説明

シース電線

【課題】コアとシースとの間隙を埋めて、コアの振動等による不都合を解決する。
【解決手段】シース電線1は、複数本の絶縁電線12がそれぞれ撚り合わされた複数本のコア10−1〜10−3と、そのコア10−1〜10−3を被覆する絶縁性の筒状のシース20とを有している。シースの外周面には、軸方向に沿って所定間隔に第1の凹部21と第2の凹部22とが交互に直交する方向に形成加工され、その凹部21,22の内周面がコア10−1〜10−3に圧接している。各コア10−1〜10−3は、可撓性の補強芯線11の周りに複数本の絶縁電線12が撚り合わされて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドホン、イヤホン、マイクロホン、イヤホン・マイクロホン等と携帯オーディオ機器、携帯電話機等とを接続するためのシース電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シース電線は、例えば、特許文献1に記載されているように、導体を絶縁体で被覆した絶縁芯線であるコアを複数本(例えば、3極用のものでは3本)有し、この3本のコアの外周が、合成樹脂製のシースにより被覆されている。シースは、例えば、押出成型機や射出成型機を用い、3本のコアの外周に合成樹脂を押し出し、あるいは射出して成形され、主として機械的保護を目的として設けられる。押出成形あるいは射出成形で被覆したシースは、コアの外周に密着している。その密着力の程度は、シース電線端末に端子等を取り付ける際に必要なシース除去長さ程度の短い長さについては、シースを輪切りにしてコアから抜き取ることができる程度である。
【0003】
特許文献1に記載された技術では、端子等の取り付けを容易にするために、コアに対してシースを摺動可能に設けて、コアとシースとの間の密着力を小さくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−63215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のシース電線では、次の(A)〜(C)のような課題があった。
【0006】
(A) コアとシースとの間の密着力が小さいと、シース電線に加わる衝撃、振動、通電等により、コアとシースとの間隙の大きさが変化してコア間の線間容量が変化したり、コアの振動によりノイズが発生し、シース電線に流れる信号が劣化する等の不都合が生じる。
【0007】
(B) 前記(A)の不都合を解消するために、コアとシースとの間の密着力を大きくすることも行われている。密着力を大きくする方法としては、例えば、収縮記憶合成樹脂等によりシースを成形してコアを押さえ込む方法、電線製造時にコアを加熱して合成樹脂製のシースをそのコアに溶着させる方法、あるいは、合成樹脂製のシースの射出時に加圧してコアを固定する方法等がある。
【0008】
(C) しかし、前記(B)の方法では、コアとシースとの間の密着力が大きくなるので、後工程の加工時においてシース電線端末のシースを除去する作業が困難になったり、シースをコアに密着させればさせる程、可撓性が低下して後工程の加工等が困難になるといった欠点がある。
【0009】
本発明は、このような従来の課題を解決し、コアとシースとの間隙を埋めて、コアの振動等による不都合を解決できるシース電線を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のシース電線は、複数本の絶縁電線がそれぞれ撚り合わされた複数本のコアと、前記複数本のコアを被覆する絶縁性の筒状のシースとを有し、前記シースの外周面には、軸方向に沿って所定間隔に第1の凹部と第2の凹部とが交互に直交する方向に形成加工され、前記第1及び第2の凹部の内周面が前記コアに圧接していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシース電線によれば、シースの外周面に、第1の凹部と第2の凹部とが交互に直交する方向に形成加工され、その第1及び第2の凹部の内周面がコアに圧接しているので、次の(a)〜(e)のような効果がある。
【0012】
(a) 伝播振動の減衰率が増大するため、シース電線を伝播するノイズが小さくなる。
【0013】
(b) 可撓性が向上するため、後工程の加工が容易になると共に、使用時において束ねやすく、携帯にも便利である。
【0014】
(c) シースの外周面に第1及び第2の凹部が形成されているので、他の物との接触面積が小さくなり、表面摩擦抵抗が減少する。そのため、表面摩擦により発生するノイズが小さくなる。
【0015】
