説明

シャフトの保持構造

【課題】車体下部のシャフトが折損しても脱落を防止するとともに、車両を重量化せず、シャフトの低位置化およびフロアの低床化を図るシャフトの保持構造を提供すること。
【解決手段】回転可能な第1および第2のシャフト12,15と、外側部材21および内側部材23を有するジョイント14と、を備えてなるシャフト10を折損時に保持するシャフトの保持構造31において、外側部材21に固定されるとともに第1のシャフト12を囲むフランジ部24cを有する係止部材24と、内側部材23とフランジ部24cとの間に位置する第1のシャフト12に固定されるとともにフランジ部24cの内径よりも大きな外径を有するストッパ部材25と、ストッパ部材25および内側部材23の間に位置する第1のシャフト12に形成されるとともに第1のシャフト12および第2のシャフト15で最も径の小さい縮径部12eと、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるシャフトの保持構造に関し、特に、プロペラシャフトやドライブシャフトの折損時に、折れたシャフトを保持するシャフトの保持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車などの車両においては、車体下部にプロペラシャフトやドライブシャフトなどの大きな駆動力を伝達するためのシャフトが設けられている。これらのシャフトは十分な強度を確保して設計されてはいるが、不測の事態、例えば何らかの理由で極めて過大なトルクがシャフトに作用したり極度に大きな曲げ力などが加わることでシャフトが折損した場合を想定して、折れたシャフトが他の部品に干渉したり路面に脱落したりしないようにするシャフトの保持構造を設ける場合がある。
【0003】
従来、この種のシャフトの保持構造として、プロペラシャフトの下方にガードを設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この従来のシャフトの保持構造は、例えば、プロペラシャフトの下方から設けられた断面U字形状のガードや、あるいはプロペラシャフトの周囲を囲むように設けられたリング状のガードを車両のフレームに固定して構成されている。
【0004】
このような構成を有することにより、特許文献1に記載のシャフトの保持構造は、プロペラシャフトが折損したときに該プロペラシャフトを下方からガードにより支持するので、プロペラシャフトが脱落することを防止するようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭49−148624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来のシャフトの保持構造にあっては、プロペラシャフトの下方にガードが設けられているため、車体下部に該ガードを設けるための取付スペースを確保する必要があるとともに、ガードが地面と干渉することを防ぐためにガードの下方で最低地上高を確保しなければならず、ガードの分だけプロペラシャフトの配置高さが高くなってしまいフロアの低床化の妨げになってしまうという問題があった。
【0007】
このような問題を解決するために、このようなガードを設けずに、シャフトの強度を更に強くしてシャフトが折損する可能性を低減することも考えられた。しかし、その場合、シャフト径を通常より太くしなければならずシャフト重量が必要以上に重くなってしまうため、重量増加を抑え、かつ万一のシャフトの折損に備えた何らかのシャフトの保持構造を設けることが望まれていた。
【0008】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、車体の下部に設けられた駆動力を伝達するシャフトが折損しても脱落することを防止できるとともに、車両を重量化することなく、シャフトの低位置化およびフロアの低床化を図ることができるシャフトの保持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るシャフトの保持構造は、上記目的達成のため、(1)回転可能な第1のシャフトと、回転可能な第2のシャフトと、前記第1のシャフトおよび第2のシャフトの間に介在されるとともに、前記第2のシャフトに固定されて一体回転する外側部材と、前記第1のシャフトに固定されて一体回転するとともに前記外側部材とも一体回転する内側部材と、を有するジョイントと、を備えて一体回転するシャフトを折損時に保持するためのシャフトの保持構造において、前記外側部材に固定されるとともに、前記第1のシャフトの周囲を囲むフランジ部を有する係止部材と、前記内側部材と前記係止部材の前記フランジ部との間に位置する前記第1のシャフトに固定されるとともに、前記フランジ部の最小内径よりも大きな外径を有するストッパ部材と、前記ストッパ部材および前記内側部材の間に位置する前記第1のシャフトに形成されるとともに前記第1のシャフトおよび第2のシャフトで最も径の小さい縮径部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この構成により、シャフトの通常の回転時には、第1のシャフトの回転が内側部材から外側部材を経て第2のシャフトに伝達される。