説明

シリコンインゴットの連続鋳造方法

【課題】残留応力の発生を十分に抑制でき、転位の発生を抑制できる電磁誘導を利用したシリコンインゴットの連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】無底冷却ルツボの下方に複数段の保温ヒーターと複数段の均熱ヒーターを連続して配置する構成とし、冷却ルツボの下端位置を原点として鉛直下方を正とする座標系に従い、最上段の保温ヒーターの温度監視用温度計の鉛直方向の設置位置を第1位置Z0とし、この第1位置Z0でのヒーター温度をT0で表すとともに、最上段の均熱ヒーターの温度監視用温度計の鉛直方向の設置位置を第2位置Z1とし、この第2位置Z1でのヒーター温度をT1で表した場合、第1位置Z0と第2位置Z1との間の各保温ヒーターの温度監視に用いられる各温度計の鉛直方向の設置位置をZとし、各位置Zでのヒーター温度Tが下記(1)式の条件を満たすように、各保温ヒーターの出力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導を利用して、太陽電池用基板の素材であるシリコンインゴットを連続鋳造するシリコンインゴットの連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の基板に用いられる多結晶シリコンウェーハは、一方向凝固のシリコンインゴットを素材とし、このインゴットをスライスして製造される。シリコンインゴットを製造する方法としては、例えば、特許文献1、2に開示されるように、電磁誘導を利用した連続鋳造方法(以下、「電磁鋳造方法」ともいう)が実用化されている。電磁鋳造方法は、高品質のシリコンインゴットを安価に製造できる点で極めて有用な技術である。
【0003】
図3は、電磁鋳造方法で用いられる代表的な電磁鋳造装置の構成を模式的に示す縦断面図である。同図に示すように、電磁鋳造装置はチャンバー1を備える。チャンバー1は、内部を外気から隔離し鋳造に適した不活性ガス雰囲気に維持する二重壁構造の水冷容器である。チャンバー1の上壁には、原料供給ホッパー2が連結されている。チャンバー1は、上部に不活性ガス導入口3が設けられ、下部の側壁に排気口4が設けられている。
【0004】
チャンバー1内には、無底冷却ルツボ5、誘導コイル6およびアフターヒーター7が配置されている。冷却ルツボ5は、溶解容器としてのみならず、鋳型としても機能し、熱伝導性および導電性に優れた金属(例えば、銅)製の角筒体であり、チャンバー1内に吊り下げられている。この冷却ルツボ5は、上部と下部を残して縦方向に図示しないスリットが複数形成され、このスリットにより周方向で複数の短冊状の素片に分割されており、内部を流通する冷却水によって強制冷却される。誘導コイル6は、冷却ルツボ5を囲繞するように、冷却ルツボ5と同芯に周設され、図示しない電源装置に接続されている。
【0005】
アフターヒーター7は、冷却ルツボ5の鉛直下方に連設され、冷却ルツボ5から引き下げられるシリコンインゴット16を囲繞する。アフターヒーター7は、冷却ルツボ5に近い上方から順に、複数段の保温ヒーター8と、複数段の均熱ヒーター9とから構成される。図3では、保温ヒーター8を4段設け、均熱ヒーター9を15段設けた例が示されている。
【0006】
また、チャンバー1内には、原料供給ホッパー2の下方に原料導入管10が配設されている。粒状や塊状のシリコン原料14が原料供給ホッパー2から原料導入管10に供給され、原料導入管10を通じて冷却ルツボ5内に投入される。
【0007】
冷却ルツボ5の真下には、チャンバー1の底壁を貫通する昇降可能な支持棒11が設けられ、この支持棒11の上端に支持台12が取り付けられている。インゴット16は、支持台12によって支えられながら、支持棒11の下降に伴って引き下げられる。
【0008】
冷却ルツボ5の真上には、プラズマトーチ13が昇降可能に設けられている。プラズマトーチ13は、図示しないプラズマ電源装置の一方の極に接続され、他方の極は、インゴット16側に接続されている。このプラズマトーチ13は、下降により冷却ルツボ5の上部に挿入される。
【0009】
