シミュレーション装置
【課題】実際の車両と同等の環境下にある排気浄化触媒の性能を評価できる排気浄化触媒用のシミュレーション装置を提供すること。
【解決手段】シミュレーション装置1は、所定の入力データから排気浄化触媒の浄化性能を評価するための排気の流速、濃度、触媒温度、及び排気温度などの評価パラメータの値を算出する。このシミュレーション装置1は、排気を構成するガス成分の輸送及び排気浄化触媒における熱の移動を模した物理モデルに基づいて評価パラメータの値を算出する物理演算モジュール31と、排気浄化触媒におけるガス成分に対して進行する触媒反応を模した触媒反応モデルに基づいて評価パラメータの値を算出する触媒反応演算モジュール32とで構成された演算装置3を備える。触媒反応モデルは、特定のガス成分対で進行する化学反応を模した化学反応モデルと、触媒表面への特定のガス成分の吸着反応を模した成分吸着モデルと、を含む。
【解決手段】シミュレーション装置1は、所定の入力データから排気浄化触媒の浄化性能を評価するための排気の流速、濃度、触媒温度、及び排気温度などの評価パラメータの値を算出する。このシミュレーション装置1は、排気を構成するガス成分の輸送及び排気浄化触媒における熱の移動を模した物理モデルに基づいて評価パラメータの値を算出する物理演算モジュール31と、排気浄化触媒におけるガス成分に対して進行する触媒反応を模した触媒反応モデルに基づいて評価パラメータの値を算出する触媒反応演算モジュール32とで構成された演算装置3を備える。触媒反応モデルは、特定のガス成分対で進行する化学反応を模した化学反応モデルと、触媒表面への特定のガス成分の吸着反応を模した成分吸着モデルと、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション装置に関する。より詳しくは、内燃機関の排気を浄化する排気浄化触媒の浄化性能を評価するための評価パラメータを算出する排気浄化触媒用のシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路には、排気を浄化するため排気浄化触媒が設けられる。通常、実際に車両に搭載される排気浄化触媒は、内燃機関や車両の仕向け地などに応じて好ましい浄化性能が得られるよう、試験用触媒の調製とその性能評価試験とを繰り返し行うことで設計される。しかしながら近年では、内燃機関や仕向け地の多様化や、排気浄化触媒に要求される浄化性能の向上などの理由から、排気浄化触媒の開発期間の短縮が特に望まれている。そこで、従来のような触媒の調製と評価試験の繰り返しを、例えばシミュレーション装置を利用した模擬的な数値計算で置き換えることにより、触媒の開発効率を向上することが考えられる。
【0003】
このような排気浄化触媒用のシミュレーション装置を構築するには、排気浄化触媒における排気の浄化過程を数値的に評価できるよう、排気を構成するガス成分に対し進行する各種触媒反応をモデル化する必要がある。触媒反応を数値的にモデル化した具体例としては、例えば、非特許文献1に記載された分子スケールモデルや、非特許文献2に記載された詳細反応モデルなどが挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Orita,H., Nakamura, I., Fujitani, T., “Studies of NO adsorption on Pt(110)-(1x2) and (1x1) surfaces using density functional theory,” J Phys Chem B. 2005 May 26;109(20):10312-8.
【非特許文献2】Yamauchi, T., Kubo, S., Mizukami, T., Sato, N., and Aono, N., “Numerical Simulation for Designing Next Generation TWC System with Detailed Chemistry,” SAE 2008-01-1540, 2008, doi : 10.4271/2008-01-1540.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、排気浄化触媒の開発向けのシミュレーション装置としては、内燃機関の定常運転状態だけでなく、実際の車両の走行と同様に、低温始動時、暖機中及び暖機後など様々な運転状態下での排気浄化触媒の浄化性能を評価できるものであることが好ましい。上記分子スケールモデルや詳細反応モデルは、実際の触媒において進行する触媒反応を高い再現性でモデル化したものではあるものの、複雑な組成を有する実際の車両の排気浄化触媒にこれらを適用した場合、排気浄化触媒の特性を特定するために実際に行う必要のある試験にかかる工数は多大なものとなる。また、上記モデルを適用して構成される演算式も計算負荷の高い複雑なものとなってしまうため、上述のように様々な運転状態下における浄化性能を評価できるシミュレーション装置の構築は、現実的には困難である。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、実際の車両と同等の環境下にある排気浄化触媒の性能を評価できる排気浄化触媒用のシミュレーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関の排気を浄化する排気浄化触媒について、所定の入力データから前記排気浄化触媒の浄化性能を評価するための評価パラメータ(例えば、後述の排気浄化触媒の各部分における排気の流速、ガス成分の濃度、触媒温度、及び排気温度など)の値を算出する排気浄化触媒用のシミュレーション装置(例えば、後述のシミュレーション装置1)を提供する。前記シミュレーション装置は、排気を構成するガス成分の輸送及び前記排気浄化触媒における熱の移動を模した物理モデル(例えば、後述の式(2)〜(6)などにより構築されるモデル)、並びに前記排気浄化触媒におけるガス成分に対して進行する触媒反応を模した触媒反応モデルに基づいて、前記評価パラメータの値を算出する演算手段(例えば、後述の演算装置3)を備え、前記触媒反応モデルは、特定のガス成分対で進行する化学反応(例えば、後述のCO+O2反応、C3H6+O2反応、NO+CO反応など)を模した化学反応モデル(例えば、後述の式(7)〜(10)などにより構築されるモデル)と、触媒表面への特定のガス成分の吸着反応を模した成分吸着モデル(例えば、後述の式(11)などにより構築されるモデル)と、を含む。
【0008】
本発明では、排気浄化触媒においてガス成分に対して進行する触媒反応を模した触媒反応モデルと、ガス成分の輸送及び熱の移動を模した物理モデルとの両方に基づいてシミュレーションを行うことにより、触媒温度やガス成分の濃度などに応じて変化する触媒反応を正確に把握することができるので、精度の高いシミュレーションを行うことができる。また本発明では、触媒反応モデルを、特定のガス成分対で進行する化学反応を模した化学反応モデルと、触媒表面への特定ガス成分の吸着反応を模した成分吸着モデルとで構成した。これにより、ガス成分の化学反応による変化だけでなく、触媒表面への吸着による変化を扱うことができるので、混合気の空燃比が頻繁に変化する実際の運転状態下における排気の挙動を再現することができ、ひいてはさらに精度の高いシミュレーションを行うことができる。また、以上のようなシミュレーション装置を触媒開発に利用することにより、排気の浄化性能を向上するための主要な要因を特定できるので、触媒開発の効率を向上することができる。
【0009】
この場合、前記成分吸着モデルは、特定のガス成分の触媒表面への吸着速度を算出する演算式で構成されることが好ましい。また、この場合、前記特定のガス成分の触媒表面への吸着速度Rgas_absは、下記演算式(1)により算出されることが好ましい。
【数1】
ただし、Cgas_boundaryは前記排気浄化触媒のうち触媒反応が進行しうる境界層における前記特定のガス成分の濃度とし、νgas_maxは前記特定のガス成分の最大吸着量とし、νgasは前記特定のガス成分の吸着量とし、Kgas_absは所定の定数とし、反応次数nは2とする。
【0010】
本発明によれば、上記式(1)に示すような演算式に基づいてガス成分の触媒表面への吸着反応を扱うことにより、ガス成分の実際の吸着挙動を精度良く再現できるので、さらに精度の高いシミュレーションを行うことができる。
【0011】
この場合、前記化学反応モデルは、3種以上のガス成分の混在下における特定のガス成分対で進行する化学反応を模した競争吸着モデル(後述の式(10)参照)であることが好ましい。
【0012】
多成分が混在した触媒表面上では、特定のガス成分対についてその反応速度が鈍化する場合がある。本発明では、このような競争吸着現象を模した競争吸着モデルにより化学反応モデルを構築することにより、例えば、内燃機関のリーン運転中であり排気の酸素濃度が高くなっている間における特定のガス成分対の反応の鈍化を再現することができるので、さらに精度の高いシミュレーションを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るシミュレーション装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】排気浄化触媒を離散化した1次元モデルを模式的に示す図である。
【図3】第n番目の離散要素において発生しうる物理現象のうち、上記評価パラメータの時間発展に関わりのある主なものを模式的に示す図である。
【図4】C3H6、NOの転化率の温度特性を示す試験結果、及びこの試験結果から得られるアレニウスプロットを示す図である。
【図5】アレニウスモデルに基づいて算出されたCO、C3H6、NOの転化率の推定結果と、反応速度特性試験の結果とを比較する図である。
【図6】排気浄化触媒へのガス成分の入力条件を変えた場合におけるCOの転化率の温度特性を示す試験結果、及びこの試験結果から得られるアレニウスプロットを示す図である。