(d) 複数本のコア間における線間容量の変動が小さく、安定しているため、シース電線を流れる信号の劣化や、ノイズの発生等が少ない。
【0016】
(e) コアの引き抜き力が大きくなるため、断線等を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるシース電線を示す構成図である。
【図2】図2は図1のシース電線1の使用例を示すY字型ヘッドホンの構成図である。
【図3】図3は図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける可撓性の試験方法を示す図である。
【図4】図4は図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける表面摩擦音の試験方法を示す図である。
【図5】図5は図4の試験結果を示す図である。
【図6】図6は図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける振動伝播特性1の試験方法を示す図である。
【図7】図7は図6の試験結果を示す図である。
【図8】図8は図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける振動伝播特性2の試験方法を示す図である。
【図9】図9は図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける図8の試験結果を示す図である。
【図10】図10は図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける振動伝播特性3の試験方法を示す図である。
【図11】図11は図10の試験結果を示す図である。
【図12】図12は図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける容量変化の試験方法を示す図である。
【図13】図13は図12の試験結果を示す図である。
【図14】図14は図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける線間容量変化の電圧検出試験方法を示す図である。
【図15】図15は図14の試験結果を示す図である。
【図16】図16は図14においてシース電線1a又は1Aaに対して定振動を印加した時の容量変化をオシロスコープeoにて確認測定した結果を示す図である。
【図17】図17は図14においてシース電線1a又は1Aaに対して衝撃を印加した時の容量変化をオシロスコープeoにて確認測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0019】
(実施例1の構成)
図1(a)、(b)は、本発明の実施例1におけるシース電線を示す構成図であり、同図(a)は全体の斜視図、及び同図(b)は形成加工前の拡大斜視図である。
【0020】
このシース電線1は、ヘッドホン、イヤホン、マイクロホン、イヤホン・マイクロホン等と携帯オーディオ機器、携帯電話機等とを接続するための線径が例えば1.0mm〜2.0mm程度の3芯用の電線であって、3本のコア10(=10−1,10−2,10−3)と、これらを被覆する絶縁性のシース20とにより構成されている。
【0021】
各コア10は、可撓性の補強芯線11と、この周りに撚り合わされた複数本(例えば、14本程度)の絶縁電線12とにより構成されている。各コア10における補強芯線11は、1本又は複数本のアラミド繊維等の補強繊維(例えば、径0.1mm程度)により形成されている。各コア10の絶縁電線12は、コア相互を区別するために、各コア10毎に異なる色(例えば、自然色である透明、緑色、赤色の3色)に着色され、シース電線1の端末を加工する際のコア分離作業(即ち、仕分け作業)を容易にしている。各絶縁電線12は、導体が樹脂で絶縁被覆されたポリウレタン銅線(例えば、導体径0.06mm)により構成されている。なお、各絶縁電線12は、ポリウレタン銅線以外の他の合成エナメル線により構成してもよい。
【0022】
絶縁性のシース20は、筒状(例えば、断面円形の管状)をなし、軟質性の合成樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)等)により形成されている。断面円形の管状をなすシース20によって3本のコア10−1〜10−3が被覆された形成加工前のシース電線1Aが、図1(b)に示されている。シース20の外周面には、軸方向に沿って所定間隔に第1の凹部21と第2の凹部22とが、交互に直交する水平方向Xと垂直方向Yとに形成加工され、この第1及び第2の凹部21,22の内周面が3本のコア10−1〜10−3に圧接している。シース20の外周面に凹部21,22が形成加工された形成加工後の本実施例1のシース電線1が、図1(a)に示されている。
