説明

シナカルセト塩酸塩の製造方法

式(I)で表されるN−[(11R)−1−(1−ナフチル)エチル]−3−[3−(トリフルオロメチル)−フェニル]プロパン−1−アミン塩酸塩(すなわち、シナカルセト塩酸塩)及び式(VII)及び(VIII)(式中、Zは塩化物イオン又は他の薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである)で表されるその中間体の製造方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分であるシナカルセト塩酸塩(CNC.HCl)(すなわち、式(I):
【0002】
【化1】

【0003】
で表されるN−[(1R)−1−(1−ナフチル)エチル]−3−[3−(トリフルオロメチル)フェニル]プロパン−1−アミン塩酸塩)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
欧州連合(EU)でMIMPARA(登録商標)として市販されているCNC.HClは、カルシウム受容体を活性化することによって副甲状腺ホルモンの分泌を抑制するカルシウム受容体作動薬(calcimimetic agent)である。
【0005】
MIMPARA(登録商標)は、透析を受けている慢性腎疾患患者における二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)の治療用、及び副甲状腺摘出が臨床的に不適切又は禁忌である患者における原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)の治療用に認可されている。
【0006】
特許文献1には、一般にシナカルセト(CNC)及びその塩を含むアリールアルキルアミン類が開示されている。特許文献2には、シナカルセト又はその薬学的に許容され得る塩や複合体が化合物22Jとして具体的に記載されているが、シナカルセト及び/又はシナカルセト塩酸塩の製造に関して具体的実施例は何ら記載されていない。
【0007】
シナカルセト塩酸塩の製造方法に関する多くの先行技術は、通常、シナカルセトを溶媒に溶解して溶液を得ることと、シナカルセトをその塩酸塩に転換するのに十分な量の塩酸で前記溶液を処理することと、前記塩酸塩を沈殿させることと、前記塩を回収すること、とから構成されている。
【0008】
例えば、特許文献3には、シナカルセト塩酸塩結晶形Iの製造方法が、一般的に記載されており、その方法は、シナカルセト塩酸塩の溶解性が低い溶媒にシナカルセト塩基を溶解して溶液を得ることと、その溶液を塩酸で酸性化して反応混合物を得ることと、その反応混合物を維持して沈殿物を得ることと、沈殿したシナカルセト塩酸塩結晶形Iを回収すること、とから構成されている。溶媒は、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール及びメタノールからなる群から選択されるのが好ましい。シナカルセトからのシナカルセト塩酸塩結晶形Iの製造は、特許文献3の実施例5に詳細に記載されている。ここでは、無水エタノールにシナカルセト塩基を溶解してシナカルセト溶液を製造し、そのシナカルセト溶液に塩酸を滴下し、得られた混合物を、雰囲気温度で攪拌して沈殿物を生成している。生成物を濾過して単離し、真空乾燥してシナカルセト塩酸塩結晶形Iを得ている。
【0009】
特許文献4の実施例9には、N−[(1R)−1−(1−ナフチル)エチル]−3−(3−トリフルオロメチル)フェニル]プロパンアミドから出発し、シナカルセト遊離塩基を単離せずにシナカルセト塩酸塩を製造することが開示されている。
【0010】
特許文献4は、シナカルセトからシナカルセト塩酸塩を生成する方法を提供している。当該方法は、シナカルセトのアルコール又は酢酸アルキル溶液を得る段階と、遊離塩基の溶液を塩酸で処理して遊離塩基を塩酸塩に転換する段階と、その塩酸塩を含む溶液に反溶媒(anti-solvent)を添加して塩酸塩を固形物として沈殿させる段階と、沈殿した固形物を単離してシナカルセト塩酸塩を得る段階と、とから構成されている。また、特許文献4には、シナカルセト塩酸塩以外のシナカルセト酸付加塩の溶液を得て、その酸付加塩を前記塩酸塩に転換するのに十分な量の塩酸で前記溶液を処理し、前記シナカルセト塩酸塩を単離することによってシナカルセト塩酸塩を生成する方法も記載されている。
【0011】
特許文献5には、次のスキーム1に示すように、触媒及び少なくとも1種の塩基の存在下において、3−ブロモトリフルオロトルエンと、(R)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)プロプ−2−エン−1−アミンとをカップリング反応させて、(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミンを得て(実施例1、段階1)、不飽和シナカルセトを還元してシナカルセトを得て(実施例1、段階2)、シナカルセトをシナカルセト塩酸塩に転換して(実施例2又は実施例3)シナカルセト塩酸塩を製造する方法が開示されている。
【0012】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第6011068号明細書
【特許文献2】米国特許第6211244号明細書
【特許文献3】米国特許第7247751号明細書
【特許文献4】国際公開第2008/058235号
【特許文献5】米国特許第7393967号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、その第1の態様において、シナカルセト塩(特に塩酸塩)をもたらす新規で効率的な方法であって、工業的規模に好都合であり、所望の製品を高収率でもたらす方法を提供する。詳細には、本発明者らは、シナカルセト遊離塩基の単離を意図しない工程によってシナカルセト塩酸塩が有利に得られることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従って、本発明の目的は、式(I):
【0016】
【化3】

【0017】
で表されるシナカルセト塩酸塩の製造方法であって、
e) 式(VII):
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、Zは塩化物イオン又は他の薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである)で表される化合物を還元して式(Ia):
【0020】
【化5】

【0021】
(式中、Zは先と同様に定義される)で表される化合物を得る段階と、
式(Ia)で表される化合物において、Zが塩化物イオンとは異なる薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである場合には、
f) 式(Ia)で表される前記化合物を式(I)で表されるシナカルセト塩酸塩に転換する段階と、
とを含むシナカルセト塩酸塩の製造方法を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
「薬学的に許容され得るアニオン性対イオン」Zとは、正電荷を有するプロトン化シナカルセトと均衡を保つ負電荷を有する分子又は原子を意味する。薬学的に許容され得るアニオン性対イオンは有機であっても無機であってもよい。例えば、代表的な薬学的に許容され得るアニオン性対イオンとしては、塩化物イオンや臭化物イオン、重硫酸イオン(硫酸水素イオン)、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、シュウ酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン、コハク酸イオン、マレイン酸イオン、マロン酸イオンが挙げられる。塩化物イオン、重硫酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、酒石酸イオン及びコハク酸イオンが好ましく、塩化物イオン及び重硫酸イオンがより好ましい。
【0023】
例えば、式(VII)で表される化合物において、Zが塩化物イオンの場合には、前記化合物が式(VIIa):
【0024】
【化6】