【図7】CO+O2反応によるCO転化率の温度特性を示す図である。
【図8】競争吸着モデルに基づいて算出されたCOの転化率の推定結果と、試験結果とを比較する図である。
【図9】成分吸着特性試験の結果を示す図である。
【図10】成分吸着モデルを用いることにより、排気浄化触媒へのガス成分の吸着を考慮して算出された触媒直下の酸素濃度の変化を示す図である。
【図11】比較例1のシミュレーション結果を示す図である。
【図12】比較例2のシミュレーション結果を示す図である。
【図13】比較例2のシミュレーション結果を示す図である。
【図14】実施例のシミュレーション結果を示す図である。
【図15】実施例と比較例2のシミュレーション結果を比較する図である。
【図16】実施例のシミュレーション装置により算出された各部分の触媒温度の推定値と実測値とを比較する図である。
【図17】実施例のシミュレーション装置により算出されたCO、NMHC、NOの積算排出量の推定値と、実測値とを比較する図である。
【図18】反応速度特性試験の結果の一例を示す図である。
【図19】成分吸着特性試験の結果の一例を示す図である。
【図20】成分吸着特性試験の結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るシミュレーション装置1の概略構成を示すブロック図である。シミュレーション装置1は、作業者が各種データや指令を入力する入力装置2と、各種演算処理を実行する演算装置3と、演算結果を表示する表示装置4と、を備える。以下詳述するように、このシミュレーション装置1では、排気管に設けられた排気浄化触媒による内燃機関の排気の浄化過程をシミュレーションすることにより、この排気浄化触媒の浄化性能を評価するための各種評価パラメータの値を算出する。
【0015】
入力装置2は、作業者が操作可能なキーボードやマウスなどのハードウェアで構成される。この入力装置2を操作することで入力されたデータや指令は、演算装置3に入力される。表示装置4は、CRTや液晶ディスプレイなどのハードウェアで構成される。演算装置3による演算処理の結果は、この表示装置4の表示部に作業者に認識可能な態様で表示される。演算装置3は、RAM、ROM、及びハードディスクなどで構成された記憶装置や、この記憶装置に格納されたデータや入力装置2から入力されたデータや指令に基づいて演算処理を実行する中央演算装置などを含んで構成される。
【0016】
内燃機関の排気を構成する様々なガス成分のうち、一酸化炭素(CO)、炭化水素(NMHC)、窒素酸化物(NOx)などのガス成分は、排気浄化触媒における触媒反応により浄化される。しかしながら、このような排気浄化に係る触媒反応は、排気浄化触媒の温度、排気の流速、及びガス成分の濃度などの物理状態によって左右される。また逆に、排気浄化触媒の温度やガス成分の濃度などは、化学反応の進行によって左右される。したがって、排気浄化触媒による排気の浄化過程をシミュレーションするためには、排気浄化に係る触媒反応現象だけでなく、排気浄化触媒において発生する物理現象も同時に扱う必要がある。
【0017】
以上の点に鑑み、上述のようなハードウェアで構成された演算装置3には、排気浄化触媒で発生する物理現象を模した物理モデルに基づく演算を行う物理演算モジュール31と、排気浄化触媒においてガス成分に対し進行する触媒反応を模した触媒反応モデルに基づく演算を行う触媒反応演算モジュール32と、が構成されている。以下、これらモジュール31,32に構築されたモデルの構成、及び演算のアルゴリズムなどについて、順に説明する。
【0018】
[物理演算モジュール]
物理演算モジュールでは、図2に示すように、排気管5内に設けられた排気浄化触媒6を、排気の流れ方向に沿ってM個の要素に分割することにより離散化した1次元モデルとして捉える。そして、排気浄化触媒6に入力される各ガス成分の流量[g/s]の時間変化に関するデータ及び排気温度[K]の時間変化に関するデータを含んで構成された後述の入力データに基づいて、この1次元モデル上のM個の離散要素ごと及び触媒直下の排気の流速と、排気を構成する各ガス成分の濃度と、触媒及び排気の温度との時間発展を算出する。本発明では、これら排気の流速、ガス成分の濃度、触媒温度、及び排気温度、並びにこれらから算出されるガス成分の排出量など、排気浄化触媒の性能を評価するためのパラメータを、評価パラメータと言う。なお、この入力データを取得するためのモードエミッション試験については、後に詳述する。
【0019】
図3は、第n番目の離散要素において発生し得る様々な物理現象のうち、上記評価パラメータの時間発展に関わりのある主なものを模式的に示す図である。
上述のような評価パラメータの時間発展をシミュレーションするためには、排気浄化触媒において発生し得る物理現象のうち特に、内燃機関から排気として排出されたガス成分の輸送と、熱の移動と、の両方を扱う必要がある。物理演算モジュールでは、これらガス成分の輸送と熱の移動とを正確に把握するため、図3に示すように、各離散要素を、排気が流通するガス層と、ガス成分に対し所定の化学反応が進行する境界層と、熱が移動する固体層と、の3つの層に分けて扱う。以下、この第n番目の離散要素において進行する物理現象について、ガス成分の輸送と熱の移動とを順に説明する。
【0020】
<ガス成分の輸送>
第n番目の離散要素に着目した場合、ガス成分の輸送は、第n番目の離散要素のガス層からより下流側の第n+1番目の離散要素のガス層へ流出するもの(図3中、白抜き矢印a参照)と、同じ離散要素内におけるガス層と境界層との間の交換(図3中、白抜き矢印b参照)と、に分けられる。活性状態にある排気浄化触媒における反応速度は、反応ガス成分のガス層から境界層への輸送速度、又は、反応により生成されるガス成分の境界層からガス層への輸送速度によって律速されることから、後述の触媒反応演算モジュールにおいて境界層での化学反応速度を正確に把握する上でも、このようなガス層と境界層との間における反応ガスの交換は正確にモデル化する必要がある。
【0021】
物理演算モジュールでは、上記2種類のガス成分の輸送のうち、第n番目の離散要素のガス層から第n+1番目の離散要素のガス層へのガス成分の輸送は強制対流によるものとして従来既知のアルゴリズムにより扱い、そして、第n番目の離散要素のガス層と境界層との間のガス成分の輸送はガス層と境界層との間のガス成分の濃度差を起因とした拡散によるものとして、以下に示すような拡散モデルにより扱う。
【0022】
下記式(2)は、ガス層と境界層との間におけるガス成分の拡散をフィックの法則に基づいてモデル化することで定式化された、第n番目の離散要素におけるガス層と境界層との間のガス成分の拡散速度Jnを算出するための演算式である。
【数2】
【0023】
上記式(2)において、係数Dnはガス層における相互拡散係数であり、dhydは水力直径であり、Awetは濡れ面積であり、Shはシャーウッド数である。変数Cn,gasは第n番目の離散要素のガス層におけるガス成分の濃度であり、変数Cn,boundaryは第n番目の離散要素の境界層におけるガス成分の濃度である。これら変数Cn,gas、Cn,boundaryは、シミュレーションによりその時間発展が算出される。また、係数Kporusは、上述の相互拡散係数Dnを排気浄化触媒の材料に応じて補正するために導入した細孔補正係数であり、触媒の材料毎に実験によりその値が同定される。
【0024】
<熱の移動>
第n番目の離散要素に着目した場合、熱の移動は、第n番目の離散要素のガス層における排気と固体層との間の熱伝達(図3中、太矢印c参照)によるものと、第n番目の離散要素の固体層と第n−1番目の離散要素の固体層との間の熱伝導(図3中、太矢印d参照)によるものと、第n番目の離散要素の境界層において進行したガス成分の化学反応により固体層において発生した反応熱(図3中、符号e参照)によるものと、固体層から外部(外套部)への放熱(図3中、太矢印f参照)によるものと、の主に4種類が支配的となっている。
【0025】
これら熱の移動のうち、ガス層と固体層との間の熱伝達により移動する熱量は、下記式(3)により定式化された演算式が用いられる。ここで、下記式(3)において、係数αは熱伝達率であり、係数Nuは、Nusselt−Numberである。また、変数Tn,gasは第n番目の離散要素のガス層における排気温度であり、変数Tn,solidは第n番目の固体層温度すなわち触媒温度である。これら変数Tn,gas、Tn,solidは、シミュレーションによりその時間発展が算出される。
【数3】
【0026】
第n−1番目の固体層と第n番目の固体層との間で熱伝導により移動する熱量は、下記式(4)により定式化された演算式が用いられる。ここで、係数λは熱伝導率であり、係数Lsegmentは第n−1番目の離散要素の中心と第n番目の離散要素の中心との間の距離であり、係数Acontactは、は第n−1番目の離散要素と第n番目の離散要素の接触面積、すなわち排気浄化触媒の排気の流れ方向と垂直な平面に沿った断面積である。
【数4】
【0027】
境界層で進行した化学反応により発生した熱量は、下記式(5)により定式化された演算式が用いられる。ここで、係数ΔHiは標準生成エンタルピーであり、変数niはモル数である。なお、下記式(5)中の単位時間当りのモル数の変化量dni/dtは、シミュレーションによりその時間発展が算出される。
【数5】
【0028】
また、固体層から外部への放熱により移動する熱量は、下記式(6)により定式化された演算式が用いられる。ここで、係数Asurfaceは外套面積であり、係数Tambientは外気温度である。
【数6】
【0029】
[触媒反応演算モジュール]
図1に戻って、触媒反応演算モジュール32では、各離散要素の境界層においてガス成分に対して進行する触媒反応を扱う。例えば、上記式(2)中のガス成分の濃度Ci,boundaryや、上記式(5)中のモル数の変化量dni/dtなどは、境界層において特定のガス成分対に対して進行する化学反応によって変化する。この触媒反応演算モジュールでは、このような境界層のガス成分に関する評価パラメータの時間発展を算出する。以下、触媒反応演算モジュールについて、それぞれ異なるアルゴリズムが設定された比較例1、比較例2、及び実施例について説明する。
