説明

シートリフター装置

【課題】背中のS字カーブとシートバックのS字カーブとのずれを抑制しながらも、着座者の目線の位置を調整することができるシートリフター装置を提供する。
【解決手段】ブラケット4の前部に一方の端部が回動自在に連結された前リンク12と、ブラケット4の後部に一方の端部が回動自在に連結された後リンク14と、前部が前リンク12の他方の端部に回動自在に連結され、後部が支持軸13よりも後側で後リンク14の他方の端部に回動自在に連結され、後端部でシートバックを支持するロアアーム19と、前部がロアアーム19に回動自在に連結され、後部が支持軸18よりも支持軸13から離れた位置で後リンク14に回動自在に連結され、座面を形成するクッションパン24と、後リンク14を回動させるリフター用駆動装置33とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座面の上下位置を調整するシートリフター装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、こうしたシートリフター装置として種々のものが提案されている。例えば特許文献1に記載されたシートリフター装置は、アッパレール(2)上のベース板(3)に取り付けられたリフター機構(B,B’)を備えており、該リフター機構により座面を形成するクッションフレーム(20)の上下位置を調整する。なお、ベース板には、ブラケット(17)が固定されるとともに、該ブラケットには、リクライニング機構(C)を介して背もたれ部を形成するアーム(16)が固定されている。つまり、このシートリフター装置は、ベース板及びアーム(背もたれ部)に対しシートクッション(座面)のみが上下動する構造になっている。
【0003】
一方、特許文献2に記載されたシートリフター装置では、スライド機構を構成するロアフレーム(4)に、4節回転連鎖を構成する前リンク(8)及び後リンク(9)を介して座面を形成するアッパフレーム(10)が支持されており、前リンク及び後リンクによりアッパフレームの上下位置を調整する。なお、アッパフレームを構成するサイドフレーム(13)には、リクライニング機構(7)を介して背もたれ部を形成するシートバック(3)が固定されている。つまり、このシートリフター装置は、特許文献1とは異なりシートクッション(座面)及びシートバック(背もたれ部)が一体的に上下動する構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−129013号公報
【特許文献2】特開2002−225600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シートバックには、標準的な体格を有する着座者の背中のS字カーブに合わせてS字カーブが設定されている。特許文献1の場合、着座者がその体格に合わせてシートクッション(座面)の上下位置を調整することで、ある程度の範囲で目線を上下に移動させるとともに背中のS字カーブとシートバックのS字カーブとを合わせることが可能である。しかしながら、小柄な人や大柄な人が、目線の調整のためにシートクッションの調整量を上下に大きくすると、背中のS字カーブとシートバックのS字カーブとが逆に大きくずれる可能性がある。これは、例えば小柄な人がシートクッションを上側に調整した場合、そのときの調整量ほど背中のS字カーブの曲がり度合いが変化しないことによる。
【0006】
一方、特許文献2の場合、シートクッション(座面)及びシートバック(背もたれ部)の一体的な上下位置の調整であるため、大柄な人や小柄な人は、背中のS字カーブとシートバックのS字カーブとが合わないままの調整になってしまう。また、衝突等でシートバックに加わった荷重は、4節回転連鎖に入力されるため、前リンク及び後リンクの強度確保のためにその板厚や幅寸を大きくする必要がある。特に、4節回転連鎖によるシートクッションの調整量を上下に大きくする場合、これら前リンク及び後リンクを長くする必要があり、強度・剛性の確保をより一層、図らなければならない。また、シートクッションの上側への移動に伴ってシートバックも上側に移動することになり、該シートバックの上端部に保持されたヘッドレストと天井との隙間が小さくなってしまう。
【0007】
本発明の目的は、背中のS字カーブとシートバックのS字カーブとのずれを抑制しながらも、着座者の目線の位置を調整することができるシートリフター装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、シート支持部材の前部に一方の端部が回動自在に連結された前リンクと、前記シート支持部材の後部に一方の端部が回動自在に連結された後リンクと、前部が前記前リンクの他方の端部に回動自在に連結され、後部が前記シート支持部材及び前記後リンクの連結部位よりも後側で前記後リンクの他方の端部に回動自在に連結され、後端部でシートバックを支持するフレーム部材と、前部が前記フレーム部材に回動自在に連結され、後部が前記後リンク及び前記フレーム部材の連結部位よりも前記シート支持部材及び前記後リンクの連結部位から離れた位置で前記後リンクに回動自在に連結され、座面を形成するクッション部材と、前記前リンク及び前記後リンクのいずれか一方を回動させる回動伝達部材とを備えたことを要旨とする。
