説明

シロアリ防除剤

【課題】土壌処理と木部処理の双方に使用することができ、家害虫、特にシロアリに対する防除効果が高く、かつ、人体に対して安全な防除剤を提供する。
【解決手段】トロポロン誘導体、塩化カルシウム、および水を含むように構成する。さらに、界面活性剤を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロアリ、ダニ、ゴキブリ、ハエ(ウジ)、蚊等の家害虫の防除(駆除および予防)に用いられる害虫防除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シロアリ、ダニ、ゴキブリ、ハエ、蚊等の家害虫と呼ばれる害虫の駆除や予防には、従来から化学薬品が使用されてきた。特にシロアリに対しては、有機リン系等の強力な薬剤が用いられてきた。しかし、薬品に対する耐性の発現や人体に対する安全性が問題となり、安全性の高い害虫防除剤の開発が求められている。
これまでに、有効成分として塩化カルシウムを使用する家害虫駆除および忌避剤が知られている(特許文献1)。この駆除ないし忌避作用は、塩化カルシウムが家害虫の細胞内に吸収されると、細胞内の電解バランスが崩れて、細胞膜が破壊されてしまうことによる。
【0003】
一方、ヒバ材の樹皮の水蒸気蒸留により得られるヒバ油の抗菌効果が確認され、ヒノキチオールを用いた害虫防除剤が知られている(特許文献2、特許文献3)。
【特許文献1】特許第2799859号公報
【特許文献2】特開2001−48715号公報
【特許文献3】特開2004−155694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、発明者の検討によれば、特に厳しい防除効果(ここで、防除とは駆除と予防の双方を含む。)が求められるシロアリ防除剤としては、上記特許文献1の塩化カルシウムの濃度を飽和濃度にまで高めても、充分な防除効果が得られず、木材食害試験および土壌貫通試験において、シロアリの死虫率を100%とすることはできなかった。すなわち、塩化カルシウムは、シロアリのなかでもヤマトシロアリに対しては、ある程度の防除効果(土壌貫通阻止効果)は認められるものの、イエシロアリに対しては土壌貫通を阻止することができず、容易に家屋への侵入を許して甚大な損害を与えるおそれがある。
【0005】
また、ヒノキチオールの防除効果はもともと弱いため、たとえば上記特許文献2では、ヒノキチオールの含有量を、通常の2重量%から10重量%以上に高めたヒバ油を用いるようにしている。しかし、このようにヒノキチオール含有量を高めるには、非常な労力とコストを費やさなければならず、1回に多量の散布を要する防除剤としては、実用上の問題があった。
また、ヒバ油は忌避作用が強いため、シロアリがヒバ油と接触せず、したがってシロアリの駆除剤としては有効ではないとともに、ヒバ油は臭気が強いため、処理量が多くなると不快感を与えるとの問題もある。
【0006】
さらに、シロアリ駆除は、通常、土壌処理と木部処理の双方を行う必要があり、それぞれ適用箇所に合致した防除剤が選択・使用されていた。たとえば、上記ヒノキチオールを含む従来の防除剤は、木部処理に用いられていた。
しかし、土壌処理と木部処理とで異なる防除剤を使用する場合、それぞれを散布する噴霧器を複数、現場に用意するか、あるいは、薬液を変えるたびに噴霧器の洗浄等を行う必要があり、コスト面でも、労力面でも改善が求められていた。
そこで本発明は、上記問題点を解決し、家害虫、特にシロアリに対する防除効果が高く、かつ、人体に対して安全な防除剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トロポロン誘導体、塩化カルシウム、および水を含む害虫防除剤に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、有効成分としてトロポロン誘導体と塩化カルシウムを組み合わせて使用することにより、両者の相乗的効果として顕著に高い防除効果を得ることができる。その結果、ヤマトシロアリのみならずイエシロアリを含む様々なシロアリに対して高い殺虫効果を示し、家屋を有効に予防することができる。また、両有効成分は、どちらも安全性が高く、入手も容易であるため、安全であり、かつ、安価な害虫防除剤を提供することができる。
さらに、本発明に係る害虫防除剤は、土壌処理と木部処理の双方に適用できるため、現場での施工を容易に、効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されることはない。
トロポロン誘導体は、下記一般式(1)で示される化合物である。7員環の水酸基やカルボニル基が金属錯体や金属塩を形成したり、水酸基がエステルまたはエーテルを形成したりしていてもよい。
【化1】