【0030】
<比較例1(アレニウスモデル)>
CO+O2反応、C3H6+O2反応、NO+CO反応など、境界層におけるガス成分対で進行する各種化学反応に対する反応速度式を、化学工学分野において基本的な反応速度式として一般的に用いられているアレニウスモデルに基づいて定式化したものを比較例1とする。また、この比較例1では、ガス成分の触媒表面への吸着はないものとして扱う。下記式(7)〜(9)に、一例として、CO+O2反応に係る反応速度RCO+O2に対する演算式を、アレニウスモデルに基づいて定式化したものを示す。
【数7】
【数8】
【数9】
【0031】
上記式(7)において、変数CCO,n,boundary及び変数CO2,n,boundaryは、それぞれ第n番目の離散要素の境界層におけるCO濃度及びO2濃度である。これら境界層におけるガス成分の濃度CCO,boundary及び変数CO2,boundaryは、シミュレーションによりその時間発展が算出される。
【0032】
また、上記式(7)において、係数kCO+O2は、CO+O2反応に係る反応速度係数であり、頻度因子K1、活性エネルギE1、及び固体層の温度Tn,solidを用いて、式(8)又は式(9)により算出される。
【0033】
図4は、CO、C3H6、NOの転化率の温度特性を示す後述の反応速度特性試験の結果(上段)、及びこの試験結果から得られるアレニウスプロット(下段)を示す図である。図4の下段に示すように、上記式(8)及び(9)中の頻度因子K1及び活性化エネルギE1は、この反応速度特性試験から同定された値が用いられる。
【0034】
図5は、上記式(7)に示すアレニウスモデルに基づいて算出されたCO、C3H6、NOの転化率の推定結果と、反応速度特性試験の結果とを比較する図である。この図に示すように、上述のようにして特定された頻度因子K1及び活性化エネルギE1をアレニウスモデルに適用することにより、ガス成分の転化率に関し、実測値とほぼ一致する結果が得られることが検証された。
【0035】
図6は、排気浄化触媒へのガス成分の入力条件を変えた場合におけるCOの転化率の温度特性を示す試験結果(上段)、及びこの試験結果から得られるアレニウスプロット(下段)を示す図である。図6には、基本となるガス成分の入力条件(図6中、実線参照)に対し、空間速度(SV)が大きくなるように変化させた場合(図6中、一点鎖線参照)と、酸素濃度が高くなるように変化させた場合(図6中、破線参照)とを示す。CO転化率は、空間速度が大きくなると小さくなり、酸素濃度が高くになると大きくなる。このように、ガス成分の排気浄化触媒への入力条件が変わると、転化率の温度特性も変化する。しかしながら、図6の下段に示すように、アレニウスプロットはガス成分の入力条件によらず一本の線上に乗る。すなわち、上述のようにして同定した頻度因子K1及び活性エネルギE1の値は、排気浄化触媒固有の物性値であって、ガス成分の排気浄化触媒への入力条件によらない普遍的な値であることが検証された。なお、図示は省略するが、C3H6+O2反応及びNO+CO反応など他の化学反応についても同様の結果が得られた。
【0036】
<比較例2(競争吸着モデル)>
図7は、CO+O2反応によるCO転化率の温度特性を示す図である。図7中、実線は、NOの非存在下における試験結果(すなわち図4中、実線で示す結果と同じ)を示し、破線は、NOの存在下における試験結果を示す。また、四角印は、上記比較例1のアレニウスモデルによる推定結果を示す。この図に示すように、NOが存在すると、CO+O2反応の反応速度は鈍化する。これは、多成分が混在した触媒表面上における反応で発生する競争吸着現象によるものであり、この図に示すように、比較例1のアレニウスモデルでは、このような競争吸着現象を再現することができない。
【0037】
比較例2では、このような競争吸着現象を模した競争吸着モデルとすべく、境界層におけるガス成分対で進行する化学反応に対する反応速度式を、下記式(10)に示すようなラングミュアヒンシェルウッドの反応速度式に基づいて定式化する。なお、比較例2では、上記比較例1と同様に、ガス成分の触媒表面への吸着はないものとして扱う。
【数10】
【0038】
上記式(10)において、変数CHC,n,boundary及び変数CNO,n,boundaryは、それぞれ第n番目の離散要素の境界層におけるNMHC濃度及びNO濃度である。これら境界層におけるガス成分の濃度CHC,boundary及び変数CNO,boundaryは、シミュレーションによりその時間発展が算出される。なお、上記式(10)において、NMHC及びNOの非存在下では、上記式(7)に示すアレニウスモデルと一致する。
【0039】
頻度因子K1及び活性化エネルギE1は、上記比較例1で同定された値が用いられる。また、係数KG1、EG1、KG2、EG2は、それぞれ、上記頻度因子K1及び活性化エネルギE1と同様の手順により、実測値と一致するように同定された値が用いられる。
【0040】
図8は、上記式(10)に示す競争吸着モデルに基づいて算出されたCOの転化率の推定結果と、試験結果とを比較する図である。この図に示すように、以上のように構築された比較例2の競争吸着モデルによれば、多成分の混在下における反応速度の鈍化を再現できることが検証された。なお、図示は省略するが、CO+O2反応以外のC3H6+O2反応及びNO+CO反応などについても上記式(10)と同様にラングミュアヒンシェルウッドの反応速度式に基づいて定式化され、またこれらによる推定値も試験結果と一致する結果が得られた。
【0041】
<実施例(競争吸着モデル+成分吸着モデル)>
図9は、後述の成分吸着特性試験の結果を示す図である。図9のうち細実線は排気浄化触媒に流入する排気の酸素濃度の変化を示し、太実線は排気浄化触媒から流出する排気の酸素濃度の変化を示す。排気浄化触媒に添加されたCeO2により排気中の酸素が吸着することにより、この図9に示すように、触媒の前後でガス成分に応答遅れが生じる。
【0042】
本実施例では、比較例1、2では考慮されなかったガス成分の触媒表面への吸着反応をさらに考慮するべく、ガス成分の吸着反応を模した成分吸着モデルを構築する。下記式(11)には、その一例として、ガス成分中のO2の吸着速度RO2,absに対する演算式を、成分吸着モデルに基づいて定式化したものを示す。なお、本実施例において、境界層において特定のガス成分対で進行する化学反応については、比較例2と同様に、上記式(10)などで定式化された競争吸着モデルにより扱う。
【数11】
【0043】
上記式(11)において、変数νO2,nは第n番目の離散要素におけるO2吸着量であり、変数νO2,n,maxは、第n番目の離散要素におけるO2の吸着容量、すなわち変数νO2,nの上限値であり、シミュレーションによりその時間発展が算出される。係数KO2,absは吸着速度定数であり、試験により同定された値が用いられる。また、後に図20を参照して説明するように、ガス成分の吸着容量は、触媒の温度に応じて変化する。そこで、上記式(11)中、O2の吸着容量νO2,n,maxは、予め試験を行うことで取得した温度特性に基づいて、例えば固体層Tn,solidに応じた値に設定される。
【0044】
また、以上のようにして触媒表面に吸着されたガス成分は、脱離反応により再び境界層に放出される。本実施例では、このような脱離反応の反応速度は、上記式(11)とは別に構築された演算式に基づいて、触媒の温度、境界層におけるガス成分の濃度、及び対象とする離散要素の触媒表面積などに応じて算出される。
【0045】
図10は、上記式(11)に示す成分吸着モデルを用いることにより、排気浄化触媒へのガス成分の吸着を考慮して算出された触媒直下の酸素濃度の変化を示す図である。図10には、上記式(11)における反応次数nをn=1,2,3とした場合についてのみ示す。この図10に示すように、反応次数n=2とした場合に、実際の吸着挙動が精度良く再現できることが検証された。また、図示を省略するが、O2以外のガス成分についても、上記式(11)と同様にその吸着速度式が定式化され、またこれらによる推定値も、反応次数n=2とした場合に試験結果と一致する結果が得られた。
【0046】
[シミュレーション結果]
次に、以上のように構成された比較例1、2及び実施例のシミュレーション装置によるシミュレーション結果について説明する。また、比較例1、2及び実施例のシミュレーション装置に入力する入力データは、後述のモードエミッション試験で得られたものを用いた。
【0047】
図11は、比較例1のシミュレーション結果を示す図である。図11は、上段から順にCO排出量[g/sec]、NMHC排出量[g/sec]、及びNO排出量[g/sec]を示す。図11において、破線は、エンジン直下の排出量の実測値でありシミュレーション装置に対する入力データの一部に相当する。太実線は、触媒直下の排出量の、比較例1のシミュレーション装置により算出された推定値である。また、細実線は触媒直下の排出量の、後述のモードエミッション試験で得られた実測値である。
【0048】
図11に示すように、実測値(細実線)と比較例1のシミュレーション装置による推定値(太実線)とを比較すると、NOの浄化開始タイミングが実際の浄化開始タイミングより早くなる傾向がある。また、比較例1のシミュレーション装置によれば、暖機完了後(図11中、約15秒以降)におけるCO、NMHC、及びNOの排出量は、全体的に実測値よりも多目になっている。また、始動開始直後におけるNOの排出挙動は、比較例1のシミュレーション装置による推定値と試験による実測値とで大きく異なる。
【0049】
図12は、比較例2のシミュレーション結果を示す図である。図12において、破線は、エンジン直下の排出量の実測値でありシミュレーション装置に対する入力データの一部に相当する。太実線は、触媒直下の排出量の、比較例2のシミュレーション装置により算出された推定値である。また、細実線は触媒直下の排出量の、後述のモードエミッション試験で得られた実測値である。