【0023】
(実施例1のシース電線の製造例)
図1(a)のシース電線1を製造する場合、例えば、ドラムに巻き取られた複数本の絶縁電線12を繰り出し、この複数本の絶縁電線12を所定距離ずらしながら補強芯線11の周りに撚り合わせて各コア10−1,10−2,10−3をそれぞれ形成し、ドラムに巻き取る。ドラムに巻き取られた3本のコア10−1〜10−3を繰り出し、押出成型機あるいは射出成型機により、その3本のコア10−1〜10−3の外周に合成樹脂を押し出し、あるいは射出して、断面円形の管状をなすシース20で被覆し、形成加工前の図1(b)のシース電線1Aを形成してドラムに巻き取る。ドラムに巻き取られた形成加工前のシース電線1Aを繰り出し、水平方向Xと垂直方向Yとに所定間隔で交互にローラ又はプレス等で加熱及び加圧成形すれば、第1の凹部21と第2の凹部22とが交互に直交する方向に形成され、これをドラムに巻き取れば、図1(a)の3芯用のシース電線1の製造が終了する。
【0024】
(実施例1のシース電線の使用例)
図2は、図1のシース電線1の使用例を示すY字型ヘッドホンの構成図である。
【0025】
このY字型ヘッドホン30は、Y字型コード40と、電気信号を音声に変換する左耳用の第1のヘッドホン本体(例えば、インナーイヤー型のヘッドホン本体)50−1と、電気信号を音声に変換する右耳用の第2のヘッドホン本体(例えば、インナーイヤー型のヘッドホン本体)50−2と、リモートコントロール部又は携帯用音響機器(例えば、MDプレーヤ、CDプレーヤ等)等のジャックに挿着されるプラグ60とにより構成されている。
【0026】
Y字型コード40は、図1(a)の3芯用のシース電線1、及び図示しない2芯用のシース電線により形成されており、このY字型に分岐する分岐箇所41には、第1の分岐コード部42及び第2の分岐コード部43が延設されると共に、共通コード部44が延設されている。共通コード部44は、図1(a)の3芯用のシース電線1により形成されている。各分岐コード部42,43は、図1(a)の3芯用のシース電線1に代えて、2本のコア10がシース20により被覆された図示しない2芯用のシース電線により形成されている。
【0027】
第1の分岐コード部42の端末には、左耳用のインナーイヤー型ヘッドホン本体50−1が接続され、第2の分岐コード部43の端末にも、右耳用のインナーイヤー型ヘッドホン本体50−2が接続されている。左耳用のヘッドホン本体50−1と右耳用のヘッドホン本体50−2とは、同一構造であり、例えば、内部に電気/音声変換器であるドライバユニットを収納したケース51と、このケース51の開口部に装着され、外耳道に挿入されるイヤーピース52等とにより構成されている。共通コード部44の端末には、プラグ60が接続されている。
【0028】
このような構成のY字型ヘッドホン30の使用時において、使用者は、例えば、プラグ60を携帯用音響機器のジャックへ挿入し、各ヘッドホン本体50−1,50−2のイヤーピース52を耳へ挿入する。これにより、両耳で携帯用音響機器からの音楽を聴くことができる。音楽を聴いている時、Y字型コード40のある部分(例えば、共通コード部44の一部)が使用者の被服や人体等に接触して機械的な振動が生じた場合、この振動によるタッチノイズ(雑音として聞こえる接触性雑音)は、分岐箇所41及び分岐コード部42,43を経由してヘッドホン本体50−1,50−2へ伝播するが、その共通コード部44及び分岐コード部42,43を構成している3芯用シース電線1及び2芯用シース電線により吸収されて抑圧される。そのため、ヘッドホン本体50−1,50−2に伝わるタッチノイズが減少し、聴いている音楽の邪魔をすることもないので、不快感を感じることもない。
【0029】
(実施例1のシース電線の特性試験)
本実施例1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aについて、以下の(1)〜(7)の特性試験を行った。
【0030】
(1) 可撓性の試験
図3は、図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける可撓性の試験方法を示す図である。
【0031】
本実施例1のシース電線1の端末にプラグ60を接続し、このシース電線1をガイドパイプ61に挿入する。シース電線1のプラグ60側をガイドパイプ61の端部から一定長L1(例えば、100mm)、引き出す。比較のために、形成加工前のシース電線1Aの端末にもプラグ60Aを接続し、このシース電線1Aをガイドパイプ61Aに挿入する。シース電線1Aのプラグ60A側をガイドパイプ61Aの端部から一定長L1(=100mm)、引き出す。ガイドパイプ61,61Aを水平に保持すると、シース電線1,1Aは、自重で鉛直方向に曲がる。この時の曲げRの差で可撓性の大きさを判定した。
