説明

シートベルトリトラクタ取付構造

【課題】既存車種に対して最小限の変更で後部座席用シートベルト装置のリトラクタを取り付け可能とする。
【解決手段】車両の後部中央席の上体用シートベルト7を巻き取り可能なリトラクタ34を車体に取り付けるシートベルトリトラクタ取付構造であって、リトラクタ34を、電動テールゲート装置の駆動ユニット54の車体に対する支持位置にブラケット40を介して固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルトリトラクタ取付構造に関し、車両の後部座席に設けられた3点式シートベルト装置におけるリトラクタの車体への取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の後部座席に搭乗する乗員の安全性を向上させるために、車両の後部座席にも3点式シートベルト装置が必要とされてきている。
3点式シートベルト装置の上体用シートベルトは、座席の後方上部に設けられたリトラクタによりテンションが加えられている。3人掛け後部座席の中央席用の3点式シートベルト装置は、車体の左右いずれかの後部ピラーの上部にリトラクタが取り付けられ、車体後部天井の骨格部に支持されたガイドを通して上体用シートベルトが巻き取られる構成になっている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−302798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、後部座席の外側席用のシートベルトを支持する支持部材と中央席用のリトラクタの取付位置が近接しているが、車種によってはレイアウト上近接させることが困難な場合がある。特に、後部座席に3点式シートベルト装置のない1BOX車等の既存車種に対して、3点式シートベルト装置を追加する場合には、ピラー等の車体の強度部材の配置と後部座席の配置とがあらかじめ設定されてしまっていることから、例えばピラーの前方のボディパネルのように比較的強度の低い部位に後部中央席用のリトラクタを取付けなければならなくなる虞がある。また、例えピラーにリトラクタが固定可能であっても、リトラクタには車両衝突時に大きな荷重が作用するため、ピラーに補強部材を追加しなければならない場合がある。このように車体の強度の低い部位にリトラクタを取り付ける場合には、ピラーやボディパネルに強度部材を溶接する等、既存車種を大きく変更しなければならず、設計コストや部品コストが大幅に上昇する虞がある。
【0005】
本発明は、この様な問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、既存車種に対して車体の少ない変更で後部座席用シートベルト装置のリトラクタを取り付け可能とするシートベルトリトラクタ取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1のシートベルトリトラクタ取付構造は、車両の後部中央席の上体用シートベルトを巻き取り可能なリトラクタを車体に取り付けるシートベルトリトラクタ取付構造であって、車体には、車両の停車時に作動し、車両の走行時には非作動となり、作動時において非作動時よりも車体に大きく荷重が作用する駆動手段が支持され、リトラクタは、車体に対して駆動手段の支持位置に固定されることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2のシートベルトリトラクタ取付構造は、請求項1において、駆動手段は、車体の後部を上下方向に延びるピラーに固定された電動テールゲート装置の駆動ユニットであることを特徴とする。
また、請求項3のシートベルトリトラクタ取付構造は、請求項1または2において、リトラクタは、少なくとも駆動手段の支持位置を含む複数の箇所で車体に固定されるブラケットを介して車体に固定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、シートベルトのリトラクタが、車両の走行中で非作動となる駆動手段の支持位置で車体に固定される。一般的にシートベルトが使用される車両走行中では駆動手段は作動しないので、車両の衝突等によりリトラクタから車体に荷重が作用したとしても、同時には駆動手段から車体に荷重が作用せず、駆動手段の支持位置に発生する応力を抑えることができる。よって、車体に補強等を施さなくとも、駆動手段の支持位置を利用してリトラクタを支持することができ、駆動手段を備えた既存車種に対して車体の少ない変更でリトラクタを取り付けることが可能となり、後部中央席用に3点式シートベルト装置を容易に追加することができる。
