説明

シリコン回収方法及びシリコン回収装置

【課題】シリコンを含む廃棄物やシリコン製造時に発生するシリコンが混在しているスラグ等からなるシリコン混在物から、不用物を効果的に除去してシリコンを効率よく分離回収するシリコン回収方法及びシリコン回収装置を提供する。
【解決手段】シリコン混在物をアルカリ性水溶液(a)に投入し、混在物中にあるシリコンの界面よりガスを発生させて混在物を崩壊させる工程と、崩壊したシリコン混在物をアルカリ性水溶液(b)中でシリコン周辺にガスを発生させ、ガスが付着したシリコンを浮上させる工程と、浮上したシリコンを分離、回収する工程とを含むシリコン回収方法である。シリコン混在物の受入および供給装置と、混在物中にあるシリコンの界面よりガスを発生させて混在物を崩壊させるアルカリ性水溶液(a)が入った分解槽を有する分解装置と、アルカリ性水溶液(b)が入った浮遊槽を有する浮選分離装置と、浮遊槽で浮遊したシリコンを分離、回収する浮上物回収装置とを少なくとも有するシリコン回収装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン混在物からシリコンを回収する方法及びシリコン回収装置に関する。特に、研削屑や半導体部品廃棄屑(例えば、ICチップを搭載した廃棄基板や廃棄太陽電池など)などのシリコンを含むシリコン廃棄物からシリコンを回収するシリコン回収方法及びシリコン回収装置に関するものである。また、シリコン製造時に発生するシリコンを介在しているスラグからシリコンを回収するシリコン回収方法及びシリコン回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器、自動車、太陽電池等多くの分野で半導体製品が益々普及、拡大している。その一方で、半導体製品の廃棄物、半導体製品の製作過程で生じる廃棄物の処理が環境負荷低減の観点から益々重要となってくる。前記廃棄物の中から、金等の貴金属の回収は徐々に検討され始めているが、貴金属以外の有価金属の回収は未検討である。特に、前記廃棄物に多量に含有する有価金属としてシリコンが挙げられる。
【0003】
シリコンを含有する廃棄物の1つとしては、シリコン製造時におけるシリコンの切断及び加工で発生する研磨屑や研削屑(これらをまとめてシリコン研削屑と呼ぶ)がある。前記研削屑にはシリコンが混在しているが、そのまま廃棄されている。また、多くの半導体製品や半導体部品(パソコンや家電などに搭載されているICチップを搭載した基板や太陽電池などを含む。以下、これらの廃棄物をまとめて半導体部品廃棄屑と呼ぶ)は、使用後、廃棄されている。これらの廃棄物にもシリコンが混在することになるが、前記廃棄物から有価金属であるシリコンを回収することが難しいという問題がある。このような状況の中で、特許文献1〜3では、シリコンの切断や加工で発生する研削屑(スラッジ)からシリコンの回収方法が開示されている。しかしながら、前記特許文献では、単にろ過分離や遠心分離し、有機溶媒等で洗浄するだけであり、シリコンに強固に固着した不用物を取り除くことができない。
【0004】
また、シリコンの製造過程においても、回収できていないシリコン混在物が廃棄されている。例えば、シリコンの製造過程であるシリコン精製方法の中には種々の方法があるが、その1つであるスラグを利用したシリコンの精錬方法が挙げられる。スラグを利用した精錬方法では、例えば、シリコン中のボロン(B)濃度を低下させることができる。太陽電池用のシリコンでは、その品質特性がエネルギー変換効率に大きく左右するため、ボロン濃度の厳密な制御を要し、シリコン中のボロン濃度を1質量ppm以下にする必要がある。特許文献4では、CaF2+CaO+SiO2からなるスラグを用い1450〜1500℃で溶融シリコンを精錬し、シリコン中のB濃度を低下させている。また、特許文献5では、二酸化珪素を主成分とする固体とアルカリ金属の炭酸塩やその水和物を主成分とする固体を溶融シリコンに添加することで、スラグを形成し、シリコン中のB濃度を低下させている。また、非特許文献1では、Na2O+CaO+SiO2からなるスラグを用いて、予め1700℃で製造後、初期B濃度が高い金属シリコン浴に前記スラグを投入し、精錬してシリコン中のB濃度を低下させている。
【0005】
