説明

シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンの製造方法

本発明は、ベンゼンからシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを製造する方法であって、次の工程:a.金属触媒の存在下でベンゼンを部分水素化してシクロヘキセンおよび未反応ベンゼンを含む混合物を生成する部分水素化工程、b.工程aで生成された混合物を、水和してシクロヘキサノールを含む混合物を生成する、および/または、金属触媒の存在下で酸化してシクロヘキサノンを含む混合物もしくはシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む混合物を生成する、工程、c.工程bで得られた、未反応ベンゼン、シクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンを含む混合物から、シクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンを分離する工程、d.工程cで得られた未反応ベンゼンを含む混合物を金属触媒の存在下で水素化してシクロヘキサンとする水素化工程、および、e.工程dで生成されたシクロヘキサンを含む混合物を酸化してシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む混合物を生成する酸化工程、を含む、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ベンゼンからシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを製造する方法に関する。
【0002】
シクロヘキサノールは、例えばアジピン酸の製造に使用され、また、シクロヘキサノンはε−カプロラクタムの製造に使用可能である。それらはいずれもナイロンの中間体である。ベンゼンからのシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンの製造には、水素化反応のみならず水和反応および/または酸化反応を必要とする。そのような水素化反応並びに水和反応および/または酸化反応を行うために、2つの異なる方法が知られている。
【0003】
シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンの製造方法として知られる1つの方法は、ベンゼンを水素化してシクロヘキサンとした後、シクロヘキサンを酸化してシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンとする工程を含む。シクロヘキサンを得るための、ベンゼンのそのような水素化は、気相または液相で行われる。気相では触媒からのシクロヘキサンの分離がより容易であることから、気相法が好ましい。そのような気相法は、例えばGB 799,396号明細書により知られており、そこにはベンゼンの接触水素化反応が開示されている。この水素化工程は、シクロヘキサンへの選択率が99%超で、ベンゼンの転化率が100%となるように実施することができる。その後のシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへの酸化反応は、例えばEP−A−92867号明細書により知られている。この特許公報には、まず分子酸素を含む気体によりシクロヘキサンを酸化してシクロヘキシルヒドロペルオキシドを含む酸化混合物を生成し、その後、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンに分解する酸化プロセスが記載されている。そのような酸化プロセスのシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへの選択率は86%〜91%である。したがって、これらの公知の方法では、ベンゼンの初期量から計算した、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへの総合選択率は85〜91%となる。このシクロヘキサン酸化プロセスの欠点は、転化率が1〜12%と低く、そのため、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む混合物を蒸留して分離される未反応シクロヘキサンのリサイクル流れが多くなることである。
【0004】
シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを製造する別の方法は、ベンゼンを部分的に水素化して、シクロヘキセン、シクロヘキサンおよび未反応ベンゼンの混合物とする方法である。そのような方法は、例えば特開平11 322661号公報に開示されている。特開平11 322661号公報の方法では、シクロヘキセン、シクロヘキサンおよび未反応ベンゼンの混合物を蒸留して、シクロヘキセン、シクロヘキサンおよび未反応ベンゼンをそれぞれ分離する。その後、未反応ベンゼンは再利用し、シクロヘキセンは水和し、シクロヘキサンは酸化する。特開平11 322661号公報の方法の欠点は、シクロヘキサンをシクロヘキセンおよび未反応ベンゼンから分離するのが困難なことである。この理由のために、代替方法が開発されており、それではシクロヘキセン、シクロヘキサンおよび未反応ベンゼンの混合物を最初に分離せずに酸化してシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む混合物とする。そのような方法の例は、EP−A−23379号明細書に開示されている。この特許公報には、ベンゼンを部分的に水素化して、シクロヘキセン、シクロヘキサンおよび未反応ベンゼンを含む混合物とする方法が記載されている。その後、シクロヘキセンを水和および/または酸化して、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンとする。未反応ベンゼン、シクロヘキセンおよびシクロヘキサンは、未反応のシクロヘキセンおよびシクロヘキサンを再びベンゼンへと再転化するために脱水素反応に供した後、水素化工程にリサイクルされる。この方法では、水素化工程でのベンゼン転化率は40〜80%であって、水和または酸化工程後に得られる生成混合物には、プロセス中でリサイクルされる前にベンゼンへと脱水素化されなければならないシクロヘキサンが、25〜75モル%含まれる。この方法の欠点は、ベンゼンをシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへと高選択率で転化するために、水素化工程に加えて、脱水素化工程を必要とするシクロヘキサンを生成することである。
