説明

シリコン回収システムおよびシリコン回収方法

【課題】ピュアシリコンの含有率が高いシリコン汚泥を回収すること。
【解決手段】結晶シリコンの研磨および/または研削に伴う排水を流通させる樹脂製またはステンレス製の配管を用いることとしたうえで、流通される排水を貯留する貯留槽内の排水に浸漬した膜エレメントへシリコン汚泥を吸着させる汚泥吸着装置と、吸着されたシリコン汚泥を乾燥させることによって乾燥シリコン汚泥を得る汚泥乾燥装置とを配置し、シリコンが水と接した状態で留まる滞留時間が、かかる状態のシリコンにおける酸素濃度の時間変化率を示す酸化係数および回収されるシリコンにおける酸素濃度の目標値に基づいて算出される上限時間以下となるように、配管によって流通される単位時間あたりの排水の量および汚泥吸着装置によって処理される単位時間あたりの排水の量を決定するようにシリコン回収システムを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シリコンを含んだ排水からシリコンを回収するシリコン回収システム、シリコン回収方法、回収物および回収物の化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンインゴットやシリコンウェハを加工する工場では、シリコンの研磨や研削に伴って大量のシリコン汚泥を排出している。そして、近年のエコロジー機運の高まりもあり、かかるシリコン汚泥の再利用について種々検討されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、シリコン屑を含んだ排水のpH値を調整したうえで、調整後の排水をフィルタに通過させてシリコン屑を回収する技術が開示されている。そして、特許文献1には、回収したシリコン屑を溶融させてインゴットとして再利用したり、セメントやコンクリートの材料として再利用したりする旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3773823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、pH調整剤を排水へ注入するため、回収される回収物にpH調整剤の成分が含まれてしまうおそれがある。また、排水中に含まれるピュアシリコン(Si)が化合物へ変成することを促進してしまうおそれもある。このため、特許文献1の技術には、回収物に含まれるピュアシリコン(Si)の比率が低くなってしまうという問題があった。
【0006】
そして、特許文献1の技術を用いた場合には、回収物に含まれるピュアシリコン(Si)の比率を高めるために回収後の後処理が必要となり、再利用するためのコストが高くつくという問題もあった。すなわち、回収物に含まれるピュアシリコンの比率が高いほど再利用価値が高いためピュアシリコンの含有率が高いほど好ましいが、コストをかけすぎると採算をとることが困難となってしまう。
【0007】
ところで、特許文献1の回収物をはじめとするシリコン汚泥は、脱水工程を経たとしても含水率が60%程度であることが知られている。このため、回収したシリコン汚泥は容積が大きく運搬コストが高くつくという問題もあった。
【0008】
これらのことから、ピュアシリコンの含有率が高いシリコン汚泥をいかにして回収するかが大きな課題となっている。
【0009】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであって、ピュアシリコンの含有率が高い回収物を回収することができるシリコン回収システム、シリコン回収方法、回収される回収物および回収物の化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、シリコンを含んだ排水からシリコンを回収するシリコン回収システムであって、結晶シリコンの研磨および/または研削に伴う排水を流通させる流通手段と、前記流通手段によって流通される排水を貯留する貯留槽内の排水に浸漬した膜エレメントへシリコン汚泥を吸着させる汚泥吸着手段と、前記汚泥吸着手段によって吸着されたシリコン汚泥を乾燥させることによって乾燥シリコン汚泥を得る汚泥乾燥手段とを備え、シリコンが水と接した状態で留まる滞留時間が、前記状態のシリコンにおける酸素濃度の時間変化率を示す酸化係数および回収されるシリコンにおける前記酸素濃度の目標値に基づいて算出される上限時間以下となるように、前記流通手段によって流通される単位時間あたりの排水の量および前記汚泥吸着手段によって処理される単位時間あたりの排水の量を決定したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記の発明において、前記流通手段は、樹脂製またはステンレス製の配管であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の発明において、前記汚泥吸着手段の上流側に設けられ、排水を濃縮する濃縮手段をさらに備え、前記流通手段は、前記濃縮手段の上流側および下流側にそれぞれ設けられており、前記汚泥吸着手段は、前記濃縮手段によって濃縮された排水を前記流通手段経由で受け取ることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の発明において、前記汚泥吸着手段は、上流側からみて並列に設けられることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の発明において、前記汚泥乾燥手段は、前記シリコン汚泥を乾燥させることによって含水率が30%以下の前記乾燥シリコン汚泥を得ることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記の発明において、前記滞留時間の終点は、前記乾燥シリコン汚泥の含水率が30%となった時点であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記の発明において、前記上限時間は、100時間以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、上記の発明において、前記酸化係数は、前記流通手段によって流通される排水に含まれるシリコンの粒度に基づいて求められるものであって、前記上限時間は、前記目標値を前記酸化係数で除することによって算出されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、シリコンを含んだ排水からシリコンを回収するシリコン回収方法であって、結晶シリコンの研磨および/または研削に伴う排水のみを流通させる流通工程と、前記流通工程によって流通される排水を貯留する貯留槽を用い、前記貯留槽内の排水に浸漬した膜エレメントへシリコン汚泥を吸着させる汚泥吸着工程と、前記汚泥吸着工程によって吸着されたシリコン汚泥を乾燥させることによって乾燥シリコン汚泥を得る汚泥乾燥工程とを含んでおり、シリコンが水と接した状態で留まる滞留時間が、前記状態のシリコンにおける酸素濃度の時間変化率を示す酸化係数および回収されるシリコンにおける前記酸素濃度の目標値に基づいて算出される上限時間以下となるように、前記流通工程によって流通される単位時間あたりの排水の量および前記汚泥吸着工程によって処理される単位時間あたりの排水の量を決定したことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、上記の発明において回収される回収物であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記の発明において回収される回収物の化合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、結晶シリコンの研磨および/または研削に伴う排水を流通させる流通手段と、流通手段によって流通される排水を貯留する貯留槽内の排水に浸漬した膜エレメントへシリコン汚泥を吸着させる汚泥吸着手段と、汚泥吸着手段によって吸着されたシリコン汚泥を乾燥させることによって乾燥シリコン汚泥を得る汚泥乾燥手段とを備え、シリコンが水と接した状態で留まる滞留時間が、かかる状態のシリコンにおける酸素濃度の時間変化率を示す酸化係数および回収されるシリコンにおける酸素濃度の目標値に基づいて算出される上限時間以下となるように、流通手段によって流通される単位時間あたりの排水の量および汚泥吸着手段によって処理される単位時間あたりの排水の量を決定することとしたので、ピュアシリコンに由来するシリコン屑を含んだ排水のみを回収対象とすることで、回収物のシリコン濃度を高めることができるとともに、滞留時間を制限することによって排水に含まれるシリコンの酸化を防止することができるという効果を奏する。これにより、ピュアシリコンの含有率が高い回収物を回収することができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明によれば、流通手段は、樹脂製またはステンレス製の配管であることとしたので、配管の成分に由来する物質が排水を汚染することを防止することができるという効果を奏する。これにより、不純物の含有率が低い回収物を回収することができるという効果を奏する。
【0023】
また、本発明によれば、汚泥吸着手段の上流側に設けられ、排水を濃縮する濃縮手段をさらに備え、流通手段は、濃縮手段の上流側および下流側にそれぞれ設けられており、汚泥吸着手段は、濃縮手段によって濃縮された排水を流通手段経由で受け取ることとしたので、汚泥吸着手段による吸着効率を高めて汚泥吸着工程に要する時間を短縮することができるので、排水に含まれるシリコンの酸化を防止することができるという効果を奏する。
【0024】
また、本発明によれば、汚泥吸着手段は、上流側からみて並列に設けられることとしたので、汚泥吸着工程における処理能力と排水の発生量とのバランスを容易にとることができるという効果を奏する。これにより、排水に含まれるシリコンの滞留を防止し、排水に含まれるシリコンの酸化を防止することができるという効果を奏する。
【0025】
また、本発明によれば、汚泥乾燥手段は、シリコン汚泥を乾燥させることによって含水率が30%以下の乾燥シリコン汚泥を得ることとしたので、シリコン汚泥内でシリコンが酸化されることを防止することができるという効果を奏する。
【0026】
また、本発明によれば、滞留時間の終点は、乾燥シリコン汚泥の含水率が30%となった時点であることとしたので、シリコンの酸化を停止させることで、回収物におけるピュアシリコンの含有率を高めることができるという効果を奏する。
【0027】
また、本発明によれば、上限時間は、100時間以下であることとしたので、排水に含まれるシリコンを効率良く回収することができるという効果を奏する。
【0028】
また、本発明によれば、酸化係数は、流通される排水に含まれるシリコンの粒度に基づいて求められるものであって、上限時間は、目標値を酸化係数で除することによって算出されることとしたので、回収物におけるピュアシリコンの含有率の目標値に応じて柔軟な運用を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本実施例に係るシリコン回収システムの概要を示す図である。
【図2】図2は、シリコン回収システムの構成を示す図である。
【図3】図3は、酸化係数の説明図である。
【図4】図4は、滞留時間の説明図である。
【図5】図5は、膜エレメントの構成を示す図である。
【図6】図6は、膜モジュールの構成例を示す図である。
【図7】図7は、汚泥吸着装置が実行する各工程を示す図である。
【図8】図8は、汚泥吸着装置および汚泥乾燥装置の概観図である。
【図9】図9は、従来技術に係るシリコン回収システムの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るシリコン回収システム、シリコン回収方法、回収物および回収物の化合物についての実施例を詳細に説明する。
【0031】
なお、以下では、従来技術に係るシリコン回収システムについて図9を用いて説明した後に、本発明に係るシリコン回収手法を適用したシリコン回収システムの実施例について図1〜図8を用いて説明することとする。
【0032】
まず、従来技術に係るシリコン回収システムの概要について図9を用いて説明する。図9は、従来技術に係るシリコン回収システムの概要を示す図である。同図に示すように、従来技術に係るシリコン回収システム300は、BSG(バックサイドグラインダ)装置101、D/S(ダイシング/ソー)装置102、冷却塔201、純水製造装置202、PKG(パッケージ)ダイシング203といった各種装置から排出される排水をまとめて収集し、収集した排水からシリコン汚泥(以下、単に「汚泥」と記載する場合もある)を回収していた。
【0033】
ここで、BSG装置101は、ピュアシリコン(たとえば、純度イレブン・ナインの単結晶シリコン)のインゴットをスライスしたウェハを研磨して所望の厚みのウェハへ加工する装置であり、D/S装置102は、厚み調整後のウェハを研削して矩形状に切り分ける装置である。
【0034】
そして、BSG装置101およびD/S装置102から排出された排水は、濃縮装置301へ導かれ、フィルタリングによって純水を回収するとともに、濃縮された排水が調整槽302へ排出される。
【0035】
また、かかる調整槽302には、冷却塔201や純水製造装置202、PKGダイシング203といった各種装置からの排水も収集される。なお、PKGダイシング203とは、ウェハを樹脂等で封止したパッケージを切り分ける装置である。
【0036】
