説明

シャフトと自在継手のヨークとの結合部及びその製造方法

【課題】セレーション孔12と雄セレーション部14との係合部の軸方向他端部に於ける面圧を、シャフト9の先端寄り部分に加わる剪断応力の低減の面から抑える事ができ、更に、ヨーク8aの基部10aとシャフト9との溶接部の強度を確保し易い構造を実現する。
【解決手段】前記基部10aの軸方向他端部に、この基部10aの他の部分よりも肉厚t16が小さい、張り出し筒部16を設ける。これにより、前記基部10aの軸方向他端部の剛性を低くして、前記係合部の軸方向他端部に於ける面圧を、前記剪断応力低減の面から抑える。又、前記張り出し筒部16と前記シャフト9との肉厚差t16−t9を小さくすると共に、これら張り出し筒部16とシャフト9とを溶接する。これにより、これら両部位16、9同士の溶接部の溶け込み量をバランス良く確保し、この溶接部の強度を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象となるシャフトと自在継手のヨークとの結合部は、例えばステアリング装置に於いて、このステアリング装置を構成する各種シャフトの端部と自在継手のヨークとを結合する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
自動車のステアリング装置は、図10に示す様に構成している。運転者が操作するステアリングホイール1の動きは、ステアリングシャフト2、自在継手3、中間シャフト4、別の自在継手3を介して、ステアリングギヤユニット5の入力軸6に伝達される。そして、このステアリングギヤユニット5に内蔵したラック&ピニオン機構により左右1対のタイロッド7、7を押し引きし、左右1対の操舵輪に、上記ステアリングホイール1の操作量に応じて、適切な舵角を付与する様に構成している。
【0003】
この様なステアリング装置に組み込む前記各自在継手3、3として、一般的には、カルダン継手と呼ばれる十字軸継手が、広く使用されている。又、この様な十字軸継手を構成するヨークとシャフト(前記ステアリングシャフト2、前記中間シャフト4)との結合部の構造に就いては、例えば特許文献1〜2等に記載されている様に、従来から各種知られている。図11〜13は、この様なヨークとシャフトとの結合部の従来構造の1例を示している。図示の例の場合、十字軸継手を構成するヨーク8は、鋼板等の金属板ではなく、鋼製丸棒等の金属素材に鍛造加工、打ち抜き加工等を施す事により造られたもので、基部10と、1対の腕部11、11とを備える。このうちの基部10の径方向{図11、12、13の(a)(b)に於ける上下方向}中心部には、この基部10を軸方向{図11、12、13の(a)(b)に於ける左右方向}に貫通する状態で、結合孔であるセレーション孔12が形成されている。又、前記両腕部11、11は、前記基部10の径方向反対側となる2箇所位置から軸方向片側{図11、12、13の(a)(b)に於ける左側}に向け延出する状態で設けられている。これら両腕部11、11の先端部には、それぞれ互いに同心の円孔13、13が形成されている。前記十字軸継手を組み立てた状態で、これら両円孔13、13内には、それぞれ有底円筒状の軸受カップが内嵌固定される。これと共に、これら両軸受カップ内に、それぞれ複数本のニードルを介して、十字軸の端部が回動自在に支持される。又、図示の例の場合、前記基部10の肉厚は、前記両腕部11、11の肉厚よりも大きくなっている。更に、この基部10の軸方向他側面{図11、12、13の(a)(b)に於ける右側面}は、軸方向に対して直角な平面になっている。
【0004】
一方、前記ヨーク8に結合したシャフト9は、二次衝突時に全長を収縮可能とした、前記ステアリングシャフト2或いは前記中間シャフト4を構成する、互いにテレスコープ状に組み合わされた1対のシャフトのうちの一方のシャフトであり、鋼材等の金属製で、円管状に造られている。この様なシャフト9の先端部外周面には、雄セレーション部14が形成されている。そして、この様なシャフト9の先端部を、前記セレーション孔12の内側に、軸方向他側から圧入して、このセレーション孔12に前記雄セレーション部14を、締め代を持たせた状態で係合させている。更に、この状態で、前記基部10の軸方向他側面と、前記シャフト9の外周面との間の隅部に溶接を施す事により、これら基部10とシャフト9の先端寄り部分とを、溶接金属15を介して結合している。これにより、前記ヨーク8と前記シャフト9とを、回転力の伝達を可能に結合固定している。
