説明

シリカの高密度化で改良された蛍光シリカナノ粒子

高密度のシリカシェルを有するコアシェルシリカナノ粒子が提供される。ナノ粒子は、例えば、増強されたフォトルミネセンス及び安定性など、改良された特性を有する。また、前記ナノ粒子を製造するための方法もまた、提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、その開示内容がここに参照によって援用される、2009年4月15日出願の米国仮出願、61/169,907及び2009年4月15日出願の米国仮出願、61/169,637に対して優先権を主張する。
【0002】
本発明は一般的に、改良された特性を有するシリカナノ粒子に関する。より具体的には、本発明は、高密度シリカシェルを有して改良された特性を備えるコアシェルシリカナノ粒子、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、所望のレベルの量子収率を提供し、また、好適な化学組成を有するフォトルミネセンス製品は存在しない。高い量子収率を有する量子ドットは存在しているものの、重金属を含有するため、シリカにカプセル化されていても、多くの生物学的応用において毒性である。
【発明の概要】
【0004】
一局面において、本発明は、改良された特性を有するコアシェルシリカナノ粒子を製造する方法を提供する。コアは、シリカ前駆体(1又は複数)と、光吸収性材料及び/又は発光性材料と共有結合したシリカ前駆体(1又は複数)(例えば、蛍光又は燐光材料)(機能性シリカ前駆体(1又は複数))とを、シリカコアを形成させる加水分解条件下で結合することによって製造される。光吸収性材料又は発光性材料は、コアのシリカネットワークに共有結合される。コアを封入するシェルは、シリカ前駆体(1又は複数)を少なくとも50℃で、新規なシリカナノ粒子の形成が観察されない条件下で添加することで、形成される。一つの態様において、コアシェルシリカナノ粒子は少なくとも1.4g/cmの密度を示す。他の態様において、シリカ前駆体はTEOS及び/又はTMOSである。
【0005】
一つの態様において、シリカシェルの形成の間、シリカ前駆体は少なくとも10分割された形態で、少なくとも50℃で、少なくとも1時間以上にわたって(逐次の分割単位の添加時間間隔は、少なくとも6分)、添加される。
【0006】
一つの態様において、シリカコアは直径1〜300nmである。他の態様において、シリカシェルの直径は1〜300nmである。他の態様において、コアシェルシリカナノ粒子は直径1.1〜1000nmである。
【0007】
別の局面において、本発明は、改良された特性を有するコアシェルシリカナノ粒子を製造する方法を提供する。コアは、シリカ前駆体(1又は複数)と、光吸収性材料及び/又は発光性材料と共有結合したシリカ前駆体(1又は複数)(例えば、蛍光又は燐光材料)(機能性シリカ前駆体(1又は複数))とを、シリカコアを形成させる加水分解条件下で結合することによって製造される。光吸収性材料又は発光性材料は、コアのシリカネットワークに共有結合される。シリカコアを封入するシリカシェルは、シリカ前駆体(1又は複数)を、50℃より低い温度で、新規なシリカナノ粒子の形成が観察されない条件下で添加することで、形成される。コアシェルナノ粒子は、50〜100℃の温度で12時間以上の時間及び/又は1.1気圧の圧力に、曝される。このように処理されたコアシェルシリカナノ粒子は少なくとも1.4g/cmの密度を示す。
【0008】
一つの態様において、シェルの形成の間、前駆体は、分割され、20〜23℃の温度で添加され、逐次の分割単位の添加時間間隔は少なくとも15分である。一つの態様において、分割物は少なくとも6時間以上にわたって添加される。一つの態様において、分割の数は、少なくとも23である。
【0009】
一つの態様において、本発明は、ここに開示の方法によって調製されたコアシェルシリカナノ粒子を提供するものである。
【0010】
別の局面において、本発明は、シリカのコアと、発光性材料(例えば、蛍光又は燐光材料)及び/又は光吸収性材料とを有するコアシェルナノ粒子を提供するものであり、発光性材料及び/又は光吸収性材料はコアのシリカネットワークに共有結合されている。コアの寸法の最長部は5〜500nmでありうる。シェルはシリカを含有する。コアシェルナノ粒子の寸法の最長部は5〜500nmでありうる。コアシェルナノ粒子の密度は少なくとも1.4g/cmでありうる。
【0011】