【0009】
請求項2の発明によれば、駆動手段が車体の後部のピラーに固定された電動テールゲート装置の駆動ユニットであるので、電動テールゲート装置を備えた車両に対して、車体の少ない変更で後部中央席用の上体用シートベルトのリトラクタを取り付けることができる。
請求項3の発明によれば、リトラクタが、駆動手段の支持位置を含む複数の箇所で車体に固定されるブラケットを介して車体に固定されるので、駆動手段の支持位置だけでは強度が十分でない場合でも、リトラクタから車体に作用する荷重を分散させて、車体に固定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の後部座席の正面図である。
【図2】本実施形態のリトラクタの取付構造を示す拡大斜視図である。
【図3】ブラケットの上部の取付構造を示す断面図である。
【図4】ブラケットの下部の取付構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るシートベルト装置のリトラクタ取付構造を採用した車両の後部座席の正面図である。
本実施形態の車両は、車体後面に設けられた開口部を開閉する電動テールゲート装置を備えた1BOXカーである。
【0012】
本発明のリトラクタ取付構造を採用したシートベルト装置は、車両の最後列の後部座席に設けられている。図1に示すように、後部座席1は、3人掛けであって、その中央席1a用のシートベルト装置2に本願発明のリトラクタ取付構造が適用されている。
後部座席1の右側席1b及び左側席1cには着座者の腰と上半身を一体となったシートベルト3により支持する3点式のシートベルト装置4、5が備えられ、中央席1aには下部シートベルト6と上体用シートベルト7とが分離した3点式のシートベルト装置2が備えられている。
【0013】
右側席1b用及び左側席1c用のシートベルト装置4、5は、シートベルト3と、リトラクタ10と、ベルトガイド11aを備えるショルダーアンカ11と、タングプレート12及びシートベルト3の基端部を席横に固定するアンカ13とから構成されている。右側席1b用のシートベルト装置4と左側席1c用のシートベルト装置5は、左右対称に設けられている。
【0014】
以下、右側席1b用のシートベルト装置4について説明する。
リトラクタ10は、車両の右側後部のピラー20の下部に設置されており、基端部を右側席1bの右横に固定されたシートベルト3の先端をバネ力で巻き取り可能、かつシートベルト3に所定張力が加わったときに引出しロック可能に構成されている。ベルトガイド11aは、図1に示すように、シートベルト3を吊り支持する部材であり、ショルダーアンカ11によりピラー20に支持されている。タングプレート12は、右側席1b左横のバックル21に連結される部材であり、シートベルト3が自在に挿通される図示しないベルト穴を備えている。
【0015】
シートベルト装置4を使用する場合には、タングプレート12でシートベルト3を引っ張りながら、シートベルト3をリトラクタ10から引出し、タングプレート12を右側席左横のバックル21に連結する。これにより、後部座席1の右側席1bに着座した乗員は、シートベルト3により腰周り、及び右肩から左腰まで上体を斜めに押さえられる。
また、シートベルト装置4の使用後は、タングプレート12をバックル21から外すことで、シートベルト3がリトラクタ10に巻き取られ、タングプレート12はピラー20の位置まで戻される。
【0016】
中央席用のシートベルト装置2は、着座した乗員の腰周りを押さえる下部シートベルト6と、乗員の左肩から右腰まで上体を斜めに押さえる上体用シートベルト7とが分割して備えられている。下部シートベルト6は、基端部が中央席1a左横に固定されるとともに、先端にタングプレート31が取付けられている。そして、タングプレート31が中央席1a右横のバックル32に連結可能に構成されている。
【0017】
シートベルト装置2には、上体用シートベルト7用として、リトラクタ34と、ベルトガイド35と、タングプレート36とを備えている。
リトラクタ34は、車両左側後部を上下方向に延びるピラー37の上部に設けられており、上体用シートベルト7をバネ力で巻き取り可能、かつ上体用シートベルト7に所定張力が加わったときに引出しロック可能に構成されている。ベルトガイド35は、上体用シートベルト7を中央席1aの後左上方で吊り支持する部材であり、図示しないアンカにより車体の天井の後部の骨格部38に支持されている。タングプレート36は、中央席1a右横のバックル39に連結される部材であり、上体用シートベルト7の先端に取付けられている。
