説明

シタグリプチンの製造方法、およびこれに用いられる中間体

DPP−IV(ジペプチジルペプチターゼIV)阻害剤として、2型糖尿病の治療に有用なシタグリプチンの新規で簡易かつ低コストな製造方法、およびシタグリプチンの製造に用いられる主要な中間体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シタグリプチンの新規の製造方法、およびこれに用いられる中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
シタグリプチンリン酸塩は、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−4)の第二世代の選択的阻害剤であって、インクレチン(incretin)ホルモンの全身濃度を最適化水準に維持するのに用いられる。リン酸シタグリプチン一水和物は2006年10月に、2型糖尿病患者の治療のために食餌または運動療法の助剤としてFDAから承認され、米国および韓国において単一製剤としてジャヌビア(JANUVIA(登録商標))という商品名で市販されている。
【0003】
シタグリプチンおよびシタグリプチンリン酸塩を製造するための様々な方法が開発されてきた。その一例として、国際特許公開WO2003/004498号には下記反応スキーム1に示すように、キラルなピラジン誘導体を用いてキラルアミン基を導入する方法が開示されており、シタグリプチンの主要な中間体としてt−ブトキシカルボニルアミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸を用いてアルント−アイステルトホモログ化(Arndt−Eistert Homologation)によってシタグリプチンを製造する方法が開示されている。
【化1】

【0004】
式中、
Bocはtert−ブトキシカルボニルであり、TEAはトリメチルアミンであり、HOBtは1−ヒドロキシベンゾアゾールであり、EDCはN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドであり、DIPEAはN,N−ジイソプロピルエチルアミンである。
【0005】
国際特許公開WO2004/087650号では、下記反応スキーム2に示すように、2,4,5−トリフルオロフェニル酢酸を、2段階の反応を経てメチル4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−3−オキソフェニルブチラートを得る工程と、得られた化合物を(S)−BINAP−RuCl2・Et3Nの存在下で、高圧水素下で立体選択的に還元する工程と、前記還元された生成物を加水分解してシタグリプチンの主要な中間体である(3S)−3−ヒドロキシ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸を得る工程と、(3S)−3−ヒドロキシ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸を、7段階プロセスを経てシタグリプチンリン酸塩を得る段階と、を含むシタグリプチンリン酸塩の製造方法が開示されている。
【化2】

【0006】
式中、
BINAPは2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチルであり、EDCはN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドであり、Bnはベンジルであり、DIADはジイソプロピルアゾジカルボン酸塩であり、NMMはN−メチルモルホリンであり、ACNはアセトニトリルである。
【0007】
また、国際特許公開WO2004/085661号では、下記反応スキーム3に示すように、白金触媒、PtO2を用いてエナミンを立体選択的に還元してシタグリプチンを製造する方法を開示している。
【化3】

【0008】
さらに、国際特許公開WO2005/097733号では、下記反応スキーム4に示すように、キラルジホスフィンリガンドを有するロジウム系触媒、[Rh(cod)Cl]2を用いてエナミンを立体選択的に還元してシタグリプチンを製造する方法を開示している。
【化4】

