説明

シリカ膜による被覆方法並びにシリカ被覆体及びその製造方法

【課題】 基材の表面に所望の均一な厚さを有するシリカ膜を形成して、該基材を被覆する方法、及び、シリカ膜の厚さが従来よりも薄いものであっても、シリカ膜を紫外線から赤外線までの反射膜として十分に機能させることができるシリカ被覆体を提供する。
【解決手段】 基材の表面をシリカ膜で被覆する方法であって、少なくとも、シリカガラス粒子と、水溶液において熱的要因によりゲル化可能な有機物とを、水に加えてスラリーを作製する工程と、前記スラリーを前記基材の表面に塗布して塗布膜を形成するとともに、該塗布膜を熱的に処理してゲル膜を得る工程と、前記ゲル膜を乾燥させてシリカ粒子層とする工程と、前記シリカ粒子層を加熱して前記基材の表面上に固定させることにより、シリカ膜とする工程とを含むシリカ膜による被覆方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面をシリカ膜で被覆する方法、並びに、シリカ膜で被覆されたシリカ被覆体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な目的から基材の表面をシリカガラス膜で被覆することが行われている。特に、シリカガラス(石英ガラス)からなる基材の表面をシリカ膜で被覆する方法が広く行われている。
【0003】
シリカガラスを研削加工すると、その表面は平滑度を失うとともに透明性を失ってしまう。そのため、シリカガラスの表面に研磨を施し、平滑度と透明性を回復させている。また、シリカガラスが複雑な立体形状を有する場合など、研磨しにくい場合は、火炎でその表面を加熱するなどの方法も行われている。しかしながら、これらはともに、作業やガラスひずみの除去に時間を要してしまう。そのため、シリカガラスの表面をシリカ膜で被覆する方法も行われている。
【0004】
基材表面を覆うシリカ膜としては、シリカ粒子を堆積した形態が知られている(特許文献1及び特許文献2)。このようなシリカ粒子を堆積した形態のシリカ膜は、紫外線から赤外線までの広い範囲で遮蔽性に優れているため、例えば、石英チューブの内外表面に形成されて使用されている。このような石英チューブの外表面への膜形成では、スプレーやディップコートなど様々な手法が適用できる。一方、チューブの内表面への膜形成では粘性の高い液体やバインダーなどを加えたスラリーが用いられている。しかしながら、チューブの内表面へのシリカ膜形成において、内径が小さい場合や長尺品などでは、シリカ粒子を粘性の高い液体に分散してはいるものの、塗布後の液垂れにより、形成後のシリカ膜の厚さが不均一になり、また所望の厚さにすることが困難であった。また、このようなスラリーを塗布した後の液垂れの問題は、管状の基材の内壁への塗布に限られなかった。
【0005】
また、特許文献1及び特許文献2に記載されているシリカ粒子を堆積した形態のシリカ膜は、光を反射することを目的の一つとしているが、高い反射率を得るためには、厚いシリカ膜が必要となっていた。
【0006】
また、シリカガラス製品を製造する方法として、シリカ粉及びセルロース誘導体及び水を混合したスラリーから、射出成形によりシリカガラス製品を製造することが知られている(特許文献3及び特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−146588号公報
【特許文献2】特表2008−510676号公報
【特許文献3】特開2006−321691号公報
【特許文献4】国際公開第WO2006/085591号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、スラリーを用いて基材の表面にシリカ膜を形成する際に、スラリーを塗布した後の液垂れにより、形成後のシリカ膜の厚さが不均一になり、また所望の厚さにすることが困難であるという問題があった。
