説明

シュー用油脂組成物及びシューケース

【課題】乳化剤やカゼインのナトリウム塩を使用せずとも、容積、保型性が良好で、ソフトな食感のシューケースを製造することができるシュー用油脂組成物を提供すること。
【解決手段】ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を50〜80質量%、及び、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として0.1〜12質量%含有するシュー用油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトな食感で、且つ、容積が大きく保型性が良好なシューケースを安定して得ることができるシュー用油脂組成物、及び、該油脂組成物を使用したシューケースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シューケースを製造する際に、シュー用油脂の選択によって、その容積や風味や食感が大きく異なることが知られている。シューケースの焼成には従来、バターかラードが使用されてきたが、これらには以下の長所と短所がある。
即ち、バターは、風味と口溶けは良好だが、シューケースの皮が厚くなり、焼き伸びがやや悪いとされ、ラードは、口溶けと容積は良好であるが、特有の風味を有し、風味劣化が起こりやすいとされている。
また、液状油を用いると、ソフトな食感で、生地は伸びるが、保型性が劣るためつぶれて容積が出なくなり、融点の高い油脂、例えば牛脂を使用すると、容積は出るものの、ワキシーな食感となり口溶けが著しく悪化してしまうという問題があった(例えば非特許文献1参照)。このため、バター、ラード、液状油、牛脂等の天然の油脂を使用すると、容積の大きなシューケースを安定して製造することはできなかった。
【0003】
容積の大きなシューケースを安定して生産するためには、シュー生地を製造する際に小麦粉等のデンプン類を十分に糊化させ、その生地に十分な伸展性があることが必要である。このため、油脂、乳化剤、カゼインのナトリウム塩の3種成分を使用するのが有効であり、これらの3種成分を含むシュー用油脂が広く使用されている。
しかし、最近では、乳化剤や、カゼインのナトリウム塩に起因する風味が問題になりつつあり、また、最近の食品添加物の使用を控える風潮からもこれらの乳化剤やカゼインのナトリウム塩を使用しなくとも、容積の大きなシューケースを安定して製造することのできるシュー用油脂が求められるようになってきた。
ここで、単に、乳化剤を使用しないでシューケースを製造するには、ラードやバター等の乳化剤を含有しない油脂組成物を使用すればよいが、上述のように、容積の大きなシューケースを安定して得ることはできない。
【0004】
一方、カゼインのナトリウム塩を使用せずとも大きな容積のシューケースを得る方法としては、水相のpHが5.2〜5.9であるシュー皮用乳化油脂組成物を使用する方法(例えば特許文献1参照)や、ホエイ蛋白質:カゼイン蛋白質の質量比率が3:7〜5:5である乳蛋白質を固形分換算で0.5〜4.5質量%含有することを特徴とするシュー用乳化油脂組成物を使用する方法(例えば特許文献2参照)、さらには、油相中に、SLOSL(SL:炭素数16〜22である飽和脂肪酸残基、O:オレイン酸残基)で表わされるトリアシルグリセロールを60質量%以上含有する油脂を、10〜100質量%含有することを特徴とするシュー用油脂組成物を使用する方法(例えば特許文献3参照)が提案されている。
しかし、特許文献1〜3に記載された方法で得られたシューケースは硬く乾いた食感のシューケースになってしまうという問題があった。
このように、乳化剤やカゼインのナトリウム塩を使用せずとも、容積が大きく、保型性が良好で、ソフトな食感のシューケースを製造することができるシュー用油脂は存在しなかった。
【0005】
【非特許文献1】PCG、1991年10月号、p94〜97
【特許文献1】特開平6−165632号公報
【特許文献2】特開2001−224308号公報
【特許文献3】特開2004−267165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、乳化剤やカゼインのナトリウム塩を使用せずとも、容積が大きく、保型性が良好で、ソフトな食感のシューケースを製造することができるシュー用油脂組成物、及び、該油脂組成物を使用したシューケースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、特定のエステル交換油脂と、特定の乳原料とを併用した際に、上記目的を達成し得ることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を50〜90質量%、及び、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として0.1〜7質量%含有することを特徴とするシュー用油脂組成物を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、上記シュー用油脂組成物を使用したシューケースを提供するものである。該シューケースは、容積が大きく、保型性が良好で、ソフトな食感を有する。
【0009】
また、本発明は、上記シューケースの好ましい製造方法として、上記シュー用油脂組成物を使用することを特徴とするシューケースの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシュー用油脂組成物によれば、乳化剤やカゼインのナトリウム塩を使用せずとも、容積が大きく、保型性が良好で、ソフトな食感のシューケースを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のシュー用油脂組成物について好ましい実施形態に基づき詳述する。
本発明のシュー用油脂組成物は、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を50〜90質量%、及び、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として0.1〜12質量%含有する。
【0012】
まず、本発明のシュー用油脂組成物に用いられるエステル交換油脂について述べる。
本発明の油脂組成物に用いられるエステル交換油脂は、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%含有する油脂配合物をエステル交換した油脂である。