これにより、第1のシャフトおよび第2のシャフトがジョイントを介して一体回転される。そして、何らかの理由で極めて過大な外力がシャフトに作用した場合は、シャフトの他の部位より細くて強度が弱い縮径部が折損する。この縮径部はストッパ部材および内側部材の間に位置する第1のシャフトに形成されているので、第1のシャフトが内側部材から離脱されることでジョイントから抜け落ちそうになる。このとき、第1のシャフトのストッパ部材が外側部材に固定された係止部材のフランジ部に引っ掛かり、第1のシャフトがジョイントから抜け落ちることが防止される。
また、このようにシャフトの折損時であっても第1のシャフトがジョイントから抜け落ちることが防止されるので、従来のようにシャフトの折損防止のためにシャフトの強度を大きくする必要がなく、シャフト重量の増加は回避される。さらに、従来のようにシャフトの下方にガードを設ける必要がないので、ガードを設ける場合に比べてシャフトの取付位置が低位置化されるとともに、フロアの低床化が実現される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車体の下部に設けられた駆動力を伝達するシャフトが万一折損しても脱落することを防止できるとともに、車両を重量化することなく、シャフトの低位置化およびフロアの低床化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係るプロペラシャフトの側面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るジョイントを示す図であり、(a)は中央縦断面側面図、(b)は(a)中、ダストカバーを省略したII−II線で切断した断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るジョイントの分解斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るプロペラシャフトの組立手順を示す側面図であり、(a)は組立前の状態、(b)はフロントプロペラシャフトに内側部材を組み付けた状態、(c)はフロントプロペラシャフトとリヤプロペラシャフトを連結した状態をそれぞれ示す。
【図5】本発明の実施の形態に係るプロペラシャフトを示す側面図であり、(a)はプロペラシャフトが伸張した状態、(b)はプロペラシャフトが折損した状態をそれぞれ示す。
【図6】本発明の実施の形態に係るフロントプロペラシャフトの後部を示す拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。本実施形態では、本発明のシャフトの保持構造を自動車のプロペラシャフト10に適用した例を示している。
【0014】
まず、プロペラシャフト10の構成について説明する。
プロペラシャフト10は、車両の下部に設けられている。この車両は、大型自動車、普通自動車などからなり、例えば、後輪駆動で横置きの4気筒ガソリンエンジンを搭載した普通自動車で構成されている。
【0015】
図1に示すように、プロペラシャフト10は、フロント側ジョイント11と、フロント側ジョイント11に連結された第1のシャフトとしてのフロントプロペラシャフト12と、フロントプロペラシャフト12を回転自在に弾性的に支持するセンターベアリング13と、フロントプロペラシャフト12に連結されたジョイント14と、ジョイント14に連結された第2のシャフトとしてのリヤプロペラシャフト15と、リヤプロペラシャフト15に連結されたリヤ側ジョイント16とを含んで構成されている。
【0016】
プロペラシャフト10は、トランスファとリヤディファレンシャル機構とを連結していて、トランスファの回転をリヤディファレンシャル機構に等速回転で伝達する。そして、フロント側ジョイント11はフロントプロペラシャフト12とトランスファとを連結するとともに、リヤ側ジョイント16はリヤプロペラシャフト15とリヤディファレンシャル機構とを連結している。このようなプロペラシャフト10の全体構成自体は、従来のプロペラシャフトとほぼ同様であるので、ここではジョイント14について詳述する。
【0017】
