説明

シルセスキオキサン骨格を含む重合体から得られる繊維、繊維集合体及びそれらの製造方法

【課題】従来ガラス繊維が主に用いられてきた例えばフィルターなどの製品の構成要素として、耐薬品性、耐熱性及び柔軟性などの性能に優れた繊維及び繊維集合体を提供する。
【解決手段】シルセスキオキサン骨格を含む特定の重合体を用いて得られる繊維または繊維集合体;シルセスキオキサン骨格を含む特定の重合体を用いて調製した重合体溶液を乾式または湿式紡糸に供し、その後、紡糸された繊維を加熱処理することを含む、繊維または繊維集合体の製造方法;上記の繊維または繊維集合体を用いて得られたフィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルセスキオキサン骨格を含む重合体を用いて得られる、透明性、耐熱性,耐薬品性及び柔軟性に優れた繊維及び繊維集合体に関し、詳しくは無機ガラスを代替して、フィルターなどの製品の構成要素として好適で有用な繊維及び繊維集合体に関する。本発明はまた、それらの繊維及び繊維集合体を製造する方法に関する。本発明はさらに、そのような繊維又は繊維集合体を用いて製造された製品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラスは、その透明性及び耐熱性を活かし、電子材料分野での透明耐熱基板、また複合材料用のフィラーや特殊フィルター等に広く用いられている。しかしながらガラスは、割れ易い、大きく曲げられない、比重が大きく軽量化に不向きなどの理由から、近年、その代替の一つとしてケイ素含有有機無機ハイブリッド素材が検討されている。
【0003】
シルセスキオキサンは、特異な構造を有し、またそれによる特異な効果が期待されるため、様々な分野から注目されており、特に電子材料分野における折り曲げ可能な耐熱フィルム基板として検討されている。カゴ型シルセスキオキサンを含むシリコーン樹脂とアクリル樹脂との共重合体を用いて耐熱性、透明性に優れたフィルム基板を作製できることが開示されている(特許文献1及び2)。しかしながら、アクリル樹脂を含有しているため機械的強度、透明性に問題がない場合でも、耐候性が損なわれる場合が多い。
また、アクリル樹脂を用いず、主鎖にシルセスキオキサン骨格を含む重合体を用いて作製したフィルム基板が知られている(特許文献3及び4)。このフィルム基板は透明性に加えて、紫外線に対しての劣化がなく耐候性に優れるほか、レーザー光線照射により基板上に直接電気回路を形成し得る優れた耐熱性を有していることが知られている。しかしながら自由に折り曲げることができる柔軟性を有したフィルムでは、ガラス転移点以上の温度ではフィルムの弾性率の低下が大きく、また弾性率変化の少ないフィルムでは折り曲げることができないといった、柔軟性と耐熱性の双方を満足し得る材料ではなかった。
また、特許文献5は、シルセスキオキサン骨格を含む特定の重合体を提案し、フラットパネルディスプレイ基板などの表示素子用基板用途に用いることを開示している。
【0004】
このように、シルセスキオキサン骨格を含む重合体について、フィルムとして種々の検討がなされているが、繊維という用途の検討はほとんどなされておらず、次の例があるのみである。特許文献6にはシルセスキオキサン系のポリマー表面にミクロスパーテルを接触させ、引き上げたら糸を曳いたという記述があるが、これ以上の検討はなされておらず、繊維として完成されていない。特許文献7には金属酸化物、有機ポリマーまたはそれらの組合せからなるナノファイバーの記述があり、金属酸化物前駆体の中にシルセスキオキサンが酸化ケイ素化合物の一例として挙げられているが、実施例には全く挙げられておらず、シルセスキオキサンの繊維として、まだ完成されていないと言わざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−123936号公報
【特許文献2】特開2006−89685号公報
【特許文献3】特開2006−233154号公報
【特許文献4】特開2008−112942号公報
【特許文献5】特開2009−298908号公報
【特許文献6】特開2004−211216号公報
【特許文献7】特表2010−502855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来ガラス繊維が主に用いられてきた例えばフィルターなどの製品の構成要素として、耐薬品性、耐熱性及び柔軟性などの性能に優れ、且つガラス繊維にある「重い」といった欠点を解消することのできる、繊維及び繊維集合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ね、シルセスキオキサン骨格を含む特定の重合体を繊維及び繊維集合体へ加工することによって、ガラス繊維に代わって、耐薬品性、耐熱性及び柔軟性などの性能にいっそう優れ、フィルターなどの製品に有利に用いることができる繊維及び繊維集合体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
従って、本発明は、下記式(1−1)で表される化合物、下記式(2−2)で表される化合物及び下記式(3−2)で表される化合物を反応させることによって得られる、シルセスキオキサン骨格を含む重合体であって、反応に用いる、式(1−1)で表される化合物が有するアルケニルのモル数を(A)、式(3−2)で表される化合物が有するSi−Hのモル数を(C)とした場合、式(3−2)におけるmと前記(A)に対する(C)の割合が、(m+2)×(C)/(A)=1〜3となるように前記化合物を反応させることによって得られる重合体を用いて得られる繊維または繊維集合体である。
【化1】

式(1−1)において、それぞれのRは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキルまたはt−ブチルであり、それぞれのX11は独立して炭素数2〜8のアルケニルであり、それぞれのR1は独立して炭素数1〜4のアルキルまたはフェニルである。
【化2】

式(2−2)において、それぞれのRは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキルまたはt−ブチルであり、それぞれのR1は独立して炭素数1〜4のアルキルまたはフェニルである。
【化3】