一つの態様において、コアシェルナノ粒子の密度は1.4〜2.1g/cmでありうる。他の態様において、光材料は蛍光染料(例えば、ADS832WS及びテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC))又は半導体ナノ粒子でありうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】左図はADS832WSコアナノ粒子のSEM画像である。中央図は通常シェル粒子である。右図は高密度化シェル粒子である。
【0013】
【図2】動的光散乱によって得られた、コア、シェル及び高密度化シェルADS832WS粒子の流体力学的直径のグラフ表示である。
【0014】
【図3】コア、通常シェル及び高密度化シェル粒子の、時間vsピーク吸収割合(836/760nm)のグラフ表示である。
【0015】
【図4】水中、及び、水とエタノールとの混合溶媒中での、ADS832WSコア粒子の吸収スペクトルである。
【0016】
【図5】836nmと760nmの間のピーク割合から、粒子中の染料を包囲する水のパーセンテージに換算する計算に使用しうるプロットの例示である。
【0017】
【図6】フリーのTRITC染料、コア、通常シェル粒子、及び、高密度化シェル粒子の、蛍光強度vs波長のグラフ表示である。
【0018】
【図7】コアシェルナノ粒子密度の計算の例である。
【0019】
【図8】コアシェルナノ粒子の別の実施態様の図示表示である。
【0020】
【図9】ADS832WSを含有する、通常、高密度化、及び、加圧高密度化シリカナノ粒子の、ピーク割合vs時間のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、コアシェルシリカナノ粒子及びそれを製造する方法を提供する。本発明のコアシェルナノ粒子はコア及びシェルを含有する。コアはシリカ及び光吸収性及び/又はフォトルミネセンス(発光性)材料を含有する。
【0022】
本発明はいくつかの独特の特徴を有する、しかしながらこれらに制限されない:
(i)コアシェルナノ粒子は、初期の合成の間及び初期の合成の後のいずれもの反応において、熱を適用されることで、高密度化シェルを有するよう製造されうる。
(ii)コアシェルナノ粒子は、全体的に室温よりも高い温度で形成されうる。コアは加温されて形成されうるし、シェルも加温されて形成されうる。
(iii)シリカナノ粒子又はその部分(例えば、コア、シェル)は密度が高く、ポロシティが低い。すなわち、シリカマトリックスとその中の孔を通じる溶媒の通過が減少し、そのために粒子蛍光の明るさを含む光物理的特性の増強が生じると予測される。
(iv)コアシェルナノ粒子は、光、蛍光、燐光又はそれらの組み合わせを吸収する分子もしくは無機材料を組み込みうる。
【0023】
コアシェルナノ粒子のコアは、シリカおよびフォトルミネセンス(発光性)及び/又は光吸収性材料を含有する。一つの態様において、コアは既知のゾルゲル化学、例えば、シリカ前駆体(1又は複数)の加水分解を用いて独立に合成できる。シリカ前駆体は、シリカ前駆体とシリカ前駆体複合体、例えば、光吸収及び/又はフォトルミネセンス(発光性)物と共有結合で複合化されたシリカ前駆体複合体(以下、「複合化シリカ前駆体」という。)との混合物として存在する。加水分解は、アルカリ(塩基)又は酸性条件下で実行しうる。例えば加水分解は、シリカ前駆体と複合化シリカ前駆体とを含む混合物に、水酸化アンモニウムを添加することによって実行しうる。
【0024】
シリカ前駆体は、加水分解条件の下でシリカを形成することができる化合物である。シリカ前駆体の例は、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)や類似物のようなオルガノシランを含むことができ、またこれらに制限されない。
【0025】
複合化シリカ前駆体を形成するのに使用されるシリカ前駆体は、吸収性及び/又はフォトルミネセンス(発光性)材料と反応して共有結合(1又は複数)を形成できる官能基(1又は複数)を有する。このようなシリカ前駆体の例は、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(ICPTS)、アミノプロピルトリメトキシシラン(APTS)、メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTS)、及び類似物を含むが、これらに制限されない。
【0026】