【0009】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、基材の表面に所望の均一な厚さを有するシリカ膜を形成して、該基材を被覆する方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、シリカ膜の厚さが従来よりも薄いものであっても、シリカ膜を紫外線から赤外線までの反射膜として十分に機能させることができるシリカ被覆体を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、基材の表面をシリカ膜で被覆する方法であって、少なくとも、シリカガラス粒子と、水溶液において熱的要因によりゲル化可能な有機物とを、水に加えてスラリーを作製する工程と、前記スラリーを前記基材の表面に塗布して塗布膜を形成するとともに、該塗布膜を熱的に処理してゲル膜を得る工程と、前記ゲル膜を乾燥させてシリカ粒子層とする工程と、前記シリカ粒子層を加熱して前記基材の表面上に固定させることにより、シリカ膜とする工程とを含むことを特徴とするシリカ膜による被覆方法を提供する。
【0012】
このようなシリカ膜による被覆方法であれば、スラリーを熱的な処理によりゲル化させることによって、流動性を著しく低下させることでスラリーの液垂れを防止することが可能になり、シリカ粒子層を所望の厚みに容易に制御することが可能となる。その結果、加熱後に基材の表面を、所望の均一な厚さを有するシリカ膜で被覆することができる。また、形成したシリカ膜は、シリカガラス粒子が粒子状の形態を残して固定化されたものとすることができる。
【0013】
この場合、前記基材の材質をシリカガラスとすることができる。
【0014】
本発明に係るシリカ膜による被覆方法は、形成するシリカ膜と同種の材料であるシリカガラスの表面を被覆することに特に好適である。
【0015】
また、前記熱的要因によりゲル化可能な有機物を、メチルセルロースとすることが好ましい。また、前記熱的要因によりゲル化可能な有機物を、寒天とすることも好ましい。
【0016】
このような有機物は安価であり、また、このような有機物を用いることにより、容易に熱的要因(加熱又は冷却)によりスラリーをゲル化することができる。
【0017】
また、前記スラリーに含有させるシリカガラス粒子を、平均粒径が5nm〜5μmのものとすることが好ましい。
【0018】
このような平均粒径のシリカガラス粒子を用いることにより、スラリーの膜厚をより均一にすることができる。
【0019】
また、本発明に係るシリカ膜による被覆方法は、前記基材が管状である場合に、該管状の基材の内壁に前記シリカ膜を形成することができる。
【0020】
このように管状の基材の内壁にシリカ膜を形成する場合であっても、本発明のシリカ膜の被覆方法であれば、管状の基材の内壁に、所望の均一な厚さのシリカ膜を形成することができる。
【0021】
また、前記基材の表面に形成したシリカ膜をさらに加熱することにより、少なくとも前記シリカ膜の表層部を透明化して透明シリカガラス層とすることができる。
【0022】
このように、加熱により、基材の表面に形成したシリカ膜の少なくとも表層部を透明化して透明シリカガラス層とすれば、シリカ膜からのパーティクルの発生や不純物ガス分子の放出をより効果的に防止することができる。
【0023】
この場合、前記透明シリカガラス層とするシリカ膜の表層部を、表面から少なくとも深さ0.05mmまでの領域とすることができる。
【0024】
このような深さまでの領域を透明化すれば、パーティクルの発生や不純物ガス分子の放出を十分に防止できる。
【0025】
また、前記シリカ膜の全体を透明化して透明シリカガラス層とすることもできる。
【0026】
本発明のシリカ膜による被覆方法では、目的に応じ、基材の表面上に形成したシリカ膜全体を透明シリカガラス層とすることもできる。
【0027】
また、本発明は、上記のいずれかのシリカ膜による被覆方法により前記基材の表面をシリカ膜で被覆してシリカ被覆体を製造することを特徴とするシリカ被覆体の製造方法を提供する。
【0028】
このようなシリカ被覆体の製造方法であれば、シリカ粒子層を所望の厚みに容易に制御することができるので、基材の表面を、所望の均一な厚さを有するシリカ膜で被覆したシリカ被覆体を製造することができる。
【0029】
また、本発明は、基材の表面上にシリカ膜が形成されたシリカ被覆体であって、前記シリカ膜は、50nm〜300nmの大きさのシリカガラス粒子が9×1012個/cm以上の密度で存在するものであり、前記シリカ膜は、波長200nm〜5000nmにおける光線の絶対拡散反射率が70%以上であることを特徴とするシリカ被覆体を提供する。
【0030】
このような、基材の表面上にシリカ膜として多数のシリカガラス粒子が固定化されたシリカ被覆体であれば、従来よりも薄い膜厚であっても、シリカ膜を紫外線から赤外線までの反射膜として機能させることができる。
【0031】
