説明

シリカ系多孔質膜およびその製造方法

【課題】 半導体素子用層間絶縁膜などに適用可能な低誘電率のシリカ系多孔質膜およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 シロキサン骨格を含む三次元網目構造が、SiO4四面体の架橋酸素の少なくとも1個以上を有機基で置換した四面体を表面および骨格内部に含み、かつ、その四面体を含む骨格で周囲を直接囲まれた平均径10nm以下の微細な空隙を有するシリカ系多孔質膜によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は LSI 素子の層間などに用いられる絶縁膜など低誘電率材料に関するものである
【0002】
【従来の技術】LSI 素子の高速化 高集積化につれて 信号遅延の問題が深刻になりつつある 信号遅延は配線の抵抗R と配線間ならびに層間の容量C の積に関係づけられ、遅延を最小に抑えるためには 配線抵抗を低下させることと並んで 層間絶縁膜の比誘電率を下げることが有効な手段である 2001年には、配線間隔が0.18μm程度に高集積化され、比誘電率2.5 未満の材料が必要になると言われている。
【0003】従来 層間絶縁膜としてはテトラアルコキシシランを加水分解して作製したゾルをスピンオングラス(SOG) 法によって成膜する方法が知られている しかしこのようにして作製した材料の分子構造は ≡Si-O-Si ≡の三次元網目構造で空隙を全く有さないものであり 比誘電率は4.0 と高かった 比誘電率を下げるための方法として CVD などによるSiOFの成膜 有機材料の成膜 多孔質膜などが提案されている SiOFはF の含有量の増大とともに比誘電率が3.3 程度まで低下するが F 量とともに吸湿性が高くなるという問題がある 有機材料は 比誘電率2.2 程度までの低誘電率材料が得られているが 耐熱性および基板との密着性が難しいという課題がある 有機SOG 系では、SiO2中に有機基を導入することにより低密度化し、比誘電率を下げることが検討されているが、2.7 程度が限界と言われている。一方、多孔質材料は、その比誘電率を孔の量によって変えられるので、比誘電率2.5 未満の材料として期待されている。
【0004】多孔質材料の例として、無機SOG をシリル化剤と反応させたものを成膜後、シリル化剤を熱処理によって分解させ、約80nmの孔を導入することにより比誘電率を2.3 まで下げた例が報告されている[N. Aoi, Jpn. J. Appl. Phys.36(1997) 1355]。しかし、この膜は大気中での吸湿により13% 程度の誘電率の増加があるうえ、導入される孔は大きく、0.18μm の配線間隔中に平均2 個の孔しかないため、膜強度が問題となる。
【0005】多孔質膜の別の例として、テトラエトキシシランを出発原料とする液を成膜後、雰囲気制御下でエージングし、表面張力の小さい溶媒と溶媒置換を行い、溶媒の蒸発時に膜が収縮しないように乾燥させ、表面をシリル化剤で処理することにより得られる、微細な孔のキセロゲル膜がある[Mat. Res. Soc. Symp. Proc. 443, 99(1997)]。しかしながら、このキセロゲル膜は、作製プロセスが複雑な上、各プロセスごとに厳密な管理が必要で、実際のデバイス作製には再現性などの点に問題があると考えられる。この膜の基本骨格はSiO4四面体で構成される。骨格内部はSiO4四面体のみで構成されるが、シリル化剤によって導入される有機基のために、孔の周囲と表面にのみ、SiO4四面体の酸素の一部が有機基で置換されたものも存在することになる。
【0006】表面にSi-H結合を有する水素化シリカ微粒子をhydrogen silsesquioxane(HSQ)で改質して成膜したものが比誘電率2.5 未満の材料として報告されている[ 村口他、第58回応用物理学会学術講演会講演予稿集No.2 4p-K-7]。しかし、Si-Hの耐熱性はあまり高くなく、400 ℃から水素の脱ガスが始まり、450 ℃以上で顕著になる。水素が脱離すると、膜の吸湿性が高くなる。LSI プロセスでは、金属配線のアニール温度が450 ℃と言われており、この膜はプロセスへの適合性に問題があると言える。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は 半導体素子 電気回路部品などに適用可能な 低吸湿性かつ低誘電率のシリカ系多孔質膜を提供するものである
【0008】
【課題を解決するための手段】前記課題は、(1)シロキサン骨格を含む三次元網目構造が、SiO4四面体の架橋酸素の少なくとも1個以上を有機基で置換した四面体を表面および骨格内部に含み、かつ、その四面体を含む骨格で周囲を直接囲まれた平均径10nm以下( 好ましくは5nm 以下、さらには2nm 以下、特に1nm 以下) の微細な空隙を有することを特徴とするシリカ系多孔質膜、(2)三次元網目構造中のSiとO 以外の無機成分が、B, Al, Ge, Ti, Y, Zr,Nb, Taから選ばれる1 種類以上の元素であることを特徴とする(1)記載のシリカ系多孔質膜、(3)前記有機基がメチル基および/またはフェニル基を含むことを特徴とする(1)または(2)記載のシリカ系多孔質膜、(4)三次元網目構造中のSiとO 以外の前記無機構成元素のSiに対するモル比が0.005 以上0.15以下であり、かつSiに対する前記メチル基および/またはフェニル基のモル比が0.6 以上1.5 以下であることを特徴とする(1)、(2)または(3)記載のシリカ系多孔質膜、(5)BET 法による比表面積が100m2/g 