説明

シリコンの形成方法

【課題】可燃性ガスや毒性ガスを用いる必要がなく環境負荷を十分に低減することができるとともに、高熱を印加する必要がなく投入するエネルギーを十分に少なくすることができ、シリコンを効率よく形成することが可能なシリコンの形成方法を提供すること。
【解決手段】30〜99.9原子%の珪素と、0.1〜50原子%の還元性金属元素とを含有する珪素含有材料に、酸素分圧が10−2Pa以下の真空雰囲気下で、波長192〜1064nm、パルス幅100ナノ秒〜10フェムト秒、照射強度10〜1015W/cmのレーザー光を照射し、シリコンを得ることを特徴とするシリコンの形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、太陽電池としては多結晶シリコン太陽電池が主流となっている。このような太陽電池用のシリコンは、主に大規模集積回路に用いられる半導体用シリコンの規格外品の再利用でまかなわれてきた。そのため、今後、現在のペースで太陽電池の普及が進んだ場合に太陽電池用のシリコンが不足することが懸念されている。そして、このような問題を解決するために、生産量が半導体用シリコンの生産量より多い低純度シリコン(以下、単に「金属シリコン」と称する。)を高純度化して太陽電池用シリコンとする方法が研究されてきた。
【0003】
例えば、特開平11−60228号公報(特許文献1)においては、シリコン原料である四塩化珪素を、亜鉛ガスを蒸留・凝縮して採取された溶融亜鉛で還元し、多結晶シリコンを回収するシリコンの形成方法が記載されている。また、特開平10−287413号公報(特許文献2)においては、ガス化された塩素化シリコンを原料とし、排ガスから未消費の塩素化シリコンを回収するとともに、消費された原料ガスを金属シリコンの投入により再生しつつCVD等によって多結晶シリコンを製造するシリコンの形成方法が記載されている。更に、特開平11−49508号公報(特許文献3)においては、金属シリコンと水素と四塩化珪素とを反応せしめてトリクロルシランを含む反応生成物を生成せしめる工程と、前記反応生成物を蒸留に付して精製トリクロロシランと精製四塩化珪素とに分離せしめる工程と、前記精製トリクロロシランを水素とともに反応させて高純度シリコンを生成せしめる工程とを含むシリコンの形成方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載のようなシリコンの形成方法においては、金属シリコンを生成するために1500℃〜2000℃程度の温度が必要であったため、金属シリコンの製造に多大なエネルギーを必要であるという問題があった(志村史夫著、「半導体シリコン結晶光学」、丸善、1993年発行、16頁(非特許文献1)参照)。また、特許文献1〜3に記載のようなシリコンの形成方法においては、水素等の可燃性ガスや四塩化珪素等の毒性ガスを用いるため環境負荷が大きいという問題もあった。
【特許文献1】特開平11−60228号公報
【特許文献2】特開平10−287413号公報
【特許文献3】特開平11−49508号公報
【非特許文献1】志村史夫著、「半導体シリコン結晶光学」、丸善、1993年発行、16頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、可燃性ガスや毒性ガスを用いる必要がなく環境負荷を十分に低減することができるとともに、高熱を印加する必要がなく投入するエネルギーを十分に少なくすることができ、シリコンを効率よく形成することが可能なシリコンの形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のシリコン含有原料に、酸素分圧が10−2Pa以下の真空雰囲気下で、波長192〜1064nm、パルス幅100ナノ秒〜10フェムト秒、照射強度10〜1015W/cmのレーザー光を照射し、シリコンを得ることにより、可燃性ガスや毒性ガスを用いる必要がなく環境負荷を十分に低減することができるとともに、高熱を印加する必要がなく投入するエネルギーを十分に少なくすることができ、シリコンを効率よく形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のシリコンの形成方法は、30〜99.9原子%の珪素と、0.1〜50原子%の還元性金属元素とを含有する珪素含有材料に、圧力10−2Pa以下の真空雰囲気下で、波長192〜1064nm、パルス幅100ナノ秒〜10フェムト秒、照射強度10〜1015W/cmのレーザー光を照射し、シリコンを得ることを特徴とする方法である。