図2ないし図4に示すように、ジョイント14はトリポード型等速ジョイントであり、リヤプロペラシャフト15に固定される外側部材21と、3つのローラ22を備えてフロントプロペラシャフト12に固定される内側部材23と、外側部材21に固定される係止部材24と、フロントプロペラシャフト12に固定されるストッパ部材25と、フロントプロペラシャフト12および外側部材21に固定されるダストカバー26とを含んで構成されている。
【0018】
外側部材21は、リヤプロペラシャフト15の前端部に形成されている。外側部材21は有底の筒状であって、カップ部21aと、内周側に形成されたローラガイド部21bおよび突条部21cと、内周側の前端部に形成された係止部材取付溝21dと、外周側の前端部に形成されたダストカバー係合溝21eとを備えている。
【0019】
カップ部21aは、開口端部21fを有している。また、このカップ部21aの軸心とリヤプロペラシャフト15の軸心とが一致するように形成されている。
【0020】
ローラガイド部21bは3カ所に形成され、カップ部21aの内周側に周方向等間隔(ここでは120度間隔)で軸線方向に延在するように設けられている。ローラガイド部21bにはローラ22が摺動および回動可能に嵌合され、それぞれ外側部材21の軸線と平行な方向に回動可能に案内される。
【0021】
また、突条部21cは3つのローラガイド部21bの間の3カ所に設けられ、外側部材21の内周側から半径方向の内方に向かって突出するとともに、ローラガイド部21bに沿って形成されている。この突条部21cは、ローラ22をそれぞれローラガイド部21bに沿って確実に摺動するよう支持している。
【0022】
ダストカバー係合溝21eは外側部材21の外周側の開口端部21fの近傍に形成されている。このダストカバー係合溝21eには、ダストカバー26の大外径部26aの係合部26bが係合するようになっている。
【0023】
内側部材23は、ローラ22と、該ローラ22を保持してフロントプロペラシャフト12に固定されるスパイダ27と、スパイダ27を固定するスナップリング28とを含んで構成されている。内側部材23は、フロントプロペラシャフト12に固定されるとともに、外側部材21に挿入されている。さらに、内側部材23は、外側部材21の軸線方向に移動可能であるとともに、所定の角度範囲内で揺動可能であるようにして、外側部材21と連結している。これにより、外側部材21の軸心に対して内側部材23およびフロントプロペラシャフト12の軸心が相対的に傾斜しても、フロントプロペラシャフト12および内側部材23の回転が等速度で外側部材21に伝達されるようになっている。
【0024】
スパイダ27は、円環状のスパイダ本体27aと、3本のローラ支持軸27bとにより構成されている。スパイダ本体27aは、球面状の外周部27cと、軸線方向に貫通して形成されたスプライン内歯27dとを備えている。ローラ支持軸27bは円柱形状で、外周部27cから半径方向外側に突出して周方向等間隔(ここでは120度間隔)でスパイダ本体27aと一体に形成されている。これらのローラ支持軸27bは、それぞれローラ22を回転可能に支持している。
【0025】
各ローラ22は、ローラ支持軸27bに支持されたニードルベアリング29に取り付けられて、ローラ支持軸27bの回りを滑らかに回転するように設けられている。また、各ローラ22は、ローラ支持軸27bに対してローラスナップリング30により固定されて脱落しないようになっている。
【0026】
フロントプロペラシャフト12は、後端部に形成されたスプライン外歯12aと、その僅かに前側に形成されたストッパ部材係合溝12bと、該ストッパ部材係合溝12bよりも前側に形成されたダストカバー係合溝12cと、スプライン外歯12aの後側に隣接して形成されたスナップリング係合溝12dと、スプライン外歯12aの前側に隣接して形成された縮径部12eとを有している。そして、スプライン外歯12aがスパイダ27のスプライン内歯27dと嵌合し、フロントプロペラシャフト12がスパイダ27に連結されるようになっている。スナップリング係合溝12dには、スナップリング28が装着され、フロントプロペラシャフト12がスパイダ27から抜け出ないよう阻止されるとともに、フロントプロペラシャフト12に対してスパイダ27が位置決めされるようになっている。また、ダストカバー係合溝12cには、ダストカバー26の小外径部26cの係合部26dが係合するようになっている。
【0027】
縮径部12eは、図6に拡大して示すように、フロントプロペラシャフト12のスプライン外歯12aの前側に隣接して形成されたプロペラシャフト10で最も径の小さい短い軸形状の部位からなる。この縮径部12eの剛性はプロペラシャフト10として十分な大きさは確保してあるものの、プロペラシャフト10の中では最も小さい。すなわち、縮径部12eの直径D1は、例えばフロントプロペラシャフト12の後部の軸径D2やストッパ部材係合溝12bの溝径D3よりも小さい。このため、このプロペラシャフト10に極端に過度の外力が作用した場合は、縮径部12eが破断するようになっている。
