説明

シリコンインゴットの鋳造方法

【課題】鋳造されるシリコンインゴットが金属不純物により汚染されるのを低減でき、シリコンインゴットから切り出されたウェーハを太陽電池に用いた際に光電変換効率を向上させることができるシリコンインゴットの鋳造方法を提供する。
【解決手段】ルツボ7に装入されたシリコン原料を加熱して融解させた後、凝固させて多結晶シリコンインゴットを鋳造する方法において、ルツボ7にシリコン原料を供給する経路上に、シリコン材料からなる保護部材17および18を配置して鋳造を行うことを特徴とするシリコンインゴットの鋳造方法である。保護部材として、Fe濃度が1015atoms/cc以下、Ni濃度が1014atoms/cc以下およびCr濃度が1014atoms/cc以下であるシリコン材料から作製されたものを用いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用基板の素材であるシリコンインゴットの鋳造方法に関し、さらに詳しくは、鋳造されるシリコンインゴットが金属不純物により汚染されるのを低減でき、シリコンインゴットから切り出されたウェーハを太陽電池に用いた際に光電変換効率を向上させることができるシリコンインゴットの鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2排出による地球温暖化問題やエネルギー資源の枯渇問題が深刻化しており、それらの問題の対応策の一つとして、無尽蔵に降りそそぐ太陽光エネルギーを活用する太陽光発電が注目されている。太陽光発電は、太陽電池を使用して太陽光エネルギーを直接電力に変換する発電方式であり、太陽電池の基板には、多結晶のシリコンウェーハを用いるのが主流である。
【0003】
太陽電池用の多結晶シリコンウェーハは、一方向性凝固のシリコンインゴットを素材とし、このインゴットをスライスして製造される。このため、太陽電池の普及を図るには、シリコンウェーハの品質を確保するとともに、コストを低減する必要があり、その前段階で、高品質のシリコンインゴットを安価に製造することが要求される。
【0004】
多結晶のシリコンインゴットに対する品質の要求では、特にシリコンインゴットに含有される金属不純物の濃度が重要となる。これは、シリコンインゴットから切り出された多結晶シリコンウェーハがFeやCr、Niといった金属不純物で汚染されると、ウェーハを太陽電池として用いた際に光電変換効率を悪化させるからである。例えば非特許文献1では、多結晶シリコンウェーハにおける不純物濃度と光電変換効率との関係が示されている。
【0005】
図6は、多結晶シリコンウェーハにおける不純物濃度と相対変換効率との関係を示す図である。同図は、非特許文献1に記載されている図を引用したものであり、P型の多結晶シリコンウェーハを用いた太陽電池において、不純物であるTa、Mo、Nb、Zr、W、Ti、V、Au、Cr、Mn、Fe、Co、Ag、Pd、Al、Ni、CuおよびPの濃度と相対変換効率の関係を示す。同図から、いずれの不純物もそれぞれ特定の濃度を超えると相対変換効率が低下することが確認される。
【0006】
したがって、太陽電池用の多結晶シリコンウェーハでは、不純物による汚染を可能な限り低減することが望まれる。このため、多結晶シリコンウェーハの素材となるシリコンインゴットにおいて、不純物による汚染を可能な限り低減することが要求される。
【0007】
これらのコストや品質の要求に対応できる方法として、溶融シリコンをルツボまたは鋳型(モールド)内で凝固させる鋳造法(以下、「キャスト法」という)や、電磁誘導を利用した連続鋳造方法であるEMC法(Electromagnetic Casting法、電磁鋳造法)が実用化されている。
【0008】
キャスト法による多結晶シリコンインゴットの鋳造では、ルツボに装入されたシリコン原料を加熱して融解させた後、溶融シリコンをルツボの中で凝固させるか、または鋳型に流し込んで凝固させて多結晶シリコンインゴットを得る。
【0009】
図7は、従来のEMC法に用いられる連続鋳造装置(以下、単に「EMC炉」ともいう)の構成を示す模式図である。同図に示すように、EMC炉はチャンバー1を備える。チャンバー1は、内部を外気から隔離し鋳造に適した不活性ガス雰囲気に維持する二重壁構造の水冷容器である。チャンバー1は、側壁の上部に不活性ガス導入口5が設けられ、側壁の下部に排気口6が設けられている。
【0010】
