説明

シート材の裁断方法

シート材を重ねて裁断する際に、裁断線上やそのやや外側、あるいは裁断線の内側の縫い代部分などに、ナイフや目打ちなどを突き刺して上下させて熱を加え、シート材を上下に溶着させる。空気透過性の低いシート材を重ねて裁断しても、シート材がめくれたり滑ったりすることを防止して、正確に裁断できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明はシート材の裁断に関する。
【背景技術】
特許文献1 特開平9−103991号公報 (USP5791216)
特許文献2 特開昭48−74683号公報 (USP3780607)
シート材の裁断では、シート材を真空吸引などにより固定しながら、ナイフや丸刃などにより裁断する。そして特許文献1は、丸刃とそれよりも刃幅が短いナイフとを使い分けながら、効率的にシート材の裁断を行うことを開示している。また特許文献2は、塩化ビニルのような低融点のシート材を裁断する場合に、切断刃をシート材から抜かないようにして、切断刃を介して摩擦熱を逃がし、シート材の溶融を防止することを開示している。即ちシート材が溶融すると、シート材が相互に付着しプリント等の模様が落ちる、シート材の肌が荒れる、裁断線がクリアでなくなるなどのトラブルが生じるので、切断刃を熱の逃げ道に用いて溶融を防止する。
しかしながら塩化ビニルや合成皮革などの通気性の低いシート材を重ねて裁断する場合、上の方に重ねられたシート材を真空吸引で充分に固定できず、シート材がめくれたり滑ったりして、正確に裁断できないことがある。
発明の概要
【発明が解決しようとする課題】
この発明の課題は、滑りやすいシート材を積み重ねても、正確に裁断できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
この発明のシート材の裁断方法は、複数のシート材を上下に重ねて固定し、所定の裁断線に沿ってパーツへと裁断するに際して、前記裁断線の近傍でかつ前記パーツの縫い代またはその外側を局部的に加熱することにより、前記シート材を相互に上下に溶着させて、上下のシート材を固定することを特徴とする。
好ましくは、前記局部加熱を、裁断ヘッドのナイフまたは目打ちを用いて行う。例えばナイフを重ねたシート材に突き刺し、同じ位置で上下させると、ナイフとシート材との摩擦でシート材を互いに溶着できる。また例えばドリル状の目打ちで、重ねたシート材に孔をあけるように掘り込み、目打ちを回転させると、シート材を溶着できる。あるいは往復刃からなる目打ちの場合、裁断用のナイフと同様にシート材に突き刺し上下させると、溶着できる。
また好ましくは、前記局部加熱を、裁断線もしくはそのやや外側に対して、1パーツ当たり数カ所で行う。
また好ましくは、前記局部加熱を、裁断線の内側の縫い代に対して、1パーツ当たり数カ所で行う。
ここに1パーツ当たり数カ所とは、例えば1パーツ当たり2〜10個所、好ましくは3〜6個所程度である。
またこの発明のシート材の裁断方法は、複数のシート材を上下に重ねて固定し、所定の裁断線に沿ってパーツへと裁断するに際して、前記裁断線上の複数個所を切り残すように裁断した後に、該切り残しを裁断することを特徴とする。
なお前記シート材を空気不透過性のシート材、例えば塩化ビニルや合皮(合成皮革)などのシート材、あるいはその他の生地に空気不透過性の加工を施したものなどとすると、本発明は特に有効である。なお空気不透過性は、空気を全く通さないものに限らず、通気性が低いものを含む意味で用いる。
発明の作用と効果
この発明では、シート材を相互に上下に溶着し、あるいは裁断線上に切り残しを設けて裁断するので、空気不透過性で滑りやすい塩化ビニールや合皮などのシート材でも、正確に裁断できる。また空気透過性のシート材を裁断する場合でも、シート材の固定が容易になり、真空吸引でシート材を固定する場合、吸引力を小さくできる。溶着個所は裁断線上やそのやや外側、あるいは裁断線の内側の縫い代とするので、パーツに疵を付けずに溶着できる。
シート材を上下で相互に溶着するには、裁断装置の裁断ヘッドに装備されているナイフや目打ちを用いると、通常の裁断ヘッドで簡単に溶着を行える。
溶着は1パーツ当たり数カ所、例えば2〜10個所で、好ましくは3〜6個所に溶着する。溶着個所は、裁断線上やそのやや外側、あるいは裁断線の内側でパーツの縫い代とする。やや外側とは例えば裁断線に直角に外側に5mm以内のエリアとする。また裁断線の外側を直ぐ他のパーツに用いる場合は、溶着個所を裁断線上やその内側の縫い代とすることが好ましい。
対象とするシート材は空気不透過性のものが有効で、このようなシート材は真空吸引で固定するのが難しく、シート材とシート材との間の空気のために滑りやすい。一方、空気不透過性のシート材は塩化ビニールや合皮、ナイロン、ポリエステルなどのように、熱で溶融しやすく、溶着が容易なものが多い。このため、この発明では空気不透過性の固定が困難なシート材でも上下に重ねて正確に裁断できる。