【0005】
上述した様な従来構造の場合、前記基部10のうちで前記セレーション孔12の周囲部分の肉厚は、軸方向に関して変化していない為、この周囲部分の剛性も、軸方向に関して変化していない。この様な基部10のセレーション孔12に、上述の様にシャフト9の先端部を軸方向他側から圧入すると、これらセレーション孔12とシャフト9の先端部外周面に設けた雄セレーション部14との係合部(嵌合部)の面圧が、図11の下部に示す様に、この係合部の軸方向他端縁部分で集中的に高くなる。そして、この軸方向他端縁部分の面圧PEが集中的に高くなる結果、前記シャフト9の先端寄り部分で、前記面圧が作用している領域と作用していない領域との境界部分に加わる剪断応力が、相当に大きくなる。この為、この境界部分の耐久性を十分に確保する為の設計が必要になり、その分だけ、設計の自由度が低下する。
【0006】
又、上述した様な従来構造の場合には、互いに溶接する部分である、前記基部10と前記シャフト9の先端寄り部分とのうち、この基部10の肉厚t10が、このシャフト9の先端寄り部分の肉厚t9に比べて、大幅に大きく(t10≫t9)なっている。この為、前記基部10側で、前記シャフト9側に比べて、溶接部の溶け込み量を確保するのが難しい。即ち、前記基部10側では、前記シャフト9側に比べて、図12に矢印で示す様に、加えた熱が内部に分散し易く、集中した加熱を行いにくい為、溶接部の溶け込み量を確保するのが難しい。これに対し、この溶接部の強度を確保する為には、前記基部10側と前記シャフト9側との、双方の溶け込み量を確保する事が重要となる。但し、前記基部10側の溶け込み量を確保すべく、単純に溶接部の加熱量を増大させると、前記シャフト9側の加熱量が過大になって、このシャフト9側の機械的性質を悪化させる可能性がある。この為、上述した従来構造の場合には、前記溶接部の強度を確保する為の溶接条件を設定する事が難しいと言う問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−291679号公報
【特許文献2】特開2008−196650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、ヨークの基部に設けた結合孔にシャフトの先端部を軸方向他側から圧入した構造に関して、このシャフトの先端寄り部分に加わる剪断応力を十分に抑える事ができ、更に、このシャフトとして管状のものを使用すると共に、このシャフトと前記基部とを溶接する場合には、このシャフトの機械的性質を悪化させる事なく、溶接部の強度を確保する事が容易な構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシャフトと自在継手のヨークとの結合部及びその製造方法のうち、請求項1に記載したシャフトと自在継手のヨークとの結合部は、自在継手を構成するヨークと、シャフトとを備える。
このうちのヨークは、径方向中心部に軸方向に形成された結合孔を有する基部と、この基部の径方向反対側となる2箇所位置から軸方向片側に延出する状態で設けられた1対の腕部とを有する。
又、前記シャフトは、先端部を前記結合孔の軸方向他側からこの結合孔の内側に圧入している。
特に、本発明のシャフトと自在継手のヨークとの結合部に於いては、前記基部のうちで、前記結合孔の軸方向他端部の周囲部分に、この結合孔の残部の周囲部分に比べて径方向の肉厚が小さくなった張り出し筒部を設けている。
この様な本発明のシャフトと自在継手のヨークとの結合部を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記張り出し筒部を、軸方向他側に向かう程外径寸法が小さくなる事に基づいて径方向の肉厚が小さくなったものとする。
又、本発明のシャフトと自在継手のヨークとの結合部を実施する場合には、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記ヨークを、金属素材に鍛造加工を施す事により造る事ができる。
【0010】
