説明

シリルシアニド類の製造方法

【課題】良好な品質で、シリルシアニド類を製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】ジシラザン類、シリルクロリド類及びシアン化水素を反応させるシリルシアニド類の製造方法であって、工程(A):ジシラザン類及びシリルクロリド類の混合物を、シアン化水素と混合する工程、及び、工程(B):工程(A)で得られた反応混合物を、シリルクロリド類及びシアン化水素と混合する工程を含むことを特徴とするシリルシアニド類の製造方法。ジシラザン類としては、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンが好ましく、シリルクロリド類としては、トリメチルシリルクロリドが好ましい。また、ポリエーテルの存在下に前記反応を行うのが好ましく、該ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコールが好ましく、中でも、平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコールが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリルシアニド類を製造する方法に関する。シリルシアニド類は医農薬等の原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
シリルシアニド類を製造する方法として、例えば、特開平6−316582号公報(特許文献1)には、ジシラザン類及びシリルクロリド類の混合物に、シアン化水素を供給して反応させる方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−316582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記文献に記載の方法では、反応後に、未反応のジシラザン類が残存しやすく、シリルシアニド類の品質面において、必ずしも十分ではないことがあった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、良好な品質で、シリルシアニド類を製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を行った結果、ジシラザン類、シリルクロリド類及びシアン化水素を反応させる際、まず、ジシラザン類及びシリルクロリド類の混合物を、シアン化水素と混合し、次いで、該反応混合物を、シリルクロリド類及びシアン化水素と混合することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、ジシラザン類、シリルクロリド類及びシアン化水素を反応させるシリルシアニド類の製造方法であって、下記の工程(A)及び工程(B)を含むことを特徴とするシリルシアニド類の製造方法を提供するものである。
【0008】
工程(A):ジシラザン類及びシリルクロリド類の混合物を、シアン化水素と混合する工程、
【0009】
工程(B):工程(A)で得られた反応混合物を、シリルクロリド類及びシアン化水素と混合する工程
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な品質で、シリルシアニド類を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で用いるジシラザン類は、ケイ素原子にアルキル基やアリール基等が結合しているものであることができ、その典型的な例は、次の式(1)で示すことができる。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R1〜R3は、それぞれアルキル基又はアリール基を表す。)
【0014】
ここで、アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられ、その炭素数は、通常1〜6程度である。また、アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、その炭素数は、通常6〜10程度である。
【0015】
ジシラザン類の具体例としては、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン、1,1,1,3,3,3−ヘキサエチルジシラザン、1,1,1,3,3,3−ヘキサイソプロピルジシラザン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジ(t−ブチル)ジシラザン、1,3−ジイソプロピル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジエチル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンの如きヘキサアルキルジシラザンや、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジフェニルジシラザンの如きテトラアルキルジアリールジシラザン等が挙げられ、中でも、ヘキサアルキルジシラザンが好ましく、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンがより好ましい。
【0016】
本発明で用いるシリルクロリド類は、上記ジシラザン類と同様、ケイ素原子にアルキル基やアリール基等が結合しているものであることができ、その典型的な例は、次の式(2)で示すことができる。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R1〜R3は、それぞれ前記と同じ意味を表す。)
