説明

シンクロトロン

【課題】機器構成が単純であり、かつ多極電磁石の励磁量を変更する際の閉軌道誤差の発生によるチューンの変化を簡単な手順で抑制することが可能なシンクロトロンを提供することを課題とする。
【解決手段】荷電粒子ビームを加速して出射するシンクロトロンであって、シンクロトロン中を周回する荷電粒子ビームの位置を測定するビーム位置モニタと、シンクロトロン中を周回する荷電粒子ビームの軌道を補正する軌道補正手段と、シンクロトロンの周回軌道上に四極磁場以上の多極磁場を発生させる多極電磁石とを備え、さらにビーム位置モニタと多極電磁石が入れ子状に設置されていることによって、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームを周回させ加速するシンクロトロンに関わり、特に、周回する荷電粒子ビームの位置を測定するビーム位置モニタ,周回する荷電粒子ビームの軌道を補正する軌道補正手段、及び多極磁場を発生させる多極電磁石を備えたシンクロトロンに関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム(以下、イオンビームという)を周回させながら所定のエネルギーまで加速し、取り出すための装置として、特許文献1に記載のある、周回ビームのベータトロン振動振幅を増大させる手段及びイオンビームを周回軌道から取り出す出射用デフレクタを備えたシンクロトロンが知られている。
【0003】
シンクロトロンは、ライナックなどの入射器から入射されたイオンビームを偏向電磁石により偏向して環状の軌道(以下、周回ビーム軌道という)上を周回させる。ここで、周回ビームの進行方向(以下、ビーム進行方向という)に沿って、偏向電磁石の動径方向を水平方向,偏向電磁石のギャップ方向を垂直方向と呼ぶことにする。シンクロトロン中を周回するイオンビーム(以下、周回ビームという)を構成する個々の粒子(以下、周回ビーム粒子という)は、周回ビーム軌道のまわりを水平及び垂直方向に振動しながらシンクロトロン中を周回しており、この周回ビーム粒子の振動をベータトロン振動と呼ぶ。また、周回ビーム粒子がシンクロトロン中を一周する間に周回ビーム軌道のまわりを振動する回数、即ちベータトロン振動の振動数をチューンと呼び、水平,垂直それぞれの方向のベータトロン振動についてその振動数を水平チューン,垂直チューンと呼ぶ。シンクロトロンの運転中に水平・垂直チューンが特定の値(例えば0.25の整数倍)になるとベータトロン振動に共鳴が発生して周回ビームが不安定となり、周回ビーム粒子が真空ダクト等に衝突して失われるビーム損失を生じる恐れがある。そこで、シンクロトロン中に四極電磁石を設置して周回ビームに四極磁場を印加し、周回ビームに加わる収束力を変化させることにより水平・垂直チューンを周回ビームが安定となる値に調節することが行われる。
【0004】
シンクロトロンは周回ビームに高周波加速空胴からの高周波電圧を印加し、ビーム進行方向の位置と周回ビーム粒子のエネルギーにより定まる位相空間上の安定領域に周回ビームを集群する。ビーム進行方向の位相空間における上記安定領域を高周波バケットと呼び、高周波バケット内に周回ビームを集群することを高周波捕獲と呼ぶ。周回ビームの捕獲後は、高周波加速空胴に印加する高周波電圧の周波数(以下、加速周波数という)を徐々に上昇させるとともに偏向電磁石及び四極電磁石の励磁量を徐々に増大させ、周回ビームを一定の周回ビーム軌道上に保ったまま所定のエネルギーまで加速する。所定のエネルギーまで加速された周回ビームは、出射用デフレクタによりシンクロトロンの外へ取り出され、シンクロトロンから取り出されたイオンビームは、物理実験や、癌などの患者の患部にイオンビームを照射する治療方法(以下、粒子線治療という)に供される。周回ビームの取り出しを完了した後のシンクロトロンは、加速周波数及びシンクロトロンの偏向電磁石の励磁量をイオンビーム入射時の値まで減少させ、入射器からの次のイオンビームの入射に備える。シンクロトロンから取り出されずに残った周回ビームは、この過程で入射時のエネルギーまで減速されるため、上記過程は減速過程と呼ばれる。シンクロトロンは、予定されたイオンビームの照射が完了するまで、上記イオンビームの入射,捕獲,加速,出射及び減速までの過程を周期的に繰り返す。イオンビームを入射してから減速が完了するまでの過程を、シンクロトロンの一周期と呼ぶ。
【0005】
シンクロトロンを構成する偏向電磁石や四極電磁石には、励磁量のずれや電磁石の設置時の誤差に起因する誤差磁場が発生する。周回ビームの中心位置(以下、周回ビーム位置という)は、誤差磁場の影響によりシンクロトロンの設計上の軌道(以下、中心軌道という)に対して変位する。周回ビーム位置の中心軌道に対する変位は、閉軌道誤差あるいはCOD(Closed Orbit Distortion)と呼ばれる。シンクロトロンの閉軌道誤差が大きくなると周回ビーム粒子が真空ダクトの内壁などに衝突して失われるビーム損失が発生する。また、シンクロトロン中の電磁石(主に偏向電磁石)は、発生する磁場の分布に六極磁場成分を持つことがあるため、周回ビームが偏向電磁石中において中心軌道からずれた位置を通過すると、偏向電磁石の六極磁場成分に比例した強度の四極磁場を受け、チューンが設定値から変化してベータトロン振動の共鳴を生じる恐れがある。
【0006】
閉軌道誤差の発生によるビーム損失やチューンの変動を抑制するため、周回ビームの位置をシンクロトロン中に設置したビーム位置モニタにより測定し、測定結果に基づいて閉軌道誤差を補正することが行われている。例えば特許文献2には、水平・垂直両方向の周回ビーム位置を1台のビーム位置モニタにより測定し、測定結果に基づいてステアリング電磁石の励磁量を調節することによりシンクロトロンの閉軌道誤差を補正する手法が記載されている。また、特許文献3には、シンクロトロン中に複数台設置した四極電磁石の励磁量を個別に変更しながら周回ビーム位置を測定し、測定結果に基づいて周回ビームが四極電磁石のビーム進行方向と垂直な平面における中心(以下、四極電磁石の中心と呼ぶ)を通過する様に、即ち四極電磁石地点における閉軌道誤差が0となるように閉軌道誤差を補正する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2596292号公報