図12に示すように、実測値(細実線)と比較例2のシミュレーション装置による推定値(太実線)とを比較すると、NOの浄化開始タイミングについては、上述の図11に示す比較例1の結果よりも実測値に近くなり、改善されたと言える。しかしながら、CO、NMHC、及びNOの排出量が、全体的に実測値よりも多目になっている点や、始動開始直後におけるNOの排出挙動については、比較例1のシミュレーション装置に対して十分に改善されているとは言えない。
【0050】
図13は、比較例2のシミュレーション結果を示す図である。図13は、上段から順に過剰空気率、酸素濃度[%]、及びNO排出量[g/sec]を示す。入力データを取得するために用いた車両は、冷機始動後のアイドル運転中(図13中、時刻0〜15秒)は、NMHCの排出量を抑制するためにリーン運転を行っており、したがって排気中にO2が多量に存在する。このため、CO+NO反応において、O2との競争吸着が起こるので、CO+NO反応速度が低下する。図13に示すように、比較例2のシミュレーション装置によれば、このような酸素濃度の高い環境下におけるNOの排出挙動が高い精度で再現された。しかしながら、暖機完了後(図13中、約15秒以降)については、比較例1及び比較例2ともに、実測値を十分に再現できていない。
【0051】
図14は、実施例のシミュレーション結果を示す図である。図14において、破線は、エンジン直下の排出量の実測値でありシミュレーション装置に対する入力データの一部に相当する。太実線は、触媒直下の排出量の、実施例のシミュレーション装置により算出された推定値である。また、細実線は触媒直下の排出量の、後述のモードエミッション試験で得られた実測値である。図14に示すように、暖気完了後(図14中、約15秒以降)における推定精度は、CO、NMHC、NO全てにおいて、実測値に近く、比較例1及び比較例2よりも改善されたと言える。
【0052】
図15は、実施例と比較例2のシミュレーション結果を比較する図である。図15は、上段から順に、過剰空気率、CO排出量、及びNO排出量を示す。図15において、破線は、触媒直下の排出量の、後述のモードエミッション試験で得られた実測値である。太実線は、触媒直下の排出量の、実施例のシミュレーション装置により算出された推定値である。また、細実線は、触媒直下の排出量の、比較例2のシミュレーション装置により算出された推定値である。図15に示すように、ガス成分の触媒表面への吸着を考慮していない比較例2では、排気の空燃比がリッチ側にシフト(例えば、図15中、32〜34秒、45秒前後など参照)すると、これに応じて、NOの排出量が実測値よりも大きくなってしまう。これに対し、成分吸着モデルを適用した実施例では、リッチ雰囲気下及びリーン雰囲気下で反応できなかったガス成分が一時的に触媒に吸着され、空燃比が変化したときに、この吸着していたガス成分を浄化する、といった現象を再現することができ、結果として実測値に近い排気挙動を再現することができる。
【0053】
以上より、ガス成分の輸送及び熱の移動を模した物理モデルに加え、競争吸着モデル及び成分吸着モデルで構成された触媒反応モデルに基づいてシミュレーション装置を構築することにより、様々な運転状態を含む車両モード走行時における排気挙動を再現できることが検証された。
【0054】
図16は、実施例のシミュレーション装置により算出された各部分の触媒温度の推定値と実測値とを比較する図である。図16は、上段から順に、排気浄化触媒の入り口から15mmの部分、30mmの部分、50mmの部分、80mmの部分における触媒温度を示す。図16に示すように、実施例のシミュレーション装置によれば、排気浄化触媒の各部分における触媒温度は、始動開始直後からほぼ実測値と一致する。また、境界層での化学反応の進行に伴って発生する反応熱による触媒の昇温も十分に再現されていることが検証された。
【0055】
図17は、実施例のシミュレーション装置により算出されたCO、NMHC、NOの積算排出量の推定値と、実測値とを比較する図である。図17に示すように、実施例のシミュレーション装置によれば、積算排出量についてもCO、NMHC、NO全てにおいて高い精度で推定できることが検証された。なお、始動開始から約500秒経過後における積算排出量の推定値の誤差は、COでは2%、NMHCでは7%、NOでは9%であり、全てにおいて推定誤差10%以内であった。
【0056】
[モデルパラメータの決定及び入力データ取得のための試験]
以下、上記シミュレーション装置を構築するにあたって各種モデルパラメータを決定するために行った触媒単体試験と、構築したシミュレーション装置への入力データを取得するために行った実車によるモードエミッション試験と、について順に説明する。
先ず、これら2つの試験に用いた排気浄化触媒の仕様は、以下の通りである。なお、実際の試験には、所定の条件下でエージング処理を施したものを用いた。
・触媒組成:Pt−Pd−Rh−CeO2
・触媒セル密度:900cpi
・触媒サイズ(触媒単体試験用の試験片):φ30mm×L55mm
・触媒サイズ(モードエミッション試験用):φ105.7mm×L114.3mm
【0057】
(1)触媒単体試験
この触媒単体試験では、準備した排気浄化触媒における各種触媒反応の速度特性と、各化学種の吸着特性とを特定することを目的として、準備した上記触媒試験片と排気を模して構成された合成ガスとを用いて、以下に示す(1−1)反応速度特性試験と(1−2)成分吸着特性試験との2種類の試験を行った。
【0058】
(1−1)反応速度特性試験
この反応速度特性試験では、触媒試験片に流量一定の条件下で合成ガスを供給しながら、この合成ガスの温度を373[K]から773[K]まで、5[K/min]の割合で上昇させたときにおける、合成ガス中の各成分の転化率の変化を測定した。図18には、試験結果の一例として、COの転化率に相当する触媒試験片の上流側と下流側のCO濃度[ppm]の変化を示す。図18の下段において、破線は触媒試験片の上流側のCO濃度を示し、実線は触媒試験片の下流側のCO濃度を示す。
基づいて特定される。
【0059】
(1−2)成分吸着特性試験
この成分吸着特性試験では、内燃機関の混合気の空燃比がリーン側又はリッチ側に周期的に制御された場合を想定して、還元性ガスと酸化性ガスとを一定の周期で交互にステップ状に供給し、このときの触媒試験片の上流側と下流側のガス成分の濃度差を測定することにより、触媒表面への各化学種の吸着特性及び脱離特性を特定した。また、以上のような試験を、触媒試験片に供給するガスの温度を323K、473K、573K、673K、773Kに変えて行った。図19には、この試験結果の一例として、CO(上段)とO2(下段)を交互に供給した場合における触媒上流側濃度(破線)と触媒下流側濃度(実線)を示す。また、図20には、この試験結果の一例として、NOの吸着容量[mol/m3]の温度特性を示す。図20に示すように、NOの吸着容量は、温度によって変化する。また、この試験では、50℃以下においてもNOを吸着できる排気浄化触媒を用いた。
【0060】
(2)実車によるモードエミッション試験
このモードエミッション試験では、実車を用いることにより、シミュレーション装置への入力データを取得した。
より具体的には、上記試験用の排気浄化触媒を搭載した車両を準備し、この車両を米国認証モード(FTP75サイクル)の下で実際に運転し、このときに排気浄化触媒に供給される排気中の各ガス成分の流量パターンと触媒入り口の排気温度とを取得し、これをシミュレーション装置への入力データとした。また、このモードエミッション試験では、このようなシミュレーション装置への入力データを取得すると同時に、排気浄化触媒の各部分の温度(上述の図16参照)や、排気浄化触媒の下流側の各ガス成分の濃度(上述の図11〜15及び図17参照)などを取得し、これをシミュレーション装置の出力精度を検証するための比較データとする。
【符号の説明】
【0061】
1…シミュレーション装置
3…演算装置(演算手段)
31…物理演算モジュール
32…触媒反応演算モジュール
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション装置に関する。より詳しくは、内燃機関の排気を浄化する排気浄化触媒の浄化性能を評価するための評価パラメータを算出する排気浄化触媒用のシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路には、排気を浄化するため排気浄化触媒が設けられる。通常、実際に車両に搭載される排気浄化触媒は、内燃機関や車両の仕向け地などに応じて好ましい浄化性能が得られるよう、試験用触媒の調製とその性能評価試験とを繰り返し行うことで設計される。しかしながら近年では、内燃機関や仕向け地の多様化や、排気浄化触媒に要求される浄化性能の向上などの理由から、排気浄化触媒の開発期間の短縮が特に望まれている。そこで、従来のような触媒の調製と評価試験の繰り返しを、例えばシミュレーション装置を利用した模擬的な数値計算で置き換えることにより、触媒の開発効率を向上することが考えられる。
【0003】
このような排気浄化触媒用のシミュレーション装置を構築するには、排気浄化触媒における排気の浄化過程を数値的に評価できるよう、排気を構成するガス成分に対し進行する各種触媒反応をモデル化する必要がある。触媒反応を数値的にモデル化した具体例としては、例えば、非特許文献1に記載された分子スケールモデルや、非特許文献2に記載された詳細反応モデルなどが挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Orita,H., Nakamura, I., Fujitani, T., “Studies of NO adsorption on Pt(110)-(1x2) and (1x1) surfaces using density functional theory,” J Phys Chem B. 2005 May 26;109(20):10312-8.
