説明

シリコン半導体基板の製造方法

【課題】シリコン半導体基板の製造方法を提供する。
【解決手段】下記のステップを順次実施することを特徴とする、シリコン基板の表層部が酸化シリコン層と単結晶炭化シリコン層とからなるシリコン半導体基板の製造方法である:(1)表層部が単結晶炭化シリコン層からなるシリコン半導体基板を用意し、
(2)シリコン基板内に酸素イオンを注入して、単結晶炭化シリコン層の下にシリコンと酸素の混在した酸素含有層を形成するステップと、(3)前記シリコン基板を熱処理して、前記酸素含有層を酸化膜層とするステップと、(4)前記シリコン基板の表面に形成された酸化膜を除去するステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン半導体基板の製造方法、特にシリコン基板の表層部が酸化シリコン層と単結晶炭化シリコン層とからなるシリコン半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明により製造されるシリコン基板の表層部が酸化シリコン層と単結晶炭化シリコン層とからなるシリコン半導体基板は、いわゆる埋め込み酸化膜層(又は、埋め込み絶縁層)を内部に、かつ表面に炭化シリコン(SiC)層を有するシリコン半導体基板である。この基板はSiCOI基板として知られており、SiCOI基板はその優れた特性からパワーエレクトロニクスの分野、特に集積化パワーエレクトロニクスの分野で広く使われている(特許文献1)。
【0003】
係るSiCOI基板の製造方法のひとつにSiCを表面に有するシリコン基板に、酸素イオンを注入する方法(いわゆるSIMOX技術)が知られている(非特許文献1)。しかしながらこれまでのこの方法では、生成される酸化膜層(又はBOX)を、所定の厚さで、かつ高い平坦度で連続して形成させることが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−531127号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S.Nakashima,K.Izumi Nucl.Instr.Meth.B55 p.847(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る問題のない、SiCを表面に有するシリコン基板に酸素イオンを注入して、SiC層の下部に、所定の厚さの酸化膜層を、かつ高い平坦度で維持しつつ連続的に形成することができる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は係る課題を解決するべく鋭意研究した結果、注入酸素イオンの濃度と得られる酸化膜の性質との間の関係を見いだすことに成功し、本発明を完成したものである。
【0008】
すなわち本発明は、下記のステップを順次実施することを特徴とする、シリコン基板の表層部が酸化シリコン層と単結晶炭化シリコン層とからなるシリコン半導体基板の製造方法である:(1)表層部が単結晶炭化シリコン層からなるシリコン半導体基板を用意し、(2)シリコン基板内に酸素イオンを注入して、単結晶炭化シリコン層の下にシリコンと酸素の混在した酸素含有層を形成するステップと、(3)前記シリコン基板を熱処理して、前記酸素含有層を酸化膜層とするステップと、(4)前記シリコン基板の表面に形成された酸化膜を除去するステップ。
【0009】
さらに、本発明は、前記酸素イオンの注入の注入条件が、ドーズ量1.0x1017/cm以上5.0x1017/cm以下となることを特徴とし、前記酸素イオン含有層の酸素原子濃度のピークが前記単結晶炭化シリコン層から0nm以上150nm以下となるように前記酸素イオンの注入条件もしくは前記単結晶炭化シリコン層下部までの基板の厚さを調整することを特徴とする、シリコン半導体基板の製造方法である。
【0010】
さらに、本発明は、前記酸素イオンの注入を前記シリコン基板を400℃以上1000℃以下の温度に加熱した状態で行うことを特徴とする、シリコン半導体基板の製造方法である。
【0011】