上述のいずれの方法においても、多くのスラグを要し、ほとんどの場合、スラグ精錬を複数回行うことになる。すなわち、溶融シリコンにスラグ成分を投入した後、スラグを排出する工程を複数回繰り返し、シリコン中のB濃度を低下させる。この際、スラグ排出時と同時にシリコンも少量排出され、排出されたスラグにはシリコンが混在(内在)することになる。前記シリコンが混在したスラグ(混在物)内のシリコン含有量は、約0.5〜20mass%となり、シリコンの製造歩留りを低下させる原因となる。また、前記スラグに水が混入した場合、スラグ中のアルカリ成分により、pH10以上のアルカリ性となる。アルカリ条件になると、シリコンと水分が反応して水素ガスが発生し、最終処分を含めたスラグの処理過程で、可燃性ガス(水素ガス)が発生して取り扱いが難しいという問題が起こる。また、シリコンのスラグ精錬から生じる廃スラグからシリコンを分離回収することは、特許文献1〜3で開示されている方法では不可能である。
【特許文献1】特開2002−153708号公報
【特許文献2】特開2001−278612号公報
【特許文献3】特開2002−293528号公報
【特許文献4】特開昭56−32319号公報
【特許文献5】特開2005−247623号公報
【非特許文献1】棚橋、他、資源と素材、Vol.118、p.497-505(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するものであり、シリコン研削屑又は半導体部品廃棄屑等のシリコンを含む廃棄物からなるシリコン混在物から、不用物を効果的に除去してシリコンを効率よく分離回収するシリコン回収方法及びシリコン回収装置を提供することを目的とする。更に、シリコン製造時に発生するシリコンが混在しているスラグからなるシリコン混在物から、不用物を効果的に除去してシリコンを効率よく分離回収するシリコン回収方法及びシリコン回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題に対し、アルカリ性水溶液中でシリコン表面から発生する水素ガスがシリコン混在物中のシリコン-不用物界面等の内圧を高め、シリコン混在物を崩壊させることができるのを見出し、さらに、前記崩壊したシリコン混在物をアルカリ水溶液中でシリコン周辺に発生する水素ガスを気泡としてシリコンに付着させることにより水中からシリコンを選択的に浮上させることで、不用物を効果的に除去してシリコンを効率よく回収できることを見出した。本方法では、シリコン研削屑や半導体部品廃棄屑等のシリコンを含有する廃棄物からも容易にシリコンを分離回収できる。更に、本方法では、不用物が強固に固着したシリコン精錬スラグからも容易にシリコンを分離回収できる。
【0008】
すなわち、本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)シリコンが混在したシリコン混在物をアルカリ性水溶液(a)に投入し、前記混在物中にあるシリコンの界面よりガスを発生させて前記混在物を崩壊させる工程と、前記崩壊したシリコン混在物をアルカリ性水溶液(b)中でシリコン周辺にガスを発生させ、そのガスが付着したシリコンを浮上させる工程と、前記浮上したシリコンを分離、回収する工程と、を含むことを特徴とするシリコン回収方法。
(2)前記シリコン混在物が、シリコン研削屑又は半導体部品廃棄屑のいずれか1つ以上のシリコンを含む廃棄物であることを特徴とする(1)記載のシリコン回収方法。
(3)前記シリコン混在物が、シリコンのスラグ精錬のスラグであることを特徴とする(1)記載のシリコン回収方法。
(4)前記アルカリ水溶液(a)のpHを、10〜14とすることを特徴とする(1)記載のシリコン回収方法。
(5)前記アルカリ水溶液(b)のpHを、10〜14とすることを特徴とする(1)記載のシリコン回収方法。
(6)前記アルカリ性溶液(a)の温度を、60〜100℃とすることを特徴とする(1)又は(4)に記載のシリコン回収方法。
(7)前記アルカリ性溶液(b)の温度を、20〜60℃とすることを特徴とする(1)又は(5)に記載のシリコン回収方法。
(8)前記アルカリ性水溶液(b)の液比重を1.02〜2.0とすることを特徴とする(1)、(5)、(7)のいずれかに記載のシリコン回収方法。
