説明

シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤

【課題】本発明の目的は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)装用中に点眼された場合に、SHCLへのアラントイン、その誘導体及び/又はそれらの塩の透過性が向上しており、アラントイン、その誘導体及び/又はそれらの塩の角膜到達量を増加できるSHCL用点眼剤を提供することである。
【解決手段】(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)界面活性剤とを併用して、SHCL用点眼剤を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのアラントイン、その誘導体及び/又はそれらの塩(以下、これらをアラントイン類と表記することもある)の透過性を向上させることができる、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に関する。また、本発明は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのアラントイン類の透過性を向上させる方法、並びに、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのアラントイン類の透過性を向上させる作用を点眼剤に付与する方法に関する。更に、本発明は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのアラントイン類の透過性を向上させるための剤に関する。そして更に、本発明は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するアラントイン類の透過性を向上させる透過性向上物質をスクリーニングする方法に関する。
【0002】
また、本発明は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの細菌の付着を抑制する方法、並びに、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの細菌の付着を抑制する作用を点眼剤に付与する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、コンタクトレンズ(CL)の装用者が増えており、中でもソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用者が増えている。一般的に、SCLを装用した場合には、大気からの酸素供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながる場合があることが指摘されている。そのため、より高い酸素透過性を有するSCLの開発が進められてきた。
【0004】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、そのような背景の下、高酸素透過性を有するSCLとして近年開発されてきたものである。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、ハイドロゲルにシリコーンを配合することにより、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過性を実現する。従って、SCLの弱点である酸素供給不足を改善することができ、酸素不足に伴う角膜に対する悪影響を大幅に抑制できるものとして、大きく期待されている。
【0005】
また、SCLは一般にハードコンタクトレンズに比べて大きく、その装用中には角膜表面がほぼ全面的に覆われた状態となる。そして、SCL装用中には、SCLと角膜表面の間から涙液の流入及び流出(即ち、ポンプ作用による涙液交換)は殆ど行われず、SCL下の涙液交換はSCLを介した涙液の透過に依存していることが分かっている(非特許文献1−2参照)。このようにSCL下の涙液交換の殆どは、SCLを介した涙液の透過により行われるため、SCL装用者の眼に対して適用される点眼剤は、配合される薬理成分のSCLへの透過性を十分に高めておくことが求められる。
【0006】
そのため、SCL装用者の眼に対して適用される点眼剤については、SCLの種類に応じて、安全性等の影響のみならず、薬理活性成分のSCLへの透過性をも十分に考慮して設計することが不可欠である。特に、SCLは素材が種々異なるため、SCL装用者の眼に適用される点眼剤は、適用されるSCLの性質に応じて製剤設計を行うことが肝要である。
【0007】
一方、アラントイン類は、抗炎症作用、細胞増殖促進作用、創傷修復促進作用等を有することが知られており、優れた消炎効果や傷の治りを早める効果を有することから、角膜における炎症性疾患等を治療するために点眼剤に使用されている(特許文献1−3、非特許文献3参照)。角膜における炎症性疾患等の治療において、アラントイン類の薬理活性を有効に発揮させるには、角膜に対してアラントイン類を直接作用させることが重要である。
【0008】
しかしながら、これまでに、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを装用中の眼に対して、アラントイン類を適用した場合の影響については明らかにされていない。ましてや、アラントイン類と界面活性剤とを併用してシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに適用した場合の影響については推認すらできないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−128584号公報
【特許文献2】特開2003−128583号公報
【特許文献3】特開2002−308775号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本コンタクトレンズ学会誌、第39巻、111〜115、1997
【非特許文献2】日本コンタクトレンズ学会誌、第44巻、34-37、2002