【0005】
本発明の目的は、ベンゼンから出発してシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを製造する代替の方法を提供することにある。
【0006】
この目的は、以下の工程を含む製造方法を提供することで達成できることがわかった。
a.金属触媒の存在下でベンゼンを部分水素化してシクロヘキセンおよび未反応ベンゼンを含む混合物を生成する部分水素化工程、
b.工程aで生成された混合物を、水和してシクロヘキサノールを含む混合物を生成する、および/または、金属触媒の存在下で酸化してシクロヘキサノンを含む混合物もしくはシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む混合物を生成する、工程、
c.工程bで得られた、未反応ベンゼン、シクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンを含む混合物から、シクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンを分離する工程、
d.工程cで得られた未反応ベンゼンを含む混合物を金属触媒の存在下で水素化してシクロヘキサンとする水素化工程、および
e.工程dで生成されたシクロヘキサンを含む混合物を酸化してシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む混合物を生成する酸化工程。
【0007】
本発明の方法の利点は、ベンゼンから出発してシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを製造する代替の方法が提供されることにある。さらに、この代替の方法は、現状の方法の欠点を含まない。本発明の方法は、ベンゼンの水素化により生成したシクロヘキサンを、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへと転化するために再びベンゼンへと脱水素する工程を必要としない。加えて、本発明の方法は、従来技術と比べて未反応のシクロヘキサンのリサイクル流れの少ない方法を提供する。
【0008】
本発明の方法によれば、出発のベンゼンからシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへの総合転化率として91%超が得られることがわかった。そのような選択率の向上によって追加される利点は、装置を大型化せずに反応器のスループットを増大させる機会が提供されることである。
【0009】
ベンゼンを接触部分水素化してシクロヘキセンを含む混合物を生成する工程aは、公知のいかなる方法で実施してもよい。好ましい方法は、例えば、EP−A−0023379号明細書に記載されている。
【0010】
ベンゼンの部分水素化反応は、水相、有機液相および気相を含む系で実施することが好ましい。有機液相には、未反応ベンゼン、および/または、シクロヘキセンおよびシクロヘキサンが含まれる。気相には水素が含まれる。
【0011】
一般に、工程aでは、反応中の水素圧の値は0.1〜20MPaであり、好ましくは0.5〜10MPaである。これらの好ましい範囲の水素圧は、好ましい反応速度が得られるので好ましい。工程aは、1基または2基以上の反応容器を使用して、バッチ式または連続式で実施することができる。工業的な観点からは、連続実施の方法が好ましい。
【0012】
水相の水の量は、有機液相重量の0.1〜10倍であることが好ましい。より好ましい水相の水の量は、有機液相重量の0.1〜5倍である。特に好ましい水の量は、液体の体積とベンゼンの反応性が最適となるような量である。
【0013】
ベンゼンの部分水素化は、酸性条件で行うことが好ましい。好ましいpH値は3〜7の値である。部分水素化は3.5〜6.5のpHで行うことがより好ましく、4〜6のpHで行うことが特に好ましい。
【0014】
そのような系の水相は、金属塩化合物を含むことが好ましい。金属塩化合物の例としては、第1族もしくは第2族金属、または、亜鉛、マンガンおよびコバルトなどの金属の、硫酸塩、塩化物、酢酸塩およびリン酸塩が挙げられる。金属塩の量は、通常、水相の水の重量の1×10−5〜0.2倍の範囲であり、好ましくは1×10−4〜0.1倍の範囲である。
【0015】
ベンゼンの部分水素化は、金属触媒による接触反応である。好ましい金属は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ニッケルまたは白金などの、第8、9および10族金属である。より好ましい金属は、ルテニウム、ロジウムおよびパラジウムである。ルテニウム触媒の使用が特に好ましい。金属触媒は1種を超える金属を含んでいてもよい。助触媒金属、すなわち、上記金属に追加する金属として使用する好ましい金属は、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン、金、銅およびランタンなどの、第7、8、9、11および12族金属並びにランタニドである。助触媒金属としては、亜鉛の使用が特に好ましい。補助金属と金属との原子比は0.001〜20であることが好ましく、0.005〜10であることがより好ましい。
【0016】
触媒は、非坦持タイプであっても、坦持タイプであってもよい。坦持タイプの触媒を使用する場合は、担体として金属酸化物を使用することが好ましい。そのような金属酸化物の例としては、シリカ、アルミナ、チタニアおよびクロミア、シリカ−アルミナ、シリカ−ジルコニアおよびケイ酸ジルコニウムなどの複合体、活性炭、硫酸バリウムおよび硫酸カルシウムなどの金属塩、または、水酸化物もしくは水難溶性の金属塩が挙げられる。細孔直径が75〜100,000Å、全細孔容積が0.2〜10ml/gである担体を使用することが好ましい。担体の全細孔容積は0.3〜5ml/gであることがより好ましい。細孔直径が250Å以上である細孔の容積が、全細孔容積の50%以上であることが好ましい。全細孔容積の70%以上であるとより好ましい。250Å未満の細孔直径を有する細孔の割合があまり大きいと、触媒の選択性を低下させるので、好ましくない。
【0017】
ベンゼンの部分水素化反応に使用する触媒は、水相、有機液体相および気相に加えて、固相を形成してもよい。
【0018】