【0018】
上体用シートベルト7を使用するときには、タングプレート36で上体用シートベルト7を引っ張りながら、上体用シートベルト7をリトラクタ34から引出し、タングプレート36を中央席1a右横のバックル39に連結する。これにより、中央席1aに着座した乗員の左肩から右腰まで上体が上体用シートベルト7により斜めに押さえられる。また、上体用シートベルト7の使用後は、タングプレート36をバックル39から外すことで、上体用シートベルト7がリトラクタ34に巻き取られ、タングプレート36はベルトガイド35の位置まで戻される。
【0019】
電動テールゲート装置は、車体後部の骨格部38に設けられたヒンジ51を支点に上下方向に開閉するテールゲート52と、ピラー20とテールゲート52との間に設けられテールゲート52を支持するガスステー53と、テールゲート52を開閉させる駆動ユニット54(駆動手段)とを備えている。
駆動ユニット54は、駆動源としての電動モータ55と、図示しないクラッチ装置及び減速機とが一体となって構成されている。
【0020】
駆動ユニット54の出力軸とテールゲート52とはリンク機構56で接続されており、駆動ユニット54から出力された回転駆動力によって、テールゲート52を上下に揺動可能な構造となっている。
駆動ユニット54は、車両左側後部のピラー37の前方に、かつリトラクタ34の下方に配置され、複数のボルトによって車体に固定されている。
【0021】
図2は、本実施形態のリトラクタ34の取付構造を示す拡大斜視図である。図3は、ブラケット40の上部の取付構造を示す断面図、図4はブラケット40の下部の取付構造を示す断面図である。
図2に示すように、リトラクタ34は車両左側後部のピラー37の前側に配置されている。リトラクタ34は、上体用シートベルト7を巻き取るドラム部41の側面に、ドラム部41の軸線と平行に延びる板状の固定部材42が設けられ、当該固定部材42が略垂直面上に配置されて、固定部材42とは反対側から車両左右方向内側に向けてドラム部41より上体用シートベルト7が引き出し可能となっている。固定部材42はドラム部41より下方にU字状に突出しており、この突出した部位にリトラクタ接続用ボルト44を挿入するボルト孔が設けられている。また、固定部材42のボルト孔の近辺の一部分が垂直に折り曲げられて爪部45が形成されている。
【0022】
更に、本実施形態では、車体とリトラクタ34の固定部材42とを接続するブラケット40が備えられている。ブラケット40は、厚板材により構成されており、リトラクタ34の下方に配置される。ブラケット40の上部には、リトラクタ接続用ボルト44を挿入するためのボルト孔が設けられている。更に、このボルト孔の近傍に固定部材42の爪部45が挿入される爪孔46が設けられている。ブラケット40の上部の車両後方側の部位がL字状に折り曲げられてつば部47が形成され、このつば部47にボルト孔が設けられている。
【0023】
図3に示すように、ブラケット40は、上部でリトラクタ34の固定部材42とリトラクタ接続用ボルト44により締結されるとともに、車両後方側のつば部47で車両の車両左側後部のピラー37の前面にボルト48により締結される。更に、図4に示すように、ブラケット40の下部は、車両後方側の部位と車両前方側の部位との2箇所で、電動テールゲート装置の駆動ユニット54の取り付け部とともに、夫々同一のボルト49、50によって固定されている。
【0024】
ブラケット40の下部の車両後方側の部位はピラー37の前面部にブラケット60を介して固定され、ブラケット40の下部の車両前方側の部位はピラー37より前側の車体のインナパネル61に固定される。
なお、ピラー37やインナパネル61の内部には、駆動ユニット54の取り付け部に合わせて補強部材62、63が設けられている。
【0025】
したがって、リトラクタ34は、ブラケット40を介して、車体に3箇所で固定され、そのうち2箇所は、ボルト49、50によって駆動ユニット54とともに、ピラー37及びインナパネル61の補強部材62、63が設けられている部位に固定される。また、残りの1箇所も車体の強度部材であるピラー37に固定されている。
特に、本実施形態では、ブラケット40の下部を、あらかじめ車両に備えられている電動テールゲート装置の駆動ユニット54の車体への取り付け部に固定するので、駆動ユニット54を固定するボルト49、50を利用して、車体に大幅な変更を施すことなく、容易にブラケット40を車体に固定することができる。そして、駆動ユニット54の取り付け部には、テールゲート52を持ち上げる際に作用する荷重を支持するために補強部材62、63が設けられており、この補強部材62、63を利用してリトラクタ34を確実に支持することができる。