【0025】
で表される化合物であり、式(VII)で表される化合物において、Zが重硫酸イオンの場合には、前記化合物が式(VIIb):
【0026】
【化7】

【0027】
で表される化合物であり、式(VII)で表される化合物において、Zが酒石酸イオンの場合には、前記化合物が式(VIIc):
【0028】
【化8】

【0029】
で表される化合物であり、式(VII)で表される化合物において、Zがコハク酸イオンの場合には、前記化合物が式(VIId):
【0030】
【化9】

【0031】
で表される化合物であり、式(VII)で表される化合物において、Zがp−トルエンスルホン酸イオンの場合には、前記化合物が式(VIIe):
【0032】
【化10】

【0033】
で表される化合物である。
【0034】
好ましい態様において、本発明は、先と同様に定義される式(VIIa)で表される化合物を還元する段階を含む、式(I)で表されるシナカルセト塩酸塩の製造方法に関する。
【0035】
他の態様において、本発明の方法は、
g) Zが塩化物イオンとは異なる薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである式(VII)で表される化合物を転換する段階、
を含む工程によって、先と同様に定義される式(VIIa)で表される化合物を得ることを更に含む。
【0036】
さらに好ましい態様において、本発明の方法は、
g) 先と同様に定義される式(VIIb)で表される化合物を転換する段階、
を含む工程によって、先と同様に定義される式(VIIa)で表される化合物を得ることを更に含む。
【0037】
前記の段階e)における還元は、式(VII)で表される化合物(詳細には、式(VIIa)で表される化合物)から出発し、接触水素化(すなわち、触媒の存在下で水素分子を用いる)によって実施され得る。接触水素化は、当業者に知られた任意の方法によって実施してもよい。例えば、式(VII)で表される化合物(詳細には、式(VIIa)で表される化合物)を適切な溶媒に溶解してもよく、そして、例えば、Pd/CやPtO2(アダムス触媒)、ラネーニッケル、PdCl2等の触媒の存在下H2圧に曝露してもよい。触媒としてPd/C、PtO2又はPdCl2が選択される場合、H2圧は、0.5〜5気圧の範囲で選択される。触媒としてラネーニッケルが使用される場合、H2圧は、4〜70気圧のより高い範囲で選択される。適切な溶媒は、炭素数が2〜5(C2〜C5)のニトリル(例えば、アセトニトリル等)、直鎖又は分岐の炭素数が1〜4(C1〜C4)のアルコール(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル又はtert−ブチルアルコール等)、直鎖又は分岐の炭素数が3〜9(C3〜C9)のケトン(例えば、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等)、直鎖又は分岐の炭素数が3〜7(C3〜C7)のエステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル又は酢酸n−ブチル等)、トルエン及びその混合物からなる群から選択され得る。溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル及びその混合物からなる群から選択され得るのが好ましく、最も好ましい溶媒はメタノールである。通常、水素化は、約1時間〜96時間実施される。反応温度は、0℃〜50℃の範囲でよいが、10℃〜30℃の範囲が好ましく、20℃がより好ましい。
【0038】
前記の段階f)における式(Ia)で表される化合物から式(I)で表されるシナカルセト塩酸塩への転換は、先と同様に定義される式(Ia)で表される化合物を溶媒に溶解し、当該化合物を塩酸水溶液で処理して実施することができる。また、段階g)におけるZが塩化物イオンとは異なるアニオン性対イオンである式(VII)で表される化合物から式(VIIa)で表される化合物への転換は、先と同様に定義される式(VII)で表される化合物を、溶媒に溶解し、当該化合物を塩酸水溶液で処理して実施することができる。溶媒は、水、直鎖又は分岐の炭素数が1〜4(C1〜C4)のアルコール(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル又はtert−ブチルアルコール等)、直鎖又は分岐の炭素数4〜8(C4〜C8)のエステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピルまたは酢酸n−ブチル等)及びその混合物から選択される。前記化合物の溶媒への溶解は、室温から選択溶媒(又は溶媒混合物)の沸点までの温度範囲で実施され得る。酸HZが塩酸よりも強い酸の場合には、中適度に過剰の塩酸(2〜10当量)を用いる必要がある。
【0039】
または、段階g)におけるZが塩化物イオンとは異なるアニオン性対イオンである式(VII)で表される化合物から式(VIIa)で表される化合物への転換は、先と同様に定義される式(VII)で表される化合物を、溶媒に懸濁させ、当該化合物を塩基水溶液で処理し、有機層に不飽和シナカルセト遊離塩基(CNC−エン遊離塩基)を抽出させ、塩酸水溶液で処理して、有機溶媒から式(VIIa)で表される化合物を沈殿させることにより実施できる。溶媒は、トルエン、直鎖又は分岐の炭素数4〜8(C4〜C8)のエーテル(例えば、メチルtert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル又はジ−n−ブチルエーテル等)、直鎖又は分岐の炭素数4〜8(C4〜C8)のエステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル又は酢酸n−ブチル等)及びその混合物から選択される。塩基水溶液は、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウム、リン酸ナトリウム又はリン酸カリウム等である。
【0040】
式(VII)で表される化合物は、当業者に知られた任意の方法によって、(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン(CNC−エン遊離塩基)を転換して得られる。例えば、CNC−エン遊離塩基を、米国特許第7393967号(実施例1、段階1)の記載のように、または、ザック システムの同時係属欧州特許出願第08167762.7号の記載に従って製造できる。
【0041】
または、
j) 式(VIII)で表される化合物(式中、波線はR又はS配置を有する炭素に対する結合を示す)から強酸を用いて硫酸を除去し、中和し、適切な酸HZ(式中、Zは塩化物イオンとは異なる薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである)で酸性化する段階、
を含む新規な方法によって、Zが塩化物イオンとは異なる薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである式(VII)で表される化合物を得ることができる。
【0042】
【化11】