工程aの反応温度はあまり重要ではないが、一般に、反応温度は30〜500℃の範囲である。好ましくは50〜300℃であり、より好ましくは100〜250℃である。これらの好ましい範囲内で、シクロヘキセンへの好ましい選択性および好ましい反応速度が得られる。
【0019】
工程aで生成された混合物には、シクロヘキセンと、場合によりシクロヘキサンおよび未反応ベンゼンが含まれる。シクロヘキセン、シクロヘキサンおよび未反応ベンゼンの最終的な量を制御するために、工程aにおいて、滞留時間、反応温度、水素圧および/または触媒濃度を変化させることができる。一般に、シクロヘキサンの量は2〜25モル%であり、好ましくは0〜20モル%である。一般に、未反応ベンゼンの量は0〜50モル%であり、好ましくは0〜40モル%である。一般に、シクロヘキセンの量は20〜100モル%以上であり、好ましくは25〜100モル%であり、より好ましくは30〜100モル%である。
【0020】
工程aで生成されたシクロヘキセンのシクロヘキサノールへの水和は、公知のいかなる方法でも行うことができる。EP−A−23379号明細書には、さらなる文献とともに適した方法が記載されており、それらは参照により本明細書に援用されるものとする。
【0021】
シクロヘキセンの水和は、ベンゼンおよびシクロヘキサンの存在下で行われてもよい。したがって、水和工程に先立って、工程aで生成された反応混合物からシクロヘキセンを分離する必要はない。その結果、シクロヘキセンの水和反応後に得られる反応生成物には、一般に、水相と、シクロヘキサノール、ベンゼン、シクロヘキサンおよび未反応シクロヘキセンを含む有機相とが含まれる。
【0022】
水和プロセスでは、酸性触媒を使用することが好ましい。酸性触媒の例としては、スルホン酸基を有する架橋ポリスチレン樹脂などの強酸性イオン交換体、硫酸およびリン酸が挙げられる。硫酸は、水和反応に好ましい触媒ということができ、その場合、硫酸第一鉄を共触媒として使用してもよい。
【0023】
シクロヘキセンの水和プロセスは、(1)シクロヘキセンの二重結合へ酸を付加し、それにより、シクロヘキサノールと酸のエステル、例えば硫酸水素シクロヘキシルを生成する工程と、(2)シクロヘキシルエステルをシクロヘキサノールと酸に加水分解する工程と、を含む一連のプロセス工程で行うことが好ましい。エステル生成工程は、例えば−50℃〜+100℃の範囲の温度で実施することができる。30℃〜100℃の範囲の温度が好ましい。第2工程である加水分解工程は、約50℃〜150℃の範囲の温度で好適に実施することができる。
【0024】
工程aで生成されたシクロヘキセンの、シクロヘキサノンへの、またはシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む混合物への酸化は、公知のいかなる方法によっても行うことができる。好適な方法はEP−A−23379号明細書に記載されており、それは参照により本明細書に援用されるものとする。また、EP−A−23379号明細書には、好適な方法に関する文献がさらに含まれている。
【0025】
シクロヘキセンの酸化は、ベンゼンおよびシクロヘキサンの存在下に、またはベンゼンおよびシクロヘキサン、並びに補助溶媒として使用されるさらに別の溶媒の存在下に、実施することができる。したがって、酸化工程に先立って、未反応ベンゼンおよび/またはシクロヘキサンを含み、場合により補助溶剤を含む水素化反応混合物から、シクロヘキセンを分離する必要はない。
【0026】
補助溶媒はいかなる有機溶剤であってもよい。当業者は、そのような補助溶媒として使用できる溶剤を知っている。そのような補助溶媒の例としては、酢酸、アセトン、アニソール、1,2−ジクロロベンゼン、ジメチルアセトアミド、ジメチルカーボメイト、ジメチルホルムアミド、ジメチルフタラート、ジフェニルエーテル、任意の多価アルコールおよび任意のニトリルが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。好ましい多価アルコールは、二価、三価および四価のアルコールである。2個以上の炭素原子を有するジオールが好ましくは使用される。好ましい例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ジヒドロキシブタン、1,2−ジヒドロキシプロパン、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、1,2−トランスシクロペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、スチレングリコール、またはそのようなジオールの2種以上を含む混合物が挙げられる。好ましいニトリルとしては、アセトニトリル、2−シアノピリジン、3−シアノピリジン、4−シアノピリジン、ベンゾニトリル、アジポニトリル、ブチロニトリル、アミノベンゾニトリル、2−シアノエチルエーテルが挙げられる。
【0027】
酸化プロセスは、金属により触媒され、(1)シクロヘキセンと触媒溶液との反応によってシクロヘキセンをシクロヘキサノンへ酸化する工程(触媒は還元される)、(2)反応混合物から有機相を分離する工程、(3)空気などの酸素含有ガスによって触媒を酸化状態に戻す工程、(4)第1工程へ触媒を再循環する工程、を含む一連のプロセス工程で行われることが好ましい。第1工程は、0℃〜150℃の温度、0.05〜5MPaの圧力で実施することができる。第3工程は、0℃〜250℃の温度、0.05〜200MPaの圧力で実施することができる。
【0028】
シクロヘキセンの酸化にはパラジウム触媒系を使用することが好ましい。そのような触媒の例と、オレフィンの酸化におけるその使用に関しては、米国特許第4720474号明細書のほか、「アプライド・キャタリシス(Applied Catalysis) A:概論、155(1997)」p.15〜26のキム(Kim)らの論文にも記載されている。そのような触媒系は、(a)パラジウム、(b)周期律表の第8、9、10または14族から選択される少なくとも1種の他の金属、および(c)ヘテロポリ酸またはハロゲンを含むことができる。全ての成分は、解離イオンなどの形態で存在してもよい。パラジウムが二価または四価の形態で存在することが好ましい。好ましいパラジウム源としては、塩化パラジウムおよび臭化パラジウムなどのパラジウムハロゲン化物、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウムおよびアセチルアセトナトパラジウムなどの無機酸または有機酸のパラジウム塩、並びに酸化パラジウムおよび水酸化パラジウムなどの無機パラジウムが挙げられる。さらに、これらの金属塩から誘導される塩基性配位子を有するパラジウム化合物も、パラジウム源として使用することができる。そのようなパラジウム配位子の例としては、[Pd(en)]Cl、[Pd(phen)]Cl、[Pd(CHCN)]Cl、[Pd(CCN)]Cl、[Pd(C、[PdCl(NH]および[Pd(NO(NH]が挙げられる。