さらに、本発明は、前記表層部が単結晶炭化シリコン層からなるシリコン半導体基板が、シリコン基板に炭素イオンを注入して炭素含有層を形成し、シリコン基板を熱処理して得られるものであることを特徴とする、シリコン半導体基板の製造方法である。
【0012】
さらに、本発明は、前記炭素含有層の炭素原子濃度の最大値が45atom%以上55atom%以下になるように炭素イオン注入条件を調整することを特徴とする、シリコン半導体基板の製造方法である。
【0013】
さらに、本発明は、前記炭素イオンの注入を前記シリコン基板を400℃以上1000℃以下の温度に加熱した状態で行うことを特徴とする、シリコン半導体基板の製造方法である。
【0014】
さらに、本発明は、前記シリコン基板がチョクラルスキー法もしくはフロートゾーン法により製造されたことを特徴とする、シリコン半導体基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法により、SiC層の下部に、所定の厚さの酸化膜層を、かつ高い平坦度で維持しつつ連続的にSiCOI基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の工程を示す。
【図2】本発明の各工程における、シリコン半導体基板を示す。
【図3】酸素イオン注入量と、得られる酸化膜との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を図に基づいて説明する。
図1及び図2に示される通り、本発明は、S1〜S4の4ステップからなる。本発明の方法で製造される、シリコン基板の表層部が酸化シリコン層と単結晶炭化シリコン層とからなるシリコン半導体基板40とは、いわゆるSiCOI基板であって次の特徴を有する。
【0018】
シリコン層1の上に連続して埋め込み酸化膜層4が形成され、かつその上に単結晶炭化シリコン(SiC)層5が形成されている。シリコン層1の形状、サイズについては特に制限はなく、通常公知の用途、例えばマイクロエレクトロニクスの技術分野で要求されるものを含む。単結晶炭化シリコン(SiC)層5の厚さは特に制限はなく、通常公知の用途、例えばマイクロエレクトロニクスの技術分野で要求されるものを含む。SiC層5の露出する表面の平坦度は極めて高い(RMS:0.5nm程度)。
【0019】
本発明の第1ステップ(S1)は、表層部が単結晶炭化シリコン層からなるシリコン半導体基板10を用意する工程である。ここで基板10のシリコン層1の形状、サイズについては特に制限はなく、通常公知の用途、例えばマイクロエレクトロニクスの技術分野で要求されるものを含む。シリコン層1の上に形成された炭化シリコン層2は、単結晶炭化シリコンであり、その厚さについては特に制限はない。通常公知の用途、例えばマイクロエレクトロニクスの技術分野で要求されるものを含む。係る基板10は例えば炭素イオン注入と高温熱処理によって製造することができ、この場合の注入濃度は炭素原子濃度の最大値を45〜55atom%の範囲とすることが好ましい。炭素原子濃度の最大値が45atm%を下回るとアニール後の結晶性が劣化し、単結晶炭化シリコン層2内に多結晶炭化シリコンを含むようになる。一方、炭素原子濃度の最大値を45atom%以上とすれば、上述の多結晶炭化シリコンを抑制することが可能である。また炭素原子濃度の最大値55atom%を超えると、アニール後には、単結晶炭化シリコン層2内に微小炭素粒からなる欠陥が出現し、単結晶炭化シリコン層2の結晶性を劣化させる。一方、炭素原子濃度の最大値を55atom%以下とすれば、上述の炭素粒の出現を抑制することが可能である。
より好ましくは、炭素粒の抑制を安定的に実現するため、炭素原子濃度の最大値を50atom%以下とすることが望ましい。
【0020】
炭素イオンの注入は、シリコン基板を400℃以上の温度に加熱した状態で行うことが望ましい。基板の加熱温度が400℃を下回ると、注入後に、単結晶炭化シリコン粒の配向性が乱れるため、アニール後には、単結晶炭化シリコン層2の結晶性が乱れ、はなはだしい場合には、ポリ層となってしまうこともある。
より好ましくは、単結晶炭化シリコン層2の結晶性をさらに高めるため、シリコン基板を500℃以上の温度に加熱した状態で炭素イオンの注入を行うことが望ましい。