【0032】
判定結果は、図3に示すように、シース電線1に凹部21,22を形成加工することにより、可撓性が大幅に向上することが、曲げRの変化から確認できた。
【0033】
(2) 表面摩擦音の試験
図4は、図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける表面摩擦音の試験方法を示す図である。更に、図5(a)、(b)は、図4の試験結果を示す図であり、同図(a)は形成加工前のシース電線1Aの試験結果を示すオシロスコープの波形図、及び、同図(b)は本実施例1のシース電線1の試験結果を示すオシロスコープの波形図である。図5(a),(b)のオシロスコープの波形図において、横軸は時間(秒(s))、及び、縦軸はノイズ音圧(mV)である。
【0034】
図4に示すように、シース電線1の端末にヘッドホン本体50−1を接続する。このヘッドホン本体50−1の電線引き出し箇所には、電線保護用の筒状弾性部材であるブッシング53が装着されている。ヘッドホン本体50−1のイヤーピース52をカプラ(結合器)54に挿入する。このカプラ54の内部には、マイクロホン55が装着されている。ブッシング53から引き出されたシース電線1において、ブッシング53の先端から所定距離L2(例えば、10mm程度)離れた部分のシース電線1を指で挟み、左右の回転を加える。ブッシング53の内周面とシース電線1の外周面との摩擦により、ノイズ音圧がカプラ54内に発生するので、そのノイズ音圧(mV)をマイクロホン55で測定した。比較のために、形成加工前のシース電線1Aについても同様の測定を行った。
【0035】
図5(b)に示す本実施例1のシース電線1は、図5(a)に示す形成加工前のシース電線1Aに比べて、表面摩擦音のノイズ音圧(mV)が小さいことが確認できた。
【0036】
(3) 振動伝播特性1の試験
図6は、図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける振動伝播特性1の試験方法を示す図である。更に、図7は、図6の試験結果を示す図であり、本実施例1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aの試験結果を表すオシロスコープの波形が示されている。図7のオシロスコープの波形図において、横軸は時間(ms)、及び、縦軸はノイズ音圧(mV)である。
【0037】
図6に示すように、絶縁電線が内蔵された線ファスナ70を用意する。線ファスナ70は、左右の線状に並んだエレメント(務歯)71−1,71−2と、スライダ(開閉部品)72とを備え、そのスライダ72を動かすことで、左右のエレメント71−1,71−2同士が順に組み合わさってゆき、自在に開閉できる構造になっている。左右のエレメント71−1,71−2内には、絶縁電線がそれぞれ収容されている。
【0038】
一方のエレメント71−1の端末には、シース電線1の一方の端末を接続する。シース電線1の他方の端末には、ヘッドホン本体50−1を接続し、このヘッドホン本体50−1のイヤーピース52をカプラ54に挿入する。このカプラ54の内部には、マイクロホン55が装着されている。同様に、他方のエレメント71−1Aの端末にも、形成加工前のシース電線1Aの一方の端末を接続する。シース電線1Aの他方の端末には、ヘッドホン本体50−1Aを接続し、このヘッドホン本体50−1Aのイヤーピース52Aをカプラ54Aに挿入する。このカプラ54Aの内部には、マイクロホン55Aが装着されている。
【0039】
線ファスナ70のスライダ72を移動すると、左右のエレメント71−1,71−2の噛み合わせで発生した振動が、シース電線1,1Aを介してヘッドホン本体50−1,50−1Aへ伝播する。スライダ72を1往復させて、カプラ54,54A内のマイクロホン55,55Aで振動ノイズ音圧(mV)を測定し、スライダ72の移動により発生する振動ノイズがシース電線1,1Aを介してヘッドホン本体50−1,50−1Aへ伝播するまでの減衰量を比較した。
【0040】
図7に示すように、シース電線1におけるノイズ音圧(mV)のピークツーピーク(p−p)の値と、形成加工前のシース電線1Aにおけるノイズ音圧(mV)のピークツーピーク(p−p)の値と、を比較すると、シース電線1Aに比べてシース電線1の方が、振動ノイズの減衰量が大きいことが確認できた。
【0041】
(4) 振動伝播特性2の試験