【0029】
パラジウム(a)は、0.001重量%〜10重量%([Pd2+]の重量を反応液体の全重量で除して計算される)の量で存在することが好ましい。パラジウムは、0.1重量%〜5重量%の量で存在することがより好ましい。
【0030】
周期律表の第8、9、10または14族から選択される1種の他の金属の例としては、鉄、銅、コバルト、ニッケル、ルテニウムおよび錫が挙げられる。1種の他の金属としては、銅を使用することが好ましい。そのような他の金属は、パラジウムの析出を抑制するために使用される。好ましい銅源は、2価の状態の銅化合物である。そのような銅化合物の例としては、塩化銅(II)、臭化銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、酢酸銅(II)、ギ酸銅(II)およびアセチルアセトナト銅(II)が挙げられる。
【0031】
一般に、これらの他の金属の化合物は、二価、三価および四価の状態で存在する。それらの塩化物および臭化物などのハロゲン化物、硫酸塩および硝酸塩などの無機酸の塩および、酢酸塩、シュウ酸塩、ギ酸塩およびアセチルアセトナトなどの各種の塩を使用することが好ましい。
【0032】
他の金属(b)の好ましい濃度は、パラジウム(a)に対する相対濃度、モル(b)/モル(a)で表すことができる。このモル比は、好ましくは0.1〜100であり、より好ましくは0.1〜10である。
【0033】
ヘテロポリ酸の例としては、カウンターカチオンを有するヘテロポリオキシアニオンが挙げられる。このヘテロポリオキシアニオンは次の一般式、[XM’M”m−で表される。ここで、Xは、ホウ素、シリコン、ゲルマニウム、リン、ヒ素、セレン、テルル、ヨウ素、コバルト、マンガン、銅からなる群より選択されるメンバーであり、M、M’およびM”はタングステン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、タンタル、レニウムからなる群より独立して選択されるメンバーである。より好ましくは、Xは、シリコン、ゲルマニウム、リンまたはヒ素であり、M、M’およびM”は、タングステン、モリブデンおよびバナジウムからなる群より選択される。整数a、x、zおよびmは>0、整数bおよびcは≧0であって、a+b+c≧2である。カウンターカチオンの例としては、プロトン、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類カチオン、Pd、Cu、CoおよびMnのカチオンなどの遷移金属カチオン、並びに有機カチオンが挙げられる。特に好ましいヘテロポリ酸は、H(3+V)PMo(12−V)40(但し、vは0≧12である)である。
【0034】
塩素(Cl)および臭素(Br)は好ましいハロゲンである。これらのハロゲン源は、HCl、HBr、または、ハロゲンがイオンの形態で存在する場合には、カウンターイオンとしてハロゲンを有する金属触媒であってもよい。
【0035】
(c)ヘテロポリ酸またはハロゲンの濃度もまた、パラジウム(a)に対する相対濃度、すなわち、モル(c)/モル(a)で表すことができる。ヘテロポリ酸の場合には、このモル比は、好ましくは0.1〜100であり、より好ましくは0.1〜10である。ハロゲンの場合には、好ましいモル比は0.3〜100であり、より好ましくは1〜50である。水溶液中のハロゲン濃度が高いと、一般に起こる反応器の腐食の危険性が増大するので、高濃度ハロゲンは好ましくない。
【0036】
シクロヘキセンの転化率は、好ましくは>50%であり、より好ましくは>75%である。この転化率は、触媒濃度を変化させることによってのみならず、滞留時間、反応温度および/または酸化工程における酸素分圧を変化させることによっても、制御することができる。滞留時間は5秒〜20時間である。酸化工程における滞留時間は10秒〜10時間が好ましい。この酸化工程の反応温度は、一般に、0℃以上である。好ましくは20〜200℃であり、より好ましくは40〜100℃である。一般に、酸化工程における酸素分圧は、0.001MPa以上の値である。酸素分圧は0.01〜10MPaの値であることが好ましく、0.05〜5MPaがより好ましい。酸素の供給には、いかなる方法も適用可能である。酸素を含むガスが攪拌翼によって微細な泡として導入される方式、および反応器内に邪魔板が設置され、酸素ガスが微細な泡に変換される方式を適用することが好ましい。
【0037】
工程bはバッチ式で行っても、あるいは連続式で行ってもよい。
【0038】
酸化および/または水和反応器で生成される反応混合物には、一般に、水相、シクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノン、未反応ベンゼン、シクロヘキサン並びにシクロヘキセンを含む有機相が含まれる。
【0039】
酸化および/または水和反応混合物から水相を分離した後、蒸留などの公知の任意の分離方法で、シクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンを有機相から回収することができる。この分離工程を工程cと称する。
【0040】
未反応ベンゼン、未反応シクロヘキセンおよびシクロヘキサンを含む混合物は、水素化工程、すなわち工程dに供され、ベンゼンおよびシクロヘキセンはシクロヘキサンへと水素化される。一般に、この水素化工程は、ベンゼンおよび/または環状オレフィンに対する水素化プロセスとして知られるいかなるプロセスによっても行うことができる。それは液相で行われても気相で行われてもよい。水素化は気相で行われることが好ましい。水素化プロセスの例は、GB 799,396号明細書およびGB 835,394号明細書に記載されている。
【0041】
場合により、工程dに供する前に、工程cで得られた未反応ベンゼン、未反応シクロヘキセンおよびシクロヘキサンを含む反応混合物に、追加量のベンゼンを加えてもよい。任意の量のベンゼンをこの混合物に加えることができる。工程cから得られる混合物中に未反応ベンゼンとして存在する未反応のベンゼンの量と等しいかまたはそれ未満の量を加えることが好ましい。
【0042】
