説明

シルセスキオキサン含有セルロース誘導体樹脂組成物

【課題】溶融流動性、透明性、耐熱性、耐溶剤性、耐水性、表面硬度、機械特性などに優れたシルセスキオキサン含有セルロース誘導体樹脂組成物を提供する。
【解決の手段】
エポキシ環を少なくとも一つ有する籠状シルセスキオキサン及び/又は籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体(籠型構造からケイ素原子のうちの一部が欠けた構造や籠型構造の一部のケイ素−酸素結合が切断された構造のもの)の、官能基含有シルセスキオキサンを含有するセルロース誘導体樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に優しいセルロース誘導体に、シルセスキオキサンを配合させた有機無機ハイブリッド組成物を提供する方法に関する。さらに、本発明は、セルロース誘導体にエポキシ官能基を持つシルセスキオキサンを配合させることにより、セルロース誘導体の透明性と機械特性を保持しつつ、溶融流動性、耐溶媒性、耐水性、表面硬度などの性能を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化石資源の枯渇や地球温暖化問題などの資源・環境問題は21世紀における最も重大な問題である。これらの問題を解決するためには、環境にやさしくかつ豊富で永続可能な代替資源技術の確立が必要である。バイオマスは地球上最も大量に存在し、しかも再生可能な有機資源である。このバイオマス資源を構成し地球上で最大量を誇るものはセルロースであるり、今日このセルロースにはこれまで以上に大きな期待が寄せられている。
【0003】
セルロースは良好な機械特性を有する天然高分子材料であるが、不融不溶な材料であるので、そのままでは利用方法は極めて限られていた。しかしセルロース誘導体化技術の進歩により、セルロースに熱溶融性・溶媒溶解性などを付与することができ、工業材料としての用途が大きく広かれることとなった。今日では数多くのセルロース誘導体が工業的に製造されているが、プラスチック材料として最も大量に使用されているのは酢酸セルロースなどのセルロースエステル誘導体である。それに加え、近年、セルロースアセテートは液晶テレビ、ノートパソコン、携帯電話など、液晶ディスプレーに不可欠な偏光板保護フィルムに活用されている。これらの他にもセルロース誘導体の高機能材料への応用について数多くの検討が進められてきた。
【0004】
しかし、セルロース誘導体は溶融加工性、耐溶媒性、耐水性などに欠点があるため、利用分野が大きく限られ、高機能化材料としての展開は不十分であるのが現状である。また、電子、光学材料などの分野への用途展開には、さらなる性能向上およびは機能付与が必要である。
【0005】
セルロース誘導体の溶融加工性を改善するため、大量の低分子量可塑剤を添加する方法(外部可塑化)は工業的に用いられている。しかし大量可塑剤を添加すると、セルロース誘導体の耐熱性及び機械特性の低下、可塑剤のブリードアウトなどの問題がある。一方、より分子の大きい置換基を導入したりグラフト反応したりすることによりセルロース誘導体の熱流動性を向上させる方法(内部の可塑化)も開発されている(特許文献1参照)。この方法は、ブリードアウトの問題を改善する事が可能であるが。セルロース誘導体が本来持つ優れた物性、例えば、機械特性などの性能も大きく低下すると共に製造コストが高いため、実用化は困難とされている。
【0006】
一方、有機・無機ハイブリッド材料であるシルセスキオキサンは優れた耐熱性、電気特性、難燃性、耐候性、機械特性を有し、近年、高機能材料として注目されている。シルセスキオキサンと有機ポリマーとのハイブリッド材料化あるいはナノコンポジッド化の開発研究は世界的に行われている。シルセスキオキサンは、完全な無機物質であるシリカとは異なり、一般の有機溶媒に可溶であることから、取り扱いが容易であり、製膜等の加工性や成形性に優れるという特長を有する。有機珪素化合物によるセルロース誘導体の変性においても多数提案されている。例えば、特開2002−194228号公報に、セルロース誘導体にアルコキシシランのゾルゲル生成物を配合し、セルロース誘導体の透湿度及び複屈折率を低下させることが提案されている。またアメリカのHybrid Plastics社のホームページにセルロースアセテートプロピオネートに数パーセントのシルセスキオキサンを配合することにより耐熱性、難燃性を改善できることが示されている。しかし、これらの方法においては、ゾルゲル生成物が持つ大量のシラノール基の存在で、保存安定性 加工性、その他の性能バランスにが、十分とは言えない。また、相溶性が不十分であるので機械特性や透明性が低下するという問題点がある。
【特許文献1】特開2001−240794号公報