図8は、図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける振動伝播特性2の試験方法を示す図である。更に、図9(a)、(b)は、図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける図8の試験結果を示す図であり、同図(a)は振動伝播周波数特性を示す周波数分析器の結果の図、及び、同図(b)はノイズ音圧信号特性を示すオシロスコープの波形図である。図9(a)の横軸は周波数(Hz)、縦軸は音圧レベル(SPL)であり、図9(b)の横軸は時間(ms)、縦軸はノイズ音圧(mV)である。
【0042】
図8に示すように、シース電線1の一方の端末にヘッドホン本体50−1を接続する。ヘッドホン本体50−1におけるケース51には、イヤーピース52が取り付けられている。イヤーピース52をカプラ54に挿入する。このカプラ54の内部には、マイクロホン55が装着されている。同様に、形成加工前のシース電線1Aの一方の端末にヘッドホン本体50−1Aを接続し、このヘッドホン本体50−1Aにおけるケース51Aに取り付けられたイヤーピース52Aをカプラ54Aに挿入する。
【0043】
そして、各シース電線1,1Aの他方の端末にそれぞれ一定の振動VR1(例えば、周波数55Hz、振幅ピークツーピーク3mm(3mmp−p)の定振幅振動)を加える。加えられた振動VRは、各シース電線1,1Aの一方の端末にそれぞれ接続された各ヘッドホン本体50−1,50−1Aのケース51,51Aへ伝播する。各ケース51,51Aは、伝播された振動VRによりそれぞれ加振される。各イヤーピース52,52Aがそれぞれ挿入された各カプラ54,54Aの内部では、各ケース51,51Aの振動が空気室の圧力変化となり、音圧変化となってノイズ音圧(mV)がそれぞれ発生する。各カプラ54,54A内のマイクロホン55,55Aにより、ノイズ音圧信号をそれぞれ検出し、各シース電線1,1Aの振動伝播特性をそれぞれ測定した。
【0044】
図9(a)に示すように、シース電線1の振動伝播周波数特性は、形成加工前のシース電線1Aの振動伝播周波数特性に比べて、低レベルであることが確認できた。
【0045】
又、図9(b)に示すように、振動伝播特性を表すシース電線1におけるノイズ音圧信号の振幅は、形成加工前のシース電線1Aにおけるノイズ音圧信号の振幅に比べて、約17dB程、小さいことが確認できた。
【0046】
(5) 振動伝播特性3のノイズ音圧(mV)試験
図10は、図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける振動伝播特性3の試験方法を示す図である。更に、図11(a)、(b)は、図10の試験結果を示す図であり、本実施例1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aの試験結果を表すオシロスコープの波形が示されている。図11(a)、(b)のオシロスコープの波形図において、横軸は時間(ms)、及び、縦軸はノイズ電圧(mV)である。
【0047】
図10に示すように、平行に配置した2本のシース電線1,1Aの両端を固定治具80,81で固定し、その各シース電線1,1Aに一定の張力を加える。各シース電線1,1Aに衝撃振動Pを印加し、その各シース電線1,1Aに接続した測定器82によりノイズ電圧を測定した。
【0048】
図11(a)に示すように、形成加工前のシース電線1Aに衝撃振動Pを印加すると、そのシース電線1Aが振動して大きな振幅のノイズ電圧が発生した。
【0049】
又、図11(b)に示すように、シース電線1に衝撃振動Pを印加すると、そのシース電線1が振動して、シース電線1Aよりも小さな振幅のノイズ電圧が発生した。
【0050】
図11(a)、(b)の測定結果より、各シース電線1,1Aに衝撃振動Pをそれぞれ印加した場合、シース電線1の振動抑制力は、形成加工前のシース電線1Aの振動抑制力よりも大きいことが確認できた。
【0051】
(6) 容量変化の試験
図12は、図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける容量変化の試験方法を示す図である。更に、図13は、図12の試験結果を示す図であり、本実施例1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aの試験結果を表すオシロスコープの波形が示されている。図13のオシロスコープの波形図において、横軸は時間(ms)、及び、縦軸は発振電圧(V)である。
【0052】
