩基対の典型サイズを有する断片が生成し、したがって大きな遺伝領域を分析するのに有用である。(Brooks、2004)
【0087】
DNAワクチンを生成する際には、細菌および酵母菌などの真核細胞由来のプラスミドDNAを、ドナー媒体として使用することが多い。プラスミドは、宿主細胞の核から物理的に分離される遺伝粒子である。原核生物の核は被包されていない。プラスミドは独立に機能および複製することができ、それは細胞の核とは独立している。プラスミドは通常、いくらかの生存または増殖の利点を宿主細胞に与えるが、細胞の基本的機能に必要不可欠であるわけではない。例えば耐性プラスミドは、抗生物質または抗菌薬剤耐性を担う遺伝子を有する。プラスミドはDNAの小さな円である;しかしながら、その三次元構造は、数字の8の構造またはさらに複雑な構造であることが多い。それにもかかわらず、プラスミドの小さな大きさによってin vitroでプラスミドに遺伝的操作を施しやすくなる。さらに遺伝的操作の後に、それらの小さな大きさによって、他の細胞中への導入が可能になる。したがって、プラスミドは遺伝子工学処理において頻繁に使用され、大部分のDNAワクチンの基盤である。(Brooks、2004)
【0088】
多くの制限酵素は非対称的に切断し、粘着(粘着性)末端を有するDNA断片を生成するので、DNAのハイブリダイゼーションが可能である。このDNAはドナーとしてプラスミドレシピエントと共に使用して、遺伝子工学処理された組換えプラスミドを形成することができる。同じ制限酵素でプラスミドを切断することによって、互いに同一である粘着末端を有する線状断片が生成する。プラスミドの両端が再度アニーリングするのを防ぐために、これらの末端からの遊離リン酸基の酵素による除去を行う。これによって、本来の環状プラスミドが構造的に無力であり、機能することができないことが確実になる。遊離リン酸基を含む他の供給源由来の他のDNA断片の存在下での連結によって、共有結合して現在は円形であるDNA中の挿入体としてDNA断片を含む、組換えプラスミドまたはキメラプラスミドが生成する。細菌宿主中で複製するために、プラスミドは円形でなければならない。(Brooks、2004)
【0089】
本発明のサブユニット、CypA結合部位のアミノ酸配列が誘導されてきている。それぞれのアミノ酸は、別個のコドンによってコードされている。コドンは、遺伝情報を与えてタンパク質鎖中に取り込まれるか停止シグナルとして働く特定のアミノ酸をコードする、DNAまたはRNAの鎖内の一組の3つの連続したヌクレオチドである。したがって、本発明のサブユニットの知識によって、CypA結合部位に関するDNAおよび/またはRNAのヌクレオチド配列を誘導することができる。DNA配列の延長の起点は、化学的なオリゴヌクレオチド合成用の知られているヌクレオチド合成デバイスによって合成することができる、DNAプライマーによって決定する。このようなデバイスは、75個以上のオリゴヌクレオチドを含むDNA鎖を生成することができる。(Brooks、2004)
【0090】
化学的に合成されたオリゴヌクレオチドは、プライマー間のDNAの増幅および塩基配列決定を可能にする手順であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)用の、プライマーとして働くことができる。したがって多くの場合、塩基配列決定するため、あるいは工学処理に利用可能にするために、DNAをクローニングする必要はない。
【0091】
DNAの塩基配列決定は、異なるヌクレオチド結合の相対的な化学的性質を利用するマクサム-ギルバート技法、およびジデオキシヌクレオチドを配列中に取り込ませることによってDNA配列の延長部分を破壊する、サンガー(ジデオキシ停止)法を使用して実施することもできる。さらにショットガンとして知られている手順によって、ウイルス中のゲノム全体を塩基配列決定および分析することができる。この手順では、DNAをランダムに断片化してランダムな断片ライブラリーを作製する。これらの不規則断片は自動式DNA塩基配列決定装置によって塩基配列決定し、当技術分野で利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、正しい順序で再構築することができる。(Brooks、2004)
【0092】
予防接種用に設計されたプラスミドDNAの必須要素には、開始シグナル(プロモーター-エンハンサー)および停止シグナル(ポリアデニル化シグナル/転写停止配列)がある。開始および停止シグナルは、様々な供給源ウイルス、細菌または哺乳動物から選択することができる。抗生物質耐性または特異的な酵素活性などのプラスミドの活性の指標を含むことができ、完全に機能的なプラスミドが開発されていることを単に実証する場合、有利である可能性がある。イントロンが最終的にタンパク質に翻訳されない配列を含む場合であっても、多くの構築体に関するトランスフェクト細胞系内の発現を大幅に改善することが示されているイントロン含有配列を含むことは有利である。DNAワクチン用に最も使用されてきているプロモーター/エンハンサーは、CMV即時型プロモーター(pCMVIE)エンハンサーおよびラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRである。数百種のプラスミドが、異なる供給業者から市販されている。基本的なプラスミドワクチンベクターはV1Jとして知られている。これはpCMVIE、CMV由来のイントロンA、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化/転写停止配列、およびアンピシリン耐性をコードする遺伝子(amp')からなる。lacオペロンおよびマルチクローニング部位が削除されているpUCプラスミドDNA配列は、この組換えプラスミド構造の基本的構築体として働く。ドナーDNAを挿入するための、2つの別個の制限酵素部位がマッピングされている。V1Jは哺乳動物細胞中では複製せず、プラスミドの宿主ゲノムDNA中への組み込みを助長する、いかなる配列も含まず、広い安全余地を確実にすることが知られている。さらにV1Jは、大腸菌中での増殖によって多量に生成することができる。これらの性質は、細胞形質転換組み込み事象の確率を最小にすることにより、組換えDNAプロセスの安全性を保証するのに助力する。
【0093】
動物の予防接種に関する最良の結果が、プラスミドの正常な生理食塩水溶液を使用することによって得られている。ブピバカインおよびスクロースの溶液を含めた他の賦形剤が使用されてきているが、これらの方法による動物中での高い免疫原性はない(Kaufman,Stefen、Concepts.in Vaccine Development、ch3.7.3(1996))。プラスミド生理食塩水配合物を筋肉注射した後に、少量の筋管は、DNAを採取し、発現させる。しかしながらこれは、有意な免疫応答を得るには充分なものとなっている。(Kaufmann,Stefan、Concepts in Vaccine Development Ch.3.7(1996))
【0094】
体液性応答および細胞傷害性T細胞応答は、裸DNAワクチンを使用して存在することが記されている。測定可能な抗原-特異的血清抗体応答の不在下でさえも、動物モデルにおいて1マイクログラムまでの低DNA用量でT細胞の強烈な増殖が観察され、DNAワクチンによるT細胞応答を誘導するために、抗体を生成するためより少量の抗原が必要とされる可能性があることが示された。したがって、免疫性とHIV疾患の最も考えられる関係が、HIV疾患を対象とする確固たる細胞傷害性T細胞応答であると思われるので、HIVワクチン技術に関してより少ない事(抗原)はそれ以上のことを意味する。HIV疾患に対する強烈な体液性応答の進行は、良くない予後と関係している。低量のDNAワクチンは、1型ヘルパーT細胞(TH1)の生成を刺激する。TH1細胞はサイトカインII-2およびγ-インターフェロンを生成し、これらはCD+8活性を刺激することによって細胞の免疫応答を助長することが示されてきている。(Kaufmann、1996)
【0095】
HIV感染用に、強烈なTH1様応答は充分なCD4細胞数および低いウイルス力価の維持、ならびに二次的な日和見感染の防止において重要となっている。(Kaufmann、1996)
【0096】
不活性化ウイルス、組換えタンパク質またはペプチドなどの抗原を投与することに優る、宿主中で抗原を発現させることの利点には以下のものがある:(1)宿主細胞に固有の不活性化プロセス(例えば、化学的架橋)による抗原性の考えられる損失が回避されること;(2)宿主細胞によってコードされる糖および脂質結合を含む立体配座および翻訳後修飾を有するタンパク質が合成されること;(3)細胞内の抗原のプロセシング、およびMHCクラスI分子により提示されて細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答の誘導につながること、ならびに(4)MHC抗原決定基の選択が可能になること。(Kiyono,Hiroshi、Mucosal Vaccines Ch.8(1996))
【0097】
IMDNAワクチン接種後の抗原提示は、確固たる細胞傷害性T細胞応答をもたらす。IMDNAワクチンを用いてCTL応答を誘導するための、3つのモデルが提案されてきている:
1.樹状細胞、マクロファージおよびランゲルハンス細胞を含めた抗原提示細胞によるDNAの取り込みおよび抗原の発現;
2.抗原提示細胞として働くかあるいはその役割が推定されているトランスフェクトした筋細胞による抗原提示;および
3.トランスフェクトした筋細胞から、適切なT細胞に対する抗原を次いで提示する抗原提示細胞への抗原の移動(Kiyono、1996)。
【0098】
動物種中の様々な抗原に対する抗体、CD8細胞およびCD4細胞を含めたDNAワクチンを使用して、特異的な免疫応答を誘導しており、抗原は以下のものを含むが、これらだけには限られない:
1.マウス中のB型肝炎表面抗原(Davisら、1993、1994)