ベンゼンの水素化は、金属触媒により触媒される。好ましい金属触媒は、第8、9および10族の金属触媒である。ニッケル、鉄、パラジウム、白金、ルテニウムおよびロジウムをベースとする触媒がより好ましく、白金ベースの触媒が特に好ましい。
【0043】
金属触媒は、坦持触媒であっても、あるいは非坦持触媒であってもよい。坦持触媒の場合、シリカ、ジルコニア、チタニア、アルミナ、トリア、炭化ケイ素、クレーおよび珪藻土などの担体に坦持させることができる。一般に、酸化物であるシリカ、ジルコニア、チタニア、アルミナ、トリアおよび炭化ケイ素が担体として使用される。酸化物のシリカ、ジルコニア、チタニアおよびアルミナを担体として使用することが好ましい。アルミニウム酸化物が担体として特に好ましい。最も好ましい坦持金属触媒は、アルミニウム酸化物坦持白金触媒である。
【0044】
触媒濃度は、担体重量に対する重量%で表すことができる。これは、0.01〜10%が好ましく、0.01〜1%がより好ましく、0.1〜0.5%が特に好ましい。
【0045】
ベンゼンの水素化反応器出口における水素分圧は、反応器入口の約350〜400℃から出口の約225℃へと変動する温度範囲で、少なくとも0.1〜35MPaであることが好ましい。この分圧は0.5〜10MPaがより好ましい。0.8〜2MPaが特に好ましい。
【0046】
水素化工程によって得られるシクロヘキサンを含む混合物は、酸化工程、すなわち工程eに供され、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む混合物が得られる。一般に、この酸化工程は公知のいかなる方法で行ってもよい。適した方法は、例えば、EP−A−579323号明細書、EP−A−0092867号明細書およびEP−A−4105号明細書に記載されている。これらの公知の方法では、シクロヘキサンが、まず、シクロヘキシルヒドロパーオキサイドに変換される。このシクロヘキシルヒドロパーオキサイドは、分解反応に供され、得られたシクロヘキシルヒドロパーオキサイドがシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへと変換される。
【0047】
シクロヘキサンのシクロヘキシルヒドロパーオキサイドへの変換は、分子酸素を含むガスの存在下に液相で行うことができる。分子酸素を含むガスの例としては、酸素、空気および、酸素と窒素、ヘリウム、ネオンおよびアルゴンなどの不活性ガスとの混合物が挙げられる。
【0048】
酸化プロセスの圧力は、あまり重要でないが、一般には、0.1〜5MPaである。好ましくは、圧力は1〜2MPaである。
【0049】
酸化プロセスの温度は、あまり重要でないが、一般には、70〜115℃の値である。
【0050】
酸化プロセスは、5秒〜20時間の時間で行うことができる。好ましくは、少なくとも10秒、多くとも14時間である。
【0051】
酸化プロセスは、生成したシクロヘキシルヒドロパーオキサイドが直ちに分解するのを防ぐために、触媒を使用せずに行うことが好ましい。触媒を使用する場合には、非常に僅かな量、好ましくは0.1〜10ppmの量を使用する。より好ましくは、0.2〜2ppmの量である。適切な酸化触媒の例としては、コバルト、クロム、マンガン、鉄、ニッケルまたは銅が挙げられる。好ましい触媒は、ナフテン酸コバルトおよびコバルト−2−エチル−ヘキサノエートなどのコバルト塩である。
【0052】
酸化混合物中のシクロヘキシルヒドロパーオキサイドの分解反応は、金属塩、例えば、コバルト、ニッケル、鉄、クロム、マンガンおよび銅などの遷移金属の塩を用いて行うことができる。コバルトおよび/またはクロムの塩、例えば、硫酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸クロムまたは硝酸クロムを使用することが好ましい。金属塩は、0.1〜1000ppm(水相の全重量に対する金属の重量で計算)の量で使用することができる。金属塩の量は、1〜200ppmであることが好ましい。
【0053】
シクロヘキシルヒドロパーオキサイドの分解は、攪拌槽型反応器で行ってもよいし、または栓流反応器で行ってもよい。
【0054】
分解は、70〜115℃の範囲の温度で行うことが好ましい。
【0055】
分解により得られるシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンは、公知の任意の分離法によってこの混合物から分離することができる。
【0056】
有機相は、水相から分離した後、蒸留工程に供して、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む混合物からシクロヘキサンを分離することが好ましい。分離されたシクロヘキサンは、酸化工程にリサイクルすることができる。
【0057】
[実施形態の説明]
図1を参照すると、Aは水素化反応器を示し、これは担体に担持された水素化触媒の水性溶液を収容する。ベンゼンがライン1より供給され、水素がライン2により、この水素化反応器に供給される。未反応水素はライン3により排出される。水素化された反応混合物はライン4により分離器Bに供給され、ここで、未反応ベンゼン、シクロヘキセンおよびシクロヘキサンを含む有機層が、触媒を含む水性層から分離される。水性層はライン5により排出され、水素化反応器へとリサイクルされ、一方、有機層はライン6により、Cで示す、溶媒を収容した酸化反応器に供給される。ライン7により酸化触媒がこの反応器に供給された後、ライン8によりこの反応器に空気を吹き込む。未反応空気はライン9により排出される。酸化された反応混合物は排出され、ライン10によりDで示す分離器に供給される。分離器でシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンがシクロヘキサンおよび未反応ベンゼンから分離され、ライン11により排出される。その後、シクロヘキサンおよび未反応ベンゼンを含む残留混合物が、ライン12により水素化反応器Eに供給される。場合により、この水素化反応器にライン27により追加量のベンゼンが供給される。水素化触媒を収容するこの水素化反応器に、ライン13により水素が供給される。未反応水素は、ライン14により排出される。水素化された反応混合物は、ライン15により、分離器F、すなわちシクロヘキサンが反応混合物から蒸留によって分離される蒸留塔に供給される。残留水性溶液はライン16により水素化反応器Eへとリサイクルされ、一方、蒸留されたシクロヘキサンはライン17により酸化反応器Gに供給される。この反応器にライン18により空気が吹き込まれ、未反応空気はライン19により反応器から排出される。酸化された反応混合物は、ライン20により、Hで示す、分解触媒を含む水性溶液を収容する分解反応器に供給される。その後、水酸化ナトリウム水溶液がライン21により、この反応器に供給された。2つの層、すなわち未反応シクロヘキサン、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む有機層と、触媒を含む水性層とを含む分解反応混合物が、ライン22により分離器Iに供給され、それらの2つの層が互いに分離された。その後、水性層はライン23により、酸化反応器Gへとリサイクルされ、一方、有機層はライン24により蒸留塔Kに供給されて、未反応シクロヘキサンがシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンから蒸留により分離され、シクロヘキサンはライン25により酸化反応器Gへリサイクルされ、かつ、ライン26によりシクロヘキサノールとシクロヘキサノンが単離される。