チャンバー1内には、ルツボ7、誘導コイル8およびアフターヒーター9が配置されている。ルツボ7は、融解容器としてのみならず、鋳型としても機能し、熱伝導性および電気伝導性に優れた金属(例えば、銅)製の角筒体で、チャンバー1内に吊り下げられている。このルツボ7は、軸方向の一部が、複数の短冊状の素片により、周方向で複数に分割される。また、ルツボ7は、内部を流通する冷却水によって強制冷却される。
【0011】
誘導コイル8は、ルツボ7を囲繞するように、ルツボ7と同芯に周設され、図示しない電源装置に接続されている。アフターヒーター9は、ルツボ7と同芯に、ルツボ7の下方に複数連設され、ルツボ7から引き下げられるシリコンインゴット3を加熱して、その軸方向に適切な温度勾配を与えつつ、長時間かけて室温まで冷却する。
【0012】
また、チャンバー1外の上方に、シリコン原料が保管される原料ホッパー16と、原料ホッパー16内に保管されたシリコン原料を切り出す原料供給装置2とが配置される。原料供給装置2には原料導入管11の上端が接続され、原料導入管11の上端に供給されたシリコン原料12は、原料導入管11の下端から排出されてルツボ7に装入される。原料導入管11の下部はチャンバー内に配置され、インゴットを連続鋳造する際に200℃を超える高温となることから、通常、原料導入管11はJISで規定されるSUS304ステンレス鋼といった耐熱性に優れる金属が用いられる。一方、原料ホッパーおよび原料供給装置は、チャンバー1と距離を有することから、200℃以下の低温に保たれる。
【0013】
チャンバー1の底壁には、アフターヒーター9の下方に、インゴット3を抜き出すための引出し口4が設けられる。インゴット3は、引出し口4を貫通して下降する支持台15によって支えられながら引き下げられる。
【0014】
ルツボ7の真上には、プラズマトーチ14が昇降可能に設けられている。プラズマトーチ14は、図示しないプラズマ電源装置の一方の極に接続され、他方の極は、支持台15に接続されている。このプラズマトーチ14は、下降させてルツボ7内に挿入された状態で使用される。
【0015】
このようなEMC炉を用いたEMC法では、無底のルツボ7内にシリコン原料12を装入し、誘導コイル8に交流電流を印加するとともに、下降させたプラズマトーチ14に通電を行う。このとき、ルツボ7を構成する短冊状の各素片が互いに電気的に分割されていることから、誘導コイル8による電磁誘導に伴って各素片内で渦電流が発生し、ルツボ7の内壁の渦電流がルツボ7内に磁界を発生させる。これにより、ルツボ7内のシリコン原料は電磁誘導加熱されて融解し、溶融シリコン13が形成される。また、プラズマトーチ14とシリコン原料、さらには溶融シリコン13との間にプラズマアークが発生し、そのジュール熱によっても、シリコン原料が加熱されて融解し、電磁誘導加熱の負担を軽減して効率良く溶融シリコン13が形成される。
【0016】
溶融シリコン13は、ルツボ7の内面の渦電流に伴って生じる磁界と、溶融シリコン13の表面に発生する電流との相互作用により、溶融シリコンの外面の内側法線方向にピンチ力を受ける。このため、ルツボ7の内面と溶融シリコン13の外面とは、非接触の状態に保持される。
【0017】
ルツボ7内でシリコン原料12を融解させながら、溶融シリコン13を支える支持台15を徐々に下降させると、誘導コイル8の下端から遠ざかるにつれて誘導磁界が小さくなることから、発熱量およびピンチ力が減少し、さらにルツボ7からの冷却により、溶融シリコン13は外周部から凝固が進行する。そして、支持台15の下降に伴ってシリコン原料12を連続的に装入し、融解および凝固を継続することにより、溶融シリコン13が一方向に凝固し、インゴット3を連続して鋳造することができる。
【0018】
このようなEMC法によれば、溶融シリコン13とルツボ7との接触が軽減されるため、その接触に伴うルツボ7からの不純物の汚染が防止され、高品質のインゴット3を得ることができる。しかも、連続鋳造であることから、安価に一方向凝固されたインゴット3を製造することが可能になる。
【0019】
EMC法により鋳造されるインゴットが金属不純物により汚染されるのを低減する方法に関し、従来から種々の提案がなされており、例えば特許文献1がある。特許文献1では、内面にシリコンコーティングが施されたルツボを用いるインゴットの鋳造方法が提案されている。特許文献1では、ルツボの内面にシリコンコーティングを施すことにより、ルツボと直接接触した場合にインゴットが金属不純物で汚染されるのを低減できるとともに、ルツボが損傷するのを軽減できるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】JOHN RANSFORD DAVIS 他「IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES」VOL.ED−27,NO.4 APRIL 1980 682頁