【非特許文献3】堀美智子監修、「OTCハンドブック2008-09 本編」、(株)学術情報流通センター発行、529頁、2008年7月18日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、各種SCLに対してアラントイン類を適用した場合の影響について種々の検討を行っていたところ、全く予想していなかったことに、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、SHCLと略記する)では、他のSCLと比較してアラントイン類のレンズ透過量が著しく少ないという全く新しい知見を得た。アラントイン類は、その薬理作用を発揮させるためには角膜への直接的な働きかけが重要となるが、このようにレンズ透過量が極めて少ないと、SHCL装用中の眼に対しアラントイン類を含有する点眼剤を適用しても十分な量が角膜に供給されず、満足な効果が得られない恐れがある。
【0012】
そこで、SHCL装用中に点眼された場合に、SHCLへのアラントイン類の透過性が向上しており、アラントイン類の角膜到達量を増加できるSHCL用点眼剤の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことに、アラントイン類と共に、界面活性剤を組み合わせて用いると、SHCLに対するアラントイン類の透過量を著しく増加できるという全く意外な知見を得た。更に、アラントイン類と界面活性剤を併用すると、SHCLに対する細菌の付着を抑制できることをも見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0014】
即ち、本発明は下記に掲げるSHCL用点眼剤を提供する。
項1-1.(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤とを含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項1-2.(A)成分として、アラントインを含む、項1-1に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項1-3.(B)成分として、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1又は1-2に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項1-4.(A)成分の配合量が0.001〜1w/v%である、項1-1乃至1-3のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項1-5.(B)成分の配合量が0.001〜1w/v%である、項1-1乃至1-4のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項1-6.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが非イオン性である、項1-1乃至1-5のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【0015】
また、本発明は、下記に掲げるSHCLへのアラントイン、その誘導体及び/又はそれらの塩の透過性向上方法、並びにSHCLへのアラントイン、その誘導体及び/又はそれらの塩の透過性を向上させる作用を点眼剤に付与する方法を提供する。
項2.(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)界面活性剤とを併用することを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの該(A)成分の透過性を向上させる方法。
項3.(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に、(B)界面活性剤を配合することを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの該(A)成分の透過性を向上させる作用を該点眼剤に付与する方法。
【0016】
また、本発明は、下記に掲げるSHCLへのアラントイン、その誘導体及び/又はそれらの塩の透過性向上剤を提供する。
項4. (B)界面活性剤を含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の透過性を向上させるための剤。
【0017】
更に、本発明は、下記に掲げる透過性向上物質のスクリーニング方法を提供する。
項5.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する、アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のアラントイン類の透過性を向上させる透過性向上物質のスクリーニング方法であって、
(a)アラントイン類を含むコントロール溶液、並びにアラントイン類と被験物質とを含む被験溶液を、試験溶液として各々調製する工程、
(b)上記試験溶液を各々、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの片側面のみに所定時間接触させ、該レンズの上記試験溶液を接触させていない他方の片側面から滲出したアラントイン類の量を測定することにより、各試験溶液のアラントイン類の透過量を求める工程、並びに
(c)上記工程(b)において測定されたアラントイン類の透過量が、コントロール溶液よりも多い被験溶液を選び、該被験溶液に含まれる被験物質を上記透過性向上物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法。
【0018】
更に、本発明は、下記に掲げるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの細菌の付着を抑制する方法、並びにシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの細菌の付着を抑制する作用を点眼剤に付与する方法を提供する。
項6.(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)界面活性剤とを含むシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤を、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと接触させることを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの細菌の付着抑制方法。