一つの態様において、オルガノシラン(複合化シリカ前駆体)が、一般式R(4-n)SiXnであるコアを形成するために使用される。前式において、Xは、エトキシ、メトキシ、又は2−メトキシ−エトキシのような加水分解性基;Rは、付加的に、例えばメルカプト、エポキシ、アクリリル、メタクリリル、及び、アミノのような官能性有機基を含んでもよい、炭素数1〜12の1価の有機基でありえ;nは、0〜4の整数である。蛍光化合物に複合化されたシリカ前駆体は、例えばTEOS及びTMOSのようなシリカ前駆体と、蛍光コアを形成するために共濃縮される。シリカシェルを形成するために使用されるシランは、nが4である。共反応性の官能基やガラス表面を含む水酸基官能性の表面官能性のカップリングや修飾のための、官能性のモノ−、ビス−、及びトリ−アルコキシシランの使用もまた公知である。Kirk-Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology, Vol. 20, 3rd Ed., J. Wiley, N.Yを参照のこと。特定の理論に拘束されることは意図しないが、カップリングは、アルコキシシラン基からシラノール基への加水分解の結果として、また、表面の水酸基の濃縮の結果として生じると考えられている。E. Pluedemann, Silane Coupling Agents, Plenum Press, N.Y. 1982を参照のこと。改変されたストーバー(Stoeber)の工程を用いてコアシェルナノ粒子を合成するプロセスは、米国特許出願10/306,614及び10/536, 569に見出すことができ、その工程はここに参照によって援用される。
【0027】
光吸収性又は発光性材料は有機材料、無機材料又はそれらの組み合わせでありうる。光吸収性材料は、例えば、有機吸収性染料又は顔料である。発光性材料は、例えば、有機蛍光/染料又は半導体ナノ結晶である。
【0028】
フォトルミネセンス材料は例えば、蛍光及び燐光材料を含むがこれらに制限されない。ナノ粒子は公知の蛍光及び/又は燐光応答性の材料、例えば、染料、顔料又はそれらの組み合わせを組み込みうる。多様な好適な化学的反応性の蛍光染料が公知であり、例えば、MOLECULAR PROBES HANDBOOK OF FLUORESCENT PROBES AND RESEARCH CHEMICALS, 6th ed., R. P. Haugland, ed. (1996)を参照のこと。典型的な蛍光物は、例えば、ピレン、アントラセン、ナフタレン、アクリジン、スチルベン、インドール又はベンゾインドール、オキサゾール又はベンゾオキサゾール、チアゾール又はベンゾチアゾール、4−アミノ−7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール(NBD)、シアニン、カルボシアニン、カルボスチリル、ポルフィリン、サリシレート、アントラニレート、アズレン、ペリレン、ピリジン、キノリン、クマリン(ヒドロキシクマリン及びアミノクマリン、その蛍光化誘導体も含む)及び類似の化合物を含む、蛍光の芳香族又はヘテロ芳香族化合物であり、これらに制限されない。例えば、米国特許番号5,830,912; 4,774,339; 5,187,288; 5,248,782; 5,274,113; 5,433,896; 4,810,636; 及び 4,812,409を参照のこと。例えば、300〜900nmの範囲に発光を有する蛍光材料が使用できる。
【0029】
シリカの、発光性及び/又は光吸収性材料に対する割合は、1:50〜1:2000(ナノ粒子を形成する反応後の、染料の全質量と粒子の全質量から決定される、材料のシリカに対する質量比)の範囲でありえ、これらの間の全ての割合を含む。いくつかの代表的な例としては、1:100、1:200、1:300、1:400、1:500、1:1000、1:1500を含む。
【0030】
コアシェルナノ粒子の直径は、例えば、約1〜約1,000nmでありえ、1から1000の全ての整数及び範囲を含む。様々な態様において、コアシェルナノ粒子の直径は1〜100nm、1〜50nm、及び1〜10nmである。多様な態様において、コアの直径は例えば、約1〜約300nmでありえ、1から300のすべての整数及び範囲を含む。また、約2〜約200nmでもありえる;また、シリカシェルの厚みは例えば、約1〜約300ナノメータでありえ、1から300の全ての整数及び範囲を含み、さらには約2〜約100ナノメータである。シリカシェルの厚みに対する、コアの厚み又は直径は、例えば、1:0.1〜1:100であり得る。
【0031】
シェルは、コアの上の高密度シリカコーティングであり、コア表面の、例えば約10〜約100(その間の全ての整数を含む)%をカバーしうるものである。一つの態様において、シェルはコアを封入している。一つの態様において、シェルは、シリカ前駆体(1又は複数)の(不連続的なステップでの)繰り返しの添加と加水分解によって製造されて、コア上にシェルが生成し、また、新規なシリカナノ粒子の核化が最小化又は完全に阻害されるようにされる。シリカシェル前駆体の例としては、コアの形成で開示されたものが挙げられるが、これらに制限されない。