そして、調整槽302に蓄えられた排水は、排水処理施設303へ導かれ、PAC(ポリ塩化アルミニウム:Poly Aluminum Chloride)などの凝集剤が添加される。
【0037】
かかる凝集剤の添加によって、排水中に含まれるシリコン屑などの成分は沈殿物として排水から分離される。このようにして得られた沈殿物は、脱水機304へと導かれ、脱水工程を経て最終的な回収物である汚泥(シリコン汚泥)が得られていた。
【0038】
なお、排水処理施設303に集められた排水の一部は、調整槽302へ逆送されることが一般的であった。このため、排水中に含まれるシリコン屑は、数日程度のスパンでシリコン回収システム300内に滞留していた。
【0039】
このように、従来技術に係るシリコン回収システム300では、ピュアシリコンに由来するシリコン屑以外の物質(たとえば、凝集剤に由来する物質や、冷却塔201、純水製造装置202、PKGダイシング203に由来する物質)が排水に含まれていたため、回収される汚泥に含まれるピュアシリコンの含有率は概ね55%程度に留まっていた。
【0040】
このように、従来技術に係るシリコン回収システム300によって得られる汚泥は、利用価値が低いという問題があった。
【0041】
また、従来技術に係るシリコン回収システム300では、排水に含まれるシリコン屑が調整槽302や排水処理施設303で長期間にわたって滞留するため、シリコン屑の酸化が進んでしまい、回収汚泥におけるピュアシリコンの含有率を低める一因となっていた。さらに、従来技術に係るシリコン回収システム300によって得られる汚泥は、含水率が60%程度であり、汚泥の運搬コストがかさむという問題もあった。
【0042】
そこで、本発明に係るシリコン回収手法では、以下に示す2つの観点からあらたな汚泥回収手法を構築した。すなわち、1つめの観点は、純シリコンに由来するシリコン屑以外の物質による排水の汚染(コンタミネーション:以下、単に「コンタミ」と記載する)を防止するという観点である(コンタミ防止)。
【0043】
そして、2つめの観点は、排水中のシリコン屑の酸化を防止するという観点である(酸化防止)。これにより、本発明に係るシリコン回収手法によれば、回収汚泥に含まれるピュアシリコンの含有率を概ね99%以上とすることに成功した。
【0044】
以下では、本発明に係るシリコン回収手法の具体的な内容について説明する。
【実施例】
【0045】
図1は、本実施例に係るシリコン回収システムの概要を示す図である。なお、同図においては、従来技術に係るシリコン回収システム300の説明に用いた図9と同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0046】
図1に示すように、本実施例に係るシリコン回収システム1は、ピュアシリコンを加工する装置(同図では、BSG装置101およびD/S装置102)から排出される排水(同図に示す「排水A」)のみを受け入れ、受け入れた排水の濃縮工程、汚泥吸着工程および汚泥乾燥工程を経て、シリコン汚泥(同図に示す「汚泥A」)を得ることとした。
【0047】
具体的には、シリコン回収システム1は、配管10と、濃縮装置20と、汚泥吸着乾燥装置30とを備えている。ここで、配管10は、たとえば、ポリ塩化ビニル(PVC:Polyvinyl Chloride)などの樹脂製あるいはステンレス製の流路である。
【0048】
このように、樹脂製またはステンレス製の流路を用いる理由は、流路の成分に由来する物質が排水を汚染することを防止するためである(コンタミ防止)。ここで、流路を構成する一部の部材を樹脂製とし、その他の部材をステンレス製とすることができる。たとえば、パイプを樹脂製として、ジョイントやバルブをステンレス製とすれば、配管10全体としてのコストを低下させることが可能となる。なお、シリコン回収システム1では、かかる配管10を、排水Aの流路すべてに用いることとしている。
【0049】
濃縮装置20は、図9に示した濃縮装置301と同型式の装置とすることができる。ただし、濃縮装置20における排水の濃縮率や、単位時間あたりの排水処理量は、排水Aの単位時間あたりの量や、汚泥吸着乾燥装置30の処理量に見合うように調整される。なお、具体的な調整内容については、後述する。
【0050】
汚泥吸着乾燥装置30は、後述する膜エレメントを排水中に浸漬することで排水を濾過し、膜エレメント表面に付着した汚泥を回収する装置である。また、汚泥吸着乾燥装置30は、回収した汚泥を乾燥させることで汚泥Aを得る装置でもある。
【0051】
そして、シリコン回収システム1では、排水Aから汚泥Aを得るにあたり、排水Aに含まれるシリコン屑が、水と接している時間(以下、「滞留時間」と記載する)を、所定の上限時間以下に制限することとした。そして、シリコン屑の滞留時間が、かかる上限時間以下となるように、排水Aの量および排水Aを処理する各装置の処理能力を調整することとした。
【0052】
このように、シリコン屑の滞留時間を制限する理由は、シリコン屑が水に接している時間が長くなればなるほど、シリコン(Si)の酸化が進んで酸化シリコン(SiO)が生成されやすくなるためである。
【0053】
すなわち、シリコン回収システム1では、シリコン屑の滞留時間を制限することで、汚泥Aに含まれる酸化シリコンの比率を抑え、汚泥Aにおけるピュアシリコンの含有率を高めることとした。なお、シリコンの酸化については、図3を用いて後述する。また、シリコン屑の滞留時間の詳細な内容については、図4を用いて後述する。
【0054】
そして、シリコン回収システム1で得られる汚泥Aは、上述したように乾燥工程を経て得られるので、汚泥Aの運搬性を高めることができるとともに、汚泥A中におけるシリコン屑の酸化を防止することもできる。
【0055】
なお、図1に示したように、冷却塔201、純水製造装置202、PKGダイシング203等の装置から排出される排水Bは、従来と同様に、排水処理施設303および脱水機304を経由し、汚泥Bが回収されることになる。
【0056】
以下では、シリコン回収システム1の構成についてさらに詳細に説明する。
【0057】
図2は、シリコン回収システム1の構成を示す図である。なお、同図では、図1に示した汚泥吸着乾燥装置30を、汚泥吸着装置40と、汚泥乾燥装置50とに分離して構成した場合について示している。
【0058】
以下では、説明を簡略化するために、BSG装置101およびD/S装置102から排出される排水Aの単位時間あたりの総量が、100m/hである場合について説明する。また、以下では、BSG装置101およびD/S装置102から排出された直後の排水Aにおけるピュアシリコンの濃度が200ppmである場合について説明する。
【0059】
図2に示すように、BSG装置101およびD/S装置102と、濃縮装置20とは、上記した配管10で接続されている。また、濃縮装置20と、汚泥吸着装置40とについても、同じく配管10で接続されている。すなわち、シリコン回収システム1では、排水A専用の配管10で排水(排水A)を取り扱う装置を連結している(図2の(A)参照)。