項7.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に、(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤とを配合することを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの細菌付着を抑制する作用を該点眼剤に付与する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のSHCL用点眼剤は、アラントイン、その誘導体及び/又はそれらの塩のSHCLへの透過性が顕著に向上している。それ故、本発明のSHCL用点眼剤によれば、SHCL装用中に点眼しても、これらの成分の角膜到達量を増加させることができ、SHCL装用中でも角膜における炎症性疾患の治療乃至予防効果を有効に奏させ、更にはSHCL装用に誘発される角膜損傷に対する治療乃至予防効果をも有効に奏させることができる。
【0020】
更に、本発明のスクリーニング方法は、アラントイン、その誘導体及び/又はそれらの塩のSHCLへの透過性を向上させ得る透過性向上物質の取得を可能にするので、SHCLへのアラントイン、その誘導体及び/又はそれらの塩の透過性が向上し、それによりSHCL装用中に使用しても角膜における炎症性疾患等を有効に治療乃至予防できるSHCL用点眼剤の開発に有用である。
【0021】
また、SHCLは角膜に十分量の酸素を供給できるという大きなメリットがあるものの、結膜常在細菌が付着し易いという欠点も併せ持っている(M. D. P. Willcox et al., Bacterial interactions with contact lenses; effects of lens material, lens wear and microbial physiology、Biomaterials 22(2001),3235-3247)。また、結膜常在細菌の多くは非病原性であるが、過剰な付着や増殖がおこると、付着・増殖した細菌から分泌される菌体外物質によりSHCL表面にバイオフィルムが形成され、病原性微生物の温床となる危険性がある。更にSHCLは高い酸素透過性を有するが故に最長1ヶ月間連続装用される場合もあることから、装用中に細菌の付着を助長し易い傾向があるといえ、細菌感染症のリスク要因の一つであるとも指摘されている。これに対して、本発明のSHCL用点眼剤によれば、SHCLへの細菌の付着を抑制できるので、長期間のSHCL装用でも細菌感染症のリスクを低減でき、SHCLを安全に使用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】参考試験例1において、アラントインのSCLへの透過性を評価した結果を示す図である。
【図2】試験例1において、点眼剤(実施例1−2及び比較例1)のアラントインのSHCLへの透過性を評価した結果を示す図である。
【図3】参考試験例2において、点眼剤(参考例1−2)の塩酸ピリドキシンのSHCLへの透過性を評価した結果を示す図である。
【図4】参考試験例3において、SHCL及び非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの細菌付着性を評価した結果を示す図である。
【図5】試験例2において、点眼剤(実施例3−4及び比較例2−3)のSHCLへの細菌付着抑制効果を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(I)SHCL用点眼剤
本発明のSHCL用点眼剤は、アラントイン類(以下、単に(A)成分と表記することもある)を含有する。本発明において、アラントイン類とは、アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0024】
アラントインは、5-ウレイドヒダントインとも称される公知化合物である。アラントインは、ヒレハリソウ(Symphytum officinale)の根茎に含まれており、抗炎症作用、肉芽形成作用、組織修復作用等を有することが公知である。なお、本発明では、アラントインとして、これを含有するヒレハリソウ又はその抽出物を使用することもできる。
【0025】
また、本発明において(A)成分として使用されるアラントインの誘導体、並びにアラントイン及びその誘導体の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、アラントインジヒドロキシアルミニウム、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、アラントイングリチルレチン、アラントインアセチル-DL-メチオニン、アラントインDL-パントテニルアルコール、アラントインポリガラクツロン酸等が例示される。
【0026】
本発明のSHCL用点眼剤には、(A)成分として、アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩の中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0027】
これらの(A)成分の中でも、好ましくはアラントイン、アラントインジヒドロキシアルミニウム、及びアラントインクロルヒドロキシアルミニウム、更に好ましくはアラントイン、及びアラントインジヒドロキシアルミニウム、特に好ましくはアラントインが挙げられる。
【0028】
本発明のSHCL用点眼剤において、上記(A)成分の配合割合は、該(A)成分の種類、他の配合成分の種類等に応じて適宜設定されるが、一例として、該点眼剤の総量に対して、該(A)成分が総量で0.001〜1w/v%、好ましくは0.01〜0.5w/v%、更に好ましくは0.1〜0.3w/v%が例示される。
【0029】
更に、本発明のSHCL用点眼剤は、上記(A)成分に加えて、界面活性剤(以下、(B)成分と表記することもある)を含有する。このように界面活性剤を配合することによって、SHCLへの上記(A)成分の透過性を向上させることが可能になる。
【0030】