2.マウス中の単純ヘルペスウイルス1糖タンパク質B(Manickanら、1995)
3.ウシ中のウシヘルペスウイルス1糖タンパク質IV(Coxら、1993)
4.マウス中の狂犬病ウイルス糖タンパク質(Xiangら、1994、1995)
5.マウス中のマラリアスポロゾイト周囲タンパク質(Sedegahら、1994;Hoffmanら、1994)
6.マウス中のリーシュマニアgp63(XuおよびLiew1995)
7.マウス中のリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)NP(Pedroz Martinsら、1995;Yokoyamaら、1995)
8.マウス中の癌胎児性抗原(Conryら、1994)
9.ラット中のMHCクラスI抗原(Geisslerら、1994)
10.ウサギ中のワタオウサギ乳頭腫ウイルス(CRPV)L1(Donnellyら、1996)
11.マウス中のM結核予防抗原85複合タンパク質(Huygenら、1996)(Kaufmann、1996)
【0099】
より詳細には、CTL応答を誘導するDNAワクチンの能力も数回実証されてきている。それはインフルエンザNP(核タンパク質)を使用することによって最初に実証された。NPはウイルスの保存型内部タンパク質、および交差反応性CTLの標的である。NPDNAはマウス中でCTL応答を誘導し、これによって予防接種の潜在能力を示す長期寿命の要素が実証された。興味深いことに、インフルエンザNPまたはマトリクスタンパク質をコードするDNAによって誘導された細胞仲介の免疫は、鼻部の分泌物におけるウイルス発散の低下によって測定された様に、フェレットの保護においても役割を果たした。DNAワクチン誘導型のCTL応答は、以下のものに関しても実証されている:
1.狂犬病ウイルス糖タンパク質(Xiangら、1994)
2.マラリアスポロゾイト周囲タンパク質(Sedegahら、1994)
3.リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスNP(Pedroz Martinsら、1995;Yokoyamaら、1995;Zarozinskiら、1995)
4.HIVエンベロープタンパク質(Wangら、1994;Shiverら、1995)
5.ヒト第IX因子(Katsumiら、1994)
6.MHCクラス1(Geisslerら、1994;Plautzら、1994;Huiら、1994)
【0100】
免疫処置後1〜2年間のCTL応答の検出が、前述のモデルのいくつかにおいて記されてきている。DNAワクチンの投与は1mcgで開始すべきである。CTLアッセイを行うべきであり、適切なCTL応答が示される最小の用量が投与に関する好ましい用量である。
【0101】
以下で論じるように、IMDNAワクチンと配合したカチオン性脂質は、低レベルの遺伝子発現を実際にもたらした。しかしながら、カチオン性脂質を使用してDNAの取り込みを容易にすることが、粘膜送達系に関して記されてきている。カチオン性脂質は、非特異的な機構または依然特徴付けられていない特異的な原形質膜の輸送機構によって、粘膜表面上のDNAの取り込みを容易にする。DNAの粘膜送達によって、GIおよびGU管の内側表面の多くの細胞型、ならびにHIV複製の好ましい部位であるパイエル板を含むそのそれぞれの基底膜下の細胞を、おそらくトランスフェクトすることができる。粘膜表面上での細胞の取り込みの潜在的な促進以外に、カチオン性脂質はDNAを分解から保護もする。In vitro試験は、DNA/カチオン性脂質は非複合DNAより長い半減期を有することを示してきている。(Puyalら、1995)。したがって、粘膜DNAワクチンに関する好ましい実施形態は、カチオン性脂質を含むであろう。
【0102】
DNAワクチンの非経口投与によって、強い全身性の体液性の応答および細胞仲介型免疫応答(用量依存性)が誘導されるが、有意な粘膜の免疫応答の生成がもたらされるわけではない。したがっていくつかの場合、粘膜と全身の両方の免疫応答を誘導することができると思われるワクチンを設計することが望ましい可能性がある(Kiyono、1996)。これは異なる経路(非経口および粘膜)によって送達されるDNAワクチンによって達成することができる。この手法は、非経口的初回抗原刺激、次に粘膜の追加抗原刺激を使用する、いくつかの系において試験されてきている(Kerenら、Infect.Immun.、56:910〜915(1988))および逆も然り(Forrestら、Infect.Immun.60:465〜471(1992))。いくつかのベクターによってDNA/カチオン性脂質を粘膜投与することにより、局所および全身の免疫応答が生じた。組換えBCGワクチンは異種抗原に対する局所IgAおよび血清IgG抗体を誘導し(Langermanら、1994)、経口的に与えた組換えサルモネラベクターは細胞仲介型免疫応答を誘導した(Aggarwalら、1990)。
【0103】
DNAワクチン技術を使用する好ましい実施形態は、非経口的(好ましくは筋肉内)に投与される裸DNAワクチンと粘膜に施用されるカチオン性脂質/DNAワクチンの組合せであると思われる。
【0104】
したがって要約すると、組換え細菌DNAワクチンを生成するためには、以下のステップに従うものとする:
1.市販の供給源から適切なプラスミドベクターを選択するステップ、
2.被験体のHIVDNAを単離するステップ、
3.プラスミドDNAおよびHIVDNAの制限酵素による切断/修飾を実施するステップ、
4.HIV由来の特定の遺伝子を単離するステップ、
5.選択したHIVDNA遺伝子をPCR増幅するステップ、
6.プラスミドDNAから遊離リン酸(PO4)基を酵素により除去するステップ、
7.プラスミドDNAを大腸菌などの細菌細胞に形質転換するステップ、
8.リガーゼを投与してDNA鎖を1つにまとめるステップ
【0105】
形質転換のプロセスを実施するために、レシピエント細胞をコンピテントにする必要がある。コンピテンスは、外来性のRNAまたはDNAを吸収する細胞の能力と関係がある。これを実施するためのステップは以下のステップである:
1.レシピエント細胞を塩化カルシウムの氷冷溶液中に浸すステップ(これによって、まだ完全には理解されていない方法でコンピテンシーを誘導する);
2.プラスミドDNAと細胞を混合させて、それらを氷上で20〜30分間インキュベートするステップ;
3.熱ショックを与えて(2分間、42℃)、DNAの細胞への進入を可能にするステップ;
4.形質転換細胞を栄養ブロス中で37℃において60〜90分間インキュベートするステップ。これによってプラスミドを確立することができ、最終的にはプラスミド核酸の表現型発現が可能になる;および
5.細胞およびプラスミドベクターを複製に適した選択培地上に置くステップ。
図3中に示すように、rDNA/RNAは細菌またはウイルス担体によって送達することができる。
【0106】
C.2.3 組換え担体
C.2.3.1 細菌担体
生弱毒化細菌は、DNA/RNAの担体として働くことができる。細菌は、キャプシドタンパク質またはその一部分上にCypA結合部位をコードする、遺伝子を有し発現することができる。キャプシドタンパク質のDNA/RNAを増幅、精製および投与することができる環境を細菌は与える。細菌担体は当技術分野で一般的な細菌担体を含むことができ、例示的な型はサルモネラ、BCG、大腸菌、Strepococcus gordonii、Lactocci/Lactobacilli、ビブリオコレラ、Yersinia enterocholitica、フレクスナー赤痢菌、およびリステリアモノサイトゲネスである。サルモネラ、BCG、および大腸菌が好ましい。
【0107】
組換え用にこれまで探求されてきた細菌の中では、弱毒化サルモネラ種が最も強い関心を得てきている。Bacillus Calmette Guerin(BCG)を含めた他の細菌も調査されてきている。大腸菌、ビブリオ、エルジニアおよびシゲラを含めた弱毒化した腸内病原菌は、組換えワクチン技術の基盤として使用されてきている。グラム陽性菌であるStrepococcus gordonii、Staphylococcus xylosusおよびlactococciまたはlactobacilliを含めた一般に片利共生生物としてみなされている他の生物が、組換え法において使用されてきている。近年ではリステリアモノサイトゲネスが、可能性のある組換えワクチンベクターとして導入されてきている。粘膜表面にコロニー形成および/または感染するその能力によって、これらの生物の大部分はそれら自体が粘膜表面に送達することができる。したがって、消化管関連リンパ系組織(GALT)は、非経口接種の後の血清からの抗体拡散ではなく、粘膜の免疫処置によって直接刺激される。パイエル板を含むGALTは、この疾患の性的伝播におけるHIV感染および複製の主要部位である。
【0108】
大部分の関心は腸内病原菌、特にサルモネラに集まっている。組換えが起こり得る前に、細菌は弱毒化の過程を経る。そうする際に、細菌は無毒性になり、腸チフス熱または他のサルモネラ由来の疾患を引き起こさなくなる。p-アミノ安息香酸(pab)に関する代謝経路における、このような突然変異の最初の記載は1951年に表れた。その後、S. typhimuriumおよびS.typhi(菌株Ty21a)のgalE突然変異体が単離され、これはガラクトース-1-リン酸の細胞質内蓄積をもたらし、細胞の溶解に至った。HoisethおよびStockerはS. typhimuriumに、芳香族代謝経路中の必須要素である酵素5-エノールピルビル-シキミ酸-3-リン酸合成酵素をコードする、広く使用されているサルモネラ栄養要求性突然変異体aroAを導入した。S. typhimurium中でaroCおよびaroD遺伝子に関してこの経路で作製される他の突然変異体によっても、非常に弱毒化した生物が生成する。それぞれアデニル酸シクラーゼおよび環状AMP受容体タンパク質をコードする制御遺伝子cya、crpの突然変異体も、非常に成功していることが証明されている。さらにcyaおよびcrpの突然変異体は、ペプチドグリカン合成に必要不可欠であるアスパラギン酸γ-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするasdの突然変異体と共に使用されることが多い。さらに、phoP(ホスファターゼ)およびompR(外側膜タンパク質)などの他の制御遺伝子の突然変異体は、ワクチンベクター菌株の弱毒化物質として成功していることが証明されている。(Hughes,Huw、Bacterial Vectors for Vaccine Delivery、Designer Vaccines Principles for Successful Prophylaxis、Ch.8(1998))