【0009】
文献[J.Am.Chem.Soc.,2009,131,p.11316−11317]では、キラルジホスフィンリガンドを有するルテニウム系触媒、Ru(OAc)2を用いてエナミンを立体選択的に還元してシタグリプチンを製造する方法を開示しており、国際特許公開WO2009/064476号では、Ru(OAc)2およびキラルジホスフィンリガンドを用いるか、またはキラル酸をホウ化水素還元剤(例えば、NaBH4)とともに用いてエナミンを立体選択的に還元してシタグリプチンを製造する方法を開示している。
【0010】
本発明者らは、新規の中間体を用いてシタグリプチンを製造する改善された方法を開発するために鋭意研究を重ねた結果、市販のエピクロロヒドリンから製造されるキラルオキシランを用いて簡易かつ低コストの方法でシタグリプチンを製造することができることを突然に見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際特許公開WO2003/004498号
【特許文献2】国際特許公開WO2004/087650号
【特許文献3】国際特許公開WO2004/085661号
【特許文献4】国際特許公開WO2005/097733号
【特許文献5】国際特許公開WO2009/064476号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc., 2009, 131, p.11316−11317
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、シタグリプチンを製造する新規の製造方法およびこれに用いられる中間体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明は、下記式(I)のシタグリプチンの製造方法であって、
(i)(S)−エピクロロヒドリンに対してアリール化反応、エポキシ化反応、およびビニル化反応を施して、下記式(II)の(2R)−1−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−4−ペンテン−2−オールを得る工程と、
(ii)下記式(II)の化合物におけるヒドロキシ基を活性化し、アジ化して下記式(III)の(2S)−1−(2−アジド−4−ペンテニル)−2,4,5−トリフルオロベンゼンを得る工程と、
(iii)下記式(III)の化合物を酸化させて、下記式(IV)の(3R)−3−アジド−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸を得る工程と、
(iv)下記式(IV)の化合物を式(VI)のトリアゾール誘導体と縮合反応させて、下記式(V)の(3R)−3−アジド−1−(3−トリフルオロメチル)−5,6−ジヒドロ−8H−[1,2,4]トリアゾロ[4,3−α]ピラジン−7−イル)−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブタン−1−オンを得る工程と、
(v)下記式(V)の化合物におけるアジド基を還元させる工程とを含む方法を提供する。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【0015】
他の目的を達成するために、本発明は、式(I)のシタグリプチンの製造時に中間体として用いられる下記式(II)の化合物を提供する。
【化11】

【0016】
また他の目的を達成するために、本発明は、式(I)のシタグリプチンの製造時に中間体として用いられる下記式(III)の化合物を提供する。
【化12】

【0017】
別の目的を達成するために、本発明は、式(I)のシタグリプチンの製造時に中間体として用いられる下記式(IV)の化合物を提供する。
【化13】

【0018】
また別の目的を達成するために、本発明は、式(I)のシタグリプチンの製造時に中間体として用いられる下記式(V)の化合物を提供する。
【化14】

【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明によるシタグリプチンの製造方法は、市販の(S)または(R)異性体を有するキラルオキシランを用いてシタグリプチンを低コストで製造することを特徴とする。
【0021】
本発明は、下記工程を含むシタグリプチンの製造方法を提供する:
(i)(S)−エピクロロヒドリンに対してアリール化反応、エポキシ化反応、およびビニル化反応を施して、下記式(II)の(2R)−1−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−4−ペンテン−2−オールを得る工程と、
(ii)下記式(II)の化合物におけるヒドロキシ基を活性化し、アジ化して下記式(III)の(2S)−1−(2−アジド−4−ペンテニル)−2,4,5−トリフルオロベンゼンを得る工程と、
(iii)下記式(III)の化合物を酸化させて、下記式(IV)の(3R)−3−アジド−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸を得る工程と、
(iv)下記式(IV)の化合物を式(VI)のトリアゾール誘導体と縮合反応させて、下記式(V)の(3R)−3−アジド−1−(3−トリフルオロメチル)−5,6−ジヒドロ−8H−[1,2,4]トリアゾロ[4,3−α]ピラジン−7−イル)−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブタン−1−オンを得る工程と、
(v)下記式(V)の化合物におけるアジド基を還元する工程。
【0022】
本発明にかかる化(I)のシタグリプチンは、下記反応スキーム5に示すような過程によって製造することができる。
【化15】