以上で、かつ、水の接触角が90度以上の(1)、(2)または(3)記載の低吸湿性シリカ系多孔質膜、(6)(1)、(2)、(3)、(4)または(5)記載のシリカ系多孔質膜を層間絶縁膜として含む半導体装置、(7)Siに結合している有機基が2種類以上あり、かつ、その熱分解温度が2種類(T1, T2:T1>T2)以上あり、かつ、無機主成分がSiO2であるシリカ系皮膜を、T1とT2の中間の温度で、不活性ガス雰囲気中で熱処理し、熱分解温度がT1の有機基を分解させることなく、熱分解温度がT2の有機基を分解させることにより、平均径10nm以下の空隙を、シロキサン骨格を含む三次元網目構造中に形成させることを特徴とするシリカ系多孔質膜の製造方法、(8)熱分解して空隙を形成する有機基が炭素数2以上(一般的には炭素数2〜12)のアルキル基またはそのフルオロ置換体であり、かつ、熱分解せずに膜中に残る有機基がメチル基またはフェニル基であることを特徴とする(7)記載のシリカ系多孔質膜の製造方法、(9)(A1)一般式R1Si(OR)3 またはR1SiX3(ここでR1はメチル基またはフェニル基、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物、および(B1)一般式R2R3Si(OR)2 またはR2R3SiX2(ここでR2, R3のうち少なくとも1種は炭素数2 以上(一般的には炭素数2 〜12)のアルキル基またはそのフルオロ置換体で、それ以外はメチル基またはフェニル基、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物を有機溶剤に溶かし、加水分解して得た溶液を含むシリカ系多孔質膜形成用塗布液、(10)(A2)一般式R4Si(OR)3 またはR4SiX3(ここでR4は炭素数2 以上(一般的には炭素数2 〜12)のアルキル基またはそのフルオロ置換体、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物、および(B2)一般式R5R6Si(OR)2 またはR5R6SiX2(ここでR5, R6はメチル基および/またはフェニル基、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、XはF 以外のハロゲン元素)で表される化合物を有機溶剤に溶かし、加水分解して得た溶液を含むシリカ系多孔質膜形成用塗布液、(11)(A1)一般式R1Si(OR)3 またはR1SiX3(ここでR1は炭素数2 以上(一般的には炭素数2 〜12)のアルキル基またはそのフルオロ置換体、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物、および(A2)一般式R4Si(OR)3 またはR4SiX3(ここでR4はメチル基またはフェニル基、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物を有機溶剤に溶かし、加水分解して得た溶液を含むシリカ系多孔質膜形成用塗布液、(12)前記塗布液が一般式M(OR) n またはMXn (ここでM はB, Al, Ge, Ti,Y, Zr, Nb, Ta, Siから選ばれる1 種類以上の金属元素、n は金属M が結合する酸素の数、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物を含み、Siに対するM のモル比が0.005 以上0.15以下であり、かつSiに対するメチル基および/またはフェニル基のモル比が0.6 以上1.5 以下であることを特徴とする(9)、(10)または(11)記載のシリカ系多孔質膜形成用塗布液、(13)前記塗布液中の溶質の重量平均分子量が5000未満(好ましくは3000未満、さらには1000未満、特に500 未満)であることを特徴とする(9),(10),(11)、または(12)記載のシリカ系多孔質膜形成用塗布液、(14)(9)から(13)のいずれか1項に記載の液を塗布後、70℃以上300 ℃以下の温度で乾燥させ、次に350 ℃以上650 ℃以下の温度で不活性ガス雰囲気中で熱処理し、炭素数2 以上のアルキル基またはそのフルオロ置換体を熱分解させることを特徴とするシリカ系多孔質膜の製造方法、によって解決される。
【0009】
【発明の実施の形態】一般にシリカガラスは、SiO4の四面体が4つの頂点すべてにおいて、酸素を介して隣の四面体とつながりSi-O-Si のシロキサン骨格からなる三次元網目構造を有するものである(図1)。これに対して本発明によるシリカ系多孔質膜は、シロキサン骨格を含む三次元網目構造が、SiO4四面体の4個の頂点のうち少なくとも1個に有機基が結合したものを含んでいるので、Siに結合した有機基を含んだSiO2を主成分とするガラスであり、かつ、そのガラス中に平均径10nm以下の微細な空隙を有するものである。三次元網目構造は、SiO4四面体の4個の頂点のうち少なくとも1個に有機基が結合した四面体の他に、SiO4四面体の4個の頂点のうち少なくとも1個に水素および/または水酸基が結合したもの、および/またはSiO4四面体の4個の頂点すべてにおいて架橋酸素を介して隣の四面体とつながった四面体を含んでもよい。本発明による空隙は、77K におけるN2ガスの吸着等温線からDollimore & Heal法(DH 法) で求めた細孔分布曲線から見積もると平均径10nm以下である。従って透過電子顕微鏡で50万倍の倍率にしても空隙は観察できない。本発明の多孔質膜の1例を図2に示す。本発明の多孔質膜は、たとえば図2に示すように網目構造中に形成された分子レベルの大きさの空隙を有するものである。
【0010】本発明のシリカ系多孔質膜における空隙は、平均10nm以下であるが、好適には実質的に全ての空隙が10nm以下である。空隙は実験により得られる細孔径分布により決められ、細孔径が空隙の大きさに相当する。また、空隙の大きさの平均値は、熱分解によって脱離する分子の大きさにより、5nm 、2nm 、1nm あるいはそれ以下にすることも可能である。