【0009】
同構成によれば、前記前リンク、前記後リンク及び前記フレーム部材は、該フレーム部材を媒介節(連接節)とする4節回転連鎖を構成する。そして、前記フレーム部材の後部は、前記シート支持部材及び前記後リンクの連結部位よりも後側で前記後リンクの前記他方の端部に回動自在に連結されている。また、前記クッション部材の後部は、前記後リンク及び前記フレーム部材の連結部位よりも前記シート支持部材及び前記後リンクの連結部位から離れた位置で前記後リンクに回動自在に連結されている。従って、前記回動伝達部材により前記前リンク又は前記後リンクを回動させると、これに伴って前記フレーム部材の後部が前記シートバックと一体で上下動する。このとき、前記クッション部材の後部は、前記後リンク及び前記フレーム部材の連結部位よりも前記シート支持部材及び前記後リンクの連結部位から離れている分だけ、大きく上下動する。これにより、例えば小柄な人が前記クッション部材(座面)を上側に大きく移動させたとしても、相対的に前記シートバックの上側への移動量が抑えられることで、背中のS字カーブとシートバックのS字カーブとを合わせることができる。一方、大柄な人が前記クッション部材(座面)を下側に大きく移動させたとしても、相対的に前記シートバックの下側への移動量が抑えられることで、同様に背中のS字カーブとシートバックのS字カーブとを合わせることができる。また、前記クッション部材の後部の上下の調整量に対し、前記フレーム部材の上下の調整量を少なくできるため、その分、前記前リンク及び前記後リンクに要求される強度・剛性を軽減することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシートリフター装置において、前記後リンクは、シート幅方向で対をなしており、前記両後リンクに固着され前記フレーム部材との連結部位を構成する対の軸部、及び該両軸部の軸線からずれた軸線を有して前記両軸部間を接続する偏心部を有する梁部材を備え、前記クッション部材の後部は、前記偏心部を介して前記両後リンクに回動自在に連結されていることを要旨とする。
【0011】
同構成によれば、前記クッション部材(座面)の後部を、前記両後リンク間を橋渡しする前記梁部材を介してより堅固に前記両後リンクに連結することができる。また、前記梁部材は、前記フレーム部材との連結部位(両軸部)及び前記クッション部材の後部との連結部位(偏心部)として兼用されることで、部品点数を削減することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のシートリフター装置において、前記後リンクは、シート幅方向で対をなしており、前記クッション部材の後部及び前記両後リンクの連結部位の軸線を有し、シート幅方向に延在して前記両後リンクに固定される梁部材を備え、前記クッション部材の後部は、前記梁部材を介して前記両後リンクに回動自在に連結されていることを要旨とする。
【0013】
同構成によれば、前記クッション部材(座面)の後部を、前記両後リンク間を橋渡しする前記梁部材を介してより堅固に前記両後リンクに連結することができる。
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載のシートリフター装置において、前記クッション部材は、前記フレーム部材に回動自在に連結され、前側部を形成するクッションパンと、前端部が前記クッションパンに係止され、後端部が前記梁部材に回動自在に係止され、後側部を形成するばね部材とを備えたことを要旨とする。
【0014】
同構成によれば、座面にかかる着座者の体重を、前記クッションパン及び前記ばね部材の協働で支えることができる。
請求項5に記載の発明は、請求項2又は3に記載のシートリフター装置において、前記クッション部材は、後部が前記梁部材に回動自在に連結されたクッションパンであることを要旨とする。
【0015】
同構成によれば、座面にかかる着座者の体重を、クッションパン単独で支えるという極めて簡素な構造にできる。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシートリフター装置において、前記クッション部材の前部は、該クッション部材の後部に対し前部を上下動させるチルト機構を介して前記フレーム部材に連結されていることを要旨とする。
【0016】
