説明

シース熱電対及びその製造方法

【課題】ドローイング時の蛇行を有効に防止することができ、これにより測定精度や絶縁特性を維持できるとともに、各熱電対素線の断面積を大きくして劣化やシャントエラー等の影響を無くすることが可能となるシース熱電対およびその製造方法を提供せんとする。
【解決手段】各熱電対素線31,32の外周面34,34における他の熱電対素線が存在しないシース内壁20に対向する側の領域R1を、該内壁20の面に略平行な曲面形状に構成し、当該領域R1と前記シース内壁20との間に介在する無機絶縁物の層の厚みd1が略均等となるように形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シース熱電対に係わり、特に高温耐久性やシャントエラーの低減が要求される場面に好適なシース熱電対およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電対は、種類の異なる二本の素線を接続し、この接続部(温接点)間に温度差が生じたとき閉回路に熱起電力が発生し、回路に電流が流れるゼーペック効果を利用して温度を測定するものである。シース熱電対は、熱電対素線を金属シース内に納め、酸化マグネシウム(MgO)等の無機絶縁物で充填密封して一体化したものである。
【0003】
従来のシース熱電対は、先端が互いに接続された断面円形の二本の熱電対素線を当該接続部で折り返した形に平行に配し、棒状の金属シース基端から挿入して、温接点をシース先端部分に位置させるとともに、シース基端側を片持ち状に支持することで先端側を被測定流体中に突出させ、当該温接点が位置するシース先端の部分で温度測定するものである(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0004】
このような従来のシース熱電対の製造は、金属シース内に熱電対素線と無機絶縁物を充填したのち、ドローイングして所定の外径寸法に調整して作製される。この際、熱電対素線とシース内壁との間の隙間、熱電対素線同士の隙間が均一でないため、金属シース、熱電対素線と無機絶縁物相互間に空間が残っているなど空隙密度に偏りがあると、ドローイングにより無機絶縁物を介し熱電対素線に不均一な力が作用して熱電対素線が大きく蛇行し、径方向へのズレ及び歪な断面形状を呈し、また、金属シースの肉厚も不均一となり、測定精度および引張り強度などの品質に大きく影響する。
【0005】
一方、1000℃を越える高温測定用の熱電対素線として、たとえばプラス側素線にニッケル−クロム合金、マイナス側素線にニッケル合金が用いられるが、とくにマイナス側素線は高温での劣化が大きく、また、シャントエラー低減のためにはプラス側素線を太くし、抵抗を小さくすることが求められ、いずれの熱電対素線も断面積を太くする要求がある。
【0006】
しかしながら、従来のシース熱電対では、上述のドローイング時の熱電対素線の蛇行を考慮した十分な絶縁空間を、熱電対素線と金属シース内壁、熱電対素線相互間にそれぞれ確保する必要があり、熱電対素線自体の断面積を大きくするには限界があった。
【0007】
【特許文献1】実開平4−106734号公報
【特許文献2】特開平8−82557号公報
【特許文献3】特開2001−165780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、ドローイング時の蛇行を有効に防止することができ、これにより測定精度や絶縁特性を維持できるとともに、各熱電対素線の断面積を大きくして劣化やシャントエラー等の影響を少なくすることが可能となるシース熱電対およびその製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題解決のために、金属シース内部に、先端に温接点を備えた少なくとも一対の熱電対素線およびこれら熱電対素線と金属シースの隙間を埋める無機絶縁物を収容してなるシース熱電対において、各熱電対素線の外周面における他の熱電対素線が存在しないシース内壁に対向する側の領域を、該内壁面に略平行な曲面形状に構成し、当該領域と前記シース内壁との間に介在する無機絶縁物の層の厚みが略均等であることを特徴とするシース熱電対を構成した。
【0010】
ここで、各熱電対素線の外周面における他の熱電対素線に隣接する側の領域を、互いに略平行な平面形状に構成し、当該隣接する隙間に介在する無機絶縁物の層の厚みが略均等となるものが好ましい。