上記(B)成分として使用される界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤等が例示される。
【0031】
上記(B)成分として配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)、等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類; POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0032】
また、上記(B)成分として配合可能な両性界面活性剤(即ち、分子内に陽イオン性部位と陰イオン性部位の両方の性質を有する界面活性剤)としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン及びその塩(塩酸アルキルジアミノエチルグリシン)等が例示される。
【0033】
また、上記(B)成分として配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の第4級アンモニウム塩型の陽イオン性界面活性剤;クロルヘキシジン塩(グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジンなど)、ポリヘキサメチレンビグアニド塩(塩酸ポリヘキサメチレンビグアニドなど)等のアミン塩型の陽イオン性界面活性剤等が例示される。
【0034】
また、上記(B)成分として配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、αオレフィンスルホン酸等が例示される。
【0035】
本発明のSHCL用点眼剤において、上記界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
上記(B)成分の中でも、SHCLへの上記(A)成分の透過性を向上させる作用を格段高めるという観点から、好ましくは非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤;より好ましくは非イオン性界面活性剤;更に好ましくは、POEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、POE・POPブロックコポリマー類;更に好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類;特に好ましくはポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が例示される。
【0037】
本発明のSHCL用点眼剤において、上記(B)成分の配合割合は、該(B)成分の種類、他の配合成分の種類等に応じて適宜設定されるが、一例として、該点眼剤の総量に対して、該(B)成分が総量で0.001〜1w/v%、好ましくは0.01〜0.5w/v%、更に好ましくは0.1〜0.3w/v%が例示される。
【0038】
本発明のSHCL用点眼剤において、上記(A)成分に対する上記(B)成分の比率については、(A)及び(B)成分が前述する配合割合を満たす限り特に制限されるものではないが、SHCLへの(A)成分の透過性をより効果的に向上させるという観点から、上記(A)成分の総量100重量部当たり、上記(B)成分の総量が0.3〜1000重量部、好ましくは3〜500重量部、更に好ましくは30〜300重量部となる比率を充足することが望ましい。
【0039】
本発明のSHCL用点眼剤は、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明のSHCL用点眼剤に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤であり、より好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、及びリン酸緩衝剤であり、特に好ましい緩衝剤はホウ酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等)、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等)、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等)、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等)、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等)、アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤の中でも、リン酸緩衝剤及びホウ酸緩衝剤、特にホウ酸緩衝剤は、より確実に本発明の効果を奏させることが期待されるため、本発明のSHCL用点眼剤に好適に使用される。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0040】
本発明のSHCL用点眼剤に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、該点眼剤の用途等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該点眼剤の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.5〜2w/v%となる割合が例示される。
【0041】
本発明のSHCL用点眼剤は、更に等張化剤を含有していてもよい。本発明のSHCL用点眼剤に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、及び塩化マグネシウム、特に塩化ナトリウムは、より確実に本発明の効果を奏させることが期待されるため、本発明のSHCL用点眼剤に好適に使用される。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0042】
本発明のSHCL用点眼剤に等張化剤を配合する場合、該等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該点眼剤の総量に対して、該等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜2w/v%となる割合が例示される。
