説明

シュープレス用ベルト基布及びこれを用いたシュープレス用ベルト

【課題】寸法安定性等に優れるシュープレス用ベルト基布、及びこのベルトが樹脂層に埋設されてなり、クラック等を生じ難いシュープレス用ベルトを提供する。
【解決手段】大径のストレート経糸11と、大径のストレート緯糸12と、小径の経糸13と、がこの順に厚さ方向に配置され、且つ大径のストレート経糸及び小径の経糸と交絡する小径の緯糸14により織成された1重織組織を備え、大径のストレート経糸及び緯糸は、ポリエステル樹脂製のマルチフィラメントであり、且つ糸径が0.3〜1.3mm、小径の経糸は、ポリアミド樹脂製のモノフィラメントであり、且つ糸径が0.1〜0.3mm、小径の緯糸は、ポリアミド樹脂製又はポリエステル樹脂製のマルチフィラメント又はモノフィラメントであり、且つマルチフィラメントである場合は繊度が400〜1500デニール、モノフィラメントである場合は糸径が0.1〜0.3mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュープレス用ベルト基布及びこれを用いたシュープレス用ベルトに関する。更に詳しくは、経方向及び緯方向ともに寸法変化の少ないシュープレス用ベルト基布、及びこの基布を用いたベルトであり、走行方向及び幅方向の寸法安定性に優れ、安定な回転状態が維持され、基布が埋設される樹脂層におけるクラックの発生及びその進展が抑えられるシュープレス用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抄紙機において湿紙を搾水するプレスパートでは、加圧シューを用いたシュープレス装置が利用されている。このシュープレス装置は、プレスロールと、プレスロールの周面形状に近似した湾曲面を有する加圧シューとを備え、プレスロールと加圧シューとの間を走行する湿紙が加圧され、搾水される(例えば、特許文献1参照。)。この際、通常、湿紙のみがプレスロールと加圧シューとの間を走行するのではなく、例えば、加圧シュー側から、シュープレス用ベルト、製紙用フェルト及び湿紙が順に重なった状態で、走行し、搾水される。これらのうち、弾性を有する樹脂層と、この樹脂層に埋設された基布とを備えるシュープレス用ベルトが、加圧シューに直接接触して走行する。
【0003】
上記のシュープレス用ベルトは連続的に走行するエンドレスベルトであり、搾水のためプレスロールと加圧シューの間に挟持されるため、特に走行方向には常に大きな引張力が加わり、これによって寸法が変化した場合、安定な回転状態が維持されないことがある。また、この寸法変化により、基布が埋設されている樹脂層にクラックが生じることもある。このような寸法変化を抑えるため、経糸又は緯糸の少なくとも一方にストレート又はストレートに近い配列のフィラメント糸を持つ織布からなる基布層を備え、MD方向・CD方向の寸法安定性を図れるように構成したシュープレス用ブランケットが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−256492号公報
【特許文献2】特開平11−124788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の寸法安定性の問題に加え、シュープレス用ベルトは、通常、走行方向と直交する幅方向において、中央部は加圧シューと接触して走行し、両端部は加圧シューと接触せず走行するため、両端部は中央部と比べて走行が遅れがちとなり、両端部と中央部との境界付近において、樹脂層にクラック及び膨れ等を生じるという問題もある。特に、近年、搾水された水の排水効率を向上させるため、シュープレス用ベルトの湿紙供給側の樹脂層を、高硬度の樹脂を用いて形成することがあり、この場合、よりクラック等が生じ易いという問題が指摘されている。
【0006】
上記の樹脂層におけるクラック及び膨れ等の発生は、湿紙に搾水のための十分、且つ均等な圧力を伝達するという観点で好ましいものではない。また、加圧シューとの摺動による摩擦によってシュープレス用ベルトが摩耗するのを軽減するため、加圧シュー側から潤滑油が供給されているが、樹脂層にクラック及び膨れ等を生じた場合、潤滑油が、加圧シュー側から湿紙供給側へ滲出することがあり、この滲出を防止するという観点でも、樹脂層におけるクラック及び膨れ等の発生は好ましくない。このように、クラック及び膨れは、シュープレス用ベルトの耐用日数を短縮させる一因となっており、通常、100日以上の交換周期で用いられているシュープレス用ベルトにクラック等が生じるまでの期間をより長くすることができ、更にはクラック等が生じたときにも、その進展が遅いシュープレス用ベルトが必要とされている。
【0007】
特許文献1には、基礎布に合成重合体樹脂を含浸させ、コーティングさせるときに、MD方向及びCD方向の糸の間隔等を調整することによって、基礎布から全ての空気が除去され、空隙が生じない樹脂含浸エンドレスベルトが記載されている。しかし、このベルトでは、MD方向及びCD方向の糸の径及び配列からみて、ベルトの寸法が十分に安定しないことが考えられ、寸法安定性の更なる向上が必要とされる。更に、特許文献2に記載されたシュープレス用ブランケットでは、ストレート又はストレートに近い配列のフィラメント糸を用いることで、寸法安定化が図られているが、二重又は三重に織成された基布層であるため、フィラメント糸がストレート又はストレートに近いことによる寸法安定性が損なわれることが考えられる。
【0008】