【非特許文献2】Yamauchi, T., Kubo, S., Mizukami, T., Sato, N., and Aono, N., “Numerical Simulation for Designing Next Generation TWC System with Detailed Chemistry,” SAE 2008-01-1540, 2008, doi : 10.4271/2008-01-1540.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、排気浄化触媒の開発向けのシミュレーション装置としては、内燃機関の定常運転状態だけでなく、実際の車両の走行と同様に、低温始動時、暖機中及び暖機後など様々な運転状態下での排気浄化触媒の浄化性能を評価できるものであることが好ましい。上記分子スケールモデルや詳細反応モデルは、実際の触媒において進行する触媒反応を高い再現性でモデル化したものではあるものの、複雑な組成を有する実際の車両の排気浄化触媒にこれらを適用した場合、排気浄化触媒の特性を特定するために実際に行う必要のある試験にかかる工数は多大なものとなる。また、上記モデルを適用して構成される演算式も計算負荷の高い複雑なものとなってしまうため、上述のように様々な運転状態下における浄化性能を評価できるシミュレーション装置の構築は、現実的には困難である。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、実際の車両と同等の環境下にある排気浄化触媒の性能を評価できる排気浄化触媒用のシミュレーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関の排気を浄化する排気浄化触媒について、所定の入力データから前記排気浄化触媒の浄化性能を評価するための評価パラメータ(例えば、後述の排気浄化触媒の各部分における排気の流速、ガス成分の濃度、触媒温度、及び排気温度など)の値を算出する排気浄化触媒用のシミュレーション装置(例えば、後述のシミュレーション装置1)を提供する。前記シミュレーション装置は、排気を構成するガス成分の輸送及び前記排気浄化触媒における熱の移動を模した物理モデル(例えば、後述の式(2)〜(6)などにより構築されるモデル)、並びに前記排気浄化触媒におけるガス成分に対して進行する触媒反応を模した触媒反応モデルに基づいて、前記評価パラメータの値を算出する演算手段(例えば、後述の演算装置3)を備え、前記触媒反応モデルは、特定のガス成分対で進行する化学反応(例えば、後述のCO+O2反応、C3H6+O2反応、NO+CO反応など)を模した化学反応モデル(例えば、後述の式(7)〜(10)などにより構築されるモデル)と、触媒表面への特定のガス成分の吸着反応を模した成分吸着モデル(例えば、後述の式(11)などにより構築されるモデル)と、を含む。
【0008】
本発明では、排気浄化触媒においてガス成分に対して進行する触媒反応を模した触媒反応モデルと、ガス成分の輸送及び熱の移動を模した物理モデルとの両方に基づいてシミュレーションを行うことにより、触媒温度やガス成分の濃度などに応じて変化する触媒反応を正確に把握することができるので、精度の高いシミュレーションを行うことができる。また本発明では、触媒反応モデルを、特定のガス成分対で進行する化学反応を模した化学反応モデルと、触媒表面への特定ガス成分の吸着反応を模した成分吸着モデルとで構成した。これにより、ガス成分の化学反応による変化だけでなく、触媒表面への吸着による変化を扱うことができるので、混合気の空燃比が頻繁に変化する実際の運転状態下における排気の挙動を再現することができ、ひいてはさらに精度の高いシミュレーションを行うことができる。また、以上のようなシミュレーション装置を触媒開発に利用することにより、排気の浄化性能を向上するための主要な要因を特定できるので、触媒開発の効率を向上することができる。
【0009】
この場合、前記成分吸着モデルは、特定のガス成分の触媒表面への吸着速度を算出する演算式で構成されることが好ましい。また、この場合、前記特定のガス成分の触媒表面への吸着速度Rgas_absは、下記演算式(1)により算出されることが好ましい。
【数1】
ただし、Cgas_boundaryは前記排気浄化触媒のうち触媒反応が進行しうる境界層における前記特定のガス成分の濃度とし、νgas_maxは前記特定のガス成分の最大吸着量とし、νgasは前記特定のガス成分の吸着量とし、Kgas_absは所定の定数とし、反応次数nは2とする。
【0010】
本発明によれば、上記式(1)に示すような演算式に基づいてガス成分の触媒表面への吸着反応を扱うことにより、ガス成分の実際の吸着挙動を精度良く再現できるので、さらに精度の高いシミュレーションを行うことができる。
【0011】
この場合、前記化学反応モデルは、3種以上のガス成分の混在下における特定のガス成分対で進行する化学反応を模した競争吸着モデル(後述の式(10)参照)であることが好ましい。
【0012】
多成分が混在した触媒表面上では、特定のガス成分対についてその反応速度が鈍化する場合がある。本発明では、このような競争吸着現象を模した競争吸着モデルにより化学反応モデルを構築することにより、例えば、内燃機関のリーン運転中であり排気の酸素濃度が高くなっている間における特定のガス成分対の反応の鈍化を再現することができるので、さらに精度の高いシミュレーションを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るシミュレーション装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】排気浄化触媒を離散化した1次元モデルを模式的に示す図である。
【図3】第n番目の離散要素において発生しうる物理現象のうち、上記評価パラメータの時間発展に関わりのある主なものを模式的に示す図である。
【図4】C3H6、NOの転化率の温度特性を示す試験結果、及びこの試験結果から得られるアレニウスプロットを示す図である。
【図5】アレニウスモデルに基づいて算出されたCO、C3H6、NOの転化率の推定結果と、反応速度特性試験の結果とを比較する図である。
【図6】排気浄化触媒へのガス成分の入力条件を変えた場合におけるCOの転化率の温度特性を示す試験結果、及びこの試験結果から得られるアレニウスプロットを示す図である。
【図7】CO+O2反応によるCO転化率の温度特性を示す図である。
【図8】競争吸着モデルに基づいて算出されたCOの転化率の推定結果と、試験結果とを比較する図である。
【図9】成分吸着特性試験の結果を示す図である。
【図10】成分吸着モデルを用いることにより、排気浄化触媒へのガス成分の吸着を考慮して算出された触媒直下の酸素濃度の変化を示す図である。
【図11】比較例1のシミュレーション結果を示す図である。
【図12】比較例2のシミュレーション結果を示す図である。
【図13】比較例2のシミュレーション結果を示す図である。
【図14】実施例のシミュレーション結果を示す図である。
【図15】実施例と比較例2のシミュレーション結果を比較する図である。
【図16】実施例のシミュレーション装置により算出された各部分の触媒温度の推定値と実測値とを比較する図である。
【図17】実施例のシミュレーション装置により算出されたCO、NMHC、NOの積算排出量の推定値と、実測値とを比較する図である。
【図18】反応速度特性試験の結果の一例を示す図である。
【図19】成分吸着特性試験の結果の一例を示す図である。
【図20】成分吸着特性試験の結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るシミュレーション装置1の概略構成を示すブロック図である。シミュレーション装置1は、作業者が各種データや指令を入力する入力装置2と、各種演算処理を実行する演算装置3と、演算結果を表示する表示装置4と、を備える。以下詳述するように、このシミュレーション装置1では、排気管に設けられた排気浄化触媒による内燃機関の排気の浄化過程をシミュレーションすることにより、この排気浄化触媒の浄化性能を評価するための各種評価パラメータの値を算出する。
【0015】
入力装置2は、作業者が操作可能なキーボードやマウスなどのハードウェアで構成される。この入力装置2を操作することで入力されたデータや指令は、演算装置3に入力される。表示装置4は、CRTや液晶ディスプレイなどのハードウェアで構成される。演算装置3による演算処理の結果は、この表示装置4の表示部に作業者に認識可能な態様で表示される。演算装置3は、RAM、ROM、及びハードディスクなどで構成された記憶装置や、この記憶装置に格納されたデータや入力装置2から入力されたデータや指令に基づいて演算処理を実行する中央演算装置などを含んで構成される。
【0016】
内燃機関の排気を構成する様々なガス成分のうち、一酸化炭素(CO)、炭化水素(NMHC)、窒素酸化物(NOx)などのガス成分は、排気浄化触媒における触媒反応により浄化される。しかしながら、このような排気浄化に係る触媒反応は、排気浄化触媒の温度、排気の流速、及びガス成分の濃度などの物理状態によって左右される。また逆に、排気浄化触媒の温度やガス成分の濃度などは、化学反応の進行によって左右される。したがって、排気浄化触媒による排気の浄化過程をシミュレーションするためには、排気浄化に係る触媒反応現象だけでなく、排気浄化触媒において発生する物理現象も同時に扱う必要がある。
【0017】