【0023】
工程(i)では、(S)−エピクロロヒドリンに対してアリール化反応、エポキシ化反応およびビニル化反応を順次実施して、式(II)の(2R)−1−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−4−ペンテン−2−オールを製造する。
【0024】
具体的には、グリニャール試薬を触媒量のハロゲン化銅(CuX)と混合し、次いで、ここに(S)−エピクロロヒドリンを低温で徐々に添加してアリール化反応させて、(2S)−3−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−1−クロロ−2−プロパノールを得る(工程ia)。
【0025】
グリニャール試薬は、2,4,5−トリフルオロベンゼンハライドを、マグネシウム(Mg)および有機アルキルハライド(例えば、1,2−ジブロモエタン);MgおよびI2;あるいはイソプロピルマグネシウムクロリド(i−PrMgCl)で処理して調製することができる。
【0026】
2,4,5−トリフルオロベンゼンハライドは、2,4,5−トリフルオロベンゼンブロミド、2,4,5−トリフルオロベンゼンクロリド、およびこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0027】
(S)−エピクロロヒドリンのようなオキシランは、(S)または(R)異性体を含み、これらの異性体は市販されている。
【0028】
ハロゲン化銅は、CuI、CuBr、CuBrS(CH32、およびこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0029】
次いで、こうして得られた(2S)−3−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−1−クロロ−2−プロパノールを溶媒中に溶解し、強塩基を添加してエポキシ化反応させて(2S)−2−(2,4,5−トリフルオロベンジル)−オキシランを得る(工程ib)。
【0030】
この反応で用いられる溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどが使用可能である。
【0031】
この反応で用いられる強塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、およびこれらの混合物のようなアルカリ金属の水酸化物が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0032】
こうして得られた(2S)−2−(2,4,5−トリフルオロベンジル)−オキシランを、触媒量のハロゲン化銅の存在下で、ビニルマグネシウムハライドを用いてビニル化反応させて、末端部に選択的にビニル基を導入することで、式(II)の(2R)−1−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−4−ペンテン−2−オールを得る(工程ic)。
【0033】
ハロゲン化銅は、CuI、CuBr、CuBrS(CH32、およびこれらの混合物からなる群から選択されることができる。
【0034】
ビニルマグネシウムハライドは、ビニルマグネシウムブロミド、ビニルマグネシウムクロリド、およびこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0035】
反応は、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのような溶媒中で行われる。
【0036】
工程(ii)では、工程(i)で得られた式(II)の(2R)−1−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−4−ペンテン−2−オールを、メタンスルホニル基またはトシル基を有する活性化剤と反応させてヒドロキシ基を活性化させる。その後、得られた生成化合物をアジ化してアジド基を導入することにより、式(III)の(2S)−1−(2−アジド−4−ペンテニル)−2,4,5−トリフルオロベンゼンを得ることができる。
【0037】
この反応で用いられる活性化剤は、メタンスルホニル基またはp−トシル基を有する、塩化メシル、p−塩化トシル、ベンゼンスルホニルクロリド、トリフルオロメタンスルホニルクロリド、およびこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0038】
アジ化は、アジド化ナトリウムのようなアジド基を有する化合物を用いて実施することが望ましい。
【0039】
工程(iii)では、工程(ii)で得られた式(III)の(2S)−1−(2−アジド−4−ペンテニル)−2,4,5−トリフルオロベンゼンは、式(III)の化合物におけるアルケニル基を酸化剤の存在下で酸化させ、カルボキシ基を導入して、式(IV)の(3R)−3−アジド−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸を得る。
【0040】
この反応で用いられる酸化剤は、NaIO4、NaMnO4、KMnO4、H2CrO4、OsO4、NaOCl、およびこれらの混合物からなる群から選択することができる。前記反応において、酸化剤は式(III)の化合物の1〜5モル当量の量で用いることができる。
【0041】
好ましくは、工程(iii)は、触媒の存在下で行われることが望ましい。触媒は、RuCl3、RuO4、OsO4、KMnO4、およびこれらの混合物からなる群から選択することができる。前記反応において、触媒は式(III)の化合物の0.0001〜0.1モル当量の量で用いることができる。
【0042】
工程(iv)では、工程(iii)で得られた式(IV)の(3R)−3−アジド−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸を、式(VI)のトリアゾール誘導体と縮合反応させて式(V)の(3R)−3−アジド−1−(3−トリフルオロメチル)−5,6−ジヒドロ−8H−[1,2,4]トリアゾロ[4,3−α]ピラジン−7−イル)−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブタン−1−オンを得る。
【0043】
縮合反応に先立って、カルボキシ基活性化剤で処理して式(IV)の(3R)−3−アジド−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸におけるカルボキシ基を活性化する。
【0044】
カルボキシ基活性化剤は、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1,1’−カルボニルジイミダゾール(CDI)、DCCと1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)との混合物、DCCと1−ヒドロキシスクシンイミドとの混合物、およびこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0045】
工程(v)では、工程(iv)で得られた式(V)の化合物におけるアジド基を還元させて式(I)のシタグリプチンを得る。
【0046】
この反応において、還元剤はPPh3とH2Oの混合物、PPh3とHClとの混合物、PPh3とNH4OHとの混合物、PPh3とH2Sとの混合物などとすることができる。また、前記還元剤は、水素、HCOOH、(NH4)O2H、NH2NH2、BH3、NaBH4、ZnとHClとの混合物、その組み合わせとすることができ、ラネーNi、Pd、Pt、Pd/C、Pd/Al23、Pd(OH)2/C、およびその組み合わせなどのような金属触媒の存在下である。
【0047】
本発明の方法によれば、従来技術では達成できなかった簡易でかつ低コストの方法によって、シタグリプチンを高収率で製造することができる。
【0048】
また、本発明は、本発明で用いられる主な中間体である新規化合物、式(II)の(2R)−1−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−4−ペンテン−2−オール、式(III)の(2S)−1−(2−アジド−4−ペンテニル)−2,4,5−トリフルオロベンゼン、式(IV)の(3R)−3−アジド−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸、および式(V)の(3R)−3−アジド−1−(3−トリフルオロメチル)−5,6−ジヒドロ−8H−[1,2,4]トリアゾロ[4,3−α]ピラジン−7−イル)−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブタン−1−オンを提供する。
【実施例】
【0049】
以下の実施例は、本発明の範囲を限定することなく、本発明をさらに例示することが意図される。
【0050】
<製造例1>:(2S)−2−(2,4,5−トリフルオロベンジル)−オキシランの製造
【化16】

