説明

シフト触媒

【課題】 シフト触媒単位活性あたりの貴金属原子の使用量を相対的に低減させうる手段を提供する。
【解決手段】 貴金属原子を含む触媒粉末がハニカム担体の内表面に形成されてなる触媒層を有するシフト触媒において、前記触媒層の表面の少なくとも一部が露出するように、COの透過を抑制しうるCO透過抑制層を前記触媒層の上層に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素(CO)および水(HO)を含むガス中のCOを二酸化炭素(CO)および水素(H)に変換するシフト反応を選択的に促進するための、シフト触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の水素−酸素燃料電池が開発されており、中でも、低温(通常100℃以下)で作動可能な固体高分子型燃料電池が注目を集め、自動車用低公害動力源としての実用化が検討されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、純粋な水素を燃料源として用いることがエネルギー効率の観点からは好ましいが、安全性やインフラの普及等を考慮すると、アルコール、ガソリン、軽油等の液体を燃料源として用い、これらを改質装置において水素リッチな改質ガスに転換する方法も有望な候補である。
【0004】
炭化水素系液体燃料を燃料源として用いた場合、改質ガス中にはある程度の量のCOが残存する。ところが、このCOは、燃料電池の電極に用いられている白金系触媒に対し、触媒毒として作用する。このため、このCOを例えばCOに転化するなどして除去し、白金系電極触媒に対する被毒を防止する必要がある。具体的には、まずシフト触媒を用いて、改質ガス中に含まれるCO濃度を下記数式1で示されるシフト反応:
【0005】
【数1】

【0006】
により1体積%程度にまで低減させる。そして、CO選択酸化触媒を用いて、COを酸化除去(COに転化)する方法が提案されている。
【0007】
前記シフト反応を促進するシフト触媒としては、従来、Cu/Zn系触媒、Cu/Zn/Al系触媒、Cu/Cr系触媒等のCu系触媒が知られていた。しかしながら、これらのCu系触媒は、高空間速度条件下における触媒活性が充分ではなく、高空間速度条件下における触媒活性を向上させるには、触媒体積を増加させる必要があった。その結果、シフト反応器が大型化してしまい、特に車載時に要求される省スペース化が困難であるという問題があった。
【0008】
また、Cu系触媒では、触媒作動時にはCuが還元状態に維持されるものの、燃料電池システムの運転停止時には空気との接触により一部が酸化されて酸化銅が生じてしまい、再起動時の再還元に伴う発熱により触媒が熱劣化するという問題もあった。
【0009】
Cu系触媒の有する上記のような問題を解決する目的で、近年、Pt/チタニア等の貴金属系触媒が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この貴金属系触媒は、高空間速度条件下における触媒活性の低下が比較的少なく、耐熱性にも優れることから、新たなシフト触媒の候補として注目を集めている。
【特許文献1】特開2003−135960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、貴金属系触媒には高価な貴金属原子が含まれており、例えば前記特許文献1に記載のシフト触媒では、触媒の全質量に対して5〜10質量%程度の白金原子が含有されている。製造コストの観点からは、貴金属原子の使用量の低減が望まれている。
【0011】
そこで本発明は、シフト触媒中に含有される貴金属原子の単位質量あたりの活性を向上させることにより、シフト触媒単位活性あたりの貴金属原子の使用量を相対的に低減させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、貴金属原子を含む触媒粉末がハニカム担体の内表面に形成されてなる触媒層を有するシフト触媒であって、前記触媒層の表面の少なくとも一部が露出するように、COの透過を抑制しうるCO透過抑制層が前記触媒層の上層に形成されている、シフト触媒である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシフト触媒によれば、改質ガス中のCOの触媒層への流入が抑制されて、触媒層におけるシフト反応の平衡がCO除去側(CO生成側)に移動する。しかも、触媒層の少なくとも一部が露出していることにより、シフト反応により生成したCOが触媒層から効率的に排出され、シフト反応のさらなる進行に寄与しうる。これらの結果、シフト触媒中に含有される貴金属原子の単位質量あたりの触媒活性がより一層向上し、シフト触媒の製造コストが削減されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