【0043】
本発明のSHCL用点眼剤のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明のSHCL用点眼剤のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.0〜8.5、更に好ましくは5.5〜8.0となる範囲が挙げられる。
【0044】
また、本発明のSHCL用点眼剤の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明のSHCL用点眼剤の浸透圧比の一例として、好ましくは0.7〜5.0、更に好ましくは0.9〜3.0、特に好ましくは1.0〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。浸透圧比測定用標準液は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0045】
本発明のSHCL用点眼剤は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン等。
充血除去剤:テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、エピネフリン、エフェドリン、メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、アクリノール、セチルピリジニウム、ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
アミノ酸類:アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、プラノプロフェン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アズレン、アズレンスルホン酸、グアイアズレン、トラネキサム酸、ε−アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム、甘草等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、フマル酸ケトチフェン、メチル硫酸ネオスチグミン、フマル酸ケトチフェン、クロモグリク酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、インドメタシン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ブフェキサマク、フルフェナム酸ブチル、ベンダザック、ピロキシカム、ケトプロフェン、フェルビナク、紫根、セイヨウトチノキ、及びこれらの塩等。
【0046】
また、本発明のSHCL用点眼剤には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2005(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等。
糖類:例えば、グルコース、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
キレート剤:エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
香料又は清涼化剤:メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、また精油(ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)として配合してもよい。
【0047】
本発明のSHCL用点眼剤は、例えば、精製水、生理食塩水等の水性担体等に、所定量の上記(A)及び(B)成分、必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加し、常法に準じて調製される。
【0048】
本発明のSHCL用点眼剤において、適用対象となるSHCLの種類については特に制限されず、現在市販されている、或いは将来市販される全てのSHCLを適用対象にできる。とりわけ、本発明のSHCL用点眼剤は、非イオン性のSHCLに対する上記(A)の透過性の向上を特に有効に獲得し得るので、本発明のSHCL用点眼剤の適用対象として非イオン性のSHCLが好適である。ここで非イオン性とは、当業者が通常理解するように、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%未満であることをいう。また、適用対象となるSHCLの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下が挙げられる。なお、SHCLはハイドロゲル素材を含むものであるため、少なくとも0%より多い水分を含む。適用対象となるSHCLの含水率の下限値については、上述のように0%より多ければ特に制限されないが、より確実に高い上記(A)成分の透過性向上効果を得るためには、SHCLの含水率は30%以上であることが好ましい。
【0049】
また、非イオン性SHCLでは、含水率が低くなるにつれて、上記(A)成分の透過性が低くなる傾向がある。本発明のSHCL用点眼剤によれば、このように透過性が低いSHCLに対しても、上記(A)成分の透過性を有効に改善することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明のSHCL用点眼剤の好適な適用対象の一例として、含水率が低く50%以下の非イオン性SHCLが挙げられる。
【0050】
ここでSHCLの含水率とは、SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のSHCLの重量)×100
かかる含水率は、ISO18369-4:2006の記載に従って重量測定方法により測定され得る。
【0051】
本発明のSHCL用点眼剤は、SHCLを装着中の眼に直接点すことができる。
【0052】