【0011】
とくに、前記隣接する隙間に介在する無機絶縁物の層の厚みを、各熱電対素線の外周面における他の熱電対素線が存在しないシース内壁に対向する側の領域と該シース内壁との間に介在する無機絶縁物の層の厚みと略同じになるように構成する。
【0012】
具体的には、各熱電対素線の断面形状を、前記金属シース内部に収納される熱電対素線の対の数に応じて、円弧部が前記シース内壁に対向する側の領域に対応し、且つ半径部が他の熱電対素線に隣接する側の領域に対応する略扇形に構成したものが好ましい。
【0013】
とくに、前記金属シース内部に熱電対素線を一対のみ収容し、各熱電対素線の断面形状を略半円形に構成したものが好ましい実施例である。
【0014】
また、前記各熱電対素線を、断面視略楕円形状に構成したものでもよい。
【0015】
以上の本発明に係るシース熱電対は、前記熱電対素線と無機絶縁物を前記金属シース内に組み込んだ状態でシース長手方向にわたり径方向に加圧した後、ドローイング加工により所定径に縮径させることにより製造できる。
【0016】
ここで、前記無機絶縁物を、予め長手方向に各熱電対素線に対応する形状の複数の貫通孔を有し、前記金属シース内に装入される略円柱状に粒子を固めて成形し、該無機絶縁物とその貫通孔に挿通された熱電対素線とを前記金属シース内に組み込み、その状態でシース長手方向にわたり径方向に加圧して隙間を無くすことで仮固定した後、前記ドローイング加工により所定径に縮径させる製造方法が好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上にしてなる本願発明に係るシース熱電対およびその製造方法によれば、各熱電対素線の外周面における他の熱電対素線が存在しないシース内壁に対向する側の領域を、該内壁面に略平行な曲面形状に構成し、当該領域と前記シース内壁との間に介在する無機絶縁物の層の厚みを略均等に構成したので、ドローイング時の蛇行を最小限に防止することができ、これにより測定精度や絶縁特性を維持できる。
【0018】
そして、このように蛇行を防止できることから、熱電対素線と金属シース内壁、熱電対素線相互間にそれぞれ十分な絶縁空間を確保する必要がなくなり、熱電対素線の断面積を大きくすることが可能となり、各熱電対素線の劣化やシャントエラー等の影響を少なくすることが可能となる。
【0019】
とくに、各熱電対素線の外周面における他の熱電対素線に隣接する側の領域を、互いに略平行な平面形状に構成し、当該隣接する隙間に介在する無機絶縁物の層の厚みが略均等としたので、ドローイング時の蛇行をより確実に防止できる。
【0020】
さらに、前記隣接する隙間に介在する無機絶縁物の層の厚みを、各熱電対素線の外周面における他の熱電対素線が存在しないシース内壁に対向する側の領域と該シース内壁との間に介在する無機絶縁物の層の厚みと略同じになるように構成し、各熱電対素線の大きさを最大限に大きく設定しつつ、蛇行を防止し、良好な絶縁特性を得ることが可能となる。
【0021】
また、熱電対素線と無機絶縁物を前記金属シース内に組み込んだ状態でシース長手方向にわたり径方向に加圧した後、ドローイング加工により所定径に縮径させるので、空間をなくした状態でドローすることから、ドローイング時の延びが均一となり、狙いどおりの均一なシース肉厚が得られ、径方向へのズレも最小限に抑え、高品質を維持できる。
【0022】
また、無機絶縁物を、予め長手方向に各熱電対素線に対応する形状の複数の貫通孔を有し、前記金属シース内に装入される略円柱状に粒子を固めて成形し、該無機絶縁物とその貫通孔に挿通された熱電対素線とを前記金属シース内に組み込み、その状態でシース長手方向にわたり径方向に加圧して隙間を無くすことで仮固定した後、前記ドローイング加工により所定径に縮径させたので、効率よく高品質なシース熱電対を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0024】
図1(a)は、本発明に係るシース熱電対の測温部近傍の先端側の構成を示す部分縦断面図であり、図中(b)はそのA−A断面図である。図中符号1はシース熱電対、2は金属シース、31、32は熱電対素線、4は無機絶縁物をそれぞれ示している。
【0025】