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平10−101319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
前述のとおり、シリコンインゴットから切り出されたウェーハを太陽電池に用いた際に光電変換効率を向上させるため、鋳造されるインゴットにおいて金属不純物による汚染を可能な限り低減することが要求される。前掲の特許文献1で提案されるEMC法によるシリコンインゴットの鋳造方法により、ルツボからの金属不純物による汚染を低減することができるが、太陽電池の光電変換効率をより向上させるため、インゴットを鋳造する際に金属不純物による汚染をさらに低減することが望まれている。
【0023】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、鋳造されるシリコンインゴットが金属不純物により汚染されるのを低減でき、シリコンインゴットから切り出されたウェーハを太陽電池に用いた際に光電変換効率を向上させることができるシリコンインゴットの鋳造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記課題を解決するため、シリコンインゴットの鋳造において、鋳造されるインゴットが金属不純物で汚染される原因について検討した。その結果、インゴットの金属不純物による汚染として、シリコン原料をルツボに装入する際に経路上にある部材との接触により金属不純物がシリコン原料に付着し、付着した金属不純物がルツボ内にシリコン原料とともに混入して融解することによる汚染が考えられる。
【0025】
前記図7に示すEMC炉では、シリコン原料は原料供給装置2に保管され、原料供給装置2から切り出されたシリコン原料は原料導入管11によりルツボ7に装入されることから、シリコン原料は原料ホッパー16、原料供給装置2および原料導入管11と接触する。また、シリコン原料の形状や粒径にばらつきがあることから、シリコン原料を原料導入管から装入する際、シリコン原料の一部がプラズマトーチ14の外面と接触する。
【0026】
本発明者らは、金属不純物がシリコン原料に付着することによるインゴットの汚染を低減する方法として、プラズマ溶射法によりシリコンコーティングをシリコン原料の供給経路上にある部材の表面に形成する方法を検討した。しかし、部材表面に形成されたシリコンコーティングは高温になると剥離し易い。また、EMC法によるシリコンインゴットの連続鋳造では、溶融シリコンやシリコンインゴット、アフターヒーターが保持する熱でチャンバー内の温度は200℃を超え、溶融シリコンからの距離が近いプラズマトーチの外面の温度は、内部を流通する冷却水で強制冷却した場合でも300℃を超える。
【0027】
このため、シリコンコーティングをシリコン原料の供給経路上にある部材の表面に形成する方法では、インゴットを連続鋳造する際にシリコンコーティングが剥離し、露出した部材の表面とシリコン原料が接触することから、金属不純物がシリコン原料に付着することによりインゴットが汚染される問題を解決できない。
【0028】
次に、本発明者らは、シリコン原料の供給経路上にある部材に用いる材料について評価試験を行い、適否を検討した。調査では、評価材料からなる内面で形成された閉空間部を有する容器を作成し、容器の閉空間部にシリコン原料を配置した後、容器を回転数38rpmで15時間回転させる回転処理により評価材料とシリコン原料を接触させた。その後、閉空間部内のシリコン原料を採取して金属不純物濃度を測定した。
【0029】
図8は、材料の評価試験に用いた評価装置の構成を示す模式図である。同図に示す評価装置は、回転可能に支持された容器21と、容器21を直接支持する支持軸22と、支持軸22を受け入れる軸受けを有する架台23と、架台23に固定され、支持軸22を駆動するモーター24とを備える。容器21は、シリコン試料が配置される凹部を有する容器本体21aと、板状の蓋部21bとから構成され、容器本体21aと蓋部21bにより、同図に破線で示すように、立方体状の閉空間部21cが形成される。同図に示す評価装置は、モーター24の回転駆動に伴い、支持軸22および容器21が回転する。