本発明は、上記の従来の問題点に鑑みてなされたものであり、経方向及び緯方向ともに寸法変化の少ないシュープレス用ベルト基布、及びこの基布を用いたベルトであり、走行方向及び幅方向の寸法安定性に優れ、安定な回転状態が維持され、基布が埋設される樹脂層におけるクラック及び膨れの発生及びその進展が抑えられるシュープレス用ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下のとおりである。
1.大径のストレート経糸と、大径のストレート緯糸と、小径の経糸と、がこの順に厚さ方向に配置され、且つ該大径のストレート経糸及び該小径の経糸と交絡する小径の緯糸により織成された1重織組織を備えるシュープレス用ベルト基布であって、上記大径のストレート経糸及び上記大径のストレート緯糸は、ポリエステル樹脂製のマルチフィラメントであり、且つ糸径が0.3〜1.3mm、上記小径の経糸は、ポリアミド樹脂製のモノフィラメントであり、且つ糸径が0.1〜0.3mm、上記小径の緯糸は、ポリアミド樹脂製又はポリエステル樹脂製のマルチフィラメント又はモノフィラメントであり、且つマルチフィラメントである場合は繊度が400〜1500デニール、モノフィラメントである場合は糸径が0.1〜0.3mm、であることを特徴とするシュープレス用ベルト基布。
2.上記小径の緯糸はマルチフィラメントである上記1.に記載のシュープレス用ベルト基布。
3.上記大径のストレート経糸の糸径(d)と、上記大径のストレート緯糸の糸径(d)との比(d/d)が、1.2〜1.8である上記1.又は2.に記載のシュープレス用ベルト基布。
4.上記小径の緯糸は、上記大径のストレート経糸のうちの隣り合う2本又は3本の大径のストレート経糸と連続して交絡している上記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載のシュープレス用ベルト基布。
5.上記小径の緯糸はマルチフィラメントであり、繊度3〜8デニールのモノフィラメントが100〜350本撚り合わされてなり、1インチ当たり1〜5回撚られている上記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載のシュープレス用ベルト基布。
6.上記小径の緯糸はマルチフィラメントであり、横断面が扁平形状である上記1.乃至5.のうちのいずれか1項に記載のシュープレス用ベルト基布。
7.上記大径のストレート経糸、上記大径のストレート緯糸、及び上記小径の緯糸、を構成するモノフィラメントが樹脂加工されている上記1.乃至6.のうちのいずれか1項に記載のシュープレス用ベルト基布。
8.樹脂層と、該樹脂層に埋設されている上記1.乃至7.のうちのいずれか1項に記載のシュープレス用ベルト基布と、を備えることを特徴とするシュープレス用ベルト。
9.2枚の上記シュープレス用ベルト基布が重ね合わされて上記樹脂層に埋設されている上記8.に記載のシュープレス用ベルト。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシュープレス用ベルト基布は、厚さ方向に配置された、大径のストレート経糸と、大径のストレート緯糸と、小径の経糸と、を有し、且つ大径のストレート経糸及び小径の経糸と交絡する小径の緯糸を備え、且つ各々の糸が特定の材質、種類及び径であるため、引張力及び/又は圧縮力が加わったとき、小径の経糸及び小径の緯糸が容易に変形して応力を吸収してしまうため、大径のストレート経糸及び大径のストレート緯糸の変形が十分に抑えられ、全体として優れた寸法安定性を有する基布とすることができる。
また、小径の緯糸がマルチフィラメントである場合は、より柔軟であり、特に大径のストレート経糸に十分に密着させることができ、より優れた寸法安定性を有する基布とすることができる。
更に、大径のストレート経糸の糸径(d)と、大径のストレート緯糸の糸径(d)との比(d/d)が、1.2〜1.8である場合は、ベルトの基布として用いたときに、より大きな引張力が加わる経方向がより強化され、より優れた寸法安定性を有する基布とすることができる。
また、小径の緯糸が、大径のストレート経糸のうちの隣り合う2本又は3本の大径のストレート経糸と連続して交絡している場合も、小径の緯糸が、全ての大径のストレート経糸と交絡しているときと同様に、優れた寸法安定性を有する基布とすることができる。
更に、小径の緯糸がマルチフィラメントであり、繊度3〜8デニールのモノフィラメントが100〜350本撚り合わされてなり、1インチ当たり1〜5回撚られている場合は、この緯糸が十分に柔軟であり、織成時に横断面が扁平形状になって、大径のストレート経糸と面で接触するため、経方向、緯方向ともにより寸法変化の少ない、より優れた寸法安定性を有する基布とすることができる。
また、小径の緯糸がマルチフィラメントであり、横断面が扁平形状である場合は、上記と同様に、経方向、緯方向ともにより寸法変化の少ない、より優れた寸法安定性を有する基布とすることができる。
更に、大径のストレート経糸、大径のストレート緯糸、及び小径の緯糸、を構成するモノフィラメントが樹脂加工されている場合は、これらの糸間、及びこれらの糸と小径の経糸との間、の摩擦が低減されるため、ベルトに用いたときに、各々の糸の摩耗を抑えることができ、フィブリル化等による強度の低下が抑えられる。
【0011】
本発明のシュープレス用ベルトは、樹脂層と、本発明のシュープレス用ベルト基布と、を備えるため、走行方向及び幅方向の寸法安定性に優れ、安定な回転状態が維持され、基布が埋設される樹脂層におけるクラック等の発生及びその進展が抑えられる。
また、2枚のシュープレス用ベルト基布が重ね合わされて樹脂層に埋設されている場合は、走行方向、幅方向ともに強化され、寸法変化がより抑えられ、樹脂層におけるクラック等の発生及びその進展もより抑えられるため、より耐用日数の長いベルトとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のシュープレス用ベルト基布を経方向からみたときの、各々の糸の相関を説明するための模式図である。