本発明のシュー用油脂組成物に用いられるエステル交換油脂として、上記ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油以外の油脂、例えば、パーム油のエステル交換油脂をはじめ、その他の動植物油脂の軟部油を70質量%以上含有する油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を用いた場合は、シューケース製造時の糊化工程で、十分な糊化が行われず、容積の大きなシューケースが得られない。
これは、パーム軟部油に含まれる部分グリセリドのエステル交換反応物が本発明の効果に関与しているものと考えられる。
【0013】
ここで、上記油脂配合物に使用するパーム分別軟部油とは、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、ドライ分別等の無溶剤分別等の方法によって、パーム油を分別した際に得られる低融点部であり、通常、ヨウ素価52〜70のものである。本発明に用いられるパーム分別軟部油としては、ヨウ素価が52以上のパームオレインを使用することが、より糊化工程時の乳化性が高く、そのため伸展性が良好なシュー生地が得られる点で好ましく、ヨウ素価54以上のパームオレインを使用することがより好ましく、ヨウ素価60以上のパームスーパーオレインを使用することがさらに好ましい。
【0014】
上記油脂配合物に必要に応じ配合する、上記パーム分別軟部油以外の油脂は、求める油脂組成物の硬さに応じ、適宜選択することができ、その代表例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂も用いることができ、更に、これらの食用油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0015】
また、上記エステル交換油脂を得るためのエステル交換反応は、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよく、また、ランダムエステル反応であっても、位置選択性のエステル交換反応であってもよいが、化学的触媒又は位置選択性のない酵素を用いた、ランダムエステル反応であることがより好ましい。
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記位置選択性のない酵素としては、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes) 属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus) 属、ムコール(Mucor) 属、ペニシリウム(Penicillium) 属等に由来するリパーゼが挙げられる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂あるいはケイ藻土やセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0016】
本発明のシュー用油脂組成物は、上記エステル交換油脂を組成物中に50〜90質量%、好ましくは60〜90質量%含有する。エステル交換油脂の含有量が50質量%未満であるとシューケース製造時の糊化工程での糊化が不十分となりやすく、そのため、十分な伸びのシュー生地が得られず、大きな容積のシューケースが得られない。
【0017】
本発明のシュー用油脂組成物は、上記エステル交換油脂以外の油脂を必要に応じ使用してもよい。上記油脂組成物に必要に応じ配合する、上記エステル交換油脂以外の油脂としては、求める油脂組成物の硬さに応じ、適宜選択することができ、その代表例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂も用いることができ、更に、これらの食用油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
本発明のシュー用油脂組成物においては、上記エステル交換油脂以外の油脂の配合量は、組成物中30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下とする。
また、本発明のシュー用油脂組成物における油相含有量は、組成物中50〜100質量%、好ましくは60〜95質量%である。
【0019】
また、本発明のシュー用油脂組成物は、トランス脂肪酸を実質的に含有しないことが好ましい。ここでいう「トランス脂肪酸を実質的に含有しない」とは、トランス脂肪酸の含有量が、本発明の油脂組成物に含まれている油脂の全構成脂肪酸中、好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%未満、最も好ましくは2質量%未満であることを意味する。
水素添加は油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、これによって得られる水素添加油脂は、完全水素添加油脂を除いて、通常構成脂肪酸中にトランス脂肪酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス脂肪酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものが要求されている。
本発明に用いられる上記パーム分別軟部油(パーム軟質油)はトランス脂肪酸を実質的に含有しない油脂(通常、トランス脂肪酸の含有量は1未満)であるため、本発明では、上記油脂配合物に使用するその他の油脂(上記パーム分別軟部油以外の油脂)、及び上記油脂組成物に必要に応じ加えるその他の油脂(上記エステル交換油脂以外の油脂)として、それぞれ実質的にトランス脂肪酸を含有しない油脂を使用することで、水素添加油脂を使用せずとも良好なコンステンシーを有し、トランス脂肪酸を実質的に含有しない油脂組成物を簡単に得ることができる。
【0020】
本発明のシュー用油脂組成物は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上、好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上、最も好ましくは5〜40質量%である乳原料を含有することを特徴とする。乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%未満である乳原料を用いると、シューケース製造時の糊化工程で、十分な糊化が行われず、容積の大きなシューケースが得られないことに加え、ソフトな食感のシューケースが得られない。