このような構成の電磁鋳造装置を用いた電磁鋳造方法では、冷却ルツボ5にシリコン原料14を投入し、誘導コイル6に交流電流を印加するとともに、冷却ルツボ5の上部に挿入したプラズマトーチ13に通電を行う。このとき、冷却ルツボ5を構成する短冊状の各素片が互いに電気的に分割されていることから、誘導コイル6による電磁誘導に伴って各素片内で渦電流が発生し、冷却ルツボ5の内壁側の渦電流が冷却ルツボ5内に磁界を発生させる。これにより、冷却ルツボ5内のシリコン原料14は電磁誘導加熱されて溶解し、溶融シリコン15が形成される。また、プラズマトーチ13と溶融シリコン15との間にプラズマアークが発生し、このプラズマアーク加熱によっても、シリコン原料14が加熱されて溶解し、電磁誘導加熱の負担を軽減して効率良く溶融シリコン15が形成される。
【0010】
溶融シリコン15は、冷却ルツボ5の内壁の渦電流に伴って生じる磁界と、溶融シリコン15の表面に発生する電流との相互作用により、溶融シリコン15の表面の内側法線方向に力(ピンチ力)を受けるため、冷却ルツボ5と非接触の状態に保持される。冷却ルツボ5内でシリコン原料14を溶解させながら、溶融シリコン15を支える支持台12を徐々に下降させると、誘導コイル6の下端から遠ざかるにつれて誘導磁界が小さくなることから、発熱量およびピンチ力が減少し、さらに冷却ルツボ5からの冷却により、溶融シリコン15は外周部から凝固が進行する。そして、支持台12の下降に伴ってシリコン原料14を冷却ルツボ5内に逐次投入し、溶解および凝固を継続することにより、溶融シリコン15が一方向に凝固し、インゴット16を連続鋳造することができる。
【0011】
このような電磁鋳造方法によれば、溶融シリコン15と冷却ルツボ5との接触が軽減されるため、その接触に伴う冷却ルツボ5からの不純物汚染が防止され、高品質のインゴット16を得ることができる。しかも、連続鋳造であることから、安価にインゴット16を製造することが可能になる。
【0012】
ここで、上記の電磁鋳造方法では、インゴット16の割れを引き起こす残留応力の発生を抑制するため、鋳造したインゴット16を直ちに室温まで冷却するのではなく、アフターヒーター7を用いて一旦所定の均熱温度に保持し、その後に室温まで冷却するようにしている。すなわち、冷却ルツボ5の下端から引き下げられるインゴット16は、その直下の保温ヒーター8の設置領域(以下、「保温帯」ともいう)を通過する過程で均熱温度まで徐冷され、続く均熱ヒーター9の設置領域(以下、「均熱帯」ともいう)で所定の均熱温度に保持され、所定時間を経過した後にチャンバー1の外に取り出されて冷却される。
【0013】
また、残留応力の抑制を図る別の手法としては、例えば特許文献3に記載される電磁鋳造方法がある。特許文献3に記載される電磁鋳造方法では、冷却ルツボの下方でインゴットを囲繞するアフターヒーターとして、加熱手段と冷却手段とを交互に配置するか、または加熱手段と断熱手段とを交互に配置する構成とし、この構成により、保温作用と抜熱作用を交互に発揮させて、インゴットの引き下げ方向に沿う温度勾配を有効に付与し、その結果として、インゴットの固液界面の形状を平坦に保持することができ、残留応力を減少できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開WO02/053496号パンフレット
【特許文献2】特開平7−138012号公報
【特許文献3】国際公開WO2006/088037号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記した従来の電磁鋳造方法は、残留応力の発生を抑制できることから、インゴットの割れ防止に有用である。しかし、従来の電磁鋳造方法によって製造されたインゴットは、太陽電池の基板として構成した場合に、安定して高い変換効率を得ることができない。これは、詳細は後述するが、均熱帯に至る前の保温帯における冷却パターンに応じてインゴットの固液界面付近での熱応力が決まるものの、従来の電磁鋳造方法ではその熱応力が大きいので、インゴットに転位が多発することによる。
【0016】
とりわけ、前記特許文献3に記載される電磁鋳造方法では、アフターヒーターの領域に均熱帯を有しないことから、詳細は後述するが、残留応力の抑制効果が十分といえない。さらに、アフターヒーターとして、加熱手段と冷却手段とを交互に配置するか、または加熱手段と断熱手段とを交互に配置する構成であるため、単に複数段の保温ヒーターと複数段の均熱ヒーターを連続して配置する構成と比較して、構造が複雑になるという欠点もある。