【図2】小径の緯糸が、2本の隣り合う大径のストレート経糸と連続して交絡している形態を説明するための模式図である。
【図3】本発明のシュープレス用ベルト基布が樹脂層に埋設されてなるシュープレス用ベルトの断面の模式図である。
【図4】重ね合わせられた2枚のシュープレス用ベルト基布が樹脂層に埋設されてなるシュープレス用ベルトの断面の模式図である。
【図5】経4重織り組織を備える従来のシュープレス用ベルト基布を経方向からみたときの、各々の糸の相関を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図を参照しながら詳しく説明する。
[1]シュープレス用ベルト基布
本発明のシュープレス用ベルト基布は、大径のストレート経糸、大径のストレート緯糸、及び小径の経糸、がこの順に厚さ方向に配置され、且つ大径のストレート経糸及び小径の経糸と交絡する小径の緯糸により織成された1重織組織を備え、大径のストレート経糸及び大径のストレート緯糸が、ポリエステル樹脂製のマルチフィラメントであり、且つ糸径が0.3〜1.3mm、小径の経糸が、ポリアミド樹脂製のモノフィラメントであり、且つ糸径が0.1〜0.3mm、小径の緯糸が、ポリアミド樹脂製又はポリエステル樹脂製のマルチフィラメント又はモノフィラメントであり、且つマルチフィラメントである場合は繊度が400〜1500デニール、モノフィラメントである場合は糸径が0.1〜0.3mm、である。
この基布は、1重織組織を備え、従来の多重織組織を備える基布と比べて薄く、且つ柔軟であり、0.8〜1.8mm、特に0.8〜1.5mm程度の薄い基布とすることができる。
【0014】
(1)大径のストレート経糸、大径のストレート緯糸及び小径の経糸
上記「大径のストレート経糸11」及び上記「大径のストレート緯糸12」は、シュープレス用ベルト基布1の厚さ方向に重ね合わせられているのみであり、互いに織成はされていない。また、上記「小径の経糸13」は、大径のストレート緯糸12の、大径のストレート経糸11が重ね合わせられている側とは反対側に配設され、小径の緯糸14と織成され、交絡している。このように、小径の経糸13と小径の緯糸14とは織成され、交絡しているが、糸径及び剛性等の面での他の糸との相関で、小径の経糸13は殆ど屈曲せず、ストレート乃至それに近似の形態が維持される。これによって、より優れた寸法安定性を有するシュープレス用ベルト基布とすることができる。
【0015】
上記「小径の緯糸14」は、大径のストレート緯糸12を間にして重ね合わせられている大径のストレート経糸11及び小径の経糸13と織成され、交絡しており、これにより、1重織組織を有するシュープレス用ベルト基布1が形成されている(図1参照)。この場合、小径の緯糸14は、全ての大径のストレート経糸11及び小径の経糸13の各々と交互に交絡して織成されていてもよく(図1参照)、大径のストレート経糸11のうちの隣り合う大径のストレート経糸11と連続して交絡していてもよい(図2参照)。連続して交絡する大径のストレート経糸11の本数は特に限定されないが、この本数が過多であると、基布1の斜め方向の強度が低下し、寸法安定性が損なわれることがある。そのため、本数は2本又は3本、若しくは2本の箇所と3本の箇所とが交互に又はランダムに設けられる、等の形態とすることができる。この連続して交絡する大径のストレート経糸11の本数は特に2本(図2参照)であることが好ましい。
【0016】
重ね合わせられている大径のストレート経糸及び大径のストレート緯糸は、ポリエステル樹脂製のマルチフィラメントであり、糸径は0.3〜1.3mmである。
大径のストレート経糸及び大径のストレート緯糸を構成するポリエステル樹脂は特に限定されず、ジカルボン酸とグリコールとを反応させてなる各種のポリエステル樹脂を用いることができる。ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。また、グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。ジカルボン酸及びグリコールは各々1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記のポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を混合して用いることもできる。また、ポリエステル樹脂に他の樹脂を混合して用いてもよいが、他の樹脂は、樹脂の全量を100質量%とした場合に、10質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。
【0018】
大径のストレート経糸及び大径のストレート緯糸は、いずれもマルチフィラメントであるが、このマルチフィラメントとしては、モノフィラメントを一方向に引き揃え、撚りをかけた2本以上のマルチフィラメント原糸を更に撚り合わせてなるマルチフィラメント(諸撚糸)、及びモノフィラメントを一方向に引き揃え、撚りをかけてなるマルチフィラメント(片撚糸)等が挙げられ、これらのうちでは、諸撚糸が好ましい。この場合、用いるマルチフィラメント原糸の本数は2本以上であればよく、特に限定されないが、2〜5本、特に2〜4本であることが好ましい。
【0019】
大径のストレート経糸及び大径のストレート緯糸を構成するマルチフィラメントの糸径は、大径のストレート経糸、大径のストレート緯糸ともに0.3〜1.3mmである。この範囲の糸径であれば、経方向及び緯方向に十分な強度を有し、且つ寸法変化の少ないシュープレス用ベルト基布とすることができる。この糸径は0.4〜1.2mm、特に0.5〜1.1mmであることが好ましく、糸径が0.3〜1.3mm、特に0.5〜1.1mmであれば、寸法変化が十分に少ないシュープレス用ベルト基布とすることができる。