本発明のSHCL用点眼剤は、角膜への上記(A)成分の到達量を増加できるので、角膜において(A)成分の薬理効果を有効に奏させることが可能である。従って、本発明のSHCL用点眼剤は、上記(A)成分に基づいて抗炎症作用や抗アレルギー作用を発揮できるので、角膜における炎症症状やアレルギー症状の予防乃至緩和剤(例えば、角膜炎や角結膜炎の予防乃至緩和剤)としても有用である。特にドライアイ(乾性角結膜炎)患者では、結膜炎よりも角膜炎が先行して生じやすいことが知られている。また、ドライアイはコンタクトレンズの装用などにより誘発され易いことも知られている。従って、本発明のSHCL用点眼剤は、目が乾く症状を有する者の角膜における炎症症状を効果的に予防乃至緩和するために、特にSHCLの装用により誘発された角膜における炎症症状を効果的に予防乃至緩和するために好適に用いられ得る。更に、本発明のSHCL用点眼剤は、上記(A)成分に基づいて角膜の損傷の治癒を促進させる作用をも発揮できるので、角膜損傷の予防乃至改善剤としても有用である。とりわけ、SHCLの装用は角膜を損傷させ易い傾向があるので、本発明のSHCL用点眼剤は、SHCLの装用により生じる角膜損傷を効果的に予防乃至改善するために好適に用いられ得る。
【0053】
また、SHCLは、細菌が付着し易いことが分かっており、更に長期間の連続装用も可能になっているため、装用中に細菌の付着が助長され易い使用形態で用いられることもある。これに対して、本発明によれば、SHCLへの細菌の付着を有効に抑制できるので、SHCLへの細菌の付着抑制剤、又は眼粘膜の細菌感染症の予防乃至緩和剤としても使用できる。
【0054】
(II) SHCLへのアラントイン類の透過性の向上方法、並びにSHCLへのアラントイン類の透過性を向上させる作用を点眼剤に付与する方法
前述するように、SHCLへの上記(A)成分の透過性を、上記(B)成分を使用することによって向上させることができる。
【0055】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)界面活性剤とを併用することを特徴とする、SHCLへの該(A)成分の透過性を向上させる方法を提供する。また、本発明は、(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有するSHCL用点眼剤に、(B)界面活性剤を配合することを特徴とする、SHCLへの該(A)成分の透過性を向上させる作用を該点眼剤に付与する方法をも提供する。
【0056】
当該方法において、使用する(A)及び(B)成分の種類、これらの配合量や比率、その他に配合される成分の種類や配合量、SHCL用点眼剤の適用対象となるSHCLの種類等については、前記「(I)SHCL用点眼剤」と同様である。
【0057】
(III) SHCLへのアラントイン類の透過性を向上させるための剤
前述するように、SHCLへの上記(A)成分の透過性を、上記(B)成分を使用することによって向上させることができる。
【0058】
従って、本発明は、更に別の観点から、(B)界面活性剤を有効成分として含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の透過性を向上させるための剤を提供する。
【0059】
該剤において、有効成分である(B)成分の種類、適用対象となるSHCL、SHCLへの透過性の対象となる(A)成分の種類、(A)及び(B)成分の配合量や比率等については、前記「(I)SHCL用点眼剤」と同様である。
【0060】
(IV) SHCLに対するアラントイン類の透過性を向上させる物質のスクリーニング方法
また、前述するように、本発明者によって、上記(A)成分がSHCLへの透過性が著しく低いという新たな知見が得られている。そこで、更に、本発明は、SHCLに対するアラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のアラントイン類の透過性を向上させる透過性向上物質をスクリーニングする方法をも提供する。具体的には、本スクリーニング方法は、下記(a)〜(c)工程を包含する方法である。
(a)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のアラントイン類を含むコントロール溶液、並びにアラントイン類と被験物質とを含む被験溶液を、試験溶液として各々調製する工程、
(b)上記試験溶液を各々、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの片側面のみに所定時間接触させ、該レンズの上記試験溶液を接触させていない他方の片側面から滲出したアラントイン類の量を測定することにより、各試験溶液のアラントイン類の透過量を求める工程、並びに
(c)上記工程(b)において測定されたアラントイン類の透過量が、コントロール溶液よりも多い被験溶液を選び、該被験溶液に含まれる被験物質を上記透過性向上物質として選択する工程。
【0061】
本スクリーニング方法において、被験物質とは、スクリーニングに供される上記透過性向上物質の候補物質である。また、候補物質は、SHCL用点眼剤に配合できるように、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであることが望ましい。
【0062】
上記(a)工程において、被験溶液は、水や緩衝液等の水性担体に、アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のアラントイン類を、例えば0.01〜0.5w/v%となるように添加し、更に被験物質を適当量添加することにより調製される。ここで、被験物質は段階的に希釈しておき、複数の濃度の被験物質を含む被験溶液を調製しておくことが望ましい。また、アラントイン類を含有するコントロール溶液は、被験物質を添加しないこと以外は、被験溶液と同組成とすることが望ましい。斯くして調製した被験溶液及びコントロール溶液を試験溶液として用いて、次の(b)工程に供する。
【0063】
上記(b)工程は、溶液を収容可能な2つの区画(セル)を有し且つこれらの2つの区画はSHCLを介して隔てられている装置等を用いて実施することができる。このような装置としては、例えばビードレックス社製の膜透過実験装置が使用できる。具体的には、上記装置の一方の区画に上記試験溶液(コントロール溶液又は被験溶液)を充填し、更に他方の区画には何も充填しないか、或いは好ましくはアラントイン類を含まない溶液(以下、ブランク溶液と表記する)等を充填して、所定時間(例えば4〜48時間程度)経過後に、SHCLを介して上記他方の区画(ブランク溶液を充填した場合には、該ブランク溶液)側に移行したアラントイン類の量を定量する。斯くして定量されるアラントイン類の量が、上記(b)工程で求められるアラントイン類の透過量である。なお、上記ブランク溶液は、充填される試験溶液(コントロール溶液又は被験溶液)と浸透圧が同等であることが望ましい。