【図面の簡単な説明】
図1は実施例の裁断装置の要部平面図である。
図2は実施例の裁断方法のアルゴリズムを示すフローチャートである。
図3は裁断線やそのやや外側に沿ってシート材を相互に溶着させる実施例を模式的に示す図である。
図4は裁断線の内側の縫い代部分でシート材を相互に溶着させる実施例を模式的に示す図である。
図5は裁断線上に切り残しを設けて、最後に切り残しを裁断するようにした実施例を模式的に示す図である。
図6は図3,図4の各実施例での、シート材間の溶着個所を模式的に示す図である。
【実施例】
図1〜図6に、実施例とその変形とを示す。図1に、用いる裁断装置2を示すと、4はテーブルで、6はテーブル4上に固定したブリストルで、剛毛のブラシである。ブリストル6以外の部材でも、空気透過性あるいは空気吸引孔を備えて、その上に載置したシート材を吸引ポンプ16により吸引固定できるものであればよい。8は裁断用のヘッドで、アーム10上を図1のY方向に走行し、アーム10はレール12に対して図1のX方向に走行するので、テーブル4に対してXY方向に移動できる。ヘッド8は、シート材などを裁断するためのナイフや丸刃と、シート材にマークを打刻するための目打ち(ノッチ)とを備えているが、最低限ナイフか目打ちかの一方を備えていればよい。ヘッド8は、ナイフを上下させて、ブリストル6上に積み重ね塩化ビニルなどのシートで覆って固定したシート材の束を裁断する。なお積み重ねたシート材の枚数が少ない場合、例えば1〜2枚のシート材を裁断する場合、丸刃で裁断しても良い。そしてこの場合、上側の2枚目のシート材が下側のシート材に対して位置ずれしないように、実施例と同様に、ナイフや目打ちでシート材を互いに溶着させておくと良い。
14は制御部で、裁断パターンを入力されて、ヘッド8のXY方向への走行と、裁断や目打ち、溶着、切り残しなどの制御を行う。なお裁断パターンは、裁断装置2で発生させても、あるいは外部のデザイン装置などで発生させてもよい。16は吸引ポンプで、ブリストル6を介してテーブル4上のシート材を真空吸引して固定する。
図2に、実施例での裁断アルゴリズムを示す。ステップ1で裁断パターンを作成し、ステップ2でシート材の固定方法を選択する。シート材の固定方法には、シート材を上下で相互に溶着させる「溶着」と、裁断線上に数カ所切り残しを設けて、切り残し以外の部分を裁断した後に切り残しをカットする、「切り残し」がある。これ以外に溶着も切り残しも行わず、真空吸引のみでシート材を固定することも選択できる。なお溶着の場合も切り残しの場合も、真空吸引を同時に行うものとする。また「溶着」、「切り残し」、「これ以外」(真空吸引のみ)の選択は、制御部にマニュアルで入力しても、シート材の材質や裁断パターン等のデータから制御部で自動的に選択するようにしても良い。
溶着の場合、裁断線の近傍、即ち裁断線の内側の縫い代や裁断線上、あるいは裁断線のやや外側で、上下に積み重ねたシート材を互いに溶着させる。溶着には裁断用のヘッドに備え付けのナイフや目打ちを用いる。例えば溶着箇所で、積み重ねたシート材の多くを貫通する位置までナイフを突き刺し、同じ位置で高速で上下すると、摩擦熱によりシート材は上下で相互に溶着する。ドリル状の目打ちの場合、目打ちを回転させて積み重ねたシート材の多くを貫通するように掘り下げ、その位置で回転させて摩擦熱溶着させる。ここで「多く」とは、例えば積み重ねたシート材の厚さの1/2〜3/4程度を意味する。またナイフ状の目打ちの場合、裁断用のナイフと同様に、積み重ねたシート材に突き刺した状態で高速で上下させ、シート材を互いに溶着させると良い(ステップ3)。そして溶着後に裁断を実行する(ステップ4)。ただし1パーツの全周分数カ所を先に溶着する必要はなく、1個所溶着して1ライン分カットし、次のラインに対して例えば1個所溶着して、このラインを裁断するようにしてもよい。切り残しを設ける場合、裁断パターンを変更し、裁断線上の数カ所に切り残しを追加する(ステップ5)。そして裁断を実行し(ステップ6)、最後に切り残しをカットする(ステップ7)。また溶着と切り残しは併用可能で、その場合、アルゴリズム上は溶着と切り残しの双方が選択されたものとする。
図3に、裁断線のやや外側に溶着個所26を数カ所で設ける例を模式的に示す。20はシート材を複数枚積み重ねて厚さ2cm〜5cm程度にした束で、シート材には例えば塩化ビニルや合皮などの空気不透過性のシートを用いる。そして実際には、束20の上に図6に示す気密性の塩化ビニルシート34などを重ねて、より効率的に真空吸引できるようにする。ただし図3〜図5では、塩化ビニルシートの図示を省略する。22はナイフで、裁断用のヘッドに備え付けのもので、目打ちなどの他の部材を用いてもよい。また裁断用のヘッドにヒータを内蔵した棒状の部材などを設けて、この部材を上下させて溶着してもよい。