【0020】
大径のストレート経糸と大径のストレート緯糸の各々の糸径は同じであってもよく、異なっていてもよい。糸径が異なる場合、経糸がより大径であることが好ましく、大径のストレート経糸の糸径(d)と、大径のストレート緯糸の糸径(d)との比(d/d)が、1.2〜1.8、特に1.4〜1.6であることが好ましい。d/dが、1.2〜1.8であれば、ベルトの基布として用いたときに、より大きな引張力が加わる経方向が強化され、特に経方向の寸法変化が十分に抑えられる。
【0021】
また、マルチフィラメントを構成するモノフィラメントの繊度及び本数は特に限定されないが、諸撚糸の場合、マルチフィラメント原糸としては、繊度2〜10デニール、特に3〜8デニール,更に4〜7デニールのモノフィラメントが、100〜800本撚り合わされてなる撚糸を用いることができ、250〜500本、特に300〜450本、更に350〜400本撚り合わされてなる撚糸が好ましい。更に、モノフィラメントの撚りは、1インチ当たり1〜7回、特に1〜5回、更に2〜4回であることが好ましい。このように、2〜5本、特に2〜4本のマルチフィラメント原糸を更に撚り合わせてマルチフィラメントを製造する場合、マルチフィラメント原糸の撚りは、1インチ当たり2〜10回、特に3〜9回、更に4〜8回であることが好ましい。
【0022】
更に、片撚糸の場合、用いるモノフィラメントの繊度、撚り合わされるモノフィラメントの本数、及び1インチ当たりの撚りの回数は、経方向及び緯方向ともにより寸法変化の少ない基布となるように設定することが好ましい。
尚、マルチフィラメントの製造に用いるモノフィラメントは、非加工糸でもよく、捲縮加工及び嵩高加工等を施した加工糸でもよく、これらを併用してもよい。
【0023】
また、このシュープレス用ベルト基布を用いてなるシュープレス用ベルトでは、加圧シューを通過するときに、ベルトが屈曲され、経方向に大きな負荷が加わるため、基布は優れた耐屈曲疲労性を有していることが好ましい。この観点で、大径のストレート経糸としてマルチフィラメントを用いることにより、この経糸に加わる負荷を分散させることができ、屈曲疲労を軽減させることができる。これにより、大径のストレート経糸のフィブリル化及び切断を抑制することができ、クラック及び膨れ等の発生を抑えることができる。
【0024】
上記の屈曲疲労は、大径のストレート経糸の強伸度を向上させることで軽減することができるが、伸度を過度に大きくした場合、シュープレス用ベルトの寸法安定性が低下し、安定な回転状態が維持されないことがある。一方、屈曲疲労を、糸の強度を向上させることにより軽減させる場合、この強度を過度に大きくすると、限界を超えたときに急激に破断することがあり、樹脂層にクラックを生じた場合、クラックの進展速度が大きくなる傾向がある。このような観点で、大径のストレート経糸としては、伸度2.5%における強度が0.7〜3.5daN、特に0.8〜3.0daN、更に1.0〜2.5daNのマルチフィラメントを用いることが好ましい。これにより、安定な回転状態が維持され、クラックを生じた場合に、その進展速度を低下させることができ、より耐用日数の長いシュープレス用ベルトとすることができる。
【0025】
更に、基布が埋設される樹脂層は、全体が同材質からなっていてもよく、基布の厚さ方向の中間部を境界として、加圧シュー側と湿紙供給側とで異なる材質からなっていてもよいが、異なる材質からなる場合、基布の一面側から一方の樹脂層を形成するための未硬化の樹脂を含浸させる際に、この樹脂が基布を透過し、他面側に滲出してしまうのは好ましくない。本発明のシュープレス用ベルト基布では、大径のストレート経糸及び大径のストレート緯糸がともにマルチフィラメントであり、更には小径の緯糸もマルチフィラメントであれば、基布の一面側から含浸された未硬化の樹脂の他面側への滲出が十分に抑えられる。また、未硬化の樹脂の基布の他面側への滲出を抑えるためには、マルチフィラメントの撚りは弱いことが好ましく、大径のストレート経糸及び緯糸は、十分な強伸度を有し、優れた寸法安定性を有する基布とすることができる限り、過度に撚りをかけることは好ましくない。
【0026】
尚、大径のストレート経糸及び緯糸、特に大径のストレート経糸としては、予め集束樹脂等によって集束されていないマルチフィラメントを用いる。集束樹脂等によって集束されたマルチフィラメントでは、モノフィラメントであるかのように挙動し、上記のマルチフィラメントを用いることによる作用効果が奏されない。また、集束されたマルチフィラメントでは、樹脂層の形成に用いられる未硬化の樹脂が経糸に十分に含浸されず、空間が生じることがあり、潜在的なクラック源となることもある。従って、大径のストレート経糸及び緯糸、特に大径のストレート経糸は、樹脂集束されてないマルチフィラメントである必要がある。
【0027】
(2)小径の経糸
大径のストレート経糸と同方向に引き揃えられ、大径のストレート緯糸の大径のストレート経糸とは反対側に重ね合わせられている小径の経糸は、ポリアミド樹脂製のモノフィラメントであり、糸径が0.1〜0.3mmである。
小径の経糸を構成するポリアミド樹脂は特に限定されず、各種のポリアミド樹脂を用いることができる。このポリアミド樹脂としては、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン610、ナイロン612等が挙げられる。これらのポリアミド樹脂は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ポリアミド樹脂に他の樹脂を混合して用いてもよいが、他の樹脂は、樹脂の全量を100質量%とした場合に、10質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。