【0109】
サルモネラ中で異種抗原を発現させるために使用されている3つの別個の方法が表されている:(1)プラスミド;(2)サルモネラ染色体中への外来性遺伝子の組込み;および(3)フラジェリン、ナイセリア菌のタンパク質、IgAプロテアーゼ前駆体、1anB、phoE、ompAを含めたサルモネラ菌の様々な担体タンパク質による、細胞表面への外来性抗原の移動。他の細胞区画を標的とする他のエピトープ担体には、マルトース結合タンパク質(malE)、LTB、破傷風毒素のC断片(tetC)、ガラクトシダーゼ、pagC、およびB型肝炎の主要抗原(HBcAg)との融合体がある(Hughes、1998)。
【0110】
組換え体サルモネラを首尾よく使用して、動物試験における異種抗原に対する体液性および細胞仲介型応答の誘導によって、いくつかのウイルス抗原が発現されている。核タンパク質(NP)およびヘマグルチニンタンパク質(HA)のエピトープを含めた、様々なインフルエンザタンパク質が、動物中でサルモネラ菌ベクターを使用して首尾よく発現されている。サルモネラ中に首尾よく組込まれている他のウイルスのDNA配列には、B型肝炎ウイルス、HIV、および単純ヘルペスウイルスのDNA配列がある。
【0111】
大部分の試験は外来性抗原用に経口送達系を使用してきているが、他の試験は非経口免疫処置プロトコルを使用してきている。両方共に、組換えワクチンと共に、あるいは逐次的に使用することができる。HIV疾患に関する組換え細菌ワクチンを使用して扱う必要がある他の変形例は、外来性抗原を特定の細胞区画に向けることが含む。興味深いことに、BCGおよびリステリアは細胞応答を誘導するためにさらに有利であるようであり、したがって、HIV疾患に関する組換えワクチン技術用の好ましい経路であると思われる。(Hughes、1998)
【0112】
弱毒化したサルモネラ菌を使用することは、サルモネラ菌が大腸内で最初に複製し、末端結腸の内側表面の免疫媒体であり、多くの場合ウイルスが性的に伝播する最初のHIV複製の部位であるパイエル板において、免疫応答が生じる点において利点がある。したがってサルモネラ菌は、HIV疾患に関する組換えワクチン技術用の好ましい方法を与えると思われる。
【0113】
形質転換およびトランスフェクションの技法は、組換えDNAを細胞に向けるために利用可能な最も簡単な方法である。大腸菌細胞をクローニングする文脈では、形質転換はプラスミドDNAの取り込みを指し、トランスフェクションはバクテリオファージDNAの取り込みを指す。バクテリオファージは、細菌に感染するウイルスである。他のウイルスと同様にバクテリオファージは、RNAまたはDNAの一方を含み(ただし決して両方は含まない);外観上単純な繊維状の細菌ウイルスから収縮性尾部を有する比較的複雑な形まで構造が変化する。宿主細菌とのそれらの関係は非常に特異的である。任意の細胞による任意のDNAの取り込みを記載するために、形質転換もより一般的に使用される。(Nicholls、2003)
【0114】
非常にわずかな割合のコンピテント細胞が形質転換を経る。したがってそのプロセスは、多数の個体の組換え体が必要とされるか、あるいは出発物質が制限されるときのクローニング実験では、律速ステップとなる可能性がある。適切に行うと、投入DNA1マイクログラム当たり109個の形質転換細胞(形質転換体)を実現することができるが、1マイクログラム当たり約106または107個の形質転換体という形質転換頻度がより現実的である。(Nicholls、2003)
【0115】
形質転換手順の代替法は、物理的方法によってDNAを細胞中に導入することである。1つの例示的な技法はマイクロインジェクション、または微細ニードルを使用すること、および核にDNAを直接注入することである。この技法は、植物細胞と動物細胞の両方に関して首尾よく使用されてきている。細胞はわずかな吸引作用によってガラス管に保持され、ニードルを使用して膜を刺す。この技法は機械的マイクロマニピュレーターおよび顕微鏡を必要とし、手動によって行われる。(Nicholls、2003)。マイクロインジェクションは、HIV疾患に関するDNA細菌組換えワクチン生成に関する好ましい実施形態を与える。
【0116】
C.2.3.2 ウイルス担体
組換えウイルスワクチンを工学処理して、それに対して宿主を保護しなければならない病原菌由来の遺伝子を発現させることができる。ベクターは媒体として働いて外来性遺伝子を宿主中に運び、核酸の転写および翻訳の後に、核酸によってコードされるタンパク質を宿主の免疫系に対して提示する。任意のワクチンと同様に、当然ながら、容認性に関する主な基準は安全性と有効性である。2つの観点から安全性に近づくことができる。免疫原の安全性は、事前の弱毒化または担体ウイルスに対する宿主の事前の予防接種によって良い安全記録を有する、ウイルスベクターを使用することによって確実にすることができる。第2に、合理的かつ信頼できる方法で、ウイルスを工学処理して安全性を改善することができる(Hughes、1998)。それに対して宿主が既に免疫処置されているウイルスベクターの使用は、記憶免疫応答によって免疫原がすぐに破壊され得る点で欠点を有する。それにもかかわらず、組換えDNAまたはRNAのいくつかの転写および翻訳が起こると思われる。好ましい方法は、組換えワクチン用の担体として、(担体ウイルスに対する事前の免疫処置無しで)弱毒化非毒性ウイルスを使用することであると思われる。
【0117】
したがって、細菌または酵母のようにウイルスを組換え技術において使用することもできる。担体として、ウイルスは細胞に容易に感染し、細胞傷害性T細胞免疫応答を刺激する。担体ウイルスは複製させることができるので、完全かつ完璧な免疫応答を生じさせることができる。免疫系の体液性および細胞性部門が次いで活性化されると思われる。一般的なウイルス担体は、ポリオウイルス、アデノウイルス菌株2、4、5および7、ならびにポックスウイルスを含むことができる。組換え技術において使用されるいくつかのポックスウイルスには、ワクシニア、カナリア痘、ALVAC(カナリア痘由来)、鶏痘、鳩痘および豚痘が含まれる。組換え技術用の他のウイルスベクターには、ヘルペスウイルス(HSV-1、VZV(帯状ヘルペス)、EBV(エプスタインバーウイルス))、アルファウイルス、パラミクソウイルス、インフルエンザウイルス、およびD型肝炎ウイルスがある。これらの中では、ウイルスの構造およびライフサイクルの広範囲の既存の知識のために、好ましい実施形態はポリオウイルスに基づく。ポリオに対する事前の免疫処置は、免疫応答の制限において考慮事項であると思われる。宿主免疫系が細胞傷害性活性を刺激する低用量の基本免疫原を受けると思われるので、HSV-1などの慢性的ウイルス感染は魅力的な代替を与える。
【0118】
1つの微生物由来の遺伝子を他の微生物のゲノムに導入することによって、毒性菌株が生じる可能性がある。これを避けるために、担体ウイルスを改変して、治療における組成物のいかなる使用も実際に非毒性であることを確実にしなければならない。これによって、無数のウイルスを寄せ集めた組合せを開発することができると思われる。導入される遺伝子は、それがワクチンとして使用されるか、またはそれをウイルスゲノムに加えることができると思われるとき、担体ウイルスの複製に必要とされない遺伝子と置き換わることができる。(Wagner、1999)。ウイルス感染用の免疫原性組成物またはワクチンの生成および使用において、組換え技術を実施するための方法は、当業者に知られており現在利用可能である。(Porter、1995)(Stahl、1997)
【0119】
組換えウイルスワクチンベクター用に使用されるウイルスの中には、ポックスウイルス(鶏痘、カナリア痘、鳩痘、ミクソーマおよび豚痘を含むワクシニアウイルス)、アデノウイルス(特に塩基配列決定されている2および5型、ならびに商業用にではなく米国の軍事用に、副作用の証明無しでワクチンとして広く使用されてきているアデノウイルス4および7型)、ヘルペスウイルス、ポリオウイルスおよびインフルエンザウイルスがある。動物においてある程度の限られた成功率で、HIV遺伝子はワクシニアウイルスベクターにスプライシングされている。アデノウイルスに関しては、遺伝子は非必須E3領域(4kbまで)中に挿入することができ、または必須E1領域中に挿入することができる。興味深いことに、E3領域由来の単純ヘルペスウイルス(HSV)の糖タンパク質Bを発現する組換えアデノウイルスの構築が、McDermottらによって行われてきている。この組換えウイルスをマウスに接種することによって、in vitroでHSVを中和したgBに特異的な抗体が生成した。さらに、アデノウイルス組換え体を1回接種した後、マウスは致死的なHSV攻撃から保護された。JacobsらはE1領域を使用して、ダニ媒介性脳炎(TBE)ウイルスから非構造遺伝子NS1を発現させている。彼らはこの複製欠陥系を使用して、ネズミモデルにおける致死的攻撃に対する保護を実証している。E1欠失アデノウイルスは、それらの複製欠陥性によって導入される追加的安全因子を有する。E3遺伝子は、このウイルスに免疫保護を与える。したがって、E3遺伝子を欠く組換えアデノウイルスベクターは、弱毒化され非毒性状態であり、アデノウイルスベクターおよび組換えウイルス技術を使用する好ましい実施形態となる。E3領域によってコードされるgp19タンパク質は、感染細胞中の主要組織適合複合体(MHC)クラスI抗原の発現を低下させる。gp19タンパク質は、小胞体またはゴルジ装置あるいはこれらの組合せにおいて、転写、翻訳、タンパク質修飾のレベルで働くことができる。この遺伝子に欠陥があるアデノウイルスベクターは、より確固なCD8細胞傷害性応答を誘導するさらに効果的な方法で、免疫系に対してその外来性遺伝子中にコードされるタンパク質を提示する際に、さらに有効である可能性がある。さらにB型肝炎表面抗原が、E3の欠失有りおよび無しでアデノウイルス菌株4および7から発現されており、動物モデルでは、E3配列を欠くこれらのベクターにおいて良い抗体応答が記された。機能的E3配列を含むベクターは、わずかな弱い応答または無視できる程度の応答を生じた。(Hughes、1998)