【0030】
容器は閉空間部が立方体状であり、その寸法が100mm×100mm×100mmであるものを用い、その空間部に質量180gのシリコン原料を配置した。シリコン原料は、粒径が0.6〜12mmのものを用いた。
【0031】
容器内のシリコン原料について金属不純物濃度の測定は、全溶解法により、フッ化水素酸と硝酸などの混酸で溶解し、この溶解液のFe、CrおよびNi濃度を原子吸光分光光度分析装置で測定することにより行った。比較のため、評価材料と接触していないシリコン原料について金属不純物濃度を測定した。また、評価材料は、JISに規定されるSUS430およびSUS304のステンレス鋼、EMC法によるインゴットの連続鋳造により得られた多結晶シリコン、天然ゴムならびにシリコンゴムを用いた。
【0032】
図9は、評価材料による汚染の調査結果を示す図であり、同図(a)はFe濃度、同図(b)はCr濃度、同図(c)はNi濃度をそれぞれ示す。同図(a)〜(c)に示す汚染の調査結果は、従来からEMC炉の部材に用いられているSUS304のステンレス鋼からなる容器と接触させたシリコン原料の濃度(atoms/cc)を基準(1.0)とした相対値である。同図から、Fe、CrおよびNi濃度は、評価材料と接触させていないシリコン原料に比べ、ステンレス鋼であるSUS430またはSUS304からなる容器と接触させたシリコン原料が高い。したがって、シリコン原料とステンレス鋼との接触により、シリコン原料に金属不純物が付着することが確認された。
【0033】
また、評価材料と接触させたシリコン原料のFe、CrおよびNi濃度は、ステンレス鋼からなる容器を用いた場合に比べ、多結晶シリコン、天然ゴムおよびシリコンゴムからなる容器を用いた場合が低い。これらから、多結晶シリコン、天然ゴムおよびシリコンゴムが金属不純物による汚染を低減するのに有効であることが明らかになった。
【0034】
本発明者らは、さらに鋭意検討を重ねた結果、ルツボにシリコン原料を供給する経路上に、シリコン材料からなる保護部材を配置することにより、鋳造されるインゴットが金属不純物により汚染されるのを低減できることを知見した。
【0035】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記(1)〜(4)のシリコンインゴットの鋳造方法を要旨としている。
【0036】
(1)ルツボに装入されたシリコン原料を加熱して融解させた後、凝固させて多結晶シリコンインゴットを鋳造する方法において、ルツボにシリコン原料を供給する経路上に、シリコン材料からなる保護部材を配置して鋳造を行うことを特徴とするシリコンインゴットの鋳造方法。
【0037】
(2)前記保護部材として、Fe濃度が1015atoms/cc以下、Ni濃度が1014atoms/cc以下およびCr濃度が1014atoms/cc以下であるシリコン材料から作製されたものを用いることを特徴とする上記(1)に記載のシリコンインゴットの鋳造方法。
【0038】
(3)上記(1)または(2)に記載のシリコンインゴットの鋳造方法において、EMC法により鋳造を行い、前記保護部材として、ルツボにシリコン原料を装入する原料導入管の内面を保護するインナーカバーと、ルツボ内に装入されたシリコン原料をプラズマアーク加熱するプラズマトーチの外面を保護するアウターカバーとを配置することを特徴とするシリコンインゴットの鋳造方法。
【0039】
(4)前記保護部材が、分割された複数の分割片から構成され、消耗に応じて前記分割片ごとに交換することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のシリコンインゴットの鋳造方法。
【発明の効果】
【0040】
本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、ルツボにシリコン原料を供給する経路上に、シリコン材料からなる保護部材を配置して鋳造を行うことにより、鋳造されるシリコンインゴットが金属不純物により汚染されるのを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のシリコンインゴットの鋳造方法であって、EMC法により鋳造を行う場合を説明する模式図である。
【図2】本発明に用いる保護部材を複数に分割する場合の構成例を示す図である。