【0028】
小径の経糸を構成するモノフィラメントの糸径は、0.1〜0.3mmである。この範囲の糸径であれば、基布に引張力及び圧縮力等の応力が加わったときに、この小径の経糸が容易に変形し、大径のストレート経糸及び大径のストレート緯糸の変形が抑えられる。そのため、経方向における寸法変化の少ないシュープレス用ベルト基布とすることができる。この糸径は0.12〜0.28mm、特に0.14〜0.26mmであることが好ましく、糸径が0.1〜0.3mm、特に0.14〜0.26mmであれば、寸法変化が十分に少ないシュープレス用ベルト基布とすることができる。
【0029】
(3)小径の緯糸
大径のストレート経糸及び小径の経糸と交絡する小径の緯糸は、ポリアミド樹脂製又はポリエステル樹脂製のマルチフィラメント又はモノフィラメントであり、マルチフィラメントである場合は繊度が400〜1500デニール、モノフィラメントである場合は糸径が0.1〜0.3mmである。
小径の緯糸はポリアミド樹脂製でもポリエステル樹脂製でもよいが、ポリエステル樹脂製である大径のストレート経糸との摩擦による摩耗を低減させることができ、且つポリエステル樹脂と比べて剛性が低く、柔軟であるため、大径及び小径の経糸と絡合させ、織成させることが容易なポリアミド樹脂製であることが好ましい。
【0030】
小径の緯糸がポリアミド樹脂製である場合、このポリアミド樹脂は特に限定されず、前記の小径の経糸に用いられる各種のポリアミド樹脂を用いることができる。ポリアミド樹脂は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ポリアミド樹脂に他の樹脂を混合して用いてもよいが、他の樹脂は、樹脂の全量を100質量%とした場合に、10質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。
【0031】
更に、小径の緯糸がポリエステル樹脂製である場合、このポリエステル樹脂は特に限定されず、前記の大径のストレート経糸及び大径のストレート緯糸に用いられる各種のポリエステル樹脂を用いることができる。このポリエステル樹脂は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ポリエステル樹脂に他の樹脂を混合して用いてもよいが、他の樹脂は、樹脂の全量を100質量%とした場合に、10質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。
【0032】
小径の緯糸は、マルチフィラメント又はモノフィラメントであり、マルチフィラメントであることが好ましい。小径の緯糸がマルチフィラメントであれば、十分に柔軟であり、織成時に横断面が扁平形状になって、大径のストレート経糸と面で接触するため、経方向、緯方向ともにより寸法変化の少ない、より優れた寸法安定性を有する基布とすることができる。また、特に緯方向に引張力及び/又は圧縮力が加わったときに、この小径の緯糸が容易に変形し、大径のストレート緯糸の変形が十分に抑えられるため、寸法変化の少ないシュープレス用ベルト基布とすることができる。
【0033】
この小径の緯糸がマルチフィラメントである場合、その繊度は400〜1500デニールである。一方、モノフィラメントである場合、その糸径は0.1〜0.3mmである。この範囲の繊度又は糸径であれば、十分に柔軟であり、大径及び小径の経糸と容易に絡合させ、織成させることができる。マルチフィラメントであるとき、繊度は700〜1300デニール、特に800〜1200デニールであることが好ましく、モノフィラメントであるとき、糸径は0.12〜0.28mm、特に0.14〜0.26mmであることが好ましい。繊度が400〜1500デニール、特に800〜1200デニール、又は糸径が0.1〜0.3mm、特に0.14〜0.26mmであれば、寸法変化が十分に少ないシュープレス用ベルト基布とすることができる。
【0034】
また、小径の緯糸がマルチフィラメントである場合、繊度2〜10デニール、特に3〜8デニール,更に4〜7デニールのモノフィラメントが、60〜700本撚り合わされてなる撚糸を用いることができ、100〜350本、特に150〜300本、更に200〜250本撚り合わされてなり、1インチ当たり1〜7回、特に1〜5回、更に2〜4回撚られている撚糸であることが好ましい。このような小径の緯糸であれば、十分に柔軟であり、織成時に横断面が扁平形状になって、大径のストレート経糸と面で接触するため、経方向、緯方向ともにより寸法変化の少ない、より優れた寸法安定性を有する基布とすることができる。
【0035】
(4)メッシュ数
シュープレス用ベルト基布のメッシュ数は、強度が大きく、且つ優れた寸法安定性を有する基布とすることができる限り、特に限定されない。このメッシュ数は、経方向では8〜42本/インチ、特に15〜35本/インチ、更に20〜30本/インチ、緯方向では25〜85本/インチ、特に40〜70本/インチ、更に45〜60本/インチであることが好ましい。経方向のメッシュ数が8〜42本/インチであり、且つ緯方向のメッシュ数が25〜85本/インチであれば、十分な強度を有し、且つ寸法変化の少ないシュープレス用ベルト基布とすることができる。
【0036】
(5)樹脂加工
大径のストレート経糸、大径のストレート緯糸及び小径の緯糸は、樹脂加工されていることが好ましい。樹脂加工することにより、各々の糸間の滑りが向上し、摩擦を低減させることができ、フィブリル化及び摩耗を抑えることができる。小径の経糸はモノフィラメントであるため、特に樹脂加工する必要はない。
