説明

シャフト型熱分解炉および熱分解方法

【課題】排気ダクトへの固形物の固着を減少させることによって、シャフト型熱分解炉の設備稼働率を向上させる。
【解決手段】シャフト型熱分解炉100は、軽量飛散物Fを含む原料が投入される原料投入口102および原料の熱分解によって生成された生成ガスが排出されるガス排出口104が上部に設けられる炉体101と、炉体101の頂部から底部に向かって垂下して、炉内空間の一部を、原料投入口102から原料を落下させるための第1の炉内空間108と生成ガスをガス排出口104まで上昇させるための第2の炉内空間109とに分割する仕切り部材107とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフト型熱分解炉および熱分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出量を削減する狙いから、廃棄物を有効活用する方法として、燃料としての利用を可能とする可燃性ガスの製造が試みられている。この廃棄物原料は、例えば、都市ゴミ、廃プラスチック、廃タイヤ、木質系バイオマス等の多様な廃棄物を複合的に含む原料である。これらの廃棄物の多くは炭素を含むため、熱分解炉に投入して熱分解すると、可燃性のガスが発生する。さらに改質炉を用いてこのガスを改質し、効率的に利用可能な原燃料ガスを得る手法が提案されている。熱分解炉としては、例えば、シャフト型熱分解炉、流動層型熱分解炉、およびストーカ型熱分解炉などが知られている。
【0003】
シャフト型熱分解炉は、例えば、特許文献1および特許文献2に記載されている。特許文献1には、廃棄物を含む炭素質資源を熱分解するシャフト型の炉が記載されている。また、特許文献2には、矩形断面を有するシャフト型熱分解炉が記載されている。これらのシャフト型熱分解炉において、原料は炉の上部から投入されて落下し、炉内に堆積する。一方、原料の熱分解によって生じた生成ガスは、炉内を上昇し、炉の上部から回収される。炉内を上昇する生成ガスは、堆積した原料を乾燥および昇温させて熱分解を促進する。
【0004】
また、流動層型熱分解炉およびストーカ型熱分解炉は、例えば、特許文献3および特許文献4に記載されている。流動層型熱分解炉およびストーカ型熱分解炉では、原料は炉の下部から投入され、生成ガスは炉の上部から回収される。特許文献3には、流動層型またはストーカ型の熱反応炉において、炉内に山笠構造の障壁を設けることによって燃焼ガスの流れを制御して反転気流を生じさせ、燃焼ガスに混入した未反応原料の反応を促進する技術が記載されている。また、特許文献4には、いずれも流動層型の熱分解炉と燃焼炉とを隣接して設け、熱分解炉で発生した未燃チャーを燃焼炉に供給して熱源として利用する技術が記載されている。このように、流動層型熱分解炉やストーカ型熱分解炉では、未反応原料の反応を促進し、原料の熱利用の効率を向上させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3914474号公報
【特許文献2】特許第4505422号公報
【特許文献3】特開平5−203130号公報
【特許文献4】国際公開第99/23431号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに対して、上記の特許文献1および特許文献2などに記載の従来のシャフト型熱分解炉では、炉内を徐々に下降する原料と、炉内をゆっくりと上昇する高温の生成ガスとが対向流で熱交換することによって原料が昇温されて熱分解が促進されるため、特許文献3および特許文献4などに記載の流動層型熱分解炉(上昇ガス流が非常に速い)やストーカ型熱分解炉(固定床で偏流ができ易く、偏流部分の流速が高くなる)におけるような、原料の一部がガス流に同伴されて未反応のまま飛散するという問題は、これまでほとんど想定されておらず、かかる飛散を抑制する技術について、流動層型熱分解炉などのように多くの検討はなされてこなかった。ところが、本願発明者らが鋭意研究したところ、シャフト型熱分解炉においても、未反応の原料が問題になる場合があることが判明した。
【0007】
図8は、従来のシャフト型熱分解炉である熱分解炉10の模式的な縦断面図である。図8を参照すると、原料は、炉体11の頂部に設けられた原料投入口12から投入され、矢印(白)に従って炉体11の内部の空間を落下し、炉体11の下部に堆積する。炉体11の下部にはバーナ13が設けられている。堆積した原料の一部は、バーナ13から供給される空気や酸素の一方もしくは両方、またはさらに水蒸気などの反応助剤によって原料の一部を燃焼する。この燃焼によって周辺の原料の温度が高温に保たれ、原料の熱分解反応が進行する。また、燃焼排ガス等の高温ガスを投入し、その顕熱を用いて熱分解反応を進行させてもよい。