【特許文献2】特開2002−194228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、セルロース誘導体の透明性を損なわずに、溶融流動性、耐熱性、耐有機溶剤性、耐水性、表面硬度及び機械特性を向上される方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題を解決すべくセルロース誘導体に流動性、光学特性、電気特性、耐熱性、耐水性、機械特性などに優れたシルセスキオキサンを配合させることについて鋭意研究を行った。その結果、エポキシ基を有する特定のシルセスキオキサンとセルロース誘導体との組成物が卓越した相溶性、加工流動性、耐溶剤性、耐水性、表面硬度、機械特性を有することを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、一つの分子内に少なくとも一つのエポキシ環を有する、下記一般式(A)で表される籠型構造体シルセスキオキサン及び/又は、一般式(B)で表される籠型構造体シルセスキオキサンの部分開裂構造体の、少なくとも1種のシルセスキオキサンと少なくとも1種のセルロース誘導体を含有する樹脂組成物。
(RSiO3/2(A)
nは4又は4以上の整数
(RSiO3/2(RSiOH) (B)
mは2又は2以上の整数、n+mは4または4以上の整数
一般式(A)および(B)中の置換基Rは、それぞれ少なくとも一つのエポキシ基を含む置換基である。エポキシ基以外のRは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基またはアリロキシ基、炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアラルキル基、炭素数7〜20のアリール基、及びケイ素数1〜10のケイ素原子含有基、およびそれらの置換体から一種類以上の置換基が選択される。
【0009】
上記樹脂組成物中に、重合開始剤を含有させることが、エポキシ基間の重合反応を促進し、より強固なネットワークを形成できるので、好ましい。
【0010】
上記重合開始剤が光重合開始剤であることが、シルセスキオキサンとセルロース誘導体との反応を速やかに且つ効果よく促進し、低温短時間で優れた物性を有する樹脂組成物が得られるので、より好ましい。
【0011】
上記光重合開始剤が光カチオン開始剤であることが、空気中等の酸素により重合阻害を受けないため、空気中においても完全に重合させることが可能であるのでより好ましい。
【0012】
シルセスキオキサン100重量部に、光カチオン開始剤の添加量は0.1〜5重量部が好ましい。
【0013】
前記シルセスキオキサンに含有されるエポキシ基は、(1)エポキシ環を含有し、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素エポキシ基、又は(2)エポキシ環を含有するシリルオキシ基からなる群から選択される少なくとも1種のものであることが好ましい。
【0014】
セルロース誘導体がセルロースエステルであることが、コスト、成形性、物性の面において優れているので、好ましい。
【0015】
セルロースエステルが炭素数2〜10のアシル基を置換基として有するものが、物性がより優れているので、より好ましい。
【0016】
セルロースエステルが酢酸セルロースであることが、安価で入手しやすいため特に好ましい。
【0017】
セルロースエステルがセルロースアセテートプロピオネートであることが、耐湿性、寸法安定性、耐候性が優れているため、好ましい。
【0018】
セルロースエステルがセルロースプロピオネートであることが、物性や加工性がさらに優れるため、好ましい。
【0019】
セルロース誘導体の置換度は0.5から3であるものが、溶解性、加工性、耐水性のバランスがよいため、好ましい。
【0020】
セルロース誘導体の置換度は1.5から2.8であるものが、シルセスキオキサンとの相溶性及び反応性は一層優れているので、好ましい。
【0021】
セルロース誘導体100重量部に対して、エポキシ基を有するシルセスキオキサンの含有量は5〜1000重量部であることが好ましい。
【0022】
上記の樹脂組成物は、コーティング材として使用することが好適である。
【0023】
上記の樹脂組成物は、フィルム製造に好適である。
上記の樹脂組成物は、成形体製造に好適である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、溶融加工性、透明性、機械強度、表面硬度、耐水性、耐有機溶剤性、耐熱性などが良好なシルセスキオキサン/セルロース誘導体ハイブリッド組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明はシルセスキオキサンとセルロース誘導体との有機無機ハイブリッド樹脂組成物の製造方法に関する。本発明によれば、エポキシ基をもつ特定な構造を有するシルセスキオキサンをセルロース誘導体に添加することにより、セルロース誘導体の溶融加工性を改善すると共に、セルロース誘導体の高機能化を実現する事が出来る。詳しくは、シルセスキオキサン成分中に含まれるエポキシ基とセルロース誘導体に含まれる水酸基との反応から形成された三次元架橋構造を有する有機無機ハイブリッドネットワークの形成、又はシルセスキオキサン自らの反応によりなる高分子ネットワークとセルロース誘導体とのIPN分子構造の形成により、セルロース誘導体の高機能化をさせることを主旨とする。