式(3−2)において、それぞれのR1は独立して炭素数1〜4のアルキルまたはフェニルであり、R2はR1と同様に定義される基であり、mは0〜1000の整数である。
本明細書中において、繊維集合体とは、繊維から加工して得られる繊維集合体、例えば繊維束(トウ)、ウェブ、不織布、繊維塊、紡績糸などを包含する。また、本明細書中において、繊維には、エレクトロスピニング法によって得られるような不織布状の繊維も包含される。
【0008】
本発明の繊維及び繊維集合体の好ましい実施態様として、上記の式(1−1)及び式(2−2)における全てのRがフェニルである態様がある。別の実施態様として、上記の式(3−2)におけるmが0〜12の整数である態様がある。また、別の態様として、反応に用いる上記式(2−2)で表される化合物が有するSi−Hのモル数を(B)としたときに、(A)=(B)+(C)となるように、式(1−1)で表される化合物、式(2−2)で表される化合物及び式(3−2)で表される化合物を反応させることによって得られる重合体を用いる態様がある。さらなる実施態様として、前記(C)に対する(B)の比が、(B)/(C)=1〜9となるように反応させることによって得られる重合体を用いる態様がある。
【0009】
本発明の繊維または繊維集合体は、上述の重合体を用いて調製した重合体溶液を乾式または湿式紡糸に供し、その後、紡糸された繊維を加熱処理することを含む方法によって製造することができる。
従って本発明はまた、上述の重合体を乾式または湿式紡糸に供し、その後、紡糸して得られた繊維を加熱処理することを含む、繊維または繊維集合体の製造方法である。該重合体溶液には、架橋剤とヒドロシリル化触媒を添加してもよく、こうすることで、後の加熱処理によって、内部架橋による硬化を一層促進させることができる。
本発明の繊維または繊維集合体の製造方法の別の実施態様として、乾式または湿式紡糸において、複合ノズルを用い、芯側に上述の重合体を用い、鞘側に後で除去可能な重合体を用いて芯鞘構造とし、紡糸された複合繊維を加熱処理して芯側の重合体を内部硬化させた後に、鞘側の重合体を除去することを含む方法がある。この方法は、上述の架橋剤を要することなく実施することができる。この方法において、鞘側の重合体の具体例としてナイロンが挙げられる。
【0010】
本発明の繊維または繊維集合体の製造方法はまた、紡糸の際の重合体溶液の溶剤や湿式紡糸の際の凝固液を選択することによって、多孔質繊維、さらには多孔質繊維集合体を製造することができる。具体的には、乾式または湿式紡糸において重合体溶液の溶剤として、20℃における蒸気圧が2.5kPa以下で、かつ溶解パラメータが10.5√(cal/cm3)以上である溶剤を含有させて、多孔質繊維または多孔質繊維集合体を製造することができる。その例として、乾式または湿式紡糸の際の重合体溶液の溶剤が、ジメチルホルムアミド及び/またはピリジンを含有する実施態様がある。また、湿式紡糸の際の凝固浴がメタノール及び/またはエタノールを含有する実施態様がある。
多孔質繊維または多孔質繊維集合体の製造にあたって、紡糸の際の湿度条件(相対湿度)が多孔質の程度に影響することが知見された。より具体的には、紡糸雰囲気の相対湿度を20〜90%の範囲で変動させることによって、多孔質の程度を調節することができる。よって、本発明の多孔質繊維または多孔質繊維集合体の製造方法の実施態様として、紡糸時の相対湿度を20〜90%の範囲として、多孔質繊維または多孔質繊維集合体を製造することができる。
本発明の繊維又は繊維集合体の製造方法の別の実施態様として、上述の乾式または湿式紡糸をエレクトロスピニング法により行うことによって、超極細繊維を得ることができる。
従って、本発明の好ましい実施態様として、エレクトロスピニング法を採用して超極細繊維を得ることを含む、上記の繊維または繊維集合体の製造方法がある。
【0011】
上記のようにして紡糸して得られた繊維または不織布状で得られた繊維は、常法に従って種々の繊維集合体、例えば繊維束(トウ)、ウェブ、不織布、繊維塊,紡績糸などに加工することができる。
本発明の上記の方法によって製造された繊維または繊維集合体はまた、不活性ガス中、熱分析(TG−DTA)による質量減少開始温度以上で加熱処理することによって、不燃性繊維または不燃性繊維集合体とすることができる。
本発明の繊維または繊維集合体は、常法に従って種々の製品に加工することができ、例えば光ファイバーなどの光学用途の物品やフィルターなどに加工することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従って、シルセスキオキサン骨格を含む特定の重合体を用いて得られる繊維及び繊維集合体は、透明性に優れ、ガラス転移温度以上の温度での弾性率変化が少なく、自由に折り曲げることができ、かつ耐熱性、耐薬品性に優れている。よって、本発明による繊維及び繊維集合体は、無機ガラスを代替して、特殊耐熱性フィルター等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例8で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の側面を写した写真である。
【図2】実施例8で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の断面を写した写真である。
【図3】実施例10で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の側面を写した写真である。
【図4】実施例10で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の断面を写した写真である。
【図5】実施例1で得られた不織布の熱分析(TG−DTA)の結果を表すグラフである。
【図6】実施例11において、熱処理後の不織布の熱分析(TG−DTA)の結果を表すグラフである。
【図7】実施例12で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の側面を写した写真である。
【図8】実施例13で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の側面を写した写真である。
【図9】実施例14で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の側面を写した写真である。
【図10】実施例15で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の側面を写した写真である。
【図11】実施例15で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の断面を写した写真である。
【図12】実施例16で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の側面を写した写真である。
【図13】実施例16で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の断面を写した写真である。
【図14】実施例17で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の側面を写した写真である。
【図15】実施例17で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の断面を写した写真である。
【図16】実施例18で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の側面を写した写真である。
【図17】実施例18で得られた不織布の電子顕微鏡写真であって、繊維の断面を写した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明で用いるシルセスキオキサン骨格を含む特定の重合体(以下、単にシルセスキオキサン重合体ともいう。)について説明する。
以下の説明においては、式(1−1)で示される化合物を単に化合物(1−1)と表記することがある。式(2−2)で示される化合物を単に化合物(2−2)と表記することがある。他の式で示される化合物についても、同様の方法で簡略化して表記することがある。なお、化合物を示す式において同じ記号で表される基が複数あるときは、定義された基から選ばれる限り、それらは同じ基であってもよいし、異なる基であってもよい。例えば、式(1−1)において、Rは、独立して、フェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキル、t−ブチルから選ばれる基であり、同一の基でも異なる基でもよい。その他の式においても同様である。
【0015】
本発明で用いるシルセスキオキサン重合体は、式(1−1)で表されるアルケニル含有化合物と、式(2−2)で表されるSi−H含有化合物及び式(3−2)で表されるSi−H含有化合物を反応させることによって得られる。
【化4】

式(1−1)において、それぞれのRは、独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキルまたはt−ブチルである。それぞれのR1は、独立して炭素数1〜4のアルキルまたはフェニルである。それぞれのX11は独立して炭素数2〜8のアルケニルである。炭素数2〜8のアルケニルとして好ましくは、ビニル、アリル、4−ビニルフェニルが挙げられる。
式(1−1)で示される化合物は、例えば国際公開第2003/024870号パンフレットに記載されている方法を参照することにより製造することができる。
【0016】
【化5】

式(2−2)において、それぞれのRは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキルまたはt−ブチルであり、それぞれのR1は独立して炭素数1〜4のアルキルまたはフェニルである。
化合物(2−2)は、例えば国際公開第2004/024741号パンフレットに記載されている方法を参照することにより、製造することができる。
【0017】
【化6】