【図3】シリコンインゴットを分割する位置を示す模式図である。
【図4】本発明例および比較例によるウェーハの金属不純物濃度を示す図であり、同図(a)はFe濃度、同図(b)はCr濃度、同図(c)はNi濃度をそれぞれ示す。
【図5】本発明例および比較例により得られたウェーハのライフタイムを示す図である。
【図6】多結晶シリコンウェーハにおける金属不純物濃度と相対変換効率との関係を示す図である。
【図7】従来のEMC法に用いられる連続鋳造装置の構成を示す模式図である。
【図8】材料の評価試験に用いた評価装置の構成を示す模式図である。
【図9】評価材料による汚染の調査結果を示す図であり、同図(a)はFe濃度、同図(b)はCr濃度、同図(c)はNi濃度をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に、本発明のシリコンインゴットの鋳造方法を図面に基づいて説明する。
【0043】
図1は、本発明のシリコンインゴットの鋳造方法であって、EMC法により鋳造を行う場合を説明する模式図である。同図に示す電磁鋳造装置は、前記図7に示す電磁鋳造装置に、シリコン材料からなる保護部材として、ルツボ7にシリコン原料を装入する原料導入管11の内面を保護するインナーカバー17と、プラズマトーチ14の外面を保護するアウターカバー18とを追加したものである。
【0044】
本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、ルツボ7に装入されたシリコン原料を加熱して融解させた後、凝固させて多結晶シリコンを鋳造するシリコンインゴットの鋳造方法において、ルツボ7にシリコン原料を供給する経路上に、シリコン材料からなる保護部材を配置して鋳造を行うことを特徴とする。
【0045】
図1に示すEMC炉では、シリコン原料は原料ホッパー16に保管され、原料供給装置2と、原料導入管11とを経てルツボ7に装入される。また、プラズマトーチ14の外面は、ルツボにシリコン原料を供給する経路上にあることから、装入されるシリコン原料の一部はプラズマトーチ14の外面と接触する。したがって、図1に示すEMC炉では、原料ホッパー16、原料供給装置2、原料導入管11およびプラズマトーチ14がシリコン原料をルツボ7に供給する経路となる。
【0046】
このようなルツボにシリコン原料を供給する経路上に、本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、シリコン材料からなる保護部材を配置して鋳造を行う。シリコン原料を供給する経路上に、シリコン材料からなる保護部材を配置して鋳造を行うことにより、シリコン原料は、ステンレス鋼等からなる部材と接触することなく、シリコン材料からなる保護部材と接触してルツボに装入される。保護部材に用いられるシリコン材料は、前述の図9に示すように、従来から用いられていたステンレス鋼と比べ、接触した際の金属不純物の付着が少ない。このため、金属不純物がシリコン原料に付着し、シリコン原料とともに金属不純物がルツボ内に混入して融解し、鋳造されるインゴットを汚染するのを低減できる。
【0047】
本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、ルツボにシリコン原料を供給する経路上であって、雰囲気温度が200℃を超える部分に、シリコン材料からなる保護部材を配置するのが好ましい。インゴットを連続鋳造する際に雰囲気温度が200℃未満である原料ホッパー16や原料供給装置2では、シリコン材料と同様に、シリコン原料への金属不純物の付着が少ない、天然ゴムおよびシリコンゴムからなる部材を用いたり、天然ゴムおよびシリコンゴムからなる保護部材を配置することができる。一方、雰囲気温度が200℃を超える部分は、融点が低いことから天然ゴムおよびシリコンゴムは不適であり、高融点(1400℃)であるシリコン材料からなる保護部材が好適である。
【0048】
通常、チャンバー内で高温となるルツボやプラズマトーチといった部材には、熱変形や溶損を防止するため、内部に冷却水を流通させて強制冷却を行う。ここで、保護部材に用いるシリコン材料は高融点であることから、チャンバー内の高温となる部分に配置した場合でも熱変形や溶損は発生し難い。したがって、保護部材にシリコン材料を用いる場合は、強制冷却は不要であることから、容易に配置することができ、冷却手段の設置による設備コストの上昇を抑えることができる。
【0049】
