説明

シリコンウエハ吸着器具の吸着パッド

【課題】本発明は、ウエハ吸着器具において、多数の微細孔を有し、クッション性を有し、かつ、化学的安定性に優れたPTFE多孔質体を吸着面とした吸着パッドを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るシリコンウエハ吸着器具の吸着パッドは、シリコンウエハ吸着器具において直径200mm以上のシリコンウエハが吸着される面に載置する吸着パッドであって、該吸着パッドが、連続気孔を有し、多孔質体の密度が1.0〜1.5であり、多孔質体の厚みは5mm〜15mmのPTFE多孔質体であって、PTFE粉末の焼結によって形成してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体基板となるシリコンウエハの加工や搬送の処理工程において使用されるシリコンウエハ吸着器具に用いられる吸着パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体加工技術の進化に伴い、半導体ウエハを切り出すシリコンインゴットの直径が大きくなってきた。また軽量化や省資源化にともないウエハの厚みの薄肉化が進んでいる。
【0003】
そして、シリコンウエハの加工処理、搬送に必要なウエハ保持具として、下記特許文献1に示されるように、吸引によらない方法として粘着材を介してウエハを着脱する方法が提案されており、またエラストマーを用いて吸盤作用による方法も提案されている。しかしながら、いずれの方法も確実な吸着作用あるいは繰り返し使用において安定性などに欠けており、回路形成におけるエッチング処理、洗浄処理などの化学的作用が伴うプロセスには不向きであった。
【0004】
そこで、上記のような欠点を補うため、下記特許文献2に示されるように、焼結金属、セラミックスのような多数の微細孔を有するポーラス構造体を使用し、吸引作用によりウエハ素材を吸着する方法が提案されている。しかし、このような焼結金属、セラミックスのような多数の微細孔を有するポーラス構造体を使用する方法を採用した場合には、半導体ウエハの直径が大きくなるにつれて、また切り出すウエハの厚みの薄肉化にともない、ウエハ吸引器具の吸引孔あるいは吸引溝の吸引作用により吸引時に衝撃的力が働き、ウエハ素材が割れるという課題が発生している。
【0005】
さらに、下記特許文献3に示されるように、ウエハを真空吸引する方法が示されている。当該方法においては、パッドの素材として延伸PTFEが採用されている。
【特許文献1】特開2008−13372号
【特許文献2】特開2008−211098号
【特許文献3】特開2008−30175号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、延伸PTFEにより形成されたPTFE多孔質体には、特開昭51−30277に示されるように、PTFEファインパウダーのペースト押出方法から延伸によって得られる多孔膜シートがあるが、このシートは通常200μmレベルまでであり、吸引作用により容易に変形する。また、このようなシートを積層して5000μmの厚みのPTFE多孔質体に一体化加工するには、延伸物の熱固定前に行わねばならいため、熱固定前に多数枚のシートを積層することは容易でなく、さらには延伸軸がシートの縦横の二軸以外にとれないために熱固定処理の困難さがある。たとえ出来たとしても切削加工性に乏しい等の欠点があった。
【0007】
また、吸引は大気圧より低い減圧、つまり真空減圧で行われる。真空減圧時の真空度は必ずしも一定でないがウエハが吸着面に向って吸着される速度は加速度運動的であり、吸着時には衝撃的になる。衝撃力は衝突する物質の質量に比例し、また真空減圧度にも影響される。質量の大きな金属同士の衝突ではその危険から逃れられない。つまり、ある程度のクッション性が求められる。
【0008】
さらに、ウエハ吸着面に使用される材料、材質としてはウエハの回路形成において金属元素などの付着が好ましくないと同時に化学的安定性が求められていた。
【0009】
そこで、本発明者らは鋭意研究を重ね、ウエハ吸着器具において、多数の微細孔を有し、クッション性を有し、かつ、化学的安定性に優れたPTFE多孔質体を吸着面とした吸着パッドを採用することを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るシリコンウエハ吸着器具の吸着パッドは、シリコンウエハ吸着器具において直径200mm以上のシリコンウエハが吸着される面に載置する吸着パッドであって、該吸着パッドが、連続気孔を有し、多孔質体の密度が1.0〜1.5であり、多孔質体の厚みは5mm〜15mmのPTFE多孔質体よりなることを特徴とするものである。当該構成において使用するPTFE多孔質体は、PTFE粉末の焼結によって形成してなるものが望ましい。
【0011】
本発明の吸着パッドは、PTFEの多孔質度にあり、比重が1.0未満のものは延伸法以外に成形が困難であり、比重が1.5を超えると安定した吸着ができななくなる。吸着パッドの厚みが5mm未満のものは、吸引孔分布に斑が出るおそれがあり、さらに吸着パッドの面積が大きくなると機械的構造強度が低下するので、単体でのハンドリングが行い辛くなる。逆に厚みが16mm以上のものは圧損が発生して吸着がスムースに行かない。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るシリコンウエハ吸着器具の吸着パッドは、上記の構成よりなるので、直径が200mmを超え、例えば100μm程度の厚みの薄いウエハの搬送を安全に行うことができ、従来の課題を全て解決するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において利用するPTFE多孔質体は、延伸PTFEではなくPTFE粉末の焼結によって形成したものである。PTFE粉末の焼結する手段において用いるPTFEの原料粉末としては市販されている懸濁重合法から得られるモールディングパウダーと呼ばれる圧縮成形用粉末があるが、これに限定されるものではない。PTFEファインパウダーを粉砕してパルプ化した粉末、PTFE半焼成フイルムから延伸して擦過解繊したステープルファイバーを用いてもよい。また、PTFE多孔質体に形成する過程において、カーボン又はナノカーボンのような導電性物質を混入すると帯電防止の効果がある。さらに、PTFE多孔質体に形成する過程において、PFA粉末を混入させると強度が増加する効果がある。
【実施例】
【0014】
「PTFE多孔質体の形成」
PTFEモールディングパウダーA(ダイキン工業製ポリフロンM−112)をステンレスパッドに展開して360℃の温度で1時間熱処理を行いマシュマロ状の塊を得た。この塊を手でちぎってワンダーブレンダー(アズワン株式会社の商品名)で粉砕して20メッシュの篩を通過したパウダーGを得た。このパウダーGとパウダーAをワンダーブレンダー(アズワン株式会社の商品名)で下記の表1に示す割合でブレンドしたパウダーからPTFE多孔質体を作成した。
【0015】
成型のための金型は、直径250mmの内径を有し、その円筒内にパウダーを充填して円筒内のパウダーを上下から圧縮する円盤状の押し型を有するものを使用する。この金型によって成形した状態をプレフォーマーと呼ぶ。プレフォームの成形は2kgのパウダーを金型の円筒内に充填し、押し型による圧縮で30mmの厚みになるようにプレスした。つまりプレフォームの比重を約1.3に設定した。
【0016】
次に、プレフォーマーをPTFEの融点以上で2時間加熱処理して成形品を得た。プレフォームと成形品の比重の変化は、成形体が径方向に収縮して厚み方向すなわち加圧方向に膨張するために発生する。成形品全体の体積が膨張した場合には成形品の比重はプレフォームの比重より下がる。成形品全体の体積が収縮した場合には成形品の比重はプレフォームの比重より上がる。この比重の変化は空孔部の増加減を意味する。
【0017】
「切削加工」
次に、上記の各成形品を冶具を用いて直径を200mmに切削し、さらに成形品の上下面を切削して厚み10mmの板状に仕上げた。この状態で寸法より体積を算出、PTFEの標準的な密度を2.15g/cmで算出した。各切削成形品の比重を下記の表1に示す。
【0018】
「吸着パッドの評価」
次に、真空減圧の10リットルのバッファーと真空用ゴム管で接続できるホルダーに各切削成形品を嵌めてアルミ板での吸着力を測定した。測定の方法は真空度を500mHgと100mHgとに変えて、アルミ板の吸着保持の可否と吸着中のアルミ板の剥がしやすさを試した。強力に吸着されているものを○、容易に剥がせるものを△で表−1に記した。アルミ板は250mm四方で、厚みが2.5mm、重量が250gのものを用いた。
【表1】