(9)シリコンが混在したシリコン混在物の受入および供給装置と、前記混在物中にあるシリコンの界面よりガスを発生させて前記混在物を崩壊させるアルカリ性水溶液(a)が入っている分解槽を有する分解装置と、アルカリ性水溶液(b)が入っている浮遊槽を有する浮選分離装置と、浮遊槽で浮遊したシリコンを分離、回収する浮上物回収装置と、を少なくとも有するシリコン回収装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリコン回収方法及びシリコン回収装置によれば、シリコン研削屑又は半導体部品廃棄屑等のシリコンを含む廃棄物等のシリコン混在物から、不用物を効果的に除去してシリコンを効率よく分離回収できるという著しい作用効果を奏する。また、シリコン製造時に発生するシリコンが混在しているスラグからなるシリコン混在物からも、不用物を効果的に除去してシリコンを効率よく分離回収できるという著しい作用効果を奏する。
【0010】
更に、回収したシリコンは、鉄鋼製造過程である精錬工程で使用する脱酸材として有効に利用できる。或いは、回収したシリコンは、高品位であるので、シリコン製造の原料として使用できる。
【0011】
本発明のシリコン回収方法及びシリコン回収装置は、シリコン利用分野において環境負荷低減に大きく貢献でき、鉄鋼製造過程と組み合わせると特にその効果が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で対象となるシリコンが混在したシリコン混在物とは、上述のように、シリコン研削屑や半導体部品等の廃棄屑(半導体部品廃棄屑)、又はシリコン製造時に発生するシリコンが混在しているシリコンのスラグ精錬のスラグ等である。その他に、シリコンを含有する廃棄物、混合物、複合物にも適用できる。前記シリコン混在物の平均サイズは、後述する崩壊及び崩壊したシリコンの浮上をより効果的に行うためには、1mm〜50mmである方が好ましい。1mm未満では、シリコン混在物を粉砕するのに時間と労力がかかり過ぎる場合がある。50mmを超えると、十分な崩壊や、崩壊しても浮上しない場合がある。更に、好ましい平均サイズは、5mm〜20mmである。
【0013】
本発明のシリコン混在物を崩壊させるアルカリ性水溶液(a)は、pH7を超えるアルカリ性を示す水溶液であればよい。シリコン表面とアルカリ性水溶液が、例えば、次式(1)のような反応を起こして水素ガスを発生していると考えられる。この水素ガス発生量は、アルカリ性側でpHが高くなるほど、多くなる。
Si(s) + 2OH- + H2O → SiO32- + 2H2(g)↑ (1)
よって、水素ガス発生でシリコン混在物を効果的に崩壊させるには、pH10以上がより好ましい。本発明で、アルカリ水溶液(a)のpHの更に好ましい範囲は、pH10〜14である。pH10未満では、水素ガス発生量が少なくて効率的でない場合がある。一方、pH14を超えると水素ガス発生が多くなり、取り扱いが困難になったり、水溶液の調製が困難になる場合がある。アルカリ性水溶液のアルカリ成分は、前記アルカリ性を示せばよく、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、珪酸ナトリウム等が挙げられる。また、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸ナトリウム等の塩類が溶解していても構わない。シリコン混在物の崩壊には、激しい水素発生がより好ましく、その為には、アルカリ水溶液(a)のpHは、11以上が更に好ましい。また、シリコン混在物の崩壊を促進するには、アルカリ水溶液(a)を攪拌する方がより好ましい。
【0014】
本発明のシリコン混在物を崩壊させるアルカリ性水溶液(a)の温度は、氷結しなければ室温でもよいし、加熱してもよい。前記温度は、水素ガス発生量から、60〜100℃がより好ましい。60℃未満では、水素ガス発生によるシリコン混在物の崩壊が遅くなる場合がある。一方、100℃を超えると、水素ガス発生量が多くなり、取り扱いが困難になる場合がある。シリコン混在物の崩壊には、水素の発生が激しい方が好ましく、その為には、80℃〜100℃が更に好ましい。
【0015】