【0060】
ここで、かかる配管10は樹脂製またはステンレス製であるので、排水Aのコンタミ防止を図ることができる。また、排水A自体のコンタミを防止する観点からは、BSG装置101あるいはD/S装置102が加工対象とするウェハに対して保護膜等を付与しないことが好ましい。また、BSG装置101あるいはD/S装置102の内部においても、排水Aが滞留する形状を排したり、排水Aが接する部位を配管10と同種の樹脂でコーティングしたりすることとしてもよい。
【0061】
さらに、シリコン回収システム1では、従来技術に係るシリコン回収システム300では必須であった凝集剤を必要としないので、排水Aには、凝集剤に由来する物質は含まれない。
【0062】
このようにして、シリコン回収システム1では、回収シリコンに含まれる不純物を極めて少なくすることに成功した。具体的には、回収シリコンに含まれる鉄(Fe)、アルミ(Al)、カルシウム(Ca)、ボロン(B)、リン(P)といった不純物が、それぞれ20ppm以下となることを確認した。
【0063】
また、シリコン回収システム1では、排水A中に含まれるシリコン屑の滞留時間が所定時間以下となるように各装置の単位処理量を調整している(図2の(B)参照)。具体的には、排水Aが100m/hで発生する場合、濃縮装置20の単位処理量は、100m/h以上となるように調整される。なお、単体の濃縮装置20による単位処理量が不足している場合には、複数台の濃縮装置20を並列に設けることとすればよい。
【0064】
このように、排水A中に含まれるシリコン屑の滞留時間を所定時間以下に調整する理由は、以下の通りである。すなわち、シリコンを水と接触させた状態の継続時間である滞留時間と、シリコンが酸化される度合いとの関係を示す酸化係数を実験によって求めた結果、所望する回収シリコンの酸素濃度に応じて滞留時間を調整することが有用であることが確認されたためである。
【0065】
ここで、実験によって求めた酸化係数について図3を用いて説明しておく。図3は、酸化係数の説明図である。なお、同図に示したグラフの縦軸は、シリコン中の酸素濃度の重量%(mass%)であり、横軸は、時間(hour)である(なお、同図では、「hour」を「h」と略記している)。
【0066】
また、図3では、含水率を99.8%とした場合のデータを「○」で、含水率を30%とした場合のデータを「◇」で、それぞれ示している。そして、図3に示した各データは、中性、常温かつ常圧で取得されたものであり、シリコンの粒度は、1μmセンターである。
【0067】
なお、以下では、説明を簡略化するために、(100[mass%]−酸素濃度[mass%])を、「シリコン純度」と記載することとする。
【0068】
図3に示すように、酸素濃度の増加率は、初期段階では大きく、時間の経過に伴って一定値に近づいていくことがわかる。そして、初期段階の概ね70時間までは、増加率はほぼ一定であるので、各データを結んだ曲線の傾きは、直線とみなすことができる。そして、かかる直線の傾きを「酸化係数」と呼ぶこととする。
【0069】
ここで、図3に示したように、含水率が99.8%である場合には、酸化係数は、0.18[mass%/h]である。たとえば、含水率が99.8%のシリコンを10時間放置すると、酸素濃度は、1.8%(0.18×10)となる。なお、含水率が99.8%である場合とは、シリコンが排水中にある状態に対応する。
【0070】
これに対し、含水率が30%である場合には、酸化係数は、0.02[mass%/h]である。さらに、含水率が30%である場合には、500時間以上経過しても酸素濃度が2%を上回らないことがわかる。
【0071】
このように、含水率を99.8%から30%へ下げることで、シリコンの酸化速度が1桁低下する。また、最終的に到達する酸素濃度も、30%から2%へ1桁低下している。すなわち、含水率を30%まで下げることで、酸化の進行をほぼ停止させることができる。
【0072】
かかる実験結果に基づき、シリコン回収システム1では、回収シリコンに要求される酸素濃度に応じ、滞留時間についての上限時間を算出し、シリコンの滞留時間が、かかる上限時間以下となるように各装置の単位処理量を調整することとした。
【0073】
たとえば、回収シリコンに要求される酸素濃度が1%以下である場合、すなわち、回収シリコンのシリコン純度を99%以上にしたい場合には、上限時間は5.5h(1÷0.18)と算出される。このように、回収シリコンのシリコン純度として99%が要求される場合には、シリコン回収システム1では、シリコンの滞留時間が5.5h以下となるように各装置の単位処理量を調整する。
【0074】
また、回収シリコンに要求される酸素濃度が5%以下である場合、すなわち、回収シリコンのシリコン純度を95%以上にしたい場合には、上限時間は27.7h(5÷0.18)と算出される。このように、回収シリコンのシリコン純度として95%が要求される場合には、シリコン回収システム1では、シリコンの滞留時間が27.7h以下となるように各装置の単位処理量を調整する。
【0075】
なお、排水中におけるシリコンの酸素濃度が20%程度まで上昇すると汚泥吸着装置40によるシリコンの回収効率が低下するため、上限時間の最大値は、概ね100時間(111=20÷0.18)以下とすることが好ましい。
【0076】
このように、シリコン回収システム1では、回収シリコンに求められる品質に応じてシリコンの滞留時間を調整する。さらに、シリコン回収システム1では、かかる実験結果に基づき、最終的に回収されるシリコンの含水率を30%まで下げることで、回収シリコン中で酸化が進行することを防止している。
【0077】
なお、図3では、シリコンの粒度が1μmセンターである場合の酸化係数を例示したが、これは、本実施例に係るシリコン回収システム1が取り扱うシリコン(シリコン屑)の粒度が1μmセンターであるためである。しかしながら、これに限らず、他の粒度の場合にも同様にシリコン係数を求めることができる。すなわち、回収対象となるシリコンの粒度に応じて図3に示した実験と同様の実験を行うことによって、回収対象となるシリコンの粒度ごとに酸化係数を求めることができる。
【0078】
なお、シリコン屑の酸化係数(酸化速度)は、シリコン屑の表面積に比例すると考えられるので、たとえば、シリコン屑の形状を球形と仮定し、所定の粒度(たとえば、1μmセンター)で求めた酸化係数に基づいて他の粒度の酸化係数を推定することとしてもよい。たとえば、1μmセンターで求めた酸化係数がAである場合、2μmセンターの酸化係数Bを、B=A/2と推定することができる。
【0079】