【0021】
上記の乳由来の固形分中のリン脂質とは、乳由来の固形分中に含まれる乳由来のリン脂質のことを示す。
また、上記の乳原料は、液体状でも、粉末状でも、濃縮物でも構わない。但し、溶剤を用いて乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮した乳原料は、風味上の問題から本発明における乳原料として用いないのが好ましい。
【0022】
乳原料のリン脂質の定量方法は、例えば以下のような方法にて測定することができる。但し、抽出方法などについては乳原料の形態などによって適正な方法が異なるためこの定量方法に限定されるものではない。
まず、乳原料の脂質をFolch法を用いて抽出する。図1にFolch法のフローを示す。次いで、抽出した脂質溶液を湿式分解法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載の湿式分解法に準じる)にて分解した後、モリブデンブルー吸光度法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載のリンのモリブデン酸による定量に準じる)によりリン量を求める。求められたリン量から以下の計算式を用いて乳原料100g中のリン脂質の含有量gを求める。
リン脂質(g/100g)=〔リン量(μg)/乳原料採取量(g)〕×25.4×(0.1/1000)
【0023】
上記の乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料としては、例えば、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分があげられる。このクリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクとは組成が大きく異なり、リン脂質を多量に含有しているという特徴がある。バターミルクは、その製法の違いによって大きく異なるが、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、通常、0.5〜1.5質量%程度であるのに対して、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、大凡、2〜15質量%であり、多量のリン脂質を含有している。
【0024】
本発明では、上記のような通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクそのものを用いることはできないが、バターミルクを乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮したものを用いることは可能である。
【0025】
次に上記のクリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法について説明する。
クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30〜40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70〜95質量%まで高める。次いで乳化破壊機で乳化を破壊し、再び遠心分離機で処理することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。
一方、バターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まずバターを溶解機で溶解し熱交換機で加温する。これを遠心分離機で分離することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。該バターオイルの製造に用いられるバターとしては、通常のものが用いられる。
【0026】
また、本発明で用いられる上記水相成分としては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上であれば、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分をそのまま用いてもよく、また噴霧乾燥、濃縮、冷凍などの処理を施したものを用いてもよい。
【0027】
本発明のシュー用油脂組成物は、上記の乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として、0.1〜12質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは5〜10質量%含有するのがよい。
【0028】
本発明のシュー用油脂組成物で使用する蛋白質 としては、特に制限されるものではないが、例えば、ホエイ蛋白質、カゼイン蛋白質、その他の乳蛋白質、低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質、オボアルブミン、コンアルブミン、オボムコイド等の卵蛋白質、グリアジン、グルテニン、プロラミン、グルテリン等の小麦蛋白質、その他の動物性蛋白質及び植物性蛋白質等が挙げられる。これらの蛋白質は、目的に応じて、一種又は二種以上の蛋白質の形で添加してもよく、あるいは一種又は二種以上の蛋白質を含有する食品素材の形で添加してもよい。
【0029】
本発明のシュー用油脂組成物においては、上記蛋白質のうち、風味が良好な食感のシューケースが得られることから、乳蛋白質を使用することが好ましい。
また、上記乳蛋白質として、乳蛋白質を含有する乳原料、例えば、生乳、牛乳、加糖練乳、加糖脱脂れん乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン(TMP)、脱脂粉乳、全粉乳、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白濃縮物(WPC)、ホエイ蛋白単離物(WPI)、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、酸カゼイン、クリーム、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等を使用することもでき、また、上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分も乳蛋白質を含有することから、これを使用することもできるが、本発明では、良好な風味とソフト性のシューケースを得ることが可能である点で、蛋白質として、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分のみを使用することが最も好ましい。