本発明の崩壊シリコン混在物からシリコンを浮上させるアルカリ性水溶液(b)は、pH7を超えるアルカリ性を示す水溶液であればよい。シリコン混在物が崩壊されて含まれるシリコンの表面とアルカリ性水溶液(b)が、例えば、(1)式のような反応を起こしてシリコン表面で水素ガスが発生し、シリコン周辺に発生した水素ガスを気泡として付着したシリコンが選択的に浮上する。水素ガス発生でシリコンを水中から効果的に浮上させるには、pH10以上がより好ましい。本発明で、アルカリ水溶液(b)のpHの更に好ましい範囲は、pH10〜14である。pH10未満では、水素ガス発生量が少なくて効率的にシリコンが浮上しない場合がある。一方、pH14を超えると水素ガス発生が多くなり、取り扱いが困難になったり、水溶液の調製が困難になる場合がある。水素ガスを気泡として付着する観点から、水素ガス発生量は適度な量が好ましく、その為には、アルカリ水溶液(b)のpHの更に好ましい範囲は、10〜13である。
【0016】
さらに、アルカリ性水溶液(b)の液比重を大きくすることで、より大きな粒子径をもつシリコンを浮上させることができる。前記液比重は、1.02〜2がより好ましい。液比重1.02未満では、シリコンの浮上が効率的でない場合がある。液比重2を超えると、低密度の不用物も浮上してシリコンの選択的浮上を阻害する場合がある。液比重を大きくする方法としては、アルカリ成分または塩類の溶解、アルカリ性水溶液中で分散する微粒子の分散などがある。アルカリ成分としては、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、珪酸ナトリウムなどがあげられる。塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ性水溶液中での分散する物質としては、珪酸塩ゲルがあげられる。例えば、珪酸ナトリウム溶液中で塩化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウムなどのカルシウム源を投入することで生成する珪酸ゲルや、アルミン酸ソーダを添加して生成する珪酸アルミニウムゲルなどがある。また、アルカリ性水溶液(b)の液比重を大きくすることは、液粘度上昇にもつながり、発生した水素ガスの気泡がシリコン表面に安定に付着できる。前記効果も考慮すると、液比重は、1.4〜1.7の範囲が更に好ましい。
【0017】
本発明のアルカリ性水溶液(b)の温度は、氷結しなければ室温でもよいし、加熱してもよい。前記温度は、水素ガス発生による気泡がシリコン表面に効果的に付着させ、選択的浮上させる観点から、20〜60℃がより好ましい。20℃未満では、水素ガス発生が少なく、効率的にシリコンを浮上できない場合がある。一方、60℃を超えると、水素ガス発生量が多くなり、シリコン表面に気泡が効果的に付着しない場合がある。
【0018】
したがって、シリコン混在物を崩壊するアルカリ水溶液(a)は、激しく水素を発生する方が好ましく、崩壊したシリコンを浮上させるアルカリ水溶液(b)は、発生する水素の気泡をシリコン表面に安定に付着できる適度な水素発生が好ましい。
【0019】
本発明の全体プロセスについて、シリコン混在物からのシリコン回収方法に使用する装置例(図1)をもとに説明する。
【0020】
まず、プロセス構成について説明する。
図1のシリコン回収装置は、『シリコンが混在したシリコン混在物の受入および供給装置』と、前記混在物中にあるシリコンの界面よりガスを発生させて前記混在物を崩壊させるアルカリ性水溶液(a)が入っている分解槽を有する『分解装置』と、アルカリ性水溶液(b)が入っている浮遊槽を有する『浮選分離装置』と、浮遊槽で浮遊したシリコンを分離、回収する『浮上物回収装置』を含む。
【0021】
シリコン混在物は、『シリコン混在物の受入および供給装置』で受け入れ、供給装置により、次の『分解装置』に投入され、シリコン混在物を崩壊させる。崩壊後のシリコン混在物を次の『浮選分離装置』に投入し、シリコンを浮上させ、シリコンを混在物から分離し、さらに、『浮上物回収装置』でシリコンを回収する。一方、『浮選分離装置』で沈殿したシリコンを含まないスラグなどの沈殿物は掻き揚げ装置によって掻き出す。
【0022】
『シリコン混在物の受入および供給装置』は、シリコン混在物を受け入れる受入ホッパー1と、受入ホッパー内のシリコン混在物を定量切出しする切出装置2と、次の『分解装置』に投入する供給装置3からなる。
【0023】
『分解装置』は、シリコン混在物を崩壊させる分解槽4と、分解槽4内のアルカリ性水溶液(a)の温度を上昇させるためのスチームを投入するスチーム配管5と、アルカリ性水溶液(a)の温度を測定する水温計6と、スチームの投入量を調整する調整弁7と、分解槽4内のpHを測定するpH計8とアルカリを投入する配管9とアルカリ投入量を調整する調整弁10と、分解槽4内の崩壊したシリコン混在物を次の『浮選分離装置』に搬送する掻き揚げ装置11とからなる。