図2の説明に戻り、濃縮装置20ついて説明する。図2に示した場合では、濃縮装置20は、上流から受け取った排水Aを200倍に濃縮する。この結果、汚泥吸着装置40に対しては、40,000ppmの濃度の排水Aが供給される。ここで、濃縮装置20における濃縮率を200倍と設定した理由は、汚泥吸着装置40における汚泥回収効率を高めるためであるが、この点については、後述する。
【0080】
なお、単体の濃縮装置20における濃縮性能が不足している場合には、複数台の濃縮装置20を直列に設けることとすればよい。たとえば、単体の濃縮装置20が10倍の濃縮性能を有している場合には、20台の濃縮装置20を直列に連結することで、200倍の濃縮性能を得ることができる。
【0081】
つづいて、濃縮装置20によって200倍に濃縮された排水Aを受け取る汚泥吸着装置40の単位処理量は、0.5m/h(100m/h÷200倍)以上となるように調整される。そして、汚泥吸着装置40は、含水率が60%の汚泥4を回収する。なお、汚泥4の濃度は、400,000ppmである。
【0082】
なお、単体の汚泥吸着装置40における汚泥吸着性能が不足している場合には、複数台の汚泥吸着装置40を並列に設けることとすればよい。また、単体の汚泥吸着装置40を用いる場合であっても、汚泥吸着装置40が用いる濾過膜の総面積や、濾過膜経由で吸引する排水の量を、単位時間あたりに処理すべき排水Aの量に見合うように調整することとすればよい。
【0083】
つづいて、汚泥吸着装置40によって回収された汚泥4を受け取った汚泥乾燥装置50は、汚泥4を乾燥させることによって乾燥汚泥5を得る。ここで、乾燥汚泥5の含水率は30%であり、乾燥汚泥5の濃度は、700,000ppmである。なお、汚泥4は自然乾燥させることとしてもよいし、冷風や熱風を吹きかけるなどして強制乾燥させることとしてもよい。また、熱風を用いる場合には、汚泥4に含まれるピュアシリコンの変成を防止するために、熱風の温度を100℃未満とすることが好ましい。
【0084】
なお、単体の汚泥乾燥装置50における汚泥乾燥性能が不足している場合には、複数台の汚泥乾燥装置50を並列に設けることとすればよい。
【0085】
また、図2では、排水Aの発生元として、BSG装置101およびD/S装置102を例示しているが、ピュアシリコンを加工する装置であれば、その種別は問わない。そして、図2では、排水Aを濃縮装置20で濃縮してから汚泥吸着装置40へ渡す場合について示しているが、濃縮装置20を省略することとしてもよい。なお、濃縮装置20を省略する場合には、汚泥吸着装置40において使用される濾過膜の総面積を、濃縮装置20を用いる場合よりも増加させる必要がある。
【0086】
次に、シリコン屑の滞留時間について図4を用いて説明する。図4は、滞留時間の説明図である。なお、同図には、シリコン屑2および排水3を模式的に示している。
【0087】
図4に示すように、排水3におけるシリコン屑2の滞留時間は、シリコン屑2が排水3に入ってから(同図の「開始時点」参照)、シリコン屑2が排水3から取り出されるまで(同図の「終了時点」参照)の時間を指す。
【0088】
具体的には、BSG装置101やD/S装置102では、純水を噴霧しながら研磨や研削が行われるので、研磨や研削によってシリコン屑2が発生した時点が、「開始時点」となる。また、汚泥吸着装置40によって吸着された汚泥が排水3から引き上げられた時点が、「終了時点」となる。
【0089】
なお、後述するように、汚泥吸着装置40は、濾過槽に排水3を貯め、排水3に浸漬した膜エレメントへ汚泥を吸着させるので、かかる濾過槽内でのシリコン屑2の滞留が問題となる。このため、汚泥吸着装置40による単位処理量は、高めに見積もることが好ましい。
【0090】
たとえば、濃縮装置20から単位時間に受け取る排水3の量が0.5m/hである場合、本来なら、汚泥吸着装置40の単位処理量は、0.5m/hで足りる。しかしながら、膜エレメントへ吸着されず濾過槽内に滞留するシリコン屑2の滞留時間を考慮すると、本来必要な単位処理量の3倍程度以上とすることが好ましい。
【0091】
すなわち、濃縮装置20の単位処理量との関係から汚泥吸着装置40に要求される単位処理量が0.5m/hである場合、汚泥吸着装置40の単位処理量を、3倍程度の1.5m/h以上とすることが好ましい。
【0092】
そして、BSG装置101やD/S装置102でシリコン屑2が発生してから、汚泥吸着装置40によって吸着された汚泥が排水3から引き上げられるまでの時間(滞留時間)を概ね5.5時間以下とすることで、酸素濃度が1%以下のシリコンを回収することができる。
【0093】
なお、汚泥吸着装置40によって回収される汚泥4の含水率は60%程度であるが、回収汚泥の含水率が30%以下であれば、回収汚泥に含まれるシリコン屑2の酸化がほぼ停止することが、実験によって確認された(図3参照)。したがって、図4に示した「終了時点」を、汚泥乾燥装置50によって乾燥汚泥5が生成された時点としたうえで、滞留時間の管理を行うこととしてもよい。
【0094】
たとえば、BSG装置101やD/S装置102でシリコン屑2が発生してから、かかるシリコン屑2を含んだ乾燥汚泥5が生成されるまでの時間が概ね5.5時間以下となるように、濃縮装置20、汚泥吸着装置40および汚泥乾燥装置50の単位処理量を決定することとしてもよい。
【0095】
以下では、汚泥吸着装置40および汚泥乾燥装置50についてさらに詳細に説明する。
【0096】
まず、汚泥吸着装置40の構成について図5〜図7を用いて説明する。図5は、膜エレメントの構成を示す図である。なお、図5の(A)には、膜エレメント41の外観図を、同じく(B)には、膜エレメント41の内部構造を、同じく(C)には、連結ブロック42を、同じく(D)には、連結された膜エレメント41を、それぞれ示している。
【0097】
図5の(A)に示すように、膜エレメント41は、樹脂製の濾板41aの両面に膜41cを貼り付けることで構成される。ここで、膜41cは、孔径0.25μmの高分子精密濾過膜であり、0.25μm以上の微粒子を捕捉することができる。しかし、実際には、膜41cの表面に捕捉した微粒子で形成されるケーク層がさらに微細なネットワークを形成するため、0.05μm以上の微粒子をほぼ捕捉することができる。
【0098】
なお、膜エレメント41のサイズ(耳部41bを除いたサイズ)は、たとえば、高さ150mm程度、幅500mm程度、厚さ5mm程度である。
【0099】
また、膜エレメント41の両端部には、耳部41bがそれぞれ設けられている。ここで、耳部41bの中央部には、1つの通水穴41baが設けられており、通水穴41baを挟む位置には、2つの連結穴41bbが設けられている。なお、通水穴41baにはOリングが設けられており、図5の(C)に示す連結ブロック42との接合面からの液漏れを防止する。
【0100】