【特許文献2】特開2002−217000号公報
【特許文献3】特許第4085176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
周回ビーム位置をビーム位置モニタにより測定し、測定結果に基づいてステアリング電磁石の励磁量を調節することにより閉軌道誤差を補正する特許文献2に記載の技術には、以下の課題がある。シンクロトロン中のビーム位置モニタは、四極電磁石等の多極電磁石とビーム進行方向において異なる場所に設置されているため、ビーム位置モニタによる周回ビーム位置の測定結果が中心軌道と一致する(閉軌道誤差が0となる)ように閉軌道誤差を補正しても、多極電磁石の位置においては閉軌道誤差が0となっていることを保証できない。即ち、周回ビームがビーム進行方向に垂直な平面における多極電磁石の中心(以下、多極電磁石の中心と呼ぶ)を通過していることを保証できない。周回ビームが多極電磁石の中心から離れた位置を通過している場合、多極電磁石の励磁量を変更すると周回ビーム軌道上における磁場の強度が変化し、周回ビームが偏向されて閉軌道誤差が発生する。
【0009】
多極電磁石の励磁量を変更することにより発生する閉軌道誤差は補正前の閉軌道誤差に比べて小さいため、閉軌道誤差の発生により周回ビーム粒子が真空ダクトに衝突して発生するビーム損失は問題とならない。一方で、チューンの変化はわずかであっても周回ビームが不安定となることがあるため、多極電磁石の励磁量を変更することによる閉軌道誤差の発生により、周回ビームのチューンに設定値からのずれが生じることが問題となっていた。例えば四極電磁石の励磁量を変更して周回ビームのチューンを調整する場合、四極電磁石から印加される四極磁場の強度の変化に加えて、偏向電磁石から印加される四極磁場の強度が閉軌道誤差の発生により変化するため、四極電磁石の励磁量を変更した後のチューンを正確に予測することが困難であった。これにより、多極電磁石の励磁量を変更した後もチューンを周回ビームが安定となる値に保つためには、多極電磁石の励磁量を変更した後に周回ビームのチューンを測定し、測定結果に基づいて四極電磁石の励磁量を設定し直す必要があり、シンクロトロンを調整する際の負担が増大していた。
【0010】
四極電磁石の励磁量を個別に制御しながら周回ビーム位置を測定し、周回ビームが四極電磁石の中心を通過する様シンクロトロンの閉軌道誤差を補正する特許文献3に記載の技術には、以下の課題がある。四極電磁石の励磁量を個別に制御するためには、個々の四極電磁石に個別の電源を接続するか、四極電磁石の励磁電流を個別に制御するための分流器などの制御装置が必要となるため、シンクロトロンのコスト増を招いていた。また、四極電磁石地点における周回ビーム位置を求めるには、シンクロトロンを構成する個々の四極電磁石について、励磁量を変更してから周回ビーム位置をビーム位置モニタにより測定することを繰り返す必要があるため、シンクロトロン調整の手間が増大していた。
【0011】
本発明の目的は、機器構成が単純であり、多極電磁石の励磁量を変更する際の閉軌道誤差の発生によるチューンの変化を簡単な手順で抑制することが可能なシンクロトロンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の特徴は、周回ビームの位置を測定するビーム位置モニタと、周回ビームに多極磁場を印加する多極電磁石と、周回ビームを偏向しシンクロトロンの閉軌道誤差を補正する軌道補正手段とを備えたシンクロトロンにおいて、ビーム位置モニタと多極電磁石がビーム進行方向について重なるように設置する、即ちビーム位置モニタと多極電磁石を入れ子状になるように設置することである。さらに言えば、本発明の特徴は、多極電磁石と入れ子状になるように設置したビーム位置モニタにより多極電磁石の設置地点における周回ビーム位置を測定し、多極電磁石の設置地点における閉軌道誤差が0となるようにシンクロトロンの閉軌道誤差を補正する軌道補正手段を備えたことにある。
【0013】
本発明のシンクロトロンでは、多極電磁石の設置地点における閉軌道誤差が0となるようシンクロトロンの閉軌道誤差を補正することができるため、シンクロトロン中の多極電磁石の励磁量を変更した際の閉軌道誤差の発生を抑制することが可能である。これにより、多極電磁石の励磁量を変更する際に閉軌道誤差の発生によるチューンの変化が抑制されるため、多極電磁石の励磁量を変更した後のチューン測定及び測定結果に基づいた四極電磁石の励磁量の設定が不要となり、シンクロトロンを調整する際の負担が軽減される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シンクロトロン中の多極電磁石の励磁量を変更する際の閉軌道誤差の発生によるチューンの変化を抑制することができるため、シンクロトロンを調整する際の負担を軽減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態であるシンクロトロンの構成を表す概念図である。
【図2】本発明の第2の実施形態であるシンクロトロンの構成を表す概念図である。
【図3】本発明の第3の実施形態であるシンクロトロンの構成を表す概念図である。
【図4】本発明の第4の実施形態であるシンクロトロンの構成を表す概念図である。
【図5】本発明の第1の実施形態における四極電磁石及びビーム位置モニタの設置状態をビーム進行方向から見た概念図である。
【図6】本発明の第2の実施形態における六極電磁石及びビーム位置モニタの設置方法をビーム進行方向から見た概念図である。
【図7】本発明の第1の実施形態における四極電磁石及びビーム位置モニタの設置状態を水平方向から見た概念図である。