同構成によれば、前記チルト機構により、前記クッション部材の後部に対し前部を上下動させることができ、よりきめ細やかなシート姿勢に調整することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、背中のS字カーブとシートバックのS字カーブとのずれを抑制しながらも、着座者の目線の位置を調整することができるシートリフター装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明が適用される車両用シートを示す斜視図。
【図2】本発明の第1の実施形態を示す平面図。
【図3】同実施形態を示す分解斜視図。
【図4】同実施形態及びその動作を示す側面図。
【図5】同実施形態及びその動作を示す側面図。
【図6】同実施形態及びその動作を示す側面図。
【図7】本発明の第2の実施形態を示す分解斜視図。
【図8】同実施形態及びその動作を示す側面図。
【図9】同実施形態及びその動作を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態について図面に従って説明する。
図1は、例えば自動車などの車両の前席側に搭載される車両用シート1を示す斜視図である。同図に示すように、車両フロアには、シート幅方向に並設されて前後方向に延在する対のロアレール2が固定されるとともに、該ロアレール2には、アッパレール3がロアレール2に対し相対移動可能に装着されている。これらロアレール2及びアッパレール3は、スライド機構を構成する。
【0020】
両アッパレール3には、上方に立設された平板状のブラケット4がそれぞれ結合されている。詳述すると、図1の範囲C内に横断面図を示したように、アッパレール3は、板材を曲成してなる左右対称の部材3aが背中合わせに重ねられてなり、アッパレール3の中央部に形成される縦壁部にブラケット4が、例えばボルト・ナット又はかしめピンにて締結されている。これら両ブラケット4には、リフター機構10を介して乗員の着座部を形成するシート5が固定・支持されている。このシート5は、座面を形成するシートクッション6と、該シートクッション6の後端部に傾動(回動)自在に支持されたシートバック7と、該シートバック7の上端部に支持されたヘッドレスト8とを備えて構成される。シート5は、スライド機構によりその前後位置が調整可能であるとともに、リフター機構10によりその上下位置が調整可能である。これにより、当該シート5の着座者は、例えばその体格に合わせて目線の位置を調整可能である。
【0021】
次に、リフター機構10及びその周辺構造について更に説明する。
図2及び図3は、シート5の骨格形状を示す平面図及び分解斜視図である。図3に示すように、各ブラケット4の前部には、支持軸11により前リンク12の一方の端部が回動自在に連結されるとともに、各ブラケット4の後部には、支持軸13により後リンク14の一方の端部が回動自在に連結されている。前リンク12及び後リンク14は、各々の支持軸11,13に対し後方に延出している。また、各前リンク12の他方の端部には、支持軸15によりチルトリンク16の一方の端部が回動自在に連結されている。チルトリンク16は、支持軸15に対し前方に延出している。
【0022】
各チルトリンク16の長手方向中間部及び各後リンク14の他方の端部には、支持軸17,18によりロアアーム19の前部及び後部がそれぞれ回動自在に連結されている。これら両ロアアーム19は、シートクッション6の両側部の骨格をなすものである。両ロアアーム19の後端部には、シートバック7の両側部の骨格をなすシートバックフレーム7aがリクライニング機構20を介して支持されている。
【0023】
なお、各後リンク14は、支持軸13(ブラケット4及び後リンク14の連結部位)に対し支持軸18(ロアアーム19及び後リンク14の連結部位)よりも後側に延出する延出部14aを有する。これら両延出部14aには、シート幅方向に延在する梁部材としての後側連結棒31の両端部がそれぞれ固定されている。一方、両支持軸17には、シート幅方向に延在する前側連結棒32の両端部がそれぞれ固定されている。
【0024】
各チルトリンク16の他方の端部には、支持軸21により揺動リンク22の一方の端部が回動自在に連結されている。揺動リンク22は、支持軸21に対し上方に延出している。
【0025】
各揺動リンク22の他方の端部には、支持軸23によりクッション部材としてのクッションパン24の前部が回動自在に連結されている。このクッションパン24は、両ロアアーム19及び後側連結棒31のなす略四角形状に合わせて略四角皿状に成形されており、その後部は後側連結棒31に回動自在に連結されている。クッションパン24は、シートクッション6の座面の骨格をなすもので、着座用のクッション材を保持する。
【0026】