【0026】
本発明の有機無機ハイブリッド樹脂組成物の製造に用いるシルセスキオキサンには、一つの分子内に少なくとも一つのエポキシ環を有する、下記一般式(A)で表される籠型構造体シルセスキオキサン及び/又は、一般式(B)で表される籠型構造体シルセスキオキサンの部分開裂構造体の、少なくとも1種のシルセスキオキサンと少なくとも1種のセルロース誘導体を含有する樹脂組成物。
(RSiO3/2(A)
nは4又は4以上の整数
(RSiO3/2(RSiOH) (B)
mは2又は2以上の整数、n+mは4または4以上の整数
一般式(A)および(B)中の置換基Rは、それぞれ少なくとも一つのエポキシ基を含む置換基である。エポキシ基以外のRは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基またはアリロキシ基、炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアラルキル基、炭素数7〜20のアリール基、及びケイ素数1〜10のケイ素原子含有基、およびそれらの置換体から一種類以上の置換基が選択される。
エポキシ基を含有することにより、シルセスキオキサンとセルロース誘導体との相溶性が向上するとともに、エポキシ基とセルロース誘導体の水酸基との反応、及び/又はエポキシ基間の重合反応により、有機無機ハイブリッド樹脂組成物が生成される。
【0027】
また、シルセスキオキサンが持つエポキシ基の反応を完全にし、より強固な高分子ネットワークを得るためには、シルセスキオキサンとセルロース誘導体組成物に重合開始剤を添加することが好ましい。セルロース誘導体中の脂肪族水酸基はエポキシ基との反応性が低く、特にセルロース誘導体の遊離水酸基数が少ない場合(置換度が高い)、シルセスキオキサンのエポキシ基の一部は未反応のまま残留する可能性がある。この場合、一部のシルセスキオキサンは高分子骨格に取り込まれずに低分子量状態で残留し、樹脂組成物の性能向上に寄与しにくくなる恐れがある。重合開始剤を使用することにより、エポキシ環が活性化され、水酸基への付加反応と共に、エポキシ基間の重合反応も容易に進行する。その結果、セルロース誘導体中の遊離水酸基の数に関わらず、シルセスキオキサンはエポキシ基の自己重合も併せてネットワークに取り込むことが出来、優れた性能を有する有機無機ハイブリッド材料が得られる。
【0028】
本発明に用いられる重合開始剤は特に限定されるものではなく、例えば一般なエポキシ樹脂の硬化に使われる重合開始剤をあげることができるが、本発明の樹脂組成物の成形加工性を最大限に保持し、成形加工後低温でも迅速にエポキシ基の反応を起こさせ、ハイブリッド材料の性能を最大限に引き出すために、光重合開始剤、例えば光カチオン開始剤及び/又は光ラジカルを使用することが好ましい。
【0029】
上記光重合開始剤が光カチオン開始剤であることが、空気中等の酸素により重合阻害を受けないため、空気中においても完全に重合させることが可能であるのでより好ましい。
本発明で用いられる光カチオン開始剤は、光により、前記セルロース誘導体、前記シルセスキオキサン成分からなる樹脂のカチオン重合を開始する化合物であれば特に限定はなく、いずれでも使用することができる。例えば、(チオフェノキシフェニル)ジフェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート−ビス(ジフェニルスルホニウム)ジフェニル、ヘキサフルオロヒ酸ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロアンチモン酸ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム等の芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩等の公知の重合開始剤などが挙げられる。
【0030】
これらの光カチオン重合開始剤の添加量は樹脂組成物100重量部に対して0.1〜10重量部の範囲であることが好ましい。0.2〜5重量部はより好ましい。0.3〜3重量部はさらに好ましい。開始剤の使用量は0.1重量部より少ないと硬化時間が長くなり、10重量%より多いと黄変等の物性低下が起こるため好ましくない。
【0031】