【0030】
本発明のシュー用油脂組成物における蛋白質含有量は、組成物基準で1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%である。1質量%未満であると保型性の良好なシューケースが得られず、10質量%を超えると、硬い食感となりやすく、また焦げを生じたりするおそれがある。なお、上記蛋白質含有量には、下記のその他成分に含まれる蛋白質も含むものとする。
【0031】
本発明のシュー用油脂組成物は、上記乳蛋白質のうち、カゼインのナトリウム塩(カゼインナトリウム)を含有しないことが好ましい。
カゼインのナトリウム塩は、シューケースの容積・保型性の改良のために一般的に使用されるが、焼成により風味が変化し、膠臭に似た洋菓子に相応しくない臭いを有するのが欠点であり、特にシュークリームを包装し密封した場合、消費者が袋を開けて食しようとするときに、カゼインのナトリウム塩による膠臭に似た臭いが口内に広がり、シュークリームのおいしさを損なっていた。
本発明のシュー用油脂組成物においては、カゼインのナトリウム塩を含まなくても、容積が大きく、保型性及び風味が良好なシューケースを得ることができる。
【0032】
また、本発明のシュー用油脂組成物は、上記エステル交換油脂と、上記乳原料とを使用することで、乳化剤を配合せずとも糊化工程において良好な生地状態が得られるため、乳化剤を含有しないことが好ましい。
【0033】
上記の乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄等の合成乳化剤でない乳化剤が挙げられる。
【0034】
本発明のシュー用油脂組成物には、上記原料以外に、通常のシュー用油脂に使用される各種の食品素材や食品添加物を使用することができる。
たとえば、水、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β―カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー等の食品素材や食品添加物を含有させることができる。
本発明のシュー用油脂組成物におけるこれら成分の含有量は、一般的なシュー用油脂組成物に準じたものであればよいが、通常は合計で45質量%以下とするのが好ましい。
【0035】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
本発明のシュー用油脂組成物における上記増粘安定剤の好ましい含有量は、0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%である。
【0036】
本発明のシュー用油脂組成物は、ショートニングタイプ及びマーガリンタイプの何れのタイプでも良く、また、水中油型、油中水型、油中水中油型等どのような乳化形態であっても構わないが、蛋白質の分散性が良好な点及びシューケース製造時に扱いやすい点から水相成分を含有することが好ましいため、マーガリンタイプであることが好ましく、シュー用乳化油脂組成物の表面からの水分の飛散及びカビ等の発生を抑制する点から、油中水型乳化組成物とするのが好ましい。
【0037】
次に、本発明のシュー用油脂組成物の好ましい製造方法について説明する。
先ず、上記「ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂」(上記エステル交換油脂)を組成物基準で50〜90質量%となる量を含有する油相を溶解し、必要により水相を混合乳化する。そして、水相を混合したものについては、次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
次に、上記油相を冷却し、結晶化させる。好ましくは冷却可塑化する。冷却条件は、好ましくは−0.5℃/分以上、さらに好ましくは−5℃/分以上とする。この際、徐冷却より、急速冷却の方が好ましい。
【0038】
冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンピネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせも挙げられる。
また、本発明のシュー用油脂組成物を製造する際のいずれかの工程で、窒素、空気等を含気させてもよい
【0039】
次に、上述した本発明のシュー用油脂組成物を使用することを特徴とする本発明のシューケースについて述べる。
本発明のシューケースは、本発明のシュー用油脂組成物を使用して得られるものであり、焼成直後からソフトであり、経日的な食感の変化がないという特徴を有する。
【0040】
本発明のシューケースの生地配合は、特に限定されるものではないが、好ましくは、小麦粉100質量部に対し、本発明のシュー用油脂組成物70〜150質量部、特に100〜140質量部、水100〜250質量部、特に120〜200質量部、全卵150〜300質量部、特に200〜280質量部から構成される。本発明のシューケースの生地配合において、本発明のシュー用油脂組成物の配合量が、小麦粉100質量部に対し70質量部未満であると、シューケースのボリュームが小さく、食感が硬く、また形状の不安定なシューケースになりやすい。また、上記シュー用油脂組成物の配合量が小麦粉100質量部に対し150質量部を越えると、シューケースが油性感の強いものとなりやすい。
【0041】
また、上記シューケースの生地には、上記の成分に加えて、一般のシューケース製造に使用される重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム等の膨張剤を加えることができ、さらにその他必要に応じ、乳化剤、糖類及び糖アルコール、澱粉、無機塩、有機酸塩、ゲル化剤、乳製品、卵製品、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材全般、着香料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、pH調整剤等も適宜使用できる。