【0120】
ヘルペスウイルスは大きなゲノムを有しており、いくつかの遺伝子は、in vitroでは非必須でありin vivoではさらに重要であるとして同定されてきている。非必須遺伝子の欠失によっていくつかの部位での組換えが可能であり、ビリオン当たり2つ以上の組換え事象が可能であると思われる。限られた数のヘルペスウイルスワクチンベクターの例が、ある程度の成功率で本来の宿主において試験されてきている。例えばDan Zijiらは、偽狂犬病ウイルスおよび豚コレラウイルスに対するブタの保護を報告している。
【0121】
インフルエンザは、組換えワクチン技術において可能性のあるウイルスワクチンベクターのリストに近年加えられてきている。無傷の宿主中のインフルエンザは比較的非毒性である。インフルエンザ核酸の操作は、逆遺伝学によって実施することができる。Castrucciらは、シアル酸を切断するインフルエンザノイラミニダーゼ酵素の主成分であるLCMV核タンパク質由来のCTLエピトープを発現する、組換えインフルエンザウイルスを構築している。この組換えワクチンを1回投与することによって、毒性の非弱毒化LCMVによる予測される攻撃に対してマウスを保護した。多くのインフルエンザ菌株が特徴付けられてきており、これらの多くは、それらが発現するヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼタンパク質のみが異なる。したがって、異なるインフルエンザ菌株を連続的に使用して、反復接種の有効性を制限すると思われるウイルスベクター自体に対する免疫が発達するという問題点無しで、特定のウイルスタンパク質に対して宿主に予防接種することができる。低温適応型弱毒化インフルエンザウイルスが、ワクチンとして長年広く使用されてきている。特に数回の接種が必要とされる場合は、これらのワクチンのストックを組換えウイルスワクチンに使用することができると思われる。
【0122】
Rodriguezらは、組換えインフルエンザベクターの有効性を試験した。Plasmodium yoelii、げっ歯類のマラリア寄生虫のスポロゾイト周囲タンパク質のCD8+T細胞エピトープが、2つの異なるインフルエンザタンパク質、ヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼ中、同じビリオン中で発現された。さらに、同じエピトープのただ1つのコピーを発現するワクシニアウイルス組換え体が構築された。両方のベクター系が、比較可能なレベルのエピトープ特異的T細胞を誘導することがわかった。最も有効なプロトコルはインフルエンザ組換え体を用いた初回抗原刺激、次にワクシニア組換え体を用いた追加抗原刺激からなっていた。(Hughes、1998)
【0123】
2つの別個の組換えウイルスベクターを、HIV疾患に関する最適な免疫応答のために連続的または同時に使用することができる。
【0124】
ポリオに対する生ワクチン(セービン)は、ウイルスそのものの弱毒化した菌株である。(1961年に導入された)これらのワクチンは非常に安全かつ有効であることが分かったが、時折毒性に逆戻りすることが方法を複雑にした。米国小児科学会は、活発に複製することができない(1955年に導入された)旧ソークワクチンを推奨した。しかしながら、その安全性にもかかわらず、ソークワクチンは反応性の低い免疫応答を生み出す。ポリオウイルスビリオンの隙間のない区画化のために、数個のアミノ酸をコードする小さなDNA配列のみを、組換え技術用のウイルスゲノム中に切断することができる。
【0125】
ポリオウイルスは、その糞便/経口伝播経路のために腸内ウイルスとして分類される。ポリオはHIV疾患と同様のプラス鎖RNAウイルスである。この2つを区別するために、両方共にプラス鎖RNAであるが、レトロウイルスはビリオン関連酵素(逆転写酵素)によってDNAに転換されるためのRNAを必要とする。しかしながらポリオは、逆転写酵素を必要としない。ポリオRNAは、細胞のメッセンジャーRNAと同様に機能する。両方のウイルスが二十面体構造に覆われている。ポリオはエンベロープを有さないが;しかしながらHIVはエンベロープを有するウイルスである。
【0126】
ポリオ特異的な細胞の免疫応答が近年研究されてきている。ポリオウイルスに対する細胞仲介型応答の発生は、経口的に予防接種したボランティアにおいて実証されてきている(Simmonsら、1993;Grahamら、1993)。前述のように、T細胞の免疫はHIV疾患に対する免疫保護と最も関係があると思われるので、このことは重要である。(Kiyono、1996)
【0127】
興味深いことに、ポリオウイルスを経口的のみでなく鼻腔内に送達して、全身性および粘膜抗体を刺激することができる。ポリオウイルスに基づく組換えワクチンベクターの開発は、このウイルスに関して利用可能な莫大な知識のために容易になってきている。完全なウイルスRNAゲノムが塩基配列決定されており、ウイルスタンパク質が同定されている。(Kitamura、1981)(Racaniello、1981)。ウイルスゲノムの感染性cDNAが作製されてきており、遺伝的にウイルスを操作するのが可能となっている。(Racaniello、1981)(Semler、1984)。完全なウイルスの三次元構造は知られており、主な抗原エピトープは分子レベルで同定されている。(Hogle、1985)。ポリオウイルスがそれを使用して細胞内への進入を得る受容体(PVR)はクローニングされており、その核酸配列は決定されている。(Mendelsohn、1989;Ren、1992)。さらに、発現されたポリオウイルス受容体を有するトランスジェニックマウスを飼育し、したがってそれらはポリオウイルス感染を受けやすい。したがって、あらゆる疾患、特にHIV疾患に関して組換えポリオウイルスベクターを試験するための動物モデルが存在する。
【0128】
ポリオウイルスに関して利用可能な莫大な情報によって、ポリオウイルスは組換えポリオウイルス/HIVベクターの開発の理想的な標的となる。ポリオウイルスワクチンは粘膜部位に投与することができ、扁桃組織に最初に接種した後にポリオはパイエル板中で複製するので、組換えポリオワクチンは、HIV疾患用の組換えウイルスワクチンに関する好ましい実施形態である。
【0129】
感染性ポリオウイルスのcDNAの有用性は、RNAの複製能力を害さずに欠失させることができるポリオウイルスゲノムの領域の、さらなる調査を助長している。(Racaniello、1981)(Semler、1984)。これらのRNA分子またはレプリコンは、細胞中に導入すると自己複製する性質を有する。KaplanおよびRacanielloによる初期の研究は、大部分のP1領域を含む欠失があるポリオウイルスのレプリコンを記載している。(Kaplan、1988)。1.5kbまでのHIV-1gag、polまたはenv遺伝子の断片を含むポリオウイルスのレプリコンが、実験室の研究者達の主題となっている。(Choi、1991)。P2-およびP3-タンパク質をコードする残りのキャプシド配列間に翻訳のリーディングフレームが維持されるように、外来性遺伝子が挿入された。細胞中へのこれらのRNAのトランスフェクションによって、これらのゲノムの複製、および側面のキャプシドタンパク質との融合タンパク質としての外来性タンパク質の発現がもたらされた。(Kiyono、1996)
【0130】
組換えタンパク質の発現用のより大きな遺伝子を収容するために、ポリオウイルスのcDNAが改変されている。これらのベクター中には、ポリオウイルスの完全なP1領域が欠失しており、HIV-1gagの完全な遺伝子(約1.5kb)を含むレプリコンが構築された。細胞中へのこのレプリコンのトランスフェクションによって、HIV-1Gag前駆体タンパク質、Pr55gagの生成がもたらされ、これは遠心分離後に細胞の上清から溶出させ、電子顕微鏡を用いて目に見える状態にした。(Porter、1996)(Kiyono、1996)
【0131】
結論として、ポリオウイルスのレプリコン系を使用することによって、グリコシル化タンパク質をコードする遺伝子を含めた広く様々な外来性遺伝子を発現させることが可能である。(Kiyono、1996)
【0132】
C.2.4 mRNAの発現
宿主細胞の活性化によって、メッセンジャーRNA(mRNA)へのウイルスDNAのHIV転写がもたらされる。HIVではウイルスRNAは、メッセンジャーおよびゲノムRNAとして働く。ウイルスDNAはmRNAに転写される。ウイルスmRNAは細胞質中に移動し、そこでウイルスmRNAは細胞内リボソームおよび細胞のトランスファーRNAと結合してウイルスタンパク質を生成する。メッセンジャーRNAは、ウイルスの遺伝情報を伝達する安定した鎖状の遺伝物質である。メッセンジャーRNAは、その安定性および有効性のため免疫原性組成物中に使用するのに魅力的である。メッセンジャーRNAは、タンパク質をコードする際にDNAより有効である。
【0133】