又、本発明のシャフトと自在継手のヨークとの結合部を実施する場合に、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記張り出し筒部を、前記結合孔と前記基部の軸方向他側面の内周寄り部分に形成した円環状凹部とにより径方向両側から挟まれた部分に設ける。これと共に、前記基部の軸方向他側面のうちで、前記円環状凹部よりも外径側の部分を、軸方向に対して直角な平面とする。
或いは、請求項5に記載した発明の様に、前記張り出し筒部を、前記基部の軸方向他側面の内周部分から軸方向他側に突出する状態で設ける。これと共に、この基部の軸方向他側面のうちで、前記張り出し筒部よりも外径側の部分を、軸方向に対して直角な平面とする。
【0011】
又、本発明のシャフトと自在継手のヨークとの結合部を実施する場合には、例えば請求項6に記載した発明の様に、前記結合孔を、セレーション孔とする事ができる。
又、例えば請求項7に記載した発明の様に、前記シャフトを、金属材により管状に造る事もできる。
又、例えば請求項8に記載した発明の様に、前記張り出し筒部と前記シャフトとを溶接する事もできる。
【0012】
又、本発明のうち、請求項9に記載したシャフトと自在継手のヨークとの結合部の製造方法は、前記セレーション孔を形成する為、前記基部の径方向中心部に円孔を形成した後、この円孔の内周面に、軸方向他側から軸方向片側に向けてブローチ加工を施す。
【発明の効果】
【0013】
上述の様に構成する本発明のシャフトと自在継手のヨークとの結合部の場合には、ヨークの基部に設けた張り出し筒部の存在に基づいて、この基部のうち、結合孔の軸方向他端部の周囲部分の径方向に関する剛性が、この結合孔の残部の周囲部分の同方向の剛性に比べて低くなっている。この為、前記結合孔とシャフトの先端部との嵌合部の軸方向他端部に於ける面圧を抑えられる。この結果、前記シャフトの先端寄り部分で、この面圧が作用している領域と作用していない領域との境界部分に加わる剪断応力を抑えられる。
【0014】
又、請求項2に記載した発明の場合には、ヨークの基部に設けた張り出し筒部の存在に基づいて、この基部のうち、結合孔の軸方向他端部の周囲部分の径方向に関する剛性が、この結合孔の残部の周囲部分の同方向の剛性に比べて低くなっているだけでなく、軸方向他側に向かう程低くなっている。この為、前記結合孔とシャフトの先端部との嵌合部の軸方向他端部に於ける面圧を、より効果的に抑えられる。即ち、前記張り出し筒部を有しない構造の場合、前記嵌合部の軸方向他端部に於ける面圧は、前記図11の下部に示した様に、軸方向他端縁部分で、特に大きくなる。これに対して、請求項2に記載した発明の場合、前記結合孔の軸方向他端部の周囲部分の径方向に関する剛性は、この結合孔の残部の周囲部分の同方向の剛性に比べて低くなっているだけでなく、軸方向他側に向かう程低くなっている。この為、この様な剛性分布に基づいて、前記嵌合部の軸方向他端部に於ける面圧を抑えられる効果は、軸方向他側に向かう程大きくなる。従って、請求項2に記載した発明の場合には、嵌合部の軸方向他端部に於ける面圧を、より効果的に抑えられる。言い換えれば、この嵌合部の軸方向他端部に於ける面圧のうち、軸方向他端縁部分に於ける面圧を重点的に抑えられる。この結果、前記シャフトの先端寄り部分で、この面圧が作用している領域と作用していない領域との境界部分に加わる剪断応力を十分に抑えられる。又、請求項2に記載した発明の場合、前記張り出し筒部の径方向の肉厚は、軸方向他側に向かう程小さくなっている。この為、前記嵌合部の軸方向他端縁部分に於ける面圧を十分に抑えるべく、前記張り出し筒部の軸方向他端縁部分(先端部分)の径方向の肉厚を十分に小さくする場合でも、この張り出し筒部の軸方向片端縁部分(根元部分)の径方向の肉厚を十分に確保する事が容易となる。この結果、この根元部分の強度を十分に確保する事が容易となる。
【0015】
又、請求項4に記載した発明の場合には、ヨークの基部の軸方向他側面のうちで円環状凹部よりも外径側の部分を、請求項5に記載した発明の場合には、ヨークの基部の軸方向他側面のうちで張り出し筒部よりも外径側の部分を、それぞれ軸方向に対して直角な平面としている。この為、これら各外径側の部分を、内径側に向かう程軸方向他側に突出する方向に傾斜した凸曲面とする場合に比べて、前記各基部の軸方向寸法を短くできる。従って、その分だけ、前記各ヨークを小型に構成できる。
【0016】