【0026】
電動テールゲート装置は、車両走行停止時にテールゲート52を持ち上げ、車両走行時にはテールゲート52を持ち上げないので、車両走行時には駆動ユニット54から車体に対して殆ど荷重が作用しない。一方、シートベルト装置は、一般的に車両走行時に用いられ、車両走行時において車両衝突等によりリトラクタ34に大きな荷重が作用する場合がある。このように、駆動ユニット54から大きな荷重が作用しない車両走行時においてのみリトラクタ34から荷重が作用するので、電動テールゲート装置を備えた既存の車両に対して、補強部材62、63を増やすことなくリトラクタ34を車体に確実に固定することができ、後部座席1に3点式のシートベルト装置を容易に追加することができる。
【0027】
また、本実施形態では、リトラクタ34と車体とをブラケット40を介して固定するので、車体の強度部材に対するリトラクタ34の前後位置がずれていても、車体に大幅な変更をすることなく、車両の後部座席1の中央席1a用シートベルト装置2のリトラクタ34を固定することが可能となる。
また、ブラケット40の下部を2箇所車体に固定するとともに、ブラケット40の上部を1箇所ピラー37に固定しており、計3箇所でブラケット40が車体に固定されているので、上体用シートベルト7が急激に引っ張られてリトラクタ34に大きな荷重が作用した場合に、ブラケット40を介して車体に作用する荷重を分散させることができ、リトラクタ34の取付位置での車体の必要な強度を低下させることができる。
【0028】
また、本実施形態では、リトラクタ34が駆動ユニット54と同様にピラー37の前方に配置されるので、リトラクタ34の車両左右方向中央側への突出を抑制することができる。よって、車両後部の開口面積あるいは後部窓寸法の減少を抑えることができる。
なお、本発明は、ブラケット40の形状を上記の実施形態の形状に限定するものではない。電動テールゲート装置の駆動ユニット54の車体への支持位置にリトラクタ34を固定するように、ブラケット40の形状を適宜変更してもよい。
【0029】
また、本発明は、リトラクタ34を固定する場所を電動テールゲート装置の駆動ユニット54の支持位置に限定するものではない。例えば車両側方に設けられた電動スライドドアの駆動ユニットが車両後方に配置されていれば、この駆動ユニットの支持位置を利用してリトラクタ34を車体に固定してもよく、その他車両走行時に車体に作用する荷重が低下するような機器がリトラクタ34の近傍にあれば、その機器の車体への支持位置にリトラクタ34を固定すればよい。
【符号の説明】
【0030】
1a 中央席
2 シートベルト装置
7 上体用シートベルト
34 リトラクタ
37 ピラー
40 ブラケット
54 駆動ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の後部中央席の上体用シートベルトを巻き取り可能なリトラクタを車体に取り付けるシートベルトリトラクタ取付構造であって、
前記車体には、前記車両の停車時に作動可能であり、前記車両の走行時には非作動となるとともに、作動時において非作動時よりも前記車体に大きく荷重が作用する駆動手段が支持され、
前記リトラクタは、前記車体に対して前記駆動手段の支持位置に固定されることを特徴とするシートベルトリトラクタ取付構造。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記車体の後部を上下方向に延びるピラーに固定された電動テールゲート装置の駆動ユニットであることを特徴とする請求項1に記載のシートベルトリトラクタ取付構造。
【請求項3】
前記リトラクタは、少なくとも前記駆動手段の支持位置を含む複数の箇所で前記車体に固定されるブラケットを介して前記車体に固定されることを特徴とする請求項1または2に記載のシートベルトリトラクタ取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−52711(P2013−52711A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190668(P2011−190668)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】