RNAまたはDNAは、様々なタンパク質をコードする。中間ステップはmRNAの生成である。タンパク質またはタンパク質群のmRNAは、それをコードするDNA鎖(またはRNA鎖)と同一である、ただしDNA中のチミジンはRNA中のウラシルに置換されている。さらにDNA中では、糖部分はデオキシリボースであり、RNA中では糖部分はリボースである。mRNAはキャップ化のプロセスを経て、この場合5'端では7-メチルグアノシン三リン酸が加えられ、3'端では約100塩基のポリ(A)テールが3'端の非翻訳セグメントに加えられる。リボソーム転写のためのリボソームと末端の尾部シグナルの正確な結合に、キャップが必要である。転写はDNAがmRNAに「転写する」プロセスである。翻訳はmRNAがタンパク質に「翻訳される」プロセスである。
【0134】
免疫原性組成物内のmRNAに対して多くの理論上の利点がある。利点には以下のものがあるが、これらだけには限られない:(1)mRNAは核膜を越える必要がない;(2)mRNAは核質に入る必要がない;(3)mRNAは宿主DNA中に組み込む必要がない;(4)mRNAは転写のプロセスを経る必要がない;(5)宿主の転写酵素およびリボソームは、mRNAのタンパク質への翻訳を可能にするために細胞の細胞質内のmRNAに利用可能である;(6)細胞内DNAと比較して、mRNAに関する迅速な免疫応答が示されるべきである、なぜならウイルスタンパク質の生成における多くのステップが回避されるからである;(7)mRNAは数回再使用することができ、したがって多くのタンパク質配列を1つのmRNA鋳型から翻訳することができ;したがって少量のmRNAのみが細胞の細胞質に入る必要がある;および(8)細胞内のタンパク質生成はmRNAと共に行われるので、これらのタンパク質は細胞表面上のMHCクラスIタンパク質と会合し、CD8+細胞傷害性T細胞応答を誘導する。
【0135】
mRNAの生成は簡単である。特定のHIVタンパク質の特定のアミノ酸配列の知識によって、これと相補的なRNA配列を推測することができる。次いでRNA配列は、それぞれ5'および3'端においてキャップ化および尾部付加することができる。さらにmRNAは、当技術分野で知られているように自動式核酸塩基配列合成によって生成することができる。
【0136】
C.2.5 裸DNA/RNAに基づく組成物に関するCD8+T細胞応答の増大
DNAに基づく組成物は、従来のワクチンに優るいくつかの考えられる利点を与えることができる。1回の投与、長時間続く免疫、細胞仲介型免疫、および体液性応答を組換えDNA技術によって導入されるウイルス粒子の細胞内生成によって実現させることができる。対照的に、エンドサイトーシスによって内在化されるタンパク質に基づくサブユニットワクチンは一般に、細胞をCD8+T細胞認識に関して過敏にすることはない。
【0137】
HIVおよび他のウイルス病原体の1つの回避戦略は、非免疫原細胞中への浸透および複製である。例えば、上皮細胞はChlamydia種およびRickettsia種によって侵襲され、一方で肝細胞はPlasmodium種およびL.monocytogenesの標的である。前に記載したように、HIVはCD4細胞を主に標的とするが、中枢神経系などの他の非免疫原組織が侵襲される。高いCD8細胞傷害性応答を刺激する際に、広範囲の標的細胞が免疫系によって認識されうる。前に記載したように、すべての核細胞上に存在しCD8+T細胞に任意の型の感染宿主細胞を検出させることができるMHCクラスI分子と関連して、CD8+T細胞は抗原を認識する。対照的に、CD4+T細胞は、MHCクラス2発現宿主細胞に制限され、したがってより一層範囲が限られる。マクロファージ、樹状細胞およびB細胞は、MHCクラスIおよびMHCクラスII分子を有する。さらに、皮膚のランゲルハンス細胞は、クラスIタンパク質とクラスIIMHCタンパク質の両方を有する。(Kaufmann、1996)。したがって、CD8+T細胞応答を増大させる成分が本発明に関して企図される。図6中に示すように、様々な成分を裸DNA/RNAの実施形態と組み合わせてCD8+T細胞応答を増大させることができ、そのいくつかはここに記載する。
【0138】
例えば、細菌由来のDNA内の特定の低メチル化CpGモチーフは、DNA系ワクチンの独特の特徴であるTh1型応答の誘導に部分的に関与する、強いアジュバント効果を示すことができることが実証されてきている。大部分の従来のワクチンと異なる、DNA系ワクチンの有意な特徴は、免疫処置した動物中の体液性および細胞仲介型応答を刺激する独自の能力である。強いTh1型免疫応答を誘導する能力は非常に重要である、なぜなら多くの病原体(ウイルス、細菌、および寄生虫)に関して、抗体の存在ではなく細胞仲介型の免疫が保護と関係があるからである。(Lewis、1999)
【0139】
細胞傷害性T細胞活性を増大させる他の方法は、mycobacterium tuberculosisのヒートショックタンパク質70(HSP70)と、そのサブユニットをコードする実際の裸DNA/RNAを結合させることである。HSP70は、タンパク質のフォールディング、移動、および分解において働くサイトゾルHSPである。(Chen、2000)。HSP反応性T細胞は、複合ペプチドと反応することによって強いヘルパー効果を発揮することができる;HSPはTヘルパー前炎症応答を誘導することができ、TNF-αおよびIFNの分泌を誘導することができる。(Chen、2000)。免疫学的には、カルレティキュリン(CRT)、小胞体中に位置するCa2+結合タンパク質はHSPと関係がある。カルレティキュリンは、抗原のプロセシングおよび提示と関係がある輸送体によって、小胞体に送達されたペプチドと結合する。(Wen-fang Cheng、2002)。CRTはCD8活性を増大させる。
【0140】
抗原をプロテアソームで分解することによって、MHCクラスIの提示を増大させることができる。(Chien-fu-hung、2003)。したがって、細胞傷害性T細胞活性を増大させる他の方法は、γ-チューブリンとDNA/RNA配列を結合させることである。中心体は、プロテアソーム中に豊富な細胞画分である。中心体は、有糸分裂および微小管の生成において重要である。中心体は、MHCクラスI抗原のプロセシングに関する重要な位置でもある。γ-チューブリンとDNA/RNAが結合することによって、中心体へのタンパク質の細胞内局在がもたらされ、CD8+T細胞免疫応答が増大する。(Chan、2000)。同様に、本発明の組成物は、キャプシドタンパク質のDNA/RNA配列と結合したライソゾーム結合膜タンパク質(LAMP-1)をコードするDNA/RNA配列を使用して、B細胞応答を増大させることができる。(Chen、2000)(Chien-fu-hung、2003)
【0141】
C.2.6 サブユニットに基づく組成物に関するCD8+T細胞応答の増大
前に記したように、サブユニットタンパク質ワクチンは、細胞をCD8+T細胞認識に関して過敏にすることはできない。しかしながら、完全なタンパク質でCTL応答を初回抗原刺激することは、ISCOM(抗原をサイトゾルに送達するウイルスタンパク質を含み細胞傷害性T細胞の誘導を可能にする、脂質ミセルのマトリクス)またはリポソームなどの免疫刺激複合体中に抗原を取り込ませることによって行われてきている。さらに、動物中のクラスIMHC経路の抗原提示細胞を増大させるために、カチオン性脂質が使用されてきている。使用した1つのカチオン性脂質は、DOTAP(N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム硫酸メチル)であり、これはDNAトランスフェクション用に使用される市販のカチオン性脂質である。標的細胞を過敏にすることができる、他のカチオン性脂質が市販されている。これらの脂質は、1つまたは複数の正に帯電したアンモニウム基と結合した2つの長い疎水性アルキル鎖を有するDOTAPと構造が類似している。カチオン性脂質に関して示された作用機構は、全体的な正電荷を有するマクロ分子-脂質複合体と負に帯電した細胞表面の間の相互作用、次に細胞膜との融合を含む。対照的にpH感受性リポソームは、酸性環境のエンドソームと接触すると不安定になり、エンドソーム膜を破裂および/またはそれと融合してその中身を細胞質に放出すると考えられる。(Walker、1992)
【0142】
ISCOMは、植物中に見られる複雑な配糖体であるサポニンを含む。サポニンは、アジュバントの性質を有する。サポニンは、約8〜10個の単糖の親水性オリゴ糖配列を有する。ISCOMの調製は当業者に知られている。ISCOMはステロイドまたはトリテルペンも有するので、それらの基本構造は両親媒性である。これによってISCOMは、疎水性タンパク質と結合した脂質マトリクスを形成することができる。ISCOMの脂質性によって、標的細胞との膜融合が可能になる。ISCOMの脂質マトリクスに懸濁したタンパク質は標的細胞に内在した状態になり、免疫学的な除去を施される。(Kiyono、1996)
【0143】
サブユニットワクチンの可溶性タンパク質とDOTAPの間の複合体の形成は、負電荷のタンパク質とカチオン性脂質の間のイオン性相互作用によって起こる。したがって、サブユニットワクチンの熟成または改変は必要とされない。したがって結合は、細胞への施用あるいは実験動物またはヒトへの注射前の、DOTAP溶液中のサブユニットタンパク質または他のカチオン性脂質の混合のみを必要とする。したがってカチオン性脂質は、抗原のクラスIMHC提示をもたらす細胞内事象の試験用に容易に利用可能な送達媒体であり、それらはウイルスに対するCD8+T細胞応答を増大させるための組換えウイルスの代替として働くことができる。(Walker、1992)
【0144】
ISCOMまたは脂質担体はアジュバントとして働くが、最小の毒性である。それらはタンパク質およびペプチドを細胞の細胞質中に充填し、ペプチドに対するクラスI限定型T細胞応答を可能にする。したがって、それらをサブユニットワクチンと共に使用して、CD8活性を増大させることができる。細胞の細胞質へのアクセスを得るために、ISCOMの脂質ミセルは前述のように細胞膜と融合し、ISCOM内に捕捉された粒子は小胞体に輸送することができる。ひとたび小胞体内に入ると、これらの粒子は新たに合成されたMHCクラスI分子と結合する。最終的なタンパク質修飾のために、これらの粒子はゴルジ装置を通過する。次いでこれらは、ペプチドMHCクラスI複合体として細胞表面に輸送される。(Parham,Peter、The Immune System、Ch.12(2004))