本発明の樹脂組成物に上記のカチオン開始剤以外に、エポキシ基と水酸基の反応を促進する促進剤を併用しても良い。これらの促進剤は特に制限されるものではなく、例えば、ジアザビシクロアルケンおよびその誘導体;トリエチレンジアミンなどの三級アミン類;2−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィンなどの有機ホスフィン類などを使用することができる。
【0032】
本発明に使用されるシルセスキオキサンに含有されるエポキシ基は、特に限定されるものではないが、(1)エポキシ環を含有し、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素エポキシ基、又は(2)エポキシ環を含有するシリルオキシ基からなる群から選択されるものであることが好ましい。炭素数10を超える炭化水素エポキシ基は、セルロース誘導体との相溶性が不十分になると共に、得られた樹脂組成物の機械特性が低下する傾向がある。
【0033】
シルセスキオキサン分子に上記エポキシ基以外に、他の反応官能基、例えば、アクリル基、メタクリル基、ビニル基を併有しても良い。これらの反応性官能基を併有することにより、より強固なハイブリッド組成物を得ることが出来る。
【0034】
本発明に使用されるシルセスキオキサンの製造方法は特に限定されるものではなく、公知な合成方法で合成できる。例えば、トリアルコキシシラン又はトリクロロシランを共加水分解縮合して製造する方法等が知られており、これを利用することができ、架橋性反応基含有トリアルコキシシラン又はトリクロロシランを用いて官能基を導入することができる。
また、架橋性反応基を形成しうる架橋性反応基前駆体を有するシルセスキオキサンをまず製造し、このシルセスキオキサンの架橋性反応基前駆体を付加反応或は置換反応により架橋性反応基とすることで製造することもできる。反応温度としては、例えば、20〜100℃であり、反応時間は1〜24時間である。この反応に用いられる有機溶媒としては、例えば、メタノール、テトラヒドロフラン、トルエン等の有機溶媒が挙げられる。
【0035】
本発明に用いるセルロース誘導体は、特に限定されるものではなく、例えば硝酸セルロース、セルロースアセテートなどのセルロースエステル類、エチルセルロースなどのセルロースエーテル類、さらにはカプロラクトン、メタクリル酸メチルなどの重合性モノマーによりグラフト重合したセルロース、又はこれらの混合誘導体化合物などを挙げることができる。
【0036】
セルロース誘導体の中、セルロースエステル類は熱可塑性、溶媒溶解性、および機械物性とも優れるので、より好ましい。特に、炭素数2〜10のアシル基を置換基とするセルロースエステル類は、さらに良好な加工性と物性が得られるので、より好ましい。炭素数2〜10のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどである。これらの好ましい置換基としては、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、イソブタノイル、2−メチル−2−プロパノイル、シクロヘキサンカルボニル、ベンゾイルなどを挙げることが出来る。これらの中でも、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、2−メチル−2−プロパノイル、ベンゾイルなどがより好ましい。特に好ましくはアセチル、プロピオニル、ブタノイルである。これらのセルロースエステルは、単一アシル基置換によるセルロースエステルであってもよいが、セルロースアセテートプロピオネートのような、2種類以上のアシル基からなる混合エステルであっても良い。
【0037】
本発明に使用するセルロース誘導体の置換度は、特に限定されるものではないが、0.5〜3の範囲が好ましい。置換度が0.5未満であると、熱可塑性、溶媒溶解性は不十分であるためシルセスキオキサンと均一に混合・反応することが困難となる傾向がある。より均一で良好なハイブリッド樹脂組成物を得るために、セルロース誘導体の置換度は1.5〜2.8の範囲であることがより好ましい。置換度の理論最大値が3であるが、置換度2.8にする理由は、セルロース誘導体中の残留水酸基とシルセスキオキサンに含有するエポキシ基との反応が容易に起こり、より良好なハイブリッド樹脂組成物が得られやすいからである。
なお、セルロース誘導体の置換度は、セルロースを構成するグルコース残基に含有する3個の水酸基が、置換基により置換される数の平均値である。3個の水酸基が全て置換された場合、置換度は3.0となる。
【0038】
置換度の測定方法はセルロース誘導体の種類により異なるが、重量法、加水分解後逆滴定法、元素分析法など公知的な手法を使用すればよい。
【0039】