【0008】
上記本発明のシリコンの形成方法においては、前記還元性金属元素の酸化物を生成するためのギブス自由エネルギーの変化の値が、珪素の酸化物を生成するためのギブス自由エネルギーの変化の値より小さい値であることが好ましい。
【0009】
また、上記本発明のシリコンの形成方法においては、還元性金属原子が飛散する雰囲気下において、前記珪素含有材料に前記レーザー光を照射することが好ましい。
【0010】
また、上記本発明のシリコンの形成方法においては、前記珪素含有材料の外表面の少なくとも一部を還元性金属層で覆う工程と、
前記還元性金属層に前記真空雰囲気下で前記レーザー光を照射して予め還元性金属原子を飛散させる工程と、
を更に含むことが好ましい。
【0011】
また、上記本発明のシリコンの形成方法においては、還元性金属元素からなるターゲットにレーザー光を照射し予め還元性金属原子を飛散させる工程を更に含んでいてもよい。
【0012】
なお、本発明のシリコンの形成方法によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、珪素を含有する材料に前述のようなレーザー光を照射すると、先ず、前記材料が分解され、珪素原子及び前記材料を構成する珪素以外の他の原子や分子が飛散する。そして、飛散した珪素原子を回収するための回収装置として基板を用いた場合においては、飛散した珪素原子は基板に達するまでの間に酸素分子と衝突するため、酸化して一酸化珪素分子又は二酸化珪素分子となってしまう(以下、一酸化珪素分子と二酸化珪素分子とを合わせて「酸化珪素分子」と総称する。)。また、珪素原子が、それを回収するための基板まで到達できたとしても基板上で珪素と酸素分子とが衝突し、酸化珪素分子になってしまう。そのため、単に、レーザー光を照射する方法を採用しても効率的にシリコンを形成することはできない。
【0013】
そこで、本発明においては、先ず、このようなレーザー照射を酸素分圧が10−2Pa以下の真空雰囲気下で行うことで酸素分子の存在率を低下させて酸化珪素分子の発生を抑制する。しかしながら、このような真空雰囲気下においても、その圧力に応じた数の酸素分子が存在するため、酸化珪素分子の発生を十分に抑制することはできない。そこで、本発明においては、上述のような真空雰囲気下でレーザー光を照射することに加えて、更に還元性金属元素が含有された珪素含有材料を用いることで酸化珪素分子の発生を十分に抑制する。すなわち、珪素含有材料にレーザー光を照射した際には、珪素の他、還元性金属原子が飛散する。そして、このような還元性金属元素は、珪素よりも酸化され易いもの(例えば、還元性金属元素の酸化物を生成するためのギブス自由エネルギーの変化の値(ΔG:負の値)が珪素の酸化物を生成するためのギブス自由エネルギーの変化の値(ΔG:負の値)に比べて小さい(ΔG<ΔG)もの)が好適に用いられる。そのため、珪素原子と酸素分子との衝突によって酸化珪素分子が生じた場合においても、酸素原子は珪素原子と結合しているよりも還元性金属原子と結合する方が安定となり、酸化珪素分子と還元性金属原子とが接触すると、酸化珪素分子は還元されて珪素原子となり、還元性金属は酸化されて酸化物となる。あるいは、還元性金属原子が酸素分子と結合し、珪素原子と接触する酸素分子を減らすことができる。このようにして酸化珪素分子の発生を十分に抑制することができるため、本発明においては、基板上に珪素原子を効率よく到達させることができ、シリコンを効率よく得ることができる。なお、本発明においては、上述のように、レーザー光を照射する方法を採用しているため、シリコンを形成する際に可燃性ガスや毒性ガスを用いる必要がなく環境負荷を十分に低減できる。また、本発明においては、シリコンを形成する際に高熱を印加する必要がなく、レーザー光を照射する方法を採用しているため、投入するエネルギーを少なくしつつ効率よくシリコンを形成することが可能である。
【0014】