上述したように、従来、貴金属原子を含有するシフト触媒においては、触媒中に含有される貴金属原子の量を極力低減させながら、その一方では高い活性を発現させるための努力が払われている。
【0016】
本発明者は、シフト触媒中に含有される貴金属原子の単位質量あたりの触媒活性を向上させるためのアプローチとして、上記の数式1で示されるシフト反応の平衡を制御することを試みた。具体的には、ハニカム担体の内表面に形成された触媒層上に、COの透過を抑制しうる層を形成し、この際、前記触媒層の少なくとも一部が露出する構成とすることで、シフト触媒の触媒活性の向上を図った。
【0017】
すなわち、本発明は、貴金属原子を含む触媒粉末がハニカム担体の内表面に形成されてなる触媒層を有するシフト触媒であって、前記触媒層の表面の少なくとも一部が露出するように、COの透過を抑制しうるCO透過抑制層が前記触媒層の上層に形成されている、シフト触媒である。なお、本願において「シフト触媒」とは、少なくともCOおよびHOを含有するガスに接触することにより、上記の数式1で示されるシフト反応を選択的に促進しうる触媒をいう。以下、図面を参照しながら、本発明のシフト触媒の形態について説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下に記載する形態のみには制限されない。
【0018】
[構成]
図1は、本発明のシフト触媒におけるハニカム担体の内表面の一実施形態を示す模式斜視図である。図2は、図1に示す形態の平面図である。図3は、図2に示す3−3線に沿った断面図である。
【0019】
本発明のシフト触媒10は、図1〜図3に示すように、ハニカム担体20の内表面にコーティングされた触媒層30の上層に、CO透過抑制層40が、前記触媒層の表面の少なくとも一部が露出するように形成されている点に特徴を有する。なお、図1〜図3ではハニカム担体の内表面の一部について図示する。また説明の便宜上、図面に示すシフト触媒の各構成成分の寸法比率は誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。このことは、以下に示すその他の図面についても同様である。
【0020】
以下、本発明のシフト触媒10の好ましい構成について、ハニカム担体20、触媒層30、およびCO透過抑制層40の順に、詳細に説明する。
【0021】
[ハニカム担体]
ハニカム担体20の具体的な形態については特に制限はなく、従来公知の形態が適宜採用されうる。ハニカム担体20の一例としては、例えば、セラハニカムやメタルハニカムなどが挙げられる。これらのハニカム担体は圧力損失の点で優れており、また、触媒粉末のコーティングも容易であることから好ましい。また、ハニカム担体20の内部に形成される細孔の数についても特に制限はなく、通常は100〜1200セル/インチ程度が一般的である。ただし、これらの範囲を外れる形態が採用されても、勿論よい。
【0022】
また、ハニカム担体20の形状も特に制限されず、車載する際の搭載スペースの形状に応じて適宜選択されうる。一例を挙げると、円柱状、楕円柱状、直方体状、多角柱状などの形状が採用されうる。
【0023】
[触媒層]
触媒層30は、貴金属原子を含む触媒粉末がハニカム担体の内表面に形成される。以下、かような構成を有する触媒層30の好ましい一形態について説明するが、以下に記載する形態のみには制限されない。
【0024】
触媒粉末は、例えば、貴金属原子からなる貴金属粒子が無機担体に担持された構成を有する。
【0025】