本発明の樹脂組成物における配合比は、特に限定されるものではなく、セルロース誘導体100重量部に対して、シルセスキオキサンを5〜1000重量部の範囲で、使用目的、要求物性に応じて使用することが出来る。シルセスキオキサンの使用量は5重量部未満では、ハイブリッド効果が発現しにくい傾向がある。一方、添加量は1000重量部を超える場合、セルロース誘導体の寄与が少なくなり、良好な機械物性が得られなくなる傾向がある。
【0040】
本発明のセルロース誘導体・シルセスキオキサンハイブリッド 樹脂組成物は上記の成分以外に、必要に応じて可塑剤、充填剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、さらには他の高分子材料などを添加することが出来る。
【0041】
[セルロース誘導体・シルセスキオキサンハイブリッド 樹脂組成物及び樹脂組成物からフィルム、コーティング、成形体などの調製]
本発明のセルロース誘導体・シルセスキオキサンハイブリッド組成物の調製、及び樹脂組成物からフィルム、コーティング、成形体などの製造方法としては特に限定されず,湿式法、乾式方など常用の製造方法でよい。例えば、セルロース誘導体とシルセスキオキサンと必要に応じて重合開始剤などをロール、ニーダ、単軸混練押出機、2軸混練押出機などの装置を用いて混合混練し、樹脂組成物を製造することが出来る。混練条件は特に限定されるものではなく、使用される混練装置の種類、セルロース誘導体とシルセスキオキサンの融点、配合量、必要な反応程度、樹脂組成物の用途及び成形方法などを考慮し混練条件を適宜調整すればよい。なお、セルロース誘導体の熱分解を避けるために混練温度は280℃以下に設定することが好ましい。250℃以下はより好ましい。
【0042】
上記の混練により得られた樹脂組成物は、必要に応じて一定形状のペレットに加工した後、押出、射出、熱圧、真空など常用な熱成形方法により成形体、フィルム、繊維などに成形することが出来る。
【0043】
また、樹脂組成物を溶媒に溶解してからキャスト、紡糸、スプレー、コーティング、含浸などの方法によりフィルム、繊維、塗膜、含浸シートなどを得ることも出来る。これらの成形方法における成形手法及び条件については、特に限定されるものではなく、通常の高分子材料の成形方法に常用な手法及び条件を使用できる。なお、樹脂組成物の調製段階に、セルロース誘導体とシルセスキオキサンとの反応は未完全な場合、成形中又は成形後に反応が完全に進行するよう、条件設定することが好ましい。反応を完全に進行させる方法としては、特に限定されるものではなく、適切な反応開始剤又は触媒の使用、加熱、UV照射など単一又は複数の手段を使用することが出来る。
【0044】
また、本発明の樹脂組成物の調製に湿式法を使用することも出来る。この場合、セルロース誘導体、シルセスキオキサン、反応開始剤などをTHFなどの有機溶媒に溶解させ、必要に応じては所定の条件下で予備反応させた後(セルロース誘導体とシルセスキオキサンとの反応をある程度進行させる)、1)その溶液をノズルを通じて膜状、繊維状又は液滴状で非溶媒の浴に押出し、沈殿させてフィルム状、繊維状、または顆粒状のハイブリッド材料を得る方法;2)溶液をノズルを通じて膜状、繊維状、又は霧状で空気中に吐出し、加熱などにより溶媒を揮発させてフィルム状、繊維状又は粉状のハイブリッド材料を得る方法、3)溶液を基板などの上にキャスト又はスプレーし、溶媒を蒸発させてフィルム又は塗膜(コーティング)を得る方法;4)溶液から減圧蒸留などにより直接溶媒を除去して固形ハイブリッド組成物を得る方法、などが挙げられる。いずれの方法においても、上記の乾式法と同様に、成形前、成形中又は成形後に加熱、UVなどによりセルロース誘導体とシルセスキオキサンとを反応させることが出来る。
【0045】
湿式法に使用される有機溶媒は、特に限定されるものではなく、各成分に対する溶解性、使用する成形条件に見合う揮発性、配合成分と反応する可能性、さらには得られた溶液の粘度、成膜性など総合的に考慮し選択すればよい。単一溶媒でもよいが、2種類以上の混合溶媒を使用してもよい。また、セルロース誘導体とシルセスキオキサンを各々別の溶媒に溶解し後に混合しても良い。これらの溶媒の例としては、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルフォキシド、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、などが挙げられる。
【0046】
なお、シルセスキオキサンに2個以上のエポキシ基を有する場合、架橋反応により樹脂組成物は3次元網状構造になるので、架橋反応を完成させるタイミングは重要である。成形する前に架橋反応を完成させると成形性が低下するので、成形中又は成形後に反応を完成させることが好ましい。なお、フィルム、繊維などを調製し、成形工程に延伸工程がある場合、延伸工程前、延伸工程中又は延伸工程後のいずれの段階においても架橋反応させることが出来るが、これらの架橋反応のタイミング及び条件を変えることにより得製品の物性を大きく変えることが出来るので、多種多様な物性を有するフィルム、繊維が得られる。これら2官能以上のシルセスキオキサンを使用することにより、セルロース誘導体とシルセスキオキサンは3次元網状構造になり、耐熱性、耐溶媒性、ガスバリア性、機械特性などの性質を大きく向上させることができる。