【0043】
好ましい一態様においては、先と同様に定義される式(VIIb)で表される化合物を、
j) 先と同様に定義される式(VIII)で表される化合物から強酸を用いて硫酸を除去し、中和し、H2SO4で酸性化を行う段階、
を含む方法によって得ることができる。
【0044】
従って、本発明の他の目的は、先と同様に定義される式(I)で表されるシナカルセト塩酸塩の製造方法を提供することである。当該方法は、Zが塩化物イオンとは異なる薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである式(VII)で表される化合物を前記の段階j)を含む工程によって製造することを更に含む。
【0045】
前記の段階j)における硫酸の除去は、高沸点のトルエン、酢酸n−ブチル及びn−ブチルエーテルから選択される溶媒(好ましくは酢酸n−ブチル)の存在下又は非存在下において、室温から選択溶媒の還流温度までの温度範囲(好ましくは115℃)にて、式(VIII)で表される化合物と、硫酸やリン酸等の強酸(好ましくは濃硫酸)とを反応させて実施され得る。一旦、反応が終了すれば、Zが塩化物イオンとは異なる薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである式(VII)で表される化合物を、当業者に知られた任意のワークアップ法によっても得ることができる。例えば、先と同様に定義される式(VII)で表される化合物の単離は、酸性反応混合物を塩基水溶液で中和し、化合物(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン(CNC−エン遊離塩基)を有機相に抽出し、当該有機相を適切な酸HZ(式中、Zは塩化物イオンとは異なる薬学的に許容され得るアニオン性対イオンであり、好ましくは重硫酸イオンである)で酸性化し、対応する式(VII)で表される化合物を沈殿させて行うことができる。塩基水溶液は、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液であり、有機相は、好ましくは、酢酸n−ブチルである。
【0046】
本発明の更なる目的は、先と同様に定義される式(VIII)で表されるシナカルセト中間体にある。
【0047】
先と同様に定義される式(VIII)で表される化合物は、
k) 還元剤の存在下又は接触水素化工程によって、式(V):
【0048】
【化12】

【0049】
で表される化合物を、式(Va):
【0050】
【化13】

【0051】
で表される対応するベンジルアルコールに還元する段階と、
l) 式(Va)で表される化合物を、式(VIII)で表される硫酸エステルに転換する段階と、
を含む新規な方法によって得ることができる。
【0052】
式(Va)において[]は、式(Va)で表される化合物が反応混合物から単離されるか、又はそうでないことを意味する。
【0053】
前記の段階k)における式(V)で表される化合物の還元を、適切な還元剤とルイス酸とを組み合わせて行なわせることができる。使用できる還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム及び1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等が挙げられる。ガス状の水素と共に使用できる適切な還元触媒は、Pd/C、PtO2(アダムス触媒)、ラネーニッケルやPdCl2が挙げられる。当該反応を、溶媒中で行なわせることができる。溶媒は、還元剤に応じて、例えば、水、直鎖又は分岐の炭素数が1〜4(C1〜C4)のアルコール(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル又はsec−ブチルアルコール等)、直鎖又は分岐の炭素数が4〜8(C4〜C8)のエーテル(例えば、1,2−ジメトキシエタン、2−メトキシエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン又は1,4−ジオキサン等)又はその混合物から選択される。反応は、−10℃〜40℃の温度範囲で、約0.5〜10時間にわたって行なうことができる。触媒としてPd/C、PtO2又はPdCl2が使用される場合、H2圧は、通常1気圧である。ラネーニッケルが使用される場合、H2圧は、中程度に高い(〜1000psi)。通常、水素化は約5〜24時間の間実施される。還元を触媒的水素移動(CTH)条件下で行う場合、適切な水素含有供給材料を用いる。当該水素含有供給材料としては、例えば、ギ酸、ギ酸アンモニウム又はギ酸ナトリウム等が用いられる。ギ酸アンモニウム又はギ酸ナトリウムが好ましく用いられる。水素供与体としての水素含有供給材料を活性化するため、先と同様に定義される触媒を用いるが、触媒によって水素含有供給材料から基質への水素移動が促進される。CTHは、当業者に知られた任意の方法によって実施することができる。詳細には、CTH技法を段階k)における反応で用いる場合、ギ酸、ギ酸アンモニウム又はギ酸ナトリウム(好ましくは、ギ酸アンモニウム又はギ酸ナトリウム)の存在下において、式(V)で表される化合物を、例えば、トルエン、酢酸、並びに先と同様に定義される炭素数が1〜5(C1〜C5)のアルコール(好ましくは、エチルアルコール)から選択される溶媒に、選択された溶媒の還流温度にて約5〜48時間かけて溶解する。最も好ましい実施形態においては、−10℃〜10℃の温度範囲にてメタノール中で水素化ホウ素ナトリウムを用いる。
【0054】
一旦、式(Va)で表される中間体のベンジルアルコールを生成すれば、それを単離してもしなくても、溶媒中において、0℃〜50℃の温度範囲(最も好ましくは25℃)で硫酸及び無水酢酸を用いた処理により、前記の段階l)に従って式(VIII)で表される硫酸エステルに転換することができる。溶媒は、アセトニトリル、先と同様に定義される炭素数が4〜8(C4〜C8)のエーテル、直鎖又は分岐の炭素数が4〜6(C4〜C6)のエステル(例えば、酢酸エチルや酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル等)又はその混合物から選択され得る。処理温度は、最も好ましくは25℃である。
【0055】
従って、本発明の他の目的は、先と同様に定義される式(I)で表されるシナカルセト塩酸塩の製造方法を提供することである。当該方法は、式(Va)で表される中間体化合物の単離の有無にかかわらず、前記の段階k)及びl)を含む工程によって式(VIII)で表される化合物を製造することを更に含む。
【0056】
明確にするため、前記工程を次のスキーム2に示すことができる。
【0057】
【化14】