【0011】次に、本発明の多孔質膜の比誘電率について述べる。SiO4四面体の4個の頂点のうち少なくとも1個に水酸基が結合したもの、すなわち、シラノール基(-SiOH) があると、それ自身の分極率が大きい上、Si-OH ・・・ H-OHのように水素結合により大気中の水分を引き寄せるため、シラノール基が多量に存在すると材料の比誘電率が高くなる。シラノール基による吸湿性を防ぐためには、無機骨格を疎水性にすることが有効と考えられる。本発明では、シロキサン骨格中のSiの一部または全部に有機基が結合した構造になっているので、有機基により疎水化され吸湿を抑制できる。このような構造の多孔質膜は、空隙を取り囲むことによる低密度化の効果と、シロキサン骨格に有機基が結合し疎水化されることによる吸湿性の低減により、低誘電率化が図れる。低密度化および疎水化の効果をもたせるためには、Siに対する有機基のモル比が0.6 以上1.5 以下であることが望ましい。この比が0.6 より小さいと低密度化および疎水化の効果が小さく、1.5 より大きいと膜強度が低下する。空隙の平均径が10nmを越えると、膜強度が弱くなり絶縁膜としての信頼性に欠ける。たとえば、化学機械研磨(CMP)を行ったときに膜剥がれが起きたり孔の中に砥粒が入ったりするという問題や、配線に用いられるCuの拡散が速くなるため絶縁性が低下するという問題や、有効密着面積が少なく密着性が悪いという問題が生じる。本発明によれば空隙の大きさが10nm以下のシリカ系多孔質膜が得られるので上記の問題がなくなり、かつ、比誘電率(空気中)を2.5 未満にすることができる。
【0012】本発明の多孔質膜の膜厚は0.1 μm 以上5 μm 以下であることが望ましい。従来、多孔質の層間絶縁膜として知られているものは、いずれもSi-Oを主体とする無機骨格であり、オープンポアを含む膜表面のOH基を取り除くために雰囲気ガス中で熱処理したり、OH基を有機基などで置換したりしていた(例えばUS patents No.5,470,802, No.5,504,042 )。本発明は、網目構造を形成しているSiO4四面体の架橋酸素の少なくとも1個以上を有機基で置換した四面体を表面および骨格内部に含ませることにより、オープンポアを含む膜表面だけでなく、網目構造自体にも有機基が導入されている点において、従来のシリカ系多孔質膜と異なる。従来のシリカ系多孔質膜では、孔以外の部分がSiO2であるが、本発明においては、網目構造中にも有機基を含むため、孔以外の部分が有機ガラスになり、SiO2よりも比誘電率が低くなる。このため、本発明では、従来の多孔質膜より低い空隙率で、従来の多孔質膜と同じ比誘電率を達成することができる。したがって、多孔質膜としての強度・信頼性を向上させられる。
【0013】上記の三次元網目構造は、Si, O の他に、B, Al, Ge, Ti, Y, Zr, Nb, Taから選ばれる1 種類以上の金属元素を含むことにより、さらに比誘電率を下げることが期待できる。B, Al, Ge, Ti, Y, Zr, Nb, Taから選ばれる1 種類以上の金属元素M を多孔質膜中に導入するための原料M(OR) n またはMXn は反応性が高い。このため、膜中に存在している低反応性のシラノール(SiOH)基と容易に反応し、シラノール基のOHを取り除くことができるので、比誘電率を下げることができると考えられる。Siに対するM のモル比は0.005 以上0.15以下であることが望ましい。この比が0.005 より小さいとシラノール基低減の効果が小さく、0.15より大きいと比誘電率が高くなる。
【0014】SiO4四面体の架橋酸素の少なくとも1個以上を置換する有機基は、メチル基またはフェニル基であることが特に有効である。Siと結合する有機基は、LSI プロセスで要求される450 ℃の処理にも耐えられる程度の熱的な安定性と、それ自体の分極率が小さいことが望まれる。シロキサン網目構造に組み込まれたとき、メチル基とフェニル基は、どちらも650 ℃までの耐熱性があり、分極率も小さいため、Siに結合する有機基として有効である。
【0015】本発明によるシリカ系多孔質膜は、Krガスを用いてBET 法で測定した比表面積が100m2/g 以上、さらには200m2/g 以上であることが望ましい。BET 法による測定では窒素ガスを使うことが多いが、多孔質膜は吸着量がかなり小さいので、窒素より飽和蒸気圧の小さいKrを使った方が測定精度が高い。Krガスを用いてBET法で測定した比表面積が100m2/g 未満の場合、空隙が少なく低密度化による比誘電率低減の効果が小さい。また、水の接触角は90度以上であることが望ましい。90度未満の場合、疎水性の程度が不十分で、膜が吸湿性を示し、分極率の高いOH基が多くなるので、比誘電率が上がる。
【0016】さらに、本発明のシリカ系多孔質膜の多孔性は、平面基板上に形成した多孔質膜の表面積(基板の側面および底面の面積は除く)S BET と、平面基板の膜をつけた面積S geo との比、すなわちS BET /Sgeo (=r)が80を超えることを意味する。本発明ではこの比S BET /Sgeo が100 以上、より好ましくは120 以上、さらには150 以上特に175 以上であるが、理論的には200 〜300 にすることも可能である。なお、平面基板としてはSiウエハを用いることが簡便である。
【0017】また、熱分解性の有機基が抜ける前後での膜密度の測定からシリカ系多孔質膜の気孔率を概算することができる。本発明のシリカ系多孔質膜の気孔率としては、好ましくは10% 以上、より好ましくは15% 以上、さらには20% 以上、特に25%以上である。気孔率が小さいと比誘電率を低下させる効果が得られない。気孔率の上限は特に制約されず、膜強度との関係で適宜選択できるが、一般的には80%以上が好ましいと考えられる一方、本発明では50% 未満でも十分に低い比誘電率が得られる特徴を有する。