この場合、前記基材の材質をシリカガラスとすることができる。
【0032】
このように、シリカガラスからなる基材を本発明のシリカ膜で被覆し、該シリカ膜を反射膜として用いることにより、様々な用途に広く応用することができる。
【0033】
また、前記シリカ膜の厚さが0.5mm以上であることが好ましい。
【0034】
このようなシリカ膜の厚さであれば、十分にシリカ膜を紫外線から赤外線までの反射膜として機能させることができる。
【0035】
また、前記シリカ膜は、水素、水、酸素及び二酸化炭素に換算した際の1000℃までにおける総脱ガス分子数が1×1023個/g以下であることが好ましい。
【0036】
シリカ膜がこのような総脱ガス分子数であれば、シリカ被覆体を使用する際に、シリカ膜から放出されるガス分子による悪影響を低減することができる。
【0037】
また、前記シリカ膜の表面に透明シリカガラス層を有することが好ましい。この場合、前記透明シリカガラス層の厚さが0.05mm以上であることが好ましい。
【0038】
このように、シリカ被覆体が、シリカ膜の表面に透明シリカガラス層を有することにより、シリカ膜からのパーティクルの発生や不純物ガス分子の放出を防止すること等の効果を得ることができる。また、そのような効果は、透明シリカガラス層の厚さが0.05mm以上であれば十分に得ることができる。
【0039】
また、前記透明シリカガラス層は、水素、水、酸素及び二酸化炭素に換算した際の1000℃までにおける総脱ガス分子数が1×1015個/g以下であることが好ましい。
【0040】
透明シリカガラス層がこのような総脱ガス分子数であれば、シリカ被覆体を使用する際に、シリカ膜から放出されるガス分子による悪影響をより低減することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係るシリカ膜による被覆方法に従えば、基材の表面を、所望の均一な厚さを有するシリカ膜で被覆することができる。また、形成したシリカ膜は、シリカガラス粒子が粒子状の形態を残して固定化されたものとすることができる。
【0042】
また、本発明に係るシリカ被覆体であれば、シリカ膜の厚さが従来よりも薄いものであっても、シリカ膜を紫外線から赤外線までの反射膜として機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るシリカ膜による被覆方法の第1の態様の概略を示すフロー図である。
【図2】本発明に係るシリカ膜による被覆方法の第2の態様の概略を示すフロー図である。
【図3】本発明に係るシリカ被覆体の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図4】本発明に係るシリカ被覆体の別の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図5】本発明に係るシリカ被覆体のさらに別の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図6】本発明のシリカ膜のSEM写真である。
【図7】従来のシリカ膜のSEM写真である。
【図8】基材をスラリーに浸漬させることにより、基材の表面にゲル膜を形成する方法を説明する模式図である。
【図9】管状の基材の内側にスラリーを流し込む方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
前述のように、スラリーを用いて基材の表面にシリカ膜を形成する際に、スラリーを塗布した後の液垂れにより、形成後のシリカ膜の厚さが不均一になり、また所望の厚さにすることが困難であるという問題があった。
【0045】
この問題を解決するため、本発明者は、シリカガラス粒子を含むスラリーに熱的要因によりゲル化可能な有機物を少なくとも1種類以上含ませ、基材上にシリカ粒子層を形成させる際にスラリーをゲル化させながら行うことにより前述の問題を解決できることを見出した。すなわち、スラリーを熱的要因によりゲル化させることにより流動性を著しく低下させることでスラリーの液垂れを防止することが可能になり、またシリカ粒子層を所望の厚みに容易に制御することが可能となる。また、そのようなスラリーを用いて形成したシリカ膜は、シリカガラス粒子が粒子状の形態を残して固定化されたものとすることができ、膜厚が従来よりも薄いものであっても、紫外線から赤外線までの反射膜として十分に機能させることができることを見出した。