【0145】
したがって、本発明の組成物は好ましくはISCOM、リポソーム中に取り込ませ、および/またはカチオン性脂質中に溶かして、T細胞活性を増大させるか、あるいはCTL応答を初回抗原刺激しなければならない。
【0146】
C.3.結論-調製の方法
したがって、本発明はタンパク質系組成物と核酸系組成物の両方を含み、これらを使用してキャプシドタンパク質上のCypA結合部位に対する免疫応答を誘導することができ、それに対する免疫記憶を生み出すことができると思われる。核酸系組成物はDNA、RNA、またはmRNAであってよい。組換え核酸担体は、細菌またはウイルスであってよい。組成物はCD8+T細胞応答を増大させるための、1つまたは複数の成分を含むことが好ましい。
【0147】
タンパク質系組成物を当技術分野で知られている方法を使用して開発し、投与することができる。核酸を主成分とする組成物またはワクチンを動物に投与する目的のためには、したがって市販の遺伝子ガンが好ましい送達法である。この技法は、DNAコーティング金粒子を表皮および真皮内の細胞に直接向けるように設計された装置を使用する。DNAは樹状細胞中に直接入り、CD8+T細胞の直接的な初回抗原刺激をもたらす。(Chen、2000)。特に、DNAコーティング金ビーズによる遺伝子ガン送達はしたがって、核酸に基づくサブユニット組成物に関するCD8+T細胞免疫応答を増大させる組成成分を用いる使用に好ましい可能性がある。(Chien-Fu Hung、2003)。核酸に基づく組成物に関する投与の経路は、図7および以下に要約する。
【0148】
D.他の代替実施形態および免疫刺激因子の記載
本発明によって企図される免疫応答は、免疫応答を刺激する非特異的または特異的物質を使用することによって増大させることができる。本発明は、他の実施形態として以下に記載するものを含めた、適切な免疫刺激因子またはアジュバントと混合させることができる。このような組成物は、用途に応じて適切に使用することができる。当技術分野で知られている一般的な刺激因子またはアジュバントには、不完全フロイントアジュバント、リポソームなどがある。好ましい実施形態は、一般的なアジュバントおよび/または本明細書でさらに記載する組成物から採取された、1つまたは複数の刺激因子を含む。さらに、DNAは補体活性を増大させ、したがってDNAワクチンおよびアジュバントとして同時に使用することができる。(DPTワクチンは3つの別個のワクチン粒子から構成される。百日咳成分は他の2個のアジュバントとして働く。(Parham、:2004)。HIV疾患用の(好ましくはCypA結合部位の配列をコードする)DNAワクチンがCypAサブユニットワクチンのアジュバントとして働くと思われる、類似の状況がここで存在する。)
【0149】
組換え細菌またはウイルスベクターの免疫原性を増大させるために、細菌の原形質膜あるいはウイルスのタンパク質コーティングおよびまたはエンベロープ構造(ウイルスがエンベロープを有する場合)から、シアル酸を除去する必要がある。ノイラミニダーゼを用いた処理によって、細菌またはウイルスのタンパク質構造を変えずにシアル酸残基が効果的に除去されると思われる。
【0150】
他の実施形態では、組成物は、マンノースまたはマンナンから構成される多糖と共有結合することができるか、あるいは他の形式で結合することができる。結合またはカップリングは、当業者に知られている方法を使用して実施することができる。マンノースは、微生物および病原菌のみで見られヒト身体内では通常見られない糖である。マンノース結合タンパク質(MBP)はコレクチン、コラーゲン状構造の領域を含むC型レクチンである。それは正常なヒト血清中に存在し、1個のコラーゲン様3本鎖らせんおよび3個のC末端球状糖認識ドメイン(CRD)を形成する、3つのポリペプチド鎖からそれぞれ構成されるサブユニットからなる。6個のサブユニットが、古典的補体経路のC1qのチューリップ様構造のブーケと似た、全体構造を一緒に形成する。MBPと糖の結合によって古典的補体経路が開始されて、C1r2C1s2が活性化される。これは末端膜障害複合体の挿入によって直接、あるいは微生物表面上での補体沈殿によるオプソニン作用によって補体の殺傷をもたらす可能性がある。MASP(1および2)セリンプロテアーゼと呼ばれる他の新たに記載されたセリンプロテアーゼによって、MBPはC2およびC4を活性化することもできる。したがってMBPは、コラーゲン状部分と食細胞のコレクチン受容体の結合によっておそらく仲介される、補体非依存性のオプソニン作用活性も示す。(Presanis J.S.ら、Biochemistry and Genetics of Mannan-binding Lectin(MBL)、Biochemical Society Transactions、Vol.31、pp748〜752(2003)。その表面にマンノースまたはマンナンを有する任意の生物が、レクチンの補体活性化経路を刺激する。このような多糖と結合した組成物は、血清中のマンノース結合レクチンと結合し、レクチンの補体系経路を活性化させる。したがって、この他の実施形態は、ワクチンに対する全体的な免疫原性応答を増大させると思われる。
【0151】
さらに他の実施形態では、補体活性化第2経路を刺激または活性化する物質と、組成物を組み合わせることができる。例えば、いくつかの形のテイコ酸が補体活性化第2経路の強力な活性化物質であることは知られている。(Winkelstein J.A.、J.of Immun.、Vol.120、pp174〜178(1978))。さらに、酵母菌から得られるザイモサンは、サイトカインを誘導することができ、補体系の他の経路に関する免疫応答を刺激することができる。ザイモサンはオプソニン作用有りまたは無しでマクロファージによる食作用を受け、したがって補体活性化第2経路を活性化する有用な免疫原性を有する。ザイモサンとマクロファージの相互作用によって、Th-1応答が増大すると考えられる。CD4細胞は、Th-1細胞とTh-2細胞に分けることができる。Th-1細胞は、IL-2を生成することによって細胞傷害性T細胞を活性化し;一方Th-2細胞は、IL-4およびIL-5を主に生成することによってB細胞を活性化する。ザイモサンによって生じるTh-1応答のレベルは、C3切断断片、C3bおよびiC3bによって制御される。増幅したC3bはザイモサンの受容表面上に沈殿し、マクロファージ、樹状細胞または他の抗原提示細胞を集める。マクロファージ、樹状細胞および抗原提示細胞は、ザイモサンをオプソニン処理した後、および抗原特異的マクロファージ活性化が生じた後に、Th-1細胞に対する抗原提示を行う。(Fearon D.T.ら.、Proc.Natl.Acad.Sci、Vol.74、pp1683〜1687(1977))。したがって、ザイモサンはアジュバントとして使用することができ;ザイモサンはHIV疾患に対する体液性および細胞仲介型免疫応答を増大させる。したがって、組成物は、テイコ酸またはザイモサンなどの、補体活性化第2経路を刺激する物質と共有結合することができるか、あるいは他の形式で結合することができる。
【0152】
HIV特異的DNAワクチンに対するザイモサンのアジュバント効果は、血漿ベクター(pCMV160IIIb)を使用して近年実証された。実験用マウス中に、プラスミドベクターをザイモサン有りおよび無しで接種した。プラスミドベクターのみに対してザイモサンをプラスミドベクターと共に接種すると、より高レベルの体液性免疫応答およびHIV特異的遅延型過敏症(DTH)応答が観察された。HIV特異的細胞傷害性T細胞リンパ球活性も増大した。これらの効果はその(ザイモサン)増加、および補体活性化、および特に第2経路の活性化によるマクロファージ、樹状細胞、または抗原提示細胞の活性化の結果に基づくものであると示唆される。これらの結果は、有効な免疫原性刺激因子としてのザイモサンを示唆する。(Ara、2001)
【0153】
したがって、組成物の免疫原性を増大させるために、マンノース、テイコ酸、ザイモサン、またはこれらのいくつかの組合せを、サブユニットワクチンのタンパク質成分と結合させることができる。多糖は16の別個の糖単位からなることが好ましい。(Pangbum,Michael K.、Immun.、Vol.142、pp2766〜2770(1989))。サブユニットワクチンの糖/アジュバント要素の好ましい供給源は、酵母細胞、Cryptococcus neoformans血清型Cの多糖類カプセルであると思われる。(Sahu Arvindら、、Biochem.J.、Vol302、pp429〜436(1994))。この酵母細胞は、それぞれのトリマンノース反復単位由来の4個の分岐キシロース糖を示す。C3補体要素のチオエステル部位は、この特異的な糖配列に関する強い優先性を示す。これによって、C3a断片およびC3bへのC3の切断がもたらされる。C3b分子は、全3個の補体経路の焦点である。
【0154】
さらに、すべてのグルコース分子および多糖を組成物から除去すべきである。細胞培養物にインシュリンを加えることによって、原形質膜および細胞の細胞質への細胞外グルコースの輸送が容易になると思われる。遊離可溶性グルコース分子は、C3b沈殿の速度および程度を阻害する。(Sahu Arvind、1994)
【0155】