また、前記珪素含有材料の外表面の少なくとも一部を還元性金属層で覆い、その還元性金属層に前記レーザー光を照射した場合には、還元性金属の原子が飛散する。そして、このような還元性金属原子が飛散すると、前記真空雰囲気中の酸素と還元性金属原子とが結合して、真空雰囲気中の酸素分圧が更に低下する。すなわち、このようにして予め還元性金属原子を飛散させることで、真空雰囲気中の単位体積中に含まれる酸素分子の数を減少させることができる。そのため、本発明のシリコンの形成方法においては、前記珪素含有材料の外表面の少なくとも一部を還元性金属層で覆う工程と、前記還元性金属層に前記真空雰囲気下で前記レーザー光を照射して予め還元性金属原子を飛散させる工程とを更に含んだ場合には、予め還元性金属原子により真空雰囲気中の単位体積あたりの酸素分子数が減少させることができるため、珪素含有材料から飛散する珪素原子と酸素分子との衝突する機会をより減少させることができ、珪素原子を回収するための基板上にはより多くの珪素原子が到達でき、これによってシリコンの大きさ又は単位時間に堆積するシリコンをより増加できる傾向にあるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可燃性ガスや毒性ガスを用いる必要がなく環境負荷を十分に低減することができるとともに、高熱を印加する必要がなく投入するエネルギーを十分に少なくすることができ、シリコンを効率よく形成することが可能なシリコンの形成方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
本発明のシリコンの形成方法は、30〜99.9原子%の珪素と、0.1〜50原子%の還元性金属元素とを含有する珪素含有材料に、酸素分圧が10−2Pa以下の真空雰囲気下で、波長192〜1064nm、パルス幅100ナノ秒〜10フェムト秒、照射強度10〜1015W/cmのレーザー光を照射し、シリコンを得ることを特徴とする方法である。
【0018】
図1は、本発明のシリコンの形成方法を実施するのに好適なシリコン形成装置の好適な一実施形態の基本構成を示す模式図である。すなわち、図1に示すシリコン形成装置は、レーザー光源1と、光学系2と、レーザー光源1から発せられたレーザー光Lが光学系1により集光されて導入される真空室3とを備えている。また、真空室3の内部にはレーザー光Lが照射される珪素含有材料4と、飛散する珪素原子を回収するための回収装置5とが配置されている。
【0019】
珪素含有材料4に照射されるレーザー光Lは、波長192〜1064nm(より好ましくは192〜532nm)、パルス幅1マイクロ秒〜1フェムト秒(より好ましくは100ナノ秒〜10フェムト秒)、照射強度10〜1016W/cm(より好ましくは10〜1015W/cm)のレーザー光である。このようなレーザー光Lの波長が前記上限を超えると、十分に珪素含有材料4が分解されず、十分な量のSi原子が生成されない傾向にある。
【0020】
また、レーザー光Lのパルス幅が前記下限未満では、珪素含有材料4が蒸発、逸散し、堆積しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると珪素含有材料4に供給されるパワーが十分ではなく、効率よく十分な量のSi原子が生成されない傾向にある。更に、レーザー光Lの照射強度が前記下限未満では珪素含有材料4に供給されるパワーが十分ではなく、効率よく十分な量のSi原子が生成されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると珪素含有材料4が蒸発、逸散し、堆積しない傾向にある。
【0021】
レーザー光Lを発するレーザー光源1としては特に制限されず、波長192〜1064nm、パルス幅100ナノ秒〜10フェムト秒のレーザー光を照射することが可能なレーザー光発生装置であればよく、特に制限されず、例えばエキシマレーザー装置やYAGレーザー装置等のパルス幅がナノ秒のレーザー装置;チタンサファイアレーザー等のパルス幅がピコ秒からフェムト秒のレーザー装置等によって適宜構成させることができる。また、レーザー光源1は、真空室3の内部に配置されている珪素含有材料4に向かってレーザー光Lを照射する位置に配置されている。更に、本実施形態においては、レーザー光Lを珪素含有材料4に照射した際に珪素含有材料4の表面から飛散する粒子(珪素原子6及び還元性金属原子7等)が効率的に発生するように、レーザー光Lの光路の途中に光学系(例えば集光レンズ、鏡等)2が配置されている。そして、光学系2によりレーザー光Lのエネルギー密度や照射角度等が調整される。本発明においては、レーザー光Lの照射強度は10〜1015W/cm調整される。
【0022】
真空室3は、少なくとも珪素含有材料4と回収装置5とを内部に収容するための容器(例えばステンレス製の容器)からなり、レーザー光Lを真空室3内に配置された珪素含有材料4の表面に導入するための窓(例えば石英製の窓)を備えている。また、真空室3には真空ポンプ(図示せず)が接続されており、真空室3の内部を酸素分圧が10−2Pa(より好ましくは10−3Pa)以下の真空雰囲気状態に維持することが可能となっている。このように内部の圧力10−2Pa以下とすることで、レーザー光3の照射により珪素原子6が発生した場合に空気中の酸素に接触する機会が少なくなり、回収装置5の表面に効率良く珪素原子を回収することが可能となる。