【0046】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
図1に、本発明に係るシリカ膜による被覆方法の第1の態様の概略を示した。
【0048】
まず、図1(a)に示したように、シリカガラス粒子と、水溶液において熱的要因によりゲル化可能な有機物とを、水に加えてスラリーを作製する(工程a)。
【0049】
水溶液において熱的要因によりゲル化可能な有機物の例としてはセルロース誘導体や寒天等が挙げられる。セルロース誘導体の水溶液は加熱によりゲル化し、流動性が低下する。セルロース誘導体の中でも、ゲル強度が高いメチルセルロースが特に好適である。一方、寒天(アガロース)の水溶液は冷却によりゲル化し、流動性が低下する。メチルセルロースや寒天は安価であり、また、容易に熱的要因によりスラリーをゲル化することができるので好ましい。
【0050】
また、このとき、スラリーに含有させるシリカガラス粒子を、平均粒径が5nm〜5μmのものとすることが好ましい。シリカガラス粒子の粒径範囲は、1nm〜10μmであることが好ましく、50nm〜300nmであることがより好ましい。このようなシリカガラス粒子を用いることにより、スラリーの膜厚をより均一にすることができる。また、後述のように、シリカ膜を反射膜として利用する場合には、このような粒径のシリカガラス粒子を用いた場合に、反射率向上に効果的となる。
【0051】
このスラリーには、上記の他に、結合剤(水溶性、エマルションのいずれでもよい)や、スラリー中の粒子の凝集を防止する分散剤等をさらに配合してもよい。
【0052】
次に、図1(b)に示したように、スラリーを基材の表面に塗布して塗布膜を形成するとともに、該塗布膜を熱的に処理してゲル膜を得る(工程b)。
【0053】
基材の表面上への塗布膜の形成方法としては、スプレー塗布、浸漬塗布、ブラシ塗布や流し込みによる塗布など様々な公知の方法を適宜用いることができる。例えば、基材が複雑な立体形状を有する場合には、浸漬による方法等を用いることができる。また、例えば、基材が管状であり、その内壁に塗布膜を形成する場合には、流し込みによる方法等を用いることができる。このようにして、基材の表面に均一に塗布膜を形成することができる。
【0054】
熱的に処理するとは、熱的要因によりゲル化可能な有機物の種類により、加熱すること又は冷却することを意味する。すなわち、有機物としてセルロース誘導体を採用した場合は加熱によりゲル化させ、有機物として寒天を採用した場合は冷却によりゲル化させる。ここでは、ゲル膜が得られればよく、加熱又は冷却の具体的な方法は特に限定されない。
【0055】
基材の材質はシリカガラスとすることができる。本発明のシリカ膜による被覆方法は、シリカガラス粒子を用いて、基材の表面をシリカ膜で被覆するので、熱膨張率等の観点から、基材の材質もシリカガラスである場合に、特に好適な方法である。基材のシリカガラスとしては、例えば、天然透明石英ガラス、天然又は合成泡入り不透明石英ガラス、黒色石英ガラスや擦りガラス状態(表面凸凹)のシリカガラスなどが挙げられる。
【0056】
本発明は、基材が管状であり、該管状の基材の内壁にシリカ膜を形成する場合に特に好適である。このような管状基材(例えば、シリカガラス製のチューブ)の内壁へのシリカ膜の形成は、例えば内径が20mm以下のような場合には、従来、所望の膜厚かつ均一な膜厚とすることができなかった。本発明では、そのような内径の小さい管状基材の内壁にもシリカ膜を形成することができ、例えば内径5mmのような管状部材の内壁にも所望の均一な厚さのシリカ膜を形成することができる。
【0057】
次に、図1(c)に示したように、ゲル膜を乾燥させてシリカ粒子層とする(工程c)。乾燥方法は特に限定されない。例えば、乾燥した空気中に放置することで行うことができる。この乾燥は室温で行うこともできる。
【0058】
次に、図1(d)に示したように、シリカ粒子層を加熱して基材の表面上に固定させることにより、シリカ膜とする(工程d)。このシリカ粒子層を加熱して、シリカ膜とする方法としては、大気焼結炉や真空焼結炉など一般にガラスの加熱に用いられる方法を適用できる。
【0059】
この焼結工程により、シリカガラス粒子同士をネッキングし、また、シリカ膜が基材に固定される。基材がシリカガラスの場合には特に固定されやすい。
【0060】