式(3−2)において、それぞれのR1は独立して炭素数1〜4のアルキルまたはフェニルであり、R2はR1と同様に定義される基であり、mは0〜1000の整数であり、0〜12の整数であることが好ましい。
化合物(3−2)は、市販されている化合物を入手することができ、市販されていない化合物でも、例えば特開2003−252995号公報に記載されている方法を参照することにより製造することができる。
【0018】
化合物(1−1)、化合物(2−2)及び化合物(3−2)を反応させる割合は、反応に用いる、化合物(1−1)が有するアルケニルのモル数を(A)、化合物(3−2)が有するSi−Hのモル数を(C)とした場合に、式(3−2)におけるmと前記(A)に対する(C)の割合が、(m+2)×(C)/(A)=1〜3となるようにする。より好ましくは、この値が1〜2となるようにする。
このような範囲で反応させて得られる重合体を用いることにより、耐熱性や柔軟性に優れた繊維および繊維集合体を得ることができる。
【0019】
また、反応に用いる化合物(2−2)が有するSi−Hのモル数を(B)としたときに、(B)と(C)の比率は(B)/(C)=1〜9であることが好ましい。すなわち、(m+2)×(C)/(A)=1〜3、かつ、(B)/(C)=1〜9という範囲で反応させることにより、耐熱性や柔軟性により優れた繊維および繊維集合体を得ることができる。
【0020】
さらに、(A):(B)+(C)=1:1となるよう反応させることが反応効率の面から特に好ましい。
なお、(A)は反応に用いる化合物(1−1)のモル数×2、(B)は反応に用いる化合物(2−2)のモル数×4、(C)は反応に用いる化合物(3−2)のモル数×2として計算することができる。
【0021】
本発明で用いるシルセスキオキサン重合体は、上記アルケニル含有化合物とSi−H含有化合物とのヒドロシリル化反応で合成することができ、適当な有機溶剤中、白金族金属を含有するヒドロシリル化触媒の存在下で反応を行うことが好ましい。
ヒドロシリル化反応に用いる有機溶剤は、反応の進行を阻害しないものであれば特に制限されない。好ましい溶剤は、ヘキサンやヘプタンなどの炭化水素系溶剤、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソールなどの芳香族炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(以下、THF)、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールエステル系溶剤などである。これらの溶剤は単独で使用しても、その複数を組み合わせて使用してもよい。これらの溶剤の中でも、芳香族炭化水素系溶剤、その中でもトルエンが最も好ましい。
溶剤に対する本発明の化合物の好ましい割合は、溶剤の質量に基づいて0.05〜80質量%である。より好ましい割合は20〜50質量%である。
【0022】
ヒドロシリル化反応は室温で実施してもよい。重合を促進させるために加熱してもよい。重合による発熱または好ましくない副反応等を制御するために冷却してもよい。
ヒドロシリル化反応は、ヒドロシリル化触媒を用いることで反応をより容易に進行させることができる。好ましいヒドロシリル化触媒の例は、カルステッド(Karstedt)触媒、スパイヤー(Spier)触媒などであり、これらは一般的によく知られた触媒である。これらのヒドロシリル化触媒は、活性が高いので少量添加すれば十分反応を進めることができる。そのため使用量は、触媒に含まれる白金族金属がSi-Hに対する割合で10-9〜1モル%である。好ましい添加割合は10-7〜10-3モル%である。
【0023】
このようにして得られる重合体の重量平均分子量は3000〜400万が好適である。この範囲であると、溶剤に良好に溶解し、また、ゲル化が生じにくい。より好ましくは重量平均分子量3000〜200万であり、最も好ましくは重量平均分子量1万〜100万である。
【0024】
次に本発明の繊維及び繊維集合体について説明する。
繊維形状のものが乾式紡糸または湿式紡糸により得られる。まず上述した重合体を適当な溶剤に溶解して重合体溶液を調製する。この重合体溶液(紡糸用溶液)を乾式紡糸または湿式紡糸により繊維形状とし、更に加熱処理により内部架橋を促進させることにより、目的とする繊維、及び更には繊維集合体を得ることができる。
【0025】
[乾式紡糸及び湿式紡糸]
重合体溶液の調製に使用される溶剤としては、重合体を溶解可能であればよく、特に制限はない。好ましい溶剤は、ヘキサンやヘプタンなどの炭化水素系溶剤、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソールなどの芳香族炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(以下、THF)、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールエステル系溶剤、ジメチルホルムアミド(以下,DMF)、ピリジンなどの含窒素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤などである。特に好ましくは、トルエン、メシチレン、アニソール、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸2−(2−エトキシエトキシ)エチルである。これらの溶剤は、単独で用いても複数混合して使用してもよい。
重合体溶液における該シルセスキオキサン重合体の濃度は、特に限定されないが1〜95質量%が一般的で、好ましくは、20〜80質量%の範囲である。
本発明で採用する乾式紡糸または湿式紡糸の操作手順、条件、湿式紡糸における凝固液などは、常法に従って適宜選択することができる。
【0026】
[加熱による内部架橋]
本発明で使用するシルセスキオキサン重合体は、紡糸後、そのままでも繊維として使用可能であるが、耐熱性、耐薬品性を更に向上させるため、加熱処理をして内部架橋による硬化を促進させる。紡糸して、繊維形状になった後、加熱処理することによって、該重合体に残っている反応部位が反応し、硬化が促進することになる。
好ましい実施態様として、紡糸に供する重合体溶液に、架橋剤及びヒドロシリル化触媒を添加しておくことで、紡糸後の加熱処理によって、内部架橋による硬化を一層促進させることができる。架橋剤とヒドロシリル化触媒を紡糸液に添加すると、添加しない場合に比べ、より低い温度で、より短い時間で硬化を促進できる。
該架橋剤はヒドロシリル化反応をするものであれば、基本的に種類は問わないが、耐熱性、耐薬品性向上のためには、これもシルセスキオキサン骨格を持つものが好ましい。架橋剤の具体例として、下記式(4−1)または(4−2)で示される化合物が挙げられる。これらの化合物は1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
【化7】