【0021】
炭素イオンの注入は、シリコン基板を1000℃以下の温度に加熱した状態で行うことが望ましい。基板の加熱温度が1000℃を上回ると、注入後に、単結晶炭化シリコン粒がデンドライド状に融合し、アニール後には、単結晶炭化シリコン層2の緻密性、均一性が損なわれる。
より好ましくは、単結晶炭化シリコン層2の緻密性、均一性をさらに高めるため、シリコン基板を800℃以下の温度に加熱した状態で炭素イオンの注入を行うことが望ましい。
【0022】
また表層部が単結晶炭化シリコン層からなるシリコン半導体基板10を用意する工程については炭素イオン注入と高温熱処理を用いた方法に限るものではなく、例えば公知の貼り合わせを用いた方法(特開2009−21573)などの方法も等しく使用可能である。
【0023】
本発明の第2ステップ(S2)は、基板10に酸素イオン注入して酸素含有層3を形成する工程である。ここで酸素イオン注入の注入量、注入イオンの分布(注入深さと注入方向での広がり)の条件設定については特に制限はなく、後のステップにて得られる基板40に求められる特質であって、酸化膜層4の厚さ、連続性、シリコン層1、炭化シリコン層5との境界面の平坦性に応じて適宜選択・最適化することができる。
【0024】
具体的には図3で例示されている通り、基板10の炭化シリコン層2の厚さに応じて、酸素イオン注入のエネルギと注入量を種々選択し、得られた酸素含有層3を有する基板20を次のステップS3で熱処理して形成される酸化膜層4の特質を評価することで可能となる。図3は本発明者が得た知見であり、単結晶炭化シリコン層5の下に形成される酸化膜4を、好ましい厚さでかつ連続的に形成するには、酸素含有層3の注入酸素量を制御して好ましい範囲にすることで必要であることが分かる。例えば炭化シリコン層2が約140nmの場合、注入量は1.0〜5.0×1017/cmの範囲と制御することで、一定の厚さでかつ平坦な連続する酸化膜層4を得ることが分かる。また、従来の酸素イオン注入により酸化膜層を形成する方法においては、注入量が約3.0×1017/cmを下回ると均一な酸化膜が形成されなくなるという問題点があったが、本発明においては1.0×1017/cm以上の注入量において均一な連続した酸化膜が形成されることが分かる。
【0025】
また酸素含有層3内の酸素イオンの注入イオン分布については、その最大ピークが炭化シリコン膜層2の下(シリコン層1側)となる分布であればよい、具体的には0〜150nmの範囲に最大ピークがくるように制御することで酸化膜層4を得ることができる。
【0026】
かかる酸素含有層3を形成するための酸素注入方法・装置についても特に制限はなく、通常公知の方法・装置が好ましく使用可能である(S.Nakashima, K.Izumi Nucl.Instr.Meth. B55 p.847 (1991))。例えば注入エネルギー、注入温度としてはそれぞれ、80〜200keV、400〜700℃の範囲が好ましく使用可能である。
【0027】
また酸素含有層3内の酸素イオンの注入方法については公知の多段注入を用いた方法(特開平01−17444)、室温注入を用いた方法(US5930643)などの方法も等しく使用可能である。
【0028】
本発明の第3のステップ(S3)は、さらに熱処理により、形成された酸素含有層3をアニールして酸化膜(酸化シリコン膜)4にする工程である。係る熱処理は、酸素含有層3を酸化シリコンに変化させる条件であれば特に制限はなく、通常公知のいわゆるBOX層形成方法が好ましく適用可能である(S.Nakashima, K.Izumi Nucl.Instr.Meth. B55 p.847 (1991))。具体的には、適用な微酸化性雰囲気下で、400〜1000℃に、1〜10時間保持することで可能である。適用な微酸化性雰囲気としては酸素を微量含む不活性ガスが挙げられる。不活性ガスとしてはアルゴンの使用が好ましい。またその場合酸素は約0.5体積%であることが好ましい。アニールによる酸化膜4形成と同時に、このステップでの熱処理で、露出する側の単結晶炭化シリコン層の表面が酸化反応し、薄い酸化膜6が形成される。従って第3ステップで得られる基板30は、シリコン層1に、酸化膜層4、その上に単結晶炭化シリコン層5、さらに薄い酸化膜6からなる。