【0058】
本発明は、特定の態様において、式(I):
【0059】
【化15】

【0060】
で表されるシナカルセト塩酸塩の製造方法であって、
k) 還元剤の存在下又は接触水素化工程によって、式(V):
【0061】
【化16】

【0062】
で表される化合物を式(Va):
【0063】
【化17】

【0064】
(式中、[]は式(Va)で表される化合物が反応混合物から単離されるか、又はそうでないことを意味する)で表される対応するベンジルアルコールに還元する段階と、
l) 式(Va)で表される化合物を式(VIII):
【0065】
【化18】

【0066】
(式中、波線はR又はS配置を有する炭素に対する結合を示す)で表される硫酸エステルに転換する段階と、
j) 式(VIII)で表される化合物から強酸を用いて硫酸を除去し、中和し、H2SO4で酸性化を行って、式(VIIb):
【0067】
【化19】

【0068】
で表される化合物を得る段階と、
g) 化合物(VIIb)を化合物(VIIa):
【0069】
【化20】

【0070】
に転換する段階と、
e) 化合物(VIIa)を還元して式(I)で表されるシナカルセト塩酸塩を得る段階と、
とを含む方法を提供する。
【0071】
先と同様に定義される式(V)で表される化合物の調製は、ザックシステムの同時係属欧州特許出願第08167762.7号に記載の方法であって、
a) ホルムアルデヒド及び塩酸の存在下において、式(II):
【0072】
【化21】

【0073】
で表される3−(トリフルオロメチル)アセトフェノンを式(III):
【0074】
【化22】

【0075】
で表される(R)−(1−ナフチル)エチルアミン(必要に応じて塩酸塩の形態をとる)と反応させて、式(V):
【0076】
【化23】

【0077】
で表される化合物を得る段階、
を含む方法に従って行うことができる。
【0078】
本発明の好ましい一態様においては、前記の段階a)における反応は、(R)−(1−ナフチル)エチルアミン塩酸塩を用いて行う。
【0079】
従って、本発明の更なる目的は、先と同様に定義される式(I)で表されるシナカルセト塩酸塩の製造方法を提供することである。当該方法は、前記の段階a)を含む工程によって式(V)で表される化合物を製造することを更に含む、
【0080】
ザックシステムの同時係属欧州特許出願第08167762.7号によると、式(V)で表される化合物の製造は、
b) 先と同様に定義される式(II)で表される化合物を、
(i) 式:
HNR12
(式中、R1及びR2は独立して水素又は炭素数が1〜5(C1〜C5)のアルキルを表わす。R1及びR2の一方が水素の場合、他方は水素ではなく、または、R1とR2が一緒になって炭素数が4〜7(C4〜C7)のアルキルブリッジを形成し、これらが連結している窒素原子を含めて複素環を形成し、ホルムアルデヒドの存在下において、炭素数が4〜7(C4〜C7)のアルキルブリッジの1個の−CH2−基が、−O−に置換され得る)で表される化合物、又は
(ii) 式:
(CH32+=CH2 Hal-
(式中、Halはハロゲン原子である)で表されるN−メチル−N−メチレンメタンアミニウムハライドと反応させて式(IV):
【0081】
【化24】

【0082】
(式中、R1及びR2は先と同様に定義される)で表される化合物を得る段階と、
c) 式:
3−X、CO(OR32、SO2(OR32、PO(OR33、CH3PO(OR32及び(4−NO264O)PO(OR32(式中、R3は炭素数が1〜4(C1〜C4)のアルキルであり、XはI、Br、OSO2CF3又はOSO2Fである)で表される化合物からなる群から選択されるアルキル化剤を用いて式(IV)で表される化合物をアルキル化して式(IVa):
【0083】
【化25】

【0084】
(式中、Yは、先と同様に定義されるX、R3OCO2、R3OSO3、(R3O)2PO2、CH3PO2OR3又は(4−NO2−C64O)PO2OR3)で表される化合物を得る段階と、
d) 式(IVa)で表される化合物を、式(III)で表される(R)−(1−ナフチル)エチルアミンとカップリング反応させて、式(V):
【0085】
【化26】

【0086】
で表される化合物を得る段階と、
を含む工程を用いて行うこともできる。
【0087】
従って、本発明の更なる目的は、先と同様に定義される式(I)で表されるシナカルセト塩酸塩の製造方法を提供することである。当該方法は、前記の段階b)〜d)を含む工程によって式(V)で表される化合物を製造することを更に含む、
【0088】
明確にするため、式(V)で表される化合物の前記製造工程を、次のスキーム3(ザックシステムの同時係属欧州特許出願第08167762.7号のスキーム7に相当する)で説明することができる。
【0089】
【化27】

【0090】
前記の段階a)又は段階b)〜d)による式(V)で表される化合物の製造は、ザックシステムの同時係属欧州特許出願第08167762.7号に記載の反応条件下で行うことができる。
【実施例】
【0091】
以下の実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は単に説明のためであって、これによって本発明の範囲が限定されるものではない。
[実施例1]
【0092】
(R)−3−(1−(ナフタレン−1−イル)エチルアミノ)−1−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロパン−1−オン塩酸塩(V)の製造
方法A
【0093】
【化28】

