説明

シート状ゲル組成物及びフィルム状組成物

【課題】高強度を有するとともに高い粘弾性を示すシート状ゲル組成物を提供すること、及び液体に浸漬させても強度劣化を起こさずに膨潤してシート状ゲル組成物となるフィルム状組成物を提供することである
【解決手段】ネイティブ型ジェランガムとハイドロコロイドを含むシート状ゲル組成物であって、ネイティブ型ジェランガムとハイドロコロイドの質量比が、99:1乃至40:60であることを特徴とするシート状ゲル組成物及びフィルム状組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料や医薬品などに用いられるシート状ゲル組成物、及び液体を吸収して膨潤することによりシート状ゲル組成物になるフィルム状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化粧品や医薬部外品の分野において、水溶性の多糖類からなるシート状ゲル組成物が用いられている。例えば、化粧品分野においてのパック素材や医薬部外品分野においての貼付剤などとして用いられる。このようなシート状ゲル組成物としては、カラギナンとローカストビーンガム、キサンタンガムとローカストビーンガム(特許文献1)など多糖類を組み合わせたものがある。また、ネイティブ型ジェランガムを主成分とした化粧料などある(特許文献2)。さらに澱粉にネイティブ型ジェランガムを含有するソフトカプセル基剤用シート(特許文献3)がある。
【0003】
また、食品や医薬部外品の分野において、水溶性の多糖類からなるフィルム状組成物が用いられている。例えば、口腔清涼剤やフィルム状トローチなどとして用いられる。このようなフィルム状組成物としては、澱粉やプルランからなるものや、カラギナンなどの多糖類と多価アルコールを主成分とするものがある。
【0004】
【特許文献1】特願平1−218326
【特許文献2】特開平12−355518号公報
【特許文献3】特開2005−170929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カラギナンとローカストビーンガム、キサンタンガムとローカストビーンガムなどの組み合わせからなるシート状ゲル組成物は、強度が弱く、取り扱い中に裂けたり壊れたりするという問題がある。また、特許文献2に記載されたネイティブ型ジェランガムを使用した化粧料は、シート状の化粧料ではなく、ペースト状態での使用を目的としている。さらに、特許文献3に記載された澱粉とネイティブ型ジェランガムを含有するソフトカプセル基剤用シートは、澱粉の含有量が30質量%と固形分が多いにもかかわらずシートが軟らかい為、パック素材や貼付剤用シートとして使用するには取り扱いが困難であるという問題がある。
【0006】
また、澱粉やプルランからなるフィルム状組成物は、水などの液体に浸漬させると溶けてしまい、液体を吸収してシート状ゲル組成物となることはない。カラギナンを主成分とするフィルム状組成物は、液体に浸漬させても溶解しないが、液体を吸収すると強度が著しく低下するという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、高強度を有するとともに高い粘弾性を示すシート状ゲル組成物を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、液体に浸漬させても強度劣化を起こさずに膨潤してシート状ゲル組成物となるフィルム状組成物を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の第1の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ネイティブ型ジェランガムと、寒天、カラギナン、ファーセレラン、アルギン酸、アルギン酸塩類、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガム、タマリンドガム、ペクチン、脱アシル型ジェランガム、カードラン、キサンタンガム、グルコマンナン、ゼラチン、カラヤガム及びサイリュームシードガムのうち少なくとも1以上からなるハイドロコロイドと、を含ませて、ネイティブ型ジェランガムと前記ハイドロコロイドの質量比を99:1乃至40:60とすることによって、高強度を有するとともに高い粘弾性を示すシート状ゲル組成物を得ることができることを見出した。すなわち、本発明は、ネイティブ型ジェランガムと、前記ハイドロコロイドと、を含むシート状ゲル組成物であって、ネイティブ型ジェランガムと前記ハイドロコロイドの質量比が、99:1乃至40:60であることを特徴とするシート状ゲル組成物である。