【0058】
以下の限定されない実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0059】
(選択率の算出)
ある化合物への選択率は、モルで表したその化合物の量を、モルで表した全化合物の量で除し、その結果に100%を乗じて、計算される。ベンゼンからシクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンへの総合選択率は、次式により計算される。
(100%で除したモル%表記のシクロヘキセンの収率)(100%で除したモル%表記のシクロヘキセンの転化率)(100%で除したモル%表記のシクロヘキセン酸化の選択率)+(100%で除したモル%表記のシクロヘキサンの収率)(1−(100%で除したモル%表記のベンゼンの転化率))+(100%で除したモル%表記のシクロヘキセンの収率)(1−(100%で除したモル%表記のシクロヘキセンの転化率))(100%で除したモル%表記のシクロヘキセン酸化の選択率)。
【0060】
(触媒の調製)
2.5gのRuCl・3HOおよび6.7gのZnClを250mlの水に溶解した。この溶液に30%NaOH水溶液35mlを連続的に攪拌しながら添加した。混合物を80℃で2.5時間加熱した後、攪拌を停止し、混合物を室温にまで冷却した。生成した沈殿物を1NのNaOH水溶液で2回洗浄した。その後、沈殿生成物を、5%NaOH水溶液250mlとともに、オートクレーブ中で連続的に攪拌しながら、圧力5MPaの水素雰囲気下、150℃で17時間加熱した。反応器を室温にまで冷却し、生成物周囲をアルゴン雰囲気とした後、生成物を、まず30%NaOH水溶液で洗浄し、その後水で洗浄した。得られた生成物、ルテニウム/亜鉛水素化触媒を真空中で乾燥した。
【0061】
(比較実験A)
(ベンゼンの水素化反応)
1時間当たり100gのベンゼンおよび300Nlの水素を、アルミニウム酸化物担持白金触媒(0.3重量%Pt)50mlを収容する管型水素化反応器に供給した。水素化反応を、圧力約3.1MPa、反応器中の最高温度390℃(オイルで反応器を約225℃に冷却することによって反応熱を除去して得られた温度)で行った。全ての有機化合物を凝縮し、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、シクロヘキサン中の不純物含量は0.05重量%未満であった。このことは、シクロヘキサン選択率が少なくとも99.9%であることを示している。
【0062】
(シクロヘキサンの酸化)
ベンゼンの水素化により得られたシクロヘキサン170gを、還流凝縮器を備えたバッチ式反応器に仕込んだ。シクロヘキサン混合物を1300rpmで攪拌し、反応器圧力1.5MPaで、O8%含有Nを連続的に流しながら、160℃に加熱した。O8%含有Nの混合物として、80Nl/hrの量で、酸素供給を1時間行った後、窒素を供給し、反応器を室温にまで冷却した。圧力を開放した後、硫酸コバルトとして加えたコバルト20ppmを含む1NのNaOH水溶液35mlを反応混合物に加えた。その後、反応器を窒素で1MPaまで加圧し、温度を95℃とし、1000rpmで1時間攪拌した。反応混合物を冷却し、圧力を開放した後、反応混合物を希硫酸により酸性にした。その後、有機層を分離した。分離した有機層をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、43.1mMolのシクロヘキサノン、33.2mMolのシクロヘキサノールおよび8.9mMolのC6タイプの副生物の存在を示した。
【0063】
これは、シクロヘキサンからシクロヘキサノンおよびシクロヘキサノールへの選択率が89.6%(=100%(43.1+33.2)/(43.1+33.2+8.9))であることに関係する。
【0064】
シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへの総合選択率は、ベンゼンの初期量に対して計算すると、89.5%である。
【0065】
(実施例1)
(ベンゼンの部分水素化)
チタン製オートクレーブ中の80mlのベンゼンおよび320mlの水の混合物に、0.4gのルテニウム/亜鉛水素化触媒を、14.4gのZnSO・7HOおよび2gのZrOとともに添加した。この混合物を、5MPaの水素雰囲気下、1500rpmで攪拌し、145℃に加熱した。65分後、反応混合物を室温にまで冷却した。ガスクロマトグラフィーにより有機層を分析したところ、得られたベンゼン、シクロヘキセンおよびシクロヘキサンの反応混合物が含有する不純物は、0.05%未満であり、ベンゼン/シクロヘキセン/シクロヘキサンのモル比は29.9/54.8/15.2であった。ベンゼン転化率70.1%で、シクロヘキサン収率15.2%、シクロヘキセン収率54.8%が得られた。
【0066】
(実施例2)
(ベンゼン、シクロヘキセンおよびシクロヘキサンの混合物の酸化)
モル比が29.9/54.8/15.2のベンゼン、シクロヘキセンおよびシクロヘキサンの混合物54mlを、80mlの3%硫酸水溶液、40mlのアセトニトリル、199mgのPd(NO、746mgのCuSOおよび6.99gのHPMo1240とともに、オートクレーブに仕込んだ。この反応混合物を、酸素5%含有窒素を1時間当たり80Nlの割合で連続的に流しながら、圧力5MPa、温度80℃で、1500rpmで攪拌した。8時間後、反応混合物を室温にまで冷却した。生成物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ベンゼン29.9Mol%、シクロヘキセン3.6Mol%、シクロヘキサン15.2Mol%、シクロヘキサノン50.1Mol%、シクロヘキサノール0.5Mol%およびC6不純物0.6Mol%であった。