【0047】
次に、実施例及び比較例により本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、シルセスキオキサン及びハイブリッド樹脂組成物の性能は、下記の方法に従って評価した。
(1)シルセスキオキサンの分子量測定
合成されたシルセスキオキサンを日本分光(株)製LC−800システム分子量分析装置で分子量及び分子量分布を測定した。分析条件は以下のとおりである:
カラム; Shodex KF−804二本の直列連接
溶離液;テトラヒドロフラン(流速;1.0ml/分)
システム温度:40℃
検出器;RI
(2)シルセスキオキサンの構造同定(NMR分析)
合成されたシルセスキオキサンの分子構造は、Varian, Inc..製INOVA 400MHz−Spectrometerを用いてNMRにより分析した。溶媒はCDCL3であった。
(3)全光線透過率及びヘイズ値
日本電色工業(株)製モデル1001DPヘイズメーターを使用し、JIS K7105に準拠して測した。
(4)鉛筆硬度
JIS K5400に準拠して、手かき法により測定した。
(3)ハイブリッド組成物の溶融流動温度
調製したシルセスキオキサン含有セルロース誘導体組成物のUV照射する前の熱流動温度を、島津製作所(株)製フローテスターCFT-500Dにより測定した。
(5)引張特性の測定
得られた厚さ90μm90mmの帯状体を、JIS K 6251記載のダンベル 28号で打ち抜いて試験片 を作製した。この試験片 を用いて、島津製作所(株)製AGS-20KNG強度試験機で25℃、切断引張応力、切断引張伸び、弾性率を測定した。
使用ロードセル:1KN
つかみ具間距離:30mm
試験速度:3mm/min
(6)吸水率の測定試験
得られたフィルムから、3個1組、一辺が50±1mmの正方形試験片を製作し、JIS K7209に準じて吸水率を測定した。
吸水率=(浸漬後フィルムの重量―浸漬前フィルムの重量)/浸漬前フィルムの重量×100%
(7)THF溶出試験
得られたフィルムから、3個1組、一辺が50±1mmの正方形試験片を製作し、試験片を60℃乾燥機に置いて24時間乾燥し、デシケーター中で放冷後、0.1mgまで秤量した。試験片一個ずつを室温のTHF100ml中に完全に浸漬し、24時間静置した。その後、試験片をTHFから取り出し、60℃乾燥機に置いて24時間乾燥し、デシケーター中で放冷後、0.1mgまで秤量した。浸漬前後の重量変化から、下式により溶出率を算出した。
溶出率=(浸漬前サンプル重量(g)−浸漬後サンプル重量(g))/浸漬前サンプル重量×100%
(8)熱膨張係数の測定
理学(株)製Thermo Plus 2 TMA8310型熱機械分析装置を用いて、空気雰囲気下、1分間に5℃の割合で温度を30℃から200℃まで上昇させ、30℃〜185℃の時の値を測定して求めた。荷重を50Nにし、引張モードで測定を行った。得られたフィルムから、2個1組、15mm×5mmのフィルム状試験片を製作し、測定した。
(合成例1)
【0048】
脂環式エポキシ基を持つシルセスキオキサン(SQ−A)の合成
(1)攪拌機、温度計、還流冷却管を備えた反応器に、テトラヒドロフラン1200ml、1N水酸化ナトリウム水溶液43.2ml (水酸化ナトリウム 0.0432 モル)、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン118.3 g (0.48 モル)を仕込み、60℃で3時間攪拌しながら加熱した。
(2)反応終了後、反応生成物を室温まで放置させた後、攪拌しながら1N塩酸水溶液43.2mlを加えて中和した後、減圧下40℃で溶媒等の低沸点部を留去した。
(3) (2)で得た濃縮物にジエチルエーテル200mlを加え、分液ロートを用いて蒸留水により水洗した。分液ロートの水層が中性になるまで水洗を繰り返した後、有機層を分取し、無水硫酸マグネシウムで脱水した後、減圧下でジエチルエーテルを留去して目的のシルセスキオキサン(SQ−A)を得た。このシルセスキオキサンにつき、GPC、NMR分析を行った結果、下記式(A)及び(B)の構造を有する脂環式エポキシ基を持つシルセスキオキサンであることを示した。
(RSiO3/2)n(A)
nは4又は4以上の整数
(RSiO3/2)n(RSiO2H)m (B)
mは2又は2以上の整数、n+mは4または4以上の整数