ここで、シート前方に向かって左側の後リンク14(以下、後リンク14Lという)には、支持軸18を中心にその前側に略扇状に広がるセクタギヤ部14bが形成されている。一方、シート前方に向かって左側のロアアーム19(以下、ロアアーム19Lという)の外側面には、回動伝達部材としてのリフター用駆動装置33が固定されている。このリフター用駆動装置33は、電動モータ33aと、該電動モータ33aにより適宜の減速機構を介して回転駆動されロアアーム19Lを貫通してセクタギヤ部14bと噛合するピニオン33bとを有する。
【0027】
従って、リフター用駆動装置33が駆動されると、セクタギヤ部14bでピニオン33bに噛合する後リンク14Lが支持軸18を中心に回動しようとする。しかしながら、ブラケット4(アッパレール3)は、上下方向に移動できないため、結果として支持軸13に対し支持軸18がロアアーム19Lの後部とともに上下動する。そして、リフター用駆動装置33の駆動が停止されると、セクタギヤ部14bと噛合するピニオン33bが減速機構によりロックされることで、該ピニオン33b(リフター用駆動装置33)を支持するロアアーム19L及び後リンク14Lが実質的に一体化される。なお、このときの後リンク14Lの動作は、後側連結棒31を介してシート前方に向かって右側の後リンク14(以下、後リンク14Rという)に伝達される。これにより、支持軸13を中心とする左右の後リンク14L,14Rの回動が連動する。リフター用駆動装置33等は、リフター機構10を構成する。
【0028】
また、シート前方に向かって左側のチルトリンク16(以下、チルトリンク16Lという)には、支持軸17を中心にその後側に略扇状に広がるセクタギヤ部16aが形成されている。一方、ロアアーム19Lの外側面には、リフター用駆動装置33の前側でフロントチルト用駆動装置34が固定されている。このフロントチルト用駆動装置34は、電動モータ34aと、該電動モータ34aにより適宜の減速機構を介して回転駆動されロアアーム19Lを貫通してセクタギヤ部16aと噛合するピニオン34bとを有する。
【0029】
従って、フロントチルト用駆動装置34が駆動されると、セクタギヤ部16aでピニオン34bに噛合するチルトリンク16Lが支持軸17を中心に回動しようとする。しかしながら、ブラケット4(アッパレール3)に連結される前リンク12は、上下方向に移動できないため、結果として支持軸15に対し支持軸17が揺動リンク22及びロアアーム19Lの前部とともに上下動する。そして、フロントチルト用駆動装置34の駆動が停止されると、セクタギヤ部16aと噛合するピニオン34bが減速機構によりロックされることで、該ピニオン34b(フロントチルト用駆動装置34)を支持するロアアーム19L及びチルトリンク16Lが実質的に一体化される。なお、このときのチルトリンク16Lの動作は、前側連結棒32を介してシート前方に向かって右側のチルトリンク16(以下、チルトリンク16Rという)に伝達される。これにより、支持軸15を中心とする左右のチルトリンク16L,16Rの回動が連動する。フロントチルト用駆動装置34等は、チルト機構30を構成する。
【0030】
ここで、本実施形態の動作について図4〜図6に従って説明する。
まず、フロントチルト用駆動装置34の駆動が停止され、これを支持するロアアーム19にチルトリンク16及び揺動リンク22が実質的に一体化されているものとして、リフター機構10の動作について説明する。このとき、前リンク12、後リンク14及びロアアーム19は、該ロアアーム19を媒介節(連接節)とする4節回転連鎖を構成する。また、前リンク12、後リンク14及びクッションパン24は、該クッションパン24を媒介節とする4節回転連鎖を構成する。
【0031】
リフター用駆動装置33が駆動され、ピニオン33bが図4において図示時計回転方向に回転すると、支持軸18を中心に回動しようとする後リンク14(14L)がブラケット4(アッパレール3)から押されることで、後リンク14が支持軸13を中心に図示反時計回転方向に回動する。また、これに連動して前リンク12が支持軸11を中心に図示反時計回転方向に回動する。これにより、図5に示すように、支持軸11よりも後側に配置された支持軸17及び支持軸13よりも後側に配置された支持軸18がそれぞれ上側に移動し、ロアアーム19が全体として上側に移動する。同時に、両ロアアーム19の後端部にリクライニング機構20を介して支持されたシートバックフレーム7a(シートバック7)も上側に移動する。
【0032】
前リンク12及び後リンク14の回動に伴い、クッションパン24も全体として上側に移動する。ただし、クッションパン24の後部は、支持軸13に対し支持軸18よりも後側に配置された後側連結棒31に連結されているため、その距離差に応じた分だけロアアーム19よりも大きく上側に移動する。
【0033】