又、請求項6に記載した発明の様に、結合孔をセレーション孔とする場合で、このセレーション孔を、請求項9に記載した製造方法により形成すれば、このセレーション孔の形成に伴い、基部のうちで比較的剛性の低い部分である張り出し筒部が、内径側に撓む。この結果、使用に伴う摩耗によって、前記セレーション孔のセレーション山高さが減少した場合でも、前記張り出し筒部に対応する部分(内径側に撓んだ部分)で、前記セレーション孔とシャフトの先端部外周面とを、がたつきなく噛み合い続けさせる事ができる。即ち、使用に伴って生じた前記セレーション孔の摩耗に拘らず、このセレーション孔と前記シャフトの先端部との嵌合部でがたつきが発生する事を抑制できる。
【0017】
又、請求項7に記載した発明の様に、前記シャフトを管状のものとする場合には、このシャフトと張り出し筒部との径方向の肉厚差を、小さくする事ができる。この為、この様な構造を対象として、請求項8に記載した発明の様に、前記シャフトと前記張り出し筒部とを溶接すれば、これらシャフトと張り出し筒部との双方の側で、溶接部の溶け込み量をバランス良く確保する事が容易となる。更には、これら両部位の溶接後の冷却速度を同程度にする事も容易となる。この為、前記シャフトの機械的性質を悪化させる事なく、前記溶接部の強度を確保する事が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、断面図及び嵌合部の面圧分布を示すグラフ。
【図2】図1の要部拡大図。
【図3】ヨークの斜視図。
【図4】ヨークを示す、(a)は図1と同位置で切断した断面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(b)の右方から見た図。
【図5】溶接部の溶け込み量を増やした状態で示す、図1と同様の図。
【図6】ヨークの基部にセレーション孔を形成している途中状態(a)及び形成後の状態(b)を示す半部断面図。
【図7】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
【図8】ヨークの斜視図。
【図9】ヨークを示す、図4と同様の図。
【図10】従来から知られているステアリング装置の1例を示す斜視図。
【図11】従来構造の1例を示す、図1と同様の図。
【図12】図11の要部拡大図。
【図13】ヨークを示す、図4と同様の図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態の第1例]
図1〜4は、請求項1、2、3、5〜9に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、主として、ヨーク8aを構成する基部10aの軸方向他端部の構造にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図11〜13に示した従来構造の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0020】
本例の場合には、前記基部10aのうちで、セレーション孔12の軸方向他端部の周囲部分に、このセレーション孔12の残部(軸方向中間部乃至片端部)の周囲部分に比べて径方向の肉厚が小さくなった張り出し筒部16を、鍛造加工により形成している。特に、本例の場合には、この張り出し筒部16の外周面を、軸方向他側に向かう程径寸法が小さくなる方向に傾斜した部分円すい状凸面とする事に基づいて、この張り出し筒部16の径方向の肉厚t16を、軸方向他側に向かう程小さくなる様にしている。従って、本例の場合、前記基部10aの径方向に関する剛性は、前記セレーション孔12の軸方向他端部の周囲部分(前記張り出し筒部16に対応する部分)で、このセレーション孔12の残部の周囲部分に比べて低くなっている。更に、前記基部10aのうち、このセレーション孔12の軸方向他端部の周囲部分の剛性は、軸方向他側に向かう程低くなっている。
【0021】
又、本例の場合には、前記張り出し筒部16の径方向の肉厚t16を、前記基部10aの残部の径方向の肉厚t10aの、1/3〜1/2程度{t16≒(1/3〜1/2)t10a}としている。これにより、前記張り出し筒部16の径方向の肉厚t16を、シャフト9の先端寄り部分の径方向の肉厚t9に近づける事で、これら両肉厚の差t16−t9が、十分に小さくなる様にしている。又、本例の場合、前記基部10aの軸方向他側面のうちで、前記張り出し筒部16よりも外径側の部分を、軸方向に対して直角な平面17としている。