貴金属粒子は、貴金属原子を含有する粒子である。ここで、貴金属原子とは、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムをいう。貴金属粒子は、例えば、貴金属原子のみからなる粒子である。ただし、貴金属粒子の形態は貴金属原子のみからなる粒子に限られず、例えば、貴金属原子の酸化物(例えば、一酸化白金(PtO)、二酸化白金(PtO)など)からなる粒子、貴金属原子と貴金属原子の酸化物とからなる粒子、貴金属原子を含む合金からなる粒子などであってもよい。当該合金としては、例えば、後述する遷移金属と上述の貴金属原子との合金が例示される。
【0026】
貴金属粒子の平均粒子径や含有量は特に制限されず、所望の触媒性能を考慮して、適宜設定されうる。
【0027】
貴金属粒子が担持される無機担体の種類は、特に制限されず、触媒用の無機担体として従来公知の化合物が用いられうる。例えば、アルミナ(αアルミナ、θアルミナ、γアルミナ、δアルミナ、βアルミナなど)、チタニア、シリカ、シリカアルミナ、ジルコニア、マグネシア、ゼオライト、セリアなどの無機酸化物や、これらの一部を含む無機複合酸化物が例示される。なかでも、触媒活性に優れるという観点から、チタン含有酸化物やセリウム含有酸化物が好ましく用いられる。
【0028】
無機担体の比表面積は、好ましくは10m/g以上、より好ましくは50m/g以上、さらに好ましくは100m/g以上である。無機担体の比表面積がかような範囲内の値であると、無機担体の表面に貴金属粒子が高分散に担持され、触媒活性に優れる。なお、本明細書に記載の「比表面積」は、例えば、窒素吸着によるBET比表面積を測定することにより算出されうる。
【0029】
触媒層30を構成する触媒粉末は、本発明の効果を損なわないのであれば、上述した成分以外の成分を含んでもよい。例えば、上述した貴金属原子以外の金属原子を、触媒金属として含みうる。触媒粉末中に含有されうる貴金属原子以外の金属原子としては、例えば、セリウム、ジルコニウム、チタン、バナジウム、タンタル、ニオブ、タングステン、レニウム、モリブデンなどの金属原子が例示される。なかでも、貴金属原子に加えてセリウム原子を含有すると、触媒活性に優れる。これらの金属原子が含有される形態は特に制限されないが、上述した貴金属粒子と同様の金属粒子として上記の無機担体に担持されてもよいし、貴金属原子との複合酸化物や、他の添加元素との複合体といった形態で含有されてもよい。なお、これらの金属原子の含有量は、特に制限されない。
【0030】
触媒層30を構成する触媒粉末には、必要に応じて、アルミナゾル、シリカゾルなどのバインダが添加されてもよい。バインダの添加量は特に制限されず、触媒粉末の全量100質量%に対して、0.1〜10質量%程度が適当である。
【0031】
触媒層30の厚さや触媒粉末のコーティング量についても特に制限はなく、ハニカム担体を用いた触媒の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0032】
[CO透過抑制層]
CO透過抑制層40は、上記の触媒層30の上層に形成された、COの透過を抑制する機能を有する層である。この際、CO透過抑制層40は、触媒層30の少なくとも一部が露出するように形成される。
【0033】
CO透過抑制層40は、COの透過を抑制しうる層であればよく、COの透過抑制がいかなるメカニズムによるものであるかは問わない。以下、COの透過抑制メカニズムの一例を説明するが、これらの形態のみには制限されず、その他のメカニズムによる形態が採用されてもよい。
【0034】
例えば、CO透過抑制層40は、COに対する分子ふるい機能を示すことによって、COの透過を抑制してもよい。「分子ふるい」とは、均一な孔径の多数の細孔を有する材料が、その孔径よりも小さい分子を透過させる一方でその孔径よりも大きい分子を透過させないという機能をいう。従って、分子ふるいとしての機能を示す場合、CO透過抑制層はCO分子の有効径よりも小さい孔径の細孔を有する材料により構成されればよい。かような材料としては、例えば、ゼオライト類、粘土鉱物、シリカチタニア多孔性材料、活性炭などが例示される。なお、触媒層において進行するシフト反応は、上記の数式1に示すように、COとHOとの反応により進行する。従って、かような形態においてCO透過抑制層40は、COおよびHOに対しては分子ふるいとしての機能を示さないことがより好ましい。かような観点から、分子ふるい機能を示すCO透過抑制層40を構成する材料としてはゼオライトが好ましく用いられうる。