すなわち、図5に併せ示したように、このときのクッションパン24後部の移動距離をa、ロアアーム19の移動距離をbで表すと、
ロアアームの移動距離b<クッションパン後部の移動距離a
の関係になっている。
【0034】
一方、リフター用駆動装置33が逆方向に駆動され、ピニオン33bが図5において図示反時計回転方向に回転すると、支持軸18を中心に回動しようとする後リンク14(14L)がブラケット4(アッパレール3)から引かれることで、後リンク14が支持軸13を中心に図示時計回転方向に回動する。また、これに連動して前リンク12が支持軸11を中心に図示時計回転方向に回動する。これにより、支持軸11よりも後側に配置された支持軸17及び支持軸13よりも後側に配置された支持軸18がそれぞれ下側に移動し、ロアアーム19が全体として下側に移動する。同時に、シートバックフレーム7a(シートバック7)も下側に移動する。
【0035】
前リンク12及び後リンク14の回動に伴い、クッションパン24も全体として下側に移動する。ただし、クッションパン24の後部は、前述の距離差に応じた分だけロアアーム19よりも大きく下側に移動する。
【0036】
また、リフター機構10による調整位置に応じて、クッションパン24及びリクライニング機構20間の距離も変化する。その距離は、リフター機構10による調整位置を上側に移動させることで小さくなり、反対に下側に移動させることで大きくなる。換言すれば、クッションパン24(シートクッション6)を上側に大きく移動させたとしても、相対的にロアアーム19(シートバック7)の上側への移動量が抑えられている。あるいは、クッションパン24(シートクッション6)を下側に大きく移動させたとしても、相対的にロアアーム19(シートバック7)の下側への移動量が抑えられている。
【0037】
以上により、シートバック7の上下への移動量を抑えながらも、シートクッション6を上下に大きく移動させて、着座者の目線の位置の調整が可能になる(リフター機構10)。
【0038】
次に、リフター用駆動装置33の駆動が停止されているものとして、チルト機構30の動作について説明する。このとき、チルトリンク16、揺動リンク22及びクッションパン24は、揺動リンク22を媒介節とする4節回転連鎖を構成する。
【0039】
フロントチルト用駆動装置34が駆動され、ピニオン34bが図5において図示反時計回転方向に回転すると、チルトリンク16(16L)が支持軸17を中心に回動しようとして、図6に示すように、結果として支持軸15に対し支持軸17が揺動リンク22とともに上側に移動する。これにより、クッションパン24が後側連結棒31を中心に図示時計回転方向に回動し、該クッションパン24(シートクッション6)の前部が上側に移動する。このとき、両ロアアーム19の後端部にリクライニング機構20を介して支持されたシートバックフレーム7a(シートバック7)は、概ね現在位置で停止したままとなる。
【0040】
一方、フロントチルト用駆動装置34が逆方向に駆動され、ピニオン34bが図6において図示時計回転方向に回転すると、チルトリンク16(16L)が支持軸17を中心に回動しようとして、結果として支持軸15に対し支持軸17が揺動リンク22とともに下側に移動する。これにより、クッションパン24が後側連結棒31を中心に図示反時計回転方向に回動し、該クッションパン24(シートクッション6)の前部が下側に移動する。このとき、両ロアアーム19の後端部にリクライニング機構20を介して支持されたシートバックフレーム7a(シートバック7)は、概ね現在位置で停止したままとなる。
【0041】
以上により、シートバック7をほとんど動かすことなく、シートクッション6の前部の上下位置の調整のみが可能になる(チルト機構30)。
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
【0042】
(1)本実施形態では、リフター用駆動装置33により後リンク14を回動させると、これに伴ってロアアーム19の後部がシートバック7と一体で上下動する。このとき、クッションパン24の後部は、後リンク14及びロアアーム19の連結部位(支持軸18)よりもブラケット4及び後リンク14の連結部位(支持軸13)から離れている分だけ、大きく上下動する。これにより、例えば小柄な人がクッションパン24(座面)を上側に大きく移動させたとしても、相対的にシートバック7の上側への移動量が抑えられることで、背中のS字カーブとシートバックのS字カーブとを合わせることができる。一方、大柄な人がクッションパン24(座面)を下側に大きく移動させたとしても、相対的にシートバック7の下側への移動量が抑えられることで、同様に背中のS字カーブとシートバック7のS字カーブとを合わせることができる。
【0043】