【0017】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、冷却ルツボの下方のアフターヒーターとして、複数段の保温ヒーターと複数段の均熱ヒーターを単に連続して配置する構成とし、残留応力の発生を十分に抑制できると同時に、転位の発生を抑制できる電磁誘導を利用したシリコンインゴットの連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、下記に示すシリコンインゴットの連続鋳造方法を要旨とする。すなわち、チャンバー内に配置した導電性を有する無底冷却ルツボにシリコン原料を投入し、無底冷却ルツボを囲繞する誘導コイルからの電磁誘導加熱によりシリコン原料を溶解させ、この溶融シリコンを無底冷却ルツボから引き下げながら凝固させてシリコンインゴットを鋳造し、この鋳造に連続してシリコンインゴットを所定の均熱温度に保持してから冷却するシリコンインゴットの連続鋳造方法であって、
無底冷却ルツボの鉛直下方に、シリコンインゴットを囲繞して、保温ヒーターが複数段にわたり連設され、さらに均熱ヒーターが複数段にわたり連設されており、
無底冷却ルツボの下端位置を原点として鉛直下方を正とする座標系に従い、
最上段の保温ヒーターの温度監視に用いられる温度計の鉛直方向の設置位置を第1位置Z0とし、この第1位置Z0でのヒーター温度をT0で表すとともに、
最上段の均熱ヒーターの温度監視に用いられる温度計の鉛直方向の設置位置を第2位置Z1とし、この第2位置Z1でのヒーター温度をT1で表した場合、
第1位置Z0と第2位置Z1との間の各保温ヒーターの温度監視に用いられる各温度計の鉛直方向の設置位置をZとし、各位置Zでのヒーター温度Tが下記(1)式の条件を満たすように、各保温ヒーターの出力を制御することを特徴とするシリコンインゴットの連続鋳造方法である。
【0019】
【数1】

【0020】
上記の連続鋳造方法では、前記第1位置Z0での前記ヒーター温度T0を1200〜1350℃の範囲内とし、前記第2位置Z1での前記ヒーター温度T1を900〜1150℃の範囲内とすることが好ましい。より好ましくは、前記第1位置Z0での前記ヒーター温度T0を1250〜1300℃の範囲内とし、前記第2位置Z1での前記ヒーター温度T1を1000〜1100℃の範囲内とする。
【0021】
また、上記の連続鋳造方法では、前記第1位置Z0と前記第2位置Z1との間の前記ヒーター温度Tが前記第1位置Z0での前記ヒーター温度T0よりも低いことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電磁誘導を利用したシリコンインゴットの連続鋳造方法によれば、冷却ルツボの下方のアフターヒーターとして、複数段の保温ヒーターと複数段の均熱ヒーターを単に連続して配置する構成とし、各ヒーターの出力制御を適正化することにより、残留応力の発生を十分に抑制できると同時に、転位の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】連続鋳造時の保温帯での冷却パターンを示す図である。
【図2】図1に示される冷却パターンごとに固液界面での熱応力を示す図である。
【図3】電磁鋳造方法で用いられる代表的な電磁鋳造装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述の通り、電磁鋳造方法では、残留応力の発生を抑制するため、冷却ルツボの下方に、複数段の保温ヒーターを配設して保温帯を形成するとともに、これに続いて複数段の均熱ヒーターを配設して均熱帯を形成する構成とし、冷却ルツボの下端から引き下げられるインゴットを直ちに室温まで冷却するのではなく、均熱帯で一旦所定の均熱温度に保持し、その後に室温まで冷却するようにしている。実操業では、均熱温度は1100℃程度に設定されている。均熱帯での保持時間は、インゴットの部位によって異なるが、最も短くなるインゴットの上端部でも10時間以上とされている。
【0025】