【0018】LSI 素子などの半導体装置に、本発明の低誘電率のシリカ系多孔質膜を層間絶縁膜として用いることにより、配線間及び層間の寄生容量を減らせるので、動作速度が速くなるという利点がある。本発明の多孔質膜を形成する三次元網目構造が有する空隙は、Siに結合していた有機基の熱分解によって形成することができる。すなわち、最終的に膜に残る疎水性の有機基(たとえばメチル基)と、嵩高く熱分解温度の低い有機基(以下R pyr と記載)がSiに結合している場合、まず、これらの有機基を組み込んだ三次元網目構造を形成する。次に、膜に残る疎水性の有機基と、嵩高く熱分解温度の低い有機基R pyr の熱分解温度をそれぞれT1、T2( すなわちT1>T2) とすると、T1とT2の間の温度で熱処理を行う。この熱処理により、 Rpyr は膜外に出ていくので、抜けた跡が空隙として残る。このようにして空隙を形成すると、半導体装置などの配線間隔に比べ十分微細な10nm以下の空隙が膜中に均一にできるので、膜強度が高い多孔質膜となる。また、熱分解を受けず膜に残っている有機基により、膜の疎水性は維持されるので、低誘電率化が期待される。このときR pyrを必ずしも100%分解する必要はない。膜中に例えば1 割程度、R pyr が残っていてもよい。また、R pyr を構成している原子のうちの一部が残ってもよいし、Rpyr が分解することによりSiとの結合の切れた部分に、R pyr に比べれば嵩が小さいため空隙を残せるような有機成分との結合ができてもよい。例えばR pyr が炭素数2 以上のアルキル基の場合、末端部の炭素から分解し、Siと結合する根元の部分にSi-CH3結合あるいはSi-H結合などのような基が生成してもよい。また、Si-Rpyr 結合において、R pyr の熱分解後そのSiが酸素を介して他のSiと結合し、Si-O-Si 結合を生成してもよい。
【0019】有機基の熱分解温度は、一般にフェニル基>メチル基>炭素数2 以上のアルキル基なので、上記の熱分解される有機基R pyr は、炭素数2 以上のアルキル基、またはそのフルオロ置換体であることが望ましい。また、膜中に残す有機基は、メチル基またはフェニル基であることが望ましい。有機基、特にアリル基で架橋したシルセスキオキサンにおいて、有機基の少なくとも一部を酸素プラズマなどの酸化剤で酸化させ、有機基の跡を孔とする多孔質シリカ体の作製方法が提案されている(US Patents No.5,321,102) 。この方法で得られる多孔体はモレキュラーシーブス、触媒担体として使うものであり、有機基が残ったとしても残った有機基を積極的に利用していない。これに対し本発明は、あらかじめ複数種類の有機基を入れておき、熱分解温度の低い有機基のみを選択的に分解させるため、最終的に得られる多孔質膜中に熱分解温度の高い有機基を必ず残すことができる さらに 膜中に残した有機基により膜が疎水化され 低誘電率化できるという点が異なっている。
【0020】また、メチルシルセスキオキサン中に低分子量の有機ポリマーを分散させ、熱処理によって有機ポリマーのみを熱分解させることによって多孔質膜を得る方法が提案されている(Julius F. Remenar, et. al., MRS 1998 Spring Meeting, Abstract p97, E2.4、US Patents No.5,700,844)。この方法で得られる孔の大きさはシロキサンポリマーと熱分解性の有機ポリマーの相分離状態に依存するようである。有機ポリマーがポリメチルメタクリレートの場合ミクロンオーダーの孔になり、ポリカプロラクトンの場合10nmである。本発明では、ポリマーのブレンドではなく、Siに直接結合している有機基の熱分解を利用するため、これらに比べて微細な孔を有する多孔体を作製することができる。
【0021】本発明によるシリカ系多孔質膜を形成するための塗布液について述べる。シロキサン結合を含む三次元網目構造が、SiO4四面体の架橋酸素の少なくとも1個以上を有機基で置換した四面体を含み、かつ、その四面体を含む骨格で周囲を直接囲まれた平均径10nm以下の微細な空隙を有するためには、その塗布液は、(A) 一般式R ' Si(OR)3 またはR ' SiX3(R ' は有機基、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物、および(B) 一般式R ''R ''' Si(OR)2 またはR ''R ''' SiX2(R '', R ''' は有機基、Rは炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物の加水分解物のうち、少なくともどちらか一方を必ず含むことが必要である。
【0022】(A) 群に属する化合物は、Siに有機基が1個のみ結合しているアルコキシドで、(B) 群に属する化合物はSiに有機基が2 個結合したアルコキシドである。(A)および(B) 群の化合物のSiアルコキシドに結合する有機基は2 種類に分類される。1つは、最終的に得られるシリカ系多孔質膜中に残って吸湿性を低減させる効果を持つ有機基である。もう1 つは、熱分解させることによって膜中に空隙を導入するための有機基である。(A), (B)の各Siアルコキシドに結合する有機基として、この2 種類の有機基をどう分配するかということが、塗布液の設計上、重要なポイントとなる。