また、クッションパン24の後部の上下の調整量に対し、ロアアーム19の上下の調整量を少なくできるため、その分、前リンク12及び後リンク14に要求される強度・剛性を軽減することができる。そして、前リンク12及び後リンク14の質量を低減することができる。さらに、シートバック7の上端部に保持されたヘッドレスト8と天井との隙間を十分に確保することができる。
【0044】
(2)本実施形態では、クッションパン24(座面)の後部を、両後リンク14間を橋渡しする後側連結棒31を介してより堅固に両後リンク14に連結することができる。
(3)本実施形態では、座面にかかる着座者の体重を、クッションパン24単独で支えるという極めて簡素な構造にできる。
【0045】
(4)本実施形態では、チルト機構30により、クッションパン24の後部を支点に前部を傾動させることができ、よりきめ細やかなシート姿勢に調整することができる。特に、クッションパン24の前部の上下の移動量を、ロアアーム19よりも大きく確保できるため、リフター機構10によるロアアーム19(リクライニング機構20、シートバック7)の上下の移動量を増加することなく、シートクッション6前部の上下の移動量を大きくすることができ、座面角の変化量を大きくすることができる。
【0046】
(5)本実施形態では、クッションパン24の後部の上下の調整量に対し、ロアアーム19の上下の調整量を少なくできる。このため、クッションパン24の後部を上側に大きく移動させても、相対的にロアアーム19及びブラケット4(シートレール)間の上下の隙間を小さくでき、ひいては該隙間への手足の進入を防止するためのプロテクターを割愛することができる。
【0047】
(第2の実施形態)
以下、本発明を具体化した第2の実施形態について図面に従って説明する。なお、第2の実施形態は、第1の実施形態において、主にロアアーム19に連結されるクッション部材の構造を変更した構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0048】
図7及び図8は、シート5の骨格形状を示す分解斜視図及び側面図である。同図に示すように、本実施形態の梁部材としての後側連結棒41は、両端部に配設された対の軸部41aと、これら両軸部41aの軸線から平行にずれた軸線を有して両軸部41a間を接続する偏心部41bとを一体的に有する。そして、後側連結棒41の各軸部41aには、後リンク42の端部が固着されるとともに、前記ロアアーム19の後部が回動自在に連結されている。後側連結棒41の偏心部41bは、支持軸13(ブラケット4及び後リンク42の連結部位)に対し軸部41a(ロアアーム19及び後リンク42の連結部位)よりも後側に配置されている。なお、本実施形態の後リンク42の構造は、延出部(14a)が割愛されていることを除き、前記第1の実施形態と同様である。
【0049】
また、本実施形態では、クッションパン24に代えて、クッションパン46及びバネ部材としての複数のSばね47で構成されるクッション部材45を備える。クッション部材45の前側部を形成するクッションパン46は、略四角皿状に成形されており、そのシート幅方向両端から後側に延出する対の取付片46aを有する。クッションパン46の後部は、各取付片46aにおいて、支持軸17及び軸部41a間に挟まれるロアアーム19の長手方向中間部に、支持軸48により回動自在に連結されている。なお、クッションパン46の前部は、前記各支持軸23により揺動リンク22の他方の端部に回動自在に連結されている。
【0050】
クッション部材45の後側部を形成する複数のSばね47は、シート幅方向に並設されて前後方向に延在しており、各々の前端部がクッションパン46の後端部に配設された係止部46bに係止されるとともに、各々の後端部が後側連結棒41の偏心部41bに回動自在に係止されている。つまり、これらSばね47は、支持軸13(ブラケット4及び後リンク42の連結部位)に対し軸部41a(ロアアーム19及び後リンク42の連結部位)よりも後側の偏心部41bに連結されている。
【0051】
ここで、本実施形態の動作について図9を併せ参照して説明する。
まず、フロントチルト用駆動装置34の駆動が停止され、これを支持するロアアーム19にチルトリンク16及び揺動リンク22が実質的に一体化されているものとして、リフター機構10の動作について説明する。このとき、前リンク12、後リンク42及びロアアーム19は、該ロアアーム19を媒介節(連接節)とする4節回転連鎖を構成する。
【0052】
リフター用駆動装置33が駆動され、ピニオン33bが図8において図示時計回転方向に回転すると、軸部41aを中心に回動しようとする後リンク42がブラケット4(アッパレール3)から押されることで、図9に示すように、前述の態様でロアアーム19が全体として上側に移動する。同時に、両ロアアーム19の後端部にリクライニング機構20を介して支持されたシートバックフレーム7a(シートバック7)も上側に移動する。