【0023】
珪素含有材料4は、30〜99.9原子%の珪素と、0.1〜50原子%(より好ましくは1〜30原子%)の還元性金属元素とを含有するものである。このような珪素の含有量が前記下限未満では、珪素の量が少なすぎて効率的にシリコンを形成させることが困難となり、他方、前記上限を超えると、珪素含有材料の価格が高くなり、コストが高騰する。また、還元性金属元素の含有量が前記下限未満では、酸素分圧を十分に低減できず、酸化珪素分子の発生を十分に抑制できないことから効率よくシリコンを形成することが困難となり、他方、前記上限を超えると、レーザー照射によって珪素含有材料の表面に形成されるプラズマP中又は珪素原子の飛散中に珪素原子と還元性金属原子とが結合する頻度が増加し、効率よくシリコンを形成することが困難となる。なお、珪素含有材料4に含有されている珪素は、珪素の単体として含有されていてもよく、二酸化珪素、窒化珪素、炭化珪素等の珪化物の単体として含有されていてもよく、あるいは、これらの混合物として含有されていてもよい。
【0024】
また、このような還元性金属元素としては、1モルの還元性金属元素の酸化物が生成されるためのギブス自由エネルギーの変化の値(ΔG:負の値)が、1モルの珪素の酸化物が生成されるためのギブス自由エネルギーの変化の値(ΔG:負の値)より小さい(ΔG<ΔG)ものを好適に用いることができる。すなわち、このような還元性金属元素としては、珪素よりも酸化され易いものが好ましい。本発明においては、珪素含有材料4にこのような還元性金属元素が含有されているため、珪素含有材料4にレーザー光Lが照射した際に、珪素原子6とともに、珪素原子6よりも酸化され易い還元性金属原子7が飛散し、珪素原子6と酸素との衝突によって酸化珪素分子が生じた場合においても、酸素原子8は珪素と結合しているよりも還元性金属原子と結合する方が安定であるため、酸化珪素分子と還元性金属原子7とが接触すると、酸化珪素分子が還元されて珪素原子となるとともに還元性金属原子7が酸化されて酸化物となり、酸化珪素分子の発生を十分に抑制して回収装置5上に珪素原子6を効率よく到達させることができるとともに、回収装置5に到達した後においても珪素が酸化されることを防止できる。
【0025】
このような還元性金属元素としては特に制限されないが、例えば、アルミニウムやマグネシウムが挙げられる。例えば、室温で1モルのシリコン、アルミニウム、マグネシウムが酸化され、それらの酸化物が生成されるときのギブス自由エネルギーの変化の値(ΔG)の値は、それぞれ−199kcal、−243kcal、−275kcalである(日本化学会、「化学便覧応用編」、第3版、第243頁、参照)。また、このような還元性金属元素の中でも、シリコンに対してp型不純物であってシリコンの半導体的電気特性に格別の不都合を生じない不純物であるという観点から、アルミニウムが特に好ましい。なお、還元性金属元素は、これら金属の単体あるいは還元性金属元素の酸化物、窒化物、炭化物等の化合物として含有されていてもよい。
【0026】
また、珪素含有材料4としては、30〜99.9原子%の珪素と、0.1〜50原子%の還元性金属元素とを含有するものであればよく、特に制限されず、例えば、人工的に作られた珪素含有材料の他、自然界に存在する長石、黒雲母、角閃石、ひすい輝石、そう長石等の還元性金属を含み珪素あるいは珪化物を主成分とする鉱物や、これらの鉱物を造岩鉱物とする黒御影石、花崗岩、閃緑岩、斑レイ岩、結晶片岩、片麻岩等の岩石が挙げられる。
【0027】
また、回収装置5としては、珪素含有材料4にレーザー光Lを照射した際に飛散する珪素原子6を回収することが可能なものであればよく、特に制限されず、例えば、公知の基板(アルミナ製の基板等)を適宜用いることができる。さらに、珪素含有材料4と回収装置5との位置的関係(距離や角度等)は特に限定されず、飛散する珪素原子6を効率よく回収することが可能な位置に適宜配置することができる。
【0028】