【0035】
あるいは、CO透過抑制層40は、COを吸着する機能を示すことによって、COの透過を抑制してもよい。COを吸着する機能を示す場合、CO透過抑制層40はCOを吸着する材料により構成されればよい。かような材料としては、例えば、塩基性化合物または塩基性化合物を含有する化合物が例示される。これらの化合物の具体例として、塩基性化合物としてはセリア、マグネシア、ジルコニアなどが挙げられ、塩基性化合物を含有する化合物としては、層間にピラーとしてマグネシアが挿入された粘土鉱物などが挙げられる。
【0036】
続いて、CO透過抑制層40の形状について説明する。
【0037】
図1〜図3に示すシフト触媒10において、CO透過抑制層40は正方形格子状に形成されている。換言すれば、触媒層の表面が露出した正方形の部位が四方に等間隔に位置するように、CO透過抑制層40が形成されている。かような形態のように、CO透過抑制層40が規則的かつ周期的に形成されていると、シフト触媒10の全体においてシフト反応が均一に進行しうる。その結果、触媒活性も向上し、触媒の部分的な劣化も防止されうる。なお、「規則的かつ周期的に形成される」とは、CO透過抑制層40がある規則に従って触媒層30の上層に形成され、かつ、その規則が繰り返されることを意味する。
【0038】
CO透過抑制層40が規則的かつ周期的に形成される形態は上述の図1〜図3に示す形態のみに制限されず、その他の形態であっても勿論よい。その他の形態としては、例えば図4に示す形態が例示される。図4は、本発明のシフト触媒におけるハニカム担体の内表面の他の実施形態を示す平面図である。図4に示す形態において、CO透過抑制層40は、図1〜図3に示す形態とは逆に、触媒層の表面が正方形格子状に露出するように形成されている。換言すれば、正方形に形成されたCO透過抑制層40が四方に等間隔に形成されている。その他の形態としては、CO透過抑制層40が正三角形格子状に形成される形態や、櫛歯状や直線状などの形状に形成される形態が挙げられる。
【0039】
以上、CO透過抑制層40が規則的かつ周期的に形成される形態について主に説明したが、かような形態のみには制限されない。例えば、CO透過抑制層40が不規則に形成されていても、勿論よい。
【0040】
CO透過抑制層40はハニカム担体の内表面に形成された触媒層30の上層に形成されるが、この触媒層30の表面積に占める、CO透過抑制層40が形成された部位の面積の割合が小さすぎると、CO透過抑制層40を形成することによるメリットが充分に得られない虞がある。一方、この割合が大きすぎると、触媒層30におけるシフト反応により発生したCOが充分に排出されず、シフト反応の平衡をCO除去側へ充分に移動させられない虞がある。これらの観点を考慮すると、触媒層30の表面積に占める、CO透過抑制層40が形成された部位の面積の割合は、好ましくは10〜90%、より好ましくは25〜75%である。ただし、場合によっては、これらの範囲を外れる形態が採用されてもよい。
【0041】
上述したように、CO透過抑制層40は、触媒層30の「上層」に形成される。ただし、CO透過抑制層40と触媒層30とが接している必要はない。すなわち、後述する[変形例]に示す中間層のような層が介在する形態であっても、CO透過抑制層40が触媒層30よりも上に位置する層として形成されている限り、「上層に形成され」に該当する。
【0042】
[変形例]
図5は、図1〜図3に示す形態のシフト触媒10の変形例を示す断面図である。図5に示す形態は、触媒層30とCO透過抑制層40との間に、無機酸化物からなる中間層50が形成されている点で、図1〜図3に示す形態とは異なる。かような中間層50の存在により、高濃度に保持されているCOと触媒との接触に伴う、CO透過抑制効果の低下を抑制する効果が得られる。以下、かような中間層50の好ましい形態について詳細に説明するが、下記の形態のみには制限されない。
【0043】
中間層50は、無機酸化物から構成される。無機酸化物の例としては、例えば、アルミナ、チタニア、シリカ、シリカアルミナ、マグネシアなどが例示される。上述した中間層50の作用効果を考慮すると、中間層50はアルミナやシリカなどにより構成されることが特に好ましい。
【0044】