他の実施形態では、ヘパリンの効果を阻害することができる。ヘパリンは、有効なH因子機能に必要な補助因子である。(Maillet,Francoiseら、Mol.Immun.、Vol.25、pp917〜923(1988))(Maillet,Francoiseら、Molecular Immun.、Vol.20、pp1401〜1404(1983))。さらにCypAは、宿主細胞と結合するとき結合パートナーとしてヘパリンを使用する。(Saphire,Andrew C.S.ら、European Molecular Bio.J.18:6771〜6785(1999))。前述のように、H因子は補体活性化第2経路の主要な制御タンパク質である。補体活性化第2経路は、微生物またはワクチンに応答する免疫系の最初の部門である。プロタミンはヘパリンと結合し、これを使用して血液凝固阻止を施す患者中の有効なヘパリンを減少させる。(Furie,Bruce、Oral Anticoagulant Therapy、Hematology Basic Principles & Practice、Ch.121(3rd ed.2000))。最近は、低毒性のヘパリンアンタゴニスト、低分子量プロタミン(LMWP)が入手可能となっている。この実施形態のプロタミン、あるいは好ましくはLMWPは、補体活性化第2経路を制御する際のH因子の活性を弱めるために、組成物の要素として含ませることができる。(Liang J.Fら、Biochemistry、Vol.68、pp116〜120(2002))。あるいは、ヘパリナーゼは酵素的にヘパリンを分解することが知られている。
【0156】
デキストランとして知られる、分岐型の部分的に加水分解された多糖であるグルコースは、有効な血漿増量剤用に使用されてきている。(Hoffman,Ronald、Hematology Basic Principles and Practice、2177(3rd ed.2000))。硫酸デキストランは、多糖デキストランの硫酸エステルのナトリウム塩である。5×103を超える分子量を有する可溶性硫酸デキストランは、補体活性化第2経路の誘導物質である。デキストラン中の100個のグルコース残基当たりの硫酸基の数が、補体活性化第2経路中のデキストランの活性効力を決定した。硫酸化の最適程度は、50〜60個のSO4/グルコース分子100個であった。(Burger,R.ら、Immunology、Vol.29.pp549〜554(1975))
【0157】
硫酸化セファデックス(SS)は、架橋した不溶性の形のデキストランである。可溶性の硫酸デキストランと同様に、SSは補体活性化第2経路、および古典的経路も活性化する。3個の変数が、両方の補体活性化経路に関するSSの活性を制御する:
(1)硫酸化の量;15.6重量%まで硫酸化含量が高くなると、さらに高い補体活性化が生じた。2.43%未満の硫酸化含量に関しては、補体活性化は示されなかった;
(2)SSの濃度;高濃度は40〜50μg/mlの最大C3代謝回転で補体活性化をもたらす;および
(3)温度;4℃での全体の活性消失と共に、最大C3代謝回転が37℃において示された。
(Burger,R.ら、Immunology 33:827(1977))。可溶性と不溶性の両方の形のデキストラン(>5000分子量)が、補体活性化第2経路を活性化する。これはH因子の効果を阻害することによって行われる。(Burger,R.ら、European J.Immunology、pp.291〜295(1981))。低分子量硫酸デキストラン(<5000)はH因子の結合を増大させ、したがってそれは、補体活性化第2経路の活性を制限する。(Seppo Meriら、Proc.Natl.Acad.Sci、Vol87、pp3982〜3986(1990)。DNA様ヘパリンも、H因子の結合を増大させる。(Gardner,William D.、Biochemical and Biophysical Research Communications、Vol.94、pp61〜67(1980))
【0158】
したがって、免疫原性を増大させるために、50〜60個のSO4/グルコース分子100個であり5000を超える分子量を有する硫酸デキストランを、化合物中に含ませることができる。15.6重量%のSO4を有するSSと同様に、37℃の温度において40〜50μg/mlの濃度で、化合物の免疫原性が増大すると思われる。低分子量デキストランは配合物中には含まれないと思われる、何故ならそれは、H因子の結合を増大させ補体活性を低下させるからである。
【0159】
さらに他の実施形態では、C3コンバターゼを安定化させる物質を本発明と共に使用することができる。全3個の補体経路がC3bの生成をもたらし、これが微生物の表面またはこのような免疫原性組成物中に存在する微生物の要素と共有結合する。C3bはC3コンバターゼとして知られる酵素によって生成される。蛇タイコブラに由来するコブラ毒因子(CVF)は、この酵素を安定化させる。(Alper,C.A.ら、Science、Vol.191、pp1275〜1276(1976)。1.5分である内因的に生成する補体活性化第2経路のC3コンバターゼ(C3b,Bb)の半減期と対照的に、CVFC3b,BbC3/C5コンバターゼの半減期は7時間である。C3b,BbはH因子によって分解され、C3bはH因子とI因子の併用作用によって不活性化される。対照的にCVFC3,Bb因子は、すべての制御補体タンパク質に耐性がある。(Kock,Michael A.ら、J.of Biol.Chemistry、Vol.279 pp30836〜30843(2004))。C3b,BbはC5に作用するために他のC3bを必要とし、一方CVF,BbはC5を直接切断することができる。したがってCVF,Bb酵素は、C3およびC5を絶えず活性化する。(Kock、2004)
【0160】
コブラ毒中のCVFの生物学的機能は、血流中への毒性の毒要素の進入を容易にすると考えられている。これは血管透過性を増大させるアナフィラトキシンC3a、C5aおよびBbの放出を引き起こす補体活性化によって行われる。(Vogel,Carl W.、Immunoconjugates、Ch.9(1987))。それがコブラ毒に由来するにもかかわらず、CVFは非毒性タンパク質であり;CVFは他の酵素、ポリペプチドなどから、毒素を含むコブラ毒から単離することができる。
【0161】
したがってCVFの投与によって、C3bの爆発的生成がもたらされる。(Vogel、1987)(Kock、2004)。図8は、C3とCVFの間の構造相同性を例示する。微生物の表面上のC3bは、リンパ節中の濾胞樹状細胞、ならびに末梢循環中およびリンパ節の胚中心内のT細胞およびB細胞によって認識される。C3bは強力なオプソニンである。オプソニンは、同時に免疫系のいくつかの部門を誘導する。(Hoffman,Ronald、Hematology Basic Principles and Practice、Ch.27(3rd ed.2000))。したがって他の実施形態では、CVFは組成物の要素として使用することができる。
【0162】
CVFの好ましい形はdCVF(De-α-ガラクトシル化CVF)である。(Gowda,D.C.ら、「Immunoreactivity and function of Oligosaccharides in Cobra Venom Factor」、J.of Immun.、pp.2977〜2986、(Dec21、1993))。天然に存在するCVFは、α-ガラクトシル化LeX抗原エピトープ、Galα1-3Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1を含むフコシル化2分岐複合型N結合鎖である、独特な多糖によって特徴付けられる。この多糖の除去は、Ph8.0で18〜23時間37℃において、ペプチド-N-グリコシダーゼF(N-グリカナーゼ)と共にCVFをインキュベートすることによって行うことができる。CVF由来のこの新規の多糖の除去は必要不可欠である、何故なら1%のヒトIgGが、CVFの末端Galα1-3Galβ1配列と反応するからである。しかしながら、この多糖の除去が分子の補体固定性に干渉することはなく、分子の短い半減期をもたらすこともない。dCVFは免疫原性組成物を含む多糖単位と共有結合すると思われる。
【0163】
他の実施形態では、ニッケル化合物を組成物に加えることができる。レクチンおよび補体活性化第2経路のC3コンバターゼ活性を増大させる際に、ニッケルが有効であることは示されてきている。(Fishelson,Z.ら、J.of Immun.、Vol.129、pp2603〜2607(1982))。平均的成人の平均的ニッケル摂取は、1日当たり60〜260マイクログラムであると推測され、環境上の健康参照用量は1日当たり体重1キログラム当たり0.02ミリグラムである。(mg/kg/d)(U.S.EPA、1986)。本発明は好ましくは塩化ニッケルの形で、充分に参照用量未満のほぼ平均的な1日当たりの摂取量のニッケルを含むと企図される。したがって本発明は、免疫応答を増大させるためにニッケルを使用して生成することができる。
【0164】
E.要約
本発明のワクチン剤を構成する組成物を調製するために、精製、合成、または遺伝子工学の知られている方法を使用することができる。当業者はCypAのキャプシドタンパク質結合部位の断片を単離し精製することができ、あるいはそれををコードする配列を調製することができる。タンパク質断片、裸DNA/RNA、組換えDNA/RNA、またはメッセンジャーRNAを、担体または賦形剤などの、予想される投与法に適した医薬組成物中に取り込ませることができる。本発明に従った免疫応答が望ましい動物または被験体に、本発明の組成物を投与することができる;治療上有効な用量は、望ましい程度の特異的な免疫抑制を後進させるに必要な量であり、クロム放出アッセイ、細胞内サイトカインアッセイ、リンパ増殖アッセイ(LPA)、インターフェロンγ(IFN-γ)ELISpotアッセイ、およびMHCテトラマー結合アッセイなどの標準的手段を使用して決定されると思われる。MHCテトラマー結合アッセイが好ましい。これらと同じ実験用試験を施用して、非感染状態の被験体の免疫応答が測定されると思われる。
【0165】