【0094】
(R)−(1−ナフチル)エチルアミン塩酸塩(III)(100.0g)、パラホルムアルデヒド(15.9g)、3−(トリフルオロメチル)アセトフェノン(II)(135.7g)、30%w/w塩酸水溶液(5.6g)、エタノール(150.0g)及び水(10.0g)を反応器に投入し、十分な転換がHPLCによって確認されるまで、還流下で14時間攪拌した。次に、水(300.0g)及びトルエン(305.0g)を添加し、混合物を25℃にて攪拌した。有機層と水層を分離し、沈殿を促すため、更に水(200.0g)を有機層に投入した。室温にて濾過し、標記化合物(95.6g)を単離し、水及びメチルtert−ブチルエーテルで洗浄し、50℃で乾燥した。
【0095】
方法B
(R)−(1−ナフチル)エチルアミン塩酸塩(III)(1.5g)、パラホルムアルデヒド(0.3g)、3−(トリフルオロメチル)アセトフェノン(II)(1.8g)、30%w/w塩酸水溶液(0.1g)、エタノール(4.5g)及び水(1.5g)を攪拌しつつ、反応器に投入し、十分な転換がHPLCによって確認されるまでマイクロ波照射(最大250W)下で5分間反応させた。次に、水(10.0g)及びトルエン(3.0g)を添加し、得られた懸濁液を25℃で攪拌した。室温での濾過により標記化合物(1.6g)を単離し、水及びメチル2−プロパノールで洗浄し、50℃で乾燥した。
【0096】
方法C
(R)−(1−ナフチル)エチルアミン(III)(82.4g)、パラホルムアルデヒド(15.9g)、3−(トリフルオロメチル)アセトフェノン(II)(135.7g)、30%w/w塩酸水溶液(52.9g)、エタノール(150.0g)及び水(10.0g)を反応器に投入し、十分な転換がHPLCによって確認されるまで還流下で14時間攪拌した。次に、水(300.0g)及びトルエン(305.0g)を添加し、得られた混合物を25℃で攪拌した。有機層と水層を分離し、水(200.0g)を有機層に更に添加して沈殿を促進させた。室温での濾過により標記化合物(95.6g)を単離し、水及びメチルtert−ブチルエーテルで洗浄し、50℃で乾燥した。
【0097】
(R)−3−(1−(ナフタレン−1−イル)エチルアミノ)−1−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロパン−1−オン塩酸塩(V)のNMR
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6), δ (ppm, TMS): 10.00 (1H, br s; -NH2+-), 9.24 (1H, br s; -NH2+-), 8.31 (1H, d, J = 8.4; ArH), 8.23 (1H, d, J = 8.0 Hz; ArH), 8.16 (1H, br s; ArH), 8.08-7.96 (4H, m; ArH), 7.82 (1H, t, J = 8.0 Hz; ArH), 7.69-7.58 (3H, m; ArH), 5.47-5.36 (1H, m; -CH(CH3)-), 3.70-3.54 (2H, m; -CH2-), 3.41-3.26 (2H, m; -CH2-), 1.72 (3H, m, J = 6.4 Hz; -CH(CH3)-).
[実施例2]
【0098】
3−(ジメチルアミノ)−1−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロパン−1−オン塩酸塩(IV)の製造
【0099】
【化29】

【0100】
1−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)エタノン(25.0g)(II)、ジメチルアミン塩酸塩(13.0g)、パラホルムアルデヒド(4.8g)、31%w/w塩酸水溶液(0.5mL)のエタノール(70mL)混合液を還流温度で24時間攪拌した後、冷却し、溶媒をトルエン(50mL)で洗い流した。次に、沈殿した淡黄色の固形物を濾過し、トルエンで洗浄し、乾燥して標記化合物(IV)(28.0g)を得た。
[実施例3]
【0101】
3−(ジメチルアミノ)−1−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロパン−1−オン塩酸塩(IV)の製造
【0102】
【化30】

【0103】
1−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)エタノン(5.0g)(II)、N−メチル−N−メチレンメタンアミニウムヨージド(5.4g)、31%w/w塩酸水溶液(0.1mL)のエタノール(7mL)混合液を還流温度で24時間攪拌した後、冷却し、溶媒をトルエン(50mL)で洗い流した。次に、沈殿した淡黄色の固形物を濾過し、トルエンで洗浄し、乾燥して標記化合物(IV)(7.1g)を得た。
[実施例4]
【0104】
N,N,N−トリメチル−3−オキソ−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロパン−1−アンモニウムヨージド(IVa)の製造
【0105】
【化31】

【0106】
1:1の水/トルエン混合液(50mL)中で3−(ジメチルアミノ)−1−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロパン−1−オン(IV)(15.0g)を激しく攪拌させた二相溶液に対し、30%w/w水酸化ナトリウム水溶液をpHが14になるまで室温にて1時間かけて添加した。次に、有機層を分離し、無水Na2SO4で乾燥し、濾過した。次に、母液を反応器に投入し、強く攪拌しながらヨウ化メチル(22.6g)を30分かけて添加した。次に、混合物を室温に18時間維持してメチル化されたマンニッヒ塩基ヨウ化物塩(18.0g)(化合物(IVa))の黄色固形物を得て、これを濾過、乾燥し、更なる精製を行うことなく次の合成段階で用いた。
[実施例5]
【0107】
(R)−3−(1−(ナフタレン−1−イル)エチルアミノ)−1−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロパン−1−オン塩酸塩(V)の製造
【0108】
【化32】

【0109】
メチル化されたマンニッヒ塩基ヨウ化物塩(化合物(IVa))(20.5g)、(R)−(1−ナフチル)エチルアミン(11.0g)及び炭酸カリウム(14.7g)のアセトニトリル(50mL)への懸濁液を激しく攪拌させ、還流温度にて8時間維持した後、室温まで冷却し、水(20mL)を添加し、酢酸エチル(25mL)で2回抽出した。次に、混合有機相を乾燥し、濃縮して、未精製の標記化合物(V)(20.8g)を黄色油として得た。化合物(V)からその塩酸塩への転換、及びMTBEからの再結晶化により、更なる精製を行うことができた。
[実施例6]
【0110】
(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン(CNC−エン遊離塩基)の製造
【0111】
【化33】