【0019】
「通気度の測定」
次に、上記実施例において作成した各切削成形品について、通気度を測定した。通気度は、ウエハを吸引する吸引度つまり低圧損で吸引できることが吸着パッドの利用可能性を示す1つのポイントとなると考えられる。
【0020】
多孔質体の通気度は、例えばJIS P 8117で規定されているガーレ値で表すことができる。すなわち、低圧損領域の紙、布、メッシュなどの通気性能(低圧損物の測定用でもある)を測定する「ガーレ式デンソメーター」を使用した。測定部は外径50mmで内側に約21mmの空気通気口のフランジで試料を挟み上層部に300CC強の空気を溜めたホルダーがあり、そのホルダーは油層に浮かせておいて、そのホルダーが落下してくるときの速度を測る。速度は容積換算目盛になっている。「ガーレ式デンソメーター」の試料部の隙間は8mmなので、測定する試料は、次のようにして形成した。すなわち前記表1の1の切削成形品を直径48mm厚み5mmに切削して試料1を形成した。この試料1をガーレメーターの空気通過孔(直径約21mmの部分)以外と側面を粘着テープで覆いガーレ値を測定した。測定結果を表2に示す。
【表2】

【0021】
以上の結果、比重が1.0〜1.5の範囲であると、十分な吸着力がある通気度が得られることが判明した。
【0022】
「吸着パッドの表面処理」
上記の吸着パッドに対して、パッド表面に孔径0.1μ、厚み60μmのPTFE多孔質膜(住友電気工業株式会社製ポアフロンメンブレンFP−010−60)を被覆した。その理由は、ウエハの処理工程においてPTFE多孔質パッドを継続使用すると、微細粒子により目詰まりが発生するおそれがあり、これを防止するためである。なお、PTFE多孔質膜により表面を被覆した吸着パッドについて吸着力及び通気度を測定したが、PTFE多孔質膜により表面を被覆していない吸着パッドと比較して評価に影響する変化はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウエハ吸着器具において直径200mm以上のシリコンウエハが吸着される面に載置する吸着パッドであって、
該吸着パッドが、連続気孔を有し、多孔質体の比重が1.0〜1.5であり、多孔質体の厚みは5mm〜15mmのPTFE多孔質体よりなることを特徴とするシリコンウエハ吸着器具の吸着パッド。
【請求項2】
PTFE多孔質体が、PTFE粉末の焼結によって形成してなることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウエハ吸着器具の吸着パッド