【0028】
係止部材24は、平坦な円環部24aと、該円環部24aの一部に形成された切欠部24bと、円環部24aから半径方向中心側に向けて突出するとともに周方向等間隔(ここでは120度間隔)に設けられた3個のフランジ部24cとを備えている。円環部24aは、外側部材21の係止部材取付溝21dに嵌合されている。各フランジ部24cはフロントプロペラシャフト12の周囲を囲むとともに、その各先端はフロントプロペラシャフト12に接触することなく直近に設けられ、なおかつこれら先端部の形成する最小径はストッパ部材25の外径より小さくなるようにしている(図2(b)を参照)。すなわち、ストッパ部材25はフランジ部24cの間を抜けて前方に飛び出すことはできない。また、フランジ部24cは、外側部材21に対して前方に突出する段形状とされている。
【0029】
さらに、図2(b)に示すように、係止部材24は、前側から見てフランジ部24cがカップ部21aの突条部21cの位置に合致するように装着されている。これにより、フランジ部24c同士の間の空間にローラガイド部21bが位置するので、ローラ22がフランジ部24cに干渉することが防止される(図5(a)を参照)。
【0030】
ストッパ部材25は、図3に示すように、円環状の本体25aと、その一部を切り欠いた合い口部25bとを有している。この合い口部25bを拡げ、フロントプロペラシャフト12のストッパ部材係合溝12bに装着される。すなわち、ストッパ部材25は、フロントプロペラシャフト12に固定されたスパイダ27と係止部材24のフランジ部24cとの間に固定されている。上述したように、このストッパ部材25は、フランジ部24cの最小内径よりも大きな外径を有するようになっている。
【0031】
ここで、本発明に係るシャフトの保持構造は、上述した係止部材24と、ストッパ部材25と、フロントプロペラシャフト12の縮径部12eとを備えたものとしている。このシャフトの保持構造31により、極めて過大な外力がプロペラシャフト10に作用して縮径部12eが折損した場合、ストッパ部材25が係止部材24のフランジ部24cに引っ掛かり、フロントプロペラシャフト12がジョイント14から抜け落ちることが防止される。
【0032】
ダストカバー26は、図2および図3に示すように、例えば、ゴムなどの弾性材料からなり、伸縮自在に形成されており、大外径部26aの内周面に形成された凸形状の係合部26bと、小外径部26cの内周面に形成された凸形状の係合部26dとを備えている。大外径部26aの係合部26bは外側部材21のダストカバー係合溝21eに係合するとともに、小外径部26cの係合部26dはフロントプロペラシャフト12のダストカバー係合溝12cに係合するようになっている。なお、図2(a)に示すように、ダストカバー26の各係合部26b,26dは、外周側から固定バンド34,35により締め付けられている。また、ダストカバー26の内部には、外側部材21および内側部材23を潤滑するグリスなどの潤滑油が封入されている。
【0033】
スナップリング28は、図3に示すように、円環状の本体28aと、その一部を切り欠いた合い口部28bとを有している。この合い口部28bを拡げてフロントプロペラシャフト12のスナップリング係合溝12dに装着し、前述のようにスパイダ27が、フロントプロペラシャフト12から抜け出るのを阻止するよう位置決めしている。
【0034】
次いで、プロペラシャフト10のジョイント14を組み立てる手順について説明する。
【0035】
最初にフロントプロペラシャフト12のダストカバー係合溝12cに、ダストカバー26の小外径部26cの係合部26dを装着する。なお、以下、図4および図5では、ダストカバー26の表示を省略している。図4(a)に示すように、フロントプロペラシャフト12の後端部からストッパ部材25を嵌合してストッパ部材係合溝12bに装着する。一方、スパイダ27の各ローラ支持軸27bにニードルベアリング29およびローラ22を取り付けて、内側部材23を形成する。そして、この内側部材23をフロントプロペラシャフト12の後端部から嵌合し、フロントプロペラシャフト12のスプライン外歯12aにスパイダ27のスプライン内歯27dを噛み合わせて圧入する。
【0036】
そして、図4(b)に示すように、フロントプロペラシャフト12の後端部からスナップリング28を嵌め合わせて、スナップリング係合溝12dに装着する。これにより、フロントプロペラシャフト12に対して内側部材23が軸方向にずれることなく完全に固定される。
【0037】