【0024】
『浮選分離装置』は、『分解装置』で崩壊したシリコン14と沈殿物25を分離する浮選槽12と、浮上したシリコンを掻き寄せる浮上物掻き寄せ装置13と、浮選槽12内のアルカリ性水溶液(b)の温度を上昇させるためのスチームを投入するスチーム配管15と、アルカリ性水溶液(b)の温度を測定する水温計17と、スチームの投入量を調整する調整弁16と、浮選槽12内のpHを測定するpH計18とアルカリを投入する配管19とアルカリ投入量を調整する調整弁20と、浮選槽12の底部に沈んでいる沈殿物25を掻き揚げる掻き揚げ装置21とからなる。
【0025】
『浮上物回収装置』は、浮上物掻き寄せ装置13で掻き寄せた浮上シリコンを受け入れシリコンを濾過回収する濾過器24と、濾過器から分離したアルカリ性水溶液(b)を一時貯留するアルカリ性水溶液一時貯留槽23と、アルカリ性水溶液一時貯留槽23内のアルカリ性水溶液を浮選槽12内に戻すアルカリ性水溶液回収ポンプ22とからなる。
【0026】
次に、プロセスの流れに沿って、シリコンの回収方法について説明する。
シリコン混在物の平均サイズは予め、50mm以下、好ましくは20mm以下に破砕しておくのが好ましい。浮選槽12で安定的に浮上分離できるシリコンのサイズは20mm以下である。50mmを超えると浮上して回収できる量が減少する場合がある。
【0027】
シリコン混在物は、受入ホッパー1で受け入れた後、切出装置2から定量切出しを行う。定量切出し量は、『分解装置』および『浮選分離装置』で発生する水素ガス(爆発限界濃度 下限4%、上限74.2%)の発生量と、水素ガス対策として使用する排気システム(図1に図示していない)の能力とを考慮し決定するのが好ましい。水素ガス発生の変動を抑制する意味でも、安全上、定量切出しが好ましい。
【0028】
供給装置3より分解槽4に投入されたシリコン混在物は、分解槽4内のアルカリ性水溶液(a)中で、シリコン部の界面で水と反応し、水素ガスを発生させ、シリコン混在物を崩壊させる。アルカリ性水溶液(a)内のpHが高いほど、かつ、水温が高いほど、水素ガスの発生量は、大きくなり、シリコン混在物の崩壊速度を上昇させることができる。具体的には、前述のように、アルカリ性水溶液(a)のpHが10〜14のアルカリ領域で、かつ、水温が60〜100℃の範囲が水素ガス発生量は大きくなり、シリコン混在物の崩壊速度を大きくすることができる。分解槽4内のpHは、pH計8と配管9から投入されるアルカリとアルカリ投入量を調整する調整弁10により、pH10〜14に調整するのがより好ましい。分解槽(a)4内の水温は、水温計6と配管5から投入されるスチームとスチーム投入量を調整する調整弁7により、水温を60〜100℃に調整するのがより好ましい。
【0029】
分解槽4内では、シリコン混在物が崩壊するが、シリコンの部分は、他の材料の下敷きになることが多く、安定的には浮上しない。また、分解槽4内のアルカリ性水溶液(a)の条件ではシリコンと水が反応するため、長時間滞留させておくと、回収対象としているシリコンの回収量が減少する。したがって、分解槽4内のシリコン混在物の滞留時間は、30秒〜10分とするのが好ましい。分解槽4内で崩壊し、好ましくは60〜100℃に加熱した、シリコン混在物は掻き揚げ装置11で、次の浮選槽12に投入する。浮選槽12内のアルカリ性水溶液(b)は、好ましくは20〜60℃に維持され、好ましくはpH10〜14の溶液とし、好ましくは液比重を1.02〜2.0に調整する。浮選槽12内のpHは、pH計18と配管19から投入されるアルカリとアルカリ投入量を調整する調整弁20により、好ましくはpH10〜14に調整する。浮選槽12内の水温は、水温計17と配管15から投入されるスチームとスチーム投入量を調整する調整弁16により、水温を好ましくは20〜60℃に調整する。浮選槽12内の液比重は、珪酸塩ゲル等を投入して液比重を好ましくは1.02〜2.0に調整する。浮選槽12に投入直後のシリコンは60〜100℃の状態では、シリコン表面で水と激しく反応し、シリコン表面に水素ガス層が効果的に形成される。その後、シリコン自体が冷却されると、反応速度は低下し、シリコン表面からの水素ガス発生量は低下する。シリコン表面に形成した水素ガス層により、シリコンは浮選槽12の上部に浮上し、浮上物掻き寄せ装置13で掻き寄せ、シリコンを少量のアルカリ性水溶液とともに、濾過器24に投入する。