【0051】
<工程1:(2S)−3−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−1−クロロ−2−プロパノールの製造>
マグネシウム(Mg)(1.26g)をテトラヒドロフラン(THF)(10mL)に懸濁させ、ここに一滴の1,2−ジブロモエタンを滴加した。得られた混合物に2,4,5−トリフルオロベンゼンブロミド(0.55g)を徐々に滴加し、次いで、30分間攪拌した。THF(50mL)に溶解させた2,4,5−トリフルオロベンゼンブロミド(9.0g)を前記混合物に30分間徐々に滴加してから、室温で1時間攪拌した。得られた混合物にCuI(0.72g)を添加し、反応温度を0℃に冷却した。THF(40mL)に溶解させた(S)−エピクロロヒドリン(4.1mL)を、得られた混合物に30分間徐々に滴加し、室温に昇温して2時間攪拌した。得られた混合物に、飽和NH4Cl(50mL)および酢酸エチル(50mL)を添加し、生成した有機層を分離した。分離された有機層を飽和食塩水50mLで洗浄し、MgSO4で乾燥してろ過した。ろ液から有機溶媒を減圧下で除去して、標題化合物を得た。
【0052】
<工程2:(2S)−2−(2,4,5−トリフルオロベンジル)−オキシランの製造>
前記工程1で得られた(2S)−3−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−1−クロロ−2−プロパノールをメタノール(50mL)に溶解し、ここにNaOH(2.3g)を滴加した。得られた混合物を1時間攪拌し、これからメタノールを減圧下で除去した。水(50mL)および酢酸エチル(50mL)を、得られた混合物に添加し、生成した有機層を分離した。分離された有機層を飽和食塩水で洗浄し、MgSO4で乾燥した後、ろ過してMgSO4を除去した。ろ液から有機溶媒を減圧下で除去して、標題化合物(6.8g、収率:80%)を得た。
【0053】
H−NMR(300MHz,CDCl3):δ 7.17−7.05(2H,m),6.96−6.88(2H,m),3.16−3.13(1H,m)3.14(1H,dd,J=4.68,14.7),2.82−2.77(2H,m),2.54−2.47(1H,m)。
【0054】
<製造例2>:(2S)−2−(2,4,5−トリフルオロベンジル)−オキシランの製造
【化17】