【0029】
本発明の第4ステップ(S4)は、上で形成された表面の酸化膜6を除去して基板40を得る工程である。ここで上で形成された表面の酸化膜6を除去する方法および装置については特に制限はなく、通常公知のいわゆるシリコン半導体基板の表面のシリコン酸化膜を除去する方法であれば適用可能である。具体的には、乾式方法と、湿式方法とがありいずれの方法も適用可能である。本発明では特に湿式エッチングによる方法が好ましく、希フッ化水素酸によるエッチングの使用が好ましい。この場合第4ステップには、エッチング後の半導体40をさらに洗浄するために純水で洗浄することも含まれる。
【0030】
以下本発明を実施例に基づき説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
150mm(111)n型フロートゾーンシリコンウェハを複数枚用意し、ウェハ加熱温度550℃、加速エネルギー180keV、ドーズ量7.5×1017/cmで炭素イオン(C+)注入を行い、シリコン基板内部に炭素含有層を形成した。注入後、各々のサンプル上に形成された酸化膜層を、希釈フッ酸で除去した。引き続き、各々のサンプルを縦型高温熱処理炉によって1350℃、Ar+0.5体積%O雰囲気中で10時間高温アニールした。この時の表面単結晶炭化シリコン層の厚さは140nmとなった。その後、各々のサンプルをウェハ加熱温度550℃、加速エネルギー120keVで、ドーズ量をそれぞれ0.5、1.0、2.5、4.0、5.0、6.0、8.0×1017/cmで酸素イオン(O+)注入を行い、単結晶炭化シリコン層の下に酸素含有層を形成した。引き続き、各々のサンプルを縦型高温熱処理炉によって1350℃、Ar+0.5体積%O雰囲気中で4時間高温アニールした。その後、各サンプル表面付近の断面構造を断面TEMで評価した。酸素ドーズ量0.5×1017/cmのサンプルは、単結晶炭化シリコン層の直下に連続した酸化膜は形成されず、島状に酸化膜が分布して形成されていた。ドーズ量1.0、2.5、4.0、5.0、6.0、8.0×1017/cmのサンプルは、単結晶シリコン層の直下に連続した酸化膜が形成され、それぞれの酸化膜の膜厚は、22nm、55nm、84nm、112nm、133nmおよび170nmとなった。また、この時の単結晶炭化シリコンの膜厚はドーズ量1.0、2.5、4.0、5.0×1017/cmのサンプルにおいて変化なく140nmであったが、ドーズ量6.0、8.0×1017/cmのサンプルにおいては膜厚が減少し、132nm、95nm、となった。
【0032】
(実施例2)
150mm(111)n型フロートゾーンシリコンウェハを複数枚用意し、ウェハ加熱温度550℃、加速エネルギー180keV、ドーズ量7.5×1017/cmで炭素イオン(C+)注入を行い、シリコン基板内部に炭素含有層を形成した。注入後、各々のサンプル上に形成された酸化膜層を、希釈フッ酸で除去した。引き続き、各々のサンプルを縦型高温熱処理炉によって1350℃、Ar+0.5体積%O雰囲気中で10時間高温アニールした。この時の表面単結晶炭化シリコン層の厚さは140nmとなった。その後、各々のサンプルをウェハ加熱温度550℃、加速エネルギー120、140、160keVで、ドーズ量をそれぞれ4.0×1017/cmで酸素イオン(O+)注入を行い、単結晶炭化シリコン層の下に酸素含有層を形成した。注入後、一部のウェハを二次イオン質量測定分析(SIMS)測定により、注入された酸素イオンの基板深さ方向の濃度プロファイルを取得した。この結果、酸素イオンの基板深さ方向の濃度プロファイルのピークは表面単結晶炭化シリコン層下部からそれぞれ66、150、185nmであった。引き続き、各々のサンプルを縦型高温熱処理炉によって1350℃、Ar+0.5体積%O雰囲気中で4時間高温アニールした。その後、各サンプル表面付近の断面構造を断面TEMで評価した。加速エネルギー120、140keVのサンプルには、単結晶炭化シリコン層の直下にそれぞれ84nm、86nmの連続した酸化膜が形成されたが、加速エネルギー160keVのサンプルには単結晶炭化シリコン直下に連続した酸化膜が形成されず、単結晶炭化シリコン下部界面から135nmの深さに85nmの酸化膜が形成された。