このようにして、図3に示したシリカ被覆体110を得ることができる。シリカ被覆体110は、基材100の表面上にシリカ膜111が形成されたものである。さらに、工程a〜dを経ていることにより、シリカ膜111は、シリカガラス粒子が粒子状の形態を残して固定化されたものである。この形態では、粒子同士がネッキングにより連結されているが、各粒子は、凹凸、泡、空隙、界面、密度ばらつきなどを境界として区別することができる。
【0061】
本発明のシリカ膜による被覆方法により、シリカ膜をシリカガラス板上に形成した場合のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を図6に示した。図6(a)はシリカ膜の表面のSEM写真であり、図6(b)はシリカ膜の断面のSEM写真である。シリカガラス粒子が粒子状の形態を残しており、各粒子は大きさが一定範囲内であることがわかる。
【0062】
一方、従来の方法(特許文献2の方法)により形成したシリカ膜のSEM写真を図7に示した。図7(a)はシリカ膜の表面のSEM写真であり、図7(b)はシリカ膜の断面のSEM写真である。図6と比べると、シリカは粒子形状をほとんど残していないことがわかる。
【0063】
工程b〜dを繰り返すことにより、さらにシリカ膜の膜厚を厚くすることもできる。また、工程b〜cを繰り返してシリカ粒子層を厚く形成し、最終的に工程dの加熱・固定化を行って、厚いシリカ膜を得ることもできる。
【0064】
シリカ膜に存在するシリカガラス粒子は、粒径範囲が1nm〜10μmであることが好ましく、50nm〜300nmの範囲にあることがより好ましい。シリカガラス粒子は細かいものが密であるのが理想であり、9×1012個/cm以上存在すると反射率向上に効果的である。本発明のシリカ膜による被覆方法であれば、シリカ膜を、50nm〜300nmの大きさのシリカガラス粒子が9×1012個/cm以上の密度で存在するものとすることができる。このようにすることにより、シリカ膜を、波長200nm〜5000nmにおける光線の絶対拡散反射率が70%以上のものとすることができる。
【0065】
ただし、スラリーに混合するシリカガラス粒子の粒径を小さくしようとすると、スラリーが低濃度となり膜厚が得にくくなり、一方で粒径が大きくなると反射効率が低下する傾向がある。そこで、シリカ膜の膜厚や、求められる反射率に応じて、スラリーに混合するシリカガラス粒子の粒径を適宜選択することになる。
【0066】
シリカ膜を、紫外線から赤外線まで幅広く反射膜として使用する場合は、シリカ膜の厚さは0.5mm以上であることが好ましい。
【0067】
シリカ被覆体の用途によってはシリカ膜からの不純物放出が問題となる。シリカ被覆体が高温となった際には水素、水、酸素及び二酸化炭素の放出が増加する傾向にある。そこで、シリカ膜を加熱溶着させる工程(工程d)において、上記ガスを放出しにくくなるように酸素含有雰囲気や窒素雰囲気で加熱処理することが好ましい。シリカ膜が、水素、水、酸素及び二酸化炭素に換算した際の1000℃までにおける総脱ガス分子数が1×1023個/g以下であれば、これらのガスによる悪影響を抑止できる。
【0068】
この総脱ガス分子数の測定は、以下のようにして行うことができる。昇温脱離ガス分析法にて、脱離するガスの質量分析を行い、分子数の定量分析を行った(電子科学社製 昇温脱離分析装置 WA1000S/W使用)。本発明での脱ガス分析の条件は以下の通りである。測定試料を減圧チャンバー内において高真空雰囲気下、室温から1000℃まで30℃/分で昇温し、1000℃に達した後、該温度で30分間保持した。この室温からの昇温開始後から、1000℃における30分間の保持が終わるまでの間に、試料から放出された各分子量のガスの分子数を測定した。分子量2は水素ガス、分子量18は水、分子量32は酸素ガス、分子量44は二酸化炭素ガスとし、前記ガスの分子数を足し合わせたものを総脱ガス分子数とした。
【0069】
本発明では、基材の表面に形成したシリカ膜をさらに加熱することにより、少なくともシリカ膜の一部を透明化して透明シリカガラス層とすることができる(第2の態様)。この態様の概略を図2に示した。
【0070】
図2(a)〜(d)に示したように、まず、第1の態様の工程a〜dと同様の各工程を行う。また、前述のように、工程b〜d又はb〜cを繰り返して行ってもよい。その後、図2(e)に示したように、基材の表面に形成したシリカ膜をさらに加熱することにより、少なくともシリカ膜の一部を透明化して透明シリカガラス層とする(工程e)。