【0067】
シクロヘキセンの転化率93.4%で、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへの選択率98.8%が得られた。
【0068】
(実施例3)
(ベンゼン/シクロヘキセン/シクロヘキサン混合物の水素化)
1時間当たり、ベンゼン61.4グラム、シクロヘキセン7.4グラムおよびシクロヘキサン31.2グラムの混合物100グラムを、300Nlの水素とともに、アルミニウム酸化物担持白金触媒(0.3重量%Pt)50mlを収容する管型水素化反応器に供給した。水素化反応を約3.0MPaの圧力で実施した。反応器をオイルにより約225℃に冷却することによって反応熱を除去したところ、反応器内の最高温度は370℃であった。全ての有機化合物を凝縮させ、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、シクロヘキサン中の不純物含量は0.03%未満であった。
【0069】
これは、シクロヘキサンへの水素化選択率が少なくとも99.9%であることを示している。
【0070】
(実施例4)
(シクロヘキサンの酸化)
シクロヘキサン165gを、還流凝縮器を備えたバッチ式反応器に仕込んだ。シクロヘキサンを、圧力1.5MPaで、O8%含有Nを80Nl/hrで連続的に流しながら、1300rpmで攪拌し、160℃に加熱した。1時間後、酸素の供給を窒素で置き換え、反応器を室温にまで冷却した。圧力を解放後、硫酸コバルトとして加えたコバルト20ppmを含む1NのNaOH水溶液35mlを反応混合物に添加し、酸化反応で生成したシクロヘキシルヒドロパーオキサイドを分解させた。したがって、反応器は窒素で1MPaにまで加圧し、95℃、1000rpmでさらに1時間、反応混合物を攪拌した。冷却後、反応混合物を希硫酸で酸性とし、有機層を分離した。ガスクロマトグラフィーによる分析により、シクロヘキサノンが42.7mMol、シクロヘキサノールが32.6mMol、およびC6タイプの副生物が8.2mMol得られたことがわかった。これは、シクロヘキサンからシクロヘキサノンおよびシクロヘキサノールへの選択率90.2%に関係する。
【0071】
実施例1〜4より、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへの総合選択率を、ベンゼンの初期量に対して計算すると、94.5%と算出される。
【0072】
(実施例5)
(ベンゼンの部分水素化)
5MPaの水素雰囲気下、1500rpmで攪拌し、145℃まで加熱した後の反応混合物を室温にまで冷却する実施例1を繰り返した。ガスクロマトグラフィーにより有機層を分析したところ、ベンゼン、シクロヘキセンおよびシクロヘキサンの混合物が含有する不純物は、0.05%未満であり、ベンゼン/シクロヘキセン/シクロヘキサンのモル比は56.2/37.3/6.5であった。ベンゼン転化率43.8%で、シクロヘキサン収率6.5%、シクロヘキセン収率37.3%が得られる。
【0073】
(実施例6)
(ベンゼン、シクロヘキセンおよびシクロヘキサン混合物の酸化)
実施例5から得られた混合物、すなわち、モル比が56.2/37.3/6.5のベンゼン、シクロヘキセンおよびシクロヘキサンの混合物に実施例2を繰り返した。ガスクロマトグラフィーにより得られた酸化混合物を分析したところ、ベンゼン56.2mol%、シクロヘキセン3.2mol%、シクロヘキサン6.5mol%、シクロヘキサノン33.4mol%、シクロヘキサノール0.4mol%およびC6不純物0.3mol%であった。シクロヘキセン転化率91.4%で、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノン選択率99.1%が得られる。
【0074】
(実施例7)
(ベンゼン/シクロヘキセン/シクロヘキサン混合物の水素化)
ベンゼン85.3グラム、シクロヘキセン4.9グラムおよびシクロヘキサン9.9グラムの混合物100g/hrを、300Nl/hrの水素とともに、アルミニウム酸化物上の白金触媒(0.3重量%Pt)50mlを収容する管型水素化反応器に供給した。水素化反応を約3.0MPaの圧力で実施し、反応器をオイルにより約225℃に冷却することによって反応熱を除去したところ、反応器内の最高温度は370℃であった。全ての有機化合物を凝縮させ、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、シクロヘキサン中の不純物含量は0.03%未満であった。これは、シクロヘキサンへの水素化選択率が少なくとも99.9%であることに対応する。
【0075】
(実施例8)
(シクロヘキサンの酸化)
実施例7から得られた167gに実施例4を繰り返した。ガスクロマトグラフィーによる分析により、シクロヘキサノンが43.0mMol、シクロヘキサノールが32.8mMol、およびC6タイプの副生物が8.6mMol得られたことがわかった。これは、シクロヘキサンからシクロヘキサノンおよびシクロヘキサノールへの選択率89.9%に関係する。
【0076】
実施例5〜8より、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへの総合選択率を、ベンゼンの初期量に対して計算すると、93%と算出される。
【0077】
(実施例9)
(ベンゼン、シクロヘキセンおよびシクロヘキサン混合物の酸化)
実施例1で調製した、モル比が29.9/54.8/15.2のベンゼン、シクロヘキセンおよびシクロヘキサン混合物54mlをオートクレーブに加え、反応混合物を3.5時間後に室温に冷却すること以外は実施例2に従って酸化を行った。生成物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ベンゼン29.9Mol%、シクロヘキセン21.3Mol%、シクロヘキサン15.2Mol%、シクロヘキサノン32.9Mol%、シクロヘキサノール0.4Mol%およびC6不純物0.2Mol%であった。シクロヘキセン転化率61.1%で、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンの選択率99.4%が得られる。
【0078】
(実施例10)
(ベンゼン/シクロヘキセン/シクロヘキサン混合物の水素化)