式(4−1)及び(4−2)において、それぞれのRは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキルまたはt−ブチルであり、それぞれのX41は独立して炭素数2〜8のアルケニルまたは水素であり、それぞれのR1は独立して炭素数1〜4のアルキルまたはフェニルであるものが好ましい。また、全てのRがフェニルであるもの、また、全てのX41が炭素数2〜8のアルケニルであるものが好ましい。更に好ましくは全てのR1がメチル、全てのRがフェニル、全てのX41が炭素数2のビニルの化合物と、全てのR1がメチル、全てのRがフェニル、全てのX41が水素の化合物との組合せ、または単独使用が好ましい。
化合物(4−1)は、例えば特開2008−150478号公報に記載されている方法を参照することにより製造することができる。化合物(4−2)は、例えば国際公開第2004/024741号パンフレットに記載されている方法を参照することにより、製造することができる。
架橋剤の添加量は、重合体溶液の全質量に基づいて0.1〜10質量%が適当であり、好ましくは0.5〜5質量%、更に好ましくは0.5〜2質量%である。架橋剤の添加量が0.1質量%以上であれば十分な添加効果を得ることができ、10質量%以下であれば架橋剤は十分消費され余剰となることはない。
【0028】
重合体溶液へ含めるヒドロシリル化触媒として、本発明で使用するシルセスキオキサン重合体の製造に関して上記に説明した、ヒドロシリル化触媒を用いることができる。その添加量は、触媒に含まれる白金族金属が重合体溶液中に存在するSi-Hに対する割合で10-9〜50モル%であることが適当であり、好ましくは10-5〜10モル%である。
【0029】
加熱処理として、その方法は特に限定されないが、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法やホットプレート上で加熱処理する方法などが一般に知られている。いずれの方法も本発明において同様に適用可能である。処理温度は、40℃〜400℃で行なうことができる。処理温度は、硬化に要する時間が適当であり且つ架橋反応が十分に進行して強い材料となり、一方本発明で使用するシルセスキオキサン重合体が分解するのを防ぐ観点から、好ましくは100℃〜300℃、より好ましくは150℃〜250℃である。
加熱処理時間は、温度にもよるが、30分〜24時間が一般的であり、好ましくは1時間〜8時間である。
【0030】
[紡糸に関する実施態様]
紡糸に際し、単一ノズルを用いることができる。
紡糸について、別の実施態様として、紡糸の際に複合ノズルを用いて、芯側に上記のシルセスキオキサン重合体を用い、鞘側に後で除去可能な重合体を用いて芯鞘構造とし、複合繊維を紡糸し、その後、加熱処理をして芯側の重合体を内部硬化させた後に、鞘側の重合体を除去することにより、目的とする繊維および繊維集合体を得ることができる。この方法は、本発明で使用するシルセスキオキサン重合体(熱硬化性重合体)の分子量が低く、加熱処理前に繊維形状を十分に保てない場合に、特に有効な方法である。この方法ではまた、シルセスキオキサン重合体を含む紡糸液に上記の架橋剤やヒドロシリル化触媒を特に要しない。
この実施態様で、鞘側に用いる重合体の例として、ナイロン、ポリスチレン,ポリビニルアルコールなどがあり、ナイロンを用いるのが特に好ましい。鞘側に用いた重合体を除去するなどの手法は、溶剤により除去する方法やアルカリ分解により除去する方法など、常法に従って行うことができる。
【0031】
紡糸について、また別の実施態様として、特に細い繊維を所望する場合に、多成分による複合紡糸法を用いることができる。その一例として海島構造型繊維を紡糸することが挙げられる。具体的には、分割ノズルを用いて海側に後で除去可能な重合体を用い、島側に本発明で使用するシルセスキオキサン重合体を用いた海島構造の繊維を作り、該複合繊維を加熱処理して、島成分である該シルセスキオキサン重合体を加熱硬化させた後、海側の重合体を除去することにより細い繊維が得られる。海側に用いる重合体の例として、ナイロン、ポリスチレン,ポリビニルアルコールなどがあり、ナイロンを用いるのが特に好ましい。このような極細繊維を調製する手法は、海側の重合体を溶剤により除去する方法やアルカリ分解により除去する方法など、常法から適宜選択することができる。
この実施態様において、シルセスキオキサン重合体を含む紡糸溶溶液に上記の架橋剤やヒドロシリル化触媒を添加してもよい。
【0032】
[エレクトロスピニング法]
超極細繊維を得ようとするときの実施態様として、乾式または湿式紡糸をエレクトロスピニングによる方法を採用して実施することが好ましい。
エレクトロスピニング法によって、本発明で使用するシルセスキオキサン重合体を含む溶液に、高電圧を印加してコレクター板上にスプレーして超極細繊維を形成させることができる。このような超極細繊維は不織布状で得られる。
得られる超極細繊維の繊維径は印加電圧、溶液濃度、スプレーの飛散距離などに依存し、これらの条件を調整することで任意の繊維径とすることができる。一般に,エレクトロスピニングによる繊維の微細化は,ノズル先端に押し出されたポリマー溶液の液滴表面の電荷の反発力が表面張力を超えた時に起きるため,表面張力が低いと微細化し易い。ポリマー溶液の表面張力を調整する目的で、界面活性剤や塩を紡糸用溶液に添加しておくことができる。そのような界面活性剤の例としてドデシルスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム,塩化ナトリウム,塩化カリウムなどが挙げられ、紡糸用溶液の全質量に対して0.01〜20質量%の範囲で用いられる。
電解紡糸条件としては、溶液濃度は1〜65質量%、電圧は2.0〜70kV、紡糸距離は5.0〜50cm、単位距離あたりの電圧に換算すると、0.5〜7.0kv/cmであるのが好ましい。
このようにエレクトロスピニング法で得られた超極細繊維を、上記のように加熱処理に供する。
【0033】
また、紡糸の際の重合体溶液の溶剤や湿式紡糸の際の凝固液を選択することによって、多孔質繊維、さらには多孔質繊維集合体を製造することができる。重合体溶液の溶剤として、20℃における蒸気圧が2.5kPa以下で、かつ溶解パラメータ(Solubility Parameter、δ、SP値)が10.5√(cal/cm3)以上である溶剤を選ぶと、多孔質繊維、さらには多孔質繊維集合体が製造できることがわかった。溶剤の溶解パラメータは、Wiley & Sons, Inc.社刊「POLYMER HANDBOOK Third Edition」(ISBN 0-471-81244-7)等、公知の文献により知られている。SI単位への換算は√(cal/cm3)=2.046×√(MPa)である。したがって、10.5√(cal/cm3)=21.5√(MPa)と換算できる(有効数字3桁)。
多孔質繊維を製造する例として、乾式または湿式紡糸の際の重合体溶液における溶剤に、ジメチルホルムアミド(DMF)及びピリジンから選ばれる少なくとも1種を含め、さらに湿式紡糸であれば、その凝固液をメタノール及びエタノールから選ばれる少なくとも1種とすることが挙げられる。
【0034】
本発明によって多孔質繊維、さらには多孔質繊維集合体を製造する場合、紡糸の際の湿度条件(相対湿度)が多孔質の程度に影響することがわかった。紡糸雰囲気の相対湿度が少なくとも20%程度であると、得られる繊維は多孔質のものとなり、湿度をさらに上げるとより多孔質になる。したがって、紡糸時の湿度条件を適宜選択することにより、多孔質の程度を調節することができ、所望の多孔質繊維、さらには多孔質繊維集合体を得ることができる。多孔質の繊維を得るための紡糸時の好ましい相対湿度は20〜90%の範囲である。その範囲内で多孔質の状態を変化させることができる。
紡糸雰囲気の相対湿度の調整は、スピニング装置内に乾燥シリカゲルを置く、水を霧状に噴霧する、または水を置くといった手段によって、行うことができる。紡糸雰囲気の相対湿度の測定は、市販のデジタル温湿度計によって実施でき、相対湿度を確認することができる。
多孔質繊維のできるメカニズムは、溶媒の蒸発速度と溶媒に含まれる水分の影響が大と思われる。ある程度水分を含んだ溶媒が、繊維表面から蒸発する過程で、蒸気圧の低いものほど、表面に張り付く微細な水滴が残り、この痕跡が残りやすくなるものと思われる。蒸気圧の高いものは、繊維の形成が早く、水滴の痕跡が残りにくくなるものと思われる。溶解パラメータ(SP値)の大きいものは、水分を含みやすく、痕跡の数が多くなるものと考えている。このように、紡糸雰囲気の相対湿度や重合体溶液の溶媒の溶解パラメータを調節することで、多孔の度合いを制御することができる。
【0035】
上記のようにして得られた繊維は、常法に従って種々の繊維集合体、例えば繊維束(トウ)、ウェブ、不織布、繊維塊、紡績糸などに加工することができる。
例えば、上記のようにして得られた繊維を、カード法、抄紙法、エアレイド法などによって、ウェブとすることができる。また、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、水流交絡法などによって不織布とすることができる。
【0036】
[不燃性繊維及び不燃性繊維集合体]
本発明で使用するシルセスキオキサン重合体を上記のように、繊維形状とし、加熱処理によって内部架橋させる工程を含む方法で得られた繊維または繊維集合体を、更に不活性ガス中で、熱分析(TG−DTA)による質量減少開始温度以上で加熱処理することにより、不燃性繊維または不燃性繊維集合体に変化させることができる。好ましい温度は質量減少開始温度〜+50℃の範囲であり、特に質量減少開始温度が好ましく、処理時間は1時間〜8時間である。使用する不活性ガスの具体例として、窒素、炭酸ガス及びアルゴンなどが挙げられる。
【0037】
本発明で使用するシルセスキオキサン重合体から得られる繊維及び繊維集合体は、透明性、耐熱性、耐薬品性及び柔軟性に優れ、且つ軽量であるという特長を有しており、例えば、光ファイバーなどの光学用途やフィルター等に適用可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例における重量平均分子量のデータは、ポリスチレンを標準物質としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)によって求めたものである。GPCの測定条件は、次の通りである。
装置:日本分光株式会社製 JASCO GULLIVER 1500
検出器:インテリジェント示差屈折率計 RI-1530
溶剤:テトラヒドロフラン
流速:1.0ml/min
カラム温度:40℃
使用カラム:昭和電工株式会社製(Shodex KF-G(ガードカラム)、Shodex KF-804L×2本)
上記カラムを直列に繋いで使用
較正曲線用標準資料:Polymer laboratories社製 Polymer Standards(PL), Polystyrene
【0039】
[合成例1]<化合物(1−0−1)の合成>
環流冷却器、温度計、及び滴下漏斗を取り付けた反応容器に、フェニルトリメトキシシラン(6.54kg)、水酸化ナトリウム(0.88kg)、水(0.66kg)、及び2−プロピルアルコール(26.3リットル)を仕込んだ。窒素気流下、撹拌しながら加熱を開始した。還流開始から6時間撹拌を継続したのち室温で1晩静置した。そして反応混合物を濾過器ヘ移し窒素ガスで加圧して濾過した。得られた固体を2−プロピルアルコールで1回洗浄、濾過したのち80℃で減圧乾燥を行うことにより、無色固体(3.3kg)を得た。これを化合物(1−0−1)とする。
【化8】