中間層50は、必要に応じて、上述した構成材料に加えてその他の添加剤を含んでもよい。また、中間層50の厚さは特に制限されず、触媒層30およびCO透過抑制層40の厚さを考慮して、適宜決定されうる。
【0045】
なお、図5において中間層50は、CO透過抑制層40の下部にのみ形成されている。すなわち、中間層50が形成されたとしても、触媒層30の少なくとも一部は相変わらず露出している。従って、かような形態において、触媒層30におけるシフト反応により生成したCOの排出が中間層50の存在によって阻害される虞はない。
【0046】
[作用および効果]
本発明のシフト触媒10にあっては、上述したように、ハニカム担体20の内表面に形成された触媒層30の上層に、COの透過を抑制しうるCO透過抑制層40が形成されている。このため、CO透過抑制層40の形成部位においては、シフト触媒10中に流入した改質ガス中のCOの触媒層30への流入が抑制される。その結果、触媒層30におけるシフト反応の平衡がCO除去側(CO生成側)に移動する。
【0047】
また、このCO透過抑制層40は、触媒層30の少なくとも一部が露出するように形成されている。このため、シフト反応により生成したCOが触媒層30中に蓄積せずに、触媒層30から効率よく排出されうる。その結果、シフト反応の平衡がさらにCO除去側(CO生成側)へと移動し易くなる。以上の結果、シフト触媒10中に含有される貴金属原子の単位質量あたりの触媒活性がより一層向上し、シフト触媒の製造コストが削減されうる。
【0048】
[製造方法]
本発明のシフト触媒は、例えば、ハニカム担体20、触媒層30を形成するための触媒粉末を含むスラリー(以下、「スラリーA」とも称する)、およびCO透過抑制層40を構成する材料を含むスラリー(以下、「スラリーB」とも称する)を準備し、ハニカム担体20の内表面にスラリーAをコーティングして触媒層30を形成し、次いでスラリーBを所望の形状にコーティングしてCO透過抑制層40を形成することによって、製造されうる。以下、かような製造方法を工程順に説明するが、下記の形態のみには制限されない。
【0049】
[ハニカム担体準備工程]
初めに、ハニカム担体を準備する。なお、準備されるハニカム担体の好ましい構成については、上記の[構成]の欄において既に説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0050】
[スラリーA準備工程]
続いて、スラリーAを準備する。この工程において準備されるスラリーAは、後述する触媒層形成工程において上記で準備したハニカム担体にコーティングされる。このスラリーAは、例えば、貴金属粉末を含有する触媒粉末に適当な溶媒を適量添加することにより、調製されうる。以下、当該工程を詳細に説明する。
【0051】
当該工程では、まず触媒粉末を準備する。なお、準備される触媒粉末の好ましい構成については、上記の[構成]の欄において既に説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0052】
また、触媒粉末の調製についても、その具体的な手法は特に制限されず、触媒調製の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0053】
調製された触媒粉末に適当な溶媒を添加することで、スラリーAが得られる。
【0054】
スラリーAを調製するための溶媒は特に制限されないが、例えば、水、エタノールなどが例示される。
【0055】
[スラリーB準備工程]
さらに、スラリーBを準備する。この工程において準備されるスラリーBは、後述するCO透過抑制層形成工程において触媒層の上層にコーティングされる。このスラリーBは、例えば、CO透過抑制層を構成する材料に適当な溶媒を適量添加することにより、調製されうる。以下、当該工程を詳細に説明する。
【0056】
当該工程では、CO透過抑制層40を構成する材料をまず準備する。なお、準備される材料の好ましい構成については、上記の[構成]の欄において既に説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0057】
CO透過抑制層40を構成する材料としては、自ら調製したものを用いてもよいし、商品が市販されている場合には、その商品を購入して用いてもよい。
【0058】