【0053】
前リンク12及び後リンク42の回動に伴い、クッション部材45も全体として上側に移動する。ただし、複数のSばね47の後端部は、支持軸13に対し軸部41aよりも後側に配置された偏心部41bに連結されているため、その距離差に応じた分だけロアアーム19よりも大きく上側に移動する。
【0054】
すなわち、図9に併せ示したように、このときのSばね47の後端部の移動距離をa1、ロアアーム19の移動距離をb1で表すと、
ロアアームの移動距離b1<Sばねの後端部の移動距離a1
の関係になっている。
【0055】
換言すれば、クッション部材45(シートクッション6)を上側に大きく移動させたとしても、相対的にロアアーム19(シートバック7)の上側への移動量が抑えられている。なお、このときのSばね47の後端部の位置ずれは、該Sばね47の弾性変形によって吸収されている。
【0056】
一方、リフター用駆動装置33が逆方向に駆動され、ピニオン33bが図9において反時計回転方向に回転すると、軸部41aを中心に回動しようとする後リンク42がブラケット4(アッパレール3)から引かれることで、前述の態様でロアアーム19が全体として下側に移動する。同時に、シートバックフレーム7a(シートバック7)も下側に移動する。
【0057】
前リンク12及び後リンク42の回動に伴い、クッション部材45も全体として下側に移動する。ただし、複数のSばね47の後端部は、前述の距離差に応じた分だけロアアーム19よりも大きく下側に移動する。換言すれば、クッション部材45(シートクッション6)を下側に大きく移動させたとしても、相対的にロアアーム19(シートバック7)の下側への移動量が抑えられている。なお、このときのSばね47の後端部の位置ずれは、該Sばね47の弾性変形によって吸収されている。
【0058】
以上により、シートバック7の上下への移動量を抑えながらも、シートクッション6を上下に大きく移動させて、着座者の目線の位置の調整が可能になる。
次に、リフター用駆動装置33の駆動が停止されているものとして、チルト機構30の動作について説明する。このとき、チルトリンク16、揺動リンク22及びクッションパン46は、揺動リンク22を媒介節とする4節回転連鎖を構成する。
【0059】
フロントチルト用駆動装置34が駆動され、ピニオン34bが図9において反時計回転方向に回転すると、チルトリンク16(16L)が支持軸17を中心に回動しようとして、結果として支持軸15に対し支持軸17が揺動リンク22とともに上側に移動する。これにより、クッションパン46が支持軸48を中心に図示時計回転方向に回動し、該クッションパン46(シートクッション6)の前部が上側に移動する。このとき、両ロアアーム19の後端部にリクライニング機構20を介して支持されたシートバックフレーム7a(シートバック7)は、概ね現在位置で停止したままとなる。
【0060】
一方、フロントチルト用駆動装置34が逆方向に駆動され、ピニオン34bが図示時計回転方向に回転すると、チルトリンク16(16L)が支持軸17を中心に回動しようとして、結果として支持軸15に対し支持軸17が揺動リンク22とともに下側に移動する。これにより、クッションパン46が支持軸48を中心に図示反時計回転方向に回動し、該クッションパン46(シートクッション6)の前部が下側に移動する。このとき、両ロアアーム19の後端部にリクライニング機構20を介して支持されたシートバックフレーム7a(シートバック7)は、概ね現在位置で停止したままとなる。
【0061】
以上により、シートバック7をほとんど動かすことなく、シートクッション6の前部の上下位置の調整のみが可能になる。特に、クッションパン46の回動中心(支持軸48)は、前記第1の実施形態のクッションパン24に比べて支持軸23寄りに配置されていることで、チルトリンク16の回動量に対しクッションパン46(シートクッション6)の前部をより大きく上下動させることができる。
【0062】
以上詳述したように、本実施形態によれば、前記第1の実施形態における(1)(2)(4)(5)の効果に加えて以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、後側連結棒41(梁部材)は、ロアアーム19との連結部位(両軸部41a)及びクッション部材45の後部との連結部位(偏心部41b)として兼用されることで、部品点数を削減することができる。つまり、複数のSばね47を連結するために従来からある後側連結棒41を曲げ加工するのみで、簡単に実現することができる。
【0063】
(2)本実施形態では、クッションパン46及び複数のSばね47からなるクッション部材45を採用したことで、座面にかかる着座者の体重を、これらクッションパン46及び複数のSばね47の協働で支えることができる。