図12に示すように、本実施例1の2芯用シース電線1a(例えば、長さ80cm)と、形成加工前の2芯用シース電線1Aa(例えば、長さ80cm)と、を用意する。コルピッツ発振回路90の入力端子INとグランドGNDとに、2芯用シース電線1a又は2芯用シース電線1Aaにおける2本のコア10−1,10−2の両端末(即ち、2芯用シース電線1a又は2芯用シース電線1Aaの線間容量に相当)を接続する。コルピッツ発振回路90は、1つのNPNトランジスタ90a(2SC668)、複数のコンデンサ90b(560pF),90c(220pF),90d(0.01μF),90e(0.01μF),90f(100μF)、1つのインダクタ90g(10μH)、及び複数の抵抗90h(2KΩ),90i(20KΩ)により構成されている。このコルピッツ発振回路90の出力端子OUTに図示しないオシロスコープを接続し、2芯用シース電線1a又は2芯用シース電線1Aaに定振動を印加し、そのオシロスコープにより発振周波数をモニタ(検知)した。
【0053】
図13に示すように、各2芯用シース電線1a,1Aaに振動を加えると、FM変調Δfが掛かった発振波をオシロスコープにより観察できた。そのため、各2芯用シース電線1a,1Aaに振動を加えると、その線間容量が変化することが確認できた。
【0054】
(7) 線間容量変化の電圧検出試験
図14は、図1のシース電線1及び形成加工前のシース電線1Aにおける線間容量変化の電圧検出試験方法を示す図である。更に、図15は、図14の試験結果を示すオシロスコープの波形図である。図15のオシロスコープの波形図において、横軸は時間(ms)、及び、縦軸は容量検出電圧(V)である。
【0055】
図14に示すように、本実施例1の2芯用シース電線1a(例えば、長さ80cm)と、形成加工前の2芯用シース電線1Aa(例えば、長さ80cm)と、を用意する。線間容量変化検出回路91の第1の入力端子IN1と第2の入力端子IN2とに、2芯用シース電線1a又は2芯用シース電線1Aaにおける2本のコア10−1,10−2の両端末(即ち、2芯用シース電線1a又は2芯用シース電線1Aaの線間容量に相当)を接続する。線間容量変化検出回路91は、シース電線1a又は1Aaを1つのコンデンサとし、複数のコンデンサ91a(220pF),91b(0.01μF),91c(1μF)を用いた容量分割によってバイアス電圧91d(直流(DC)24V)を与える回路である。線間容量変化検出回路91の第1の出力端子OUT1及び第2の出力端子OUT2に、ハイ・インピーダンスプローブ92を接続する。ハイ・インピーダンスプローブ92は、抵抗92a(10MΩ)及びコンデンサ92b(23pF)が並列接続されたプローブ負荷を有している。コンデンサ92bの両電極間の電圧をオシロスコープeoにて観測した。
【0056】
2芯用シース電線1a又は1Aaに定振動VR2を印加すると、図15に示すように、そのシース電線1a又は1Aaにおける線間容量の変化が、バイアス点(即ち、出力端子OUT1,OUT2)の電圧変化となって現れる(バイアス電荷Q=容量値C×電圧V)。バイアス点(即ち、出力端子OUT1,OUT2)の電圧をハイ・インピーダンスプローブ92及びオシロスコープeoにて測定及び記録した。
【0057】
図16(a)、(b)は、図14においてシース電線1a又は1Aaに対して定振動VR2を印加した時の容量変化をオシロスコープeoにて確認測定した結果を示す図であり、同図(a)は横軸を時間(ms)、縦軸を線間容量変化量(pF)とした時の全体の波形図、及び、同図(b)は同図(a)の横軸を拡大した時の波形図である。
【0058】
図16(a)に示すように、シース電線1a又は1Aaに定振動VR2を印加すると、シース電線1aでは、線間容量の増減の変化が小さい。これに対し、シース電線1Aaでは、線間容量の増減の変化が非常に大きい。シース電線1Aaでは、図16(b)に示すように、線間容量変化波形の頂部において、線間隔が広がる方向へのリミッティング現象93が現れるので、線間容量の減少量が制限されていることが確認できた。
【0059】
図17(a)、(b)は、図14においてシース電線1a又は1Aaに対して衝撃VR3を印加した時の容量変化をオシロスコープeoにて確認測定した結果を示す図である。この図17(a)、(b)において、横軸は時間(ms)、縦軸はノイズ電圧(mV)である。
【0060】
図17(a)に示すように、シース電線1Aaに対して衝撃VR3を印加すると、このシース電線1Aaの線間容量が変化して、大きな振幅のノイズ電圧が発生する。これに対し、図17(b)に示すように、シース電線1aに対して衝撃VR3を印加すると、このシース電線1aの線間容量が変化して、小さな振幅のノイズ電圧が発生することが確認できた。
【0061】