ベンゼン45.0グラム、シクロヘキセン32.1グラムおよびシクロヘキサン22.9グラムの混合物100g/hrを、300Nl/hrの水素とともに、アルミニウム酸化物上の白金触媒(0.3重量%Pt)50mlを含有する管型水素化反応器に供給した。水素化反応を約3.0MPaの圧力で実施し、反応器をオイルにより約225℃に冷却することによって反応熱を除去したところ、反応器内の最高温度は370℃であった。全ての有機化合物を凝縮させ、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、シクロヘキサン中の不純物含量は0.03%未満であった。
【0079】
これは、シクロヘキサンへの水素化反応選択率が少なくとも99.9%であることを示している。
【0080】
(実施例11)
(シクロヘキサンの酸化)
実施例10から得られた170gのシクロヘキサンに実施例4を繰り返した。ガスクロマトグラフィーによる分析により、シクロヘキサノンが42.9mMol、シクロヘキサノールが32.8mMol、およびC6タイプの副生成物が8.1mMol得られたことがわかった。
【0081】
実施例8〜11より、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへの総合選択率を、ベンゼンの初期量に対して計算すると、93.1%と算出される。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の方法の実施形態を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼンからシクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンを製造する方法であって、次の工程:
a.金属触媒の存在下でベンゼンを部分水素化してシクロヘキセンおよび未反応ベンゼンを含む混合物を生成する部分水素化工程、
b.工程aで生成された混合物を、水和してシクロヘキサノールを含む混合物を生成する、および/または、金属触媒の存在下で酸化してシクロヘキサノンを含む混合物もしくはシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む混合物を生成する、工程、
c.工程bで得られた、未反応ベンゼン、シクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンを含む混合物から、シクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンを分離する工程、
d.工程cで得られた未反応ベンゼンを含む混合物を金属触媒の存在下で水素化してシクロヘキサンとする水素化工程、および
e.工程dで生成されたシクロヘキサンを含む混合物を酸化してシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む混合物を生成する酸化工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
工程aは、ルテニウム触媒によって触媒されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程bの水和工程は、強酸性イオン交換体、硫酸またはリン酸により触媒されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程aで生成された混合物を酸化するための工程bに記載の前記金属触媒は、(a)パラジウム、(b)周期律表の第8、9、10または14族から選択される少なくとも1種の他の金属、および(c)ヘテロポリ酸またはハロゲンを含むパラジウム触媒系であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程dは、アルミニウム酸化物に担持された白金触媒により触媒されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程eにおいて、シクロヘキサンはシクロヘキシルパーオキサイドに変換され、このシクロヘキシルパーオキサイドはシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンへの分解に供されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記分解は金属塩により触媒されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程aで生成された混合物は、シクロヘキセン、シクロヘキサンおよびベンゼンを含み、かつ、この混合物は、金属触媒の存在下に酸化に供されて、シクロヘキサン、ベンゼン、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む酸化反応混合物を生成することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンは、シクロヘキサン、ベンゼン、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含む酸化反応混合物から分離され、得られたシクロヘキサンおよびベンゼンを含む混合物は、金属触媒による水素化に供されて、シクロヘキサンを含む水素化反応混合物を生成し、このシクロヘキサンはシクロヘキシルパーオキサイドを含む混合物へと酸化され、このシクロヘキシルパーオキサイドは他の工程でシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンに分解されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
金属触媒による水素化に供給される、得られたシクロヘキサンおよびベンゼンを含む混合物に、追加量のベンゼンが供給され、この追加量のベンゼンは、部分水素化工程、すなわち工程aに供給されたベンゼン量に等しいかまたはそれ未満であることを特徴とする請求項9に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−518001(P2008−518001A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538839(P2007−538839)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000711
【国際公開番号】WO2006/046852
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】