そして、図5の(B)に示すように、濾板41aには、流路41aaが設けられており膜41cを透過した膜透過水を一方の耳部41bへ導くこととしている。そして、耳部41bへ導かれた膜透過水は、通水穴41baへとさらに導かれる。なお、図5の(B)には、膜透過水を、同図の右側に示した耳部41bへ導く場合について示している。
【0101】
図5の(C)に示したのは、膜エレメント41を連結する際に用いる連結ブロック42である。この連結ブロック42は、膜エレメント41の耳部41bとそれぞれ対応する位置に、1つの通水穴42aと、2つの連結穴42bとが設けられている。そして、厚みが異なる連結ブロック42を用いることで、膜エレメント41と膜エレメント41との間隔を調整することができる。なお、連結ブロック42の厚み(すなわち、膜エレメント41同士の間隔)は、たとえば、15mmとすることができる。
【0102】
図5の(D)に示したのは、連結ブロック42を用いて連結した膜エレメント41の様子である。なお、図5の(D)には、図5の(B)に示した膜エレメント41を左右反転させつつ交互に連結した場合について示している。
【0103】
この場合、手前から奇数番目の膜エレメント41の膜透過水は、連結ブロック42を介して同図に示した43Rのように集水される。また、手前から偶数番目の膜エレメント41の膜透過水は、同じく43Lのように集水される。なお、図5の(D)には、各耳部41bへ濾過水を分散して集水する場合について示したが、片側の耳部41bのみへ濾過水を集水することとしてもよい。
【0104】
次に、図5に示した膜エレメント41を連結した膜モジュールについて図6を用いて説明する。図6は、膜モジュールの構成例を示す図である。図6に示すように、図5の(D)に示した膜エレメント41および連結ブロック42を、連結穴41bbおよび連結穴42bを貫通するボルト44aで固定する。そして、ボルトで固定した膜エレメント41群を、レール44bを用いて固定することで、膜モジュール44が得られる。
【0105】
なお、図6には、6枚の膜エレメント41からなるセットを上下2段組みした膜モジュール44について例示しているが、各セットに含まれる膜エレメント41の個数や、段数については、任意の数とすることができる。
【0106】
次に、図6に示した膜モジュール44を用いた汚泥吸着装置40の動作について図7を用いて説明する。図7は、汚泥吸着装置40が実行する各工程を示す図である。なお、図7の(A)には濾過工程を、同じく(B)には逆洗準備工程を、同じく(C)には逆洗工程を、同じく(D)には濾過準備工程を、それぞれ示している。
【0107】
また、図7に示したように、汚泥吸着装置40は、濃縮装置20から配管10経由で受け取った濃縮排水を貯留する濾過槽45と、膜モジュール44の引き上げを行う引上機構46とを備えている。また、汚泥吸着装置40は、膜モジュール44に含まれる各膜エレメント41を吸引することで得られた濾過水を処理水として排出したり、各膜エレメント41へ処理水を逆送したりするポンプ47を備えている。
【0108】
そして、膜モジュール44は、引上機構46の支持軸46aまわりに回動するアーム46bにつり下げられており、支持軸46aが同図の時計回りに回動することで、濾過槽45から引き上げられ、ベルトコンベア52の上方へ位置付けられる。また、支持軸46aが同図の反時計まわりに回動することで、膜モジュール44は、濃縮排水を満たした濾過槽45へ浸漬される。
【0109】
ここで、ベルトコンベア52は、汚泥乾燥装置50へ汚泥4を運搬する機構であり、汚泥吸着装置側40側よりも汚泥乾燥装置50側が高くなるように傾斜が設けられている。そして、ベルトコンベア52は、汚泥吸着装置側40側の端部が濾過槽45よりも高い位置に設置されている。したがって、逆洗水やベルトコンベア52上で汚泥4から流出した排水は、汚泥吸着装置40側の端部に集められたうえで自重で濾過槽45へ流入する。
【0110】
また、ポンプ47に接続されたチューブ47aは、膜モジュール44の最前面に位置する膜エレメント41の通水穴41baにそれぞれ接続される。なお、図7には、片側の耳部41b(同図の右側)のみへ濾過水を集水するように組み立てられた膜モジュール44を例示している。
【0111】
図7の(A)に示したように、濾過工程では、膜モジュール44は、濃縮排水を満たした濾過槽45に浸漬されており、ポンプ47は、各膜エレメント41を吸引するように作動する。これにより、各膜エレメント41に張られた膜41cの表面には、ケーク層が形成される。そして、汚泥吸着装置40は、ケーク層の厚さが2〜5mm程度となるまで濾過工程を継続する。なお、濾過工程の継続時間は、概ね45分程度である。
【0112】
ここで、ケーク層の厚さが2〜5mm程度となるまで濾過工程を継続する理由は、ケーク層が薄すぎると、ケーク層の剥離性が悪く大量の逆洗水が必要となるためである。また、逆にケーク層が厚すぎると、汚泥吸着装置40における排水の処理速度が低下するためでもある。
【0113】
なお、濾過槽45内の排水の濃度は、上流の濃縮装置20によって40,000ppm程度に濃縮されているため、濾過工程の継続時間を45分程度にとどめることができる。これに対し、排水の濃度が1,500ppm程度である場合には、ケーク層の成長速度が遅いため、濾過工程の継続時間を概ね240分程度とする必要がある。
【0114】
つづいて、ケーク層の厚さが適切な厚さとなったならば、汚泥吸着装置40は、引上機構46を作動させて膜モジュール44を、濾過槽45から引き上げる。そして、図7の(B)に示したように、引き上げた膜モジュール44を、ベルトコンベア52の上方へ位置付けたうえで停止させる。なお、この逆洗準備工程においても、ポンプ47による吸引を継続してケーク層からの脱水を進行させる。
【0115】
ここで、膜モジュール44の引き上げからベルトコンベア52上方への位置付けまでに要する時間は、概ね1分以内である。また、ポンプ47によってケーク層からの脱水を継続する時間は、概ね5分以内である。
【0116】
つづいて、汚泥吸着装置40は、ポンプ47を反転作動させることで、処理水を逆送する。これにより、膜エレメント41内部から膜41cへ向けて処理水が噴き出すので、図7の(C)に示したように、膜41cの表面に形成されたケーク層が膜41cから剥離してベルトコンベア52上へ落下する。このようにして、汚泥4が得られる。なお、この逆洗工程に要する時間は、概ね1分以内である。
【0117】
なお、ポンプ47によって逆送される処理水(逆洗水)の圧力は、50kPa以下の低水圧で足りる。このように、低水圧を用いることができる理由は、汚泥吸着装置40における膜41cの外側に支持体がなく、膜41cの表面に吸着されたケーク層が自重で落下するほど剥離性が良いためである。
【0118】