【0071】
このシリカ膜の透明化には、酸水素火炎溶融、プロパン火炎溶融、アーク溶融、電気溶融等による表面加熱方法を用いることができる。シリカ膜の表面のみの加熱の場合、局所的な加熱となるので温度(火炎溶融の場合は火炎の温度)やその距離を適切に調整する必要がある。なお、ここで透明シリカガラス層とするシリカ膜の表層部は、表面から少なくとも深さ0.05mmまでの領域とすることが好ましい。このような膜厚の透明シリカガラス層あれば、短い作業時間と少ないコストで、上記効果を得ることができる。
【0072】
シリカ膜の表層部のみを透明化した場合には、図4に示したシリカ被覆体120を得ることができる。シリカ被覆体120は、シリカ膜121の表面に透明シリカガラス層122を有する。このようなシリカ被覆体120は、シリカ膜121に存在するシリカガラス粒子の表面露出が好ましくない場合の用途に使用することができる。すなわち、シリカ膜の表面に透明シリカガラス層を有することにより、シリカ膜からのパーティクルの発生を防止したり、不純物ガス分子の放出を防止したりできる。不純物ガス分子の放出に関しては、シリカ膜121の表面に透明シリカガラス層122を形成することで、透明シリカガラス層122から放出される総脱ガス分子数を1×1015個/g以下とすることができ、その下に位置するシリカ膜からの不純物ガス分子の放出を防止できる。
【0073】
また、シリカ膜の全体を透明化して透明シリカガラス層とすることもできる。この場合、図5に示したように、シリカ被覆体130は、基材100の表面上のシリカ膜131の全体が透明シリカガラス層132である。基材100の材質がシリカガラスの場合、シリカ膜131は基材100と一体化させることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
平均粒径が5μmの合成シリカガラス粒子を、1%のメチルセルロースを含む水溶液に分散させ、固形分濃度が50%のスラリーとした。
【0076】
このスラリーを用いて、以下のように、30mm角の天然石英ガラス板(基材)の表面にゲル膜を形成した。図8を参照して説明する。天然石英ガラス板200を、スラリー容器220に入れた上記スラリー210に浸漬した(図8(a))。このスラリー210から天然石英ガラス板200を引き上げることにより、天然石英ガラス板200の表面に塗布膜を形成した(図8(b))。この引き上げの際に、加熱したボックス(熱的処理手段)230を通過させて塗布膜を加熱し(図8(c))、スラリーをゲル化させた(図8(d))。
【0077】
その後、ゲル膜を乾燥させることで、表面をシリカ粒子層で被覆した天然石英ガラス板を得た。これを大気雰囲気下1000℃で5時間加熱し、膜厚がおよそ200μmのシリカ膜で被覆された天然石英ガラス板を得た。SEM観察により、このシリカ膜は、シリカガラス粒子が固定化されたものであることを確認した。
【0078】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で得たシリカ被覆体(シリカガラス粒子が固定化されたシリカ膜で被覆された天然石英ガラス板)を、大気雰囲気下1400℃で1時間加熱した。これにより、シリカ膜全体を透明化して透明シリカガラス層とした。これにより、透明シリカガラス層の膜厚はおよそ150μmとなり、基材の天然石英ガラス板と透明シリカガラス層とが一体化したシリカガラスを得た。
【0079】
(実施例3)
平均粒径が5μmの合成シリカガラス粒子を、1%の寒天を含む水溶液に分散させ、固形分濃度が50%のスラリーとした。このスラリーに30mm角の天然石英ガラス板を基材として浸し、スラリーから天然石英ガラス板を引き上げることにより、天然石英ガラス板の表面に塗布膜を形成した。この引き上げの際に、冷却したボックス内を通過させて塗布膜を冷却し、スラリーをゲル化させた。その後、ゲル膜を乾燥させることで表面をシリカ粒子層で被覆した天然石英ガラス板を得た。これを大気雰囲気下1000℃で5時間加熱し、膜厚がおよそ200μmのシリカ膜で被覆された天然石英ガラス板を得た。SEM観察により、このシリカ膜は、シリカガラス粒子が固定化されたものであることを確認した。
【0080】
(実施例4)