以上の点に鑑み、上述のようなハードウェアで構成された演算装置3には、排気浄化触媒で発生する物理現象を模した物理モデルに基づく演算を行う物理演算モジュール31と、排気浄化触媒においてガス成分に対し進行する触媒反応を模した触媒反応モデルに基づく演算を行う触媒反応演算モジュール32と、が構成されている。以下、これらモジュール31,32に構築されたモデルの構成、及び演算のアルゴリズムなどについて、順に説明する。
【0018】
[物理演算モジュール]
物理演算モジュールでは、図2に示すように、排気管5内に設けられた排気浄化触媒6を、排気の流れ方向に沿ってM個の要素に分割することにより離散化した1次元モデルとして捉える。そして、排気浄化触媒6に入力される各ガス成分の流量[g/s]の時間変化に関するデータ及び排気温度[K]の時間変化に関するデータを含んで構成された後述の入力データに基づいて、この1次元モデル上のM個の離散要素ごと及び触媒直下の排気の流速と、排気を構成する各ガス成分の濃度と、触媒及び排気の温度との時間発展を算出する。本発明では、これら排気の流速、ガス成分の濃度、触媒温度、及び排気温度、並びにこれらから算出されるガス成分の排出量など、排気浄化触媒の性能を評価するためのパラメータを、評価パラメータと言う。なお、この入力データを取得するためのモードエミッション試験については、後に詳述する。
【0019】
図3は、第n番目の離散要素において発生し得る様々な物理現象のうち、上記評価パラメータの時間発展に関わりのある主なものを模式的に示す図である。
上述のような評価パラメータの時間発展をシミュレーションするためには、排気浄化触媒において発生し得る物理現象のうち特に、内燃機関から排気として排出されたガス成分の輸送と、熱の移動と、の両方を扱う必要がある。物理演算モジュールでは、これらガス成分の輸送と熱の移動とを正確に把握するため、図3に示すように、各離散要素を、排気が流通するガス層と、ガス成分に対し所定の化学反応が進行する境界層と、熱が移動する固体層と、の3つの層に分けて扱う。以下、この第n番目の離散要素において進行する物理現象について、ガス成分の輸送と熱の移動とを順に説明する。
【0020】
<ガス成分の輸送>
第n番目の離散要素に着目した場合、ガス成分の輸送は、第n番目の離散要素のガス層からより下流側の第n+1番目の離散要素のガス層へ流出するもの(図3中、白抜き矢印a参照)と、同じ離散要素内におけるガス層と境界層との間の交換(図3中、白抜き矢印b参照)と、に分けられる。活性状態にある排気浄化触媒における反応速度は、反応ガス成分のガス層から境界層への輸送速度、又は、反応により生成されるガス成分の境界層からガス層への輸送速度によって律速されることから、後述の触媒反応演算モジュールにおいて境界層での化学反応速度を正確に把握する上でも、このようなガス層と境界層との間における反応ガスの交換は正確にモデル化する必要がある。
【0021】
物理演算モジュールでは、上記2種類のガス成分の輸送のうち、第n番目の離散要素のガス層から第n+1番目の離散要素のガス層へのガス成分の輸送は強制対流によるものとして従来既知のアルゴリズムにより扱い、そして、第n番目の離散要素のガス層と境界層との間のガス成分の輸送はガス層と境界層との間のガス成分の濃度差を起因とした拡散によるものとして、以下に示すような拡散モデルにより扱う。
【0022】
下記式(2)は、ガス層と境界層との間におけるガス成分の拡散をフィックの法則に基づいてモデル化することで定式化された、第n番目の離散要素におけるガス層と境界層との間のガス成分の拡散速度Jnを算出するための演算式である。
【数2】
【0023】
上記式(2)において、係数Dnはガス層における相互拡散係数であり、dhydは水力直径であり、Awetは濡れ面積であり、Shはシャーウッド数である。変数Cn,gasは第n番目の離散要素のガス層におけるガス成分の濃度であり、変数Cn,boundaryは第n番目の離散要素の境界層におけるガス成分の濃度である。これら変数Cn,gas、Cn,boundaryは、シミュレーションによりその時間発展が算出される。また、係数Kporusは、上述の相互拡散係数Dnを排気浄化触媒の材料に応じて補正するために導入した細孔補正係数であり、触媒の材料毎に実験によりその値が同定される。
【0024】
<熱の移動>
第n番目の離散要素に着目した場合、熱の移動は、第n番目の離散要素のガス層における排気と固体層との間の熱伝達(図3中、太矢印c参照)によるものと、第n番目の離散要素の固体層と第n−1番目の離散要素の固体層との間の熱伝導(図3中、太矢印d参照)によるものと、第n番目の離散要素の境界層において進行したガス成分の化学反応により固体層において発生した反応熱(図3中、符号e参照)によるものと、固体層から外部(外套部)への放熱(図3中、太矢印f参照)によるものと、の主に4種類が支配的となっている。
【0025】
これら熱の移動のうち、ガス層と固体層との間の熱伝達により移動する熱量は、下記式(3)により定式化された演算式が用いられる。ここで、下記式(3)において、係数αは熱伝達率であり、係数Nuは、Nusselt−Numberである。また、変数Tn,gasは第n番目の離散要素のガス層における排気温度であり、変数Tn,solidは第n番目の固体層温度すなわち触媒温度である。これら変数Tn,gas、Tn,solidは、シミュレーションによりその時間発展が算出される。
【数3】
【0026】
第n−1番目の固体層と第n番目の固体層との間で熱伝導により移動する熱量は、下記式(4)により定式化された演算式が用いられる。ここで、係数λは熱伝導率であり、係数Lsegmentは第n−1番目の離散要素の中心と第n番目の離散要素の中心との間の距離であり、係数Acontactは、は第n−1番目の離散要素と第n番目の離散要素の接触面積、すなわち排気浄化触媒の排気の流れ方向と垂直な平面に沿った断面積である。
【数4】
【0027】
境界層で進行した化学反応により発生した熱量は、下記式(5)により定式化された演算式が用いられる。ここで、係数ΔHiは標準生成エンタルピーであり、変数niはモル数である。なお、下記式(5)中の単位時間当りのモル数の変化量dni/dtは、シミュレーションによりその時間発展が算出される。
【数5】
【0028】
また、固体層から外部への放熱により移動する熱量は、下記式(6)により定式化された演算式が用いられる。ここで、係数Asurfaceは外套面積であり、係数Tambientは外気温度である。
【数6】
【0029】
[触媒反応演算モジュール]
図1に戻って、触媒反応演算モジュール32では、各離散要素の境界層においてガス成分に対して進行する触媒反応を扱う。例えば、上記式(2)中のガス成分の濃度Ci,boundaryや、上記式(5)中のモル数の変化量dni/dtなどは、境界層において特定のガス成分対に対して進行する化学反応によって変化する。この触媒反応演算モジュールでは、このような境界層のガス成分に関する評価パラメータの時間発展を算出する。以下、触媒反応演算モジュールについて、それぞれ異なるアルゴリズムが設定された比較例1、比較例2、及び実施例について説明する。
【0030】
<比較例1(アレニウスモデル)>
CO+O2反応、C3H6+O2反応、NO+CO反応など、境界層におけるガス成分対で進行する各種化学反応に対する反応速度式を、化学工学分野において基本的な反応速度式として一般的に用いられているアレニウスモデルに基づいて定式化したものを比較例1とする。また、この比較例1では、ガス成分の触媒表面への吸着はないものとして扱う。下記式(7)〜(9)に、一例として、CO+O2反応に係る反応速度RCO+O2に対する演算式を、アレニウスモデルに基づいて定式化したものを示す。
【数7】
【数8】
【数9】
【0031】
上記式(7)において、変数CCO,n,boundary及び変数CO2,n,boundaryは、それぞれ第n番目の離散要素の境界層におけるCO濃度及びO2濃度である。これら境界層におけるガス成分の濃度CCO,boundary及び変数CO2,boundaryは、シミュレーションによりその時間発展が算出される。
【0032】
また、上記式(7)において、係数kCO+O2は、CO+O2反応に係る反応速度係数であり、頻度因子K1、活性エネルギE1、及び固体層の温度Tn,solidを用いて、式(8)又は式(9)により算出される。
【0033】
図4は、CO、C3H6、NOの転化率の温度特性を示す後述の反応速度特性試験の結果(上段)、及びこの試験結果から得られるアレニウスプロット(下段)を示す図である。図4の下段に示すように、上記式(8)及び(9)中の頻度因子K1及び活性化エネルギE1は、この反応速度特性試験から同定された値が用いられる。
【0034】
図5は、上記式(7)に示すアレニウスモデルに基づいて算出されたCO、C3H6、NOの転化率の推定結果と、反応速度特性試験の結果とを比較する図である。この図に示すように、上述のようにして特定された頻度因子K1及び活性化エネルギE1をアレニウスモデルに適用することにより、ガス成分の転化率に関し、実測値とほぼ一致する結果が得られることが検証された。
【0035】
図6は、排気浄化触媒へのガス成分の入力条件を変えた場合におけるCOの転化率の温度特性を示す試験結果(上段)、及びこの試験結果から得られるアレニウスプロット(下段)を示す図である。図6には、基本となるガス成分の入力条件(図6中、実線参照)に対し、空間速度(SV)が大きくなるように変化させた場合(図6中、一点鎖線参照)と、酸素濃度が高くなるように変化させた場合(図6中、破線参照)とを示す。CO転化率は、空間速度が大きくなると小さくなり、酸素濃度が高くになると大きくなる。このように、ガス成分の排気浄化触媒への入力条件が変わると、転化率の温度特性も変化する。しかしながら、図6の下段に示すように、アレニウスプロットはガス成分の入力条件によらず一本の線上に乗る。すなわち、上述のようにして同定した頻度因子K1及び活性エネルギE1の値は、排気浄化触媒固有の物性値であって、ガス成分の排気浄化触媒への入力条件によらない普遍的な値であることが検証された。なお、図示は省略するが、C3H6+O2反応及びNO+CO反応など他の化学反応についても同様の結果が得られた。