【0064】
また、上記透過性向上物質の選択に関する工程(c)において、SHCLへのアラントイン類の透過性を向上させる作用が強い透過性向上物質を選択するには、(b)工程において求められたアラントイン類の透過量がコントロール溶液よりも多い被験溶液を選べばよい。
【0065】
本スクリーニング方法により得られる透過性向上物質は、SHCLへのアラントイン、その誘導体及び/又はそれらの塩の透過性を向上させることを目的として、アラントイン、その誘導体及び/又はそれらの塩を含むSHCL用点眼剤に配合することができる。
【0066】
(V) SHCLへの細菌の付着を抑制する方法、並びにSHCLへの細菌の付着を抑制する作用を点眼剤に付与する方法
前述するように、上記(A)成分と(B)成分を含むSHCL用点眼剤を使用することによって、SHCLへの細菌の付着を抑制することができる。
【0067】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)界面活性剤とを含むSHCL用点眼剤をSHCLと接触させることを特徴とする、SHCLへの細菌の付着抑制方法を提供する。また、本発明は、SHCL用点眼剤に、(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤とを配合することを特徴とする、SHCLへの細菌付着を抑制する作用を該点眼剤に付与する方法をも提供する。
【0068】
当該方法において、使用する(A)及び(B)成分の種類、これらの配合量や比率、その他に配合される成分の種類や配合量、SHCL用点眼剤の適用対象となるSHCLの種類等については、前記「(I)SHCL用点眼剤」と同様である。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
参考試験例1:アラントインのSCL透過性の比較評価
表1で示されるSCLを用いて、アラントインのレンズ透過性について評価した。
【0070】
【表1】

【0071】
アラントインのSCL透過性評価の測定は、膜透過実験装置(ビードレックス社製)を用いて以下の方法に従い実施した。表1に示す各ソフトコンタクトレンズを膜透過実験装置にセットし、一方のセルIには生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を5ml、他方のセルIIには0.3w/v%アラントイン含有溶液(ホウ酸0.5w/v%、ホウ砂 適量、塩化ナトリウム0.6w/v%;pH7.5)を5ml充填した。次いで、24時間後に生理食塩水側の液を1ml採取し、常法に従いHPLC法にてアラントインの濃度を測定し、セルIに移行したアラントインの量を算出した。斯くして算出されたセルIに移行したアラントインの量から、アラントインのレンズ透過率を下式に従って算出した。
【0072】
【数1】

【0073】
結果を図1に示す。図1から明らかなように、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズA及びBでは、ハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズCと比較して、著しくアラントインのレンズ透過性が悪いことが判明した。
試験例1:アラントインのレンズ透過試験
表2に示す点眼剤(実施例1−2及び比較例1)を用いて、アラントインのSHCL透過性について評価した。
【0074】
【表2】

【0075】
アラントインのSHCL透過性評価の測定は、膜透過実験装置(ビードレックス社製)を用いて以下の方法に従い実施した。表1に示すレンズA(SHCL)を膜透過実験装置にセットし、一方のセルIには生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を5mL、他方のセルIIには表2に示す各点眼剤を5mL正確に充填した。尚、各点眼剤の浸透圧はほぼ同じとなるように揃えた。次いで、24時間後に生理食塩水側の液を1mL採取し、常法に従いHPLC法によりアラントインの濃度を測定し、セルIに移行したアラントインの量を算出した。斯くして算出されたセルIに移行したアラントインの量から、参考試験例1と同様の方法でアラントインのレンズ透過率(%)を算出した。
【0076】
結果を図2に示す。図2から明らかなように、実施例1及び2の点眼剤ではアラントインのレンズ透過率が比較例1の点眼剤と比較して著しく増加していることが判明した。即ち、アラントインと界面活性剤(ポリソルベート80又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)を併用することによって、SHCLへのアラントインの透過性が著しく向上することが明らかとなった。
【0077】
参考試験例2:塩酸ピリドキシンのレンズ透過性試験
塩酸ピリドキシンは、角膜細胞の新陳代謝を促進し、目の疲れを緩和させる作用を発揮することが知られている。そのため、SHCL用点眼剤に塩酸ピリドキシンを配合するにも、アラントイン類を配合する場合と同様に、塩酸ピリドキシンがSHCLを透過して角膜に到達できるように製剤設計することが求められる。そこで、SHCLへの塩酸ピリドキシンの透過性を評価するために、以下の試験を実施した。
【0078】
具体的には、表3に示す点眼剤(参考例1−2)を用いて、上記試験例1と同様の方法で試験を行い、塩酸ピリドキシンのSHCL透過性について評価した。
【0079】
【表3】

【0080】
結果を図3に示す。この結果から、塩酸ピリドキシンは、アラントイン類と同様にSHCL透過性が低いものの、界面活性剤(ポリソルベート80)を併用してもSHCL透過性は向上しないことが確認された。
【0081】
総合考察