【0064】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・前記第1の実施形態において、ロアアーム19の後部及びクッションパン24の後部を、前記第2の実施形態に準じて後側連結棒41の軸部41a及び偏心部41bにそれぞれ連結してもよい。
【0065】
・前記第2の実施形態において、ロアアーム19の後部及びSばね47の後端部を、前記第1の実施形態に準じて支持軸18及び後側連結棒31にそれぞれ連結してもよい。
・前記各実施形態において、リフター用駆動装置33に代えて、後リンク14(14L)を回動させるための操作力を伝達可能な回動伝達部材としての操作ノブを採用してもよい。
【0066】
・前記各実施形態において、後リンク14(14L)に代えて、リフター用駆動装置33(又は操作ノブ)により前リンク12を回動させて、ロアアーム19等を上下動させてもよい。
【0067】
・前記各実施形態において、チルト機構30を割愛してもよい。
【符号の説明】
【0068】
4…ブラケット(シート支持部材)、7…シートバック、12…前リンク、14,14L,14R,42…後リンク、19,19L…ロアアーム(フレーム部材)、24…クッションパン(クッション部材)、30…チルト機構、31,41…後側連結棒(梁部材)、33…リフター用駆動装置(回動伝達部材)、41a…軸部、41b…偏心部、45…クッション部材、46…クッションパン、47…Sばね(ばね部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート支持部材の前部に一方の端部が回動自在に連結された前リンクと、
前記シート支持部材の後部に一方の端部が回動自在に連結された後リンクと、
前部が前記前リンクの他方の端部に回動自在に連結され、後部が前記シート支持部材及び前記後リンクの連結部位よりも後側で前記後リンクの他方の端部に回動自在に連結され、後端部でシートバックを支持するフレーム部材と、
前部が前記フレーム部材に回動自在に連結され、後部が前記後リンク及び前記フレーム部材の連結部位よりも前記シート支持部材及び前記後リンクの連結部位から離れた位置で前記後リンクに回動自在に連結され、座面を形成するクッション部材と、
前記前リンク及び前記後リンクのいずれか一方を回動させる回動伝達部材とを備えたことを特徴とするシートリフター装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシートリフター装置において、
前記後リンクは、シート幅方向で対をなしており、
前記両後リンクに固着され前記フレーム部材との連結部位を構成する対の軸部、及び該両軸部の軸線からずれた軸線を有して前記両軸部間を接続する偏心部を有する梁部材を備え、
前記クッション部材の後部は、前記偏心部を介して前記両後リンクに回動自在に連結されていることを特徴とするシートリフター装置。
【請求項3】
請求項1に記載のシートリフター装置において、
前記後リンクは、シート幅方向で対をなしており、
前記クッション部材の後部及び前記両後リンクの連結部位の軸線を有し、シート幅方向に延在して前記両後リンクに固定される梁部材を備え、
前記クッション部材の後部は、前記梁部材を介して前記両後リンクに回動自在に連結されていることを特徴とするシートリフター装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のシートリフター装置において、
前記クッション部材は、
前記フレーム部材に回動自在に連結され、前側部を形成するクッションパンと、
前端部が前記クッションパンに係止され、後端部が前記梁部材に回動自在に係止され、後側部を形成するばね部材とを備えたことを特徴とするシートリフター装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載のシートリフター装置において、
前記クッション部材は、後部が前記梁部材に回動自在に連結されたクッションパンであることを特徴とするシートリフター装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のシートリフター装置において、
前記クッション部材の前部は、該クッション部材の後部に対し前部を上下動させるチルト機構を介して前記フレーム部材に連結されていることを特徴とするシートリフター装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−62020(P2012−62020A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209784(P2010−209784)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】