【0055】
<工程1:(2S)−3−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−1−クロロ−2−プロパノールの製造>
THFに懸濁させた2Nのi−PrMgCl(26mL)を、THF(30mL)に溶解させた2,4,5−トリフルオロベンゼンブロミド(9.55g)に−15℃で60分間滴加した。ここにCuI(0.72g)を−15℃で添加して、−10℃に昇温した。THF(40mL)に溶解させた(S)−エピクロロヒドリン(4.1mL)を、得られた混合物に徐々に添加し、0℃で1時間攪拌した。得られた混合物に、飽和NH4Cl(50mL)および酢酸エチル(50mL)を添加し、生成した有機層を分離した。分離された有機層を飽和食塩水50mLで洗浄し、MgSO4で乾燥した後、ろ過してMgSO4を除去した。ろ液から有機溶媒を減圧下で除去して、標題化合物を得た。
【0056】
<工程2:(2S)−2−(2,4,5−トリフルオロベンジル)−オキシランの製造>
前記工程1で得られた(2S)−3−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−1−クロロ−2−プロパノールをメタノール50mLに溶解させ、ここにNaOH(2.3g)を滴加した。混合物を1時間攪拌した後、これからメタノールを減圧下で除去した。ここに水(50mL)および酢酸エチル(50mL)を添加し、生成した有機層を分離した。分離された有機層を飽和食塩水で洗浄し、MgSO4で乾燥した後、ろ過してMgSO4を除去した。ろ液から有機溶媒を減圧下で除去して、標題化合物7.6g(収率:85%)を得た。
【0057】
<実施例1>:シタグリプチンの製造
<工程1:(2R)−1−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−4−ペンテン−2−オールの製造>
【化18】

【0058】
CuBr(CH32(3.3g)を窒素雰囲気下で反応器に収容し、−78℃に冷却した。ビニルマグネシウムブロミド(240mL)を前記反応器に徐々に添加し、20分間攪拌した。THF(90mL)に溶解させた(2S)−2−(2,4,5−トリフルオロベンジル)−オキシレン(30g)を30分にわたって徐々に滴加し、−78℃で30分間攪拌した後、0℃に昇温した。得られた混合物に、2NのHCl水溶液(300mL)を徐々に添加した後、生成した有機層を分離した。分離された有機層を飽和食塩水で2回洗浄し、MgSO4で乾燥し、ろ過した。ろ液から有機溶媒を減圧下で除去して、標題化合物34.5g(収率:100%)を得た。
【0059】
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ 7.15−7.06(1H,m),6.94−6.86(1H,m),5.85−5.79(1H,m),5.20−5.14(2H,m),3.90−3.85(1H,m),3.82(1H,dd,J=4.6,18.5),2.69(1H,dd,J=7.9,14.0),2.37−2.32(1H,m),2.24−2.17(1H,m),1.86(1H,Br)。
【0060】
<工程2:(2S)−1−(2−アジド−4−ペンテニル)−2,4,5−トリフルオロベンゼンの製造>
【化19】

【0061】
ジクロロメタン(300mL)を、工程1で得られた(2R)−1−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−4−ペンテン−2−オールに加えて0℃に冷却した。トリエチルアミン(20.4mL)および4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)(1.57g)を前記混合物に順次添加し、ここにメタンスルホニルクロリド(11.2mL)を30分間滴加した。得られた混合物を1時間攪拌した後、水(150mL)を添加し、生成した有機層を分離した。分離された有機層を飽和食塩水で2回洗浄し、MgSO4で乾燥してろ過した。ろ液から有機溶媒を減圧下で除去した。得られた残渣をDMF(300mL)に溶解し、ここにNaN3(9.91g)を加えた。得られた混合物を70℃に昇温して2時間攪拌し、室温に冷却した。次いで、得られた混合物に、水(150mL)および酢酸エチル(150mL)を加え、生成した有機層を分離した。分離された有機層を飽和食塩水150mLで2回洗浄し、MgSO4で乾燥してろ過した。ろ液から有機溶媒を減圧下で除去して、標題化合物31.5g(収率:94%)を得た。
【0062】
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ 7.11−7.02(1H,m),7.97−6.87(1H,m),5.89−5.80(1H,m),5.23−5.17(1H,m),3.63−3.59(1H,m),2.87(1H,dd,J=4.7,18.7),2.68(1H,dd,J=7.9,13.7),2.38−2.17(2H,m)。
【0063】
<工程3:(3R)−3−アジド−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸の製造>
【化20】