前述のとおり、プラズマ溶射法によりシリコンコーティングを形成して汚染の低減を図る場合、インゴットを連続鋳造する際に高温になるとシリコンコーティングが剥離し、露出した部材の表面とシリコン原料が接触して金属不純物が付着し、インゴットが汚染される問題がある。本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、高硬度のシリコン材料からなる保護部材を用い、高温下での剥離といった問題は発生しないことから、鋳造されるインゴットの汚染を確実に低減できる。
【0050】
本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、保護部材として、Fe濃度が1015atoms/cc以下、Ni濃度が1014atoms/cc以下およびCr濃度が1014atoms/cc以下であるシリコン材料から作製されたものを用いるのが好ましい。Fe、NiおよびCrの濃度が上記の範囲以下であるシリコン材料から保護部材を作製することにより、インゴットの連続鋳造においてシリコン原料と接触した際、シリコン原料に付着する金属不純物がより少なくなり、鋳造されるインゴットの汚染をより低減できる。
【0051】
Fe濃度が1015atoms/cc以下、Ni濃度が1014atoms/cc以下およびCr濃度が1014atoms/cc以下であるシリコン材料として、チョクラルスキー法により引き上げられた単結晶シリコンインゴットやEMC法により連続鋳造された多結晶シリコンインゴットを用いることができる。
【0052】
本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、EMC法により鋳造を行う場合に限定されず、キャスト法など他の方法によりシリコンインゴットを鋳造する場合にも適用することが可能である。
【0053】
本発明のシリコンインゴットの鋳造方法では、EMC法により鋳造を行う場合は、保護部材として、前記図1に示すように、ルツボ7にシリコン原料を装入する原料導入管11の内面を保護するインナーカバー17と、ルツボ7内に装入されたシリコン原料をプラズマアーク加熱するプラズマトーチ14の外面を保護するアウターカバー18とを配置するのが好ましい。アウターカバー18は、前記図1に示すように、プラズマトーチ14の外面のうちのシリコン原料を供給する経路上に位置する部分に配置すればよい。また、EMC法による鋳造では、プラズマアーク加熱する設備を有さない鋳造装置を用いる等の事情により、シリコン原料をプラズマアーク加熱することなく、電磁誘導加熱のみで融解する場合がある。この場合は、ルツボにシリコン原料を供給する経路上にプラズマトーチは位置しないことから、原料導入管の内面を保護するインナーカバーを配置するのが好ましい。
【0054】
シリコン材料からなる保護部材が、シリコン原料と接触すると、保護部材の表面が削られてシリコン原料に付着し、保護部材が消耗する。このため、シリコン材料からなる保護部材は、使用に伴い肉厚が薄くなることから、保護される部品の表面が露出して金属不純物による汚染を発生させる前に交換する必要がある。しかし、保護部材の消耗は一様でなく、シリコン原料が接触する速度や頻度によって消耗する速度が異なる。このため、本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、保護部材を、分割された複数の分割片から構成し、消耗に応じて分割片ごとに交換するのが好ましい。
【0055】
図2は、本発明に用いる保護部材を複数に分割する場合の構成例を示す図である。同図には、原料導入管11と、保護部材であり、分割された複数の分割片17aから構成されたインナーカバーとを示す。このように、保護部材を分割された複数の分割片17aから構成することにより、保護部材の消耗した箇所のみを交換することができ、保護部材を一体で成形する場合に比べてメンテナンスコストを低減することができる。
【0056】
上述のとおり、保護部材は、部分によって消耗する速度が異なることから、本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、消耗する速度に応じて保護部材の肉厚を調整するのが好ましい。具体的には、前記図2に示すように消耗する速度が速い部分の肉厚を厚くし、消耗する速度が遅い部分の肉厚を薄くする。これにより、EMC法やキャスト法によるシリコンインゴットの鋳造に用いられる鋳造装置の停止時に行う保護部材の交換作業の頻度を減らすことができ、製造歩留りを向上できる。