【図8】本発明の第2の実施形態における六極電磁石及びビーム位置モニタの設置方法を水平方向から見た概念図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に適用されるビーム位置モニタの電極の構造を表す斜視図である。
【図10】本発明の第1の実施形態における四極電磁石の励磁量を調整する手順を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2の実施形態におけるシンクロトロンのクロマティシティを調整する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。
【0017】
(実施形態1)
本実施形態のシンクロトロンは、図1に示すように、入射器1より低エネルギービーム輸送系2を経由して入射されるイオンビーム(以下、入射ビームという)を所定のエネルギーまで加速し、シンクロトロンとイオンビームを照射する対象(以下、照射対象という)とを繋ぐ高エネルギービーム輸送系3へ取り出すものである。
【0018】
シンクロトロンは、イオンビームの軌道を偏向して環状の周回軌道を形成する偏向電磁石10,シンクロトロンの周回軌道上に四極磁場以上の多極磁場を発生させる多極電磁石(本実施例では、四極磁場を生成し、シンクロトロン中を周回するイオンビーム(以下、周回ビームという)を収束あるいは発散する四極電磁石)11,六極電磁石12,高周波加速空胴13,ビーム位置モニタ14,水平ステアリング電磁石15,高周波キッカ16,入射用インフレクタ18,出射用デフレクタ19を備える。ビーム位置モニタ14は、四極電磁石11とビーム進行方向において重なるように(入れ子状に)設置されている。シンクロトロン中の電磁石は、電磁石の種類ごとに異なる電磁石電源(図示せず)に接続され、電磁石電源が発生する励磁電流は、シンクロトロン制御装置20により制御される。電磁石電源の員数を低減するため、偏向電磁石10は、単一の偏向電磁石電源(図示せず)に直列に接続されており、四極電磁石11は、単一の四極電磁石電源(図示せず)に直列に接続されている。つまり、本実施例のシンクロトロンに備えられる4台の偏向電磁石10は、全てが直列に接続され、1台の偏向電磁石電源に接続される。同様に、本実施例に備えられる全ての四極電磁石11が直列に接続され、1台の四極電磁石電源に接続される。このような構成であるため、偏向電磁石電源及び四極電磁石電源の個数を減らすことができ、コストを低減できる。また、1台の偏向電磁石電源が4台の偏向電磁石10に励磁電流を供給する構成であるため、偏向電磁石11の間で励磁電流がずれることによる閉軌道のずれを防止することができる。
【0019】
入射器1からのイオンビームは、入射用インフレクタ18により偏向されてシンクロトロンの周回軌道に入射される。四極電磁石11は周回ビームに四極磁場を印加し、周回ビームの水平・垂直チューンをビームが安定に周回できる値に保持する。高周波加速空胴13は、周回ビームにビーム進行方向の高周波電圧を印加して周回ビームをビーム進行方向の安定領域(以下、高周波バケットという)に捕獲するとともに、周回ビームを所定のエネルギー(陽子の場合、例えば70〜220MeV)まで加速する。シンクロトロンが周回ビームを加速する間、シンクロトロン制御装置20は、偏向電磁石10及び四極電磁石11の励磁量を周回ビームの運動量に比例して増加させる。四極電磁石11の励磁量を周回ビームの運動量に比例して増加させることにより、周回ビームの運動量と四極電磁石11の励磁量の比が一定に保たれるため、周回ビームが四極電磁石11から受ける収束力が一定となり、周回ビームのチューンは加速中もほぼ一定の値に保たれる。周回ビームの加速が完了した後、シンクロトロン制御装置20は四極電磁石11の励磁量を変化させ、周回ビームの水平チューンを1/3の整数倍に近い値に変更する。六極電磁石12は、周回ビームに六極磁場を印加し、水平方向の位相空間上にベータトロン振動の不安定領域(セパラトリクス)を形成する。高周波キッカ16は、セパラトリクスの形成後に周回ビームに水平方向の高周波電圧(以下、出射RFという)を印加し、周回ビームの水平エミッタンスを増大させる。水平エミッタンスが増大し、セパラトリクスの外に出た周回ビーム粒子は、水平方向のベータトロン振動の振幅が急激に増大し、出射用デフレクタ19に入射する。出射用デフレクタ19は、出射用デフレクタ19に入射したビーム粒子を偏向し、高エネルギービーム輸送系3へ取り出す。周回ビームの取り出しが完了した後、シンクロトロンはシンクロトロンから取り出されずに残った周回ビーム粒子をビーム入射時のエネルギーまで減速し、入射器1からの次のビーム入射に備える。
【0020】
ビーム位置モニタ14は、ビーム位置モニタ14の設置地点における周回ビームの水平方向の中心位置(周回ビームの水平位置)を測定し、測定結果をシンクロトロン制御装置20に出力する。シンクロトロン制御装置20は、ビーム位置モニタ14による周回ビームの水平位置の測定結果を表示することのできる表示装置(図示せず)を備えるため、シンクロトロンの運転者はビーム位置モニタ14の地点における周回ビームの水平位置を知ることができる。ビーム位置モニタ14は四極電磁石11と入れ子状にして設置されているため、ビーム位置モニタ14により測定される周回ビームの水平位置は、四極電磁石11の地点における周回ビームの水平位置と一致する。
【0021】
本実施形態における四極電磁石11及びビーム位置モニタ14の構成について、図5を用いて説明する。図5は、四極電磁石11及び四極電磁石11と入れ子状にして設置されたビーム位置モニタ14を、四極電磁石11のビーム進行方向における中心位置において、ビーム進行方向と垂直な平面から見た断面図である。図5では、右方向が水平方向、上方向が垂直方向、紙面奥方向がビーム進行方向である。四極電磁石11は、磁極30,コイル31により構成され、四極電磁石のコイル31は四極電磁石11の電源(図示せず)あるいはシンクロトロン中の他の四極電磁石11のコイルに接続されている。四極電磁石のコイル31に電磁石電源からの電流を流すことにより、四極電磁石11の磁極30の間には四極磁場が発生する。周回ビーム粒子を水平方向に偏向する垂直方向の磁場の強度は、四極電磁石11の中心からの水平方向の距離に比例し、周回ビーム粒子を垂直方向に偏向する水平方向の磁場の強度は、四極電磁石11の中心からの垂直方向の距離に比例する。