つづいて、汚泥吸着装置40は、図7の(D)に示したように、膜モジュール44を図7の(A)に示した位置へ戻すべく、支持軸46a(図7の(A)参照)を同図の反時計回りに回動させる。なお、膜モジュール44を図7の(A)に示した位置へ戻すために要する時間は、概ね1分以内である。また、この濾過準備工程では、ベルトコンベア52の傾斜に沿って集水された処理水(余剰逆洗水)は、自重で濾過槽45へ返送される。
【0119】
そして、汚泥吸着装置40は、同図に示した(A)〜(D)の工程を繰り返すことで、汚泥4の回収を連続して行っていくことになる。また、汚泥吸着装置40によって回収された汚泥4は、ベルトコンベア52によって汚泥乾燥装置50へ随時搬送されることになる。
【0120】
このように、汚泥吸着装置40は、凝集剤などの添加物を用いることなくシリコン汚泥を回収するので、回収されるシリコン汚泥に含まれるピュアシリコンの含有率を高めることができる。
【0121】
なお、汚泥4を濾布で包み込んで強制的に含水率を下げる手法(フィルタープレス手法)をとった場合には、汚泥4が高温となることが知られており、汚泥4に含まれるシリコンが変成する可能性が高くなるため好ましくない。
【0122】
次に、汚泥乾燥装置50の構成と、汚泥吸着装置40および汚泥乾燥装置50の配置例とについて、図8を用いて説明する。図8は、汚泥吸着装置40および汚泥乾燥装置50の外観図である。なお、図8の(A)には、汚泥吸着装置40および汚泥乾燥装置50の上面図を、同じく(B)には、汚泥吸着装置40および汚泥乾燥装置50の側面図を、それぞれ示している。
【0123】
また、図8には、落下する汚泥4を受け止める枠状(上方からみた中央部は空洞)のガイド48の下方に設けられたベルトコンベア52を挟む形で、2台の汚泥吸着装置40(汚泥吸着装置40Aおよび汚泥吸着装置40B)を並列に設けた場合を示している。この場合、汚泥吸着装置40Aおよび汚泥吸着装置40Bは、1つのベルトコンベア52を共有しているので、膜モジュール44をベルトコンベア52の上方へ移動させる工程(図7の(B)あるいは(C)参照)が交互に行われるように調整される。
【0124】
なお、図8では、2台の汚泥吸着装置40に対して1台の汚泥乾燥装置50を設けた場合について示しているが、汚泥吸着装置40ごとに汚泥乾燥装置50を設けることとしてもよい。
【0125】
ここで、ベルトコンベア52は、汚泥吸着装置40側よりも汚泥乾燥装置50側が高くなるように傾斜が設けられており、汚泥吸着装置40側の端部は、汚泥吸着装置40の濾過槽45よりも高い位置に設置されている(図8の(B)参照)。かかる配置によって、ベルトコンベア52で回収された排水や逆洗水は自重で濾過槽45へ戻ることになる。なお、汚泥吸着装置40の構成および動作については、図7を用いて既に説明したので、ここでの説明を省略する。
【0126】
以下では、汚泥乾燥装置50の構成および動作について説明する。なお、本実施例では、熱風を吹き付けることによって乾燥汚泥5を得る汚泥乾燥装置50を例示しているが、他の乾燥手法を用いることとしてもよい。たとえば、汚泥4に対して冷風を吹き付けたり、汚泥4を自然乾燥させたりすることとしてもよい。
【0127】
図8の(A)に示すように、汚泥乾燥装置50は、乾燥室51と、ベルトコンベア52とを備えている。また、乾燥室51には、排気口55が設けられるとともに、ヒータ53からの熱風を乾燥室51へ導く熱風導入パイプ54が接続されている。ここで、ヒータ53は、熱風の温度が100℃未満となるように調整する。
【0128】
また、ベルトコンベア52は、ガイド48を通過して落下してくる汚泥4を、乾燥室51へと運搬する。つづいて、運搬された汚泥4には、乾燥室51において熱風が吹き付けられ、汚泥4の含水率は低下していく。そして、汚泥4が乾燥室51端(同図におけるベルトコンベア52の右端)に達した時点では、含水率が30%以下の乾燥汚泥5が得られる。
【0129】
なお、乾燥汚泥5は、ベルトコンベア52の右端に達すると落下し、図示しない収納器へ格納されることになる。
【0130】
このように、汚泥吸着装置40によって吸着された汚泥4は、ただちに、汚泥乾燥装置50へ導かれ、乾燥汚泥5へと加工されるので、汚泥4中でシリコンの酸化が進行することを防止することができる。
【0131】
次に、シリコン回収システム1によって得られる乾燥汚泥5の性質および乾燥汚泥5の利用例について説明する。
【0132】
シリコン回収システム1によって得られる乾燥汚泥5における鉄(Fe)、アルミ(Al)、カルシウム(Ca)、ボロン(B)、リン(P)といった不純物は、それぞれ20ppm以下であることが確認されている。なお、シリコン屑の発生元となるBSG装置101あるいはD/S装置102で用いられる砥石やカッティングソーに由来する物質を排除することとすれば、かかる不純物の比率をさらに低くすることも可能である。
【0133】
また、シリコンの滞留時間が5.5時間以下となるように各装置の単位処理量を調整した場合、乾燥汚泥5におけるシリコン純度は概ね99%以上(すなわち、酸素濃度が1%以下)であることも確認されている。
【0134】
さらに、シリコン回収システム1によって得られる乾燥汚泥5に含まれるシリコン屑の粒度は、1μmセンターであり、粉砕加工を行わずとも利用価値が非常に高い。このため、シリコン回収システム1によって得られる乾燥汚泥5は、太陽電池の原料、硬質セラミックの原料、シリコン樹脂の原料、耐火物の原料などに広く用いることができる。
【0135】
また、上述したように、シリコン回収システム1によって得られる乾燥汚泥5におけるピュアシリコンの含有率は非常に高いので、ケイ素化合物の原料としても有用である。たとえば、シリコン回収システム1によって得られる乾燥汚泥5を、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO)、窒化ケイ素(Si)、炭化ケイ素(SiC)などのケイ素化合物の原料として用いることができる。
【0136】
そして、生成されたケイ素化合物は、たとえば、二酸化ケイ素(SiO)については半導体封止樹脂添加剤として、窒化ケイ素(Si)については、回路基板や窒化ケイ素工具として、それぞれ利用することができる。
【0137】
上述してきたように、本実施例では、結晶シリコンの研磨および/または研削に伴う排水を流通させる樹脂製またはステンレス製の配管を用いることとしたうえで、流通される排水を貯留する貯留槽内の排水に浸漬した膜エレメントへシリコン汚泥を吸着させる汚泥吸着装置と、吸着されたシリコン汚泥を乾燥させることによって乾燥シリコン汚泥を得る汚泥乾燥装置とを配置し、シリコンが水と接した状態で留まる滞留時間が、かかる状態のシリコンにおける酸素濃度の時間変化率を示す酸化係数および回収されるシリコンにおける酸素濃度の目標値に基づいて算出される上限時間以下となるように、配管によって流通される単位時間あたりの排水の量および汚泥吸着装置によって処理される単位時間あたりの排水の量を決定するようにシリコン回収システムを構成した。