【0112】
(R)及び(S)−3−((R)−1−(ナフタレン−1−イル)エチルアミノ−1−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロパン−1−オールのジアステレオマー異性体混合物(ザックシステムの同時係属欧州特許出願第08167762.7号、実施例7の教示に従って得た)をトルエン溶液(33.7g)として反応器に投入した。次に、酢酸(76.9g)及び濃硫酸(96%w/w;49.0g)を25℃でゆっくりと添加し、反応混合物を110℃で1時間加熱した後、5℃まで冷却した。トルエン(85.0g)を添加して全体を希釈し、水(50.0g)を滴下した後、25℃で数分間攪拌した。有機相と水相を分離し、トルエン層を5℃まで冷却し、アンモニア水(28%w/w;40.0g)をpHが10になるまで添加して中和した。一旦、室温まで到達した時点で、塩を可溶化するために水(30.0g)を添加し、相分離を行い、減圧蒸留によって有機層から溶媒を除去した。未精製の標記化合物を淡黄色油として得た(17.7g)。
【0113】
(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミンのNMR:
1H NMR (400 MHz, CDCl3), δ(ppm, TMS): 8.21-8.17 (1H, m; ArH), 7.92-7.86 (1H, m; ArH), 7.78 (1H, d, J = 8.0 Hz; ArH), 7.72 (1H, d, J = 7.2 Hz; ArH), 7.58-7.45 (6H, m; ArH), 7.43-7.37 (1H, m; ArH), 6.48 (1H, d, J = 16.0 Hz; -ArCH=CHCH2-), 6.39 (1H, dt, J = 6.0, 6.0 Hz; -ArCH=CHCH2-), 4.76 (1H, q, J = 6.6 Hz; -CH(CH3)-), 3.46-3.33 (2H, m; -CH2-), 1.57 (3H, d, J = 6.6; -CH(CH3)-).
[実施例7]
【0114】
(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン塩酸塩(VIIa)の製造
【0115】
【化34】

【0116】
(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン(CNC−エン遊離塩基)(4.3g、12.122mmol)をMTBE(50mL)で希釈し、1.20当量の31%w/w塩酸水溶液を添加する。過剰の水を共沸蒸留によって除去する。次に、有機相を60%体積まで濃縮し、生成した沈殿物を0℃まで冷却、濾過して単離する。真空乾燥によって4.6gの白色粉末を得る(VIIa;11.739mmol、収率96.8%)。
[実施例8]
【0117】
(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミンHZ塩(VIIc)(VIId)(VIIe)の製造
【0118】
【化35】

【0119】
(VIIc)=(VII)において、Zが、酒石酸イオンである。
(VIId)=(VII)において、Zが、コハク酸イオンである。
(VIIe)=(VII)において、Zが、p−トルエンスルホン酸イオンである。
(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン(CNC−エン遊離塩基)(4.3g、12.122mmol)をMTBE(50mL)で希釈し、1.05当量の酸HZ(HZ:(c)=メソ酒石酸、(d)=コハク酸、(e)=p−トルエンスルホン酸)を添加する。このようにして生成した沈殿物の濾過と真空乾燥によって、対応する(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン塩(VIIc)、(VIId)又は(VIIe)を得る。収率は次の通りである(VIIc:27.6%(白色粉末)、VIId:69.7%(白色粉末)、VIIe:94.5%(白色粉末))。
[実施例9]
【0120】
(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミンHZ塩(VIIe)から(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン塩酸塩(VIIa)への転換
【0121】
【化36】

【0122】
(VIIe)=(VII)において、Zが、p−トルエンスルホン酸イオンである。
25℃にてMTBE/水混合液中に、30%w/wNaOH水溶液を、水層のpHが12になるまで添加して、(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミンp−トルエンスルホン酸塩(VIId)を遊離塩基化する。次に、有機層を分離し、水層のpHが1になるまで31%w/wHCl水溶液(1.2当量)で酸性化する。水層を分離し、残存水分を共沸蒸留によって有機相から取り除く。一旦、水分を完全に除去したら、総体積が40%低下するまで有機溶媒を留去する(T=54℃〜55℃、P=900mbar)。次に、得られた混合物を0℃まで冷却し、濾過する。(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン塩酸塩(VIIa)を白色粉末として得る(単離収率:87.1%)。
[実施例10]
【0123】
(R)及び(S)−3−((R)−1−(ナフタレン−1−イル)エチルアンモニオ)−1−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロピル硫酸塩(VIII)の製造
【0124】
【化37】

【0125】
(R)−3−(1−(ナフタレン−1−イル)エチルアミノ)−1−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロパン−1−オン塩酸塩(V)(150.0g、365.934mmol)を、−5℃〜0℃にて冷メタノール(570mL)に懸濁させ、NaBH4(6.3g、166.534mmol、0.45当量)及び30%NaOH水溶液(53.8g、403.500mmol、1.1当量)の水溶液(45mL)を30分間にわたって、ゆっくりと添加する。一旦、反応が完了(高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるイオンペアークロマトグラフィ(IPC))した時点で、内部温度を5℃未満に維持しつつ、酢酸(55.0g、913.903mmol、2.5当量)をゆっくりと添加する。その後、水(415mL)を添加する。次に、反応混合物を50℃まで加熱し、体積が半分になるまで減圧下で溶媒を留去する。その後、イソプロピルエーテル(450mL)を添加し、得られた混合物を攪拌し、一旦、層状になったら、下相を分離する。有機相を水(75mL)で洗浄した後、MTBE(400mL)を添加し、再度水で洗浄する(3×75mL)。このようにして、揮発性溶媒をイソプロピルエーテルで洗い流し、残存水分を共沸によって除去する。アセトニトリル(300mL)を10℃で添加し、濃硫酸(35.5g、347.507mmol)をゆっくりと添加した後、無水酢酸(71.0g、695.275mmol)を20℃〜25℃で添加する。十分な転換がHPLCによって確認されるまで、反応混合物を20℃〜25℃で約1時間攪拌した後、0℃まで冷却する。得られた沈殿物を濾過によって単離し、イソプロピルエーテルで洗浄し(3×65mL)、55℃で真空乾燥する。標記化合物(VIII)(152.9g、302.314mmol)を82.6%の収率で得る。
[実施例11]
【0126】
(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミンHZ塩(VIIb)の製造
【0127】
【化38】