【0032】
シリカシェルは少なくとも1.4g/cmの密度を有する。実施態様において、シリカシェルは1.4と2.1の間の0.1刻みの全ての値を含む、1.4〜2.1g/cmの密度を有する。特定の理論に拘束されることは意図しないが、シリカシェルの密度の増加は、コアシェルナノ粒子の安定性を強化し、発光/吸光を増加させると考えられる。
【0033】
一つの態様において、本発明のコアシェルナノ粒子は、300〜900nm(その間の全ての整数及び範囲を含む)の範囲の波長を有する電磁波の吸収及び/又は発光を示す。
【0034】
一つの態様において、本発明のコアシェルナノ粒子は、少なくとも10%の発光明るさの増強を示す。様々な態様において、明るさの増強は5〜50%(それらの間の整数も含む)である。
【0035】
一つの態様において、コアシェルナノ粒子は、増強された光安定性を示す。特定の理論に拘束されることは意図しないが、増強された光安定性は、シェルの密度上昇に少なくとも一部は関係して、ナノ粒子のシェルを通じた化学種の拡散が減少したことの結果だと考えられる。一つの態様において、光安定性は少なくとも10%増加する。多様な態様において、光安定性の増加は5〜50%(それらの間のすべての整数も含む)である。
【0036】
増強された明るさと光安定性とによって、従来方法で調製された本質的に同一組成の粒子、例えば、米国特許出願11/119,969に開示された粒子(コーネルドットと言われる粒子)と比較して、コアシェルナノ粒子の明るさ及び/又は光安定性が向上していることが示唆される。
【0037】
本発明は、高密度シリカシェルを有する、コアシェルシリカナノ粒子を製造する方法を提供する。一つの態様において、発明の方法は次のステップを含む:
a)シリカ前駆体(1又は複数)と、発光性材料とを結合することによってシリカコアを調製すること。ここで、発光性材料は、有機的に修飾されたシリカ前駆体(1又は複数)に共有結合されている、蛍光、燐光、及び/又は光吸収性材料であり、シリカ前駆体が加水分解されてシリカコアを形成する条件下で行う。
及び、
b)加温にて、シリカ前駆体を分割したものを逐次的に添加し、シリカ前駆体を加水分解することによって、シリカシェルを形成すること。光吸収性材料、発光性材料及び/又は光反応性材料は、コアを含むシリカネットワークに共有結合されている。例えば、少なくとも50℃の温度で、少なくとも10分割されたシリカ前駆体が、1〜24時間にわたって逐次的にコアに添加される。各分割単位の添加の時間間隔は、少なくとも6分間である。コアシェルシリカナノ粒子は、既知の粒子と比較して改良された明るさと安定性を示す。
【0038】
一つの態様において、コアは、上述のシリカシェル形成のための温度において、シリカと複合化シリカ前駆体の加水分解によって調製され、改良されたコアの密度を得る。
【0039】
他の態様において、本方法は次のステップを含む;
a)シリカ前駆体(1又は複数)と、発光性材料とを結合することによってシリカコアを調製すること。ここで、発光性材料は、有機的に修飾されたシリカ前駆体(1又は複数)に共有結合されている、蛍光、燐光、及び/又は光吸収性材料であり、シリカ前駆体が加水分解されてシリカコアを形成し、発光性材料及び/又は光反応性材料がシリカ中に隔離される条件下で行う。
b)室温においてシリカ前駆体を分割したものを逐次的に添加し、シリカ前駆体を加水分解させてシリカレイヤーを形成することによって、シリカシェルを形成すること。光吸収性材料及び/又は発光性材料はコアの中に隔離されている。コアシェルシリカナノ粒子は、シリカコア及び/又はシリカシェルの密度が上昇する条件(例えば、加温及び/又は加圧)にされる。
【0040】
当業者には、シリカ前駆体(1又は複数)の分割単位の量は、反応スケールに依存することが理解されるであろう。
【0041】
シェルが形成される温度は、少なくとも部分的には、反応を実行するために使用する溶媒(1又は複数)によって制限される。沸点の高い(例えば、100℃まで)溶媒(1又は複数)を含む溶媒系を用いることによって、改良された密度(例えば、約2g/cc)のシェル及び/又はコアが形成されうることが予想される。一つの態様において、添加/加水分解の温度は50℃〜100℃であり、それらの間の全ての整数値及び範囲を含む。当業者には、添加/加水分解温度は、反応において用いられる溶媒によって制限され、つまり、溶媒の沸点が添加/加水分解温度の上限を決定づけることが理解されるであろう。反応において、十分に沸点の高い溶媒が用いられた場合には、添加/加水分解温度をより高くでき、コアシェルナノ粒子は改良された特性(例えば、明るさ及び/又は密度)を示すことが予測される。