【0040】
[合成例2]<化合物(1−0−2)の合成>
環流冷却器、温度計、及び滴下漏斗を取り付けた反応容器に、シクロペンチルメチルエーテル(2005g)、2−プロパノール(243g)、イオン交換水(1400g)、塩酸(461g)を仕込み、窒素雰囲気下、室温で攪拌した。続いて滴下ロートに、合成例1で得られた化合物(1−0−1)を(800g)、シクロペンチルメチルエーテル(2003g)を仕込み、スラリー状にして30分かけて反応器に滴下し、滴下終了後30分攪拌を継続した。反応後攪拌を停止し、静置して有機層と水層に分けた。得られた有機層は水洗により中性とした後、メンブレンフィルタにてゴミを取り除き、ロータリーエバポレーターを用いて60℃で減圧濃縮して、678gの無色固体を得た。この無色固体を酢酸メチル(980g)で洗浄し、減圧乾燥して無色粉末状固体496gを得た。これを化合物(1−0−2)とする。
【化9】

【0041】
[合成例3]<化合物(1−1−1)の合成>
環流冷却器、温度計、及び滴下漏斗を取り付けた反応容器に、合成例2で得られた化合物(1−0−2)(32.3g)、テトラヒドロフラン(342g)、メチルビニルジクロロシラン(12.5g)を仕込み、窒素気流下、反応混合物の温度が40〜50℃になるように攪拌した。そしてトリエチルアミン(12.3g)を滴下したのち、3時間撹拌を継続した。その後、反応混合物の温度を10℃まで冷却したのち、イオン交換水(220g)とトルエン(43g)を加えて15分間撹拌した。分液ロートに移しいれ、水洗して中性とした。ロータリーエバポレーターを用いて50℃で減圧濃縮を行い、得られた残渣をテトラヒドロフラン(40g)に再溶解させ、メタノール(247g)を加えて固体を析出させた後、60分攪拌した。析出した固体を濾過・減圧乾燥して31.6gの無色固体を得た。得られた無色固体は下記の分析結果から化合物(1−1−1)の構造を有すると判断される。1H−NMR(溶剤:CDCl3):δ(ppm);0.37(s,6H)、5.90−6.20(m,6H)、7.13−7.60(m,40H).29Si−NMR(溶剤:CDCl3):δ(ppm);−31.35(s,2Si)、−78.24(s,4Si)、−79.41(s,4Si).
【0042】
【化10】

【0043】
[合成例4]<化合物(2−2−1)の合成>
滴下漏斗、温度計、及び還流冷却器を取り付けた反応器に、合成例2で得られた化合物(1−0−2)(7160g)、トルエン(72.6kg)、ジメチルクロロシラン(2850g)を仕込み、乾燥窒素にてシールした。次いでトリエチルアミン(3230g)を滴下漏斗から約20分間で滴下した。このとき、溶液温度が35℃〜40℃になるよう滴下速度を調節した。滴下終了後、1時間攪拌を継続し、反応を完結させた。反応終了後、イオン交換水(16.7kg)を投入して過剰量のジメチルクロロシランを加水分解し、有機層と水層に分けた。有機層を水洗により中性とした後、ロータリーエバポレーターを用いて85℃で減圧濃縮を行い、得られた残渣をメタノール(19.95kg)で洗浄し、8587.6gの無色固体を得た。この無色固体を酢酸メチル(9.31kg)で洗浄し、減圧乾燥して無色粉末状固体7339gを得た。得られた無色固体は下記の分析結果から化合物(2−2−1)の構造を有すると判断される。1H−NMR(溶剤:CDCl3):δ(ppm);0.16(d,24H)、4.84−4.89(m,4H)、7.05−7.50(m,40H).29Si−NMR(溶剤:CDCl3):δ(ppm);3.85(s,4Si)、−71.90(s,4Si)、−75.05(s,4Si).
【0044】
【化11】

【0045】
[合成例5]<化合物(4−1−1)の合成>
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えた反応容器に合成例2で製造した化合物(1−0−2)(66g)、酢酸エチル(600ml)、テトラヒドロフラン(20ml)を仕込み、窒素気流下40℃に加熱攪拌した。温度が40℃に達したところでテトラクロロシラン(22.1g)を、反応液温度が45℃を超えないように滴下した。滴下終了後3時間反応を継続させた後、室温まで冷却した。蒸留水にて中和水洗した後、エバポレータで溶剤を除去し、粗生成物75gを得た。得られた粗生成物を酢酸メチル(150ml)で再結晶処理を行い、化合物(4−1−1)59gを得た。
【0046】
【化12】

【0047】
[合成例6]<化合物(4−1−2)の合成>
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えた反応容器にトルエン(300ml)、ジメチルクロロシラン(18.6g)、トリエチルアミン(19.9g)を仕込み、窒素気流下10℃に冷却した。続いて、酢酸エチル(150ml)に、合成例5で製造した化合物(4−1−1)(38.5g)を溶解させて滴下ロートに仕込み、反応器内の温度が10℃を超えないよう反応器に滴下した。滴下終了後室温で3時間熟成を行った。反応後、中和水洗してエバポレータで溶剤を除去した後、粗生成物をメタノール(150ml)で洗浄し、濾過により固形分を濾別して化合物(4−1−2)35gを得た。
【0048】
【化13】

【0049】
[合成例7]<化合物(4−1−3)の合成>
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えた反応容器にトルエン(300ml)、ジメチルビニルクロロシラン(18.3g)、トリエチルアミン(15.3g)を仕込み、窒素気流下10℃に冷却した。続いて、酢酸エチル(150ml)に、合成例5で製造した化合物(4−1−1)(30g)を溶解させて滴下ロートに仕込み、反応器内の温度が10℃を超えないよう反応器に滴下した。滴下終了後室温で4時間熟成を行った。反応後、中和水洗してエバポレータで溶剤を除去した後、粗生成物をメタノール(150ml)で洗浄し、濾過により固形分を濾別して化合物(4−1−3)33gを得た。
【0050】
【化14】