(式(1)において、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基を示す。)
【0010】
、R、Rのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基は、直鎖状でも分岐状でもどちらでもよく、それぞれ、炭素数1〜12程度であることが好ましい。シクロアルキル基は、炭素数1〜12程度であることが好ましく、さらにアルキル基等の置換基を有していてもよいし、不飽和結合を有していてもよい。
【0011】
上記トロポロン誘導体のなかでも、4−イソプロピルトロポロン(β−ツヤプリシン)であるヒノキチオールを用いることが好ましい。ヒノキチオールは、青森ヒバやタイワンヒノキの精油中に含まれる天然物である。ここでは、天然抽出品でもよいし、化学合成品を使用することもできる。
好ましくは、ヒノキチオールとして、青森ヒバ等のヒバ材(端材、大鋸屑等)の水蒸気蒸留等により得られるヒバ油(ヒバ精油)を使用できる。ヒバ油は、通常、ヒノキチオールを約2重量%含み、その他に様々な成分を含んでいる。これらのヒノキチオール以外の成分も、害虫防除効果に寄与することが考えられるため、好ましい実施形態として、ヒバ油と塩化カルシウムと水とを含む構成が挙げられる。
【0012】
本発明では、塩化カルシウムと組み合わせることにより、トロポロン誘導体の配合量を、従来に比べ非常に低くすることができる。そして、非常に低量であるにもかかわらず、その微量のトロポロン誘導体の配合により、塩化カルシウムとの相乗効果が得られ、その結果、極めて強い防除効果(殺虫効果および土壌貫通阻止効果)が得られることが本発明の特徴である。
具体的には、ヒノキチオール等のトロポロン誘導体の害虫防除剤への配合量は、1ppm(0.0001重量%)以上であることが好ましく、5ppm以上であることがより好ましく、10ppm以上であることがさらに好ましく、20ppm以上であることがより一層好ましい。その配合量の上限値は、特に限定はされないが、あまり多量に配合しても得られる効果に相違はないため、200ppm(0.02重量%)以下程度であることが好ましく、100ppm以下程度であることが一層好ましい。
【0013】
ヒバ油の配合量としては、0.005重量%以上であることが好ましく、0.025重量%以上であることがより好ましく、0.05重量%以上であることがさらに好ましく、0.1重量%以上であることがより一層好ましい。その配合量の上限値は、特に限定はされないが、あまり多量に配合しても得られる効果に相違はないため、1.0重量%以下程度であることが好ましく、0.5重量%以下程度であることが一層好ましい。
このように、害虫防除剤中のヒバ油の配合量を従来に比べて極めて低量に、最少量に抑えることができるため、処理後に不快感を与えることがない。
【0014】
塩化カルシウムは、無水塩でも含水塩(1〜6水塩)でも、どちらも用いることができる。
その配合量は、害虫の種類に応じて適宜設定すればよいが、一般には15〜45重量%であることが好ましく、20〜40重量%であることがより好ましく、25〜35重量%以上であることがさらに好ましく、27〜33重量%であることがより一層好ましい。塩化カルシウムを45重量%より多く配合しても、飽和溶液となってしまうため、さらなる効果の向上は見られない。一方、15重量%に満たない場合は、特にシロアリに対しては、充分な防除効果が得られない恐れがある。
【0015】
上記2種類の有効成分に加えて、木部への浸透性を高め、かつ、水系での調製を可能とするために、害虫防除剤には界面活性剤が配合されることが好ましい。塩化カルシウムには吸湿作用があるため、害虫防除剤の散布により、床下内で使用されている金属部材に錆が発生するおそれがあるが、界面活性剤を配合することにより、防錆効果を得ることができる。
塩化カルシウムの界面活性剤の種類は特に限定されず、アニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤等を使用することができる。なかでも、浸透性、乳化・分散性などの観点から、非イオン界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル型の非イオン界面活性剤が特に好ましい。
【0016】
また、環境面への配慮から、生分解性の界面活性剤を使用することが好ましい。生分解性の界面活性剤としては、たとえば、「SC−Magic Pan(マジックパン)」(インフィニティ株式会社)等の市販品を使用することができる。これは、植物性の界面活性剤、脂肪酸およびその他の成分から構成される界面活性剤である。
界面活性剤の配合量は、特に限定はされないが、害虫防除剤中に1〜5重量%程度であることが好ましく、2〜4重量%程度であることがより好ましい。
【0017】
害虫防除剤には、上記成分に加えて任意に、防菌剤、防かび剤、防虫剤、安定化剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、有機溶剤、香料、着色剤等を配合することができる。これらの添加剤としては、公知のものを使用することができ、その配合量は適宜設定すればよく、特に限定はされない。
本発明に係る害虫防除剤は、これらの成分と水を含む。従来ヒノキチオールを有効成分とする防除剤は、有機溶媒系であったのに対し、本発明は、ヒノキチオールを含み、水系に調製されることが特徴の一つである。それにより、シックハウス症候や化学物質過敏症の原因とされている揮発性有機物質を発散させない、という有利な効果が得られる。
【0018】
この害虫防除剤は、シロアリ、ダニ、ゴキブリ、ハエ、蚊等の家害虫と呼ばれる害虫の駆除や予防に使用することができる。なかでも、シロアリ(ヤマトシロアリ、イエシロアリ等)に対して高い防除効果を得ることができる。以下、シロアリ駆除に使用する場合を例に、適用方法等を説明する。
【0019】
シロアリ駆除に対し、本発明に係る害虫防除剤は、土壌処理と木部処理の双方に適用できる。
土壌処理の場合は、一般に、土壌表面に薬剤を散布して防蟻層を形成するようにする。木部処理は、木材表面に薬剤を噴霧器を用いて吹き付け処理するか、あるいは、刷毛等で塗布する方法と、木材や壁体に穿孔して薬液を注入する方法がある。または、害虫防除剤をシートに適用し、そのシートを土壌表面に敷設することもできる。
【0020】
害虫防除剤は、液状タイプあるいはスプレータイプとして使用することが好ましく、液状タイプの場合は、噴霧器を使って散布することができる。あるいは、液状の害虫防除剤を含む粒剤を形成し、それを散布する方法で適用してもよい。粒剤としては、多孔質体等の粒状担体に害虫防除剤を含浸させた形態、粒状担体を害虫防除剤で被覆した形態、増量剤と害虫防除剤を混練して造粒させた形態、カプセル内に害虫防除剤を内包させた形態等のいずれでもよい。
【0021】
害虫防除剤による処理量は、特に限定されず、その有効成分の濃度や適用箇所により適宜設定すればよい。たとえば、土壌処理の場合、目安としては1〜10リットル/m程度の量を散布することができ、3〜7リットル/m程度であることが好ましく、4〜6リットル/m程度であることがさらに好ましい。木部処理の場合は、100〜500ml/m程度であることが好ましく、200〜400ml/m程度であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明に係る害虫防除剤の効果を、シロアリを対象とする土壌貫通試験および木材食害試験により確認した。
<土壌貫通試験>
直径1.8cmの円筒に植壌土を4cmの高さに詰め、上部から処理量5L/mの試験液をしみこませた。風乾後、2.5mlの水で土壌を適度にしめらせた後、円筒の一端に松の木粉の入った容器を、他端にイエシロアリの職蟻40頭を入れた。4日後までのシロアリによる土壌の穿孔の程度(穿孔長)とシロアリの死虫数を調べた。
【0023】
<木材食害試験>
スギ辺材木片(2×2×1cm)に所定量(100、200、300g/m相当)の試験液を刷毛で塗布し、室内で1週間放置した。1週間後に、処理した木片を放虫容器(底面に石膏を張った直径7cm、高さ6cmのアクリル樹脂製円筒容器)に入れ、イエシロアリ(職蟻150頭、兵蟻50頭)を放虫した。3週間、水分補給しながらこれを放置して、3週間後の木片の食害量(重量減少率)とシロアリの死虫数を調べた。
【0024】
<実施例1〜9、比較例1〜4>
表1に示す各実施例および比較例の試験液を調製した。表1に示す試験液の配合成分は、以下のとおりである。
ヒバ油:ヒバ油を含む(有)キセイテック製「キセイPROSOL・N」(ヒノキチオール含有量0.5重量%;ヒバ油、ヒノキ油等の天然精油を含むイソパラフィン系炭化水素)
塩化カルシウム:讃岐化成株式会社製試薬(CaCl
界面活性剤:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(ミヨシ油脂株式会社製「ペレソフト NSC」)
コントロールとして、試験液で処理しない土壌および木材も試験した。試験区はそれぞれ3区とした。
得られた結果を、表2〜5に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
【表5】