【0042】
添加/加水分解の間の時間間隔及び/又は添加/加水分解ステップの温度は、純粋なシリカナノ粒子の新規な核化が最小化され、排除されるように選択される。純粋なシリカナノ粒子の核化が全く観察されないことが望ましい。
【0043】
例えば、少なくとも23分割のシリカ前駆体が20〜23℃の温度(すなわち室温)において、少なくとも6時間にわたって逐次的にコアに添加される。各分割単位の添加の時間間隔は少なくとも15分である。続いてコアシェルナノ粒子は、少なくとも12時間にわたって及び/又は1.1以上の気圧下において、50〜100℃とされる。十分な気圧を用いることによって、シリカのゾルゲルが自己崩壊し得、それゆえに非常に高密度のコア及び/又はシェルが生成されるものと予測される。加温及び/又は加圧に曝された後のシリカシェルの密度は、少なくとも0.9g/cmである。
【0044】
他の態様において、ナノ粒子のマトリクスを構成するシリカ(例えば、ゾルゲルケミストリーを用いて形成されたシリカ)を通じた、水や他の分子の拡散割合の減少は、例えば、反応圧力を上げる、又は、反応後に温度及び/又は圧力を上げるといった、シリカ内での追加的な結合を形成する、及び/又は高エネルギーレーザーパルスを通じたナノ粒子の熱アニールを促進する方法で、達成することができる。粒子は高密度化シェル粒子のような挙動をし(図9、高密度化シェルの第2方法を参照)、このような挙動をするためには、シェルを通じる水の拡散割合が減少していることを予測しうる。さらに他の態様では、粒子マトリクスを構成するシリカを通じた水又は他の分子の拡散割合の減少は、コアシェルシリカナノ粒子内、もしくは粒子上の、疎水性又は溶媒非親和性又は撥水層との組み合わせによって達成される。この実施態様の例は、図8に示されている。
【0045】
本発明は、一つの態様において、貯蔵寿命が長く、光物理特性(例えば、安定性及び明るさ)に優れた蛍光シリカコアシェルナノ粒子を提供する。これらの面はいずれも、長期間にわたる光安定性が重要である多くの応用において求められるものである。
【0046】
さらに、シリカシェルの密度を調整する、ないしは、染料への分子の拡散をコントロールする能力が、光吸収性及び/又は発光性及び/又は光反応性のコアシェルシリカナノ粒子のセンサーへの応用において、この発明を重要なものとしている。例えば、本発明のコアシェルナノ粒子(例えば、ADS832WS染料含有吸収性コアシェルナノ粒子)は、センサーへの応用、例えば、水又は湿潤センサーへの応用に用いることができる。コアシェルナノ粒子のセンサー応用は、米国特許出願11/119,969に開示されており、このセンサーへの応用はここに参照によって援用される。
【0047】
例えば、ADS832WS染料がエタノール中にあるとき、その吸収スペクトルは、図4に示されるように、〜836nmに強いピークを持つ。水中にあるときには、その吸収スペクトルは、図4に示されるように、〜760nmにシフトする。スペクトルの変化は、エタノール対水の全範囲にわたって連続的であり(粒子は主としてエタノール溶液で製造され、それゆえに、粒子が形成されるにつれて、粒子構造の中に幾らかのエタノールが捕捉されるようである)、そのため、粒子の水含量との関連において、粒子を衡量するために使用されうるだろう。粒子が逆に使われる場合、すなわち、粒子が既に水を含み、エタノール又はメタノールの多い系に置かれた場合には、アルコールセンサーとして働くだろう。
【0048】
次の実施例は本発明を説明するために示される。それらによって、いかなる意味でも制限されることを意図しない。
【実施例1】
【0049】
ADS832WSを含有するコアシェルナノ粒子の合成/キャラクタリゼーション、材料と方法
材料
コアシェルナノ粒子の合成のために次の薬剤が使用された:エタノール(Pharmo−AAPER社)、テトラエトキシシラン(TEOS、Fluka社)、水酸化アンモニウム(28%NHOH水溶液、FisherScientific社)、粉末染料ADS832WS(AmericanDyeSource社)、ジメチルスルホキシド(DMSO、シグマアルドリッチ社)、及び、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(ICPTS、Gelest社)
【0050】
粒子の合成
I.染料の準備。ADS832WS染料は、取扱いと保存の簡易性のため粉末で入手される。染料粉体は、DMSOを用いて4.5mM染料溶液を形成するよう溶解される。
II.染料の複合体化。溶解された染料分子は、シリカ前駆体と複合体化される。この反応で、前駆体対染料が50:1モル割合となるよう、ICPTSと染料溶液が混合される。