又、本例の場合、前記張り出し筒部16の外周面とシャフト9の先端寄り部分の外周面との間に溶接金属15を掛け渡す状態で、これら張り出し筒部16とシャフト9とを溶接している。
【0022】
上述の様に構成する本例のシャフトと自在継手のヨークとの結合部の場合には、前記ヨーク8aの基部10aに設けた張り出し筒部16の存在に基づいて、この基部10aのうち、前記セレーション孔12の軸方向他端部の周囲部分の径方向に関する剛性が、このセレーション孔12の残部の周囲部分の同方向の剛性に比べて低くなっているだけでなく、軸方向他側に向かう程低くなっている。この為、図1の下部に示す様に、前記セレーション孔12と前記雄セレーション部14との係合部の軸方向他端部に於ける面圧を、効果的に抑えられる。即ち、前記張り出し筒部16を有しない構造の場合、前記係合部の軸方向他端部に於ける面圧は、前記図11の下部に示した様に、軸方向他端縁部分で、特に大きくなる。これに対して、本例の場合、前記セレーション孔12の軸方向他端部の周囲部分の径方向に関する剛性は、このセレーション孔12の残部の周囲部分の同方向の剛性に比べて低くなっているだけでなく、軸方向他側に向かう程低くなっている。この為、この様な剛性分布に基づいて、前記係合部の軸方向他端部に於ける面圧を抑えられる効果は、軸方向他側に向かう程大きくなる。従って、本例の場合には、前記係合部の軸方向他端部に於ける面圧を、効果的に抑えられる。言い換えれば、この係合部の軸方向他端部に於ける面圧のうち、軸方向他端縁部分に於ける面圧PEを重点的に抑えられる。この結果、前記シャフト9の先端寄り部分で、この面圧が作用している領域と作用していない領域との境界部分に加わる剪断応力を十分に抑えられる。又、本例の場合、前記張り出し筒部16の径方向の肉厚は、軸方向他側に向かう程小さくなっている。この為、前記係合部の軸方向他端縁部分に於ける面圧PEを十分に抑えるべく、前記張り出し筒部16の軸方向他端縁部分(先端部分)の径方向の肉厚を十分に小さくする場合でも、この張り出し筒部16の軸方向片端縁部分(根元部分)の径方向の肉厚を十分に確保する事が容易となる。この結果、この根元部分の強度を十分に確保する事が容易となる。
尚、本例を実施する場合、前記基部10aの中心軸に対する前記張り出し筒部16の外周面の傾斜角度θ(図1)は、10〜80度程度の任意の角度で良く、45度程度(例えば40〜50度)が望ましい。
【0023】
又、本例の場合には、前記基部10aの軸方向他側面のうちで、前記張り出し筒部16よりも外径側の部分を、軸方向に対して直角な平面17としている。この為、当該外径側の部分を、内径側に向かう程軸方向他側に突出する方向に傾斜した凸曲面とする場合に比べて、前記基部10aの軸方向寸法を短くできる。従って、その分だけ、前記ヨーク8aを小型に構成できる。
【0024】
又、本例の場合には、前記張り出し筒部16と前記シャフト9の先端寄り部分との径方向の肉厚差t16−t9を十分に小さくする(シャフト9の先端寄り部分の肉厚に比べて、張り出し筒部16の肉厚が大きい程度を少なくする)と共に、これら張り出し筒部16の外周面とシャフト9の先端寄り部分の外周面との間に溶接金属15を掛け渡す状態で、これら張り出し筒部16とシャフト9とを溶接している。この為、前記面圧PEを抑えられるだけでなく、これらシャフト9と張り出し筒部16との双方の側で、溶接部の溶け込み量をバランス良く確保する事が容易となる。即ち、本例の場合には、図2に矢印で示す様に、前記張り出し筒部16を集中的に加熱する事ができる為、この張り出し筒部16の外周面及び先端面の溶け込み量を、前記シャフト9の先端寄り部外周面の溶け込み量と同程度に多くする事が容易となる。更には、これら両部位の溶接後の冷却速度を同程度にする事も容易となる。この為、前記シャフト9の機械的性質を悪化させる事なく、このシャフト9と前記張り出し筒部16との溶接部の強度を確保する事が容易となる。
【0025】
尚、上述した第1例の構造を実施する場合で、図5の上部に示す様に、張り出し筒部18の外周面とシャフト9の先端寄り部外周面との溶接部の溶け込み量を、前記図1の上部に示した場合よりも多くする溶接条件を設定すれば、溶け込み量が増えた分だけ、張り出し筒部16の径方向の肉厚をより小さくする事ができる。この結果、図5の下部に示す様に、前記セレーション孔12と前記雄セレーション部14との係合部の軸方向他端縁部分に於ける面圧PEをより低く抑え、前記シャフト9の先端寄り部分に作用する剪断応力をより十分に抑えられる。