平均粒径が100nmの合成シリカガラス粒子を、1%のメチルセルロースを含む水溶液に分散させ、固形分濃度が40%のスラリーとした。このスラリーに30mm角の天然石英ガラス板を基材として浸し、スラリーから天然石英ガラス板を引き上げることにより、天然石英ガラス板の表面に塗布膜を形成した。この引き上げの際に、加熱したボックスを通過させて塗布膜を加熱し、スラリーをゲル化させた。その後、ゲル膜を乾燥させることで表面をシリカ粒子層で被覆した天然石英ガラス板を得た。以上の工程を3回繰り返した。その後、大気雰囲気下1000℃で5時間加熱し、膜厚がおよそ0.6mmのシリカ膜で被覆された天然石英ガラス板を得た。SEM観察の結果、このシリカ膜は、シリカガラス粒子が固定化されたものであり、粒子密度はおよそ1.2×1015個/cmであった。また、1000℃までの脱ガス分析の結果、水素、水、酸素及び二酸化炭素に換算した際の1000℃までにおける総脱ガス分子数がおよそ7×1020個/gであった。また、このシリカ膜の波長200nm〜5000nmにおける光線の絶対拡散反射率は85%であった。
【0081】
(実施例5)
平均粒径が5μmの合成シリカガラス粒子を用いた以外は実施例4と同様に行ったところ、膜厚がおよそ0.3mmのシリカ粒子表面被覆シリカガラスを得た。
【0082】
SEM観察の結果、このシリカ膜は、シリカガラス粒子が固定化されたものであり、粒子密度はおよそ1.1×1010個/cmであった。また、このシリカ膜の1000℃までの脱ガス分析の結果、水素、水、酸素及び二酸化炭素に換算した際の1000℃までにおける総脱ガス分子数がおよそ4×1018個/gであった。また、このシリカ膜の波長200nm〜5000nmにおける光線の絶対拡散反射率が63%であった。
【0083】
実施例4と比べて、シリカガラス粒子の平均粒径が大きいので、粒子密度が低く、反射率が低くなった。
【0084】
(実施例6)
実施例4と同じ方法で、膜厚がおよそ0.6mmのシリカ膜で被覆された天然石英ガラス板を得た。これに対して、酸水素火炎を用いて溶融の進行具合を確かめながら、シリカ膜の表面を加熱し、表面からおよそ0.06mmを透明化した、シリカ被覆体(透明層付き不透明シリカ被覆成形体)を得た。なお、シリカ膜のうち、透明シリカガラス層より下の部分は半透明層を経て粒子堆積層となる不透明層であった。
【0085】
この透明シリカガラス層において、1000℃までの脱ガス分析を行った結果、水素、水、酸素及び二酸化炭素に換算した際の1000℃までにおける総脱ガス分子数は、およそ1×1015個/gであった。
【0086】
(実施例7)
実施例1と同様のスラリーを作製した。このスラリーを用いて、以下のように、長さ1m、内径7mmのシリカガラスチューブ(管状基材)の内側にゲル膜を形成した。図9を参照して説明する。上記のスラリー(310)を、スラリー容器320に入れた。このスラリー310を、ポンプ340を用いてシリカガラスチューブ300の内側に流し込み(注入)を行い、その後、スラリー310を排出した。この間、シリカガラスチューブ300の外側から熱的処理手段330を用いて加熱しながら、スラリー310の流し込み及び排出を行った。これにより、シリカガラスチューブ300の内壁にスラリー310がゲル化したゲル膜を形成した。
【0087】
その後、ゲル膜を乾燥させ、これを大気雰囲気下1000℃で5時間加熱し、膜厚がおよそ60μmのほぼ均一の厚さのシリカ膜で内壁が被覆されたシリカガラスチューブを得た。SEM観察により、このシリカ膜は、シリカガラス粒子が固定化されたものであることを確認した。
【0088】
(比較例1)
1%のメチルセルロース水溶液の代わりに、1%のポリビニルアルコール水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に行った。その結果、ポリビニルアルコールにはゲル化効果が無いため、膜厚がおよそ10μmのシリカ膜(シリカ粒子堆積膜)で被覆された天然石英ガラス板を得た。また膜厚は部位によってバラツキを生じた。
【0089】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0090】
100…基材、 110…シリカ被覆体、 111…シリカ膜、
120…シリカ被覆体、 121…シリカ膜、 122…透明シリカガラス層、
130…シリカ被覆体、 131…シリカ膜、 132…透明シリカガラス層、
200…天然石英ガラス板(基材)、
210…スラリー、 220…スラリー容器、 230…熱的処理手段、
300…シリカガラスチューブ(管状基材)、