【0037】
樹脂加工は、糸の表面の滑りを向上させ、他の糸との摩擦による摩耗等を低減させることができればよく、加工方法は特に限定されないが、例えば、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)を用いて加工することができる。このRFL液の組成も特に限定されないが、例えば、全量を100質量%とした場合に、レゾルシンが0.1〜10質量%、ホルマリンが0.1〜10質量%、ラッテクスが1〜28質量%含有されるRFL液が挙げられる。
【0038】
具体的には、糸をRFL液と接触させ、その後、RFL液を乾燥させ、定着させるために加熱処理することにより樹脂加工することができる。加熱処理工程は、ヒートセット工程及びノルマライジング工程を備え、ヒートセットゾーンとノルマライジングゾーンとを備える加熱オーブン内に配設された搬送ローラ上を、RFL液と接触させた糸を連続的に搬送させて、乾燥させ、定着させることにより、樹脂加工された糸を製造することができる。
【0039】
[2]製紙用ベルト
本発明のシュープレス用ベルトは、樹脂層と、この樹脂層に埋設されている本発明のシュープレス用ベルト基布と、を備える。
【0040】
本発明のシュープレス用ベルト100は、樹脂層21、22と、この樹脂層21、22に埋設されているシュープレス用ベルト基布1と、を備える(図3参照)。また、基布1は、樹脂層21、22に1枚埋設されておればよいが、複数枚の基布が重ね合わされて埋設されていてもよい。重ね合わされる基布の枚数は特に限定されないが、通常、2又は3枚、特に2枚である。これによって、より強度が大きく、より寸法変化の少ないシュープレス用ベルト100(基布1が2枚である図4参照)とすることができる。この場合、複数枚の基布は単に積層されているのみでもよく、一般的なフェルトのように、バット繊維を用いてニードリングにより結合させてもよい。
【0041】
上記のように複数の基布、例えば、2枚の基布を重ね合わせて用いる場合、2枚の基布は材質、メッシュ数、厚さ等が同じでもよく、異なっていてもよい。また、異なる基布を用いるときは、湿紙供給側となる基布を、加圧シュー側となる基布と比べて、全ての糸の径が小さく、メッシュが細かく(メッシュ数が多く)、且つ薄い基布とすることができる。この場合、各々の基布の厚さは、湿紙供給側となる基布が0.8〜1.2mm、加圧シュー側となる基布が1.4〜1.8mmであることが好ましい。このように特定の基布を組み合わせて用いることにより、加圧シュー側においてクラックが生じたとしても、湿紙供給側へのクラックの進展をより抑えることができるため好ましい。
【0042】
更に、樹脂層21、22の材質は特に限定されないが、走行に伴う引張力及び圧縮力に十分に耐え、柔軟であって円滑に回転、走行し、且つ加圧シューとの摩擦による摩耗を生じ難いベルトとすることができる材質であることが好ましい。また、ベルトの厚さは特に限定されないが、十分な強度と耐用日数とを有するベルトとするためには、3〜8mm、特に5〜7mmであることが好ましい。
【0043】
樹脂層の形成に用いる未硬化の樹脂は、基布に含浸させることができる液状の樹脂であることが好ましく、十分に含浸させるためには粘度の低い樹脂であることが好ましい。このような液状の樹脂は特に限定されないが、未硬化のウレタン樹脂が用いられることが多い。ウレタン樹脂は、1液タイプであってもよく、2液タイプであってもよいが、1液タイプであることがより好ましい。未硬化のウレタン樹脂としては、NCO末端プレポリマーが水分と反応して硬化する未硬化樹脂、イソシアネート基が保護基によって保護されたポリイソシアネートを含有し、加熱によって保護基が解離し、硬化する未硬化樹脂等を用いることができる。樹脂層は、これらの未硬化樹脂を基布に含浸させ、その後、硬化させることにより形成することができる。更に、樹脂層は、硬化樹脂を有機溶媒に溶解させた溶液を基布に含浸させ、その後、有機溶媒を除去する方法、及び硬化樹脂を水等の媒体に分散させたエマルション、を基布に含浸させ、その後、媒体を除去する方法、によっても形成することができる。
【0044】
未硬化樹脂、又は上記の溶液及びエマルションを基布に含浸させる方法は特に限定されず、例えば、未硬化樹脂、又は上記の溶液及びエマルションに基布を浸漬して含浸させてもよく、未硬化樹脂、又は上記の溶液及びエマルションを、スプレー塗布、刷毛塗り等の方法により基布に塗布して含浸させてもよい。
【0045】
樹脂層は以下のようにして形成することができる。
先ず、未硬化樹脂、又は上記の溶液及びエマルションを、基布の一面側から厚さ方向の中間部まで含浸させ、その後、未硬化樹脂等を基布の一面側の表面に更に供給して堆積させ、次いで、未硬化樹脂を硬化させて一面側の樹脂層を形成する。その後、未硬化樹脂等を基布の他面側から一面側の樹脂層の先端部にまで含浸させ、次いで、未硬化樹脂等を基布の他面側の表面に更に供給して堆積させ、その後、未硬化樹脂を硬化させて他面側の樹脂層を形成する。このようにして、基布が埋設された中間部と、この中間部の両面側に形成された樹脂のみからなる層とを有する樹脂層を形成することができる。
【0046】
また、複数の基布、例えば、2枚の基布を重ね合わせて用いるときは、先ず、一方の基布の表面から未硬化樹脂等を他方の基布の一部にまで含浸させ、その後、未硬化樹脂等を一方の基布の表面に更に供給して堆積させ、次いで、未硬化樹脂を硬化させて一方の基布側の樹脂層を形成する。その後、未硬化樹脂等を他方の基布の表面から一方の基布側の樹脂層の先端部にまで含浸させ、次いで、未硬化樹脂等を他方の基布の表面に更に供給して堆積させ、その後、未硬化樹脂を硬化させて他方の基布側の樹脂層を形成する。このようにして、基布が埋設された中間部と、この中間部の両面側に形成された樹脂のみからなる層とを有する樹脂層を形成することができる。