【0057】
本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、保護部材の肉厚は5〜30mmで調整するのが好ましい。保護部材の肉厚を5mm未満とすると、機械加工により作製する際や保護部材として用いた際に強度不足により割れが発生し易くなる。一方、肉厚が30mmを超えると、重量が増加して保護部材の取り扱いが難しくなる。
【0058】
また、単結晶シリコンや多結晶シリコンといったシリコン材料は、高硬度の脆性材料であることから、加工が困難である。保護部材の作製に要するコストを低減するため、複数に分割する際、加工が容易な形状となるように、円筒状や角筒状、板状の分割片に分割して保護部材を構成するのが好ましい。例えば、前記図2に示すように円筒状の分割片17aを用いて構成することができる。
【0059】
本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、円筒状や角筒状、板状の分割片の長さを、50〜150mmとするのが好ましい。円筒状や角筒状、板状の分割片の長さが50mm未満であると、分割片の個数が増えて保護部材の配置に時間を要し、一方、長さが150mmを超えると、機械加工により作製する際に割れが発生し易くなり、保護部材の製造コストが増加する。特に分割片を円筒状にする場合は、長さが150mmを超えると、機械加工の際に用いるドリルや砥石といった工具の損傷が発生し易く、保護部材の製造コストが顕著に増加する。
【0060】
円筒状や角筒状、板状の分割片の長さは、鋳造装置の大きさや機械加工性、消耗した分割片を交換する際の作業性等から、便宜決定することができる。
【実施例】
【0061】
本発明のシリコンインゴットの鋳造方法の効果を確認するため、下記の試験を行った。
【0062】
[試験条件]
本試験では、前記図1に示すEMC炉を用い、シリコン材料からなる保護部材として、原料導入管11の内面を保護するインナーカバー17と、プラズマトーチ14の外面を保護するアウターカバーとを配置して鋳造を行った。保護部材は、EMC法により連続鋳造した多結晶シリコンを用いて作製し、多結晶シリコンはFe濃度が1015atoms/cc以下、Ni濃度が1014atoms/cc以下およびCr濃度が1014atoms/cc以下であった。比較例では、シリコン材料からなる保護部材を配置することなく、鋳造を行った。
【0063】
本発明例および比較例ともに、原料導入管2の内面およびプラズマトーチ14の外面はJISで規定されるSUS304ステンレス鋼であった。シリコン原料は、粒径が0.6〜12mmのものを用いた。
【0064】
本発明例および比較例ともに、引き下げ長さが7000mmからなるシリコンインゴットを連続鋳造し、鋳造されたインゴットを外周から10mmの位置で切断して鋳肌面を除去した。鋳肌面を除去したインゴットを、引き下げ軸に平行な面で切断して分割した。
【0065】
図3は、シリコンインゴットを分割する位置を示す模式図である。同図に示すように、シリコンインゴット30は引き下げ軸に平行な面において縦2個、横3個に分割し、引き下げ軸方向を長手方向とする6個の分割インゴット31とした。本実施例では、ハッチングを施した角部に位置する分割インゴットおよびクロスハッチングを施した中央に位置する分割インゴットからウェーハを切り出した。角部および中央に位置する分割インゴットから切り出されたウェーハのうち、ボトム側から2000mm(下段)、4000mm(中段)および6000mm(上段)の位置からそれぞれ1枚のサンプルを採取した。
【0066】
採取したサンプルについて、全溶解法によりFe、NiおよびCr濃度を測定するとともに、ライフタイムを測定して金属不純物による汚染を評価した。ライフタイムの測定では、切り出されたウェーハを、フッ硝酸で表面ダメージ層をエッチングし、その後、バッファードフッ酸(BHF)で表面酸化膜を除去した。さらに、ウェーハ表面をヨウ素によりケミカルパシベーションした後、μ−PCD法によりウェーハ表面のライフタイムを測定した。
【0067】
[試験結果]