【0022】
四極電磁石11の磁極30中には周回ビームを通過させるための真空ダクト40が設置されており、真空ダクト40中には4枚の電極41L,41R,42L,42Rが設置されている。ビーム位置モニタ14は、真空ダクト40及び電極41,42により構成される。垂直方向に対向する電極41L,42Lと41R,41Lはそれぞれ電気的に接続されており、周回ビームが電極の間を通過する際に電極42Lと電極42Rの間(あるいは電極41Lと電極41Rの間)に誘起される電圧が信号処理装置50に出力される。信号処理装置50は、電極42L,42Rからの電圧信号を処理して周回ビームの水平位置を求め、結果をシンクロトロン制御装置20に周回ビームの水平位置の測定結果として出力する。四極電磁石11とビーム位置モニタ14は、ビーム進行方向に垂直な平面において中心位置が一致する様に設置されているため、周回ビームの水平位置が四極電磁石11の水平方向の中心と一致する場合に、周回ビームの水平位置の測定結果は0となる。
【0023】
図7は、四極電磁石11及びビーム位置モニタ14を水平方向から見た図であり、図中右方向がビーム進行方向、図中上方向が垂直方向である。ビーム位置モニタ14は、ビーム進行方向について四極電磁石11と重なる(入れ子状になる)ように配置されているため、ビーム位置モニタ14により四極電磁石11の設置地点における周回ビームの水平位置を測定することが可能である。本実施形態では、ビーム進行方向においてビーム位置モニタ14の中心と四極電磁石11の中心が一致するようにビーム位置モニタ14及び四極電磁石11を設置しているが、ビーム位置モニタ14を構成する電極41L,41R,42L,42Rと四極電磁石11の磁極30にビーム進行方向について重なる部分があるような構成であれば、ビーム位置モニタ14によって四極電磁石11の位置における周回ビームの水平位置の測定が可能である。本実施形態では、ビーム位置モニタ14を構成する電極41L,41R,42L,42Rと四極電磁石11の磁極30がビーム進行方向において重なる部分を持つことを、ビーム位置モニタ14と四極電磁石11が入れ子状になっていると表現する。
【0024】
ビーム位置モニタ14を構成する電極41L,41R,42L,42Rの斜視図を図9に示した。同一平面上にある2個の電極、電極41L及び41R,電極42L及び42Rは、それぞれ斜めの切り込みによって分断され、三角形形状に形成されている。電極41L,41Rと電極42L,42Rは周回ビームを挟んで対向するように設置されており、電極41Lと電極42L及び電極41Rと電極42Rがそれぞれ電気的に接続されている。ビーム位置モニタ14を周回ビームが通過すると、電極41L,42L及び電極41R,42Rには、周回ビームの水平位置、即ち水平方向の閉軌道誤差に応じた電荷が誘起される。電極41L,42L,41R,42Rに誘起された電荷は接地電極(図示せず)に対する電圧として信号処理装置50に出力され、信号処理装置50は電極41L,42L,41R,42Rから出力された電圧信号を処理して周回ビームの水平位置を求め、結果を周回ビームの水平位置の測定結果としてシンクロトロン制御装置20に出力する。
【0025】
本実施形態のシンクロトロンは、陽子などのイオンビームの位置を測定する際に一般的に用いられる三角電極型のビーム位置モニタ14を備えている。三角電極型のビーム位置モニタ14の代わりに、電子ビームの位置を測定する際に一般的に用いられるボタン電極型のビーム位置モニタを用いてもよい。また、水平・垂直両方向のビーム位置を測定することが可能なビーム位置モニタを四極電磁石11と入れ子状にして設置してもよい。
【0026】
ビーム位置モニタ14による周回ビームの水平位置の測定結果に基づいて水平ステアリング電磁石15の励磁量を調節し、シンクロトロンの水平方向の閉軌道誤差(以下、水平閉軌道誤差と表記)を補正する手法について説明する。まず、シンクロトロンの水平閉軌道誤差を補正したい時点(例えば周回ビームの高周波捕獲直後)におけるステアリング電磁石15の励磁量を0に設定し、シンクロトロンを運転して水平閉軌道誤差を補正したい時点における補正前の周回ビームの水平位置をビーム位置モニタ14により測定する。次に、周回ビームの水平位置の測定結果に基づいて、ビーム位置モニタ14地点における周回ビームの水平位置がビーム位置モニタ14の中心と一致する、即ちビーム位置モニタ14地点における水平閉軌道誤差を0とするようなステアリング電磁石15の励磁量の組み合わせを求める。水平ステアリング電磁石15の励磁量と水平閉軌道誤差の補正量の関係は、数式1に示す様にビーム位置モニタ14の地点における水平閉軌道誤差の補正量が、ステアリング電磁石14による蹴り量と正方行列Aの積で表されるものとなる。本実施形態のシンクロトロンは、ビーム位置モニタ14及び水平ステアリング電磁石15を4台ずつ備えた構成であるため、Aは4×4の正方行列となる。正方行列Aは、シンクロトロンの機器配置及び運転条件から解析的に求めることができる。あるいは、水平ステアリング電磁石15の励磁量を一台だけ単独で変化させた際の水平閉軌道誤差の変化量から正方行列Aを試験的に求めることも可能である。水平閉軌道誤差を補正するために必要な水平ステアリング電磁石15の蹴り量は、水平閉軌道誤差の補正量に正方行列Aの逆行列を左からかけることにより求まり、水平ステアリング電磁石15の蹴り量から水平ステアリング電磁石15の励磁量、即ち水平ステアリング電磁石15の励磁電流が求められる。水平閉軌道誤差を補正したい時点における水平ステアリング電磁石15の励磁電流を、上記手法により求めた閉軌道誤差の補正に必要な水平ステアリング電磁石の励磁電流となるよう設定することにより、シンクロトロンの水平閉軌道誤差が補正され、ビーム位置モニタ14地点における周回ビームの水平位置が0の状態となる。
【0027】