又、本実施例1の3芯用シース電線1と形成加工前の3芯用シース電線1Aとの線間容量を測定した結果、シース電線1では平均が152pF/m程度、シース電線1Aでは平均が126pF/m程度であった。本実施例1のシース電線1では、加熱及び加圧により凹部21,22を形成しているので、コア間距離が小さくなり、約20%程度、線間容量値が増加している。しかし、定振動又は衝撃を印加した場合、本実施例1のシース電線1では、形成加工前の3芯用シース電線1Aに比べて、線間容量の変化が小さく、安定していることが確認できた。
【0062】
(実施例1の効果)
本実施例1のシース電線1,1aによれば、加熱及び加圧により凹部21,22を形成しているので、次の(a)〜(e)のような効果がある。
【0063】
(a) 伝播振動の減衰率が増大するため、シース電線1,1aを伝播するノイズが小さくなる。特に、本実施例1のシース電線1,1aをインナーイヤー型のヘッドホン本体50−1,50−2の音声信号伝送用に使用した場合、その効果が大きい。
【0064】
即ち、インナーイヤー型のヘッドホン本体50−1,50−2は、使用時に、イヤーピース52を耳の外耳道に挿入するため、外耳道が塞がれて密閉度が高く、音漏れ等を防止できる。反面、インナーイヤー型のヘッドホン本体50−1,50−2は、密閉度が高いために、コード40に生じたタッチノイズがヘッドホン本体50−1,50−2へ伝播すると、大きなノイズとなって耳から聞こえる、という問題が生じる。この対策として、本実施例1のシース電線1,aを使用すれば、コード伝播ノイズを低く抑える効果があるので、前記の問題を解決できる。
【0065】
(b) 可撓性が向上するため、後工程の加工が容易になると共に、束ねやすく、携帯にも便利である。
【0066】
(c) 凹部21,22が形成されているので、他の物との接触面積が小さくなり、表面摩擦抵抗が減少する。表面摩擦による発生するノイズが小さくなる。
【0067】
(d) コア10−1〜10−3間における線間容量の変動が小さく、安定しているため、シース電線1,1aを流れる信号の劣化や、ノイズの発生等が少ない。
【0068】
(e) コア10の引き抜き力が大きくなるため、断線等を防止できる。
【0069】
(変形例)
本発明は、上記実施例に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。この利用形態や変形例としては、例えば、次の(i)、(ii)のようなものがある。
【0070】
(i) 図1(a)、(b)のコア10−1〜10−3の本数は、2本や3本に限定されず、4本、5本、6本等の他の本数に変更し、これに応じて各コア10を異なる色(例えば、自然色である透明、緑色、赤色、その他の色)に着色して各コア10を区別する構成にしてもよい。又、各コア10を構成する絶縁電線12の材質、断面形状、導体径は、実施例1以外のものに変更してもよい。
【0071】
(ii) 図1(a)、(b)のシース電線1の断面構造、寸法、構成材料、製造方法等は、実施例1のものに限定されず、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1,1a シース電線
10,10−1,10−2,10−3 コア
11 補強芯線
12 絶縁電線
20 シース
21,22 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の絶縁電線がそれぞれ撚り合わされた複数本のコアと、
前記複数本のコアを被覆する絶縁性の筒状のシースとを有し、
前記シースの外周面には、軸方向に沿って所定間隔に第1の凹部と第2の凹部とが交互に直交する方向に形成加工され、前記第1及び第2の凹部の内周面が前記コアに圧接していることを特徴とするシース電線。
【請求項2】
前記各コアは、可撓性の補強芯線の周りに前記複数本の絶縁電線が撚り合わされて形成されていることを特徴とする請求項1記載のシース電線。
【請求項3】
前記絶縁電線は、ポリウレタン銅線を含む合成エナメル線であることを特徴とする請求項1又は2記載のシース電線。
【請求項4】
前記シースは、軟質性の合成樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシース電線。
【請求項5】
前記補強芯線は、補強繊維により形成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のシース電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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