【0128】
(VIIb)=(VII)において、Zが重硫酸イオンである。
500mLの反応器に、(R)及び(S)−3−((R)−1−(ナフタレン−1−イル)エチルアンモニオ)−1−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロピル硫酸塩(VIII)(55.0g、121.287mmol)及び酢酸n−ブチル(250mL)を添加し、96%H2SO4(37.1g、363.169mmol、3.0当量)を室温で滴下する。反応混合物を115℃まで加熱し、15時間攪拌した後、15℃まで冷却する。反応混合物を水(2×110mL)、6%w/wNaOH水溶液(139.2g)及び8%w/wNaHCO3水溶液(110.0g)で洗浄する。次に、得られた有機溶液を木炭で処理し、濾過し、水で洗浄し(2×55mL)、総体積が400mLになるまで酢酸n−ブチルを添加する。次に、体積が半分になるまで溶媒を留去する。得られた有機溶液に酢酸n−ブチル(170mL)を添加し、96%w/wH2SO4(11.2g、109.636mmol)で酸性化する。得られた懸濁液を90℃まで加熱し、清澄な溶液が得られるまで攪拌する(1時間)。該溶液を65℃まで冷却し、沈殿が確認されるまで65℃に維持した後、30分間で0℃まで冷却する。得られた固形物を濾過し、冷酢酸n−ブチルで洗浄し、50℃で真空乾燥する。標記化合物(VIIb)(37.1g、81.814mmol、収率67.5%)を白色粉末として得る。
[実施例12]
【0129】
(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン重硫酸塩(VIIb)から(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン塩酸塩(VIIa)への転換
【0130】
【化39】

【0131】
方法A
25℃にてメチルtert−ブチルエーテル(MTBE)/水混合液中に、30%w/wNaOH水溶液(34.8g、261.0mmol、2.2当量)を、水層のpHが12になるまで添加して、(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン重硫酸塩(VIIb)(55.1g、121.466mmol)を遊離塩基化する。次に、有機層を分離し、水層のpHが1になるまで31%w/wHCl水溶液(17.6g、149.643mmol、1.2当量)で酸性化する。水層を分離し、残存水分を共沸蒸留(T=54℃)によって有機相から取り除く。一旦、水分を完全に除去すると、白色沈殿物が生成するが、総体積が40%低下するまで有機溶媒を留去する(T=54℃〜55℃、P=900mbar)。次に、得られたスラリーを0℃まで冷却し、濾過する。(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン塩酸塩(VIIa)(46.7g、119.175mmol、収率98.1%)を白色粉末として得る(HPLCアッセイ:99.5%w/w)。
【0132】
方法B
(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン重硫酸塩(VIIb)(5.0g、11.026mmol)を温水/2−プロパノール混合液(7:3 vol/vol、55mL)に溶解する。次に、得られた溶液に濃塩酸(6.5g、55.521mmol)を添加し、25℃までゆっくりと冷却する。白色沈殿物が生成し、スラリーを濾過し、固形物を水で洗浄する。(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン塩酸塩(VIIa)(3.9g、9.953mmol、収率90.3%)を白色粉末として得る。
[実施例13]
【0133】
(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン塩酸塩(VIIa)からのシナカルセト塩酸塩(I)の製造
アルコール溶媒又はアルコール/エステル混合液(30〜50mL)中における(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン塩酸塩(VIIa)(5.0g)とパラジウム触媒(0.0005〜0.01当量)の混合物を1barの水素で加圧し、+20℃で攪拌する。次に、得られた混合物をセライト(登録商標)パッド(Celite(登録商標)pad)で濾過し、濃縮してシナカルセト塩酸塩(I)を得るが、必要に応じて、エーテル又はエステル溶媒又はその混合液から再結晶化する(結果の詳細については下表参照)。
【0134】
【表1】

[実施例14]
【0135】
(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン重硫酸塩(VIIb)からのN−[(1R)−1−(1−ナフチル)エチル]−3−[3−(トリフルオロメチル)フェニル]プロパン−1−アミンHZ塩(Ia)(Z=重硫酸イオン、すなわち、シナカルセト重硫酸塩)の製造
【0136】
【化40】

【0137】
酢酸エチル/メタノール(1:1 vol/vol、40mL)中における(R,E)−N−(1−(ナフタレン−1−イル)エチル)−3−(3−(トリフルオロメチル)フェニル)プロプ−2−エン−1−アミン重硫酸塩(VIIb)(5.0g)と炭素上に担持された5%パラジウム(0.0005当量)の混合物を1barの水素で加圧し、+20℃で10時間攪拌する。次に、得られた混合物をセライト(登録商標)パッド(Celite(登録商標)pad)で濾過し、濃縮してシナカルセト重硫酸塩を得て、これをエーテル又はエステル溶媒又はその混合液から再結晶化する(収率84.0%)。
[実施例15]
【0138】
シナカルセト重硫酸塩からシナカルセト塩酸塩(I)への転換
【0139】
【化41】

【0140】
シナカルセト重硫酸塩(1.0g、2.200mmol)を温水/2−プロパノール混合液(12〜14mL)に溶解する。次に、得られた溶液を20℃まで冷却し、濃塩酸(1.0g、8.493mmol)を添加する。白色沈殿物が生成し、スラリーを濾過し、固形物を水で洗浄する。シナカルセト塩酸塩(I)(0.7g、1.777mmol、収率80.8%)を白色粉末として得る(HPLCアッセイ:99.5%w/w)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

で表されるシナカルセト塩酸塩の製造方法であって、
e) 式(VII):
【化2】

(式中、Zは塩化物イオン又は他の薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである)で表される化合物を還元して式(Ia):
【化3】

(式中、Zは先と同様に定義される)で表される化合物を得る段階と、
式(Ia)で表される化合物において、Zが塩化物イオンとは異なる薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである場合には、
f) 式(Ia)で表される前記化合物を式(I)で表されるシナカルセト塩酸塩に転換する段階と、
とを含むシナカルセト塩酸塩の製造方法。
【請求項2】
塩化物イオンとは異なる薬学的に許容され得るアニオン性対イオンは、臭化物イオン、重硫酸イオン、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、シュウ酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン、コハク酸イオン、マレイン酸イオン及びマロン酸イオンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(VII)で表される化合物において、Zが塩化物イオンであり、当該化合物が式(VIIa):
【化4】

で表される化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
g) Zが塩化物イオンとは異なる薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである式(VII)で表される化合物を転換する段階、
を含む工程によって、式(VIIa)で表される化合物を得ることを更に含む、請求項3に記載の方法。
【化5】

【請求項5】
式(VII)で表される化合物において、Zが塩化物イオンとは異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
式(VII)で表される化合物において、Zが重硫酸イオンであり、当該化合物が式(VIIb):
【化6】