【0051】
[ポリマー合成例1]<PSQ5033の製造>
温度計、還流冷却器、撹拌機を備えた反応容器に合成例3で製造した化合物(1−1−1)(157.3g)、合成例4で製造した化合物(2−2−1)(63.7g)、FM−1105(式(3−2−1):チッソ株式会社製、両末端Si−Hシリコーン、分子量約600)(19.0g)、トルエン(960g)を仕込み、窒素気流下100℃で加熱攪拌した。反応混合物が100℃に達してから、カルステッド触媒(8.5μl)を添加したのち、15.5時間攪拌した。そして氷浴で反応混合物を10℃以下まで冷却したのち、減圧濃縮することによって無色固体を得た。そして得られた無色固体を60℃で減圧乾燥を3時間行い、無色固体(233.7g)を得た。これをPSQ5033とする。このようにして得られた固体の分子量は、重量平均分子量(Mw):168,500であった。
なお、この重合体のmは5であり、(A)は0.261、(B)は0.196、(C)は0.065であることから、(m+2)×(C)/(A)=1.750であった。
また、(B)/(C)=3であった。
【0052】
【化15】

【0053】
[ポリマー合成例2]<PSQ5020の製造>
温度計、還流冷却器、撹拌機を備えた反応容器に合成例3で製造した化合物(1−1−1)(25.6g)、合成例4で製造した化合物(2−2−1)(12.4g)、FM−1111(式(3−2−2):チッソ株式会社製、両末端Si−Hシリコーン、分子量約1000)(2.0g)、及びトルエン(160g)を仕込み、窒素気流下100℃で加熱攪拌した。反応混合物が100℃に達してから、カルステッド触媒(1.4μl)を添加したのち、9時間攪拌した。そして氷浴で反応混合物を10℃以下まで冷却したのち、減圧濃縮することによって無色固体を得た。そして得られた無色固体を50℃で減圧乾燥を3時間行い、無色固体(26.0g)を得た。これをPSQ5020とする。このようにして得られた固体の分子量は、重量平均分子量(Mw):418,000であった。
なお、この重合体のmは12であり、(A)は0.042、(B)は0.038、(C)は0.004であることから、(m+2)×(C)/(A)=1.400であった。
また、(B)/(C)=9であった。
【0054】
【化16】

【0055】
[ポリマー合成例3]<PSQ5034の製造>
温度計、還流冷却器、撹拌機を備えた反応容器に合成例3で製造した化合物(1−1−1)(27.9g)、合成例4で製造した化合物(2−2−1)(11.3g)、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(式(3−2−3))(0.8g)、及びトルエン(160g)を仕込み、窒素気流下100℃で加熱攪拌した。反応混合物が100℃に達してから、カルステッド触媒(1.5μl)を添加したのち、7.5時間攪拌した。そして氷浴で反応混合物を10℃以下まで冷却したのち、減圧濃縮することによって無色固体を得た。そして得られた無色固体を50℃で減圧乾燥を3時間行い、無色固体(38.1g)を得た。これをPSQ5034とする。このようにして得られた固体の分子量は、重量平均分子量(Mw):378,000であった。
なお、この重合体のmは0であり、(A)は0.046、(B)は0.035、(C)は0.012であることから、(m+2)×(C)/(A)=0.500であった。
また、(B)/(C)=3であった。
【化17】

【0056】
[ポリマー合成例4]<PSQ5031の製造>
温度計、還流冷却器、撹拌機を備えた反応容器に合成例3で製造した化合物(1−1−1)(25.0g)、合成例4で製造した化合物(2−2−1)(10.1g)、FM−1105(式(3−2−1))(4.9g)、及びトルエン(160g)を仕込み、窒素気流下100℃で加熱攪拌した。反応混合物が100℃に達してから、カルステッド触媒(1.3μl)を添加したのち、5時間攪拌した。そして氷浴で反応混合物を10℃以下まで冷却したのち、減圧濃縮することによって無色固体を得た。そして得られた無色固体を50℃で減圧乾燥を3時間行い、無色固体(37.9g)を得た。これをPSQ5031とする。このようにして得られた固体の分子量は、重量平均分子量(Mw):416,000であった。
なお、この重合体のmは5であり、(A)は0.041、(B)は0.031、(C)は0.010であることから、(m+2)×(C)/(A)=3.500であった。
また、(B)/(C)=3であった。
【0057】
紡糸に用いた重合体溶液の溶剤、及び凝固浴の溶剤についての、20℃での蒸気圧と溶解パラメータ(δ値)を以下に示す(Wiley & Sons, Inc.社刊「POLYMER HANDBOOK Third Edition」(ISBN 0-471-81244-7)記載の値)。
蒸気圧(20℃)/ kPa δ値/ √(cal/cm3) δ値/ √(MPa)
アセトン 24.7 9.9 20.3
トルエン 2.9 8.9 18.2
DMF 0.36 10.6 21.7
ピリジン 2.0 10.7 21.9
メタノール 13.0 14.5 29.7
エタノール 5.9 12.7 26.0
【0058】
[実施例1]<シルセスキオキサン繊維(PSQ5033)の作製>
アセトン/トルエン混合溶媒(35/65質量比)を用いて、ポリマー合成例1で得られたPSQ5033を溶解し、及びPSQ5033:100質量部に対して合成例7で得られた化合物(4−1−3)を1質量部、カルステッド触媒を0.25質量部溶解し、紡糸用溶液においてPSQ5033が60質量%となるように紡糸用溶液を調製した。この溶液を用いてエレクトロスピニング法にて紡糸を行なった。装置は、NANON((株)メック製)を用い、ノズル径200μm、紡糸距離15cm、溶液送り速度1.2ml/hr、印加電圧15kv、ノズル振り巾20mm、及びノズル水平移動速度10mm/secの条件で行なった。次に、得られた不織布状膜を、100℃で1時間保持し、内部架橋を促進させた。最終的に得られた不織布状膜の繊維径を測定すると、7.91±1.32μmであった。また、繊維同士の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
【0059】
次にこの不織布の一部を取り、耐熱試験を行なった。不織布を250℃で2時間保持した後、質量変化と繊維の融着を観察したが、変化は認められなかった。熱分析(TG−DTA)による質量減少開始温度は、350℃であった。
【0060】
次にこの不織布の一部を取り、耐溶剤試験を行なった。不織布をトルエンに浸漬し、60℃で8時間保持した後、重量変化と繊維径の変化を測定したところ、変化は認められなかった。次に不織布の別の部分をとり、キシレン還流温度(138-140℃)にて8時間浸漬し、同様に重量変化と繊維径の変化を測定したところ,変化は認められなかった。
【0061】
[実施例2]
実施例1のカルステッド触媒量をPSQ5033:100質量部に対して0.5質量部用いた以外は、実施例1と同様に紡糸、熱処理による内部架橋を行ない、繊維径6.88±1.56μmの不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。また、実施例1と同様に耐熱試験と耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。
【0062】
[実施例3]<シルセスキオキサン繊維(PSQ5020)の作製>
PSQ5033に変えて、ポリマー合成例2で得られたPSQ5020を用いた以外は、実施例1と同様に紡糸、熱処理による内部架橋を行ない、繊維径5.48±0.36μmの不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
これの一部を取り、実施例1と同様に耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。
【0063】
[実施例4]<複合繊維からのシルセスキオキサン繊維(PSQ5033)の作製>
アセトン/トルエン混合溶媒(35/65質量比)を用いて、ポリマー合成例1で得られたPSQ5033が60質量%となるように溶解し、芯材用溶液を調製した。また、ナイロン6,6をヘキサフルオロイソプロパノール(以下HFIPと呼ぶ)に溶解し、40質量%の鞘材溶液を調製した。この2種類の溶液で、芯鞘複合ノズルを用いて、実施例1の条件でエレクトロスピニングを行い、鞘がナイロン、芯がPSQ5033の複合繊維不織布を得た。次にこの不織布を100℃1時間、150℃1時間、200℃2時間熱処理を行い、PSQ5033に残っている反応部位で内部架橋させた。その後、室温まで戻した後、HFIPに24時間浸漬し、鞘側のナイロンを溶解させ、PSQ5033だけで構成された不織布を得た。繊維径は0.96±0.23μmであった。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。
【0064】
[実施例5]<多孔質シルセスキオキサン繊維(PSQ5033)の作製>
溶媒をアセトン/DMF(35/65質量比)に、溶液送り速度を1.8ml/hr、印加電圧を20.5kvに変更した以外は実施例1と同様に紡糸、熱処理を行ない、繊維径3.92±0.36μmの不織布を得た。観察したところ、表面と内部に多孔質構造をもった繊維となっていた。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。
【0065】
[実施例6]
溶媒をアセトン/ピリジン(35/65質量比)に変更した以外は、実施例5と同様に、紡糸、熱処理を行ない、繊維径5.13±1.00μmの多孔質繊維の不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。
【0066】
[実施例7]
紡糸用溶液にドデシルスルホン酸ナトリウム(SDS)を0.1質量%添加した以外は、実施例5と同様に紡糸、熱処理を行ない、繊維径1.14±0.14μmの多孔質繊維の不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。
【0067】
[実施例8]
溶媒をDMF/ピリジン(80/20質量比)に、溶液送り速度を1.9ml/hr、印加電圧を21.0kvに変更した以外は、実施例5と同様に、紡糸、熱処理を行ない、繊維径4.82±0.96μmの多孔質繊維の不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。
実施例8で得られた不織布の電子顕微鏡写真を図1及び図2として添付する。図1は繊維の側面を写した写真である。一方図2は、繊維の断面を写した写真である。
【0068】
[実施例9]
溶媒をDMFに変更し、PSQ5033の濃度を48質量%にした以外は、実施例7と同様に、紡糸、熱処理を行ない、繊維径0.80±0.11μmの多孔質繊維の不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。
【0069】
[実施例10]
溶媒をDMF/メタノール(80/20質量比)に変更し、実施例8と同様の条件で、メタノール中で湿式紡糸を行なった。その後、100℃で1時間熱処理を行ない、繊維径3.90±0.35μmの多孔質繊維の不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。
実施例10で得られた不織布の電子顕微鏡写真を図3及び図4として添付する。図3は繊維の側面を写した写真である。図4は繊維の断面を写した写真である。
【0070】
[実施例11]<不燃性シルセスキオキサン繊維(PSQ5033)の作製>
実施例1で最終的に得られた不織布の1部を取り、窒素雰囲気下、350℃で8時間、熱処理を行なった。顕微鏡観察では、繊維形状に変化は見られなかった。また、指に巻きつけても形状は崩れなかった。この高温処理した不織布に、ライターの炎で火を着けようとしても、着火しなかった。
実施例11において、熱処理前の不織布、すなわち実施例1で最終的に得られた不織布の熱分析(TG−DTA)の結果を表すグラフを図5に示す。また、熱処理後の不織布の熱分析(TG−DTA)の結果を表すグラフを図6に示す。これらの結果の比較から、前者で観察された質量減少開始温度350℃が、後者では明らかに消失していることがわかる。
上記実施例1〜11の条件及び結果を表1〜2に示す。
【0071】
[比較例1]
実施例1においてPSQ5033を、ポリマー合成例3で得られたPSQ5034に変更した以外は、実施例1と同様に紡糸、内部架橋を行い、繊維径6.95±0.57μmの不織布を得た。このものは繊維が硬く、指に巻きつけようとすると、折れてしまった。
【0072】
[比較例2]
実施例1においてPSQ5033を、ポリマー合成例4で得られたPSQ5031に変更した以外は、実施例1と同様に紡糸を行い、繊維径5.96±0.73μmの不織布を得た。このものを内部架橋させるべく100℃で1時間処理すると、繊維が融解して繊維形状を保たなくなり、多孔質のフィルムとなった。
【0073】
[比較例3]
実施例4においてPSQ5033をポリマー合成例3で得られたPSQ5034に変更した以外は、実施例4と同様に芯鞘構造の複合繊維の紡糸、内部架橋、鞘材のナイロン除去を行い、繊維径0.89±0.18μmの不織布を得た。このものは繊維が硬く、指に巻きつけようとすると、折れてしまった。
【0074】
[比較例4]
比較例2で用いた、架橋剤、触媒入りのPSQ5031の原料溶液を芯材溶液とした以外は、比較例3と同様に芯鞘構造の複合繊維の紡糸、内部架橋、鞘材のナイロン除去を行い、繊維径0.91±0.16μmの不織布を得た。
このものを耐熱試験(250℃2時間熱処理)すると、一部繊維同士の融着がおこった。
【0075】
[比較例5]
実施例11において、窒素雰囲気下、350℃で8時間、熱処理を行なうところを250℃で8時間に条件を変更した。顕微鏡観察では、繊維形状に変化は見られなかった。また、指に巻きつけても形状は崩れなかった。この高温処理した不織布に、ライターの炎で火を着けようとすると、着火した。ライターの炎を消すと、すぐ火が消えた。
上記比較例1〜5の条件及び結果を表3に示す。
なお、実施例1〜10及び比較例1〜4において、紡糸雰囲気の温度は21〜23℃、相対湿度は表1〜3に示す通りであった。温度および相対湿度の測定は、株式会社カスタム製デジタル温湿度計CTH−201を使用して行った。以下の実施例12〜18も同様に測定し、紡糸雰囲気の温度は21〜23℃で実験を行った。
【0076】
[実施例12]<湿度制御による多孔質シルセスキオキサン繊維(PSQ5033)の作製>
まずエレクトロスピニング装置内に乾燥シリカゲル100gを置き、紡糸雰囲気の相対湿度を10%以上20%未満に調節した。
DMF溶媒を用いて、ポリマー合成例1で得られたPSQ5033を溶解し、及びPSQ5033:100質量部に対して合成例7で得られた化合物(4−1−3)を1質量部、カルステッド触媒を0.05質量部溶解し、紡糸用溶液においてPSQ5033が53質量%となるように紡糸用溶液を調製した。この溶液を用いて実施例8と同様に紡糸を行い,さらに100℃24時間、150℃2時間、200℃3時間熱処理を行い,繊維径2.78±0.426μmの不織布を得た。このものは,多孔質繊維にはなっていなかったが、繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。実施例12で得られた不織布の繊維の側面を写した電子顕微鏡写真を図7として添付する。
なお、本実施例は、本発明が多孔質繊維または繊維集合体の製造方法を対象とする場合において、以下の実施例13〜18に対して相対湿度が20%未満の場合には多孔質にならないことを示すものであり、繊維または繊維集合体自体を対象とする本発明から排除されるものではない。
【0077】
[実施例13]
実施例12と同様にして,相対湿度を20−30%に調節した以外は、実施例12と同様に紡糸、熱処理を行い、繊維径3.08±0.314μmの多孔質繊維の不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。実施例13で得られた不織布の繊維の側面を写した電子顕微鏡写真を図8として添付する。
【0078】
[実施例14]
紡糸雰囲気の相対湿度を30−40%に変更した以外は、実施例12と同様に紡糸、熱処理を行い、繊維径3.89±0.454μmの多孔質繊維の不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。実施例14で得られた不織布の繊維の側面を写した電子顕微鏡写真を図9として添付する。
【0079】
[実施例15]
紡糸雰囲気の相対湿度を50−60%に変更した以外は、実施例12と同様に紡糸、熱処理を行い、繊維径3.96±0.122μmの多孔質繊維の不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。実施例15で得られた不織布の電子顕微鏡写真を図10及び図11として添付する。図10は繊維の側面を写した写真である。図11は繊維の断面を写した写真である。
【0080】
[実施例16]
紡糸雰囲気に置いた乾燥シリカゲルを取り去り、代わりに水100mlを入れたシャーレを置き、相対湿度を60−70%に調節した以外は、実施例12と同様に紡糸、熱処理を行い、繊維径4.82±0.964μmの多孔質繊維の不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。実施例16で得られた不織布の電子顕微鏡写真を図12及び図13として添付する。図12は繊維の側面を写した写真である。図13は繊維の断面を写した写真である。
【0081】
[実施例17]
紡糸雰囲気に霧吹きで水を霧状に噴きかけながら相対湿度を70−80%に調節した以外は、実施例15と同様に紡糸、熱処理を行い、繊維径5.58±0.631μmの多孔質繊維の不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。実施例17で得られた不織布の電子顕微鏡写真を図14及び図15として添付する。図14は繊維の側面を写した写真である。図15は繊維の断面を写した写真である。
【0082】
[実施例18]
実施例15と同様に相対湿度を50−60%に調節し、凝固浴に液体窒素を用いた湿式紡糸を行なった以外は、実施例14と同様に紡糸、熱処理を行い、繊維径3.58±0.512μmの多孔質繊維の不織布を得た。繊維の融着は認められなかった。また、繊維を指に巻き付けても、形状が崩れなかった。
この不織布を実施例1と同様に、耐熱試験、耐溶剤試験を行なった結果、変化は認められなかった。実施例18で得られた不織布の電子顕微鏡写真を図16及び図17として添付する。図16は繊維の側面を写した写真である。図17は繊維の断面を写した写真である。
上記実施例12〜18の条件及び結果を表4〜5に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【0087】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1−1)で表される化合物、下記式(2−2)で表される化合物及び下記式(3−2)で表される化合物を反応させることによって得られる、シルセスキオキサン骨格を含む重合体であって、反応に用いる、式(1−1)で表される化合物が有するアルケニルのモル数を(A)、式(3−2)で表される化合物が有するSi−Hのモル数を(C)とした場合、式(3−2)におけるmと前記(A)に対する(C)の割合が、(m+2)×(C)/(A)=1〜3となるように前記化合物を反応させることによって得られる重合体を用いて得られる繊維または繊維集合体。
【化1】