【0042】
次に、本発明のシューケースの好ましい製造方法について述べる。
本発明のシューケースは、本発明のシュー用油脂組成物を使用する以外は、一般のシューケースの製造方法に準じて行えばよく、例えば以下のようにして製造することができる。
本発明のシュー用油脂組成物を、水とともに加熱煮沸し、この中に小麦粉を添加して捏和し、一般のシュー皮と同様にシュー皮を形成するに適した糊化状態にした後、液卵をミキシングしながら数回に分けて加え、シュー生地を十分に乳化し、さらに液卵で硬さを調整してシュー生地を得る。該液卵としては、膨張剤を溶解した液卵を使用してもよい。尚、必要に応じ、前述した乳、乳化剤、糖類及び糖アルコール、澱粉類、無機塩、有機酸塩、ゲル化剤、乳製品、卵製品、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材全般、着香料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、pH調整剤等を、加熱沸騰時あるいはシュー生地の乳化時に添加、混合する。
そして、得られたシュー生地を絞り袋等に充填し、展板等の上に絞り、オーブン等により焼成して、本発明のシューケースを得る。
また、シュー生地は、生地の状態で、あるいは絞って玉にした状態で冷凍することも可能である。シュー生地を冷凍する場合は、−30℃〜−45℃の急速冷凍庫を使用し、急速冷凍を行うことが好ましい。
【実施例】
【0043】
次に、実施例、比較例等を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例等は本発明を制限するものではない。
【0044】
〔製造例1〕エステル交換油脂Aの製造
ヨウ素価55のパーム分別軟部油にナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行った。反応終了後(反応時間1hr)、脱色(白土3%、85℃、9.3×102Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、パーム分別軟部油のエステル交換油脂Aを得た。
【0045】
〔製造例2〕エステル交換油脂Bの製造
ヨウ素価65のパーム分別軟部油にナトリウムメチラートを触媒として、非選択的エステル交換反応を行った。反応終了後(反応時間1hr)、脱色(白土3%、85℃、9.3×102Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、パーム分別軟部油のエステル交換油脂Bを得た。
【0046】
〔製造例3〕エステル交換油脂Cの製造
ヨウ素価65のパーム分別軟部油10kgを原料油脂として、反応温度70℃にて、触媒としてリパーゼQLC(名糖産業(株)製)50gを用いて、15リットルの反応槽でエステル交換反応を行った。反応終了後(反応時間48hr)、脱色(白土3%、85℃、10mmHgの減圧下、30分間)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、パーム分別軟部油のエステル交換油脂Cを得た。
【0047】
〔製造例4〕エステル交換油脂Dの製造
ヨウ素価55のパーム分別軟部油85質量部と、ハイエルシンナタネ極度水素添加油脂15質量部を溶解、混合した油脂配合物(炭素数20以上の飽和脂肪酸の含有量=7%)10kgを、反応温度70℃にて、触媒としてリパーゼQLC(名糖産業(株)製)50gを用いて、15リットルの反応槽でエステル交換反応を行った。反応終了後(反応時間48hr)、脱色(白土3%、85℃、10mmHgの減圧下、30分間)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、パーム分別軟部油を85質量%含有し、且つ、構成脂肪酸として炭素数20以上の飽和脂肪酸を7質量%含有する油脂配合物を用いた、エステル交換油脂Dを得た。
【0048】
〔製造例5〕エステル交換油脂Eの製造
上記製造例1で得られたヨウ素価55のパーム分別軟部油50質量部と、ハイエルシンナタネ極度水素添加油脂5質量部、大豆油45質量部を溶解、混合した油脂配合物10kgを、反応温度70℃にて、触媒としてリパーゼQLC(名糖産業(株)製)50gを用いて、15リットルの反応槽でエステル交換反応を行った。反応終了後(反応時間48hr)、脱色(白土3%、85℃、10mmHgの減圧下、30分間)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、パーム分別軟部油を50質量%含有する油脂配合物を用いた、エステル交換油脂Eを得た。
【0049】
〔製造例6〕エステル交換油脂Fの製造
ヨウ素価50のパーム油10kgを、反応温度70℃にて、触媒としてリパーゼQLC(名糖産業(株)製)50gを用いて、15リットルの反応槽でエステル交換反応を行った。反応終了後(反応時間48hr)、脱色(白土3%、85℃、10mmHgの減圧下、30分間)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、パーム分別軟部油を含有しない油脂配合物を用いた、エステル交換油脂Fを得た。
【0050】
〔実施例1〕
エステル交換油脂A80質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%、蛋白質含有量12質量%)19質量部、食塩1質量部からなる水相を混合、乳化し、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型のマーガリンタイプの、実施例1のシュー用油脂組成物を得た。得られたシュー用油脂組成物のヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂の含有量は、80質量%、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として7.2質量%、蛋白質を2.3質量%含有するものであった。また、トランス脂肪酸含有量は2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有せず、また、乳化剤を含有せず、カゼインのナトリウム塩を含有するものでもなかった。