【0033】
(実施例3)
直径150mmの(111)n型フロートゾーンシリコンウェハを複数用意し、1100℃のドライ酸化雰囲気中で熱処理して、各々のウェハ上に400nmの表面酸化膜を形成した。その後、ウェハ加熱温度550℃、加速エネルギー180keV、ドーズ量7.5×1017/cmで炭素イオン(C+)注入を行い、表面酸化層の下に炭素含有層を形成した。注入後、各々のサンプル上に形成された酸化膜層を、希釈フッ酸で除去した。引き続き、各々のサンプルを縦型高温熱処理炉によって1350℃、Ar+0.5体積%O雰囲気中で10時間高温アニールした。この時の表面酸化層および単結晶炭化シリコン層の厚さは70nm、75nmとなった。その後、各々のサンプルをウェハ加熱温度550℃、加速エネルギー120keVで、ドーズ量をそれぞれ0.5、1.0、2.5、4.0、5.0、6.0、8.0×1017/cmで酸素イオン(O+)注入を行い、単結晶炭化シリコン層の下に酸素含有層を形成した。引き続き、各々のサンプルを縦型高温熱処理炉によって1350℃、Ar+0.5体積%O雰囲気中で4時間高温アニールした。その後、各サンプル表面付近の断面構造を断面TEMで評価した。酸素ドーズ量0.5×1017/cmのサンプルは、単結晶炭化シリコン層の直下に連続した酸化膜は形成されず、島状に酸化膜が分布して形成されていた。ドーズ量1.0、2.5、4.0、5.0、6.0、8.0×1017/cmのサンプルは、単結晶シリコン層の直下に連続した酸化膜が形成され、それぞれの酸化膜の膜厚は、20nm、55nm、82nm、111nm、133nmおよび167nmとなった。また、この時の単結晶炭化シリコンの膜厚はドーズ量1.0、2.5、4.0、5.0×1017/cmのサンプルにおいて変化なく75nmであったが、ドーズ量6.0、8.0×1017/cmのサンプルにおいては膜厚が減少し、それぞれ66、28nmとなった。
【0034】
(実施例4)
直径150mmの(111)n型チョクラルスキーシリコンウェハを複数用意し、1100℃のドライ酸化雰囲気中で熱処理して、各々のウェハ上に400nmの表面酸化膜を形成した。その後、ウェハ加熱温度550℃、加速エネルギー180keV、ドーズ量7.5×1017/cmで炭素イオン(C+)注入を行い、表面酸化層の下に炭素含有層を形成した。注入後、各々のサンプル上に形成された酸化膜層を、希釈フッ酸で除去した。引き続き、各々のサンプルを縦型高温熱処理炉によって1350℃、Ar+0.5体積%O雰囲気中で10時間高温アニールした。この時の表面酸化層および単結晶炭化シリコン層の厚さは71nm、74nmとなった。その後、各々のサンプルをウェハ加熱温度550℃、加速エネルギー120keVで、ドーズ量をそれぞれ0.5、1.0、2.5、4.0、5.0、6.0、8.0×1017/cmで酸素イオン(O+)注入を行い、単結晶炭化シリコン層の下に酸素含有層を形成した。引き続き、各々のサンプルを縦型高温熱処理炉によって1350℃、Ar+0.5体積%O雰囲気中で4時間高温アニールした。その後、各サンプル表面付近の断面構造を断面TEMで評価した。酸素ドーズ量0.5×1017/cmのサンプルは、単結晶炭化シリコン層の直下に連続した酸化膜は形成されず、島状に酸化膜が分布して形成されていた。ドーズ量1.0、2.5、4.0、5.0、6.0、8.0×1017/cmのサンプルは、単結晶シリコン層の直下に連続した酸化膜が形成され、それぞれの酸化膜の膜厚は、21nm、55nm、84nm、110nm、132nmおよび168nmとなった。