III.コア合成。第一に、エタノール15.58Mがフラスコに入れられ、撹拌される。続いて、複合体化ADS832WS染料溶液1.66×10−5Mが添加混合され、NHOH2.93×10−4M及びTEOS1.98×10−4Mが添加される。得られた混合物は12時間撹拌される。
IV.シェル追加。コアを含む溶液は、体積の等しい2つの試料に分割される。一方には、エッペンドルフ自動ディスペンサーを用いて、室温にて15分間隔で、41分割されたTEOS5.14×10−5Mを添加することによって‘通常の’シェルが合成される。他の試料には、50℃に設定されたシリコンオイル浴中で、15分間隔で61分割されたTEOS7.65×10−5Mを添加することによって、‘高密度化された’シェルが合成される。
【0051】
100mLの合成反応の例を次に示す。第一に、ADS832WS染料粉末が、DMSO4.463mLと粉末0.01882gとを混合することで溶解される。この染料溶液から、400μLの溶液がICPTS22.5μLと複合体化され、混合物が24時間撹拌される。コアは、エタノール91mL、複合体化染料溶液369μL,NHOH水溶液4.082mL及びTEOS4.425mLを撹拌することで、合成される。得られた混合物は12時間撹拌される。
【0052】
100mLの反応物は2つの50mL試料に分けられる。試料の一方には、室温にて15分間隔で、TEOS574μLを41分割した14μLが添加されることで、シェルを合成する。他方の試料には、50℃に設定されたシリコンオイル浴中で、15分間隔で、TEOS854μLを61分割した14μLが添加されることで、高密度化シェルを合成する。
【0053】
物理的粒子測定
走査型電子顕微鏡(SEM)及び動的光散乱が、粒子径及び粒度分布を決定するために行われた。走査型電子顕微鏡観察は、イメージング中のサンプルの分解を最小限にするために、加速電圧1.0kV、LEO 1550 FE−SEMで行われた。エタノール中(速乾性にするため)の透析された希薄試料が、シリコンウエハ片の上に分散され、乾燥させられ、イメージングの前少なくとも1時間、真空乾燥された。Malvern Zetasizer Nano−ZS機での動的光散乱測定のために、透析された粒子はエタノールで少なくとも1:10に希釈された。図1のSEM画像は、コア、通常、高密度化シェル粒子の一連の粒子径と、粒度分布の狭さを示している。図2の、動的光散乱の平均数%プロットは、コア、通常、高密度化シェル粒子の粒子サイズを示している。通常及び高密度化シェル粒子は、示された通り同一のコアに作られたことに留意すべきで、この例は、シェルの厚みは3〜7nmであることを示した(SEMと動的光散乱のデータが組み合わせられる)。
【0054】
吸収測定
シェルの高密度化が粒子の光物理的な特性に与える影響を測定するため、吸収及び蛍光測定が行われ、分析された。水中での粒子の吸収のため、粒子試料1mLが、粒子をペレットに濃縮するためにエッペンドルフ5415R遠心分離機にて13,200回転で10分間、遠心分離される。上澄は除去され、1mLの水に交換される。続いて試料は、水に再分散させるため、SonicsVibraCellプローブ振盪機で30秒間、振盪される。続いてこの溶液は、Varian社のCary5000UV−Vis−NIR分光光度計を用いて、予め設定して時間間隔(最初の20分間は2分間隔、また、20分間隔で12時間)で、吸収が測定される。
【0055】
蛍光測定
蛍光測定が、蛍光染料テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)を封入した、新規なコアと粒子のセットについて行われた。コアと粒子は、通常及び高密度化シェルの添加を含む、上述と同じ方法を用いて合成された。この場合、染料は3−アミノプロピルトリエトキシシランを用いて複合体化される。粒子のセット、及び、フリーのTRITC染料試料は、蛍光強度を正確に比較するために同じ光学的濃度に吸収が調整された。これらの吸収が調整された粒子セットとフリーの染料は、続いて、回折格子で550nmの波長が選択されたキセノンアークランプで励起され、各セットの蛍光スペクトルがPhotonTechnologyInternationalの蛍光分光光度計で測定された。
【0056】
データの分析
収集された吸収データの各セットは、MATLABを用いて、二重指数関数型減衰機能の和で各走査バックグラウンドを合わせることによって、走査バックグラウンドが修正される(これにより修正した相関係数はR>0.99となり、拡張指数関数と比較した場合に、統計的に異なる結果とならない)。各データセットについて、836nmの一次ピークと760nmの二次ピークの光学的濃度の割合が算出される。この割合は、粒子が水に曝されていた時間に対してプロットされる。
【0057】
得られた蛍光データは、明確な比較を行うために、同じ軸状に4つのデータセット(フリーの染料、コア、通常のシェル粒子、高密度化シェル粒子)すべてについて、波長に対してプロットされる。
【0058】
結果
コア、通常及び高密度化シェルについての、これらの測定及び計算の結果は図3に示される。結果は、ADS832WSが封入された場合のシリカマトリックスによる強い保護、また、通常シェルによるさらなる保護を示している。同じコア上に高密度化シェルを添加することが、最大の保護をもたらす。この保護は例えば、シリカシェルを通じた拡散の減少に明示されうるものである。図3の割合のデータは、図4のプロットと図5の方程式を適用して、染料を包囲している水のパーセンテージに換算できるだろう。
【0059】
TRITC染料含有シリカナノ粒子について、試料はピーク吸収550nmにおいて吸収が調整され、同一条件での吸収が調整された試料から蛍光が収集された。蛍光プロットが図6に示される。通常シェル粒子は、コア及びフリー染料と比較して、明るさの明確な増加を示し、高密度化シェル粒子はさらに大きな(50%以上)明るさの増加を示した。
【実施例2】
【0060】
この例では、Parr−Bomb装置におけるCドット反応(コアシェルシリカナノ粒子が製造される)の実行のあと、熱及び圧力が適用された。この例では、高密度化シェルを生長させるためにさらなるシリカは必要とされないが、しかし、シリカシェルを通じる水の拡散割合の減少は、適用された粒子への熱または圧力の適用によって同じ結果が達成されることを示す。
【0061】
高密度化は、20mLのParr−Bomb中から作成された蛍光シリカナノ粒子15mLを取り、60℃に加温し、その温度を一晩維持することで行われる。この加温は、内部の圧力を上昇させる(約1.125気圧)。さらに、この加圧が、シリカの中でさらなる結合の形成を促進し、架橋の高度化、粒子密度の高度化を促進する。温度と持続時間は、粒子の密度を制御するために多様にされうる。図9は、通常シェル粒子、高密度化シェル粒子、及び、通常シェル粒子の合成後に上述の方法を用いた粒子(プロット中、高密度化シェル(第2方法))の比較を示している。予備的なデータのこのプロットにおいて、加圧高密度化粒子は高密度化シェル粒子と同じように振る舞い、追加のシリカは必要でなく、加圧及び加熱の12時間以内の適用のみでよいことが理解されるであろう。
【実施例3】
【0062】
本発明のコアシェルナノ粒子の密度を決めるために使用された計算の例が、図7に示される。生成したシリカシェルの密度の範囲は、2〜2.5g/ccである。Brinker‘sSolGelScience、583ページ、ボロシリケート(異なるシリカ組成)ゲルの密度は0.9g/cc以下に落ちるという記述に基づいて、我々の粒子(十分大きくされたもの)は水に沈殿し、そのため密度は1g/ccよりも大きい。例示の計算は1.1g/ccを開始密度としているが、2g/ccまで実現可能である。
【0063】
ここで発明は、特定の実施例(いくつかは好ましい実施例である)について特別に示され、説明されているが、ここに開示された本発明の思想及び目的から離れることなく、形態や詳細において多様な変更がなされうることが、当業者には理解されるだろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェルシリカナノ粒子を製造する方法であって、
a)シリカ前駆体と、光吸収性材料及び/又は発光性蛍光又は燐光材料に共有結合されているシリカ前駆体とを、前記シリカ前駆体が加水分解されて、発光性材料及び/又は蛍光材料がコアのシリカネットワークに共有結合されたシリカコアが形成される条件の下で結合することによって、シリカコアを調製すること;及び、
b)少なくとも50℃の温度で、新たなシリカナノ粒子の形成が観察されない条件の下で、シリカ前駆体を添加することによって、前記シリカコアを封入するシリカシェルを形成すること、
を含む方法。
【請求項2】
前記コアシェルシリカナノ粒子が、少なくとも1.4g/cmの密度である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シリカ前駆体がTEOS及び/又はTMOSである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
光吸収性材料及び/又は発光性材料の質量の、シリカの質量に対する割合が、1対50〜1対200である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップb)で、前記シリカ前駆体が少なくとも10分割されたシリカ前駆体の形で、少なくとも50℃の温度で、少なくとも1時間にわたって添加され、各分割単位の添加の時間間隔が、少なくとも6分である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップb)が、50℃から100℃で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記シリカコアが直径1〜300nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記シリカシェルが直径1〜300nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記コアシェルシリカナノ粒子が直径1〜1000nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
請求項1の方法で製造された、コアシェルナノ粒子。
【請求項11】
コアシェルシリカナノ粒子を製造する方法であって、
a)シリカ前駆体と、光吸収性材料及び/又は発光性蛍光又は燐光材料に共有結合されているシリカ前駆体とを、前記シリカ前駆体が加水分解されて、発光性材料及び/又は蛍光材料がコアのシリカネットワークに共有結合されたシリカコアが形成される条件の下で結合することによって、シリカコアを調製すること;
b)50℃より低い温度で、新たなシリカナノ粒子の形成が観察されない条件の下で、シリカ前駆体を添加することによって、前記シリカコアを封入するシリカシェルを形成すること;及び、
c)ステップb)のコアシェルシリカナノ粒子を、50〜100℃の温度で、少なくとも12時間にわたり、及び/又は、少なくとも1.1気圧の圧力にすること、
を含む方法。
【請求項12】
前記コアシェルシリカナノ粒子が、少なくとも1.4g/cmの密度である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップb)で、シリカ前駆体が、少なくとも23分割されたシリカ前駆体の形で、20〜23℃の温度で、少なくとも6時間にわたって添加され、各分割単位の添加の時間間隔が少なくとも15分である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
光吸収性材料及び/又は発光性材料の質量の、シリカ質量に対する割合が、1:50〜1:2000である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
請求項11の方法で製造される、コアシェルナノ粒子。
【請求項16】
a)シリカと、発光性蛍光又は燐光材料、及び/又は光吸収性材料とを含有し、発光性及び/又は光吸収性材料は、コアのシリカネットワークに共有結合され、コアの寸法の最大が5〜500nmであり;また
b)コアシェルナノ粒子の最長の寸法が、5〜500nmである、シリカを含有するシェル、
を有し、コアシェルナノ粒子の密度が少なくとも1.4g/cmである、コアシェルナノ粒子。
【請求項17】
コアが発光性材料を含み、また、発光の明るさが、本質的に同じ組成と構造を有する、従来方法で製造されたコアシェルナノ粒子と比較して10%増加している、請求項16に記載のコアシェルナノ粒子。
【請求項18】
前記コアシェルナノ粒子の密度が、1.4〜2.1g/cmである、請求項16に記載のコアシェルナノ粒子。
【請求項19】
前記発光性材料が、ADS832WS及びテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)から選択される蛍光染料である、請求項16に記載のコアシェルナノ粒子。
【請求項20】
請求項16のコアシェルナノ粒子を含む、センサー。

【図1】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2012−524014(P2012−524014A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505935(P2012−505935)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/031294
【国際公開番号】WO2010/121064
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511040838)コーネル ユニバーシティ (4)
【氏名又は名称原語表記】CORNELL UNIVERSITY
【Fターム(参考)】