【数1】

【0028】
粒子線治療等に用いられる小型のシンクロトロンでは、垂直方向の閉軌道誤差(以下、垂直閉軌道誤差と呼ぶ)は水平閉軌道誤差に比べて小さくなる傾向がある。従って、垂直閉軌道誤差については補正を行わなかったとしても、閉軌道誤差によるビーム損失は起こりにくい。また、偏向電磁石が発生する磁場は垂直方向の位置に依存する六極磁場成分をほとんど持たないため、周回ビームが偏向電磁石中で垂直閉軌道誤差を持っていても、閉軌道誤差によるチューンの変化が問題とならない。本実施形態では、シンクロトロンに設置する機器の員数を低減しシンクロトロンを小型かつ安価なものとするため、水平閉軌道誤差についてのみ補正を行う構成とした。垂直についても閉軌道誤差の補正を行う場合、水平・垂直両方向の周回ビーム位置を測定することが可能なビーム位置モニタを四極電磁石11と入れ子状にして設置し、周回ビーム粒子を垂直方向に偏向するステアリング電磁石(垂直ステアリング電磁石)を新たに設置する。この場合、ビーム位置モニタ地点における水平・垂直両方向の周回ビーム位置を測定し、水平ステアリング電磁石と同様にして垂直ステアリング電磁石の励磁量を設定することにより、水平・垂直両方向の閉軌道誤差の補正が可能である。
【0029】
周回ビームのチューンの測定結果に基づいて四極電磁石11の励磁量を設定し、チューンを目標とする値(目標チューン)に変更する手順について図10を用いて説明する。ここでは水平チューンを調整する手順について説明するが、垂直チューンを調整する場合、あるいは水平チューン,垂直チューンの両方を同時に調整する場合においても調整の手順自体は同様である。また、四極電磁石11の励磁量とは、以下の式で示す様に四極電磁石11が発生する磁場の勾配を周回ビーム粒子の磁気剛性率で除した値を指す。
【0030】
【数2】


ここで、Bρは周回ビーム粒子の磁気剛性率、Byは四極電磁石11が発生する磁場の水平方向の位置xにおける垂直方向の成分である。
【0031】
まず始めに、チューンを調整したい時点において、現在の四極電磁石11の励磁量に対応したチューンを測定する(手順1)。周回ビームのチューンは、例えば周回ビームに広帯域の高周波電圧を高周波キッカ16により印加し、チューンを測定したい時点における周回ビーム位置の測定結果を時間方向について周波数解析することで求めることができる。次に、現在のチューンの測定結果と目標チューンからチューンの調整量を求め、チューンの調整量に基づいた四極電磁石11の励磁量の変更量を算出する(手順2)。チューンの調整量と四極電磁石11の励磁量の変更量の関係は、以下の式により表される。
【0032】
【数3】


ここで、Δνxはチューンの調整量、Nはシンクロトロン中に設置される四極電磁石11の員数、


は四極電磁石11の励磁量の変更量、Lは四極電磁石11の磁極長、βxは四極電磁石11地点におけるシンクロトロンの水平方向のベータトロン関数である。現在の四極電磁石11の励磁量に上記四極電磁石11の励磁量の変更量を加算して求めた新しい励磁量の設定値を四極電磁石11に設定し、シンクロトロンを運転する(手順3)。新しい四極電磁石11の励磁量に対応したチューンを測定する(手順4)。手順4で測定したチューンと目標チューンの差が許容範囲内に収まっているか確認し、チューンが許容範囲内に収まっているようであれば調整を終了する。チューンが許容範囲から外れている場合、手順4で測定したチューンと目標チューンからチューンの調整量を求め、チューンの調整量に基づいて再度四極電磁石11の励磁量を変更する。このように、チューンが許容範囲に収まるまで上記手順2から手順5までを繰り返すことにより、チューンが目標値と一致するように四極電磁石11の励磁量を設定することが可能である。
【0033】
四極電磁石11の励磁量を変更する際に閉軌道誤差が発生すると、周回ビームが偏向電磁石10中で受ける四極磁場の強度が変化し、四極電磁石11の励磁量を変更した後のチューンと目標チューンとの間にずれが生じる。この場合、チューンを目標値と一致させるためには、チューンの測定及び四極電磁石11の励磁量の変更を繰り返し行わねばならず、シンクロトロンを調整する際の負担が増大していた。本実施形態のシンクロトロンでは、水平ビーム位置モニタ14が四極電磁石11と入れ子状になるように設置されているため、周回ビームの水平位置が水平ビーム位置モニタ14の水平方向の中心を通るように水平閉軌道誤差を補正することにより、周回ビームの水平位置を四極電磁石11の水平方向の中心に一致させることが可能である。周回ビームの水平位置が四極電磁石11の水平方向中心に一致している場合、四極電磁石11の励磁量を変化させても周回ビームの中心における磁場の強度が変化しないため、四極電磁石11の励磁量の変更により水平閉軌道誤差が発生しない。これにより、四極電磁石11の励磁量を変更してチューンを調整する際に、水平閉軌道誤差の発生によるチューンのずれを抑制できるため、一回の調整でチューンを目標値と一致させることが可能となり、シンクロトロンの調整にかかる負担が軽減される。
【0034】
また、本実施形態では、四極電磁石11の地点における周回ビームの水平位置をビーム位置モニタ14により直接測定することが可能であるため、複数台ある四極電磁石11の励磁電流を個別に制御せずとも四極電磁石11地点における周回ビームの水平位置を知ることができる。これにより、四極電磁石11の励磁電流を個別に制御するための追加の機器(例えば分流器)が必要でなくなるため、シンクロトロンの構成が簡略化される。
【0035】
(実施形態2)
本実施形態のシンクロトロンは、第1の実施形態と同様、周回ビームの水平位置を測定するビーム位置モニタと周回ビームに多極磁場を印加する多極電磁石を備えたシンクロトロンである。本実施形態のシンクロトロンの構成を図2に示した。本実施形態のシンクロトロンは、図1に示した実施形態1のシンクロトロンと同様の構成を有するが、水平ビーム位置モニタ14を四極電磁石11と入れ子状にして設置する代わりに、水平ビーム位置モニタ14を六極電磁石12と入れ子状になるよう設置した構成を有する。