【0023】特公平8-3074号は、シリカ系被膜形成用塗布液として、Q'4-m Si(OQ)m (ここで、Q'は炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基、Qは炭素数1 〜3のアルキル基、m は2〜4の整数)で表されるアルコキシラン化合物から選ばれる少なくとも2 種を有機溶剤に溶かし、加水分解して成る塗布液を提案している。また、特開平3-20377 号は、炭素数1〜4の低級アルキル基またはアリール基がSiに結合した2 官能性および3官能性のSiアルコキシドおよび、キレート剤が配位した各種金属のアルコキシドとから合成される塗布液を提案している。また、特開平6-346025号においては、2 官能性シラン1 モルに対して3 官能性シランを1 〜20モル含有する混合物を用いるというコーティング用組成物が提案されており、これらの2および3官能性シランに結合する加水分解性でない基として、水素、アルキル基、アリール基、アルケニル基、およびそれらの置換体が列挙されている。しかし、特公平8-3074号、特開平3-20377 号および特開平6-346025号は、いずれもクラックやピンホールのない厚膜形成を目的としたものである。従来、このような厚膜形成においては、有機成分の一部のみを部分的に熱分解させるという概念はなく、緻密な膜が形成されていた。本発明は、有機基の熱分解温度の差を利用して多孔質膜を形成するための塗布液であり、多孔質膜化できるために、従来の有機SOG などのシリカ系被膜では達成されていなかった低い比誘電率が得られるようになった。本発明はこの点において、特公平8-3074号、特開平3-20377 号および特開平6-346025号と大きく異なっている。本発明によれば、空気中の比誘電率として、2.5 以下、さらには2.4 以下、2.3 以下、2.2 以下も可能である。
【0024】まず、請求項9 について説明する。(A1)一般式R1Si(OR)3 またはR1SiX3(ここでR1はメチル基またはフェニル基、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)は(A) 群に属する化合物で、シリカ膜中に残って吸湿性を低減させるための有機基を導入すると同時に、シロキサン骨格を形成する原料である。具体的には、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどが挙げられる。(B1)一般式R2R3Si(OR)2 またはR2R3SiX2(ここでR2, R3のうち少なくとも1種は炭素数2 以上のアルキル基またはそのフルオロ置換体で、それ以外はメチル基またはフェニル基、Rは炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)は(B) 群に属する化合物である。(B1)の化合物は、熱分解することによって空隙を形成する有機基がSiに結合しており、空隙を含んだシロキサン骨格を形成するための原料である。(B1)の化合物として、具体的には、n-オクタデシルメチルジエトキシシラン、n-オクチルメチルジエトキシシラン、イソブチルメチルジクロロシラン、ジメトキシメチル-3,3,3- トリフルオロプロピルシラン,ジイソブチルジメトキシシラン、フェニルエチルジクロロシラン、t-ブチルフェニルジクロロシランなどが挙げられる。(A1) (B1)それぞれから1 種類以上の化合物を選んで有機溶剤に溶かし、加水分解することによりシリカ系多孔質膜形成用塗布液が得られる。この液は、(A1)および(B1)から選ばれる化合物以外に、ジエトキシジメチルシランなど、熱分解しない有機基がSiに2 個結合した化合物および/またはその加水分解物を含んでもよい。また、請求項12に記載したように、(C) 一般式M(OR) n またはMXn (ここでM は B, Al, Ge, Ti, Y, Zr, Nb, Ta, Siから選ばれる1 種類以上の金属元素 n は金属M が結合する酸素の数、R は炭素数1 〜4のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素) で表される化合物を含んでもよい。(C) で表される化合物を含む場合、M がSiのときは、膜強度を保つ効果があり、M がB, Al, Ge, Ti, Y, Zr, Nb, Taから選ばれる金属元素のときは、膜強度向上に加えて、膜中のシラノール基を低減する効果がある。
【0025】次に請求項10について説明する。(A2)一般式R4Si(OR)3 またはR4SiX3(ここでR4は炭素数2 以上のアルキル基またはそのフルオロ置換体、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)は(A) 群に属する化合物である。(A1)の化合物は、熱分解することによって空隙を形成する有機基がSiに結合しており、空隙を含んだシロキサン骨格を形成するための原料である。具体的には、イソブチルトリエトキシシラン、t-ブチルトリクロロシラン、(333-トリフルオロプロピル) トリメトキシシラン、(トリデカフルオロ-1122- テトラヒドロオクチル)トリエトキシシランなどが挙げられる。 (B2) 一般式R5R6Si(OR)2 またはR5R6SiX2(ここでR5, R6はメチル基またはフェニル基、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)は、(B) 群に属する化合物であり、シリカ膜中に残って吸湿性を低減させるための有機基を導入すると同時に、シロキサン骨格を形成する原料である。具体的にはジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジクロロシランなどが挙げられる。 (A2) (B2) それぞれから1 種類以上の化合物を選んで有機溶剤に溶かし、加水分解することによりシリカ系多孔質膜形成用塗布液が得られる。この液は(A2) (B2)、(C) の他に、請求項9 の説明で述べた(B1)の化合物および/またはその加水分解物を含んでもよい。また、請求項9 の説明で述べた(C) の化合物を含んでもよい (C) の化合物を含むときの効果は、請求項9 の説明で述べた通りである。