【0047】
更に、前記のように、樹脂層は、全体が同材質からなっていてもよく、基布の厚さ方向の中間部を境界として、加圧シュー側と湿紙供給側とで異なる材質からなっていてもよい。樹脂層が異なる材質からなる場合、加圧シュー側の樹脂層は、低硬度の柔軟な樹脂を用いて形成し、湿紙供給側の樹脂層は、高硬度の樹脂を用いて形成することが好ましい。このように加圧シュー側の樹脂層を低硬度とすることにより、加圧シュー側においてクラックが生じ難くなり、且つ進行し難くなる。また、湿紙供給側の高硬度の樹脂層にクラックが生じ、加圧シュー側に向かって進行したとしても、加圧シュー側の低硬度の樹脂層にまでクラックが生じるのを抑えることができる。一方、湿紙供給側の樹脂層を高硬度とすることにより、加圧シュー側においてクラックが生じたとしても、潤滑油が湿紙供給側の表面に滲出するのを防止することができる。
【0048】
上記のように、樹脂層を特定の2層構造とすることにより、耐用日数の長いシュープレス用ベルトとすることができる。更に、この場合、高硬度の樹脂層の厚さ(t)と低硬度の樹脂層の厚さ(t)との比は特に限定されないが、高硬度の樹脂層がより厚いことが好ましく、t/tが4.0〜1.2、特に2.0〜1.2であることが好ましい。t/tが4.0〜1.2、特に2.0〜1.2であれば、上記の2層構造にすることによる作用効果が十分に奏される。
【0049】
また、シュープレス用ベルト100の湿紙供給側の樹脂層21の表面、即ち、シュープレス用ベルト100の湿紙供給側の表面は平坦面であってもよいが、搾水効率を向上させるため、排水溝(図4の符号21aの排水溝)が設けられていることが好ましい。
【0050】
本発明のシュープレス用ベルトが組み込まれる湿紙搾水用シュープレス装置の構造等は特に限定されないが、この装置は、通常、プレスロールと、このプレスロールに対向して配設される加圧シューとを備え、プレスロールと加圧シューとの間を加圧された状態で走行する湿紙が搾水される。また、通常、プレスロールと加圧シューとの間に、プレスロール側から、湿紙、製紙用フェルト及びシュープレス用ベルトが、この順で介装されて走行し、加圧されて搾水される。更に、プレスロールと湿紙との間にも製紙用フェルトを介装させることができ、必要に応じて更に他の製紙用織物を1種又は2種以上介装させることもできる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1(シュープレス用ベルト基布)
繊度4〜5デニールのPET製モノフィラメントを360本引き揃え、3回/インチの撚りをかけてマルチフィラメント原糸を作製し、その後、3本の原糸を引き揃え、9回/インチの撚りをかけ、糸径が約0.85mmの大径のストレート経糸を作製した。更に、繊度4〜5デニールのPET製モノフィラメントを240本引き揃え、9回/インチの撚りをかけてマルチフィラメント原糸を作製し、その後、3本の原糸を引き揃え、9回/インチの撚りをかけ、糸径が約0.65mmの大径のストレート緯糸を作製した。また、この大径のストレート緯糸の作製に用いたマルチフィラメント原糸を小径の緯糸として用いた。
【0052】
次いで、糸径が0.15mmのナイロン6製のモノフィラメントを小径の経糸として使用し、12本/インチの糸密度で引き揃え、その上面に上記の大径のストレート緯糸を28本/インチの糸密度で引き揃え、その上面に上記の大径のストレート経糸を12本/インチの糸密度で引き揃えた。その後、上記の小径の緯糸により、大径のストレート緯糸を挟持するようにして引き揃えられた大径のストレート経糸と小径の経糸とに交互に絡合するように織成し、1重織組織を備え、経方向のメッシュ数24本/インチ、緯方向のメッシュ数56本/インチのシュープレス用ベルト基布(図1の基布1参照)を製造した。
【0053】
実施例2(シュープレス用ベルト)
上記実施例1で製造した厚さ1.6mmのシュープレス用ベルト基布を2枚重ね合わせ、加圧シュー側となる一方の基布の表面から、NCO末端ウレタンプレポリマーを含有する液状の未硬化樹脂をスプレー塗布し、他方の基布の中間部まで含浸させて未硬化樹脂層を形成し、その後、プレポリマーを反応させ、硬化させて、厚さ3.4mmの低硬度の加圧シュー側の樹脂層(図4の樹脂層22参照)を形成した。次いで、重ね合わせられたシュープレス用ベルト基布の湿紙供給側となる他方の基布の表面から、NCO末端ウレタンプレポリマーを含有する液状の未硬化樹脂をスプレー塗布し、加圧シュー側の樹脂層の先端部にまで含浸させて未硬化樹脂層を形成し、その後、プレポリマーを反応させ、硬化させて、厚さ2.6mmの高硬度の湿紙供給側の樹脂層(図4の樹脂層21参照)を形成した。このようにして合計厚さ6.0mmの樹脂層の中間部に合計厚さ約3mmの2枚の基布が埋設されてなるシュープレス用ベルト(図4のベルト100参照)を製造した。
【0054】
比較例1(基布及びシュープレス用ベルト)
図5に記載の経4重織り組織を備え、経方向のメッシュ数68本/インチ、緯方向のメッシュ数56本/インチの従来のシュープレス用ベルト基布3を用いて、実施例2と同様にして樹脂層を形成し、シュープレス用ベルトを製造した。この基布3が有する第1層経糸311(フェルト側)は、繊度500デニールのPET製マルチフィラメントを3本撚りした撚り糸、第2層経糸312は、糸径が0.35mmのPET製モノフィラメント、第3層経糸313は、繊度3000デニールのPET製マルチフィラメント、第4層経糸314(シュー側)は、糸径が0.35mmのナイロンモノフィラメントである。また、第1層経糸311と第2層経糸312とを織成している第1層緯糸321、並びに第2層経糸312、第3層経糸313及び第4層経糸314を織成している第2層緯糸322、はいずれも糸径が0.40mmのPET製モノフィラメントである。