CO透過抑制層40を構成する材料を自ら調製する手法は特に制限されないが、例えばゼオライトは水熱合成法などの手法を用いて調製可能である。ただし、その他の手法が用いられても、勿論よい。
【0059】
続いて、上記で準備した材料に、適当な溶媒を添加する。これにより、スラリーBが得られる。
【0060】
スラリーBを調製するための溶媒は特に制限されないが、上記のスラリーAの調製用に例示した溶媒が同様に用いられうる。場合によっては、異なる溶媒が用いられてもよい。
【0061】
[触媒層形成工程]
続いて、上記で準備したハニカム担体20の内表面に、同じく上記で準備したスラリーAをコーティングし、乾燥後、空気焼成する。
【0062】
スラリーAをコーティングする際のコーティング手法は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0063】
スラリーAのコーティング量も特に制限されず、上記の[構成]の欄において説明した好ましい形態を考慮して、適宜調節されうる。
【0064】
その後、スラリーAがコーティングされたハニカム担体を乾燥および焼成する。これにより、触媒層30が形成される。
【0065】
乾燥および焼成の具体的な条件は特に制限されず、ハニカム担体へのスラリーコーティングの分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0066】
[CO透過抑制層形成工程]
触媒層30を形成した後、この触媒層30の上層に、上記で準備したスラリーBをコーティングする。
【0067】
ここで、触媒層30の上層へのスラリーBのコーティングは、触媒層30の少なくとも一部が露出するように行う。具体的には、露出部分に事前に撥水処理を施し、その後、スラリーBを水溶性スラリーとしてコーティングして、乾燥焼成することにより撥水処理部分を除去するといった方法や、キャピラリーチューブにより任意の位置にスラリーBを配置するといった手法を用いることにより、触媒層30の少なくとも一部が露出するようにスラリーBがコーティングされうる。この際、例えば図1〜図3に示すように、正方形格子状にCO透過抑制層40を形成したい場合には、前述の事前処理を伴う手法を用いればよい。
【0068】
その後、上述した触媒層形成工程と同様に、スラリーBがコーティングされたハニカム担体を乾燥および焼成する。これにより、CO透過抑制層40が形成される。
【0069】
本工程においても、乾燥および焼成の具体的な条件は特に制限されず、ハニカム担体へのスラリーコーティングの分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0070】
[中間層形成工程]
上述の[構成]の[変形例]の欄において説明した中間層50を、触媒層30とCO透過抑制層40との間に形成したい場合には、上記の触媒層形成工程とCO透過抑制層形成工程との間に、上記の[触媒層形成工程]や[CO透過抑制層形成工程]と同様の手法を用いて、中間層50を構成する材料を含むスラリーを調製し、当該スラリーをコーティングし、コーティングされたハニカム担体を乾燥および焼成すればよい。
[CO濃度低減装置]
本発明のシフト触媒は、例えば、COシフト反応装置に配置される。本発明のシフト触媒が配置されたCOシフト反応装置は、例えば、固体高分子型燃料電池に供給される水素リッチガス中のCO濃度を低減させるために用いられうる。なお、本発明のシフト触媒がCOシフト反応装置に配置される際の形態は特に制限されず、従来公知の技術やその改良技術が適宜採用されうる。
【0071】
以下、本発明のシフト触媒がCOシフト反応装置に適用される形態について、図面を用いて詳細に説明する。図6は、本発明のシフト触媒が配置されたCOシフト反応装置が用いられている燃料電池システム100の概略図である。
【0072】
まず、燃料改質触媒を備える改質反応器110に炭化水素などの燃料を供給する。改質反応器110においては、通常は水蒸気を用いた水蒸気改質によって、燃料は水素リッチな改質ガスへと改質される。また、水蒸気に加えて、酸素を含むガスを同時に供給し、部分酸化反応を併発させたオートサーマル改質によっても、水素リッチな改質ガスが得られる。
【0073】