以上の結果から、アラントイン類と界面活性剤を併用した点眼剤は、SHCL装用中の眼に適用してもアラントイン類の角膜への到達量を増大でき、アラントイン類に基づく薬理効果を有効に奏し得ることが確認された。また、このような界面活性剤との併用による有効成分のSHCL透過性の向上は、有効成分としてアラントイン類を選択することによって認められる特有の効果であることも確認された。
【0082】
参考試験例3:ソフトコンタクトレンズへの細菌付着性評価試験
表4に示す点眼剤(参考例3)を用いて、各種ソフトコンタクトレンズへのStaphylococcus aureus(ATCC No.6538)の付着性について評価した。
【0083】
【表4】

【0084】
まず、SHCL(表1に示すレンズA)、SHCL(商品名:メニコン2WEEKプレミオ;以下、レンズDと表記する)、及び非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(表1に示すレンズC)の3種のソフトコンタクトレンズ(SCL)を用いて、細菌付着量の比較を行った。
【0085】
具体的には、表4に示す参考例3の点眼剤10mlをガラスバイアルに充填し、各SCLを一枚つづ浸漬させ、34℃、120rpmの条件で18時間振とう処理した。
【0086】
別途、約10cfu/mlとなるように滅菌生理食塩水で調整したS. aureus菌液を、12ウェルマイクロプレートに5mlづつ入れた。次いで、各ウェルに振とう処理を終えた各SCLを一枚づつ浸漬させ、プレート振とう機において菌液がこぼれない程度の速度で2時間振とう処理を行った。振とう処理後、各SCLを大量の生理食塩水ですすぎ、更に表面の水分を拭い去った後に、スピッツ管に充填した滅菌生理食塩水5ml中に移した。その後、超音波処理を5分間行い、各SCLに付着した細菌を剥がし、付着菌液とした。
【0087】
得られた付着菌液を100μLずつソイビーン・カゼイン・ダイジェスト・寒天培地(SCDLP寒天培地)に播種し、33℃で24時間培養後、観察されたコロニー数をカウントすることにより、付着菌液中の菌数を算出した。
【0088】
この結果を図4に示す。図4に示されるように、SHCL(レンズA及びD)は、非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(レンズC)に比べて、S. aureusを著しく付着し易いことが判明した。
【0089】
試験例2:ソフトコンタクトレンズへの細菌付着抑制試験
表5に示す点眼剤(実施例3−4及び比較例2−3)を用いて、SHCL(レンズA及びD)へのStaphylococcus aureus(ATCC No.6538)の付着性について評価した。
【0090】
【表5】

【0091】
具体的には、上記参考試験例3と同様の方法で、SHCL(レンズA及びD)に付着した菌数(付着菌液中の菌数)を測定した。
【0092】
この結果を図5に示す。図5に示されるように、2種類のSHCLのいずれについても、アラントイン又は界面活性剤(ポリソルベート80)を単独で配合した場合には、SHCLへのS. aureusの付着を全く抑制できなかった(比較例2及び3参照)。これに対して、アラントインと界面活性剤(ポリソルベート80)を併用した場合には、SHCLへのS. aureusの付着を著しく抑制できることが明らかとなった(実施例3及び4)。
【0093】
また、同様にして非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(表1のレンズC)についても同じ評価を行ったところ、非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対しては、アラントイン又は界面活性剤(ポリソルベート80)を単独で配合した場合も、両者を併用して配合した場合も、付着菌数の減少は全く認められなかった。従って、このようなS. aureusの付着抑制効果は、SHCLに対して認められる特有のものであることが明らかとなった。
【0094】
以上の結果から、アラントインと界面活性剤を併用することにより、SHCLを清潔に保ち、SHCL表面にバイオフィルムが形成されるのを抑制し、それに伴う感染症リスクを大きく低減できることが明らかとなった。
【0095】
製剤例
表6に記載の処方で、SHCL用点眼剤(実施例5−16)が調製される。
【0096】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)界面活性剤とを含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【請求項2】
(A)成分として、アラントインを含む、請求項1に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【請求項3】
(B)成分として、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【請求項4】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する、アラントイン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のアラントイン類の透過性を向上させる透過性向上物質のスクリーニング方法であって、
(a)アラントイン類を含むコントロール溶液、並びにアラントイン類と被験物質とを含む被験溶液を、試験溶液として各々調製する工程、
(b)上記試験溶液を各々、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの片側面のみに所定時間接触させ、該レンズの上記試験溶液を接触させていない他方の片側面から滲出したアラントイン類の量を測定することにより、各試験溶液のアラントイン類の透過量を求める工程、並びに
(c)上記工程(b)において測定されたアラントイン類の透過量が、コントロール溶液よりも多い被験溶液を選び、該被験溶液に含まれる被験物質を上記透過性向上物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−215601(P2010−215601A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112176(P2009−112176)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】