【0036】
<比較例2(競争吸着モデル)>
図7は、CO+O2反応によるCO転化率の温度特性を示す図である。図7中、実線は、NOの非存在下における試験結果(すなわち図4中、実線で示す結果と同じ)を示し、破線は、NOの存在下における試験結果を示す。また、四角印は、上記比較例1のアレニウスモデルによる推定結果を示す。この図に示すように、NOが存在すると、CO+O2反応の反応速度は鈍化する。これは、多成分が混在した触媒表面上における反応で発生する競争吸着現象によるものであり、この図に示すように、比較例1のアレニウスモデルでは、このような競争吸着現象を再現することができない。
【0037】
比較例2では、このような競争吸着現象を模した競争吸着モデルとすべく、境界層におけるガス成分対で進行する化学反応に対する反応速度式を、下記式(10)に示すようなラングミュアヒンシェルウッドの反応速度式に基づいて定式化する。なお、比較例2では、上記比較例1と同様に、ガス成分の触媒表面への吸着はないものとして扱う。
【数10】
【0038】
上記式(10)において、変数CHC,n,boundary及び変数CNO,n,boundaryは、それぞれ第n番目の離散要素の境界層におけるNMHC濃度及びNO濃度である。これら境界層におけるガス成分の濃度CHC,boundary及び変数CNO,boundaryは、シミュレーションによりその時間発展が算出される。なお、上記式(10)において、NMHC及びNOの非存在下では、上記式(7)に示すアレニウスモデルと一致する。
【0039】
頻度因子K1及び活性化エネルギE1は、上記比較例1で同定された値が用いられる。また、係数KG1、EG1、KG2、EG2は、それぞれ、上記頻度因子K1及び活性化エネルギE1と同様の手順により、実測値と一致するように同定された値が用いられる。
【0040】
図8は、上記式(10)に示す競争吸着モデルに基づいて算出されたCOの転化率の推定結果と、試験結果とを比較する図である。この図に示すように、以上のように構築された比較例2の競争吸着モデルによれば、多成分の混在下における反応速度の鈍化を再現できることが検証された。なお、図示は省略するが、CO+O2反応以外のC3H6+O2反応及びNO+CO反応などについても上記式(10)と同様にラングミュアヒンシェルウッドの反応速度式に基づいて定式化され、またこれらによる推定値も試験結果と一致する結果が得られた。
【0041】
<実施例(競争吸着モデル+成分吸着モデル)>
図9は、後述の成分吸着特性試験の結果を示す図である。図9のうち細実線は排気浄化触媒に流入する排気の酸素濃度の変化を示し、太実線は排気浄化触媒から流出する排気の酸素濃度の変化を示す。排気浄化触媒に添加されたCeO2により排気中の酸素が吸着することにより、この図9に示すように、触媒の前後でガス成分に応答遅れが生じる。
【0042】
本実施例では、比較例1、2では考慮されなかったガス成分の触媒表面への吸着反応をさらに考慮するべく、ガス成分の吸着反応を模した成分吸着モデルを構築する。下記式(11)には、その一例として、ガス成分中のO2の吸着速度RO2,absに対する演算式を、成分吸着モデルに基づいて定式化したものを示す。なお、本実施例において、境界層において特定のガス成分対で進行する化学反応については、比較例2と同様に、上記式(10)などで定式化された競争吸着モデルにより扱う。
【数11】
【0043】
上記式(11)において、変数νO2,nは第n番目の離散要素におけるO2吸着量であり、変数νO2,n,maxは、第n番目の離散要素におけるO2の吸着容量、すなわち変数νO2,nの上限値であり、シミュレーションによりその時間発展が算出される。係数KO2,absは吸着速度定数であり、試験により同定された値が用いられる。また、後に図20を参照して説明するように、ガス成分の吸着容量は、触媒の温度に応じて変化する。そこで、上記式(11)中、O2の吸着容量νO2,n,maxは、予め試験を行うことで取得した温度特性に基づいて、例えば固体層Tn,solidに応じた値に設定される。
【0044】
また、以上のようにして触媒表面に吸着されたガス成分は、脱離反応により再び境界層に放出される。本実施例では、このような脱離反応の反応速度は、上記式(11)とは別に構築された演算式に基づいて、触媒の温度、境界層におけるガス成分の濃度、及び対象とする離散要素の触媒表面積などに応じて算出される。
【0045】
図10は、上記式(11)に示す成分吸着モデルを用いることにより、排気浄化触媒へのガス成分の吸着を考慮して算出された触媒直下の酸素濃度の変化を示す図である。図10には、上記式(11)における反応次数nをn=1,2,3とした場合についてのみ示す。この図10に示すように、反応次数n=2とした場合に、実際の吸着挙動が精度良く再現できることが検証された。また、図示を省略するが、O2以外のガス成分についても、上記式(11)と同様にその吸着速度式が定式化され、またこれらによる推定値も、反応次数n=2とした場合に試験結果と一致する結果が得られた。
【0046】
[シミュレーション結果]
次に、以上のように構成された比較例1、2及び実施例のシミュレーション装置によるシミュレーション結果について説明する。また、比較例1、2及び実施例のシミュレーション装置に入力する入力データは、後述のモードエミッション試験で得られたものを用いた。
【0047】
図11は、比較例1のシミュレーション結果を示す図である。図11は、上段から順にCO排出量[g/sec]、NMHC排出量[g/sec]、及びNO排出量[g/sec]を示す。図11において、破線は、エンジン直下の排出量の実測値でありシミュレーション装置に対する入力データの一部に相当する。太実線は、触媒直下の排出量の、比較例1のシミュレーション装置により算出された推定値である。また、細実線は触媒直下の排出量の、後述のモードエミッション試験で得られた実測値である。
【0048】
図11に示すように、実測値(細実線)と比較例1のシミュレーション装置による推定値(太実線)とを比較すると、NOの浄化開始タイミングが実際の浄化開始タイミングより早くなる傾向がある。また、比較例1のシミュレーション装置によれば、暖機完了後(図11中、約15秒以降)におけるCO、NMHC、及びNOの排出量は、全体的に実測値よりも多目になっている。また、始動開始直後におけるNOの排出挙動は、比較例1のシミュレーション装置による推定値と試験による実測値とで大きく異なる。
【0049】
図12は、比較例2のシミュレーション結果を示す図である。図12において、破線は、エンジン直下の排出量の実測値でありシミュレーション装置に対する入力データの一部に相当する。太実線は、触媒直下の排出量の、比較例2のシミュレーション装置により算出された推定値である。また、細実線は触媒直下の排出量の、後述のモードエミッション試験で得られた実測値である。
図12に示すように、実測値(細実線)と比較例2のシミュレーション装置による推定値(太実線)とを比較すると、NOの浄化開始タイミングについては、上述の図11に示す比較例1の結果よりも実測値に近くなり、改善されたと言える。しかしながら、CO、NMHC、及びNOの排出量が、全体的に実測値よりも多目になっている点や、始動開始直後におけるNOの排出挙動については、比較例1のシミュレーション装置に対して十分に改善されているとは言えない。
【0050】
図13は、比較例2のシミュレーション結果を示す図である。図13は、上段から順に過剰空気率、酸素濃度[%]、及びNO排出量[g/sec]を示す。入力データを取得するために用いた車両は、冷機始動後のアイドル運転中(図13中、時刻0〜15秒)は、NMHCの排出量を抑制するためにリーン運転を行っており、したがって排気中にO2が多量に存在する。このため、CO+NO反応において、O2との競争吸着が起こるので、CO+NO反応速度が低下する。図13に示すように、比較例2のシミュレーション装置によれば、このような酸素濃度の高い環境下におけるNOの排出挙動が高い精度で再現された。しかしながら、暖機完了後(図13中、約15秒以降)については、比較例1及び比較例2ともに、実測値を十分に再現できていない。
【0051】
図14は、実施例のシミュレーション結果を示す図である。図14において、破線は、エンジン直下の排出量の実測値でありシミュレーション装置に対する入力データの一部に相当する。太実線は、触媒直下の排出量の、実施例のシミュレーション装置により算出された推定値である。また、細実線は触媒直下の排出量の、後述のモードエミッション試験で得られた実測値である。図14に示すように、暖気完了後(図14中、約15秒以降)における推定精度は、CO、NMHC、NO全てにおいて、実測値に近く、比較例1及び比較例2よりも改善されたと言える。
【0052】
図15は、実施例と比較例2のシミュレーション結果を比較する図である。図15は、上段から順に、過剰空気率、CO排出量、及びNO排出量を示す。図15において、破線は、触媒直下の排出量の、後述のモードエミッション試験で得られた実測値である。太実線は、触媒直下の排出量の、実施例のシミュレーション装置により算出された推定値である。また、細実線は、触媒直下の排出量の、比較例2のシミュレーション装置により算出された推定値である。図15に示すように、ガス成分の触媒表面への吸着を考慮していない比較例2では、排気の空燃比がリッチ側にシフト(例えば、図15中、32〜34秒、45秒前後など参照)すると、これに応じて、NOの排出量が実測値よりも大きくなってしまう。これに対し、成分吸着モデルを適用した実施例では、リッチ雰囲気下及びリーン雰囲気下で反応できなかったガス成分が一時的に触媒に吸着され、空燃比が変化したときに、この吸着していたガス成分を浄化する、といった現象を再現することができ、結果として実測値に近い排気挙動を再現することができる。