【0055】
実施例2で製造したシュープレス用ベルト100,及び比較例1で製造したシュープレス用ベルトの耐久性を、以下のクラック進展試験により評価した。
実施例2及び比較例1で製造したシュープレス用ベルトから切り出した試験片を用いて、JIS K6260に定義されるデマッチャ式屈曲試験機により、下記の試験条件でクラック進展性を評価した。
試験片の寸法;幅20mm、長さ150mm
往復運動 ;最大距離80.5mm、最小距離38.5mm、運動距離42.0mm 切り込み ;長さ3mm、深さ1.5mm(試験片の長さ方向の中央部において、幅方向の一端部の外面に設けた。この切り込みはベルトにおけるクラックを模したものである。)
屈曲回数 ;1000回
【0056】
上記のようにして評価した結果、実施例2で製造したシュープレス用ベルトでは、屈曲後の切り込みの寸法は3.5mm、即ち、クラックの進展は0.5mm未満であり、クラックが進展し難いことが分かる。一方、比較例1で製造したシュープレス用ベルトでは、屈曲後の切り込みの寸法は4.0mm以上、即ち、クラックの進展は1.0mm以上であり、クラックが進展し易いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のシュープレス用ベルト基布は、抄紙機のプレスパートを構成する各種の湿紙搾水用シュープレス装置に装着して用いられるシュープレス用ベルトの基布として利用することができる。また、本発明のシュープレス用ベルトは、抄紙機にいて湿紙を搾水するための各種の構造のシュープレス装置に装着されるシュープレス用ベルトとして利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1;シュープレス用ベルト基布11;大径のストレート経糸、12;小径の緯糸、13;小径の経糸、14;小径の緯糸、141;小径の緯糸を構成するモノフィラメント、100;シュープレス用ベルト、21、22;樹脂層、21a;排水溝、3;従来の基布、311;第1層経糸、312;第2層経糸、313;第3層経糸、314;第4層経糸、321;第1層緯糸、322;第2層緯糸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径のストレート経糸と、大径のストレート緯糸と、小径の経糸と、がこの順に厚さ方向に配置され、且つ該大径のストレート経糸及び該小径の経糸と交絡する小径の緯糸により織成された1重織組織を備えるシュープレス用ベルト基布であって、
上記大径のストレート経糸及び上記大径のストレート緯糸は、ポリエステル樹脂製のマルチフィラメントであり、且つ糸径が0.3〜1.3mm、上記小径の経糸は、ポリアミド樹脂製のモノフィラメントであり、且つ糸径が0.1〜0.3mm、上記小径の緯糸は、ポリアミド樹脂製又はポリエステル樹脂製のマルチフィラメント又はモノフィラメントであり、且つマルチフィラメントである場合は繊度が400〜1500デニール、モノフィラメントである場合は糸径が0.1〜0.3mm、であることを特徴とするシュープレス用ベルト基布。
【請求項2】
上記小径の緯糸はマルチフィラメントである請求項1に記載のシュープレス用ベルト基布。
【請求項3】
上記大径の経糸の糸径(d)と、上記大径の緯糸の糸径(d)との比(d/d)が、1.2〜1.8である請求項1又は2に記載のシュープレス用ベルト基布。
【請求項4】
上記小径の緯糸は、上記大径のストレート経糸のうちの隣り合う2本又は3本の大径のストレート経糸と連続して交絡している請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載のシュープレス用ベルト基布。
【請求項5】
上記小径の緯糸はマルチフィラメントであり、繊度3〜8デニールのモノフィラメントが100〜350本撚り合わされてなり、1インチ当たり1〜5回撚られている請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載のシュープレス用ベルト基布。
【請求項6】
上記小径の緯糸はマルチフィラメントであり、横断面が扁平形状である請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載のシュープレス用ベルト基布。
【請求項7】
上記大径のストレート経糸、上記大径のストレート緯糸、及び上記小径の緯糸、を構成するモノフィラメントが樹脂加工されている請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載のシュープレス用ベルト基布。
【請求項8】
樹脂層と、該樹脂層に埋設されている請求項1乃至7のうちのいずれか1項に記載のシュープレス用ベルト基布と、を備えることを特徴とするシュープレス用ベルト。
【請求項9】
2枚の上記シュープレス用ベルト基布が重ね合わされて上記樹脂層に埋設されている請求項8に記載のシュープレス用ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−157664(P2011−157664A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21595(P2010−21595)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】