説明

シロアリ駆除剤

【課題】周囲の環境への悪影響をできるだけ排除し、安全性に優れ、長期にわたって効果を発揮することができるシロアリ駆除剤を提供する。
【解決手段】シロアリ駆除剤には、潮解性のない塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩が主成分として少なくとも1重量%配合されている。無機塩は潮解性がないことから、雨水などに溶解したり土中の水分に長い時間をかけて溶解していかない限りは、無機塩自らが周囲の水分を吸収して溶解しないことから、散布後短期間のうちに植物を枯らしたりすることがないので、周囲の環境に悪影響を及ぼすことの少ない、安全性に優れ、長期にわたってシロアリの駆除効果を発揮することができるシロアリ駆除剤とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、樹木、木材、または家屋等の建築物を食害するシロアリを駆除するためのシロアリ駆除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シロアリ目(Isoptera)に属するイエシロアリ(Coptotermes formosanus)、ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)等のシロアリは樹木や木材を食害したり、家屋等の建築物や重要文化財等の木材を食害して建築物等を侵したりする害虫である。日本におけるシロアリの被害は甚大で、火災の被害額にも匹敵すると言われている。特に温暖な南九州や四国では解決すべき重大な問題と認識されている。従って、シロアリの駆除は必要不可欠であり、業者による駆除も盛んに行われている。
【0003】
このシロアリの駆除は、現在、薬剤によるものが一般的であり、化学合成殺虫剤が用いられることが多い。具体的には、ピレスロイド、アレスリン等のピレスロイド系殺虫剤、フェニトロチオン、DDVP、パラチオン等の有機リン系殺虫剤、カルバメート系殺虫剤、ヒドラメチルノン等が用いられている。しかしながら、シックハウスや環境汚染の問題から、薬剤によらない駆除方法が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には薬剤によらない駆除剤が記載されている。特許文献1に記載のシロアリ駆除剤は、主成分としての塩化カルシウムが7質量%以上配合されたものである。塩化カルシウムがシロアリの細胞内に吸収されると、細胞内の電解バランスが崩れ、その結果、細胞膜が破壊して細胞液が流出するのでシロアリを死に至らしめることができると記載されている(段落番号0009等、参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−92313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、塩化カルシウムは乾燥剤として用いられるほど吸湿性が高い。この塩化カルシウムを配合した駆除剤が、目的とする場所だけでなく周囲の植物や農地まで誤って飛散してしまうと、塩化カルシウムの吸湿性によって植物が枯れてしまうという問題が発生する。特許文献1では、このような事態を避けるために、駆除剤に着色剤を施すことによって、駆除剤を目視で確認できるようにし、誤って周囲に飛散した場合には、水で流すなどの対処ができるような改良がなされている。しかしながら、駆除剤に着色剤を混ぜるとなると手間がかかるうえ、新たな環境汚染を引き起こすことも考えられる。
【0007】
また、塩化カルシウムは、その高い吸湿性により周囲の水分を吸収して溶けてしまうため、塩化カルシウムを主成分とする駆除剤はシロアリを駆除する効果を長期にわたって発揮することができない。さらに、塩化カルシウムは、周囲の水分を吸収して溶け出してしまうと、それによりべたつきが生じるので、家屋等の建築物には散布しにくいものである。
【0008】
そこで、本発明は、周囲の環境への悪影響をできるだけ排除し、安全性に優れ、長期にわたって効果を発揮することができるシロアリ駆除剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシロアリ駆除剤は、潮解性のない無機塩を主成分として配合されてなることを特徴とする。シロアリ駆除剤の主成分として、潮解性のない無機塩を配合していることから、シロアリ駆除剤を粉末や固形物として扱うことができる。また、このシロアリ駆除剤を散布しても、シロアリ駆除剤の主成分である無機塩が周囲の水分を吸収して溶け出してしまうことがない。従って、シロアリ駆除剤を散布して長い期間が経過しても、シロアリの食するシロアリ駆除剤の中には、シロアリの体内の電解バランスを崩す無機塩が溶け出すことなく含まれている。よって、このシロアリ駆除剤を食したシロアリは、無機塩を体内に取り込んで死に至る。
【0010】
また、本発明のシロアリ駆除剤に用いられている無機塩は潮解性がないので、本発明のシロアリ駆除剤が目的とする場所だけでなく周囲の植物や農地まで誤って飛散したとしても、雨水などに溶解したり土中の水分に長い時間をかけて溶解していかない限りは、無機塩自らが周囲の水分を吸収して溶解することはないので、シロアリ駆除剤の散布後短期間のうちに植物を枯らしたりして周囲の環境を悪化させたりすることもほとんどない。