【0026】次に請求項11について説明する (A1)と(A2)はそれぞれ請求項9 および10の説明のところで述べた通りである。(A1) (A2)それぞれから1 種類以上の化合物を選んで有機溶剤に溶かし、加水分解することによりシリカ系多孔質膜形成用塗布液が得られる。この液は、(A1) (A2)、(C) の他に、請求項9 、10の説明のところでそれぞれ説明した(B1), (B2)の化合物および/またはその加水分解物を含んでもよい。また、請求項9 の説明で述べた(C) の化合物を含んでもよい (C) の化合物を含むときの効果は、請求項9 の説明で述べた通りである。
【0027】請求項9 〜11において、Siに対するM のモル比が0.005 以上0.15以下であることが望ましい。0.005 より小さいとシラノール基低減の効果が小さく、0.15より大きいと比誘電率が高くなる。Siに対するメチル基および/またはフェニル基のモル比は0.6 以上1.5 以下であることが望ましい。0.6 より小さいと低密度化および疎水化の効果が小さく1.5 より大きいと膜強度が低下する。
【0028】請求項13において、塗布液中の溶質の重量平均分子量は5000未満、好ましくは3000未満、さらには1000未満、特に500 未満であることが望ましい。重量平均分子量は簡易的にはゲル浸透クロマトグラフィ(GPC) で測定したスチレン換算の分子量分布から求めることができる。この分子量が小さい、すなわち、重合度が低い方が、嵩高く熱分解温度の低い有機基R pyr の結合したSiのアルコキシドやハロゲン化物の加水分解物が均一に分散した膜を作りやすい。 Rpyr が均一に分散していると、その熱分解によって後に生じる空隙も均一に分散し、その大きさは10nm、5nm さらには2nm 、1nm 以下の極めて小さい分子レベルのものとなる。重量平均分子量5000以上の塗布液を成膜して熱処理した場合は、孔の大きさが10nmを超えやすいため望ましくない。重合度が低いため、この塗布液の粘度はずり速度に依存しないニュートン性を示す。粘度は塗布液中の溶質、すなわち固形分濃度によって変わるが、概ね0.5 〜3.0mPa s である。
【0029】本発明の低誘電率材料の作製にアルコキシドを用いる場合、アルコキシ基の一部をβ- ジケトン β- ケトエステル、アルカノールアミン、アルキルアルカノールアミン、有機酸等で置換したアルコキシド誘導体も使用できる。本発明における加水分解では、全アルコキシ基に対して2 モル倍までの水を添加して加水分解する。この際、無機酸、有機酸あるいはそれらの両方を触媒として使用してもよい。また、アルカリで溶液のpHを調整し 加水分解反応を制御してもよい 添加する水は アルコール等の有機溶媒で希釈してもよい2モル倍以上の水を使用すると、成膜時に用いる塗布液の寿命が著しく短くなり、塗布液として保存中にゲル化するために好ましくない
【0030】加水分解においては、アルキルアルコキシシランなどのSi原料および金属アルコキシドを均一に分散、溶解できる有機溶媒が使用される。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の各種アルコール、アセトン、トルエン、キシレン等である加水分解後 溶媒として用いた あるいは加水分解で生成したアルコール等を常圧あるいは減圧下で留去して塗布してもよい 基板への塗布は、スプレーコート法、ディップコート法、スピンコート法等で行われる。
【0031】塗布膜は70 〜300 ℃でまず乾燥させ 溶媒を蒸発させる。その後400 〜650℃で不活性ガス雰囲気中で熱処理を行うことにより、嵩高く熱分解温度の低い有機基を熱分解させる 不活性ガスとしてはN2Ar、Heまたはそれらの混合ガスなどが使用できる。試料を熱処理炉に出し入れする際、および熱処理中には、熱処理炉内への大気の巻き込みを防止し、不活性ガス中に含まれる酸素濃度が100ppm以下、より好ましくは50ppm 以下、さらには20ppm 以下にすることが望ましい。熱処理温度が350 ℃未満であると 熱分解温度の低い有機基の分解が起こらないので、空隙ができず比誘電率が十分下がらない。650 ℃を超えると、すべての有機基が分解するので、吸湿性が著しく高くなり、膜中のOH基によって比誘電率が上がってしまう。
【0032】本発明による絶縁膜は LSI 素子用層間絶縁膜など半導体装置や各種電子部品に応用することができる また、触媒担体としても利用可能である。
【0033】
【実施例】本発明の低誘電率材料を以下の実施例によって具体的に説明する(実施例1)ジメトキシメチル3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシランをエタノール中で2 モル倍の水であらかじめ加水分解しておいたものと、アセト酢酸エチルと反応させておいたオルトチタン酸テトラエチルと、メチルトリエトキシシランをモル比で12:1:24 となるようにエタノール溶媒中で混合した。混合後、オルトチタン酸テトラエチルに対して70モル倍の水で加水分解した。この塗布液の粘度をE 型粘度計で測定したところ、コーンロータの回転速度が10rpm から100rpmの範囲で1.95mPa s であった。次に、この塗布液をテトラヒドロフランに溶解してGPC でスチレン換算の分子量を求めた。UV吸収から見た分子量分布を図3に示す。2つの大きなピークは分子量120 付近のところに存在し、エタノールやメタノールなどの溶媒ではなく、Siのアルコキシドに由来するものであった。塗布液中の溶質、すなわちシリコンおよびチタンのアルコキシドの加水分解物は重合度が極めて低いことがわかる。このように調整した液を、電気容量測定用には下部電極として白金のついたSiウエハ上に、FT-IR 測定用にはSiウエハ上に、それぞれスピンコータで成膜後、70℃、150 ℃、200 ℃の各温度に設定してあるホットプレート上で、1 分ずつこの順に乾燥させた。次に、電気炉により窒素雰囲気中、20分間450 ℃で熱処理した。