保温ヒーターと均熱ヒーターはいずれも抵抗加熱式のヒーターである。具体的には、そのうちの保温ヒーターは、発熱体としてカーボンを用いたいわゆるカーボンヒーターであり、均熱ヒーターは、発熱体としてカンタル線などの耐熱合金の金属線を用いたいわゆるカンタルヒーターである。このように保温ヒーターと均熱ヒーターの種類を変えているのは以下の理由による。保温帯は高温であることから、ここに設置される保温ヒーターはカーボンヒーターでないと能力が不足する。一方、均熱帯は比較的低温であることから、ここに設置される均熱ヒーターはカンタルヒーターで十分足りる。もっとも、均熱ヒーターとしてカーボンヒーターを採用することも可能であるが、コスト低減の観点から、カンタルヒーターを採用する。
【0026】
上記の通りに鋳造したインゴットを均熱帯で一定の温度に保持する目的は、インゴットに蓄積された熱歪を除去して残留応力の発生を抑制し、インゴットの割れを防止するためである。インゴットには高温域で発生した熱応力による塑性変形に伴って熱歪が蓄積されるが、インゴットを所定の均熱温度で長時間保持することにより、その熱歪をさらに塑性変形させて緩和させることができる。仮に、熱歪を除去しないと、室温まで冷却したインゴットの内部に残留応力が発生するため、その残留応力に起因してクラックなどが生じ易い。このことから、インゴットの均熱温度での保持は、インゴットの割れ防止のために不可欠である。
【0027】
ここで、均熱帯での均熱温度を1100℃程度に設定しているのは、次に示す2つの理由による。均熱温度は、第1に、シリコンの変形の容易な温度域であること、第2に、カンタルヒーター(均熱ヒーター)で出力可能な温度であることが必要である。さらに詳しく説明する。一般に、物質は高温であるほうが転位の移動速度は速くなるので、同じ応力が作用するのであれば高温のほうが変形量は大きくなる。シリコンの場合も同様で、高温のほうが転位の移動速度は速い。ところが、シリコンの転位移動速度は、温度に対して直線的に変化するのではなく、ある温度を閾としその温度以上の温度域で格段に速くなる。その温度が1100℃程度である。また、均熱帯に使用するカンタルヒーターで発生させることが可能な最高温度は1150℃程度である。
【0028】
一方、保温帯の最上段(ルツボ直下)の温度は、できるだけ高温に設定するのがインゴットの品質を確保する上で好ましい。この理由は、当該部分のインゴットは凝固直後なので融点に近い高温になっており、その凝固温度に近い温度で保温することでインゴット外表面の熱応力を低減でき、塑性変形による転位の発生を抑制できると考えられるからである。ただし、あまりに高温に設定すると、一旦凝固したシリコンが再溶解し、インゴット内部の溶融シリコンが外部に流出するという甚大な事故が起こり得る。このため、保温帯の最上段の温度は、シリコンの再溶解が起こらない温度に設定しなければならない。これらのことから、実操業では、保温帯の最上段の温度は1300℃前後に設定されている。
【0029】
ところで、最近の調査から、インゴットを太陽電池基板として構成したときの変換効率は、凝固直後のインゴットがどのような温度を辿って均熱温度まで徐冷されるかにより、すなわち均熱帯に至る前の保温帯における冷却パターンにより、顕著に変動することが分かってきた。そして、保温帯でのインゴットの冷却パターンに応じた変換効率を評価するには、数値計算により求めた固液界面付近での熱応力の大きさを評価すればよいことが分かってきた。
【0030】
電磁鋳造方法では、固液界面での熱応力が大きいほうが、降伏現象によりインゴットが変形する変位量が大きくなり、発生する転位が多くなる。太陽電池基板においては、光によって発生するキャリヤのライフタイムが長いほど高い変換効率が得られるが、転位は、キャリヤを消滅させる再結合中心になるので、転位が多いほうが少数キャリヤのライフタイムが短くなり変換効率が悪化する。したがって、連続鋳造時に固液界面での熱応力が小さいほうが、転位の発生量が少なくなり、その結果として変換効率が向上するといえる。
【0031】
本発明者らは、連続鋳造時の保温帯での冷却パターンを種々仮定し、それらの冷却パターンごとにインゴットの固液界面での熱応力を解析により算出し比較した。
【0032】
