説明

シロキサン変性重合体の老化の際の粘度の上昇を抑制する方法

【課題】官能基としてシロキサンを有する重合体の老化の際にムーニー(Mooney)粘度を抑制する。
【解決手段】重合させた後ではあるがなお不活性溶媒が存在している時において重合体が水と接触する前に、構造式RSi(OR4−n但し式中RはC〜C20アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはC〜C20芳香族の基から成る群から選ばれ、RはRまたは他のRと同じであるか或いは異なっていることができてC〜C20アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはC〜C20芳香族の基から成る群から選ばれ、nは1または3の整数である、のアルキルアルコキシシランから成る群から選ばれる粘度安定剤を粘度を安定化させるのに有効な量で加える。この方法は老化の際にシロキサン官能基をもった重合体のムーニー粘度を任意のレベルに安定化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(本発明の分野)
本発明は官能基としてシロキサンを有する重合体の老化の際にムーニー(Mooney)粘度を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(本発明の背景)
スチレン含量が約20〜約35%のスチレン−ブタジエン・ゴムのようなエラストマー性の重合体をヘキサンのような溶媒中で製造することは通常行われる方法である。これらの重合体は、シラン含有化合物のような種々の異なった化合物を用いて重合を終結させ、末端にシランがキャッピングした重合体をつくることができる。このようにシロキサンで重合を終結させると、処理された重合体のムーニー粘度が上昇し、丁度錫でカップリングを行った際のような結果が得られる。しかし、その後で水蒸気または熱水を用いてこのシロキサン末端重合体から溶媒を除去すると、シロキサン基、例えばシロキサン末端基の側鎖の−SiOR基が加水分解する際にムーニー粘度はしばしばさらに上昇し、2個のシロキサン末端基の間でSi−O−Si結合をつくって重合体のカップリングが起こる。
【0003】
従って従来は、側鎖の−SiOR基のような加水分解し得る基を含むシロキサンで末端をキャッピングされた重合体から溶媒を除去する際水蒸気または熱水を使う方法は、加水分解が起こりその後で末端のシロキサン基の間でカップリングが生じるために重合体のムーニー粘度の上昇を伴うのが常であった。この加水分解とカップリングの問題を解決するために、米国特許5,659,056号においては、溶媒を除去する前に重合体の製造に使用された溶媒に可溶な粘度安定剤で重合体を処理することが記載されている。特に、この粘度安定剤は例えばC〜C12の脂肪族のカルボン酸、C〜C12の脂環式のカルボン酸および芳香族のカルボン酸のような酸であり、酢酸、プロピオン酸、酪酸、デカン酸、シクロヘキサン酸、安息香酸等を含んでいる。この粘度安定剤は粘度を安定させるのに十分な量、一般には陰イオン性反応開始剤1モル当量当たり0.8〜1.2モル当量の範囲で使用される。
【0004】
注目すべきことは、この米国特許5,659,056号記載の粘度安定剤は重合体のシロキサン末端基とは反応せず、重合体との混合物中の副成物であるリチウム化合物を中和する役目をする。このようにして米国特許5,659,056号の安定剤は、シロキサン末端基上に少なくとも1個の加水分解し得る置換基をもったシロキサン末端重合体が、水と接触した際にそのムーニー粘度が著しく上昇しないように粘度を安定化させる。さらに、米国特許5,659,056号記載の方法を用いれば、溶媒を除去する間ばかりではなく、重合体が空気中の水分による加水分解または他の形の加水分解を受けるような以後の貯蔵期間中においても、一定の間ムーニー粘度の上昇を実質的に遅延させることができる。
【0005】
しかし不幸にして、米国特許5,659,056号に記載された方法は実際にはムーニー粘度の上昇を防ぐのではなく、加水分解反応の速度を、従って重合体のカップリングを実質的に遅延させるだけであることが見出されている。或る一定期間に亙ってシロキサン末端基のゆっくりとした加水分解が起こり、従ってムーニー粘度の上昇およびシロキサン末端重合体のカップリングは継続する。
【0006】
従って、重合体のシロキサン末端基のカップリングをもたらす加水分解反応の速度を低下させる試みは従来から成功しているが、当業界において老化に対して重合体を安定させ
、特にシロキサン末端重合体のカップリングを停止させる手段または方法は提供されていない。
【発明の概要】
【0007】
(本発明の概要)
本発明によれば重合体の加水分解およびカップリングによるシロキサン官能基をもった重合体のムーニー粘度の上昇を効果的に抑制する方法が提供される。
【0008】
本発明方法においてはシロキサン官能基をもつ重合体のムーニー粘度を所望のレベルにおいて安定させることができる。
【0009】
また本発明は、シロキサン官能基をもった重合体が老化する際、該重合体のムーニー粘度を効果的に抑制し安定化させる方法を提供することができる。
【0010】
また本発明はシロキサン末端重合体を加水分解させる条件下においてシロキサン官能基をもった重合体のムーニー粘度を所望のレベルにおいて実質的に一定に保つ方法を提供することができる。
【0011】
本発明は水分に対して安定化された重合体を提供することができる。
【0012】
一般に本発明の一態様は、シロキサン末端基の上に少なくとも一つの加水分解可能な置換基を有するシロキサン末端重合体のムーニー粘度を安定化させる方法において、重合させた後ではあるがなお不活性溶媒が存在している時において重合体が水と接触する前に、構造式
Si(OR4−n
但し式中RはC〜C20アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはC〜C20芳香族の基から成る群から選ばれ、RはRまたは他のRと同じであるか或いは異なっていることができてC〜C20アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはC〜C20芳香族の基から成る群から選ばれ、nは1〜3の整数である、
のアルキルアルコキシシランから成る群から選ばれる粘度安定剤を粘度を安定化させるのに有効な量で加えることを特徴とする方法である。
【0013】
本発明はまた構造式
Si(OR4−n
但し式中RはC〜C20アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはC〜C20芳香族の基から成る群から選ばれ、RはRまたは他のRと同じであるか或いは異なっていることができてC〜C20アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはC〜C20芳香族の基から成る群から選ばれ、nは1〜3の整数である、
をもつアルキルシロキサンと反応させたシロキサン末端重合体の加水分解反応生成物を含む水分に対して安定化された重合体を含んでいる。
【0014】
さらに本発明は、構造式
Si(OR4−n
但し式中RはC〜C20アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはC〜C20芳香族の基から成る群から選ばれ、RはRまたは他のRと同じであるか或いは異なっていることができてC〜C20アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはC〜C20芳香族の基から成る群から選ばれ、nは1〜3の整数である、
をもつアルキルアルコキシシロキサンと反応させたシロキサン末端重合体の加水分解反応生成物を含む水分に対して安定化された重合体を含有したエラストマー配合物をから成るタイヤを含んでいる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本発明の具体化例)
上記のように、本発明は実質的に、特に老化の際において、シロキサン官能基をもった重合体のムーニー粘度の上昇を抑制する、好ましくは安定化させる、特に好ましくは除去する方法に関する。本発明においては、溶媒を除去する前に有効量のアルキルアルコキシシラン、好ましくは低分子量のアルキルトリアルコキシシランをシロキサン末端重合体に加え、アルキルアルコキシシランを加水分解可能な置換基、例えばシロキサン末端重合体の側鎖の−SiOR基と反応またはカップリングさせ、該アルキルアルコキシシランがシロキサン末端重合体の加水分解可能な置換基を結合させるのではなく、Si−O−Si結合をつくるようにすることによってムーニー粘度を抑制し安定化させることに成功した。
【0016】
シロキサン末端重合体は当業界に公知であり、Zelinski等の米国特許3,244,664号およびVerkouwの米国特許4,185,042号記載の方法で製造される。本発明方法は、加水分解可能な置換基をもち加水分解した場合他の加水分解した基と交叉結合するシロキサン官能基を有する任意のエラストマーに特に適用することができる。加水分解可能な基の例は側鎖の−SiOR基であり、ここでRは同じまたは同様な側鎖の−SiORとカップリングしてSi−O−Si結合をつくるアルキル、シクロアルキルまたは芳香族の基である。
【0017】
本発明方法により安定化し得るシロキサン末端基で末端をキャッピングされた重合体はポリブタジエン、ポリイソプレン等を含む当業界に公知の任意のエラストマー、およびモノビニル芳香族化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレン等、およびトリエン、例えばミルセンとの共重合体であることができる。即ち該エラストマーはジエン単独重合体およびそのモノビニル芳香族化合物との共重合体を含んでいる。ジエン単独重合体の例には炭素数約4〜約12のジオレフィン単量体からつくられるものがある。ビニル芳香族化合物重合体の例は炭素数約8〜約20の単量体からつくられるものである。好適なエラストマーにはジエン単独重合体、例えばポリブタジエンおよびポリイソプレン、および共重合体、例えばスチレン−ブタジエン・ゴム(SBR)が含まれる。重合体および共重合体は100〜約20重量%のジエン単位および0〜約80重量%モノビニル芳香族化合物炭化水素またはトリエン単位を含み、全部で100重量%になるような構成をもっていることができる。共重合体は好ましくは当業界に公知の不規則共重合体であるかまたはブロック共重合体である。このようなブロック共重合体はポリ(スチレン−ブタジエン−スチレン)を含み、熱可塑性エラストマーである。本発明方法により使用され処理されるエラストマーはタイヤの製造を含む多数の用途をもっている。
【0018】
エラストマーの重合は有機リチウム陰イオン性反応開始剤触媒組成物の存在下において行うことが好ましい。使用する有機リチウム陰イオン性反応開始剤は1,3−ジエン単量体の重合に使用される当業界に公知の任意の陰イオン性有機リチウム化合物であることができる。一般に、有機リチウム化合物は式R(Li)のヒドロカルビルリチウム化合物である。ここでRは炭素数1〜約20、好ましくは約2〜約8のヒドロカルビル基であり、xは1〜2の整数である。ヒドロカルビル基は好ましくは脂肪族の基であるが、ヒドロカルビル基はまた脂環式または芳香族の基であることができる。脂肪族の基は1級、2級または3級であることができるが、1級および2級の基が好適である。脂肪族のヒドロカルビル基の例にはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−アミル、sec−アミル、n−ヘキシル、sec−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−ドデシル、およびオクタデシルが含まれる。脂肪族の基は若干の不飽和基、例えばアリル、2−ブテニル等を含んでいることができる。脂環式の基の例はシクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、エチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロペンチルメチル、およびメチルシクロペンチルメチルエチルで
ある。芳香族のヒドロカルビル基の例はフェニル、トリル、フェニルエチル、ベンジル、ナフチル、フェニルシクロヘキシル、等である。
【0019】
本発明に従って共役ジエンの重合における陰イオン性反応開始剤として使用される有機リチウム化合物の特定な例は次の通りである:n−ブチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソブチルリチウム、t−ブチルリチウム、アミルリチウム、およびシクロヘキシルリチウム。異なったリチウム反応開始剤の混合物、好ましくは例えばR(Li)xのような1種またはそれ以上のリチウム化合物を含む混合物も使用することができる。単独またはヒドロカルビルリチウム反応開始剤と組み合わせて使用できる他のリチウム触媒はトリブチル錫リチウム、リチウムジアルキルアミン、リチウムジアルキルフォスフィン、リチウムアルキルアリールフォスフィンおよびリチウムジアリールフォスフィンである。好適な有機リチウム反応開始剤はt−ブチルリチウムおよびヘキサメチレンイミンとn−ブチルリチウムによってつくられた「その場で」つくられるリチウムヘキサメチレンイミン反応開始剤である。
【0020】
所望の重合を起こさせるのに必要な反応開始剤の量はいくつかの因子、例えば重合体の所望の分子量、ポリジエンの所望の1,2−および1,4−含量、および製造される重合体に対する所望の物理的性質に依存して広い範囲で変えることができる。一般に、反応開始剤の使用量は、重合体の所望の分子量に依存して単量体100g当たりリチウム最低0.2ミリモルから最高約100gに亙っている。
【0021】
本発明の重合は、不活性溶媒中において、従って溶液重合で行われる。「不活性溶媒」と言う言葉は、溶媒が得られる重合体の構造の中に入り込まず、得られる重合体の性質に悪影響を与えず、また使用する触媒に対しても悪影響を及ぼさないことを意味する。適当な不活性溶媒には、脂肪族、芳香族または脂環式炭化水素、例えばヘキサン、ペンタン、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン等が含まれる。テトラヒドロフランのようなエーテル、およびトリエチルアミンおよびトリブチルアミンのような3級アミンも溶媒として使用できるが、これらの溶媒はスチレンの分布、ビニル含量および反応速度に関して重合反応を変性する可能性がある。好適な溶媒は脂肪族炭化水素であり、その中でヘキサンが特に好ましい。
【0022】
上記の重合可能な単量体を上記の陰イオン性反応開始剤を用いて重合させるための温度、圧力および時間のような重合条件は当業界に公知である。例えば例示だけの目的に対して、重合に使用される温度は一般にあまり厳密ではなく、約−60〜約150℃の範囲であることができる。重合時間が数分〜最高24時間であり、温度および他の反応パラメータに依存して重合混合物を実質的に液相に保つのに十分な圧力、好ましくは大気圧またはその付近の圧力を用いる場合、好適な重合温度は約25〜約130℃である。有機リチウム反応開始剤の存在下において上記の単量体を重合させると、「リビングポリマー」が生じる。重合が進行するにつれてリチウムは成長する重合鎖の成長を低下させる。上記単量体から得られる「リビングポリマー」は一般式
重合体−Li
をもっている。ここで重合体は上記エラストマー、ジエン単独重合体、ジエン/モノビニル芳香族の不規則およびブロック共重合体である。共重合において不規則化を促進しビニル含量を制御するためには、1種またはそれ以上の変性剤を随時重合成分に加えることができる。その量はリチウム1当量当たり0〜90当量またはそれ以上の範囲にある。変性剤として有用な化合物は典型的には有機化合物であり、酸素または窒素のヘテロ原子および非結合性電子対をもつ化合物を含んでいる。その例にはモノおよびオリゴアルキレングリコールのジアルキルエーテル;「クラウン」エーテル;3級アミン、例えばテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA);テトラヒドロフラン(THF);THFオリゴマーの直鎖および環式のオリゴマー性オキソラウリルアルカン等がある。これらの変性剤の特
定な例の中には、カリウム1−ブチルアミレートおよび2,2’−ジ(テトラヒドロフリル)プロパンが含まれる。これらの変性剤は登録された譲渡し人の所有する米国特許4,429,091号に記載されている。単量体と溶媒の配合物を適当な反応容器の中に装入することによって重合を開始させ、次いで変性剤および前記の反応開始剤溶液を加える。この工程は無水の嫌気性条件下で行われる。反応原料を約23℃から約120℃の温度に加熱し、典型的には約0.15〜約24時間撹拌する。重合完了後、生成物の加熱を止めて、当業界に公知のようにしてシロキサン末端基で重合の停止を行うことができるが、加熱を止めないで重合を停止させることモできる。シロキサン末端基を用いて重合反応を停止させる前に、重合反応に錫のカップリング剤を加え、ムーニー粘度を所望の範囲に上昇させることができる。四塩化錫(SnCl)のような錫カップリング剤は当業界に公知であり、種々の量で、典型的には重合体の所望のムーニー粘度に依存して陰イオン性反応開始剤1モル当量当たり0〜約0.9モル当量で加えることができる。
【0023】
本発明方法で処理されるシロキサンで重合を停止させた重合体は、シロキサン末端基が1個またはそれ以上の加水分解可能な側鎖の置換基を含んでいるシロキサン末端をもつ任意のエラストマーを含んでいる。
【0024】
シロキサンで重合を停止させた重合体の一例は下記の構造式によって表される。
【0025】
【化1】

【0026】
ここでXは存在してもしなくてもよく、連結剤または連結用の分子を表し、RはC〜C18アルキル、C〜Cシクロアルキル、またはC〜C18芳香族の基を表し、R’およびR”は同一または相異なることができ、−OR、C〜C18アルキル、C〜CシクロアルキルまたはC〜C18の芳香族の基から成る群から選ばれる。
【0027】
重合終了後、随時シロキサンで重合を停止させた重合体を凝固させて急冷し、必要に応じ乾燥し、および/または溶媒を除去する。必要に応じシロキサンで重合を停止させた重合体を約0.05〜約2分の間約30〜120℃の温度において急冷剤と接触させることによって急冷を行い、反応を完了させる。適当な急冷剤にはカルボン酸、例えば2−エチルヘキサン酸(EHA)、酢酸等が含まれる。凝固は典型的にはアルコール、例えばメタノールおよびエタノールを用いて行われる。急冷工程の代わりに或いはそれと組み合わせて、シロキサンで重合を停止させた重合体を当業界に公知のようにしてドラムで乾燥する。溶媒を除去するために水蒸気または高熱を用いることも当業界において公知である。
【0028】
しかし本発明の方法においては、急冷、乾燥または溶媒除去の前に、本発明では粘度安定剤、即ち構造式
Si(OR4−n
をもつアルキルアルコキシシランを加える。ここで各RはC〜C20アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはC〜C20芳香族の基であり、RはRまたは他のRと同じであるか或いは異なっていることができてC〜C20アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはC〜C20芳香族の基から成る群から選ばれ、nは1〜3の
整数である。粘度安定剤として特に好適なものは、アルキルトリアルコキシシラン、即ち上記構造式でn=1のアルキルアルコキシシランから成る群から選ばれる低分子量のアルキルアルコキシシランである。このアルキルトリアルコキシシランの中で最も好適なものはオクチルトリエトキシシラン(OTES)である。本発明の粘度安定剤は種々の量で用いることができ、この使用量は特に使用されるアルキルアルコキシシランの種類に依存する。何故ならばシロキサンで重合を停止した重合体との反応は加えられたアルキルアルコキシシラン対シロキサンで重合を停止した重合体のモル比に依存するからである。例えばトリアルキルアルコキシシラン(n=3)を使用する場合、この安定剤のかなりの量は安定剤対シロキサンで重合を停止した重合体のモル比を十分高くするのに必要な量である。他方アルキルトリアルコキシシランでは、重合体のシロキサン末端基との反応に対して得られる−SiORは多数存在するから、これよりも少ない量を使用することができる。それにもかかわらずアルキルトリアルコキシシランに対して好適な量は陰イオン性反応開始剤1モル当量当たり約1〜約50モル当量の範囲にあることができ、さらに好ましくは陰イオン性反応開始剤1モル当量当たり約1〜約20モル当量である。
【0029】
米国特許5,659,056号とは対照的に、本発明の粘度安定剤は重合体のシロキサン末端基と反応することを認識すべきである。しかし、生成するSi−O−Si結合はシロキサンで重合を停止した重合体とアルキルアルコキシシラン添加剤との間に生成し、シロキサンで重合を停止した重合体自身の間には生成しないから、ムーニー粘度の著しい上昇は起こらない。
【0030】
本発明を適切に理解するために、下記の反応図式によって先ず生成する加水分解反応を示す。この反応(図式Iとして示す)は当業界に公知であり、典型的には次いでSi−O−Si結合を生じることによりシロキサンで重合を停止した重合体のカップリングを起こさせる。
【0031】
【化2】

【0032】
しかし、粘度安定剤、即ち上記のアルキルアルコキシシランを添加することによって得られる−SiOR基は豊富に存在するから、生成したSi−O−Si結合はどれも加水分解可能なシロキサンで重合を停止した重合体と安定剤との間の結合であり、重合体自身の間の結合ではない。従って図式IIに示すように水分に対して安定化された新しい重合体が生じる。
【0033】
【化3】

【0034】
上記の加水分解反応が起った場合、この水分に対して安定化された新しい重合体は、重合体上の加水分解可能なシロキサン末端基とのカップリングによるムーニー粘度の上昇を起こさず、また老化した場合にもムーニー粘度が上昇することはない。−SiOR基の割合は重合体に存在するものに比べ安定剤から得られるものの方が著しく多いから、Si−O−Si結合の生成は重合体と添加剤との間で起こる。好適具体化例においては、アルキルアルコキシシラン添加剤から得られる加水分解可能な−SiOR基対重合体から得られる加水分解可能な−SiOR基の比は少なくとも1:1、好ましくは10:1、最も好ましくは少なくとも20:1でなければならない。また粘度安定剤は、それが重合体と反応するためには、好ましくは低分子量をもっていなければならない。
【0035】
粘度安定剤の他に、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールまたは他のブチル化されたヒドロキシトルエン(BHT)のような酸化防止剤を当業界に公知なように溶媒(ヘキサン)溶液に加えることができる。酸化防止剤の役目はムーニー粘度の安定性が酸化的な結合によって得られるのを防ぐことである。
【実施例】
【0036】
(実施例)
本発明の実施法を例示するために、撹拌機の付いた5ガロンのジャケット付きステンレス鋼の反応器の中で、無水の嫌気性条件下においてアルコキシシラン末端スチレン−ブタジエン・ゴム(SBR)をつくった。特定的に述べれば、717gのヘキサン、ヘキサン中にスチレンを含む26.9重量%溶液2839g、およびヘキサン中にブタジエンを含む28.1重量%溶液7747gを反応器に加えた。次いでヘキサン中にカリウムt−ブチルアミレート1.3Mを含む溶液16.27ml、シクロヘキサン中に3.54Mのヘキサメチレンイミンを含む溶液7.96ml、ヘキサン中に0.5Mの2,2−ジ(テトラヒドロフリル)プロパンを含む溶液4.93ml、およびヘキサン中に1.5Mのn−ブチルリチウムを含む溶液23.5mlを反応器に加え、ジャケットの温度を23℃に上げて「その場で」リチウムヘキサメチレンイミン反応開始剤をつくった。3時間後、ヘキサン中に0.25MのSnClを含む溶液12.34mlを反応器に加えた。5分後、1.12Mのテトラエトキシシラン14.16mlを反応器に加え、これによりリビングポリマーの重合反応を終結させる。次いでこのセメントをN2で空気を追い出した乾燥した瓶の中に移す。次に各瓶に0.5Mの2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール5mlおよび下記表に記載した種々の量のオクチルトリエトキシシランを加えた。次いで重合体をドラムで乾燥し、溶媒を除去した。
【0037】
次いで得られた重合体試料を回収し、温度95℃、湿度90%で5日間老化させた。1、4および5日目にムーニー粘度(100℃で100%)を測定した。ムーニー粘度試験の結果を下記表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
この試験の結果を検討すれば、試料の老化の際にムーニー粘度が上昇していないことが分かる。事実、ムーニー粘度は実際には老化の際に減少している。理論に拘束されるものではないが、この粘度の減少は可塑剤の効果であると考えられた。しかし、ムーニー粘度の安定化は重合体の加水分解反応の変化によるもので、可塑剤の効果でないことは明らかである。
【0040】
上記試験の結果を見ると、安定剤から得られる加水分解可能な−SiOR基対シロキサン末端重合体から得られる加水分解可能な−SiOR基の比が大きいほど、得られた重合体のムーニー粘度が低いことことは明らかである。
【0041】
従ってシロキサンで変性した重合体が老化する際、本発明方法はムーニー粘度の上昇を抑制する上で極めて効果的であることは明白である。本発明は特にアルコキシシラン末端重合体に適しているが、必ずしもこの重合体に限定されるものではない。本発明の水分に対して安定化された重合体および本発明の方法を他の装置、方法等と共に別々に使用して、空気タイヤ等を含む種々の製品の製造に用いるのに適した種々のエラストマー材料または配合物をつくることができる。
【0042】
上記の説明に基づき、本明細書に記載した方法において粘度安定剤を使用することにより上記に記載した目的が達成されることは明らかであろう。従ってその任意の変形は明らかに本発明の範囲内に入るものであり、特定の構成要素の選択は上記に開示され説明された本発明の精神を逸脱することなく決定できることを了解されたい。特に、本発明の粘度安定剤は必ずしもアルキルトリアルコキシシランに限定されるものではなく、シロキサン官能基をもつ重合体と反応し得る任意の適当な、好ましくは低分子量のアルキルアルコキシシランを用いることができる。さらに上記のように、例示したスチレン−ブタジエン・ゴムの代わりに他の重合体を使用することもできる。従って本発明の範囲には添付特許請求の範囲に入るすべての修正および変形が含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン末端重合体とシロキサン末端重合体の重合に使用される陰イオン性反応開始剤1モル当量当たり1〜50モル当量の、
構造式
Si(OR4−n
但し式中RはC〜C20アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはC〜C20芳香族の基から成る群から選ばれ、RはRまたは他のRと同じであるか或いは異なっていることができてC〜C20アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはC〜C20芳香族の基から成る群から選ばれ、nは1または3の整数である、
をもつアルキルアルコキシシロキサンの反応物の加水分解反応生成物を含むことを特徴とする水分に対して安定化された重合体。
【請求項2】
請求項1記載の水分に対して安定化されたエラストマー配合物から成ることを特徴とする空気タイヤ。

【公開番号】特開2011−225888(P2011−225888A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139724(P2011−139724)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【分割の表示】特願2001−521951(P2001−521951)の分割
【原出願日】平成12年7月24日(2000.7.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】