得られたシュー用油脂組成物を用いて、下記<シューケースの配合及び製造法>にてシューケースを製造した。得られたシューケースについて、下記の<容積評価方法>、<保型性評価方法><食感評価方法>及び<風味評価方法>に従って各評価を行った。評価結果を表1に記した。
【0051】
〔実施例2〕
エステル交換油脂B80質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%、蛋白質含有量12質量%)19質量部、食塩1質量部からなる水相を混合、乳化し、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型のマーガリンタイプの、実施例2のシュー用油脂組成物を得た。得られたシュー用油脂組成物のヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂の含有量は、80質量%、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として7.2質量%、蛋白質を2.3質量%含有するものであった。また、トランス脂肪酸含有量は2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有せず、また、乳化剤を含有せず、カゼインのナトリウム塩を含有するものでもなかった。
得られたシュー用油脂組成物を用いて、下記<シューケースの配合及び製造法>にてシューケースを製造した。得られたシューケースについて、下記の<容積評価方法>、<保型性評価方法><食感評価方法>及び<風味評価方法>に従って各評価を行った。評価結果を表1に記した。
【0052】
〔実施例3〕
エステル交換油脂C80質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%、蛋白質含有量12質量%)19質量部、食塩1質量部からなる水相を混合、乳化し、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型のマーガリンタイプの、実施例3のシュー用油脂組成物を得た。得られたシュー用油脂組成物のヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂の含有量は、80質量%、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として7.2質量%、蛋白質を2.3質量%含有するものであった。また、トランス脂肪酸含有量は2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有せず、また、乳化剤を含有せず、カゼインのナトリウム塩を含有するものでもなかった。
得られたシュー用油脂組成物を用いて、下記<シューケースの配合及び製造法>にてシューケースを製造した。得られたシューケースについて、下記の<容積評価方法>、<保型性評価方法><食感評価方法>及び<風味評価方法>に従って各評価を行った。評価結果を表1に記した。
【0053】
〔実施例4〕
エステル交換油脂D80質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%、蛋白質含有量12質量%)19質量部、食塩1質量部からなる水相を混合、乳化し、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型のマーガリンタイプの、実施例4のシュー用油脂組成物を得た。得られたシュー用油脂組成物のヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂の含有量は、80質量%、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として7.2質量%、蛋白質を2.3質量%含有するものであった。また、トランス脂肪酸含有量は2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有せず、また、乳化剤を含有せず、カゼインのナトリウム塩を含有するものでもなかった。
得られたシュー用油脂組成物を用いて、下記<シューケースの配合及び製造法>にてシューケースを製造した。得られたシューケースについて、下記の<容積評価方法>、<保型性評価方法><食感評価方法>及び<風味評価方法>に従って各評価を行った。評価結果を表1に記した。
【0054】
〔比較例1〕
エステル交換油脂E80質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%、蛋白質含有量12質量%)19質量部、食塩1質量部からなる水相を混合、乳化し、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型のマーガリンタイプの、比較例1のシュー用油脂組成物を得た。得られたシュー用油脂組成物は、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を含有せず、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として7.2質量%、蛋白質を2.3質量%含有するものであった。また、トランス脂肪酸含有量は2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有せず、また、乳化剤を含有せず、カゼインのナトリウム塩を含有するものでもなかった。
得られたシュー用油脂組成物を用いて、下記<シューケースの配合及び製造法>にてシューケースを製造した。得られたシューケースについて、下記の<容積評価方法>、<保型性評価方法><食感評価方法>及び<風味評価方法>に従って各評価を行った。評価結果を表1に記した。
【0055】
〔比較例2〕
エステル交換油脂F80質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%、蛋白質含有量12質量%)19質量部、食塩1質量部からなる水相を混合、乳化し、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型のマーガリンタイプの、比較例2のシュー用油脂組成物を得た。得られたシュー用油脂組成物は、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を含有せず、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として7.2質量%、蛋白質を2.3質量%含有するものであった。また、トランス脂肪酸含有量は2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有せず、また、乳化剤を含有せず、カゼインのナトリウム塩を含有するものでもなかった。