で表される化合物である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
j) 式(VIII)で表される化合物(式中、波線はR又はS配置を有する炭素に対する結合を示す)から強酸を用いて硫酸を除去し、中和し、酸HZ(式中、Zは塩化物イオンとは異なる薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである)で酸性化する段階を含む工程によって、Zが塩化物イオンとは異なる薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである式(VII)で表される化合物を得ることを更に含む、請求項4又は5に記載の方法。
【化7】

【請求項8】
強酸が、硫酸又はリン酸である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
酸HZが、H2SO4である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
k) 還元剤の存在下又は接触水素化工程によって、式(V):
【化8】

で表される化合物を、式(Va):
【化9】

(式中、[]は、式(Va)で表される化合物が反応混合物から単離されるか、又はそうでないことを意味する)で表される対応するベンジルアルコールに還元する段階と、
l) 式(Va)で表される化合物を、式(VIII)で表される硫酸エステルに転換する段階と、
とを含む工程によって、式(VIII)で表される化合物を得ることを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
a) ホルムアルデヒド及び塩酸の存在下において、式(II):
【化10】

で表される3−(トリフルオロメチル)アセトフェノンを式(III):
【化11】

で表される(R)−(1−ナフチル)エチルアミン(必要に応じて塩酸塩の形態をとる)と反応させる段階、
を含む工程によって、式(V)で表される化合物を得ることを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
b) 式(II):
【化12】

で表される化合物を、
(i) 式:
HNR12
(式中、R1及びR2は独立して水素又は炭素数が1〜5(C1〜C5)のアルキルを表す。R1及びR2の一方が水素の場合、他方は水素ではなく、または、R1とR2が一緒になって炭素数が4〜7(C4〜C7)のアルキルブリッジを形成し、これらが連結している窒素原子を含めて複素環を形成し、ホルムアルデヒドの存在下において、炭素数が4〜7(C4〜C7)のアルキルブリッジの1個の−CH2−基が、−O−に置換され得る)で表される化合物、又は
(ii) 式:
(CH32+=CH2 Hal-
(式中、Halはハロゲン原子である)で表されるN−メチル−N−メチレンメタンアミニウムハライドと反応させて式(IV):
【化13】

(式中、R1及びR2は先と同様に定義される)で表される化合物を得る段階と、
c) 式:
3−X、CO(OR32、SO2(OR32、PO(OR33、CH3PO(OR32及び(4−NO264O)PO(OR32(式中、R3は炭素数が1〜4(C1〜C4)のアルキルであり、XはI、Br、OSO2CF3又はOSO2Fである)で表される化合物からなる群から選択されるアルキル化剤を用いて式(IV)で表される化合物をアルキル化して式(IVa):
【化14】

(式中、Yは、先と同様に定義されるX、R3OCO2、R3OSO3、(R3O)2PO2、CH3PO2OR3又は(4−NO2−C64O)PO2OR3)で表される化合物を得る段階と、
d) 式(IVa)で表される化合物を、式(III):
【化15】

で表される(R)−(1−ナフチル)エチルアミンとカップリング反応させる段階と、
とを含む工程によって、式(V)で表される化合物を得ることを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
式(VIII):
【化16】

(式中、波線はR又はS配置を有する炭素に対する結合を示す)で表されるシナカルセト中間体の製造方法であって、
k) 還元剤の存在下又は接触水素化工程によって、式(V):
【化17】

で表される化合物を、式(Va):
【化18】

(式中、[]は式(Va)で表される化合物が反応混合物から単離されるか、又はそうでないことを意味する)で表される対応するベンジルアルコールに還元する段階と、
l) 式(Va)で表される化合物を式(VIII)で表される硫酸エステルに転換する段階と、
とを含むシナカルセト中間体の製造方法。
【請求項14】
式(I):
【化19】

で表されるシナカルセト塩酸塩の製造方法であって、
k) 還元剤の存在下又は接触水素化工程によって、式(V):
【化20】

で表される化合物を式(Va):
【化21】

(式中、[]は式(Va)で表される化合物が反応混合物から単離されるか、又はそうでないことを意味する)で表される対応するベンジルアルコールに還元する段階と、
l) 式(Va)で表される化合物を式(VIII):
【化22】

(式中、波線はR又はS配置を有する炭素に対する結合を示す)で表される硫酸エステルに転換する段階と、
j) 式(VIII)で表される化合物から強酸を用いて硫酸を除去し、中和し、H2SO4で酸性化を行って、式(VIIb):
【化23】

で表される化合物を得る段階と、
g) 化合物(VIIb)を化合物(VIIa):
【化24】

に転換する段階と、
e) 化合物(VIIa)を式(I)で表されるシナカルセト塩酸塩に還元する段階と、
とを含むシナカルセト塩酸塩の製造方法。
【請求項15】
次式(VII):
【化25】

(式中、Zは塩化物イオン又は他の薬学的に許容され得るアニオン性対イオンである)で表されるシナカルセト中間体。
【請求項16】
薬学的に許容され得るアニオン性対イオンは、塩化物イオン、臭化物イオン、重硫酸イオン、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、シュウ酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン、コハク酸イオン、マレイン酸イオン及びマロン酸イオンから選択される、請求項15に記載のシナカルセト中間体。
【請求項17】
次式(VIIa):
【化26】

で表されるシナカルセト中間体。
【請求項18】
次式(VIIb):
【化27】

で表されるシナカルセト中間体。
【請求項19】
次式(VIIc):
【化28】

で表されるシナカルセト中間体。
【請求項20】
次式(VIId):
【化29】

で表されるシナカルセト中間体。
【請求項21】
次式(VIIe):
【化30】

で表されるシナカルセト中間体。
【請求項22】
次式(VIII):
【化31】

(式中、波線はR又はS配置を有する炭素に対する結合を示す)で表されるシナカルセト中間体。

【公表番号】特表2012−518026(P2012−518026A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550541(P2011−550541)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051900
【国際公開番号】WO2010/094674
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(307041023)
【氏名又は名称原語表記】ZaCh System S.p.A.
【Fターム(参考)】