【0053】
以上より、ガス成分の輸送及び熱の移動を模した物理モデルに加え、競争吸着モデル及び成分吸着モデルで構成された触媒反応モデルに基づいてシミュレーション装置を構築することにより、様々な運転状態を含む車両モード走行時における排気挙動を再現できることが検証された。
【0054】
図16は、実施例のシミュレーション装置により算出された各部分の触媒温度の推定値と実測値とを比較する図である。図16は、上段から順に、排気浄化触媒の入り口から15mmの部分、30mmの部分、50mmの部分、80mmの部分における触媒温度を示す。図16に示すように、実施例のシミュレーション装置によれば、排気浄化触媒の各部分における触媒温度は、始動開始直後からほぼ実測値と一致する。また、境界層での化学反応の進行に伴って発生する反応熱による触媒の昇温も十分に再現されていることが検証された。
【0055】
図17は、実施例のシミュレーション装置により算出されたCO、NMHC、NOの積算排出量の推定値と、実測値とを比較する図である。図17に示すように、実施例のシミュレーション装置によれば、積算排出量についてもCO、NMHC、NO全てにおいて高い精度で推定できることが検証された。なお、始動開始から約500秒経過後における積算排出量の推定値の誤差は、COでは2%、NMHCでは7%、NOでは9%であり、全てにおいて推定誤差10%以内であった。
【0056】
[モデルパラメータの決定及び入力データ取得のための試験]
以下、上記シミュレーション装置を構築するにあたって各種モデルパラメータを決定するために行った触媒単体試験と、構築したシミュレーション装置への入力データを取得するために行った実車によるモードエミッション試験と、について順に説明する。
先ず、これら2つの試験に用いた排気浄化触媒の仕様は、以下の通りである。なお、実際の試験には、所定の条件下でエージング処理を施したものを用いた。
・触媒組成:Pt−Pd−Rh−CeO2
・触媒セル密度:900cpi
・触媒サイズ(触媒単体試験用の試験片):φ30mm×L55mm
・触媒サイズ(モードエミッション試験用):φ105.7mm×L114.3mm
【0057】
(1)触媒単体試験
この触媒単体試験では、準備した排気浄化触媒における各種触媒反応の速度特性と、各化学種の吸着特性とを特定することを目的として、準備した上記触媒試験片と排気を模して構成された合成ガスとを用いて、以下に示す(1−1)反応速度特性試験と(1−2)成分吸着特性試験との2種類の試験を行った。
【0058】
(1−1)反応速度特性試験
この反応速度特性試験では、触媒試験片に流量一定の条件下で合成ガスを供給しながら、この合成ガスの温度を373[K]から773[K]まで、5[K/min]の割合で上昇させたときにおける、合成ガス中の各成分の転化率の変化を測定した。図18には、試験結果の一例として、COの転化率に相当する触媒試験片の上流側と下流側のCO濃度[ppm]の変化を示す。図18の下段において、破線は触媒試験片の上流側のCO濃度を示し、実線は触媒試験片の下流側のCO濃度を示す。
基づいて特定される。
【0059】
(1−2)成分吸着特性試験
この成分吸着特性試験では、内燃機関の混合気の空燃比がリーン側又はリッチ側に周期的に制御された場合を想定して、還元性ガスと酸化性ガスとを一定の周期で交互にステップ状に供給し、このときの触媒試験片の上流側と下流側のガス成分の濃度差を測定することにより、触媒表面への各化学種の吸着特性及び脱離特性を特定した。また、以上のような試験を、触媒試験片に供給するガスの温度を323K、473K、573K、673K、773Kに変えて行った。図19には、この試験結果の一例として、CO(上段)とO2(下段)を交互に供給した場合における触媒上流側濃度(破線)と触媒下流側濃度(実線)を示す。また、図20には、この試験結果の一例として、NOの吸着容量[mol/m3]の温度特性を示す。図20に示すように、NOの吸着容量は、温度によって変化する。また、この試験では、50℃以下においてもNOを吸着できる排気浄化触媒を用いた。
【0060】
(2)実車によるモードエミッション試験
このモードエミッション試験では、実車を用いることにより、シミュレーション装置への入力データを取得した。
より具体的には、上記試験用の排気浄化触媒を搭載した車両を準備し、この車両を米国認証モード(FTP75サイクル)の下で実際に運転し、このときに排気浄化触媒に供給される排気中の各ガス成分の流量パターンと触媒入り口の排気温度とを取得し、これをシミュレーション装置への入力データとした。また、このモードエミッション試験では、このようなシミュレーション装置への入力データを取得すると同時に、排気浄化触媒の各部分の温度(上述の図16参照)や、排気浄化触媒の下流側の各ガス成分の濃度(上述の図11〜15及び図17参照)などを取得し、これをシミュレーション装置の出力精度を検証するための比較データとする。
【符号の説明】
【0061】
1…シミュレーション装置
3…演算装置(演算手段)
31…物理演算モジュール
32…触媒反応演算モジュール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気を浄化する排気浄化触媒について、所定の入力データから前記排気浄化触媒の浄化性能を評価するための評価パラメータの値を算出する排気浄化触媒用のシミュレーション装置であって、
排気を構成するガス成分の輸送及び前記排気浄化触媒における熱の移動を模した物理モデル、並びに前記排気浄化触媒におけるガス成分に対して進行する触媒反応を模した触媒反応モデルに基づいて、前記評価パラメータの値を算出する演算手段を備え、
前記触媒反応モデルは、
特定のガス成分対で進行する化学反応を模した化学反応モデルと、
触媒表面への特定のガス成分の吸着反応を模した成分吸着モデルと、を含むことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
前記成分吸着モデルは、特定のガス成分の触媒表面への吸着速度を算出する演算式で構成されることを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記特定のガス成分の触媒表面への吸着速度Rgas_absは、下記演算式により算出されることを特徴とする請求項2に記載のシミュレーション装置。
【数1】
ただし、Cgas_boundaryは前記排気浄化触媒のうち触媒反応が進行しうる境界層における前記特定のガス成分の濃度とし、νgas_maxは前記特定のガス成分の最大吸着量とし、νgasは前記特定のガス成分の吸着量とし、Kgas_absは所定の定数とし、反応次数nは2とする。
【請求項4】
前記化学反応モデルは、3種以上のガス成分の混在下における特定のガス成分対で進行する化学反応を模した競争吸着モデルであることを特徴とする請求項3に記載のシミュレーション装置。
【請求項1】
内燃機関の排気を浄化する排気浄化触媒について、所定の入力データから前記排気浄化触媒の浄化性能を評価するための評価パラメータの値を算出する排気浄化触媒用のシミュレーション装置であって、
排気を構成するガス成分の輸送及び前記排気浄化触媒における熱の移動を模した物理モデル、並びに前記排気浄化触媒におけるガス成分に対して進行する触媒反応を模した触媒反応モデルに基づいて、前記評価パラメータの値を算出する演算手段を備え、
前記触媒反応モデルは、
特定のガス成分対で進行する化学反応を模した化学反応モデルと、
触媒表面への特定のガス成分の吸着反応を模した成分吸着モデルと、を含むことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
前記成分吸着モデルは、特定のガス成分の触媒表面への吸着速度を算出する演算式で構成されることを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記特定のガス成分の触媒表面への吸着速度Rgas_absは、下記演算式により算出されることを特徴とする請求項2に記載のシミュレーション装置。
【数1】
ただし、Cgas_boundaryは前記排気浄化触媒のうち触媒反応が進行しうる境界層における前記特定のガス成分の濃度とし、νgas_maxは前記特定のガス成分の最大吸着量とし、νgasは前記特定のガス成分の吸着量とし、Kgas_absは所定の定数とし、反応次数nは2とする。
【請求項4】
前記化学反応モデルは、3種以上のガス成分の混在下における特定のガス成分対で進行する化学反応を模した競争吸着モデルであることを特徴とする請求項3に記載のシミュレーション装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−168062(P2012−168062A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30242(P2011−30242)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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