得られたシュー用油脂組成物を用いて、下記<シューケースの配合及び製造法>にてシューケースを製造した。得られたシューケースについて、下記の<容積評価方法>、<保型性評価方法><食感評価方法>及び<風味評価方法>に従って各評価を行った。評価結果を表1に記した。
【0056】
〔比較例3〕
パーム軟部油75質量部、ハイエルシン菜種極度水素添加油脂5質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%、蛋白質含有量12質量%)19質量部、食塩1質量部からなる水相を混合、乳化し、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型のマーガリンタイプの、比較例3のシュー用油脂組成物を得た。得られたシュー用油脂組成物は、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を含有せず、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として7.2質量%、蛋白質を2.3質量%含有するものであった。また、トランス脂肪酸含有量は2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有せず、また、乳化剤を含有せず、カゼインのナトリウム塩を含有するものでもなかった。
得られたシュー用油脂組成物を用いて、下記<シューケースの配合及び製造法>にてシューケースを製造した。得られたシューケースについて、下記の<容積評価方法>、<保型性評価方法><食感評価方法>及び<風味評価方法>に従って各評価を行った。評価結果を表1に記した。
【0057】
〔比較例4〕
エステル交換油脂A80質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、水16質量部、トータルミルクプロテイン(TMP)(蛋白質含有量80質量%)3質量部、食塩1質量部からなる水相を混合、乳化し、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型のマーガリンタイプの、比較例4のシュー用油脂組成物を得た。得られたシュー用油脂組成物のヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂の含有量は、80質量%、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を含有せず、蛋白質を2.4質量%含有するものであった。また、トランス脂肪酸含有量は2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有せず、また、乳化剤を含有せず、カゼインのナトリウム塩を含有するものでもなかった。
得られたシュー用油脂組成物を用いて、下記<シューケースの配合及び製造法>にてシューケースを製造した。得られたシューケースについて、下記の<容積評価方法>、<保型性評価方法><食感評価方法>及び<風味評価方法>に従って各評価を行った。評価結果を表1に記した。
【0058】
〔比較例5〕
パーム軟部油75質量部、ハイエルシン菜種極度水素添加油脂5質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、水16質量部、トータルミルクプロテイン(TMP)(蛋白質含有量80質量%)3質量部、食塩1質量部からなる水相を混合、乳化し、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型のマーガリンタイプの、比較例5のシュー用油脂組成物を得た。得られたシュー用油脂組成物は、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を含有せず、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料も含有せず、蛋白質を2.4質量%含有するものであった。また、トランス脂肪酸含有量は2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有せず、また、乳化剤を含有せず、カゼインのナトリウム塩を含有するものでもなかった。
得られたシュー用油脂組成物を用いて、下記<シューケースの配合及び製造法>にてシューケースを製造した。得られたシューケースについて、下記の<容積評価方法>、<保型性評価方法><食感評価方法>及び<風味評価方法>に従って各評価を行った。評価結果を表1に記した。
【0059】
〔比較例6〕
パーム軟部油75質量部、ハイエルシン菜種極度水素添加油脂5質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、水16質量部、カゼインナトリウム(蛋白質含有量90質量%)3質量部、食塩1質量部からなる水相を混合、乳化し、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型のマーガリンタイプの、比較例6のシュー用油脂組成物を得た。得られたシュー用油脂組成物は、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を含有せず、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料も含有せず、蛋白質を2.7質量%含有するものであった。また、トランス脂肪酸含有量は2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有せず、また、乳化剤を含有しないが、カゼインのナトリウム塩を3質量%含有するものであった。
得られたシュー用油脂組成物を用いて、下記<シューケースの配合及び製造法>にてシューケースを製造した。得られたシューケースについて、下記の<容積評価方法>、<保型性評価方法><食感評価方法>及び<風味評価方法>に従って各評価を行った。評価結果を表1に記した。
【0060】
<シューケースの配合及び製造法>