そして、このような図1に示すシリコン形成装置を用い、珪素含有材料4に、酸素分圧が10−2Pa以下の真空雰囲気下で、波長192〜1064nm、パルス幅100ナノ秒〜10フェムト秒、照射強度10〜1015W/cmのレーザー光Lを照射することによって、シリコンを得ることができる。すなわち、珪素含有材料4にレーザー光Lを照射すると、珪素含有材料4の表面においてプラズマPが発生するとともに珪素含有材料4が分解され、珪素原子6及び還元性金属原子7等が飛散する。そして、このような還元性金属原子7が珪素原子6とともに飛散することによって、真空雰囲気下において酸素8が存在していても、還元性金属原子7が優先的に酸化されることから珪素原子6の酸化が十分に防止される。そのため、回収装置5の表面上に珪素原子6を効率よく到達させることができるとともに、回収装置5に到達した後においても珪素が酸化されることを防止でき、これを集合させることで回収装置(基板)5上にシリコンの膜9を効率よく形成することができる。
【0029】
以上、本発明のシリコンの形成方法の好適な実施形態について説明したが、本発明のシリコンの形成方法は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明のシリコンの形成方法においては、以下のような工程を更に含むことが好ましい。すなわち、本発明のシリコンの形成方法においては、珪素含有材料4の外表面の少なくとも一部に還元性金属層を形成する工程と、前記還元性金属層に前記真空雰囲気下で前記レーザー光を照射して予め還元性金属原子を飛散させる工程とを更に含むことが好ましい。このように、本発明においては、還元性金属原子が飛散する雰囲気下において、珪素含有材料にレーザー光を照射することで、より効率よくシリコンを形成することが可能となる。
【0030】
図2は、このような本発明のシリコンの形成方法として好適な方法を実施するのに好適なシリコン形成装置の好適な実施形態の基本構成を示す模式図である。
【0031】
図2に示すシリコン形成装置においては、レーザー光源1と、光学系2と、レーザー光源1から発せられたレーザー光Lが光学系1により集光されて導入される真空室3とを備えている。また、真空室3の内部にはレーザー光Lが照射される珪素含有材料4と、珪素含有材料4を覆う還元性金属層10と、飛散する珪素原子を回収するための回収装置5とが配置されている。
【0032】
このような珪素含有材料4の外表面の少なくとも一部を還元性金属層10で覆う方法としては特に制限されず、例えば、真空蒸着法、スパッタ法等の公知の方法で還元性金属層10を膜状に形成させる方法を採用してもよく、あるいは、単純に還元性金属箔で覆っても、これを貼り付けることで覆ってもよい。このような還元性金属層を形成させるための材料としては、前述の還元性金属元素を好適に用いることができる。
【0033】
また、本発明の好適な実施形態においては、珪素含有材料4の外表面の少なくとも一部を還元性金属層10で覆い、その後、還元性金属層10に前記真空雰囲気下でレーザー光Lを照射して予め還元性金属原子7を飛散させる。このようにして、予め還元性金属原子7を飛散させることで、前記真空雰囲気中に存在する酸素と還元性金属原子7が結合して真空雰囲気中の酸素分圧が低下する。すなわち、予め還元性金属原子7を飛散させることで、真空雰囲気中の単位体積中に含まれる酸素分子の数を減少させることができる。そして、レーザー光Lの照射を継続した場合には、還元性金属層10が消失して珪素含有材料4の表面が現れ、珪素含有材料4にレーザー光Lが照射され、シリコンの膜9を形成することが可能となる。このとき、予め還元性金属原子を飛散させているため上述のように真空雰囲気中に存在する単位体積あたりの酸素分子数がより少ない状態となっており、珪素含有材料4から飛散する珪素原子が酸素分子と衝突する機会がより減少している。従って、基板上にはより多くの珪素原子が到達でき、得られるシリコンの大きさ又は単位時間に堆積するシリコンの量が増加する。
【0034】
また、このような還元性金属層10の厚さは、還元性金属の種類や実施条件等により、酸素分圧を十分に減少させるのに好適な厚さが異なるため特に制限されないが、3μm〜15μmの厚さが好ましい。このような厚さが3μm未満では十分に酸素分圧を減少させることが困難な傾向にある。他方、このような還元性金属層10の厚さは厚ければ厚いほど酸素分圧が低下するため好ましいものではあるが、前記15μmを超えた場合には、珪素含有材料4から珪素原子を飛散させるまでに要する時間が長くなり非効率的となる傾向にある。
【0035】
なお、本実施形態においては、予め飛散させた還元性金属原子7により回収装置5の表面に形成される還元性金属の膜11が形成されるが、還元性金属原子7を予め飛散させて酸素分子を減少させている間は、回収装置5をシャッター等で覆い、還元性金属の膜11が形成されないようにしてもよい。