ナイフ22を上下させ、裁断線の外側の数カ所、例えば4個所に、溶着個所26を設ける。そしてナイフ22を積み重ねたシート材に突き刺して、その位置で上下させると、上下のシート材が互いに溶着して、シート材を固定できる。このため空気不透過性のシート材で、吸引ポンプによる吸引だけでは上下のシート材を固定できない場合でも、正確に裁断できる。溶着個所26はパーツの外側であり、裁断線からの距離も5mm程度と極く僅かなので、他のパーツに疵を付けることがない。溶着は例えば裁断前に行うものとするが、溶着−裁断−溶着−裁断などのように、各区間(裁断の1ライン)毎に溶着と裁断とを交互に実行してもよい。28はパーツの内部のパターンで、縫い代の内側の領域で、縫製後に繊維製品の表面に表れる部分である。
図4は、裁断線24の内側の縫い代30に、溶着個所26を設ける例を示している。この場合、溶着個所26は縫い代30にあり、縫製により隠されるため製品に疵が残らない。
図5は、裁断線24に数カ所で切り残し32を設ける例を示している。切り残しを設ける個所は、パーツの角などのようにナイフ22をシート材から引き上げて方向転換などを行う場所が好ましい。さらに切り残し32の裁断線24に沿った長さは、ナイフ22の幅、即ちナイフ22の裁断方向の長さよりも短くすることが好ましい。図5の実施例は図3,図4の実施例と併用でき、例えば裁断線24の直ぐ外側に他のパーツが来る場合などに、図5のように切り残し32を利用するとよい。また図3の実施例と図4の実施例を併用し、同様に裁断線24の外側に溶着個所26を設けられない場合に、縫い代30を用いて溶着個所26を設けるとよい。裁断にはナイフ22を用いても、裁断するシート材の枚数が少ない場合、図示しない丸刃などを用いても良く、ヘッドは動作中にナイフ、目打ち、丸刃などのツールを選択自在なので、例えばナイフや目打ちで溶着して、丸刃で裁断することもできる。
図6に、溶着個所26を設けた束20の断面を示すと、空気透過性のブリストル6を介して、束20内のシート材が吸引されて、テーブル上に固定する。そして束20上には気密性の塩化ビニルシート34を被せ、真空吸引しやすくする。束20のシート材が空気不透過性の場合、シート材を真空吸引だけで固定することは難しいので、溶着や切り残しを利用する。そして溶着や切り残しの形成並びに裁断は、塩化ビニルシート34と束20とに対して一括して行う。このため溶着時には、ナイフ22や目打ちを塩化ビニルシート34に上側から貫通させて、下側の束20のシート材を互いに溶着する。
実施例では、裁断線上やその外側、あるいは縫い代などの縫製後に表れない位置を利用して、溶着や切り残しにより裁断時にシート材を互いに固定し、滑りやすいシート材を積み重ねても正確に裁断できる。しかも溶着や切り残しはヘッドに備え付けの部材で行え、新たな部材を追加する必要がない。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシート材を上下に重ねて固定し、所定の裁断線に沿ってパーツへと裁断するに際して、前記裁断線の近傍でかつ前記パーツの縫い代またはその外側を局部的に加熱することにより、前記シート材を相互に上下に溶着させて、上下のシート材を固定することを特徴とする、シート材の裁断方法。
【請求項2】
前記局部加熱を、裁断ヘッドのナイフまたは目打ちを用いて行うことを特徴とする、請求の範囲第1項のシート材の裁断方法。
【請求項3】
前記局部加熱を、裁断線もしくはそのやや外側に対して、1パーツ当たり数カ所で行うことを特徴とする、請求の範囲第1項または第2項のシート材の裁断方法。
【請求項4】
前記局部加熱を、裁断線の内側の縫い代に対して、1パーツ当たり数カ所で行うことを特徴とする、請求の範囲第1項または第2項のシート材の裁断方法。
【請求項5】
複数のシート材を上下に重ねて固定し、所定の裁断線に沿ってパーツへと裁断するに際して、前記裁断線上の複数個所を切り残すように裁断した後に、該切り残しを裁断することを特徴とする、シート材の裁断方法。
【請求項6】
前記シート材が空気不透過性であることを特徴とする、請求の範囲第1項〜第5項のいずれかのシート材の裁断方法。

【国際公開番号】WO2004/062858
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−566310(P2004−566310)
【国際出願番号】PCT/JP2003/017092
【国際出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】