実施例1〜4又は比較例1〜6で得られたシュー用油脂組成物140gと水140gとをミキサーボウルに計量し、ガスコンロにかけ、105℃になるまで加熱溶解した。これに小麦粉100gを一気に投入し、十分糊化・混合して糊化物を得た。ミキサーボウルをミキサーにセットし、中速2分ミキシングし、糊化物が55℃まで冷えたところで、全卵250gに重炭酸アンモニウム1gを溶解した卵液を、中速でミキシングしながら徐々に加え、均一なシュー生地とした。絞り袋にシュー生地を充填し、ベーキングシートを敷いた展板に25g絞り、210℃に設定した固定オーブンで25分(13分経過後は上火カット)焼成した。
【0061】
<容積評価方法>
シューケースの比容積の測定を菜種置換法により算出し、以下の評価基準に従って評価した。
・評価基準
◎ 比容積12.0以上
○ 比容積11.0以上12.0未満
△ 比容積10.0以上11.0未満
× 比容積10.0未満
【0062】
<保型性評価方法>
シューケースの形の均整を目視により観察し、以下の評価基準に従って評価した。
・評価基準
◎ 底上がりも無く、キャベツの様な均整な割れを有していた。
○ 若干の底上がりがあるが、均整な割れを有していた。
△ やや扁平な形状であった。
× 底上がりが激しく、扁平な形状であった。
【0063】
<食感評価方法>
シューケースを試食し、食感について、以下の評価基準に従って評価した。
・食感評価基準
◎ ソフト性も口溶けもきわめて良好である。
○ ソフト性も口溶けも良好である。
△ ソフトな食感であるが、口溶けがやや不良である。
× 硬い食感であり、口溶けも不良である。
【0064】
<風味評価方法>
シューケースを試食し、風味について、以下の評価基準に従って評価した。
・風味評価基準
◎ きわめて良好である。
○ 良好である。
△ やや不良である。
× 雑味あり、不良である。
【0065】
【表1】

【0066】
上記表1からわかるように、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を50〜80質量%、及び、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として0.1〜12質量%含有する、実施例1〜4のシュー用油脂組成物を使用して得られたシューケースは、容積、保型性、食感、風味が良好であった。
特に、油脂配合物にヨウ素価60以上のパームスーパーオレインを使用した、実施例2及び実施例3のシュー用油脂組成物を使用したシューケースは、特に容積が大きかった。
【0067】
これらの実施例に対して、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として0.1〜12質量%含有するものの、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%未満しか含まない油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を使用した比較例1のシュー用油脂組成物や、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として0.1〜12質量%含有するものの、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を含有しない比較例2及び比較例3のシュー用油脂組成物を使用したシューケースは、容積が劣るものであった。
【0068】
また、さらに、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を50〜80質量%含有するものの、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として0.1〜12質量%含有しない比較例4のシュー用油脂組成物を使用して得られたシューケースは、食感が劣るものであった。
さらに、ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂、及び、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を共に含有しない比較例5のシュー用油脂組成物を使用して得られたシューケースは、容積、保型性、食感が劣るものであった。
なお、蛋白質としてカゼインナトリウムを使用した比較例6の油脂組成物を使用して得られたシューケースは容積、保型性は良好であるが、食感や風味が特に劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】乳原料の脂質を抽出するためのFolch法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を50〜90質量%、及び、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として0.1〜12質量%含有することを特徴とするシュー用油脂組成物。
【請求項2】
蛋白質を1〜10質量%含有することを特徴とする請求項1記載のシュー用油脂組成物。
【請求項3】
トランス脂肪酸を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1又は2記載のシュー用油脂組成物。
【請求項4】
乳化剤を含有しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシュー用油脂組成物。
【請求項5】
カゼインのナトリウム塩を含有しないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシュー用油脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシュー用油脂組成物を使用したシューケース。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のシュー用油脂組成物を使用することを特徴とするシューケースの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−295414(P2008−295414A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147501(P2007−147501)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】