本発明のシース熱電対1は、図1(a)に示すように、金属シース内部に、先端に温接点33を備えた少なくとも一対の熱電対素線31,32が内挿され、これら熱電対素線31,32と金属シース2の隙間を埋める無機絶縁物4を収容したものであり、とくに各熱電対素線31,32は、図1(b)の横断面図に示すように、外周面34,34における他の熱電対素線が存在しないシース内壁20に対向する側の領域R1が、該内壁20の面に略平行な曲面形状に構成されており、当該領域R1と前記シース内壁20との間に介在する無機絶縁物の層の厚みd1が略均等となるように形成されていることを特徴とする。
【0026】
本実施形態では、特に高温耐久性やシャントエラーの低減が要求される場面、たとえばガスタービンや蒸気タービン、石油化学プラント等の高温・高速流体の温度測定に好適に用いられるものであるが、特に限定されない。
【0027】
また、金属シース2は基端側において図示しないスリーブ状の保護管で支持し、端子箱から延出した補償導線で測定器に接続される耐圧防爆型シース熱電対として構成されるが、本発明はこのような構造に何ら限定されず、端子箱を介することなく補償導線を直接つないだものや脱着コネクタを設けたものなど、従来と同様の種々の型のシース熱電対として構成することができる。
【0028】
金属シース2の外径は、従来よく用いられている0.5〜8mmのものに何ら限定されず、それよりも細いものや太いものも同様に採用できる。また、金属シース2はオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304、SUS316等)やニッケルクローム系耐熱合金(インコネル等)からなる従来と同様のものを用いることができ、シース内に充填される無機絶縁物4は酸化マグネシウム(MgO)等が用いられるが、これらに何ら限定されるものではない。熱電対素線は、たとえばプラス側素線にニッケル−クロム合金、マイナス側素線にニッケル合金が用いられる。
【0029】
本実施形態のシース熱電対1は、各熱電対素線31,32の外周面34における他の熱電対素線に隣接する側の領域R2が、互いに略平行な平面形状に構成されており、当該隣接する隙間に介在する無機絶縁物の層の厚みd2も略均等となるように形成されている。
【0030】
すなわち、図1に示す本例の各熱電対素線31,32は、金属シース2の内部に熱電対素線31,32が一対のみ収容され、各熱電対素線31,32の断面形状は略半円形に構成されている。これにより、隣接する隙間に介在する無機絶縁物4の層の厚みd2は、シース内壁20に対向する側の領域R1と該シース内壁20との間に介在する無機絶縁物4の層の厚みd1と略同じになるように形成されている。
【0031】
なお、本例では、少なくとも各熱電対素線31,32のシース内壁20に対向する領域R1が内壁20に略平行な曲面形状に構成されておればよく、各熱電対素線31,32の隣接する側の領域R2は平面形状とする必要はかならずしもなく、例えば図2に示すように各熱電対素線31,32の双方を断面視略楕円形状に構成したものや、図示しないが、一方を略楕円形に構成し、他方をこれに平行な略三日月形に構成し、隣接する隙間に介在する無機絶縁物の層の厚みを略均等となるように形成したものも好ましい。
【0032】
本実施形態に係るシース熱電対1の作製は、まず、二本の熱電対素線31,32を無機絶縁物とともに金属シース2内に挿着する。無機絶縁物4は、予め長手方向に各熱電対素線に対応する形状の複数の貫通孔を有し、前記金属シース内に装入される略円柱状に粒子を固めて成形したものであり、該無機絶縁物の成形体とその貫通孔に挿通された熱電対素線とを前記金属シース内に組み込み、その状態でシース長手方向にわたり径方向に加圧して、シース内部の隙間を無くして仮固定した後、前記ドローイング加工により全体を引き伸ばして所定径に縮径させる。成形体の貫通孔は、これに挿通される熱電対素線の断面形状に応じた形状とされる。また、径方向への加圧による仮固定は、好ましくはスエージング加工により行われる。
【0033】
なお、成形体を作製することなく、金属シース内部に熱電対素線を挿通した後、その隙間に粒子状の無機絶縁物を加圧充填したものでもよい。この場合も、その後にシース長手方向にわたり径方向に加圧して隙間を無くすことで仮固定した後、前記ドローイング加工により所定径に縮径させることとなる。
【0034】
その後は、従来と同様、熱電対素線31,32の先端同士を寄せて溶接し、温接点33を形成した後、無機絶縁物を埋め込んで、金属シース2の端部を溶接により塞いでシース先端の測温部が構成される。