式(1−1)において、それぞれのRは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキルまたはt−ブチルであり、それぞれのX11は独立して炭素数2〜8のアルケニルであり、それぞれのR1は独立して炭素数1〜4のアルキルまたはフェニルである。
【化2】

式(2−2)において、それぞれのRは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキルまたはt−ブチルであり、それぞれのR1は独立して炭素数1〜4のアルキルまたはフェニルである。
【化3】

式(3−2)において、それぞれのR1は独立して炭素数1〜4のアルキルまたはフェニルであり、R2はR1と同様に定義される基であり、mは0〜1000の整数である。
【請求項2】
式(1−1)及び式(2−2)における全てのRがフェニルである、請求項1記載の繊維または繊維集合体。
【請求項3】
式(3−2)におけるmが0〜12の整数である、請求項1または2記載の繊維または繊維集合体。
【請求項4】
反応に用いる上記式(2−2)で表される化合物が有するSi−Hのモル数を(B)としたときに、(A)=(B)+(C)となるように、式(1−1)で表される化合物、式(2−2)で表される化合物及び式(3−2)で表される化合物を反応させることによって得られる重合体を用い、請求項1〜3のいずれか1項記載の繊維または繊維集合体。
【請求項5】
前記(C)に対する(B)の比が、(B)/(C)=1〜9となるように反応させることによって得られる重合体を用いる、請求項1〜4のいずれか1項記載の繊維または繊維集合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のシルセスキオキサン骨格を含む重合体を用いて調製した重合体溶液を乾式または湿式紡糸に供し、その後、紡糸された繊維を加熱処理することを含む、繊維または繊維集合体の製造方法。
【請求項7】
該重合体溶液が架橋剤及びヒドロシリル化触媒を含む、請求項6記載の繊維または繊維集合体の製造方法。
【請求項8】
架橋剤が、下記式(4−1)で表される化合物及び/または下記式(4−2)で表される化合物である、請求項7に記載の繊維または繊維集合体の製造方法。
【化4】



式(4−1)及び(4−2)において、それぞれのRは独立してフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数が1〜10のパーフルオロアルキルまたはt−ブチルであり、それぞれのX41は独立して炭素数2〜8のアルケニルまたは水素であり、それぞれのR1は独立して炭素数1〜4のアルキルまたはフェニルである。
【請求項9】
式(4−1)及び(4−2)における全てのRがフェニルである、請求項8に記載の繊維または繊維集合体の製造方法。
【請求項10】
式(4−1)及び(4−2)における全てのX41が炭素数2〜8のアルケニルである、請求項8または9記載の繊維または繊維集合体の製造方法。
【請求項11】
乾式または湿式紡糸において、複合ノズルを用いて、芯側に請求項1〜5のいずれか1項記載の重合体を用い、及び鞘側に後で除去可能な重合体を用いて芯鞘構造とし、紡糸された複合繊維を加熱処理して芯側の重合体を内部硬化させた後に、鞘側の重合体を除去することを含む、請求項6記載の繊維または繊維集合体の製造方法。
【請求項12】
鞘側の重合体がナイロンである、請求項11に記載の繊維または繊維集合体の製造方法。
【請求項13】
乾式または湿式紡糸において重合体溶液の溶剤が、20℃における蒸気圧が2.5kPa以下で,かつ溶解パラメータが10.5√(cal/cm3)以上である溶剤を含有し、多孔質繊維または多孔質繊維集合体が製造される、請求項6〜12のいずれか1項記載の繊維または繊維集合体の製造方法。
【請求項14】
乾式または湿式紡糸において重合体溶液の溶剤が、ジメチルホルムアミド及び/またはピリジンを含有し、湿式紡糸の凝固浴がメタノール及び/またはエタノールを含有し、多孔質繊維または多孔質繊維集合体が製造される、請求項6〜13のいずれか1項記載の繊維または繊維集合体の製造方法。
【請求項15】
紡糸時の相対湿度を20〜90%とすることにより多孔質繊維または多孔質繊維集合体が製造される、請求項6〜14のいずれか1項記載の繊維または繊維集合体の製造方法。
【請求項16】
エレクトロスピニング法を採用して超極細繊維を得ることを含む、請求項6〜15のいずれか1項記載の繊維または繊維集合体の製造方法。
【請求項17】
請求項6〜16のいずれか1項記載の方法で得られた繊維または繊維集合体を、不活性ガス中、熱分析(TG−DTA)による質量減少開始温度以上で加熱処理することを含む、不燃性繊維または不燃性繊維集合体の製造方法。
【請求項18】
請求項6〜17のいずれか1項記載の方法で得られた繊維または繊維集合体を用いて得られたフィルター。

【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−12754(P2012−12754A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252076(P2010−252076)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年6月16日 「社団法人 繊維学会」主催 「平成22年度繊維学会年次大会」における文書による発表
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(399120660)JNCファイバーズ株式会社 (41)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】