図1は、連続鋳造時の保温帯での冷却パターンを示す図であり、図2は、図1に示される冷却パターンごとに固液界面での熱応力を示す図である。解析に際し、図1の横軸に示すように、冷却ルツボの下端位置を原点とし、鉛直下方を正とする座標系を定めた。この座標系に従い、最上段の保温ヒーターの温度監視に用いられる温度計の鉛直方向の設置位置を第1位置Z0とし、最上段の均熱ヒーターの温度監視に用いられる温度計の鉛直方向の設置位置を第2位置Z1とし、第1位置Z0と第2位置Z1との間の各保温ヒーターの温度監視に用いられる各温度計の鉛直方向の設置位置をZとした。そして、第1位置Z0でのヒーター温度をT0で、第2位置Z1でのヒーター温度をT1でそれぞれ表し、第1位置Z0でのヒーター温度T0を1280℃とし、第2位置Z1でのヒーター温度T1を1100℃として、各位置Zでのヒーター温度Tを3つの条件で変更した。ここで、第2位置Z1でのヒーター温度T1は、均熱温度に相当する。なお、上記の各温度計は、該当する各段の保温ヒーターおよび均熱ヒーターの鉛直方向のほぼ中心位置に設置される。
【0033】
解析は、以下の手法により行った。まず、アフターヒーターによるインゴット冷却時の加熱条件、すなわち各位置Zでのヒーター温度Tを3つの条件(従来例、本発明例および参考例)で変更し、アフターヒーターによる加熱と電磁誘導による加熱とを考慮した伝熱解析に基づいて、インゴット内の温度分布を計算した。続いて、温度分布の時間変化を汎用の有限要素法ソフトに入力し、引き下げ方向に垂直な断面の応力分布(Misesの相当応力)を計算し、この応力分布から固液界面での熱応力を算出した。そして、算出した熱応力の平均値を評価指標とし、図2に示した。
【0034】
図1に示すように、従来例の冷却パターンは、ルツボ直下の第1位置Z0から第2位置Z1までの保温帯を直線的な温度勾配で徐冷するパターンであり、従来の操業条件を仮定したものである。本発明例の冷却パターンは、高温側を辿って徐冷するパターンであり、本発明の操業条件を仮定したものである。比較例の冷却パターンは、本発明例とは逆に低温側を辿って徐冷するパターンであり、比較のための操業条件を仮定したものである。
【0035】
図2に示す結果から、次のことが示される。直線的な温度勾配で徐冷する従来例の冷却パターンに対し、高温側を辿って徐冷する本発明例の冷却パターンでは、固液界面付近に発生する熱応力が顕著に小さくなることが分かる。逆に、低温側を辿って徐冷する比較例の冷却パターンでは、固液界面付近に発生する熱応力が大きくなることが分かる。
【0036】
以上のことから、連続鋳造時に、保温帯における従来例の冷却パターンを一次関数の式で表し、この式の上の領域である高温側を辿ってインゴットを徐冷するように、すなわち、各位置Zでのヒーター温度Tが下記(1)式の条件を満たすように、各保温ヒーターの出力を制御することにより、固液界面での熱応力を小さくすることができ、これにより転位の発生を抑制することができる。その結果、そのインゴットを太陽電池基板として構成すれば、安定して高い変換効率を得ることが可能になる。また、そのような徐冷後のインゴットを均熱帯で一定の均熱温度に保持することにより、残留応力の発生を十分に抑制することができ、その結果として、インゴットの割れを防止することも可能になる。
【0037】
【数2】

【0038】
上記(1)式を用いてインゴットを保温帯で徐冷する連続鋳造方法では、第1位置Z0でのヒーター温度T0を1200〜1350℃の範囲内とし、第2位置Z1でのヒーター温度T1を900〜1150℃の範囲内とすることが好ましい。より好ましくは、第1位置Z0でのヒーター温度T0を1250〜1300℃の範囲内とし、第2位置Z1でのヒーター温度T1を1000〜1100℃の範囲内とする。
【0039】
上述の通り、第1位置Z0でのヒーター温度T0は、できるだけ高温に設定するのがインゴットの品質を確保する上で好ましいが、あまりに高温に設定すると、一旦凝固したシリコンが再溶解し、インゴット内部の溶融シリコンが外部に流出するおそれがあるからである。また、第2位置Z1でのヒーター温度T1は、均熱温度に相当し、第1に、シリコンの変形の容易な温度域であること、第2に、カンタルヒーター(均熱ヒーター)で出力可能な温度であることが必要だからである。