濾過器24では、遠心分離機や膜などの濾過機械も使用できるが、篩いによる分離で十分回収できる。篩い目としては、目開き40μm〜2mmが妥当である。40μm目より小さいと、目詰まりする場合がある。2mm目より大きいとシリコン回収効率が極端に悪くなる場合がある。濾過器24内に回収したシリコンは、シリコンとしての純度が90%以上と高く、製鉄業で使用する脱酸材として使用することができる。また、シリコン以外の不純物の成分次第では、例えば、シリコン精錬時で発生するアルカリスラグからシリコンを回収した際には、シリコン以外の不純物としては、アルカリスラグ成分であり、十分シリコン原料としてリサイクルすることができる。濾過器24で分離したアルカリ性水溶液(b)は、アルカリ性水溶液一時貯留槽23で一時貯留され、アルカリ性水溶液回収ポンプ22で浮選槽12に返送される。
【0030】
浮選槽12内で沈殿した沈殿物25は、掻揚装置21によって、ゆっくり浮選槽12の底部より掻き出され、沈殿物ピット26内に運ばれる。
【0031】
更に、上述の加温するスチームを、製鉄プロセスで発生する中低温排熱を利用したスチームとすると、エネルギー効率の高いシリコン回収とすることができる。
以上、本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明は上記した形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の範囲である。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
水酸化ナトリウム又は塩酸水溶液でpHを調製したアルカリ性水溶液(a)が入ったビーカーに、各種シリコン混在物を入れ、2分後に前記シリコン混在物を取り出し、その崩壊状況を調べた。表1にシリコン混在物の種類、アルカリ性水溶液(a)のpHと温度、その結果(シリコン混在物の崩壊状況)を示す。前記崩壊状況は、投入したシリコン混在物塊を崩壊したものと崩壊しなかったもの分別して、投入した全質量に対する崩壊した質量の割合(%)を調べた。
【0033】
pHが7を超えるアルカリ性水溶液(a)では、表1のa-3〜a-14の実施例にあるようにシリコン界面や表面から水素が発生し、シリコン混在物が崩壊した。一方、表1のa-1〜a-2の比較例では、pHが7以下では、水素ガスの発生が殆どなく、シリコン混在物は崩壊しなかった。
【0034】
更に、表1で崩壊したシリコン混在物を使用して、水酸化ナトリウム又は塩酸水溶液でpHを調製したアルカリ性水溶液(b)が入ったビーカーに、崩壊したシリコン混在物を投入後、1分間静置した後、シリコンの浮上状況を調べた。アルカリ性水溶液(b)の比重は、水ガラスをさらに添加して調製した。崩壊したシリコンの混在物において、シリコン精錬時のスラグについては、表1のa-5で崩壊したシリコン混在物を代表とした。表2に、崩壊したシリコン混在物、アルカリ性水溶液(b)のpH、温度、及び液比重、並びにその結果(シリコンの浮遊状況)を示す。前記浮上状況は、崩壊したシリコン混在物塊の投入量中のシリコン含有量(質量)に対する浮上してきたシリコンの質量の割合(%)を調べた。
【0035】
崩壊したシリコン混在物は、pHが7を超えるアルカリ性水溶液(b)では、表2のb-3〜b-15の実施例にあるように、水素発生による気泡がシリコン表面に付着し、選択的に浮上した。一方、表2のb-1〜b-2の比較例にあるように、pHが7以下では、水素ガスの発生が殆どなく、シリコンが浮上しなかった。
以上のように、表1及び表2に示している結果より、本発明の方法は、シリコン混在物からシリコンを効率よく回収できる方法である。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
(実施例2)
次に、実際のシリコン回収装置による結果を示す。
シリコン精錬時に発生するシリコンが混在したアルカリスラグを篩(19mm目開き)で篩い、篩い下のアルカリスラグを用い、図1の装置で実施した。分解槽4の容量は70L、浮選槽12の容量は300Lである。なお、シリコン混在物中のアルカリスラグ部分の主成分はNa2O:33.1質量%、SiO2:65.6質量%で、シリコン混在物中のシリコン含有量は2.1質量%である。
【0039】