【0026】
又、本発明を実施する場合には、上述した第1例の構造で、前記溶接を省略する事もできる。この場合に、好ましくは、前記セレーション孔12を、次の様に形成する。先ず、前記基部10aの径方向中心部に円孔を形成する。その後、図6の(a)に示す様に、この円孔内にセレーション形成用の工具であるブローチ18を、軸方向他側から押し込む。これにより、この円孔の内周面に、軸方向他側から軸方向片側に向けてブローチ加工を施す事で、前記セレーション孔12を形成する。この様にしてセレーション孔12を形成すると、図6の(b)に誇張して示す様に、前記基部10aのうちで比較的剛性の低い部分である、前記張り出し筒部16が、内径側に撓んだ状態となる。この結果、使用に伴う摩耗によって、前記セレーション孔12及び前記雄セレーション部14のセレーション山高さが減少した場合でも、前記張り出し筒部16に対応する部分(内径側に撓んだ部分)で、前記セレーション孔12と前記雄セレーション部14とを、がたつきなく噛み合い続けさせる事ができる。即ち、使用に伴って生じた前記セレーション孔12と前記雄セレーション部14との摩耗に拘らず、これらセレーション孔12と雄セレーション部14との係合部でがたつきが発生する事を抑制できる。
尚、上述の図6に示した様なセレーション孔12の形成方法は、前記溶接を省略しない構造で実施する事もできる。
【0027】
[実施の形態の第2例]
図7〜9は、請求項1〜4、6〜9に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合も、ヨーク8bを構成する基部10bの軸方向他端部の内周部分に、上述した第1例の場合と同様の張り出し筒部16を設けている。但し、本例の場合には、この張り出し筒部16の加工方法が、上述した第1例の場合と異なる。即ち、本例の場合には、先ず、鍛造加工により、前記基部10bの軸方向他側面の全体を、軸方向に対して直角な平面17とする。その後、旋削加工により、この平面17の内周寄り部分に円環状凹部19を形成する事で、この円環状凹部19とセレーション孔12とにより径方向両側から挟まれた部分を、前記張り出し筒部16とする。
【0028】
この様な本例の場合には、前記張り出し筒部16の加工方法を、鍛造から旋削に変更した事に伴い、この張り出し筒部16を設計通りの所望形状に造る事が容易となる。又、本例の場合には、前記張り出し筒部16を形成した後の、前記基部10bの軸方向他側面のうちで、前記円環状凹部19よりも外径側の部分(つまり、前記張り出し筒部16を形成する前の、前記基部10bの軸方向他側面)を、軸方向に対して直角な平面17としている。この為、当該外径側の部分を、内径側に向かう程軸方向他側に突出する方向に傾斜した凸曲面とする場合に比べて、前記基部10bの軸方向寸法を短くできる。従って、その分だけ、前記ヨーク8bを小型に構成できる。その他の部分の構造及び作用は、上述した第1例の場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
上述した各実施の形態では、結合孔をセレーション孔とし、シャフトの先端部外周面を雄セレーション部として、これらセレーション孔と雄セレーション部とを締め代を持たせて係合させる構造を採用した。但し、本発明を実施する場合には、結合孔の内周面とシャフトの先端部外周面とをそれぞれ円筒面とし、これら両円筒面同士を締り嵌めで嵌合させる構成や、結合孔の内周面とシャフトの先端部外周面とのうちの一方の周面を円筒面とし、他方の周面にセレーションを形成して、この円筒面にこのセレーションを圧入に基づいて食い込ませる構成を採用する事もできる。
又、本発明を実施する場合、ヨークに結合するシャフトは、円管状等に構成した中空シャフトに限らず、円柱状等に構成した中実シャフトであっても良い。
又、本発明を実施する場合、ヨークとシャフトとを溶接する事は、必須の要件ではない。これらヨークとシャフトとの分離防止は、これらヨークの結合孔とシャフトの先端部との嵌合部に作用する摩擦力のみによって図る事もできるし、或いは、この摩擦力に加えて、前記シャフトの先端部に形成したかしめ部と前記結合孔の開口周縁部との係合によって図る事もできる。
又、本発明を実施する場合、ヨークは、鋼製丸棒等の金属素材に鍛造加工、打ち抜き加工等を施す事により造られたものに限らず、鋼板等の金属板に曲げ加工、打ち抜き加工等を施す事により造られたものとする事もできる。