ここで、Rは単一種の3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)基であった。
(合成例2)
【0049】
グリシドキシプロピル基を有するシルセスキオキサン(SQ−B) の合成
(1)攪拌機、温度計、還流冷却管を備えた反応器に、テトラヒドロフラン1200ml、1N水酸化ナトリウム水溶液43.2 ml (水酸化ナトリウム0.0432モル)、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン113.3 g (0.48 モル)を仕込み、60℃で3時間攪拌しながら加熱した。
(2)反応終了後、反応生成物を室温まで放置させた後、攪拌しながら1N塩酸水溶液43.2mlを加えて中和し後、減圧下40℃で溶媒等の低沸点部を留去した。
(3) (2)で得た濃縮物にジエチルエーテル200mlを加え、分液ロートを用いて蒸留水により水洗した。分液ロートの水層が中性になるまで水洗を繰り返した後、有機層を分取し、無水硫酸マグネシウムで脱水した後、減圧下でジエチルエーテルを留去して目的のシルセスキオキサン(SQ−B)を得た。このシルセスキオキサンにつき、GPC、IR、NMR分析を行った結果、下記式(A)及び(B)の構造を有するグリシドキシプロピル基を持つシルセスキオキサンであることを示した。
(RSiO3/2)n(A)
nは4又は4以上の整数
(RSiO3/2)n(RSiO2H)m (B)
mは2又は2以上の整数、n+mは4または4以上の整数
ここで、Rは単一種のグリシドキシプロピル基であった。
【実施例1】
【0050】
合成例1で得たシルセスキオキサンSQ−A1gとセルロースジアセテートL20(ダイセル化学工業社製)4g、5.4質量%カチオン光開始剤{(チオフェノキシフェニル)ジフェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート−ビス(ジフェニルスルホニウム)ジフェニル名称を入れる}のTHF溶液0.9gをTHF36gに室温で攪拌溶解し、固形分濃度5.8wt%の溶液を調製した。得られた溶液をPET基板上にバーコート法でキャストし、室温で 3時間放置して大部分のTHFを揮発させ、フィルム状になった後、更に60℃の乾燥機で8時間乾燥させ、UV照射した。UV照射においてはアイグラフィックス社(株)製のECS−151U(アイ ミニグランデージ)を用いてメタルハライドランプを光源とし、1回30秒、連続3回照射を行った。その後フィルムを基板から剥離し、厚みは90μmだった。得られたフィルムの中にシルセスキオキサンの含有率は20%だった。フィルムの光透過率(可視光)、ヘイズ、THF溶出率、吸水率、熱線膨張係数、表面硬度、及び引張特性を評価し、結果を表1に示した。
【実施例2】
【0051】
合成例1で得たシルセスキオキサンSQ−Aの添加量を30%に変更した以外、実施例1と同様の操作でフィルムを得た。乾燥後フィルムの厚みは90μmだった。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【実施例3】
【0052】
合成例2得たシルセスキオキサンSQ−Bを入れ替えること以外、実施例1と同様の操作でフィルムを得た。乾燥後フィルムの厚みは90μmだった。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【実施例4】
【0053】
合成例2得たシルセスキオキサンSQ−Bを入れ替えること以外、実施例2と同様の操作でフィルムを得た。乾燥後の厚みは90μmだった。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【実施例5】
【0054】
シルセスキオキサンSQ−Bを40%添加する以外に実施例3と同様の操作でフィルムを得た。乾燥後の厚みは90μmだった。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(比較例1)
【0055】
実施例1と同様の操作で、シルセスキオキサンを使用せず、UV照射せずセルロースジアセテートL20のみでフィルムを得て、フィルムの厚みは90μmだった。その物性の評価結果は表1に記載した。
【0056】
以下は、実例1〜5、比較例1の調製したフィルムの測定結果の表である。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のシルセスキオキサンとセルロース誘導体のハイブリッド化により、セルロース誘導体の熱加工性、機械特性、耐薬品性、光学特性を顕著的に改良し、高機能化材料を製造できる。また、本発明の技術による植物由来セルロースを利用することにより、化石資源の枯渇や地球温暖化問題の解決に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】合成例1により製造された2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)基を持つシルセスキオキサン組成物(SQ−A)のGPCチャートである。