【0019】
シリルクロリド類の具体例としては、トリメチルシリルクロリド、トリエチルシリルクロリド、トリイソプロピルクロリド、ジメチル(t−ブチル)シリルクロリド、イソプロピルジメチルシリルクロリド、エチルジメチルシリルクロリドの如きトリアルキルシリルクロリドや、ジメチルフェニルシリルクロリドの如きジアルキルアリールシリルクロリド等が挙げられ、中でも、トリアルキルシリルクロリドが好ましく、トリメチルシリルクロリドがより好ましい。
【0020】
シアン化水素は、ガス状であってもよく、液状であってもよいが、液状であるのが好ましい。
【0021】
本発明では、ジシラザン類、シリルクロリド類及びシアン化水素を反応させる際、まず、ジシラザン類及びシリルクロリド類の混合物を、シアン化水素と混合し〔工程(A)〕、次いで、該反応混合物をシリルクロリド類及びシアン化水素と混合する〔工程(B)〕。このように、上記反応を二段階で行うことにより、未反応のジシラザン類を減らすことができ、良好な品質のシリルシアニド類を製造することができる。
【0022】
工程(A)の混合方法としては、例えば、ジシラザン類及びシリルクロリド類の混合物に、シアン化水素を供給する方法や、ジシラザン類及びシリルクロリド類の混合物を、シアン化水素に供給する方法等が挙げられ、中でも、ジシラザン類及びシリルクロリド類の混合物に、シアン化水素を供給する方法が好ましい。
【0023】
工程(B)の混合方法としては、例えば、工程(A)で得られた反応混合物に、シリルクロリド類とシアン化水素とをそれぞれ供給する方法等や、工程(A)で得られた反応混合物に、シリルクロリド類及びシアン化水素の混合物を供給する方法等が挙げられ、中でも、工程(A)で得られた反応混合物に、シリルクロリド類とシアン化水素とをそれぞれ供給する方法が好ましい。尚、工程(A)を行った後、すぐに工程(B)を行ってもよいし、工程(A)を行った後、反応混合物をしばらく保持し、次いで、工程(B)を行ってもよい。
【0024】
シリルクロリド類の使用量は、ジシラザン類1モルに対し、工程(A)では、通常0.8〜1.1モル、好ましくは1.0〜1.05モルであり、工程(B)では、通常0.05〜0.3モル、好ましくは0.05〜0.2モルである。
【0025】
シアン化水素の使用量は、ジシラザン類1モルに対し、工程(A)では、通常2.7〜3.1モル、好ましくは3.0〜3.1モルであり、工程(B)では、通常0.05〜0.4モル、好ましくは0.05〜0.3モルである。
【0026】
本発明では、ポリエーテルの存在下に、上記反応を行うこともできる。上記反応では、副産物として塩化アンモニウム(固体)が生じるため、反応混合物はスラリーとなるが、ポリエーテルの存在下で上記反応を行うことにより、かかるスラリーのマス性状をより良好に保つことができる。
【0027】
ここでいうポリエーテルは、エーテル結合を2つ以上有するエーテルであることができ、例えば、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、1,3−ジエトキシプロパンの如きジアルコキシアルカン;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルの如きジエチレングリコールジアルキルエーテル;トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテルの如きトリエチレングリコールジアルキルエーテル;ポリエチレングリコール;ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテルの如きポリエチレングリコールジアルキルエーテル;1,4−ジオキサンの如き環状エーテル等が挙げられる。また、必要に応じてこれらの2種以上を用いることもできる。中でも、ポリエチレングリコールが好ましく、平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコールがより好ましい。
【0028】
ポリエーテルを使用する場合、かかる使用量は、ジシラザン類に対して、通常0.001〜0.5重量倍、好ましくは0.005〜0.2重量倍である。また、ポリエーテルを使用する場合、工程(A)の混合物に添加してもよく、工程(B)の反応混合物に添加してもよいが、工程(A)の混合物に添加するのが好ましい。
【0029】
反応には、溶媒を用いてもよいし、用いなくてもよいが、溶媒を用いないほうが好ましい。尚、溶媒を用いる場合は、反応に影響を及ぼすものでなければ特に制限はなく、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランの如きエーテル、ヘキサン、ヘプタンの如き脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルムの如き塩素化脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンの如き芳香族炭化水素、モノクロロベンゼンの如き塩素化芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0030】
反応は、常圧、減圧又は加圧条件下で行うことができる。また、反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは10〜50℃である。
【0031】
反応の経過はガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、核磁気共鳴スペクトル等で追跡することができる。