【0064】
アセトニトリル(300mL)および水(300mL)を、工程2で得られた(2S)−1−(2−アジド−4−ペンテニル)−2,4,5−トリフルオロベンゼンに添加し、0℃に冷却した。RuCl3(0.5g)およびNaIO4(93g)を前記混合物に順次添加し、5時間攪拌した。得られた混合物に酢酸エチル(90mL)を添加してろ過し、その後、生成した有機層を分離した。分離された有機層を、1NのHCl(300mL)、飽和Na223水溶液(300mL)および飽和食塩水300mLで順次洗浄し、MgSO4で乾燥してろ過した。ろ液から有機溶媒を減圧下で除去して、標題化合物32.2g(収率:100%)を得た。
【0065】
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ 10.5(1H,br),7.17−7.05(1H,m),7.02−6.87(1H,m),4.14−4.03(1H,m),2.94−2.78(2H,m),2.65−2.51(2H,m)。
【0066】
<工程4:(3R)−3−アジド−1−(3−トリフルオロメチル−5,6−ジヒドロ−8H−[1,2,4]トリアゾロ[4,3−α]ピラジン−7−イル)−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブタン−1−オンの製造>
【化21】

【0067】
工程3で得られた(3R)−3−アジド−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸(5g)と、式(VI)のトリアゾール誘導体(5.3g)とをDMF(40mL)と水(20mL)とに加えて15分間攪拌し、10℃に冷却した。N−メチルモルホリン(2.4mL)を前記混合物に加えて10分間攪拌し、0℃に冷却した。得られた混合物にEDC(5.6g)を加えて1時間攪拌した。酢酸エチル(50mL)および水(25mL)を、得られた混合物に添加し、その後、生成した有機層を分離した。分離された有機層を50mLの飽和食塩水で4回洗浄し、MgSO4で乾燥してろ過した。ろ液から有機溶媒を減圧下で除去して、標題化合物7.8g(収率:93%)を得た。
【0068】
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ 7.20−7.11(1H,m),6.99−6.90(1H,m),5.20−4.96(2H,m),4.28−4.05(5H,m),2.98−2.67(4H,m)。
【0069】
<工程5:シタグリプチンの製造>
【化22】