【0036】
本発明によれば、可燃性ガスや毒性ガスを用いる必要がないため、環境負荷を十分に低減でき、更にはシリコン形成の際に高熱を印加する必要がないため、投入するエネルギーを少なくでき、効率よくシリコンを形成することができる。また、長石、黒雲母、角閃石等の自然物を原料とすることができるため、原料不足の心配もない。そして、このようにして得られるシリコンは、例えば、太陽電池用のシリコンとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(試験例1)
図1に示すシリコン形成装置を用い、二酸化珪素に種々の濃度のアルミニウムを含有させた珪素含有材料4を用いた場合の真空室3内の酸素分圧を測定した。また、このような測定に際し、真空室3は真空ポンプにより予め酸素分圧を10−2Paとしておいた。測定の結果得られた酸素分圧とアルミニウムの含有量との関係を示すグラフを図3に示す。
【0039】
図3に示す結果からも明らかなように、二酸化珪素中のアルミニウムの濃度が0.1原子%以上で酸素分圧が十分に低下し、アルミニウムの濃度が1原子%以上とすると二酸化珪素のみにレーザーを照射したときの酸素分圧より1桁以上低い酸素分圧となることが確認された。このような結果から、珪素含有材料の表面から飛散した珪素原子が飛散する間、あるいは基板に到達した後においても珪素が酸化しないようにするためには、珪素含有材料中に含まれる還元性金属の濃度を0.1原子%以上とする必要があり、1原子%以上とすることがより好ましいことが確認された。
【0040】
(実施例1)
図1に示すシリコン形成装置を用い、シリコンを形成した。すなわち、先ず、珪素含有材料4として、還元性金属元素としてアルミニウムを5.6原子%、マグネシウムを2.3原子%含有し且つ珪素を16原子%が含有する黒御影石を用いた。なお、珪素含有材料4として用いた黒御影石中に含まれる元素の濃度をX線光電子分光法によって分析した結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
また、レーザー光源1としては、YAGレーザー装置(スペクトラフィジック社製の商品名「クワンタレイ」)を用い、更に、真空室3の内部は真空ポンプにより酸素分圧が9×10−3Paの真空雰囲気とした。また、回収装置5としては、アルミナ基板を用いた。そして、このような装置により、珪素含有材料4(黒御影石)に、酸素分圧が9×10−3Paの真空雰囲気下で、波長532nm、パルス幅7ns、照射強度9×10W/cmのYAGレーザー光Lを照射し、黒御影石から飛散する粒子をアルミナ基板上に堆積させて回収し、堆積物を得た。なお、本実施例においては、レーザー照射以外の加熱は行っていない。このようにして得られた堆積物のラマン分光スペクトルを図4に示す。
【0043】
図4に示す結果からも明らかなように、このようにして得られた堆積物にはシリコン(結晶)のピークが観測されており、シリコンを効率よく得ることができることが確認された。
【0044】
(実施例2)
図2に示すシリコン形成装置を用い、シリコンを形成した。すなわち、先ず、珪素含有材料4として実施例1で用いた黒御影石と同等の黒御影石を用いた。また、珪素含有材料4は、厚さ15μmのアルミニウム箔(還元性金属層10)で覆った。また、レーザー光源1としては、YAGレーザー装置(スペクトラフィジック社製の商品名「クワンタレイ」)を用い、更に、真空室3の内部は真空ポンプにより酸素分圧が9×10−3Paの真空雰囲気とした。また、回収装置5としては、アルミナ基板を用いた。
【0045】
そして、このような装置により、先ず、還元性金属層10に、酸素分圧が9×10−3Paの真空雰囲気下で、波長532nm、パルス幅7ns、照射強度9×10W/cmのYAGレーザー光Lを照射し、還元性金属層10から還元性金属原子を飛散させた後、引き続き、珪素含有材料4に前記レーザー光を照射して飛散する粒子をアルミナ基板上に堆積させて回収し、堆積物を得た。なお、レーザー光を照射して約3分経過した後においては、アルミニウム箔(還元性金属層10)が3μmエッチングされており、真空室3内の酸素分圧は6×10−4Paまで低下していた。また、最初のレーザー照射から約10分経過後に、アルミニウム箔(還元性金属層10)が完全に除去されて黒御影石(珪素含有材料4)の表面が露出した。また、本実施例においては、レーザー照射以外の加熱は行っていない。このようにして得られた堆積物のラマン分光スペクトルを図5に示す。
【0046】