【0035】
以上の実施形態では、熱電対素線31,32を一対のみ内挿したシース熱電対を示しているが、複数対内挿しても良い。その場合、たとえば図3(a)に示すように、各熱電対素線31A,32A,31B,32Bの断面形状は、金属シース内部に収納される熱電対素線の対の数に応じて、円弧部が前記シース内壁20に対向する側の領域R1に対応し、且つ半径部が他の熱電対素線に隣接する側の領域R2に対応する略扇形に構成されている。3対以上の場合も同様に、各熱電対素線を均等な略扇形に構成すればよい。また、図3(b)に示すように、各熱電対素線31A,32A,31B,32Bの断面形状を略楕円形に形成してもよい。
【0036】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)は、本発明に係るシース熱電対の測温部近傍の先端側の構成を示す部分縦断面図、(b)は、そのA−A断面図。
【図2】熱電対素線の断面形状を略楕円形とした変形例を示す横断面図。
【図3】(a)は、熱電対素線を複数対設けた変形例を示す横断面図、(b)は更にその変形例を示す横断面図。
【符号の説明】
【0038】
1 シース熱電対
2 金属シース
4 無機絶縁物
20 内壁
31,32 熱電対素線
31A,32A,31B,32B 熱電対素線
33 温接点
34 外周面
R1 領域
R2 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シース内部に、先端に温接点を備えた少なくとも一対の熱電対素線およびこれら熱電対素線と金属シースの隙間を埋める無機絶縁物を収容してなるシース熱電対において、各熱電対素線の外周面における他の熱電対素線が存在しないシース内壁に対向する側の領域を、該内壁面に略平行な曲面形状に構成し、当該領域と前記シース内壁との間に介在する無機絶縁物の層の厚みが略均等であることを特徴とするシース熱電対。
【請求項2】
各熱電対素線の外周面における他の熱電対素線に隣接する側の領域を、互いに略平行な平面形状に構成し、当該隣接する隙間に介在する無機絶縁物の層の厚みが略均等であることを特徴とする請求項1記載のシース熱電対。
【請求項3】
前記隣接する隙間に介在する無機絶縁物の層の厚みを、各熱電対素線の外周面における他の熱電対素線が存在しないシース内壁に対向する側の領域と該シース内壁との間に介在する無機絶縁物の層の厚みと略同じになるように構成してなる請求項2記載のシース熱電対。
【請求項4】
各熱電対素線の断面形状を、前記金属シース内部に収納される熱電対素線の対の数に応じて、円弧部が前記シース内壁に対向する側の領域に対応し、且つ半径部が他の熱電対素線に隣接する側の領域に対応する略扇形に構成してなる請求項1〜3の何れか1項に記載のシース熱電対。
【請求項5】
前記金属シース内部に熱電対素線を一対のみ収容し、各熱電対素線の断面形状を略半円形に構成してなる請求項4記載のシース熱電対。
【請求項6】
前記各熱電対素線を、断面視略楕円形状に構成してなる請求項1記載のシース熱電対。
【請求項7】
前記熱電対素線と無機絶縁物を前記金属シース内に組み込んだ状態でシース長手方向にわたり径方向に加圧した後、ドローイング加工により所定径に縮径させる請求項1〜6の何れかに記載のシース熱電対の製造方法。
【請求項8】
前記無機絶縁物を、予め長手方向に各熱電対素線に対応する形状の複数の貫通孔を有し、前記金属シース内に装入される略円柱状に粒子を固めて成形し、該無機絶縁物とその貫通孔に挿通された熱電対素線とを前記金属シース内に組み込み、その状態でシース長手方向にわたり径方向に加圧して隙間を無くすことで仮固定した後、前記ドローイング加工により所定径に縮径させてなる請求項7記載のシース熱電対の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−89494(P2008−89494A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272711(P2006−272711)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(390007744)山里産業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】