免疫原性組成物の分析および開発は、評価のために広範囲の量の不活性微粒子を取り込まなければならない。動物試験は、大きさ、種、および免疫原性の違いを考慮しなければならない;ヒトと動物の間の免疫学的差異によって、動物試験を毒性分析に委ねる可能性があると予想される。臨床試験は、小個体群における安全性および投与、第2相の数百のボランティアにおける安全性および免疫原性から、大規模な有効相までの範囲の少なくとも標準的な3相モデルを含む。臨床試験は、他の免疫抑制条件、妊娠、活性薬剤の使用に関する排除などの、慣例と同様の適切な排除基準を含むべきである。サブユニットタンパク質を用いる試験に関する開始用量は、10マイクログラム/若年系および20マイクログラム/成人系であってよい。裸DNAワクチンに関しては、1マイクログラム/全年齢系の開始用量が適切であると思われる。
【0166】
投与は様々な経路、例えば経口、口腔内、経粘膜、舌下、経鼻、直腸内、経膣、眼内、筋肉内、リンパ内、静脈内、皮下、経皮、皮内、腫瘍内、局所、肺内、吸入、注射、または体内移植などで行うことができる。様々な形の組成物は、カプセル、ゲルキャップ、錠剤、腸溶カプセル剤、カプセル化粒子、散剤、坐薬、注射、軟膏、クリーム、インプラント、パッチ、液剤、吸入薬またはスプレー剤、全身用、局所用、または他の経口媒体、溶液、懸濁液、輸液などを非制限的に含むことができる。HIV感染に関する最初の標的のいくつかは、皮膚および直腸および膣粘膜中の上皮細胞およびランゲルハンス細胞であるので、したがって送達の好ましい実施形態は、直腸および/または膣座薬と組み合わせた皮膚に関するものである。HIVは直腸および膣交合によって主に罹患する。したがって、ワクチンの直腸および/または膣座薬投与は好ましい投与法であると思われる。さらに本発明は、天然、組換え体および突然変異形、断片、融合タンパク質、ならびにサイトカインの他の類似体および誘導体を含めたサイトカイン、混合物、他の生物学的活性がある物質および配合添加剤などの他の治療物質と組み合わせることができる。注射用には、リンガー溶液または生理食塩水バッファーなどの水溶液に溶かした配合物が適切である可能性があることを、当業者は理解しているであろう。リポソーム、乳濁液、および溶媒は送達媒体の他の例である。経口投与は、カプセル、錠剤、液体、ピルなどに適した担体、例えばスクロース、セルロースなどを必要とすると思われる。
【0167】
前述の記載事項は本発明の特定の実施形態を言及するものであるが、多くの変更形態を本発明の精神から逸脱せずに作製することができることは理解されよう。添付の特許請求の範囲は、本発明の真の範囲および精神の範疇にあるように、このような変更形態を含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】ヒト補体カスケード経路の図である。
【図2】本免疫原性組成物中のCypAエピトープの実施形態のカテゴリーを表す図である。
【図3】組換えDNAが利用できる例示的な担体のグラフである。
【図4】組換え細菌組成物またはワクチンへのHAGPIA遺伝物質をコードしている遺伝物質のスプライシングを示しているチャートである。
【図5】組換えウイルス組成物またはワクチンへのHAGPIA遺伝物質をコードしている遺伝物質のスプライシングを示しているチャートである。
【図6】裸のDNA組成物用の免疫刺激剤のリストである。
【図7】通常のDNA投与経路を記載する図である。
【図8】C3およびCVFの鎖状構造およびそれらの関係を示している概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIVに対する免疫反応を導き出す組成物であって、薬剤として許容される担体中にHIVキャプシドタンパク質上の少なくとも1つのCypA結合部位の有効量を含む組成物。
【請求項2】
前記結合部位は組換え担体によって発現される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組換え担体はウイルスである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ウイルスはヘルペスウイルスである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ヘルペスウイルスはエプスタイン-バーウイルスである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ウイルスはポリオウイルスである、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
ノイラミニダーゼ、トリプシンまたは他の適当なシアル酸を除去する酵素で処理されている、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
前記組換え担体は細菌である、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
前記細菌はBacillus Calmette Guerinである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記細菌はListeria monocytogenesである、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
ノイラミニダーゼ、トリプシンまたは他の適当なシアル酸を除去する酵素で処理されている、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
前記組換え担体は酵母である、請求項2に記載の組成物。
【請求項13】
前記酵母はSaccharomyces cerevisiaeである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記結合部位はメッセンジャーRNAによって発現される請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
HIVに対する免疫反応を導き出す医薬品を調製するための請求項1に記載の組成物の使用。
【請求項16】
動物において免疫反応を導き出す方法であって、薬剤として許容される担体中にHIVキャプシドタンパク質の少なくとも1つのCypA結合部位エピトープの有効量を含む組成物を投与することを含む方法。
【請求項17】
前記組成物は経口、口腔内、経粘膜、舌下、経鼻、直腸内、経膣、眼内、筋肉内、リンパ内、静脈内、皮下、経皮、皮内、腫瘍内、局所、肺内、吸入、注射、または体内移植により投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物はカプセル、ゲルキャップ、錠剤、腸溶カプセル剤、カプセル化粒子、散剤、坐薬、注射、軟膏、クリーム、インプラント、パッチ、液剤、吸入薬またはスプレー剤によって投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
免疫刺激剤と組み合わされている、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
前記免疫刺激剤がアジュバントである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記免疫刺激剤が前記組成物に結合できる形の少なくとも1つのマンノースから構成される多糖類を含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
前記免疫刺激剤は前記組成物に結合できる形のタイコ酸を含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項23】
前記免疫刺激剤は前記組成物に結合できる形のザイモサンを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項24】
前記免疫刺激剤は前記組成物に結合できる多糖類カプセルを有するcryptococcus neoformans血清型Cを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項25】
前記免疫刺激剤はヘパリンに結合できる形のプロタミンを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項26】
前記免疫刺激剤はヘパリナーゼを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項27】
前記免疫刺激剤はC3bの生成を強化するように適応された形のコブラ毒因子を含む請求項19に記載の組成物。
【請求項28】
前記コブラ毒因子はdCVFである請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記免疫刺激剤はC3コンバターゼ活性を強化するように適応された形のニッケルを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項30】
前記免疫刺激剤はH因子を吸収できる硫酸化ポリアニオンを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項31】
H因子を強化できる前記組成物中のポリアニオンは前記組成物から実質的に除去されている、請求項1に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−528368(P2007−528368A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536866(P2006−536866)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2004/035210
【国際公開番号】WO2005/040349
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(506137619)エヌエムケー・リサーチ・エルエルシー (5)
【Fターム(参考)】