310…スラリー、 320…スラリー容器、 330…熱的処理手段、
340…ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面をシリカ膜で被覆する方法であって、
少なくとも、
シリカガラス粒子と、水溶液において熱的要因によりゲル化可能な有機物とを、水に加えてスラリーを作製する工程と、
前記スラリーを前記基材の表面に塗布して塗布膜を形成するとともに、該塗布膜を熱的に処理してゲル膜を得る工程と、
前記ゲル膜を乾燥させてシリカ粒子層とする工程と、
前記シリカ粒子層を加熱して前記基材の表面上に固定させることにより、シリカ膜とする工程と
を含むことを特徴とするシリカ膜による被覆方法。
【請求項2】
前記基材の材質をシリカガラスとすることを特徴とする請求項1に記載のシリカ膜による被覆方法。
【請求項3】
前記熱的要因によりゲル化可能な有機物を、メチルセルロースとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリカ膜による被覆方法。
【請求項4】
前記熱的要因によりゲル化可能な有機物を、寒天とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリカ膜による被覆方法。
【請求項5】
前記スラリーに含有させるシリカガラス粒子を、平均粒径が5nm〜5μmのものとすることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のシリカ膜による被覆方法。
【請求項6】
前記基材が管状であり、該管状の基材の内壁に前記シリカ膜を形成することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のシリカ膜による被覆方法。
【請求項7】
前記基材の表面に形成したシリカ膜をさらに加熱することにより、少なくとも前記シリカ膜の表層部を透明化して透明シリカガラス層とすることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のシリカ膜による被覆方法。
【請求項8】
前記透明シリカガラス層とするシリカ膜の表層部を、表面から少なくとも深さ0.05mmまでの領域とすることを特徴とする請求項7に記載のシリカ膜による被覆方法。
【請求項9】
前記シリカ膜の全体を透明化して透明シリカガラス層とすることを特徴とする請求項7に記載のシリカ膜による被覆方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載のシリカ膜による被覆方法により前記基材の表面をシリカ膜で被覆してシリカ被覆体を製造することを特徴とするシリカ被覆体の製造方法。
【請求項11】
基材の表面上にシリカ膜が形成されたシリカ被覆体であって、
前記シリカ膜は、50nm〜300nmの大きさのシリカガラス粒子が9×1012個/cm以上の密度で存在するものであり、
前記シリカ膜は、波長200nm〜5000nmにおける光線の絶対拡散反射率が70%以上であることを特徴とするシリカ被覆体。
【請求項12】
前記基材の材質がシリカガラスであることを特徴とする請求項11に記載のシリカ被覆体。
【請求項13】
前記シリカ膜の厚さが0.5mm以上であることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載のシリカ被覆体。
【請求項14】
前記シリカ膜は、水素、水、酸素及び二酸化炭素に換算した際の1000℃までにおける総脱ガス分子数が1×1023個/g以下であることを特徴とする請求項11ないし請求項13のいずれか一項に記載のシリカ被覆体。
【請求項15】
前記シリカ膜の表面に透明シリカガラス層を有することを特徴とする請求項11ないし請求項14のいずれか一項に記載のシリカ被覆体。
【請求項16】
前記透明シリカガラス層の厚さが0.05mm以上であることを特徴とする請求項15に記載のシリカ被覆体。
【請求項17】
前記透明シリカガラス層は、水素、水、酸素及び二酸化炭素に換算した際の1000℃までにおける総脱ガス分子数が1×1015個/g以下であることを特徴とする請求項15又は請求項16に記載のシリカ被覆体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【図7】
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