【0036】
水平ビーム位置モニタ14は、実施形態1と同様水平ビーム位置モニタ14の設置地点における周回ビームの水平位置を測定し、測定結果をシンクロトロン制御装置20に出力する。水平ビーム位置モニタ14は六極電磁石12と入れ子状にして設置されているため、水平ビーム位置モニタ14により測定される周回ビームの水平位置は、六極電磁石12の位置における周回ビームの水平位置と一致する。
【0037】
本実施形態における六極電磁石12及びビーム位置モニタ14の構成について、図6を用いて説明する。図6は、六極電磁石12及び六極電磁石12と入れ子状にして設置されたビーム位置モニタ14を、六極電磁石12のビーム進行方向における中心位置において、ビーム進行方向と垂直な平面から見た断面図である。図6では、右方向が水平方向、上方向が垂直方向、紙面奥方向がビーム進行方向である。六極電磁石12は、磁極60,コイル61により構成され、コイル61は六極電磁石12の電源(図示せず)に接続されている。六極電磁石のコイル61に電磁石電源からの電流を流すことにより、六極電磁石12の磁極60の間には六極磁場が形成される。周回ビーム粒子を水平方向に偏向する垂直方向の磁場の強度は、六極電磁石12の中心からの水平方向の距離の二乗に比例する。
【0038】
六極電磁石12の磁極60中に設置されたビーム位置モニタ14の構成は、実施形態1と同様である。六極電磁石12とビーム位置モニタ14は、ビーム進行方向に垂直な平面において中心位置が一致する様設置されるため、周回ビームの水平位置が六極電磁石12の水平方向の中心と一致する場合に、周回ビームの水平位置の測定結果は0となる。
【0039】
図8は、六極電磁石12及びビーム位置モニタ14を水平方向から見た図であり、図中右方向がビーム進行方向、図中上方向が垂直方向である。ビーム位置モニタ14は、ビーム進行方向について六極電磁石12と重なる(入れ子状になる)ように配置されているため、ビーム位置モニタ14により六極電磁石12の位置における周回ビームの水平位置を測定することが可能である。本実施形態では、ビーム進行方向においてビーム位置モニタ14の中心と六極電磁石12の中心が一致するようにビーム位置モニタ14及び六極電磁石12を設置しているが、ビーム位置モニタ14を構成する電極41L,41R,42L,42Rと六極電磁石12の磁極60にビーム進行方向について重なる部分があるような構成であれば、ビーム位置モニタ14によって六極電磁石12の位置における周回ビームの水平位置の測定が可能である。本実施形態では、ビーム位置モニタ14を構成する電極41L,41R,42L,42Rと六極電磁石12の磁極60がビーム進行方向において重なる部分を持つことを、ビーム位置モニタ14と六極電磁石12が入れ子状になっていると表現する。
【0040】
本実施形態のシンクロトロンでは、実施形態1と同様、ビーム位置モニタ14による周回ビームの水平位置の測定結果に基づいて水平ステアリング電磁石15の励磁量を変更することにより、シンクロトロンの水平方向の閉軌道誤差(水平閉軌道誤差)を補正することが可能である。本実施形態では、ビーム位置モニタ14と六極電磁石12が入れ子状に設置されているため、水平閉軌道誤差を周回ビームの水平位置が六極電磁石の水平方向中心と一致する様に補正できる。
【0041】
周回ビームに六極電磁石12からの六極磁場を印加することにより、シンクロトロンのクロマティシティを目標とする値(目標クロマティシティ)に調整する手順について説明する。クロマティシティとは、運動量のずれを持つ周回ビーム粒子のチューンを中心運動量からのずれで除した値である。クロマティシティの絶対値が大きい場合、運動量のずれを持つ周回ビーム粒子のチューンが中心運動量を持つ周回ビーム粒子のチューンから大きく変化し、ベータトロン振動の共鳴によるビーム損失を生じる恐れがある。シンクロトロンのクロマティシティの測定結果に応じて六極電磁石12の励磁量を設定することにより、クロマティシティの絶対値を小さな値に調整し、ベータトロン振動の共鳴の発生を抑制することが可能である。クロマティシティは水平・垂直方向それぞれについて定義されるが、ここでは水平方向のクロマティシティを調整する手順についてのみ説明する。垂直クロマティシティを調整する場合、水平クロマティシティ,垂直クロマティシティの両方を同時に調整する場合の調整手順は、水平クロマティシティを調整する場合の調整手順と同様である。なお、六極電磁石の励磁量とは、以下の式で示す様に六極電磁石12が発生する磁場の二階微分を周回ビーム粒子の磁気剛性率で除した値を指す。
【0042】
【数4】


ここで、Bρは周回ビーム粒子の磁気剛性率、Byは六極電磁石12が発生する磁場の水平方向の位置xにおける垂直方向の成分である。
【0043】
六極電磁石12によりシンクロトロンのクロマティシティを調整する手順を図11に示した。まず始めに、クロマティシティを調整したい時点において現在の四極電磁石11及び六極電磁石12の励磁量に対応したクロマティシティを測定する(手順1)。シンクロトロンのクロマティシティは、偏向電磁石10の励磁量を一定に保った状態で周回ビームの運動量を変更しながらチューンを測定し、チューンの変化量を運動量の変更量で除することにより求められる。チューンの測定方法は実施形態1と同様である。クロマティシティはチューンの測定結果から求めるため、クロマティシティを測定する際には同時に現在の四極電磁石11の励磁量に対応するチューンの測定結果が得られる。次に、現在のクロマティシティの測定結果と目標クロマティシティからクロマティシティの調整量を求め、クロマティシティの調整量に基づいた六極電磁石12の励磁量の変更量を算出する(手順2)。クロマティシティの調整量と六極電磁石12の励磁量の変更量の関係は、以下の式により表される。
【0044】
【数5】


ここで、Δξxはクロマティシティの調整量、Nはシンクロトロン中に設置される六極電磁石12の員数、