次いで、改質反応器110において得られた改質ガスを、本発明のシフト触媒10が配置されたCOシフト反応器120に送り、改質ガス中のCO濃度を1体積%程度にまで低減させる。CO濃度が1体積%程度にまで低減された改質ガスは、続いてCO選択酸化触媒を備えるCO選択酸化反応器130に送られ、CO濃度がppmオーダーにまで低減される。
【0074】
CO選択酸化反応器130においてCO濃度がppmオーダーにまで低減された改質ガスと、酸化剤(通常は空気)とが供給されることにより、固体高分子型燃料電池140において発電反応が進行する。固体高分子型燃料電池140からは使用済み燃料および酸化剤が排出される。燃焼器150を設けてこの使用済み燃料および酸化剤を燃焼させ、蒸発器160においてその燃焼熱を利用して水を蒸発させ、改質器110において用いられる水蒸気を発生させることによって、系全体のエネルギー効率を向上させうる。燃焼器150および蒸発器160には、必要に応じて炭化水素などを供給してもよい。
【0075】
上述したように、本発明のシフト触媒10によれば、含有される貴金属原子の単位質量あたりの活性が向上しうる。その結果、シフト触媒の製造コストの大幅な削減が可能となり、燃料電池自動車の実用化に大きく寄与しうる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明のシフト触媒におけるハニカム担体の内表面の一実施形態を示す模式斜視図である。
【図2】図1に示す形態の平面図である。
【図3】図2に示す3−3線に沿った断面図である。
【図4】本発明のシフト触媒におけるハニカム担体の内表面の他の実施形態を示す平面図である。
【図5】図1〜図3に示す形態のシフト触媒の変形例を示す断面図である。
【図6】本発明のシフト触媒が配置されたCOシフト反応装置が用いられている燃料電池システムの概略図である。
【符号の説明】
【0077】
10 シフト触媒、
20 ハニカム担体、
30 触媒層、
40 CO透過抑制層、
50 中間層、
100 燃料電池システム、
110 改質反応器、
120 COシフト反応器、
130 CO選択酸化反応器、
140 固体高分子型燃料電池、
150 燃焼器、
160 蒸発器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属原子を含む触媒粉末がハニカム担体の内表面に形成されてなる触媒層を有するシフト触媒であって、
前記触媒層の表面の少なくとも一部が露出するように、COの透過を抑制しうるCO透過抑制層が前記触媒層の上層に形成されている、シフト触媒。
【請求項2】
前記CO透過抑制層が、COに対する分子ふるい機能またはCO吸着機能を示すことによってCOの透過を抑制する、請求項1に記載のシフト触媒。
【請求項3】
前記CO透過抑制層を構成する材料が、ゼオライト類、粘土鉱物、シリカチタニア多孔性材料、および活性炭からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項2に記載のシフト触媒。
【請求項4】
前記CO透過抑制層を構成する材料が、塩基性化合物または塩基性化合物を含有する化合物である、請求項2に記載のシフト触媒。
【請求項5】
前記CO透過抑制層が、規則的かつ周期的に形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシフト触媒。
【請求項6】
前記CO透過抑制層が、正方形格子状に形成されている、請求項5に記載のシフト触媒。
【請求項7】
前記触媒層の表面積に占める、前記CO透過抑制層が形成された部位の面積の割合が10〜90%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のシフト触媒。
【請求項8】
前記触媒層と前記CO透過抑制層との間に、無機酸化物からなる中間層が形成されてなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載のシフト触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−175334(P2006−175334A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369758(P2004−369758)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】