図4(c)に示すように、この内側部材23を装着したフロントプロペラシャフト12の後端部を外側部材21のカップ部21aに挿入する。挿入する際は各ローラ22をローラガイド部21bに案内させる。挿入後、ローラ22がローラガイド部21bに摺動可能に支持されることにより、内側部材23は外側部材21の軸線方向に移動可能になるとともに、所定の角度範囲内で揺動可能になって外側部材21と連結する。そして、外側部材21およびリヤプロペラシャフト15の軸心に対して内側部材23およびフロントプロペラシャフト12の軸心が相対的に傾斜しても、フロントプロペラシャフト12および内側部材23の回転が等速度で外側部材21およびリヤプロペラシャフト15に伝達されるようになっている。
【0038】
その後、係止部材24の切欠部24bを押し拡げてフロントプロペラシャフト12に側方から嵌め合わせる。そして、係止部材24の切欠部24bを押し縮めて円環部24aを縮径し、外側部材21のカップ部21aの内周側に挿入し、外側部材21の係止部材取付溝21dに嵌め合わせて装着する。それから、ダストカバー26の大外径部26aの係合部26bを外側部材21のダストカバー係合溝21eに係合する。
【0039】
次いで、プロペラシャフト10のジョイント14およびシャフトの保持構造31の作用について説明する。
【0040】
プロペラシャフト10の回転時には、フロントプロペラシャフト12の駆動力が内側部材23であるスパイダ27およびローラ22を経て、外側部材21のローラガイド部21bからリヤプロペラシャフト15に伝達される。これにより、フロントプロペラシャフト12とリヤプロペラシャフト15とが一体回転される。このとき、フロントプロペラシャフト12とリヤプロペラシャフト15との間に伸縮方向あるいは曲折方向への力が作用すると、ローラ22がローラガイド部21bに案内されて適宜摺動し、フロントプロペラシャフト12とリヤプロペラシャフト15とが相対的に伸縮あるいは曲折する。
【0041】
ここで、図5(a)に示すように、フロントプロペラシャフト12とリヤプロペラシャフト15とが離隔する方向に外力が作用したときは、ローラ22はローラガイド部21bに案内されて外側部材21の開口端部21fの付近にまで移動する。このとき、ストッパ部材25が外側部材21の開口端部21fまで達するが、係止部材24のフランジ部24cが前方に突出する段形状とされているので、ストッパ部材25がフランジ部24cに干渉することは防止される。
【0042】
また、図2(b)に示すように、係止部材24のフランジ部24cはカップ部21aの突条部21cの位置に合致するように装着されており、フランジ部24c同士の間の空間にローラガイド部21bが位置するので、ローラ22が開口端部21f付近まで摺動してきてもフランジ部24cと干渉することが防止される(図5(a))。
【0043】
さらに、何らかの理由で極めて過大な外力がプロペラシャフト10に作用した場合、プロペラシャフト10の他の部位より細くて強度が弱い縮径部12eが折損する。図5(b)に示すように、縮径部12eはストッパ部材25および内側部材23の間に形成されているので、フロントプロペラシャフト12が内側部材23から離脱されることでジョイント14から脱落しそうになる。このとき、フロントプロペラシャフト12のストッパ部材25が外側部材21に固定された係止部材24のフランジ部24cに引っ掛かり、フロントプロペラシャフト12がジョイント14から脱落することが防止される。
【0044】
このように、本実施の形態に係るシャフトの保持構造31は、以上のように構成されているので、以下の効果が得られる。
【0045】
すなわち、本実施の形態に係るシャフトの保持構造31は、回転可能なフロントプロペラシャフト12と、回転可能なリヤプロペラシャフト15と、フロントプロペラシャフト12およびリヤプロペラシャフト15の間に介在されるとともに、リヤプロペラシャフト15に固定されて一体回転する外側部材21と、フロントプロペラシャフト12に固定されて一体回転するとともに外側部材21とも一体回転する内側部材23と、を有するジョイント14と、を備えて一体回転するプロペラシャフト10を折損時に保持するためのシャフトの保持構造31において、外側部材21に固定されるとともに、フロントプロペラシャフト12の周囲を囲むフランジ部24cを有する係止部材24と、内側部材23と係止部材24のフランジ部24cとの間に位置するフロントプロペラシャフト12に固定されるとともに、フランジ部24cの最小内径よりも大きな外径を有するストッパ部材25と、ストッパ部材25および内側部材23の間に位置するフロントプロペラシャフト12に形成されるとともにフロントプロペラシャフト12およびリヤプロペラシャフト15で最も径の小さい縮径部12eと、を備えることを特徴とする。
【0046】
その結果、従来のようにプロペラシャフト10の下方にガードを設ける必要がないので、ガードを設ける場合に比べてプロペラシャフト10の取付位置が低位置化されるとともに、フロアの低床化が実現されるという効果がある。