【0040】
また、上記(1)式を用いてインゴットを保温帯で徐冷する連続鋳造方法では、第1位置Z0と第2位置Z1との間のヒーター温度Tが第1位置Z0でのヒーター温度T0よりも低いことが好ましい。第1位置Z0でのヒーター温度T0を超えるヒーター温度Tは、シリコンの再溶解をもたらすおそれがあるからである。実用的には、ヒーター温度Tは、上記(1)式の右辺から算出される温度を20〜70℃超える温度とするのがよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の電磁誘導を利用したシリコンインゴットの連続鋳造方法によれば、残留応力の発生を十分に抑制できると同時に、転位の発生を抑制でき、ひいてはインゴットの割れ防止を図れるとともに、インゴットを太陽電池基板として構成した場合に変換効率の向上を実現できる。したがって、本発明の連続鋳造方法は、品質に優れた太陽電池用のシリコンインゴットを製造することができる点で極めて有用である。
【符号の説明】
【0042】
1:チャンバー、 2:原料供給ホッパー、 3:不活性ガス導入口、
4:排気口、 5:無底冷却ルツボ、 6:誘導コイル、
7:アフターヒーター、 8:保温ヒーター、 9:均熱ヒーター、
10:原料導入管、 11:支持棒、 12:支持台、
13:プラズマトーチ、 14:シリコン原料、 15:溶融シリコン、
16:インゴット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内に配置した導電性を有する無底冷却ルツボにシリコン原料を投入し、無底冷却ルツボを囲繞する誘導コイルからの電磁誘導加熱によりシリコン原料を溶解させ、この溶融シリコンを無底冷却ルツボから引き下げながら凝固させてシリコンインゴットを鋳造し、鋳造に連続してシリコンインゴットを所定の均熱温度に保持してから冷却するシリコンインゴットの連続鋳造方法であって、
無底冷却ルツボの鉛直下方に、シリコンインゴットを囲繞して、保温ヒーターが複数段にわたり連設され、さらに均熱ヒーターが複数段にわたり連設されており、
無底冷却ルツボの下端位置を原点として鉛直下方を正とする座標系に従い、
最上段の保温ヒーターの温度監視に用いられる温度計の鉛直方向の設置位置を第1位置Z0とし、この第1位置Z0でのヒーター温度をT0で表すとともに、
最上段の均熱ヒーターの温度監視に用いられる温度計の鉛直方向の設置位置を第2位置Z1とし、この第2位置Z1でのヒーター温度をT1で表した場合、
第1位置Z0と第2位置Z1との間の各保温ヒーターの温度監視に用いられる各温度計の鉛直方向の設置位置をZとし、各位置Zでのヒーター温度Tが下記(1)式の条件を満たすように、各保温ヒーターの出力を制御することを特徴とするシリコンインゴットの連続鋳造方法。
【数1】

【請求項2】
前記第1位置Z0での前記ヒーター温度T0を1200〜1350℃の範囲内とし、前記第2位置Z1での前記ヒーター温度T1を900〜1150℃の範囲内とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコンインゴットの連続鋳造方法。
【請求項3】
前記第1位置Z0での前記ヒーター温度T0を1250〜1300℃の範囲内とし、前記第2位置Z1での前記ヒーター温度T1を1000〜1100℃の範囲内とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコンインゴットの連続鋳造方法。
【請求項4】
前記第1位置Z0と前記第2位置Z1との間の前記ヒーター温度Tが前記第1位置Z0での前記ヒーター温度T0よりも低いことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリコンインゴットの連続鋳造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−49586(P2013−49586A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187234(P2011−187234)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】