は六極電磁石12の励磁量の変更量、Lは六極電磁石12の磁極長、βxは六極電磁石12地点における水平方向のベータトロン関数、ηxは六極電磁石12地点における水平方向のディスパージョンである。現在の六極電磁石12の励磁量に上記六極電磁石12の励磁量の変更量を加算して求めた新しい励磁量の設定値を六極電磁石12に設定し、シンクロトロンを運転する(手順3)。新しい六極電磁石12の励磁量に対応したチューン及びクロマティシティを測定する(手順4)。手順1及び手順4で得られたチューンの測定結果を比較し、六極電磁石の励磁量を変更したことによるチューンの変化量が許容範囲内に収まっていることを確認する(手順5)。チューンが許容範囲を超えて変化している場合、実施形態1と同様の手順によりチューンを調整する(手順6)。チューンの変化量が許容範囲内に収まっている場合、手順4のクロマティシティの測定結果を目標クロマティシティと比較し、測定結果と目標クロマティシティの差が許容範囲内に収まっていれば調整を終了する(手順7)。クロマティシティの測定結果が許容範囲から外れている場合、測定結果と目標値との差分からクロマティシティの調整量を求め、クロマティシティの調整量に基づいて再度六極電磁石12の励磁量を変更する。このように、クロマティシティが許容範囲に収まるまで上記手順1から手順7までを繰り返すことにより、クロマティシティが目標値と一致する様に六極電磁石12の励磁量を設置することが可能である。
【0045】
六極電磁石12の励磁量を変更する際に閉軌道誤差が発生すると、実施形態1と同様閉軌道誤差によるチューンのずれが生じる。また、周回ビームが六極電磁石12の中心から離れた位置を通過する場合、六極電磁石12の励磁量を変更すると周回ビームが六極電磁石12から受ける四極磁場の強度が変化するため、これによってもチューンのずれが生じる。従って、六極電磁石12地点における閉軌道誤差が0でない場合、チューンを一定に保ちながらクロマティシティを調整するには、六極電磁石12の励磁量を変更する度にチューンの調整(手順6)を実施する必要があり、シンクロトロンを調整する際の負担が増大していた。
【0046】
本実施形態のシンクロトロンでは、水平ビーム位置モニタ14が六極電磁石12と入れ子状になるように設置されているため、周回ビームの水平位置が水平ビーム位置モニタ14の水平方向の中心を通るように水平閉軌道誤差を補正することにより、周回ビームの水平位置を六極電磁石12の水平方向の中心に一致させることが可能である。周回ビームの水平位置が六極電磁石12の水平方向中心に一致している場合、六極電磁石12の励磁量を変化させても周回ビームの中心における磁場の強度が変化しないため、六極電磁石12の励磁量の変更により水平閉軌道誤差が発生しない。また、周回ビームが六極電磁石12の中心を通過する場合には、六極電磁石12の励磁量を変更しても周回ビームが六極電磁石12から受ける四極磁場の強度が変化しない。これらにより、本実施形態のシンクロトロンでは六極電磁石12の励磁量を変更してクロマティシティを調整する際のチューンの変化を抑制できるため、クロマティシティ調整時のチューン調整が不要となり、シンクロトロンの調整にかかる負担が軽減される。
【0047】
(実施形態3)
本実施形態のシンクロトロンは、第1の実施形態と同様、周回ビームの水平位置を測定するビーム位置モニタと周回ビームに多極磁場を印加する多極電磁石を備えたシンクロトロンである。本実施形態のシンクロトロンの構成を図3に示した。本実施形態のシンクロトロンは図1に示した実施形態1のシンクロトロンと同様の構成を有するが、水平ステアリング電磁石を備えておらず、複数台ある偏向電磁石10の励磁量を個別に制御することにより水平方向の閉軌道誤差を補正する構成を有する。実施形態1のシンクロトロンでは、複数台ある偏向電磁石が単一の電磁石電源に直列に接続されているが、本実施形態のシンクロトロンでは、偏向電磁石10の励磁量を個別に制御するため、複数台ある偏向電磁石10はそれぞれ個別の電源(図示せず)に接続されている。このように、本実施例のシンクロトロンは、1台の偏向電磁石に対して1台の偏向電磁石電源が個々に接続され、偏向電磁石と同じ数の偏向電磁石電源を備える。このため偏向電磁石10の励磁電流を個別に制御可能となり、偏向電磁石10を用いてシンクロトロンの水平閉軌道の誤差を補正することができるようになる。本実施例では、シンクロトロンに備えられる偏向電磁石10(本実施例では4台)と同じ数(4台)の偏向電磁石電源を備える例を示したが、2台の偏向電磁石電源を備える場合であっても、偏向電磁石10を用いてシンクロトロンの水平閉軌道の誤差を補正することが可能となる。つまり、2台以上の偏向電磁石電源を備えることによって、シンクロトロンの水平閉軌道の誤差を補正可能となる。
【0048】
ビーム位置モニタ14による周回ビームの水平位置の測定結果に基づいて偏向電磁石10の励磁量を個別に制御し、シンクロトロンの水平閉軌道誤差を補正する手法について説明する。まず、シンクロトロンの水平閉軌道誤差を補正したい時点における偏向電磁石10の励磁量を全て等しい値に設定し、シンクロトロンを運転して閉軌道誤差を補正したい時点における補正前の周回ビームの水平位置をビーム位置モニタ14により測定する。水平軌道誤差を補正する前の偏向電磁石10の励磁量の設定値は、周回ビームのエネルギーにより決定される。次に、周回ビームの水平位置の測定結果に基づいて、ビーム位置モニタ14の位置における水平閉軌道誤差を0とするような励磁量の調整量をそれぞれの偏向電磁石10について求める。
【0049】
本実施形態のシンクロトロンはビーム位置モニタ14と同じ数の、個別に励磁量を制御可能な偏向電磁石10を備えるため、偏向電磁石10の励磁量の調整量と水平閉軌道誤差の補正量の関係は、実施形態1のシンクロトロンと同様、水平閉軌道誤差の補正量が偏向電磁石10の励磁量の調整量と正方行列の積で表されるものとなる。従って、本実施形態のシンクロトロンでは、実施形態1と同様にして水平閉軌道誤差の補正に必要な偏向電磁石10の励磁量の補正量を求められる。偏向電磁石10の励磁量の調整量と水平閉軌道誤差の補正量を関係付ける正方行列は、シンクロトロンの機器配置及び運転条件から解析的に求めることができる。あるいは、偏向電磁石10の内の一台の励磁量を単独で変化させた場合の水平閉軌道誤差の変化量から、上記正方行列を試験的に求めることも可能である。水平閉軌道誤差を補正したい時点における偏向電磁石10の励磁量を、周回ビームのエネルギーにより定まる励磁量に、上記水平閉軌道誤差の補正に必要となる励磁量の補正量を加えた値に設定することにより、シンクロトロンの水平閉軌道誤差が補正され、ビーム位置モニタ14地点における周回ビームの水平位置が0の状態となる。