【0047】
また、何らかの理由で極めて過大な外力がプロペラシャフト10に作用したときは、他の部位より細くて強度が弱い縮径部12eが折損してフロントプロペラシャフト12がジョイント14から脱落しようとするが、このとき、フロントプロペラシャフト12のストッパ部材25が外側部材21に固定された係止部材24のフランジ部24cに引っ掛かり、フロントプロペラシャフト12がジョイント14から脱落することが防止される。これにより、折れたプロペラシャフト10が周囲の他の部品に干渉したり路面に脱落することが防止されるという効果がある。
【0048】
本実施の形態に係るシャフトの保持構造31においては、トリポード型等速ジョイントに保持構造31を設けた場合について説明したが、本発明に係るシャフトの保持構造においては、他の等速ジョイントに設けてもよい。
例えば、トリポード型等速ジョイントにおけるローラ22の代わりに複数のボールによって構成したツェッパ型ジョイントまたはバーフィールド型ジョイントに保持構造を設けてもよい。
【0049】
また、本実施の形態に係るシャフトの保持構造31においては、ローラ22がスライド可能なトリポード型等速ジョイントに保持構造31を設けた場合について説明したが、本発明に係るシャフトの保持構造においては、他のトリポード型等速ジョイントで構成してもよい。
例えば、3本の支持軸にそれぞれ嵌め合う3個のローラで構成し、外側部材の内周側に、3個の円筒溝を形成し、この円筒溝で各ローラを回動可能に支持するとともに、軸線方向には移動しない形式の固定タイプのトリポード型等速ジョイントで構成してもよい。
【0050】
また、本実施の形態に係るシャフトの保持構造31においては、プロペラシャフト10に保持構造31を設けた場合について説明したが、本発明に係るシャフトの保持構造においては、このシャフトが、左右少なくとも一方のフロントドライブシャフトを構成するものであってもよく、左右少なくとも一方のリヤドライブシャフトを構成するものであってもよい。
【0051】
また、本実施の形態に係るシャフトの保持構造31においては、縮径部12eはフロントプロペラシャフト12のスプライン外歯12aの前側に隣接して形成されるとともに短い軸形状としているが、本発明に係るシャフトの保持構造においては、ストッパ部材25および内側部材23の間に形成されていればよく、例えば、当該部位の一部に断面V字またはU字などの溝を形成することによりプロペラシャフトで最も径の小さい部位になるようにして縮径部を形成してもよい。
【0052】
以上説明したように、本発明に係るシャフトの保持構造は、何らかの理由で極めて過大な外力がシャフトに作用した場合にシャフトが折損してもストッパ部材と係止部材とが係止してシャフトが脱落することを防止できるとともに、従来のようなガードを用いていないことによりシャフトの取付位置が低位置化され、なおかつフロアの低床化が実現できるシャフトの保持構造全般に有用である。
【符号の説明】
【0053】
10 プロペラシャフト
12 フロントプロペラシャフト(第1のシャフト)
12e 縮径部
14 ジョイント
15 リヤプロペラシャフト(第2のシャフト)
21 外側部材
22 ローラ
23 内側部材
24 係止部材
24c フランジ部
25 ストッパ部材
31 シャフトの保持構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な第1のシャフトと、
回転可能な第2のシャフトと、
前記第1のシャフトおよび第2のシャフトの間に介在されるとともに、前記第2のシャフトに固定されて一体回転する外側部材と、前記第1のシャフトに固定されて一体回転するとともに前記外側部材とも一体回転する内側部材と、を有するジョイントと、
を備えて一体回転するシャフトを折損時に保持するためのシャフトの保持構造において、
前記外側部材に固定されるとともに、前記第1のシャフトの周囲を囲むフランジ部を有する係止部材と、
前記内側部材と前記係止部材の前記フランジ部との間に位置する前記第1のシャフトに固定されるとともに、前記フランジ部の最小内径よりも大きな外径を有するストッパ部材と、
前記ストッパ部材および前記内側部材の間に位置する前記第1のシャフトに形成されるとともに前記第1のシャフトおよび第2のシャフトで最も径の小さい縮径部と、
を備えることを特徴とするシャフトの保持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−17767(P2012−17767A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154063(P2010−154063)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)