【0032】
反応後の後処理操作は適宜選択されるが、例えば、反応終了後の反応混合物をろ過して得られる液体を、蒸留や洗浄等の既知の方法で精製することができる。尚、ろ過残渣がシリルシアニド類を含む場合、適当な溶媒で洗浄することで、シリルシアニド類を回収することもできる。
【0033】
かくして、未反応のジシラザン類の残存量も少なく、良好な品質のシリルシアニド類を製造することができる。かかるシリルシアニド類は、上記ジシラザン類やシリルクロリド類と同様、ケイ素原子にアルキル基やアリール基等が結合しているものであることができ、その典型的な例は、次の式(3)で示すことができる。
【0034】
【化3】

【0035】
(式中、R1〜R3は、それぞれ前記と同じ意味を表す。)
【0036】
シリルシアニド類の具体例としては、トリメチルシリルシアニド、トリエチルシリルシアニド、トリイソプロピルシリルシアニド、エチルジメチルシリルシアニドの如きトリアルキルシリルシアニドや、ジメチルフェニルシリルシアニドの如きジアルキルアリールシリルシアニド等が挙げられ、中でも、本発明は、トリアルキルシリルシアニドを得るのに有利に採用され、トリメチルシリルシアニドを得るのにより有利に採用される。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0038】
実施例1
冷却管を備えた300mL4つ口フラスコに、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(以下、ヘキサメチルジシラザンという)181g(1.1モル)、トリメチルシリルクロリド128g(1.16モル)及びポリエチレングリコール(平均分子量300)16gを入れ、50℃に加熱した。その中に、シアン化水素90g(3.3モル)を3時間かけて滴下した後、50℃で1時間、保温攪拌した。得られた反応混合物にトリメチルシリルクロリド6.0g(0.055モル)とシアン化水素2.7g(0.099モル)とを加え、50℃で1時間、保温撹拌した後、さらにトリメチルシリルクロリド6.0g(0.055モル)とシアン化水素1.8g(0.067モル)とを加え、50℃で1時間、保温撹拌した。得られた反応混合物をろ過し、ろ過残渣をメシチレン160gで2回洗浄した。ろ液と洗液を混合し、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、この混合液に299gのトリメチルシリルシアニドが含まれていた。ヘキサメチルジシラザンに対する収率は92%であった。また、該混合液に含まれるヘキサメチルジシラザンは、トリメチルシリルシアニドに対して0.2%であった。
【0039】
比較例1
冷却管を備えた300mL4つ口フラスコに、ヘキサメチルジシラザン161g(1.0モル)、トリメチルシリルクロリド125g(1.15モル)及びポリエチレングリコール(平均分子量300)15gを入れ、50℃に加熱した。その中に、シアン化水素86g(3.15モル)を2時間かけて滴下した後、50℃で1時間、保温攪拌した。得られた反応混合物をろ過し、ろ過残渣をメシチレン150gで2回洗浄した。ろ液と洗液を混合し、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、この混合液に262gのトリメチルシリルシアニドが含まれていた。ヘキサメチルジシラザンに対する収率は88%であった。また、該混合液に含まれる残存ヘキサメチルジシラザンは、トリメチルシリルシアニドに対して1.8%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシラザン類、シリルクロリド類及びシアン化水素を反応させるシリルシアニド類の製造方法であって、下記の工程(A)及び工程(B)を含むことを特徴とするシリルシアニド類の製造方法。
工程(A):ジシラザン類及びシリルクロリド類の混合物を、シアン化水素と混合する工程、
工程(B):工程(A)で得られた反応混合物を、シリルクロリド類及びシアン化水素と混合する工程
【請求項2】
シリルクロリド類の使用量が、ジシラザン類1モルに対し、工程(A)では0.8〜1.1モル、工程(B)では0.05〜0.3モルであり、かつ、シアン化水素の使用量が、ジシラザン類1モルに対し、工程(A)では2.7〜3.1モル、工程(B)では0.05〜0.4モルである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ジシラザン類が1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
シリルクロリド類がトリメチルシリルクロリドである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ポリエーテルの存在下に前記反応を行う請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ポリエーテルがポリエチレングリコールである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ポリエーテルが、平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコールである請求項5に記載の方法。

【公開番号】特開2008−297244(P2008−297244A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144635(P2007−144635)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】