また、この時の単結晶炭化シリコンの膜厚はドーズ量1.0、2.5、4.0、5.0×1017/cmのサンプルにおいて変化なく74nmであったが、ドーズ量6.0、8.0×1017/cmのサンプルにおいては膜厚が減少し、それぞれ67、29nmとなった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明により製造されるシリコン基板の表層部が酸化シリコン層と単結晶炭化シリコン層とからなるシリコン半導体基板は、いわゆる埋め込み酸化膜層(又は、埋め込み絶縁層)を内部に、かつ表面に炭化シリコン(SiC)層を有するシリコン半導体基板である。この基板はSiCOI基板として知られており、SiCOI基板はその優れた特性からパワーエレクトロニクスの分野、特に集積化パワーエレクトロニクスの分野で広く利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 シリコン層
2 単結晶炭化シリコン層
3 炭素含有層
4 酸化膜層
5 単結晶炭化シリコン層
6 酸化膜層
10 ステップ1での半導体基板
20 ステップ2での半導体基板
30 ステップ3での半導体基板
40 ステップ4での半導体基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のステップを順次実施することを特徴とする、シリコン基板の表層部が酸化シリコン層と単結晶炭化シリコン層とからなるシリコン半導体基板の製造方法:
(1)表層部が単結晶炭化シリコン層からなるシリコン半導体基板を用意し、
(2)シリコン基板内に酸素イオンを注入して、単結晶炭化シリコン層の下にシリコンと酸素の混在した酸素含有層を形成するステップと、
(3)前記シリコン基板を熱処理して、前記酸素含有層を酸化膜層とするステップと、
(4)前記シリコン基板の表面に形成された酸化膜を除去するステップ。
【請求項2】
前記酸素イオンの注入の注入条件が、ドーズ量1.0x1017/cm以上5.0x1017/cm以下となることを特徴とし、前記酸素イオン含有層の酸素原子濃度のピークが前記単結晶炭化シリコン層から0nm以上150nm以下となるように前記酸素イオンの注入条件もしくは前記単結晶炭化シリコン層下部までの基板の厚さを調整することを特徴とする、請求項1に記載のシリコン半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記酸素イオンの注入を前記シリコン基板を400℃以上1000℃以下の温度に加熱した状態で行う、請求項1又は2に記載のシリコン半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記表層部が単結晶炭化シリコン層からなるシリコン半導体基板が、シリコン基板に炭素イオンを注入して炭素含有層を形成し、シリコン基板を熱処理して得られるものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコン半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記炭素含有層の炭素原子濃度の最大値が45atom%以上55atom%以下になるように炭素イオン注入条件を調整する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリコン半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記炭素イオンの注入を前記シリコン基板を400℃以上1000℃以下の温度に加熱した状態で行う、請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリコン半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記シリコン基板がチョクラルスキー法もしくはフロートゾーン法により製造された、請求項1〜6のいずれか1項に記載のシリコン半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−138957(P2011−138957A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298488(P2009−298488)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany