説明

シロナメツムタケ新菌株及びその人工栽培方法

【課題】季節に関係することなく周年栽培が可能な施設において、工業的に高品質かつ安定的に子実体を形成することが可能である、シロナメツムタケの新菌株並びにその人工栽培方法を提供する。
【解決手段】シロナメツムタケ(Pholiota lenta)UFC−1838菌株(FREM P−21287)、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)、及びこれの変異株から選択される新菌株、並びにこれらの菌株を菌床栽培して、子実体を収穫する、シロナメツムタケの人工栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担子菌シロナメツムタケの新菌株及びその人工栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シロナメツムタケ(Pholiota lenta)は、分類学上モエギタケ科(Strophariaceae)、スギタケ亜科(Stropharioideae)スギタケ属(Pholiota)に属するきのこである。
【0003】
本種は木材腐朽性のきのこであり、カラマツ、ブナ等の林床や埋没木に発生することが知られている。また自然界においては、9月から11月にかけて発生し(例えば、非特許文献1、2及び3参照)、食用きのこの一つとして好まれてきたきのこである。
【0004】
シロナメツムタケと生物分類学上、近縁な食用きのこは、ナメコ(Pholiota nameko)、ヌメリスギタケ(Pholiota adipose)等がある。これらは、種苗法における品種登録の農林水産植物の対象にも挙げられている。また、同属には、ヌメリスギタケモドキ(Pholiota aurivella)、キナメツムタケ(Pholiota spumosa)、チャナメツムタケ(Pholiota lubrica)等も挙げられ、これらのきのこはすでに様々な栽培方法が開示されている。(例えば、特許文献1及び2並びに非特許文献4、5、6、7及び8参照)
すでに、シロナメツムタケの人工栽培方法として、野外における露地栽培によって実施された技術が報告されている(例えば、非特許文献9参照)。この技術は、原木を用いた栽培技術であり、培養のための施設設備の投資を必要としないため、投資する資本は少なくて済み、農閑期を利用したきのこ生産者の副業的な生産技術として優れている。しかし、栽培に用いる原木を玉切って利用するため、栽培には原木の入手が容易な場所でなければならず、場所としての制約がある。また、プラスティックバック栽培についても報告されているが(例えば、非特許文献10参照)、子実体の発生処理として野外での露地栽培を行っているため、多くの土地面積を必要とし、さらに気象条件の影響を受けやすいというデメリットがある。また、毎年同じ場所で栽培すると特定の雑菌が繁殖し、いわゆる「いや地化」すること等の問題点が挙げられ、いずれの方法も工業的な生産技術ではない。
【0005】
近年大幅に拡大する「新規きのこ」の需要と供給を考慮すると、一般的な食用きのこ(例えば、エノキタケ、ブナシメジ、エリンギ等)の栽培で行われるような菌床人工栽培方法は、初期の設備投資に一定のコストを必要とするが、栽培期間が露地栽培と比較し短く、施設の回転数を増やせば周年生産が可能で、気象条件での影響を受けないため、栽培技術の確立によっては計画的な生産を図ることが可能である。さらに、菌床人工栽培方法は、栽培に必要となる土地面積も前記露地栽培やプラシテチック栽培と比較し単位面積当たりの生産量を向上させ、栽培に必要な原木の供給による場所の制約を受けることがない等のメリットある。しかしながら、近年のきのこ消費拡大における供給に即した菌床人工栽培方法には、栽培方法の確立並びにその栽培技術に適した優良菌株の作出が重要な課題である。
【非特許文献1】伊藤誠也著、「日本菌類誌」第二巻(四号)、養賢堂、初版昭和30年6月15日発行、p.350−351
【非特許文献2】今関六也、大谷吉雄、本郷次雄著、「カラー名鑑日本のきのこ」、山と渓谷社、1998年11月10日初版発行、p.237
【非特許文献3】本郷次雄ら著、「山渓フィールドブックス10きのこ」、山と渓谷社、1994年9月20日初版発行、p.116
【特許文献1】特開昭62−155024号公報
【特許文献2】特公平6−71390号公報
【非特許文献4】農耕と園芸編集部著、きのこ栽培の新技術、初版1988年11月20日発行、株式会社誠文堂新光社、P27−54
【非特許文献5】大森清寿、小出博志著、きのこ栽培全科、初版2001年9月30日発行、社団法人農山漁村文化協会、P65−75、P206−210
【非特許文献6】金子周平著、ナメコの生産技術;農耕と園芸60(7)P49−52(2005年)
【非特許文献7】木村榮一著、2006年度版きのこ年鑑、初版2006年4月30日発行、株式会社プランツワールド、P142−146
【非特許文献8】金子周平著、2006年度版きのこ年鑑、初版2006年4月30日発行、株式会社プランツワールド、P189−192
【非特許文献9】増野和彦ら「里山を活用した特用林産物(きのこ)の生産技術の開発」P.70−73長野県林業総合センター業務報告2004年度
【非特許文献10】山田尚「シロナメツムタケの培養特性と露地発生について」東北森林学会第10回大会講演要旨集P.76(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、新規食用きのことしての一つであるシロナメツムタケを、季節に関係なく、周年栽培施設での生産が可能で、工業的に高品質に、安定的に子実体を形成するシロナメツムタケの新菌株並びにその人工栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般にきのこは、同じ種に属する菌株でありながら、採集された場所の違いにより菌糸体の生育速度及び子実体形成能力が著しく異なることが知られている。本発明者らは、工業的生産に適する菌株が野外に必ず存在するはずであるとの考えに立ち、全国各地から天然のシロナメツムタケを収集し鋭意検討した。その結果、山中でブナ、カラマツの混生林内の林床に発生していた子実体を採取、分離培養し、その後純粋培養した後、作出というスクリーニングの工程により得られた菌株が、既知の公的な菌株分譲機関の複数菌株と比較し、菌床人工栽培方法において優れた子実体形成能を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第一は、シロナメツムタケ(Pholiota lenta)UFC−1838株(FREM P−21287)シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)及びこれの変異株から選択されるシロナメツムタケ新菌株を要旨とするものである。
【0009】
本発明の第二は、上記のシロナメツムタケ新菌株を栽培してシロナメツムタケの子実体を収穫することを特徴とするシロナメツムタケの人工栽培方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安価な培地原料を用いた培養基で、形状に優れ美味なシロナメツムタケの工業的栽培方法が可能となる。具体的には、本発明のシロナメツムタケ新規株を用いることにより、施設栽培において子実体発生率90%以上、総栽培日数100日以下で、収量は850ml培養ビンの場合120g以上の天然物と同様の形状を有するシロナメツムタケを効率よく発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明における菌株の収集は、以下の通りに実施した。供試培地として、1/2PDA培地(ポテトデキストロース((株)ニッスイ)を蒸留水1リットルに19.5g添加し、寒天((株)ニッスイ)10gを添加後、高圧蒸気滅菌し滅菌後pH5.5に調整)したものを用いた。自然界において野外で発生していた子実体を採取し、子実体の組織の一部もしくは胞子を無菌的に採取し、前述の1/2PDA培地に置床し分離培養を行った。培養条件は23℃±1で実施した。その後、生長したシロナメツムタケの菌糸体を前述の培地を用い、菌株の純粋培養を実施しシロナメツムタケ菌株とした。そして、得られた菌株の中から作出という工程より得られたものをシロナメツムタケ保存菌株とした。
【0012】
次に本発明における菌株の選抜は、以下の通りに実施した。
培地作製は、850ccポリプロピレン製の培養ビン(千曲化成(株))にブナ鋸屑(有限会社新井商店)150g、フスマ(豊橋飼料(株))30gに水350gを加えてよく混合し、湿潤状態後の含水率が63.0±2%になるように調整した。その後、圧詰して、中央に直径1cmの穴を穿孔させ、打栓後105℃、60分、120℃、45分間高圧蒸気滅菌し、固形培養基を調整した。試験数は、それぞれ16本ずつ試験を行った。これに上記の培地(1/2PDA培地)で培養した種菌を接種した。培養条件は、暗黒下23℃、湿度55±5%条件化で培養基に見かけ上菌糸体が蔓延するまで培養し、さらに10日間培養を続け熟成させた。
【0013】
子実体原基発生処理として、腐葉土((株)オカベ産業株式会社)に水を加え、含水率60.0−65.0%に調整した後、105℃、60分、120℃、45分間高圧蒸気滅菌し放冷する。その後、前述の腐葉土を培養基表面に高さ約10mm(約50g)をクリーンベンチ内で無菌的に覆土し、さらに15日間追培養を実施した。その後、照度20ルクス、温度20℃、湿度90%の条件化で子実体原基が形成されるまで培養を続け、シロナメツムタケの各菌株にける子実体収量、総栽培日数、子実体形状について調べた。その結果を表1に示す。なお、表1の子実体収量、子実体発生率、子実体の形状、総栽培日数は、16本の平均を示すものである。
【0014】
なお、本発明者らが収集したすべてのシロナメツムタケ34菌株と、日本国内で何人でも入手できる公知のシロナメツムタケ菌株である、MAFF(独立行政法人農業生物資源研究所)、NBRC(独立行政法人製品評価基盤機構)に寄託されている6菌株についても同様に検討した。なお、表に示す菌株の番号は本発明者が採集した際に、個々の菌株の識別のために用いている略式記号と通し番号の組み合わせであり、本発明において特別な意味は示していない。
【0015】
【表1】

表1においてdata not availableとは総栽培日数が150日を経過しても子実体が形成されない菌株を示す。また、表1における形状とは、◎が子実体の形が優れたもの(子実体の傘直径が35mm以上のものを有効本数とし、発生本数が8本以上)、○が子実体の形が良いもの(子実体の傘直径が35mm以上のものを有効本数とし、子実体の発生本数が5本以上、8本未満のもの)、×が子実体の形が劣るもの(子実体の傘直径が35mm以上のものを有効本数とし、子実体の発生本数が5本未満のもの)を示す。
【0016】
表1で明らかなように、供試した菌株のうち、シロナメツムタケ(Pholiota lenta)UFC−1838株(FREM P−21287)シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)は、子実体発生率が60%以上であり、総栽培日数が100日以下と短かった。収量も約120g以上と多く、子実体も傘色、柄色、形状等良い形状を示した。
【0017】
表1で示したシロナメツムタケ(Pholiota lenta)UFC−1838株(FREM P−21287)シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)の子実体及び胞子の形態的特徴は、以下の通りである。
【0018】
子実体の形態的特徴は、中心が褐色を帯びた白から茶白色の饅頭型を呈し、わずか粘性を有する。裏面のヒダは、ベージュからわずかにオリーブ色、淡褐色であり、形状は湾生から直生である。傘の直径は3から10cm程度で、高湿度下ではわずかに滑りがあるが、乾燥時には粘性はない。表面には鱗片があるが、乾燥後は確認しにくい。柄の根元は、褐色を呈し根毛状の菌糸束が発達しており、中実である。胞子紋は濃黄色−茶褐色を呈し、胞子は、球形で短い突起を有している。
【0019】
上記の形態学的特徴に基づいて、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3により同定すると、上記の菌株がシロナメツムタケであることは明らかである。なお、これらの菌株については、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約下、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号に所在する独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにシロナメツムタケ(Pholiota lenta)UFC−1838株(FREM P−21287)、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)として寄託されている。
【0020】
次に、シロナメツムタケUFC−1838株(FREM P−21287)、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)の菌学的諸形質を以下に示す。
【0021】
シロナメツムタケUFC−1838株(FREM P−21287)
麦芽エキス寒天培地(23℃)における生育状態:10日目でコロニー径は35mm、白色で密な菌糸体、気中菌糸体はベルベット状で乳白色から黄褐色の剛毛状を呈している。15日目でコロニー径は45mm、20日目でコロニー径は62mmとなる。菌糸体伸長は放射状である。
バレイショ・ブドウ糖寒天培地(23℃)おける生育状態:10日目でコロニー径は39mm、菌糸体性状が、麦芽エキス寒天培地と同様。15日目でコロニー径は46mm、20日目でコロニー径は61mmとなる。
オートミール寒天培地(23℃)における生育状態:10日目でコロニー径は14mm、菌糸体は薄く放射状に伸びる。15日目でコロニー径は18mm、20日目でコロニー径は26mmとなり、菌糸体は白色で密であり放射状に伸長する。気中菌糸体は薄い。
Lフェノールオキシダーゼ検定用培地「0.1%没食子酸添加ポテト・グルコース寒天培地」(23℃)おける生育状態:10日目では発菌したに過ぎず菌糸体生長はほとんどしない。
最適生育温度:PGY寒天培地(PGY液体培地に寒天を加えたもの)に直径5±1mmの種菌を接種し、各温度でそれぞれ培養して、14日後に各コロニー直径を測定したところ、最適生育温度は15−23℃であった。また、5℃では菌糸体が発菌するがほとんど生育せず、30℃では全く生育著しく悪かった。最適生育pH:PGY液体培地20mlを滅菌後、1規定塩酸又は1規定水酸化ナトリウム溶液で無菌的にpH3.0−10.0の範囲で0.5毎に調整、直径5mmの種菌を接種し、15日間静置後、各乾燥重量を測定したところ、最適生育pHは5.5付近であった。また本菌株の生育範囲はpH3.0−7.5の範囲であった。
【0022】
シロナメツムタケUFC−832(FREM P−21344)
麦芽エキス寒天培地(23℃)における生育状態:接種から20日目でコロニー径は32mm、白色で密な菌糸体、気中菌糸体はベルベット状で乳白色から黄褐色の剛毛状を呈している。菌糸体伸長は放射状である。PDA培地(23℃)おける生育状態:10日目でコロニー径は37mm、菌糸体性状が、麦芽エキス寒天培地と同様。オートミール寒天培地(23℃)における生育状態:20日目でコロニー径は24mmとなり、菌糸体は白色で密であり放射状に伸長する。気中菌糸体は薄い。
Lフェノールオキシダーゼ検定用培地「0.1%没食子酸添加PDA培地」(23℃)おける生育状態:10日目では発菌したに過ぎず菌糸体生長はほとんどしない。
最適生育温度:PDA培地に直径5±1mmの種菌を接種し、各温度でそれぞれ培養して、14日後に各コロニー直径を測定したところ、最適生育温度は15−23℃であった。また、5℃では菌糸体が発菌するがほとんど生育せず、35℃では全く生育著しく悪かった。
最適生育pH:PD(ポテトデキストロース)液体培地20mlを滅菌後、1規定塩酸又は1規定水酸化ナトリウム溶液で無菌的にpH3.0−10.0の範囲で0.5毎に調整、直径5mmの種菌を接種し、15日間静置後、各乾燥重量を測定したところ、最適生育pHは5.5付近であった。また本菌株の生育範囲はpH3.0−7.5の範囲であった。
【0023】
シロナメツムタケUFC−1911(FREM P−21345)
麦芽エキス寒天培地(23℃)における生育状態:接種から20日目でコロニー径は35mm、白色で密な菌糸体、気中菌糸体はベルベット状で乳白色から黄褐色の剛毛状を呈している。菌糸体伸長は放射状である。PDA培地(23℃)おける生育状態:10日目でコロニー径は36mm、菌糸体性状が、麦芽エキス寒天培地と同様。オートミール寒天培地(23℃)における生育状態:20日目でコロニー径は14mm、菌糸体は薄く放射状に伸びる。菌糸体は白色で密であり放射状に伸長する。気中菌糸体は薄い。Lフェノールオキシダーゼ検定用培地(23℃)おける生育状態:10日目では発菌したに過ぎず菌糸体生長はほとんどしない。最適生育温度:最適生育温度は15−23℃であった。また、5℃では菌糸体が発菌するがほとんど生育せず、35℃では全く生育著しく悪かった。
最適生育pH:最適生育pHは5.5付近であった。また本菌株の生育範囲はpH3.0−7.5の範囲であった。
【0024】
シロナメツムタケUFC−1912(FREM P−21346)
麦芽エキス寒天培地(23℃)における生育状態:接種から20日目でコロニー径は39mm、白色で密な菌糸体、気中菌糸体はベルベット状で乳白色から黄褐色の剛毛状を呈している。菌糸体伸長は放射状である。PDA培地(23℃)おける生育状態:10日目でコロニー径は30mm、菌糸体性状が、麦芽エキス寒天培地と同様。オートミール寒天培地(23℃)における生育状態:20日目でコロニー径は22mmとなり、菌糸体は白色で密であり放射状に伸長する。気中菌糸体は薄い。Lフェノールオキシダーゼ検定用培地(23℃)おける生育状態:10日目では発菌したに過ぎず菌糸体生長はほとんどしない。
最適生育温度:最適生育温度は15−23℃であった。また、5℃では菌糸体が発菌するがほとんど生育せず、35℃では全く生育著しく悪かった。最適生育pH:最適生育pHは5.5付近であった。また本菌株の生育範囲はpH3.0−7.5の範囲であった。
【0025】
次に、シロナメツムタケUFC−1838株(FREM P−21287)、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)と、他のシロナメツムタケ菌株との異同を調べるため、以下のようにして対峙培養を行なった。供試したシロナメツムタケ菌株は、表1に示した菌株すべてである。また、NBRC番号、MAFF番号が付与されているシロナメツムタケ菌株についても同様に試験した。
【0026】
供試菌株の二核菌糸体を1/2PDA培地より5mm×5mm×5mmのブロックとして切り出し、それぞれを1/2PDA寒天培地の中央部に対峙して接種し(2cm間隔)、23℃、20日間暗黒条件下において培養後、両コロニー境界部に帯線が生じるか否かを判定した。結果を表2に示す。なお、帯線を生じた場合は+、帯線を生じない場合は−と表記した。なお、ここで、帯線には着色していない拮抗状態のものも含む。
【0027】
【表2】

表2に示したように、シロナメツムタケUFC−1838株(FREM P−21287)、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)は、同一菌以外の供試菌株すべてと帯線を形成し、同じ菌株間において対峙線の形成が見られなかったことから、新菌株であることが明らかになった。
【0028】
次に本発明の第二のシロナメツムタケの人工栽培方法について説明する。上記した本発明のシロナメツムタケUFC−1838株(FREM P−21287)、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)は、通常の菌床人工栽培方法で栽培することができる。
【0029】
本発明において、通常の菌床人工栽培方法とは、エノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジ等の食用きのこ栽培に用いられている方法であって、ビン栽培、袋栽培、トロ箱、コンテナ栽培等がある。ここでは、一例として、ビン栽培について述べると、その方法とは、通常、「培地調製」、「ビン詰め」、「滅菌」、「接種」、「培養」、「芽だし」、「生育」及び「収穫」の各工程からなる。なお、本発明における袋栽培とは、前述のプラスティックバック栽培技術のように、室内で培養した菌床を野外に伏せ込むのではなく、ビン栽培等同じように室内で工業的に生産する方法を示すものである。
【0030】
「培地調整」とは、通常きのこの人工栽培に使用されている鋸屑と米糠、フスマ、穀類粉砕物等の混合物に水を加えて湿潤状態にする工程で、バーク堆肥、麦わら堆肥、コンポスト等を加えても良い。含水率は50−80%、好ましくは55−70%、より好ましくは60−65%が適当である。培地組成は、シロナメツムタケ子実体形成が良好な組成であればよいが、その一例を示せば、鋸屑、フスマやコーンマッシュ等の組み合わせがある。鋸屑は培地基材となり、フスマやコーンマッシュは栄養源として作用する。
【0031】
培地基材となる鋸屑は、針葉樹でも広葉樹由来のものでも良く、一般的な食用きのこ栽培に用いられるコーンコブ等も使用できる。好ましくは、植物分類学上、針葉樹であるマツ科(PINACEAE)、スギ科(TAXODIACEAE)、広葉樹では、ヤマモモ科(MYRICACEAE)、クルミ科(JUGLANDACEAE)、クワ科(MORACEAE)、ヤマグルマ科(TROCHODENDRACEAE)、フサザクラ科(EUPTELEACEAE)、カツラ科(CERCIDIPHYLLACEAE)アケビ科(LARDIZABALACEAE)、メギ科(BERBERIDACEAE)、モクレン科(MAGNOLIACEAE)、クスノキ科(LAURACEAE)、ユキノシタ科(SAXIFRAGACEAE)、トベラ科(PITTOSPORACEAE)、マンサク科(HAMAMELIDACEAE)、スズカケノキ科(PLATANACEAE)、バラ科(ROSACEAE)、マメ科(FABACEAE)、ミカン科(RUTACEAE)、センダン科(MELIACEAE)、トウダイグサ科(EUPHORBIACEAE)、ツゲ科(BUXACEAE)、モチノキ科(AQUIFOLIACEAE)、ニシキギ科(CELASTRACEAE)、トチノキ科(HIPPOCASTANACEAE)、アワブキ科(SABIACEAE)、クロウメモドキ科(RHAMNACEAE)、ブドウ科(VITACEAE)、アオイ科(MALVACEAE)、マタタビ科(ACTINIDIACEAE)、ツバキ科(THEACEAE)、イイギリ科(FLACOUTIACEAE)、キブシ科(STACHYURACEAE)、グミ科(ELAEGNACEAE)、ミソハギ科(LYTHRACEAE)、ザクロ科(PUNICACEAE)、ウコギ科(ARALIACEAE)、ミズキ科(CORNACEAE)、リョウブ科(CLETHRACEAE)、ツツジ科(ERICACEAE)、ヤブコウジ科(MYRSINACEAE)、カキノキ科(EBENACEAE)、ハイノキ科(SYMPLOCACEAE)、エゴノキ科(STYRACACEAE)、モクセイ科(OLEACEAE)、キョウチクトウ科(APOCYNACEAE)、クマツヅラ科(VERBENACEAE)、ノウゼンカズラ科(BIGNONIACEAE)、アカネ科(RUBIACEAE)、スイカズラ科(CAPRIFOLIACEAE)等であるが、より好ましくは、ヤナギ科(SALICACEAE)、シナノキ科(TILIACEAE)カエデ科(ACERACEAE)、カバノキ科(BETULACEAE)、ニレ科(ULMACEAE)、最も好ましくはブナ科(FAGACEAE)に分類されるブナ属(Fagus)の鋸屑が好適に使用できる。
【0032】
上記の植物種の一種類からのものを用いて良いが、二種類以上を混合しても良い。また、きのこの菌床用鋸屑製造業者によって市販されている、複数の樹種が混在(例えば、広葉樹チップ、ザラメチップ等の商品名で販売)されているものであっても良い。粒径は、1.0mm以上−10mm以下であれば良く、好ましくは1.2mm−8.0mm、より好ましくは、1.5mm−7.0mmが好適に使用できる。また、鋸屑の乾燥状態は含水率5.0%以上−40.0%以下が良く、好ましくは6.0%−35.0%、より好ましくは、7.0−30.0%が好適に使用できる。
【0033】
栄養源については、米糠、トウモロコシ、コーンジャム、コーンマッシュ、コーンフラワー、ビートパルプ、バガス、フスマ、専管フスマ、豆殻、ジャガイモ皮、玉葱皮、穀類粉砕物等のデンプン源を主体とする栄養源の他、綿実かす、籾殻、落花生殻、芝生、針葉樹や広葉樹の剪定材等の植物性腐食物、植物性残渣等を添加しても良い。なお、これら栄養源として添加するものの含水率は、5.0−50.0%、好ましくは、5.5−40.0%、より好ましくは、6.0%−35.5%が好適に使用できる。栄養源の添加量は重量比として1%以上添加されれば良く、好ましくは1.0%−30.0%、好ましくは2.0%−25.0%、より好ましくは3.0−15.0%の添加が好適に使用できる。
【0034】
「ビン詰め」とは、800−1000ml、より好ましくは850mlのポリプロピレン製ビンに、調整した培地を350−750g、好ましくは400−700g、より好ましくは460−600g圧詰し、中央に1cm程度の穴を穿孔し、打栓する工程をいう。
【0035】
「滅菌」とは、蒸気により培地中のすべての微生物を死滅させる工程で、高圧蒸気滅菌機を用いて実施することができる。一般的なきのこの栽培においては、常圧滅菌では98℃、4−5時間、高圧滅菌では120℃、30−90分間行われるが、本発明では、例えば105℃、60分行った後、120℃、45分間高圧蒸気滅菌を実施することが好ましい。
【0036】
「接種」とは、放冷された培地に種菌を植えつける工程で、種菌としてはシロナメツムタケ菌株を1/2PD液体培地(蒸留水1リットルに対し、ジャガイモ200g(市販品の皮を剥いたもの)を采の目に細断後、1時間湯煎し、グルコース7.5gを添加し高圧蒸気滅菌後pH5.5に調整)100mlで23℃、10−15日間培養したものを用いることができ、1ビン当り100mlほど無菌的に植えつける。また、ここまで説明した工程で得られる液体種菌接種済みの培養基を、23℃で30−40日間培養し、培養基全体にシロナメツムタケの菌糸体がまん延したものを固体種菌として用いることができ、1ビン当り15gほど無菌的に植えつける。
【0037】
「培養」とは、接種済みの培養基を温度20−23℃、湿度40−70%において菌糸体をまん延させ、更に熟成をさせる工程で、25−80日間、好ましくは30−70日間、より好ましくは40−60日間行われる。
【0038】
「芽だし」とは、子実体原基を形成させる工程を示し、大きく物理的な子実体原基形成刺激と環境的な子実体原基形成刺激の二つが挙げられる。物理的な子実体原基形成刺激として、食用きのこ(例えば、ハタケシメジ、ホンシメジ、シャカシメジ等)で行われる覆土方法がある。本発明においても、これらのきのこと同様に、覆土による子実体原基形成刺激が好適に使用できる。覆土の方法については、前述の〔0014〕に含水率や滅菌条件等の一例を示すが、本発明で使用できる覆土素材は、素材そのものの含水率を調整した場合に60%±5程度に調整できる通気性を有する素材であれば良く、覆土材素材の粒径、pH等に限定されるものではない。覆土素材の例として、野外でシロナメツムタケが発生していた場所の土壌、森林土壌、山土等の土壌類、石英、ガラスビーズ等の無機鉱物物質、園芸用として市販されている各種用土(例えば、日向土、硬質赤玉土、硬質鹿沼土、赤玉土、鹿沼土、バーミキュライト、玉砂利、パーライト等)、前述の〔0031〕に挙げられる各種植物由来の鋸屑や葉や小枝等の堆積物、コーンコブ、セルロースパルプ、籾殻、稲ワラ、ミズゴケバーク堆肥、ピートモス等の植物性有機素材、寒天製造時に副生する寒天残渣等も覆土材の例が挙げられるが、最も好ましくは、広く一般的に入手が可能な腐葉土を使用することが望ましい。
【0039】
環境的な子実体原基形成刺激の例について以下に述べる。温度条件としては、10−20℃が良く、より好ましく16℃±1である。湿度条件としては80%以上が良く、好ましくは85−100%、最も好ましくは、90−95%である。光条件としては、500ルックス以下、好ましくは100ルックス以下、最も好ましくは50ルックス以下が好ましい。
【0040】
「生育」とは、子実体原基から成熟子実体を形成させる工程で温度10−20℃、好ましくは12−18℃、より好ましくは15−17℃、湿度80%以上、好ましくは85−95%、照度20ルックス以上、好ましくは50−500ルックスで5−15日間培養を続けると、シロナメツムタケの成熟子実体を得ることができ、「収穫」を行って栽培の全工程は終了する。
【0041】
以上、ビン栽培について説明したが、本発明はビン栽培に限定されるものではなく、袋栽培、トロ箱栽培、コンテナ栽培においても同様の方法で実施できる。
【0042】
本発明の人工栽培方法で使用し得るシロナメツムタケ菌株としては、シロナメツムタケUFC−1838株(FREM P−21287)、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)が最適であるが、これらの菌株に限定されるものではなく上記性質を有する菌株であれば、これらの変異株であっても用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
【0044】
実施例1
1/2PD液体培地にシロナメツムタケUFC−1838株(FREM P−21287)、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)を接種して、23℃で15日間培養し液体種菌とした。一方、ポリプロピレン製の培養ビン850ml(千曲化成(株))に、ブナ(Faguscrenata)鋸屑150g(有限会社新井商店)、コーンマッシュ30g(豊橋飼料(株))、水350gを加えて良く混合し湿潤状態後の含水率が63.0±2%にしたものを圧詰して、中央に直径1cm程度の穴を開け、打栓後105℃、60分、120℃、45分間高圧蒸気滅菌を行い放冷した。これに上記の液体種菌約20mlを接種し、まず暗所にて、温度23℃、湿度55%の条件下、培養基に見掛け上菌糸体がまわるまで培養し、さらに10日間培養を続け熟成させた。
【0045】
子実体発生処理として、腐葉土(オカベ園芸(株))に水を加え、含水率60−65%に調整した後、105℃、60分、120℃、45分間高圧蒸気滅菌し放冷する。その後、前述の腐葉土を培養基表面10mm(約50g)、クリーンベンチ内で覆土し、さらに15日間追培養を実施した。その後、照度20ルクス、温度20℃、湿度90%の条件化で子実体原基が形成されるまで培養を続け成熟子実体を収穫した。なお実施例1は16本の平均で試験を実施した。収穫されたシロナメツムタケは、天然に近い形状を呈し独特の香りを有しており大変美味であった。
【0046】
得られた子実体は1ビン当り、シロナメツムタケUFC−1838株(FREM P−21287)で123.6g、総栽培日数は98日間であり、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)で128.3g、総栽培日数は88日間であり、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)で124.3g、総栽培日数は99日間であり、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)で124.6g、総栽培日数は88日間であった。
【0047】
実施例2
栄養源として、コーンマッシュの代わりに米糠30g((有)一井商店)、を使用した以外は、実施例1と同様の方法で栽培試験を実施し成熟子実体を得た。得られた子実体は1ビン当り、シロナメツムタケUFC−1838株(FREM P−21287)で123g、総栽培日数は97日間であり、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)で138.3g、総栽培日数は98日間であり、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)で129.3g、総栽培日数は99日間であり、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)で129.3g、総栽培日数は96日間であった。
【0048】
実施例3
栄養源として、コーンマッシュの代わりに小麦粉30g(日清製粉(株))を使用した以外は、実施例1と同様の方法で栽培試験を実施し成熟子実体を得た。得られた子実体は1ビン当り、シロナメツムタケUFC−1838株(FREM P−21287)で126g、総栽培日数は94日間であり、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)で126.3g、総栽培日数は84日間であり、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)で131.2g、総栽培日数は87日間であり、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)で130.1g、総栽培日数は92日間であった。
【0049】
実施例4
栄養源として、コーンマッシュの代わりにコーンフラワー30g(豊橋飼料(株))を使用した以外は、実施例1と同様の方法で栽培試験を実施し成熟子実体を得た。得られた子実体は1ビン当り、シロナメツムタケUFC−1838株(FREM P−21287)で128g、総栽培日数は95日間であり、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)で121.1g、総栽培日数は95日間であり、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21345)で120.2g、総栽培日数は98日間であり、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)で128.3g、総栽培日数は84日間であった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例3で得られたシロナメツムタケUFC−1838菌株(FREM P−21287)の子実体の形状を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロナメツムタケ(Pholiota lenta)UFC−1838株(FREM P−21287)、シロナメツムタケUFC−832(FERM P−21344)、シロナメツムタケUFC−1911(FERM P−21345)、シロナメツムタケUFC−1912(FERM P−21346)及びこれの変異株から選択されるシロナメツムタケ新菌株。
【請求項2】
請求項1記載のシロナメツムタケ新菌株を菌床栽培してシロナメツムタケの子実体を収穫することを特徴とするシロナメツムタケの人工栽培方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−289470(P2008−289470A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80968(P2008−80968)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】