又、本発明を実施する場合には、前述の図1〜4に示した実施の形態の第1例の張り出し筒部16を旋削により加工する事もできるし、上述の図7〜9に示した実施の形態の第2例の張り出し筒部16を鍛造により加工する事もできる。
【符号の説明】
【0030】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 自在継手
4 中間シャフト
5 ステアリングギヤユニット
6 入力軸
7 タイロッド
8、8a、8b ヨーク
9 シャフト
10、10a、10b 基部
11 腕部
12 セレーション孔
13 円孔
14 雄セレーション部
15 溶接金属
16 張り出し筒部
17 平面
18 ブローチ
19 円環状凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自在継手を構成するヨークと、シャフトとを備え、
このうちのヨークは、径方向中心部に軸方向に形成された結合孔を有する基部と、この基部の径方向反対側となる2箇所位置から軸方向片側に延出する状態で設けられた1対の腕部とを有するものであり、
前記シャフトは、先端部を前記結合孔の軸方向他側からこの結合孔の内側に圧入している
シャフトと自在継手のヨークとの結合部に於いて、
前記基部のうちで、前記結合孔の軸方向他端部の周囲部分に、この結合孔の残部の周囲部分に比べて径方向の肉厚が小さくなった張り出し筒部を設けている事を特徴とするシャフトと自在継手のヨークとの結合部。
【請求項2】
前記張り出し筒部を、軸方向他側に向かう程外径寸法が小さくなる事に基づいて径方向の肉厚が小さくなったものとしている、請求項1に記載したシャフトと自在継手のヨークとの結合部。
【請求項3】
前記ヨークは、金属素材に鍛造加工を施す事により造られたものである、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したシャフトと自在継手のヨークとの結合部。
【請求項4】
前記張り出し筒部は、前記結合孔と前記基部の軸方向他側面の内周寄り部分に形成した円環状凹部とにより径方向両側から挟まれた部分に設けられており、前記基部の軸方向他側面のうちで前記円環状凹部よりも外径側の部分は、軸方向に対して直角な平面になっている、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したシャフトと自在継手のヨークとの結合部。
【請求項5】
前記張り出し筒部は、前記基部の軸方向他側面の内周部分から軸方向他側に突出する状態で設けられており、この基部の軸方向他側面のうちで前記張り出し筒部よりも外径側の部分は、軸方向に対して直角な平面になっている、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したシャフトと自在継手のヨークとの結合部。
【請求項6】
前記基部の径方向中心部に形成された結合孔がセレーション孔である、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載したシャフトと自在継手のヨークとの結合部。
【請求項7】
前記シャフトは、金属材により管状に造られたものである、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載したシャフトと自在継手のヨークとの結合部。
【請求項8】
前記張り出し筒部と前記シャフトとを溶接している、請求項7に記載したシャフトと自在継手のヨークとの結合部。
【請求項9】
請求項6に記載したシャフトと自在継手のヨークとの結合部を構成する、前記セレーション孔を形成する為、前記基部の径方向中心部に円孔を形成した後、この円孔の内周面に、軸方向他側から軸方向片側に向けてブローチ加工を施す、シャフトと自在継手のヨークとの結合部の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−24369(P2013−24369A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161841(P2011−161841)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】