【0030】
上記結果にみるように、2種類の有効成分を組み合わせた実施例の試験液では、非常に高い防除効果が得られた。シロアリに対しては、死虫率が100%でなければ、実用に耐えることができないことから、これらの試験液の有用性は明らかである。
これに対し、どちらか一方の有効成分のみを含む比較例の試験液では、その配合量を増加させても、充分な防除効果は得られなかった。これより、実施例の試験液においては、極少量であってもヒノキチオールを配合したことの技術的意義は大きく、トロポロン誘導体と塩化カルシウムの相乗的な効果が奏されていることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロポロン誘導体、塩化カルシウム、および水を含むことを特徴とする害虫防除剤。
【請求項2】
前記トロポロン誘導体としてヒノキチオールを含む請求項1記載の害虫防除剤。
【請求項3】
前記トロポロン誘導体の含有量が0.0001〜0.02重量%である請求項1または2記載の害虫防除剤。
【請求項4】
前記塩化カルシウムの含有量が15〜45重量%である請求項1〜3のいずれか1項記載の害虫防除剤。
【請求項5】
さらに界面活性剤を含む請求項1〜4のいずれか1項記載の害虫防除剤。
【請求項6】
シロアリに対する防除剤である請求項1〜5のいずれか1項記載の害虫防除剤。

【公開番号】特開2007−223998(P2007−223998A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50337(P2006−50337)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【特許番号】特許第3868992号(P3868992)
【特許公報発行日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(506067888)株式会社アムテック (5)
【Fターム(参考)】