【0011】
潮解性のない無機塩としては、塩化ナトリウムや塩化カリウムなどを用いることができるが、人畜に無害であることから安全性が高く、また、手に入りやすい塩化ナトリウムを用いる方が望ましい。
【0012】
本発明者は、駆除効果と安全性や持続性などの作用効果が大幅に改善されるシロアリ駆除剤について鋭意研究の結果、シロアリに塩化ナトリウムを与えると、特に顕著な駆除効果を示すことを発見した。塩化ナトリウムを主成分とする駆除剤が、シロアリの駆除に特に有用である理由は完全に明らかではないが、次のような理由が推測される。
【0013】
まず、シロアリが駆除剤を食することにより、シロアリ駆除剤に含まれる塩化ナトリウムは、シロアリの体内に取り込まれたのち血液中に吸収されてシロアリの体内を循環する。血液中に大量の塩化ナトリウムが吸収されたことにより、浸透圧に変化が生じ、周囲の細胞から血管へと細胞液が流出し、細胞が収縮してしまう。シロアリは人間や動物とは異なり、無機塩を排出するための機能が発達していないので、これにより、シロアリは生きるための活動を維持することができなくなり、最後には死に至ってしまう。
【0014】
また、他の理由としては、シロアリの体内に塩化ナトリウムが取り込まれると、シロアリの腸内に共生している原生動物(トリコニンファ等)が浸透圧の上昇で死滅し、その結果、生きるための活動を維持することができなくなったシロアリも死に至るということも推測される。つまり、シロアリの腸内に共生している原生動物は、シロアリが摂取した木材(セルロース)の分解を助けているので、腸内の原生動物が死滅すると、それに伴い、シロアリも生存できなくなる、ということが推測される。
【0015】
本発明のシロアリ駆除剤に用いられる塩化ナトリウムの原料としては、食塩や岩塩などを用いることができる。食塩や岩塩は身近に、かつ、安価に入手できるものであるので、食塩や岩塩を塩化ナトリウムの原料として用いれば、取り扱いも容易で安価なシロアリ駆除剤を製造することができる。なお、食塩や岩塩にはわずかながら潮解性を有する塩化マグネシウム等が含まれているが、その量は、周囲の環境に悪影響を及ぼさない程度の極微量であるため、本発明のシロアリ駆除剤のシロアリ駆除効果に影響を与えるものではない。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシロアリ駆除剤によれば、シロアリ駆除剤に含まれる無機塩は潮解性がなく、植物を枯らしたり、成分が溶け出したりすることがほとんどないので、周囲の環境に悪影響を及ぼすことのない、安全性に優れ、長期にわたってシロアリの駆除効果を発揮することができる。また、本発明のシロアリ駆除剤は植物を枯らす恐れが少ないため、シロアリ駆除剤を目視で確認する必要がないので、シロアリ駆除剤に着色剤を混ぜたりする必要がなく、製造に手間がかからず、また、着色剤による環境汚染の心配もないシロアリ駆除剤とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に述べる。
本発明の実施の形態におけるシロアリ駆除剤は、潮解性のない無機塩が主成分として配合されている。潮解性のない無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウムなどのナトリウム塩、塩化カリウム、硝酸カリウムなどのカリウム塩、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム塩、硝酸アンモニウムやシュウ酸アンモニウムなどのアンモニウム塩等を用いることが可能である。また、それらの対イオンとしては塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸やシュウ酸などの有機酸の内から適宜選択して選べばよい。また、それらを混合して用いることも可能である。このなかでも特に、人畜に対して無害であり、安全性が高く、安心して使用できる塩化ナトリウムを用いるのが望ましい。
【0018】
塩化ナトリウムは、シロアリ駆除剤全体に対して、少なくとも1質量%、望ましくは3質量%以上含まれることが望ましい。シロアリ駆除剤全体に対する塩化ナトリウムの配合割合は、多ければ多いほどよいが、少なくとも1質量%含まれていれば、シロアリを死に至らしめることができることが実験の結果明らかとなった。また、3質量%以上含まれていれば、より効果的にシロアリを駆除することができることも明らかとなった。
【0019】
シロアリが本実施の形態におけるシロアリ駆除剤を食すると、シロアリの血液内に塩化ナトリウムが取り込まれ、シロアリ体内の電解バランスが崩れて血管周囲の細胞の収縮がおこるとともに、シロアリの腸内に共生している原生動物が浸透圧の上昇に伴い死滅するので、シロアリは生存することができなくなり、死に至る。
【0020】
本実施の形態におけるシロアリ駆除剤は、潮解性のない塩化ナトリウムを主成分として配合していることから、シロアリ駆除剤を散布して長い期間が経過しても、雨水などに溶解しない限り、周囲の水分を自らが吸収して溶け出してしまうことがない。よって、シロアリ駆除剤の効果を長期にわたって持続させることができる。