図4は、本発明例および比較例によるウェーハの金属不純物濃度を示す図であり、同図(a)はFe濃度、同図(b)はCr濃度、同図(c)はNi濃度をそれぞれ示す。同図(a)〜(c)に示す金属不純物濃度は、上段角部から採取したウェーハの濃度(atoms/cc)を基準(1.0)とした相対値である。同図(a)〜(c)から、鋳造されたインゴットの同じ箇所から採取したウェーハのFe濃度、Cr濃度およびNi濃度を比較すると、いずれの箇所でも比較例に比べて本発明例で低下していることが確認できた。ここで、原料導入管の内面およびプラズマトーチの電極支持部の外面に用いたSUS304の主成分はFe、CrおよびNiであり、これらの金属不純物について、比較例と比べ本発明例で濃度が低下したことが確認できた。
【0068】
これらから、本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、ルツボにシリコン原料を供給する経路上に、シリコン材料からなる保護部材を配置して鋳造を行うことにより、鋳造されたインゴットから切り出されたウェーハが金属不純物で汚染されるのを低減できることが明らかになった。
【0069】
図5は、本発明例および比較例により得られたウェーハのライフタイムを示す図である。同図に示すライフタイムは、上段角部から採取したウェーハの値(μs)を基準(1.0)とした相対値である。同図に示すように、鋳造されたインゴットの同じ箇所から採取したウェーハのライフタイムを比較すると、いずれの箇所でも、本発明例では、比較例よりライフタイムが上昇し、良好であった。このことからも、本発明シリコンインゴットの鋳造方法は、ルツボにシリコン原料を供給する経路上に、シリコン材料からなる保護部材を配置して鋳造を行うことにより、鋳造されたインゴットから切り出されたウェーハが金属不純物で汚染されるのを低減できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のシリコンインゴットの鋳造方法は、ルツボにシリコン原料を供給する経路上に、シリコン材料からなる保護部材を配置して鋳造を行うことにより、鋳造されるシリコンインゴットが金属不純物により汚染されるのを低減できる。
【0071】
したがって、本発明のシリコンインゴットの鋳造方法を、太陽電池用ウェーハの製造に適用すれば、製造されたウェーハを用いた太陽電池の光電変換効率を向上させることができ、太陽電池の品質向上に大きく貢献することができる。
【符号の説明】
【0072】
1:チャンバー、 2:原料供給装置、 3:シリコンインゴット、 4:引出し口、
5:不活性ガス導入口、 6:排気口、 7:ルツボ、 8:誘導コイル、
9:アフターヒーター、 11:原料導入管、 12:シリコン原料、
13:溶融シリコン、 14:プラズマトーチ、 15:支持台、
16:原料ホッパー、 17:インナーカバー、 17a:インナーカバーの分割片、
18:アウターカバー、 21:容器、 21a:容器本体、 21b:蓋部、
21c:空間部、 22:支持軸、 23:架台、 24:モーター、
30:シリコンインゴット、 31:分割シリコンインゴット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボに装入されたシリコン原料を加熱して融解させた後、凝固させて多結晶シリコンインゴットを鋳造する方法において、
ルツボにシリコン原料を供給する経路上に、シリコン材料からなる保護部材を配置して鋳造を行うことを特徴とするシリコンインゴットの鋳造方法。
【請求項2】
前記保護部材として、Fe濃度が1015atoms/cc以下、Ni濃度が1014atoms/cc以下およびCr濃度が1014atoms/cc以下であるシリコン材料から作製されたものを用いることを特徴とする請求項1に記載のシリコンインゴットの鋳造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシリコンインゴットの鋳造方法において、EMC法により鋳造を行い、
前記保護部材として、ルツボにシリコン原料を装入する原料導入管の内面を保護するインナーカバーと、ルツボ内に装入されたシリコン原料をプラズマアーク加熱するプラズマトーチの外面を保護するアウターカバーとを配置することを特徴とするシリコンインゴットの鋳造方法。
【請求項4】
前記保護部材が、分割された複数の分割片から構成され、消耗に応じて前記分割片ごとに交換することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリコンインゴットの鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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