【0050】
本実施形態のシンクロトロンは、ビーム位置モニタ14と四極電磁石11が入れ子状に設置された構成を有するため、四極電磁石11の励磁量の変更による水平閉軌道誤差の発生を抑制できる。これにより、本実施形態のシンクロトロンは、実施形態1と同様、シンクロトロンを調整する際の負担を軽減することが可能である。
【0051】
小型のシンクロトロンにおいては、直線部に設置する機器の設置面積を低減して直線部を短縮するために、ビーム位置モニタと水平ステアリング電磁石を入れ子状に設置することがある。このような構成のシンクロトロンでは、ビーム位置モニタと四極電磁石を入れ子状に設置しても水平ステアリング電磁石は直線部に単独で設置されるため、直線部の長さはビーム位置モニタと四極電磁石を入れ子状に設置しない場合と同等であった。本実施形態のシンクロトロンは、ビーム位置モニタ14を四極電磁石11と入れ子状になるよう設置し、水平ステアリング電磁石を設置せずに偏向電磁石10の励磁量を個別に制御して水平閉軌道誤差を補正する構成を有するため、実施形態1の効果に加えて、シンクロトロンの直線部を短縮し、設置面積を低減することが可能である。
【0052】
(実施形態4)
本実施形態のシンクロトロンは、第2の実施形態と同様、周回ビームの水平位置を測定するビーム位置モニタと周回ビームに多極磁場を印加する多極電磁石を備えたシンクロトロンである。本実施形態のシンクロトロンの構成を図4に示した。本実施形態のシンクロトロンは図2に示した実施形態2のシンクロトロンと同様の構成を有するが、実施形態3のシンクロトロンと同様水平ステアリング電磁石を備えておらず、複数台ある偏向電磁石10の励磁量を個別に制御することにより水平方向の閉軌道誤差を補正する構成を有する。
【0053】
本実施形態のシンクロトロンは、偏向電磁石10の励磁量を個別に制御することができるため、実施形態3と同様の手法により周回ビームの水平位置がビーム位置モニタ14の水平方向中心を通過する様にシンクロトロンの水平閉軌道誤差を補正することが可能である。また、本実施形態のシンクロトロンは、ビーム位置モニタ14と六極電磁石12が入れ子状に設置された構成を有するため、実施形態2と同様、周回ビームの水平位置が六極電磁石12の水平方向中心を通過する様にシンクロトロンの水平閉軌道誤差を補正することが可能である。
【0054】
本実施形態のシンクロトロンは、ビーム位置モニタ14と六極電磁石12が入れ子状に設置された構成を有するため、六極電磁石12の励磁量の変更による水平閉軌道誤差の発生を抑制できる。また、周回ビームが六極電磁石12の中心を通過する場合、六極電磁石12の励磁量を変化させる際に、周回ビームが六極電磁石12から受ける四極磁場の強度が変化しない。これらにより、本実施形態のシンクロトロンは、実施形態2と同様、シンクロトロンを調整する際の負担を軽減することが可能である。また、本実施形態のシンクロトロンは、ビーム位置モニタ14を六極電磁石12と入れ子状になるよう設置し、水平ステアリング電磁石を設置せずに偏向電磁石10の励磁量を個別に制御して水平閉軌道誤差を補正する構成を有するため、実施形態3と同様シンクロトロンの直線部を短縮し、シンクロトロンの設置面積を低減することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 入射器
2 低エネルギービーム輸送系
3 高エネルギービーム輸送系
10 偏向電磁石
11 四極電磁石
12 六極電磁石
13 高周波加速空胴
14 ビーム位置モニタ
15 水平ステアリング電磁石
16 高周波キッカ
18 入射用インフレクタ
19 出射用デフレクタ
20 シンクロトロン制御装置
30 四極電磁石の磁極
31 四極電磁石のコイル
40 真空ダクト
41L,41R,42L,42R ビーム位置モニタ14の電極
50 信号処理装置
60 六極電磁石の磁極
61 六極電磁石のコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速して出射するシンクロトロンであって、
前記シンクロトロン中を周回する荷電粒子ビームの位置を測定するビーム位置モニタと、
前記シンクロトロン中を周回する前記荷電粒子ビームの軌道を補正する軌道補正手段と、
前記シンクロトロンの周回軌道上に四極磁場以上の多極磁場を発生させる多極電磁石とを備え、
前記ビーム位置モニタと前記多極電磁石が入れ子状に設置されていることを特徴とするシンクロトロン。
【請求項2】
請求項1に記載のシンクロトロンであって、
前記ビーム位置モニタと入れ子状に設置される前記多極電磁石のうち少なくとも一台が四極磁場を発生させる四極電磁石であることを特徴とするシンクロトロン。
【請求項3】
請求項3に記載のシンクロトロンであって、
前記偏向電磁石を励磁することが可能な電磁石電源を少なくとも2台備えたことを特徴とするシンクロトロン。
【請求項4】
請求項1に記載のシンクロトロンであって、
前記ビーム位置モニタと入れ子状に設置される前記多極電磁石のうち少なくとも一台が六極磁場を発生させる六極電磁石であることを特徴とするシンクロトロン。
【請求項5】
請求項4に記載のシンクロトロンであって、
前記偏向電磁石を励磁することが可能な電磁石電源を少なくとも2台備えたことを特徴とするシンクロトロン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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