【0138】
したがって、本発明に係るシリコン回収システムおよびシリコン回収方法によれば、ピュアシリコンの含有率が高いシリコン汚泥を回収することができる。そして、回収されたシリコン汚泥を広く再利用することができる。
【0139】
なお、上述した実施例では、回収対象となるシリコン屑の粒度が、1μmセンターである場合について説明した。しかしながら、本発明は、様々な粒度のシリコン屑に対応することができる。すなわち、回収対象となるシリコン屑の粒度に応じた酸化係数を実験等で求め、求めた酸化係数に基づいて滞留時間の上限値を算出することとすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0140】
以上のように、本発明に係るシリコン回収システムおよびシリコン回収方法は、シリコンを加工するプラントへの適用に有用であり、特に、回収したシリコンを広く再利用したい場合に適している。
【符号の説明】
【0141】
1 シリコン回収システム
2 シリコン屑
3 排水
4 汚泥
5 乾燥汚泥
10 配管
20 濃縮装置
30 汚泥吸着乾燥装置
40 汚泥吸着装置
41 膜エレメント
41a 濾板
41aa 流路
41b 耳部
41ba 通水穴
41bb 連結穴
41c 膜
42 連結ブロック
42a 通水穴
42b 連結穴
44 膜モジュール
44a ボルト
44b レール
45 濾過槽
46 引上機構
46a 支持軸
46b アーム
47 ポンプ
47a チューブ
48 ガイド
50 汚泥乾燥装置
51 乾燥室
52 ベルトコンベア
53 ヒータ
54 熱風導入パイプ
55 排気口
101 BSG装置
102 D/S装置
201 冷却塔
202 純水製造装置
203 PKGダイシング
300 従来技術に係るシリコン回収システム
301 濃縮装置
302 調整槽
303 排水処理施設
304 脱水機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを含んだ排水からシリコンを回収するシリコン回収システムであって、
結晶シリコンの研磨および/または研削に伴う排水を流通させる流通手段と、
前記流通手段によって流通される排水を貯留する貯留槽内の排水に浸漬した膜エレメントへシリコン汚泥を吸着させる汚泥吸着手段と、
前記汚泥吸着手段によって吸着されたシリコン汚泥を乾燥させることによって乾燥シリコン汚泥を得る汚泥乾燥手段と
を備え、
シリコンが水と接した状態で留まる滞留時間が、前記状態のシリコンにおける酸素濃度の時間変化率を示す酸化係数および回収されるシリコンにおける前記酸素濃度の目標値に基づいて算出される上限時間以下となるように、前記流通手段によって流通される単位時間あたりの排水の量および前記汚泥吸着手段によって処理される単位時間あたりの排水の量を決定したことを特徴とするシリコン回収システム。
【請求項2】
前記流通手段は、
樹脂製またはステンレス製の配管であることを特徴とする請求項1に記載のシリコン回収システム。
【請求項3】
前記汚泥吸着手段の上流側に設けられ、排水を濃縮する濃縮手段
をさらに備え、
前記流通手段は、
前記濃縮手段の上流側および下流側にそれぞれ
設けられており、
前記汚泥吸着手段は、
前記濃縮手段によって濃縮された排水を前記流通手段経由で受け取ることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコン回収システム。
【請求項4】
前記汚泥吸着手段は、
上流側からみて並列に設けられることを特徴とする請求項1、2または3に記載のシリコン回収システム。
【請求項5】
前記汚泥乾燥手段は、
前記シリコン汚泥を乾燥させることによって含水率が30%以下の前記乾燥シリコン汚泥を得ることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のシリコン回収システム。
【請求項6】
前記滞留時間の終点は、
前記乾燥シリコン汚泥の含水率が30%となった時点であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のシリコン回収システム。
【請求項7】
前記上限時間は、
100時間以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のシリコン回収システム。
【請求項8】
前記酸化係数は、
前記流通手段によって流通される排水に含まれるシリコンの粒度に基づいて求められるものであって、
前記上限時間は、
前記目標値を前記酸化係数で除することによって算出されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のシリコン回収システム。
【請求項9】
シリコンを含んだ排水からシリコンを回収するシリコン回収方法であって、
結晶シリコンの研磨および/または研削に伴う排水のみを流通させる流通工程と、
前記流通工程によって流通される排水を貯留する貯留槽を用い、前記貯留槽内の排水に浸漬した膜エレメントへシリコン汚泥を吸着させる汚泥吸着工程と、
前記汚泥吸着工程によって吸着されたシリコン汚泥を乾燥させることによって乾燥シリコン汚泥を得る汚泥乾燥工程と
を含んでおり、
シリコンが水と接した状態で留まる滞留時間が、前記状態のシリコンにおける酸素濃度の時間変化率を示す酸化係数および回収されるシリコンにおける前記酸素濃度の目標値に基づいて算出される上限時間以下となるように、前記流通工程によって流通される単位時間あたりの排水の量および前記汚泥吸着工程によって処理される単位時間あたりの排水の量を決定したことを特徴とするシリコン回収方法。
【請求項10】
請求項9に記載のシリコン回収方法によって回収される回収物。
【請求項11】
請求項9に記載のシリコン回収方法によって回収される回収物の化合物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−157226(P2011−157226A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19554(P2010−19554)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【特許番号】特許第4665054号(P4665054)
【特許公報発行日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(502415560)東芝メモリアドバンスドパッケージ株式会社 (30)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(503442592)株式会社ユアサメンブレンシステム (28)
【出願人】(506225950)シナジーテック株式会社 (2)
【Fターム(参考)】