【0008】
一方、熱分解反応によって発生した生成ガスは、矢印(黒)に従って炉体11の内部の空間を上昇し、炉体11の上部に設けられたガス排出口14から排出される。さらに、生成ガスは、ガス排出口14に連通する排気ダクト15を通って改質炉などに供給される。熱分解反応によって発生した炭化物および残渣は、炉体11の底部に設けられた残渣排出口16から炉外に排出される。
【0009】
本願発明者らの試験によれば、熱分解炉10における生成ガスの温度は、バーナ13付近では約1100〜1200℃であるが、堆積した原料の間を上昇する過程で温度が低下し、堆積面S付近では約300〜500℃になる。かかる生成ガスの原料中での温度分布の概略を示す等温線を、図中に細線で示す。一方、原料の温度は、堆積面Sより下で徐々に上昇し、水分が蒸発する時点で約100℃になり、さらに上昇して反応温度に到達する。反応温度は、例えば木質バイオマス(杉)では約250〜450℃、廃プラスチック(PE、PP、PS)では約350〜500℃、廃タイヤでは約300〜500℃である。原料が反応温度に到達すれば、数秒間から数十秒間で熱分解反応は完了する。
【0010】
本願発明者らは、熱分解炉10に木質バイオマス、廃プラスチック、および廃タイヤなどを含む原料を投入して熱分解する試験を行ってきた。その結果、図示されているように、原料に含まれる軽量飛散物Fが炉体11の内部を落下する前に飛散し、上昇する生成ガスに巻き込まれてガス排出口14へとショートカットし、そのまま生成ガスに混入して排出されてしまうことがわかった。
【0011】
ここで、軽量飛散物Fは、例えばフラフ状廃プラスチックや粉状木質バイオマスなどの、比重が小さく厚さが薄い原料である。熱分解炉10において、軽量飛散物Fの多くは、原料の堆積面Sに到達する前に飛散し、生成ガスに巻き込まれてガス排出口14へとショートカットする。それゆえ、多くの軽量飛散物Fは、反応時間が十分に確保されず、未反応のまま生成ガスに混入して排出される。この場合、軽量飛散物Fが十分に反応せず炉外に排出されることは、その分、ガス化効率が低下するという問題を生じると共に、生成ガスに混入した軽量飛散物Fが生成ガスに含まれるタール分をバインダーとして排気ダクト15の内面に固着して生成ガスの流路を閉塞するという問題も生じる。それゆえ、熱分解炉10から生成ガスを安定して排出するためには、排気ダクト15の内面に固着した固形物を定期的に清掃せねばならず、これが設備稼働率を低下させる原因になる。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、ガス化効率の低下につながる未反応物の炉外への排出を抑制または防止することと、これにより排気ダクトへの固形物の固着を減少させることによって、シャフト型熱分解炉の設備稼働率を向上させることとが可能な、新規かつ改良されたシャフト型熱分解炉および熱分解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、軽量飛散物を含む原料が投入される原料投入口、および原料の熱分解によって生成された生成ガスが排出されるガス排出口が上部に設けられる炉体と、炉体の頂部から底部に向かって垂下して、炉内空間の一部を、原料投入口から原料を落下させるための第1の炉内空間と、生成ガスをガス排出口まで上昇させるための第2の炉内空間とに分割する仕切り部材と、を含むことを特徴とする、シャフト型熱分解炉が提供される。
【0014】
かかる構成によれば、シャフト型熱分解炉において、原料が落下する第1の炉内空間と、生成ガスが上昇する第2の炉内空間とが仕切り部材によって隔てられることによって、原料に含まれる軽量飛散物が原料投入口からガス排出口へとショートカットすることを防ぐことができる。
【0015】
上記のシャフト型熱分解炉は、炉体の内部の原料の堆積高さを測定する測定手段と、原料の高さに応じて仕切り部材を昇降させる昇降手段と、をさらに含んでもよい。
【0016】
かかる構成によれば、原料の堆積高さの変化に応じて仕切り部材を最適な位置に配置することができる。
【0017】
また、上記のシャフト型熱分解炉は、第2の炉内空間に反応助剤を供給する反応助剤供給手段をさらに含んでもよい。
【0018】
かかる構成によれば、排出される生成ガスの温度を上昇させて、生成ガス中のタールが排気ダクトに固着するのを防ぐことができる。
【0019】
また、上記のシャフト型熱分解炉において、仕切り部材の下端は、炉体の内部の原料の堆積面よりも上方に位置してもよい。
【0020】
かかる構成によれば、堆積した原料の内部での生成ガスの流れの偏りが少なくなり、生成ガスが炉内を上昇するときの抵抗を減少させることができる。
【0021】
また、上記のシャフト型熱分解炉において、第2の炉内空間の水平方向断面積は、ガス排出口に連通する排気ダクトの断面積以上であってもよい。
【0022】
かかる構成によれば、炉内を上昇する生成ガスの流速が、排気ダクトを流れる生成ガスの流速よりも大きくなるのを防ぎ、圧力損失や摩耗損傷の過度の増加を防止することができる。
【0023】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記のシャフト型熱分解炉を用いた原料の熱分解方法であって、原料投入口から原料を投入し、第1の炉内空間で原料を落下させて炉体の内部に堆積させ、原料を熱分解して生成ガスを生成し、第2の炉内空間で生成ガスを上昇させてガス排出口から排出することを特徴とする熱分解方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように本発明によれば、原料中の軽量飛散物の反応が促進されることによって、ガス化効率の低下につながる生成ガスに混入する未反応の軽量飛散物が減少する。従って、排気ダクトへの固形物の固着が減少し、シャフト型熱分解炉の設備稼働率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る熱分解炉の模式的な縦断面図である。
【図2】図1に示す熱分解炉のI−I線断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る熱分解炉の模式的な縦断面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る熱分解炉の模式的な縦断面図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係る熱分解炉の模式的な縦断面図である。
【図6】本発明の実施例における試験結果を示す写真である。
【図7】比較例における試験結果を示す写真である。
【図8】従来のシャフト型熱分解炉の模式的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0027】
(第1の実施形態)
まず、図1および図2を参照して、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0028】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る熱分解炉100の模式的な縦断面図である。図1を参照すると、熱分解炉100は、シャフト型の熱分解炉である。熱分解炉100の炉体101には、原料が投入される原料投入口102、空気や酸素の一方もしくは両方、またはさらに水蒸気などの反応助剤を供給する反応助剤供給手段であるバーナ103、生成ガスが排出されるガス排出口104、および炭化物および残渣が排出される残渣排出口106が設けられる。また、ガス排出口104に連通して排気ダクト105が設けられる。
【0029】
ここで、原料投入口102およびガス排出口104は、それぞれ炉体101の上部に設けられる。図示された例では、原料投入口102およびガス排出口104がいずれも炉体101の頂部に設けられているが、これには限られず、原料投入口102またはガス排出口104のうち一方または両方が、炉体101の上部の側面に設けられてもよい。また、バーナ103は、炉体101の下部に設けられる。バーナ103は、炉内に反応助剤を均一に投入できるように、通常、複数個設置される。また、バーナ103に代えて、もしくは追加して、燃焼排ガスなどの高温ガスを投入してもよい。残渣排出口106は、炉体101の底部に設けられる。
【0030】
さらに、熱分解炉100には、仕切り部材107が設けられる。仕切り部材107は、炉体101の頂部から底部に向かって垂下する形で炉体101に固定されている。仕切り部材107の下端は、炉体101の内部に堆積した原料の堆積面Sに到達している。なお、仕切り部材107の下端は、図示されているように堆積面Sにほぼ一致していてもよいし、堆積面Sよりも下方に位置していてもよい。
【0031】
仕切り部材107は、炉内空間の一部を、第1の炉内空間108と第2の炉内空間109とに分割する。第1の炉内空間108は、原料投入口102から投入された原料を堆積面Sまで自由落下させるための空間である。また、第2の炉内空間109は、炉体101の下部で生成され、堆積した原料の間を上昇してきた生成ガスを、さらにガス排出口104まで上昇させるための空間である。
【0032】
かかる熱分解炉100において、原料は、図示しないホッパーまたはコンベアなどの搬送手段を用いて、炉体101の上部に設けられた原料投入口102から炉内に投入される。投入された原料は、矢印(白)に従って第1の炉内空間108を自由落下し、炉体101の下部に堆積して堆積面Sを形成する。堆積した原料の一部は、バーナ103から供給される空気や酸素の一方もしくは両方、またはさらに水蒸気などの反応助剤によって燃焼することで高温ガスを生成し、その顕熱を用いて熱分解反応を進行させる。なお、反応助剤のうちの蒸気は、バーナ103付近での局所的かつ急激な温度上昇を防止する目的で供給される。また、燃焼排ガス等の高温ガスを投入した場合は、その顕熱によって熱分解反応が進行する。
【0033】
本願発明者らの試験によれば、原料の温度は、投入時には常温であるが、炉内を下降するに従って上記の燃焼ガスおよび高温の生成ガスのために上昇し、水分が蒸発する時点で約100℃になる。原料の温度がさらに上昇して反応温度に到達すると、原料の熱分解反応が進行する。反応温度は、例えば木質バイオマス(杉)では約250〜450℃、廃プラスチック(PE、PP、PS)では約350〜500℃、廃タイヤでは約300〜500℃である。原料が反応温度に到達すれば、数秒間から数十秒間で熱分解反応は完了する。
【0034】
熱分解反応によって発生した生成ガスは、矢印(黒)に従って、堆積した原料の間を上昇する。生成ガスの温度は、バーナ103付近では約1100〜1200℃であるが、堆積した原料の間を上昇する過程で原料を乾燥および昇温させるため、堆積面S付近では約300〜500℃まで低下する。かかる生成ガスの原料中での温度分布の概略を示す等温線を、図中に細線で示す。第2の炉内空間109側の温度がより高くなっているのは、原料中の生成ガスの流れが第2の炉内空間109側に偏るためである。生成ガスは、さらに、第2の炉内空間109を上昇し、ガス排出口104から排出される。ガス排出口104から排出された生成ガスは、排気ダクト105を経由して改質炉などに供給される。ここで、排気ダクト105内の生成ガスは、図示しない吸引ブロワーなどを用いて吸引されている。それゆえ、炉内を上昇する生成ガスは、第1の炉内空間108ではなく第2の炉内空間109に誘導される。
【0035】
一方、熱分解反応によって発生した炭化物および残渣は、残渣排出口106から炉外に排出される。残渣排出口106からの排出物は、冷却後に例えば炭化物および金属とその他の残渣とに分離され、炭化物や金属はそれぞれ再利用されうる。
【0036】
熱分解炉100では、原料が落下する第1の炉内空間108と、生成ガスが上昇する第2の炉内空間109とが、仕切り部材107によって隔てられているため、原料に含まれるフラフ状廃プラスチックや粉状木質バイオマスなどの軽量飛散物Fが上昇する生成ガスに巻き込まれる可能性は少ない。それゆえ、軽量飛散物Fのほとんどが、他の原料と同様に第1の炉内空間108内を落下して、原料の堆積面Sに到達し、さらに炉内を下降する過程で昇温して熱分解される。それゆえ、熱分解炉100では、未反応のまま生成ガスに混入して排出される軽量飛散物Fを大幅に減少させることが可能である。
【0037】
図2は、図1に示す熱分解炉100のI−I線断面図である。図2に示されるように、炉体101および仕切り部材107の断面形状は、例えば(a)〜(c)の例のように、さまざまな組合せとすることが可能である。以下で、炉体101および仕切り部材107の断面形状を設定するための条件となりうる要素について説明する。
【0038】
まず、生成ガスの流速について説明する。ガス排出口104から排出されて排気ダクト105を流れる生成ガスの流速は、約10〜30m/sが適切であることが、本願発明者らの検討によりわかっている。生成ガスの流速がこれよりも大きくなると、圧力損失が増加したり、排気ダクト105の内面の摩耗損傷が生じたりする可能性がある。それゆえ、排気ダクト105の断面積は、排出される生成ガスの流速が上記の範囲になるように設定するのが望ましい。同様に、熱分解炉100の炉内で生成ガスが上昇する第2の炉内空間109の断面積(水平方向断面積)も、生成ガスの流速が上記の範囲を超えないように設定することが望ましい。具体的には、第2の炉内空間109の断面積は、排気ダクト105の断面積以上であることが望ましい。
【0039】
次に、原料の落下軌跡について説明する。原料は、炉体101の上部にある原料投入口102から炉内に投入され、第1の炉内空間108を自由落下する。このとき、原料の落下軌跡が仕切り部材107によって遮られると、炉体101の下部での原料の堆積が不均一になる可能性がある。それゆえ、仕切り部材107の形状は、第1の炉内空間108における原料の落下軌跡をできるだけ遮らないように設定されることが望ましい。具体的には、仕切り部材107の断面形状は、上記のように第2の炉内空間109の断面積を排気ダクト105の断面積以上に保ちつつ、第1の炉内空間108をできるだけ大きくするように設定するのが望ましい。
【0040】
図2の(a)〜(c)の断面図は、それぞれ、上記の要素を考慮して設定された炉体101および仕切り部材107の断面形状の例を示す。(a)の例は、炉体101の断面形状が略円形、仕切り部材107の断面形状が直線状である場合の例である。(b)の例は、炉体101の断面形状が略円形、仕切り部材107の断面形状が炉体101に沿った円弧形状である場合の例である。また、(c)の例は、炉体101の断面形状が略矩形、仕切り部材107の断面形状が直線状である場合の例である。なお、これらの例に限られず、炉体101および仕切り部材107の断面形状は、例えば上記の要素を考慮したさまざまな組み合わせにすることが可能である。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、図3を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0042】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る熱分解炉200の模式的な縦断面図である。図3を参照すると、熱分解炉200は、第1の実施形態に係る熱分解炉100と同様のシャフト型の熱分解炉である。以下の説明では、熱分解炉200のうち熱分解炉100と異なる点について主に説明し、熱分解炉100と同様の構成要素については同一の符号を付することによって詳細説明を省略する。
【0043】
仕切り部材207は、下端が原料の堆積面Sに到達していない点が、熱分解炉100の仕切り部材107とは異なる。仕切り部材207の下端は、堆積面Sよりも上方に位置するため、仕切り部材207の下端と堆積面Sとの間には所定の大きさの隙間がある。それゆえ、熱分解反応によって発生した生成ガスは、矢印(黒)に従って、堆積した原料の間を堆積面S付近まで上昇し、堆積面Sの上方の空間を経由して第2の炉内空間109に流入する。
【0044】
このように、熱分解炉200では、仕切り部材207の下端と堆積面Sとの間に隙間があることによって、この隙間がない熱分解炉100に比べて、生成ガスが炉内を上昇する際の抵抗と、抵抗による圧力損失とを減少させることができる。その一方で、熱分解炉200では、仕切り部材207の下端と堆積面Sとの間に隙間があることによって、軽量飛散物Fが堆積面Sに到達することなく第2の炉内空間109に入ってしまうことを完全には防止できない。
【0045】
しかしながら、軽量飛散物Fは、例えばフラフ状廃プラスチックや粉状木質バイオマスなどであり、薄い、または粉状の形状を有するため、熱分解反応の反応時間が他の固形物原料の反応時間よりも短くて済む場合が多い。それゆえ、熱分解炉200に投入された原料に含まれる軽量飛散物Fは、堆積面Sに到達しなくても、仕切り部材207の下端まで炉内を下降する過程で昇温し、熱分解反応が完了する可能性が高い。従って、熱分解炉200においても、未反応のまま生成ガスに混入して排出される軽量飛散物Fを大幅に減少させることが可能である。
【0046】
なお、熱分解炉200において、仕切り部材207の下端と堆積面Sとの間の隙間の大きさが大きすぎると、昇温が十分ではない状態で第2の炉内空間109に流入する軽量飛散物Fが多くなるため、未反応の軽量飛散物Fを十分に減少させることが難しくなる。それゆえ、仕切り部材207の下端と堆積面Sとの間の隙間の大きさは、生成ガスの流れやすさとともに、軽量飛散物Fの反応の進行を考慮して設定されることが望ましい。
【0047】
(第3の実施形態)
次に、図4を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0048】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る熱分解炉300の模式的な縦断面図である。図4を参照すると、熱分解炉300は、第1の実施形態に係る熱分解炉100と同様のシャフト型の熱分解炉である。以下の説明では、熱分解炉300のうち熱分解炉100と異なる点について主に説明し、熱分解炉100と同様の構成要素については同一の符号を付することによって詳細説明を省略する。
【0049】
追加バーナ310は、空気、酸素などの反応助剤を供給する反応助剤供給手段であり、第2の炉内空間109に設けられる。追加バーナ310から供給される反応助剤によって、第2の炉内空間109を上昇する生成ガスの一部が燃焼し、生成ガスの温度が上昇する。生成ガスには、熱分解によって発生するタール分や未反応の軽量飛散物Fが少量含まれる場合があるが、追加バーナ310によって温度を上昇させることによって、未反応物をさらに少なくし、その結果として、ガス排出口104から排出された後に、排気ダクト105の内面に固着するのを防ぐことができる。
【0050】
上述のように、第2の炉内空間109を上昇する生成ガスでは、原料中の軽量飛散物Fの混入が従来と比べて大幅に減少している。そのため、追加バーナ310から供給される反応助剤は、生成ガスの一部を燃焼させるために必要最小限の量とすることが可能である。
【0051】
なお、上記の説明では、第1の実施形態に係る熱分解炉100に追加バーナ310を設けた熱分解炉300について説明したが、同様に、第2の実施形態に係る熱分解炉200に追加バーナ310を設けてもよい。
【0052】
(第4の実施形態)
次に、図5を参照して、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0053】
図5は、本発明の第4の実施形態に係る熱分解炉400の模式的な縦断面図である。図5を参照すると、熱分解炉400は、第1の実施形態に係る熱分解炉100と同様のシャフト型の熱分解炉である。以下の説明では、熱分解炉400のうち熱分解炉100と異なる点について主に説明し、熱分解炉100と同様の構成要素については同一の符号を付することによって詳細説明を省略する。
【0054】
仕切り部材407は、炉体101に固定されておらず、炉体101の頂部に設けられた昇降手段である巻上機414から懸垂し、巻上機414の駆動によって昇降可能である点が、熱分解炉100の仕切り部材107とは異なる。仕切り部材407は、例えばワイヤまたはチェーンを用いて巻上機414から懸垂する。仕切り部材407の昇降動作を安定させるために、仕切り部材407の断面形状に対応した形状のガイドレールが炉体101の内壁面に設けられてもよい。仕切り部材407が昇降可能な範囲は、例えば想定される原料の堆積面Sの範囲に応じて設定されうる。
【0055】
錘411および測定装置412は、炉体101の内部での原料の堆積高さを測定する測定手段である。錘411は、炉体101の頂部に設けられた測定装置412から炉内に懸垂し、原料の堆積面Sに接触している。測定装置412は、錘411が堆積面Sに接触したことによる懸垂負荷の変動によって堆積面Sの位置を検知する。なお、測定手段はこれには限られず、例えば、超音波測距計やマイクロ波測距計を用いて原料の堆積高さが測定されてもよい。
【0056】
測定装置412によって測定された原料の高さの情報は、制御装置413に提供される。制御装置413は、測定された原料の高さに応じて、昇降手段である巻上機414を制御して仕切り部材407を昇降させる。制御装置413は、例えば、メモリに格納されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)が実行するコンピュータ、または制御回路として実現されうる。
【0057】
ここで、炉体101の内部における原料の堆積高さの最適値は、例えば原料の種類、配合比、サイズ、含有水分量などによって異なる。また、原料の堆積高さは、熱分解炉400の時間あたりの処理量によっても変動する。熱分解炉400では、仕切り部材407を昇降させることが可能であるため、上記のように原料の堆積高さが変動した場合にも、仕切り部材407が堆積した原料の中に入り込みすぎたり、仕切り部材407が堆積した原料から離れすぎたりすることを防ぎ、仕切り部材407が良好に機能する状態を保つことができる。
【0058】
なお、仕切り部材407は、図示されているように下端が堆積面Sに到達した状態を保って昇降することも可能であるが、第2の実施形態にかかる熱分解炉200のように、下端と堆積面Sとの間に所定の隙間がある状態を保って昇降することも可能である。また、熱分解炉400では、これらの状態を相互に切り替えることも可能である。さらに、熱分解炉400に、第3の実施形態に係る熱分解炉300と同様の追加バーナ310が設けられてもよい。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の実施例について説明する。本実施例では、上記図1に示した熱分解炉100と同様の構成の熱分解炉を用いて、木質バイオマス、廃プラスチック、および廃タイヤを含む原料を熱分解する試験を実施した。
【0060】
ここで、木質バイオマスは、サイズが約50×150×20mm以下の固形物であるが、熱分解炉100に投入される前段階での破砕によって、直径が約1mm以下のサイズの粉状物も多く含まれる。廃プラスチックは、サイズが約100×100mmで、厚さが約0.1mm以下のフラフ状廃プラスチックである。廃タイヤは、サイズが約200×200×20mm以下の固形物である。なお、各原料のかさ比重は、木質バイオマスが約0.2t/m、廃プラスチックが約0.07t/m、廃タイヤが約0.4t/mである。また、配合比は、湿質量比で、木質バイオマス:廃プラスチック:廃タイヤ=60:30:10として試験を行った。
【0061】
本実施例で用いる熱分解炉100は、水平方向断面が面積0.9mの矩形状で、バーナ103から炉体101の頂部までの高さが4mのシャフト型熱分解炉である。上記の原料は、フォークリフトを利用して混合および撹拌された後、原料投入口102から0.6〜0.7t/hで投入された。炉内の温度は、炉体101の頂部で300〜500℃を保つこととし、そのために原料の投入量とバーナ103からの反応助剤の供給量を調整した。
【0062】
以上の条件で試験を実施した結果、排気ダクト105の内面に固着する固形物は少なく、2週間の連続試験においても排気ダクト105の内面の清掃は必要にならなかった。図6に、本実施例における2週間経過後の排気ダクト105の内部の写真を示す。図6を参照すると、本実施例では、排気ダクト105の内面に固着する固形物はわずかであることがわかる。
【0063】
一方、比較例として、上述の従来の熱分解炉10と同様の構成の熱分解炉を用いて、上記の実施例と同様の条件で熱分解試験を実施した。図7に、この比較例における1週間経過後の排気ダクト15の内部の写真を示す。図7を参照すると、この比較例では、排気ダクト15の内面に固着する固形物が上記実施例に比べて多いことがわかる。その結果として、比較例における連続試験では、1週間経過後に排気ダクト15の内面の清掃が必要になった。
【0064】
以上の結果より、本発明の実施形態に係る熱分解炉を用いることによって、排気ダクトへの固形物の固着が減少し、シャフト型熱分解炉の設備稼働率を向上させることが可能であることが実証されたといえる。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0066】
100,200,300,400 熱分解炉
101 炉体
102 原料投入口
103 バーナ
104 ガス排出口
105 排気ダクト
107,207,407 仕切り部材
108 第1の炉内空間
109 第2の炉内空間
310 追加バーナ
411 錘
412 測定装置
413 制御装置
414 巻上機
F 軽量飛散物
S 堆積面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量飛散物を含む原料が投入される原料投入口、および前記原料の熱分解によって生成された生成ガスが排出されるガス排出口が上部に設けられる炉体と、
前記炉体の頂部から底部に向かって垂下して、炉内空間の一部を、前記原料投入口から前記原料を落下させるための第1の炉内空間と前記生成ガスを前記ガス排出口まで上昇させるための第2の炉内空間とに分割する仕切り部材と、
を備えることを特徴とする、シャフト型熱分解炉。
【請求項2】
前記炉体の内部の前記原料の堆積高さを測定する測定手段と、
前記原料の高さに応じて前記仕切り部材を昇降させる昇降手段と、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のシャフト型熱分解炉。
【請求項3】
前記第2の炉内空間に反応助剤を供給する反応助剤供給手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1または2に記載のシャフト型熱分解炉。
【請求項4】
前記仕切り部材の下端は、前記炉体の内部の前記原料の堆積面よりも上方に位置することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシャフト型熱分解炉。
【請求項5】
前記第2の炉内空間の水平方向断面積は、前記ガス排出口に連通する排気ダクトの断面積以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシャフト型熱分解炉。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のシャフト型熱分解炉を用いた前記原料の熱分解方法であって、
前記原料投入口から前記原料を投入し、
前記第1の炉内空間で前記原料を落下させて前記炉体の内部に堆積させ、
前記原料を熱分解して前記生成ガスを生成し、
前記第2の炉内空間で前記生成ガスを上昇させて前記ガス排出口から排出する
ことを特徴とする熱分解方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−241031(P2012−241031A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109301(P2011−109301)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】