図5に示す結果からも明らかなように、このようにして得られた堆積物にはシリコン(結晶)のピークが観測されており、本発明によりシリコンを効率よく得ることができることが確認された。また、図4に示すラマン分光スペクトルと比較すると、図5に示すラマン分光スペクトルの方がシリコン(結晶)のラマンピーク強度が増加していた。このような結果から、還元性金属層10で覆い、これにレーザー光を照射する工程を更に含んだ場合には、より効率よくシリコンを形成できることが確認された。
【0047】
(比較例1)
黒御影石(珪素含有材料4)の代わりに、石英(還元性金属を含まないシリコン化合物)を用いた以外は実施例1と同様にして堆積物を得た。このようにして得られた堆積物のラマン分光スペクトルを図6に示す。
【0048】
図6に示す結果から、還元性金属を含まないシリコン化合物(石英)にレーザーを照射した場合には、酸素分圧が9×10−3Paの真空雰囲気下においても酸化珪素が形成されてしまい、シリコンが得られないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上説明したように、本発明によれば、可燃性ガスや毒性ガスを用いる必要がなく環境負荷を十分に低減することができるとともに、高熱を印加する必要がなく投入するエネルギーを十分に少なくすることができ、シリコンを効率よく形成することが可能なシリコンの形成方法を提供することが可能となる。
【0050】
したがって、本発明のシリコンの形成方法は、特に燃料電池に用いるためのシリコンを形成する方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のシリコンの形成方法を実施するのに好適なシリコン形成装置の好適な一実施形態の基本構成を示す模式図である。
【図2】本発明のシリコンの形成方法を実施するのに好適なシリコン形成装置の好適な他の実施形態の基本構成を示す模式図である。
【図3】酸素分圧とアルミニウムの含有量との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1で得られた堆積物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【図5】実施例2で得られた堆積物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【図6】比較例1で得られた堆積物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1…レーザー光源、2…光学系、3…真空室、4…珪素含有材料、5…回収装置、6…珪素原子、7…還元性金属原子、8…酸素、9…シリコンの膜、10…還元性金属層、11…還元性金属の膜、L…レーザー光、P…プラズマ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30〜99.9原子%の珪素と、0.1〜50原子%の還元性金属元素とを含有する珪素含有材料に、酸素分圧が10−2Pa以下の真空雰囲気下で、波長192〜1064nm、パルス幅100ナノ秒〜10フェムト秒、照射強度10〜1015W/cmのレーザー光を照射し、シリコンを得ることを特徴とするシリコンの形成方法。
【請求項2】
前記還元性金属元素の酸化物を生成するためのギブス自由エネルギーの変化の値が、珪素の酸化物を生成するためのギブス自由エネルギーの変化の値より小さい値であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンの形成方法。
【請求項3】
還元性金属原子が飛散する雰囲気下において、前記珪素含有材料に前記レーザー光を照射することを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコンの形成方法。
【請求項4】
前記珪素含有材料の外表面の少なくとも一部を還元性金属層で覆う工程と、
前記還元性金属層に前記真空雰囲気下で前記レーザー光を照射して予め還元性金属原子を飛散させる工程と、
を更に含むことを特徴とする請求項3に記載のシリコンの形成方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−24526(P2008−24526A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195466(P2006−195466)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】