【0034】FT-IR スペクトルより、450 ℃の熱処理前には、SiO2膜にメチル基と-CH2CH2CF3が入った構造になっているが、熱処理後には、CF結合に由来するピークが完全に消失することころまで-CH2CH2CF3が熱分解し、メチル基のみが膜中に入った構造になっていることがわかった。Krガスを用いてBET 法で比表面積を測定したところ、450 ℃の熱処理前はウエハの幾何学形状から計算した比表面積と一致する緻密な膜であったが、熱処理後の膜は膜重量に換算して比表面積が260m2/g であった。膜の表面積とSiウエハの大きさから求めた基板面積の比S BET /Sgeo は175 であった。この膜の密度は1.2 であった。窒素中380 ℃で20分間熱処理を行いCH2CH2CF3 が熱分解せず全部残っている膜を作ったとき、密度は1.5 であった。膜密度の変化から求めた気孔率は約20% であった。これらの実験結果は、450 ℃処理で得られた膜が、有機基の熱分解によって生じた微細な空隙を含んだものであることを示している。細孔径分布は77K におけるN2ガスの吸着等温線よりDH法で求めた。細孔径は5nm 以下の領域に分布し、ピークは2nm 付近に存在した。また、厚さ約10nmの薄片を作製し、TEM で400 万倍の倍率で観察したが、孔は見られなかった。5nm 程度の孔はTEM で観察できることから、本発明による膜の孔はそれ以下の微細なものと考えられる。膜をはがして29Siと13C のNMR 測定をした結果、-CH2CH2CF3に含まれる3 種類のC に帰属されるピークは450 ℃の熱処理で消失し、-CH3のC のみ残っていることがわかった。Si核については450 ℃の熱処理後、全てのSiがメチル基が1 つついたT3タイプ(O を介したSiとの結合が3 個あるSi核)になっていた。
【0035】作製した膜の厚みは約500nm であった。熱処理後 通常のデシケータ中で1週間試料を放置し、直径1mm のAl電極を上部電極としてつけ インピーダンスアナライザで電気容量を大気中と真空中で測定した。この結果から比誘電率を算出したところ、大気中での比誘電率は2.3 、真空中での比誘電率は2.2 であった 大気中と真空中での誘電率の差は 膜中に大気中の水分が吸着されていることを意味する シリカ膜の誘電率が大体4 以下であるのに対し 水の誘電率は20℃で80であるので 少量の吸着であっても 誘電率には大きく影響し 微量の吸湿性の評価の指標となる 本実施例における吸湿による誘電率の差は、4%で多孔質膜としては非常に小さい。これは、膜中にメチル基が取り込まれているため、膜自体が疎水性になり、水分が入りにくいためと考えられる。接触角計で測定した結果、水の接触角は101 度であり、かなり疎水性になっていることを確認した。
【0036】(実施例2)アセト酢酸エチルとあらかじめ反応させておいたオルトチタン酸テトラエチルと、メチルトリエトキシシランと、イソブチルトリエトキシシランをモル比で1:1:5 となるようにエタノール溶媒中で混合した。混合後、オルトチタン酸テトラエチルに対して10モル倍の水で、塩酸触媒下で加水分解した。このように調整した液を、電気容量測定用には下部電極として白金のついたSiウエハ上に、FT-IR測定用にはSiウエハ上に、それぞれスピンコータで成膜後、70℃、150 ℃、200℃の各温度に設定してあるホットプレート上で、1 分ずつこの順に乾燥させた。次に、赤外炉により窒素雰囲気中、30分間450 ℃で熱処理した。
【0037】FT-IR スペクトルより、450 ℃の熱処理前には、SiO2膜にメチル基とイソブチル基が入った構造になっているが、熱処理後には、イソブチル基に由来するピークがほとんど消失することころまでイソブチル基が熱分解し、メチル基のみが膜中に入った構造になっていることがわかった。このことから、イソブチル基の熱分解によって生じた微細な空隙を含んだ膜ができていると推察される。
【0038】作製した膜の厚みは約600nm であった。熱処理後 通常のデシケータ中で1週間試料を放置し、直径1mm のAl電極を上部電極としてつけ インピーダンスアナライザで電気容量を大気中と真空中で測定した。この結果から比誘電率を算出したところ、大気中での比誘電率は2.45、真空中での比誘電率は2.3 であり、低誘電率で吸湿性の小さい膜が得られた。
【0039】(比較例)ジメトキシジメチルシランとメチルトリメトキシシランとテトラメトキシシランをエタノール中1:1:2 で混合し、全アルコキシ基に対して、等モル倍の水で加水分解した。実施例と同様に成膜・乾燥後、400 ℃で30分窒素中で熱処理したFT-IR スペクトルより、仕込み組成とほぼ同量のメチル基が膜中に入っていることがわかった。BET 法による比表面積の測定結果から、緻密な膜になっていることがわかった。
【0040】比誘電率は、大気中で3.0 、真空中で2.8 であった。この膜は、シリカ中に有機基としてメチル基が入っているが、空隙が殆どないため、誘電率を2.5 未満に下げることができなかった。
【0041】
【発明の効果】本発明によれば 比誘電率が2.5 未満と低く 吸湿性も低いシリカ系多孔質膜が得られた LSI 用層間絶縁膜など半導体素子および電気回路部品へこの低誘電率材料を適用することにより 電気信号の遅延が小さくなるため、デバイスの高速化に対応することができる
【図面の簡単な説明】
【図1】一般的なシリカガラスの網目構造を模式的に表した図。(図は2次元で表示したものである。実際の3次元ではSiの配位数は4 である。)
【図2】本発明の多孔質膜について、シリカガラスの網目構造中に平均径2nm の微細な空隙を含んだ構造を模式的に表した図。(図は2次元で表示したものである。実際の3次元ではSiの配位数は4 である。)