【0070】
工程4で得られた(3R)−3−アジド−1−(3−トリフルオロメチル−5,6−ジヒドロ−8H−[1,2,4]トリアゾロ[4,3−α]ピラジン−7−イル)−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブタン−1−オン(6.4g)と、トリフェニルホスフィン(4.3g)とをTHF(74mL)に溶解し、50℃に加熱して2時間攪拌した。得られた混合物にアンモニア水溶液(37mL)を加えて、10時間攪拌した。前記混合物からTHFを減圧下で除去し、ここにHCl(30mL)および酢酸エチル(60mL)を加えて攪拌した。前記混合物から分離された水層を30mLのn−ヘキサンで2回洗浄し、飽和重炭酸ナトリウムを水層に添加して、60mLの酢酸エチルで3回抽出した。得られた抽出物をMgSO4で乾燥してろ過した。ろ液から減圧下で有機溶媒を除去して、標題化合物5.2g(収率:86%)を得た。
【0071】
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ 7.14−7.06(1H,m),7.00−6.88(1H,m),5.13−4.88(2H,m),4.24−3.80(4H,m),3.58(1H,m),2.85−2.66(2H,m),2.61−2.46(2H,m),2.11(3H,br)。
【0072】
以上、特定の実施の態様と関連して本発明を説明したが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範疇内において、当業者は本発明を多様に変更および変形できることが認識されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)のシタグリプチンの製造方法であって、
(i)(S)−エピクロロヒドリンに対してアリール化反応、エポキシ化反応、およびビニル化反応を施して、下記式(II)の(2R)−1−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−4−ペンテン−2−オールを得る工程と、
(ii)下記式(II)の化合物におけるヒドロキシ基を活性化し、アジ化して下記式(III)の(2S)−1−(2−アジド−4−ペンテニル)−2,4,5−トリフルオロベンゼンを得る工程と、
(iii)下記式(III)の化合物を酸化させて、下記式(IV)の(3R)−3−アジド−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸を得る工程と、
(iv)下記式(IV)の化合物を式(VI)のトリアゾール誘導体と縮合反応させて、下記式(V)の(3R)−3−アジド−1−(3−トリフルオロメチル)−5,6−ジヒドロ−8H−[1,2,4]トリアゾロ[4,3−α]ピラジン−7−イル)−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブタン−1−オンを得る工程と、
(v)下記式(V)の化合物におけるアジド基を還元する工程とを含む方法。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【請求項2】
請求項1の方法であって、前記工程(i)が、
グリニャール試薬を用いて、ハロゲン化銅(CuX)の存在下で(S)−エピクロロヒドリンをアリール化して、(2S)−3−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−1−クロロ−2−プロパノールを得る工程と、
(2S)−3−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−1−クロロ−2−プロパノールを溶媒中に溶解し、強塩基を添加してエポキシ化反応させて(2S)−2−(2,4,5−トリフルオロベンジル)−オキシランを得る工程と、
ハロゲン化銅の存在下、(2S)−2−(2,4,5−トリフルオロベンジル)−オキシランをビニルマグネシウムハライドでビニル化反応させる工程と
を含む方法。
【請求項3】
請求項2の方法であって、前記ハロゲン化銅が、CuI、CuBr、CuBrS(CH32およびこれらの混合物からなる群から選ばれる方法。
【請求項4】
請求項2の方法であって、前記強塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる方法。
【請求項5】
請求項2の方法であって、前記ビニルマグネシウムハライドが、ビニルマグネシウムクロリド、ビニルマグネシウムブロミド、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる方法。
【請求項6】
請求項1の方法であって、前記工程(ii)が、塩化メシル、p−塩化トシル、ベンゼンスルホニルクロリド、トリフルオロメタンスルホニルクロリド、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる活性化剤の存在下で行われる方法。
【請求項7】
請求項1の方法であって、前記工程(iii)で用いられる酸化剤が、NaIO4、NaMnO4、KMnO4、H2CrO4、OsO4、NaOCl、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる方法。
【請求項8】
請求項1の方法であって、前記工程(iii)が、RuCl3、RuO4、OsO4、KMnO4、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる触媒の存在下で行われる方法。
【請求項9】
請求項1の方法であって、前記工程(iv)での縮合反応に先立って、カルボキシ基活性化剤で処理して(3R)−3−アジド−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)酪酸におけるカルボキシ基を活性化させる工程をさらに含み、前記カルボキシ基活性化剤が、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1,1’−カルボニルジイミダゾール(CDI)、DCCと1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)との混合物、DCCと1−ヒドロキシスクシンイミドとの混合物、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる方法。
【請求項10】
請求項1の方法であって、前記工程(v)がPPh3とH2Oとの混合物、PPh3とHClとの混合物、PPh3とNH4OHとの混合物、およびPPh3とH2Sとの混合物からなる群から選ばれる還元剤を用いて行われる方法。
【請求項11】
請求項1の方法であって、前記工程(v)が、ラネーNi、Pd、Pt、Pd/C、Pd/Al23、Pd(OH)2/C、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる金属触媒の存在下で、水素、HCOOH、(NH4)O2H、NH2NH2、BH3、NaBH4、ZnとHClとの混合物、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる還元剤を用いて行われる方法。
【請求項12】
下記式(II)の化合物。
【化7】

【請求項13】
下記式(III)の化合物。
【化8】

【請求項14】
下記式(IV)の化合物。
【化9】

【請求項15】
下記式(V)の化合物。
【化10】


【公表番号】特表2013−508355(P2013−508355A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535120(P2012−535120)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【国際出願番号】PCT/KR2010/007150
【国際公開番号】WO2011/049344
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(510316693)ハンミ・サイエンス・カンパニー・リミテッド (10)
【Fターム(参考)】