【0021】
また、本実施の形態におけるシロアリ駆除剤は、潮解性のない塩化ナトリウムを主成分として配合していることから、シロアリ駆除剤を、シロアリ駆除の対象となる樹木や木材、家屋等の建築物や重要文化財等や周囲に散布した際に、たとえ周囲の植物や農地まで誤って飛散してしまっても、雨水などに溶解したり土中の水分に長い時間をかけて溶解していかない限りは、無機塩自らが周囲の水分を吸収したりして植物を短期間のうちに枯らしてしまうことはない。潮解性を有する無機塩、例えば乾燥剤としても使用されている塩化カルシウムをシロアリ駆除剤に用いた場合、周囲の植物や農地にシロアリ駆除剤が飛散して、塩化カルシウムが植物に付着してしまうと、この付着した塩化カルシウムが植物の水分を吸収して、短期間のうちに植物を枯らしてしまうことから、このような事態を避けるために、シロアリ駆除剤に着色剤を施して、シロアリ駆除剤を目視で確認できるように改良する必要がある。しかしながら、本実施の形態におけるシロアリ駆除剤によれば、上述したように植物を枯らして周囲の環境を悪化させる恐れもほとんどないので、着色剤を施したりする必要がなく、手間がかからず容易に製造できるシロアリ駆除剤とすることができる。
【0022】
なお、他の実施の形態として、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩を少なくとも1質量%溶かした水溶液をシロアリ駆除剤として用いることもできる。シロアリ駆除剤を家屋等の建築物の床下の土の表面および土中や、この土と面する建築物の基礎等に直接散布する場合は、シロアリ駆除剤を水溶液にした方がより広範囲に浸透させることができるので望ましい。
【0023】
なお、他の実施の形態におけるシロアリ駆除剤として、潮解性のない無機塩をマイクロカプセル内に閉じこめたり、樹脂材料に潮解性のない無機塩を練り込んでシート状にしたりすることもできる。例えば、潮解性のある塩化カルシウムのような無機塩をマイクロカプセル内に閉じこめたり、樹脂シートに練り込んだりすると、時間の経過に伴い、空気中の水蒸気がマイクロカプセルの被膜または樹脂シートの表面から浸透し、被膜が破れたり樹脂シートの表面が劣化してしまう問題が発生する。しかしながら、上記した他の実施の形態のいずれの場合も、潮解性のない無機塩をシロアリ駆除剤の主成分とすることから、経時劣化のないシロアリ駆除剤とすることができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)食害防止薬剤
まず、JIS K 1571に準拠して食害試験を行った。供試した薬剤は塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、酢酸カルシウム、リン酸1水素2ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アルミニウムであった。それぞれ濾紙に10質量%になるように含浸し、イエシロアリの職蟻150頭と兵蟻15頭を入れた容器で食害試験を行った。その結果、すべての供試薬剤を含浸したろ紙で重量減少が認められ、その結果、死虫率100%となった。
(実施例2)土壌処理用薬剤
日本木材保存協会の「土壌処理防蟻剤等の防蟻効力試験方法および性能基準」JWPS−TS−Sに準拠して試験を行った。土壌に1%(W/W)となるように市販の食塩(主成分は塩化ナトリウム、その他に海水由来の不純物を含む)を添加し、耐候操作を行わないで試験に供した。その結果、穿孔度は0〜2であり、死虫率は100%であった。
(実施例3)蟻道形成阻止
ステンレス製イエシロアリ飼育槽の脱出防止用として、市販の岩塩を布製の袋に詰め、上端部に一周させた。地下から延びてきた蟻道が食塩袋に達した時点で、大量のシロアリが死滅した。一般的に飼育環境下でシロアリの死体を見ることはまれであるが、この場合は非常に多くのシロアリ固体が地上で死んでいる状況が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のシロアリ駆除剤によれば、潮解性のない無機塩を主成分として含有するので、周囲の環境への悪影響をできるだけ排除し、安全性に優れ、長期にわたって効果を発揮することができるシロアリ駆除剤として有用に用いることができる。特に、潮解性のない無機塩として塩化ナトリウムを用いる場合、シロアリの駆除効果が高く、人畜無害の安全性に優れたシロアリ駆除剤として好適に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
潮解性のない無機塩を主成分として配合されてなるシロアリ駆除剤。
【請求項2】
前記潮解性のない無機塩は、塩化ナトリウムである請求項1記載のシロアリ駆除剤。

【公開番号】特開2007−119380(P2007−119380A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311845(P2005−311845)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【Fターム(参考)】