【図3】本発明の実施例におけるGPC 測定結果から求めた分子量分布。横軸はスチレン換算分子量M をlog スケールで表している。分子量M=500 のポイントを矢印で示している。縦軸はGPC 測定時のUV吸収強度である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シロキサン骨格を含む三次元網目構造が、SiO4四面体の架橋酸素の少なくとも1個以上を有機基で置換した四面体を表面および骨格内部に含み、かつ、その四面体を含む骨格で周囲を直接囲まれた平均径10nm以下の微細な空隙を有することを特徴とするシリカ系多孔質膜。
【請求項2】 三次元網目構造中のSiとO 以外の無機成分が、B, Al, Ge, Ti, Y, Zr, Nb, Taから選ばれる1 種類以上の元素であることを特徴とする請求項1記載のシリカ系多孔質膜。
【請求項3】 前記有機基がメチル基および/またはフェニル基を含むことを特徴とする請求項1または2記載のシリカ系多孔質膜。
【請求項4】 三次元網目構造中のSiとO 以外の前記無機構成元素のSiに対するモル比が0.005 以上0.15以下であり、かつSiに対する前記メチル基および/またはフェニル基のモル比が0.6 以上1.5 以下であることを特徴とする請求項1、2または3記載のシリカ系多孔質膜。
【請求項5】 BET 法による比表面積が100m2/g 以上で、かつ、水の接触角が90度以上の請求項1、2、3または4記載の低吸湿性シリカ系多孔質膜。
【請求項6】 請求項1、2、3、4または5記載のシリカ系多孔質膜を層間絶縁膜として含む半導体装置。
【請求項7】 Siに結合している有機基が2種類以上あり、かつ、その熱分解温度が2 種類(T1, T2:T1>T2)以上あり、かつ、無機主成分がSiO2であるシリカ系皮膜を、T1とT2の中間の温度で、不活性ガス雰囲気中で熱処理し、熱分解温度がT1の有機基を分解させることなく、熱分解温度がT2の有機基を分解させることにより、平均径10nm以下の空隙を、シロキサン骨格を含む三次元網目構造中に形成させることを特徴とするシリカ系多孔質膜の製造方法。
【請求項8】 熱分解して空隙を形成する有機基が炭素数2以上のアルキル基またはそのフルオロ置換体であり、かつ、熱分解せずに膜中に残る有機基がメチル基またはフェニル基であることを特徴とする請求項7記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。
【請求項9】 (A1)一般式R1Si(OR)3 またはR1SiX3(ここでR1はメチル基またはフェニル基、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物、および(B1)一般式R2R3Si(OR)2 またはR2R3SiX2(ここでR2, R3のうち少なくとも1種は炭素数2 以上のアルキル基またはそのフルオロ置換体で、それ以外はメチル基またはフェニル基、R は炭素数1 〜4のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物を有機溶剤に溶かし、加水分解して得た溶液を含むシリカ系多孔質膜形成用塗布液。
【請求項10】 (A2)一般式R4Si(OR)3 またはR4SiX3(ここでR4は炭素数2以上のアルキル基またはそのフルオロ置換体、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物、および(B2)一般式R5R6Si(OR)2 またはR5R6SiX2(ここでR5, R6はメチル基および/またはフェニル基、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物を有機溶剤に溶かし、加水分解して得た溶液を含むシリカ系多孔質膜形成用塗布液。
【請求項11】 (A1)一般式R1Si(OR)3 またはR1SiX3(ここでR1はメチル基またはフェニル基、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物、および(A2)一般式R4Si(OR)3 またはR4SiX3(ここでR4は炭素数2 以上のアルキル基またはそのフルオロ置換体、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF 以外のハロゲン元素)で表される化合物を有機溶剤に溶かし、加水分解して得た溶液を含むシリカ系多孔質膜形成用塗布液。
【請求項12】 前記塗布液が一般式M(OR) n またはMXn (ここでM はB, Al, Ge, Ti, Y, Zr, Nb, Ta, Siから選ばれる1 種類以上の金属元素、n は金属Mが結合する酸素の数、R は炭素数1 〜4 のアルキル基またはフェニル基、X はF以外のハロゲン元素)で表される化合物を含み、Siに対するM のモル比が0.005以上0.15以下であり、かつSiに対するメチル基および/またはフェニル基のモル比が0.6 以上1.5 以下であることを特徴とする請求項9、10または11記載のシリカ系多孔質膜形成用塗布液。
【請求項13】 前記塗布液中の溶質の重量平均分子量が5000未満であることを特徴とする請求項9,10,11、または12記載のシリカ系多孔質膜形成用塗布液。
【請求項14】 請求項9から13のいずれか1項に記載の液を塗布後、70℃以上300 ℃以下の温度で乾燥させ、次に350 ℃以上650 ℃以下の温度で不活性ガス雰囲気中で熱処理し、炭素数2 以上のアルキル基またはそのフルオロ置換体を熱分解させることを特徴とするシリカ系多孔質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2000−77399(P2000−77399A)
【公開日】平成12年3月14日(2000.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−368016
【出願日】平成10年12月24日(1998.12.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)