まず、アルカリスラグを図1の分解槽4および浮選槽12にそれぞれ70kg、300kg投入し、スチーム投入により槽内の温度を95℃で約10hr維持し、アルカリスラグはほとんど溶解し、アルカリ性水溶液(a)とアルカリ性水溶液(b)をそれぞれ作製した。分解槽4中のアルカリ性水溶液(a)は、pH12.5〜13とした。浮選槽12中のアルカリ性水溶液(b)は、pH12〜12.5で、液比重は1.5とした。浮選槽9の温度を40℃に調整した後、アルカリスラグを切出装置2より連続的に定量切出し(14kg/分)を行い、アルカリスラグをさらに2060kg処理し、シリコンを回収した。浮選槽12で沈殿した沈殿物25は掻き揚げ装置21で浮選槽12の底部より掻き出した。
【0040】
濾過器24で回収できたシリコンの回収量は、0.27kg/分であった。回収したシリコンの純度は99.0%であり、残りの成分はアルカリ成分であったため、鉄鋼製造過程である精錬工程で使用する脱酸材としてリサイクルできる品質であった。更に、十分シリコン原料としてリサイクルできる品質でもあった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】シリコン混在物からシリコンを回収する装置
【符号の説明】
【0042】
1・・・受入ホッパー
2・・・切出装置
3・・・供給装置
4・・・分解槽(アルカリ性水溶液(a))
5・・・スチーム配管
6・・・水温計
7・・・調整弁
8・・・pH計
9・・・アルカリを投入する配管
10・・・調整弁
11・・・掻き揚げ装置
12・・・浮選槽(アルカリ性水溶液(b))
13・・・浮上物掻き寄せ装置
14・・・シリコン
15・・・スチーム配管
16・・・調整弁
17・・・水温計
18・・・pH計
19・・・アルカリを投入する配管
20・・・調整弁
21・・・掻き揚げ装置
22・・・アルカリ性水溶液回収ポンプ
23・・・アルカリ性水溶液一時貯留槽
24・・・濾過器
25・・・沈殿物
26・・・沈殿物ピット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンが混在したシリコン混在物をアルカリ性水溶液(a)に投入し、前記混在物中にあるシリコンの界面よりガスを発生させて前記混在物を崩壊させる工程と、
前記崩壊したシリコン混在物をアルカリ性水溶液(b)中でシリコン周辺にガスを発生させ、そのガスが付着したシリコンを浮上させる工程と、
前記浮上したシリコンを分離、回収する工程と、
を含むことを特徴とするシリコン回収方法。
【請求項2】
前記シリコン混在物が、シリコン研削屑又は半導体部品廃棄屑のいずれか1つ以上のシリコンを含む廃棄物であることを特徴とする請求項1記載のシリコン回収方法。
【請求項3】
前記シリコン混在物が、シリコンのスラグ精錬のスラグであることを特徴とする請求項1記載のシリコン回収方法。
【請求項4】
前記アルカリ水溶液(a)のpHを、10〜14とすることを特徴とする請求項1記載のシリコン回収方法。
【請求項5】
前記アルカリ水溶液(b)のpHを、10〜14とすることを特徴とする請求項1記載のシリコン回収方法。
【請求項6】
前記アルカリ性溶液(a)の温度を、60〜100℃とすることを特徴とする請求項1又は4に記載のシリコン回収方法。
【請求項7】
前記アルカリ性溶液(b)の温度を、20〜60℃とすることを特徴とする請求項1又は5に記載のシリコン回収方法。
【請求項8】
前記アルカリ性水溶液(b)の液比重を1.02〜2.0とすることを特徴とする請求項1、5、7のいずれか1項に記載のシリコン回収方法。
【請求項9】
シリコンが混在したシリコン混在物の受入および供給装置と、
前記混在物中にあるシリコンの界面よりガスを発生させて前記混在物を崩壊させるアルカリ性水溶液(a)が入っている分解槽を有する分解装置と、
アルカリ性水溶液(b)が入っている浮遊槽を有する浮選分離装置と、
浮遊槽で浮遊したシリコンを分離、回収する浮上物回収装置と、
を少なくとも有するシリコン回収装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−290897(P2008−290897A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136470(P2007−136470)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】