【図2】合成例2により製造された3−グリシドキシプロピル基を持つシルセスキオキサン組成物(SQ−B)のGPCチャートである。
【図3】合成例1により製造された2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)基を持つシルセスキオキサン組成物(SQ−A)の29Si-NMRスペクトルである。
【図4】合成例2により製造された3−グリシドキシプロピル基を持つシルセスキオキサン組成物(SQ−B)の29Si-NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの分子内に少なくとも一つのエポキシ環を有する、下記一般式(A)で表される籠型構造体シルセスキオキサン及び/又は、一般式(B)で表される籠型構造体シルセスキオキサンの部分開裂構造体の、少なくとも1種のシルセスキオキサンと少なくとも1種のセルロース誘導体を含有する樹脂組成物。
(RSiO3/2(A)
nは4又は4以上の整数
(RSiO3/2(RSiOH) (B)
mは2又は2以上の整数、n+mは4または4以上の整数
一般式(A)および(B)中の置換基Rは、それぞれ少なくとも一つのエポキシ基を含む置換基である。エポキシ基以外のRは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基またはアリロキシ基、炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアラルキル基、炭素数7〜20のアリール基、及びケイ素数1〜10のケイ素原子含有基、およびそれらの置換体から一種類以上の置換基が選択される。
【請求項2】
重合開始剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
重合開始剤が光カチオン重合開始剤であることを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
シルセスキオキサンに含有されるエポキシ基は(1)エポキシ環を含有し、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素エポキシ基、又は(2)エポキシ環を含有するシリルオキシ基からなる群から選択される少なくとも1種のものを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
セルロース誘導体がセルロースエステルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
セルロースエステルが炭素数2〜10のアシル基を置換基として有することを特徴とする請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
セルロースエステルが酢酸セルロースであることを特徴とする請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
セルロースエステルがセルロースアセテートプロピオネートであることを特徴とする請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
セルロースエステルがセルロースプロピオネートであることを特徴とする請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
セルロース誘導体の置換度が0.5から3であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項11】
セルロース誘導体の置換度が1.5から2.8であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項12】
セルロース誘導体100重量部に対して、エポキシ基を有するシルセスキオキサンを5〜1000重量部含有することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の樹脂組成物からなるコーティング材。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載の樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−204611(P2007−204611A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25180(P2006−25180)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】