【0009】
また、第2の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ネイティブ型ジェランガムと、寒天、カラギナン、ファーセレラン、アルギン酸、アルギン酸塩類、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガム、タマリンドガム、ペクチン、脱アシル型ジェランガム、カードラン、キサンタンガム、グルコマンナン、ゼラチン、カラヤガム及びサイリュームシードガムのうち少なくとも1以上からなるハイドロコロイドと、を含ませて、ネイティブ型ジェランガムとハイドロコロイドの質量比を99:1乃至40:60とすることによって、液体に浸漬させても強度劣化を起こさずに膨潤してシート状ゲル組成物となるフィルム状組成物を得ることができることを見出した。すなわち、本発明は、ネイティブ型ジェランガムと、前記ハイドロコロイドと、を含み、液体を吸収して膨潤することによりシート状ゲル組成物になるフィルム状組成物であって、ネイティブ型ジェランガムと前記ハイドロコロイドの質量比が、99:1乃至40:60であることを特徴とするフィルム状組成物である。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、高強度を有するとともに高い粘弾性を示すシート状ゲル組成物を提供することができる。また、本発明によれば、液体に浸漬させても強度劣化を起こさずに膨潤してシート状ゲル組成物となるフィルム状組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るシート状ゲル組成物及びフィルム状組成物において、ネイティブ型ジェランガムと前記ハイドロコロイドの質量比は、99:1乃至40:60であるが、95:5乃至50:50であることが好ましく、90:10乃至65:35であることがより好ましい。
【0012】
本発明に係るシート状ゲル組成物において、ネイティブ型ジェランガム及び前記ハイドロコロイドの含有量が、組成物全量に対して0.2乃至10.0質量%であることが好ましく、0.5乃至6.0重量%であることが特に好ましい。
【0013】
本発明に係るフィルム状組成物は、自重の5〜150倍の液体を吸収するよう調整されていることが好ましい。
【0014】
本発明に係るシート状ゲル組成物及びフィルム状組成物は、柔軟性を与えるため、可塑剤として糖類や多価アルコールを含有させても良く、多価アルコールとしては、例えばグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、還元澱粉糖化物、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、サッカロース、マルトース、ラクトース及びオリゴ糖などがある。
【0015】
また、本発明に係るシート状ゲル組成物及びフィルム状組成物の物性を大きく損なわない範囲で、添加物を加えることができる。添加物としては、例えば無機物若しくは有機物の粉末、着色料又は香料などがある。
【0016】
本発明に係るシート状ゲル組成物の製造方法としては、例えば、ネイティブ型ジェランガムと前記ハイドロコロイドの水溶液を型に流し込み冷却することによって作製する方法や平板上、ドラム、ベルト、フィルムなどの支持体上に流延し冷却することによって作製する方法があるが、シートの厚みを均一にすることができるのであれば、特に限定されない。
【0017】
本発明に係るフィルム状組成物の製造方法としては、例えば、フラットダイ法やカレンダー法などの押し出し成形法やネイティブ型ジェランガムと前記ハイドロコロイドの水溶液をフィルム、ドラム、ベルトなどの支持体上に流延し乾燥させることによって作製する方法あるが、フィルムの厚みを均一にすることができるのであれば、特に限定されない。
【0018】
本発明に係るシート状ゲル組成物及びフィルム状組成物は、例えば、化粧品、医薬品、医薬部外品、化成品、食品、衛生用品、日用品などに用いることができる。
【実施例】
【0019】
実施例1乃至3
次に、表1に示す割合でネイティブ型ジェランガム(CPケルコ社製)と寒天(伊那食品工業社製)を配合し、これら多糖類の総濃度が2質量%となるように水溶液を作製し、その水溶液を厚さ1mmになるように型に流し込み冷却することにより、実施例1乃至3、並びに比較例1に係るシート状ゲル組成物を得た。
【0020】
【表1】

【0021】
実験例1
次に、実施例1乃至3、並びに比較例1に係るシート状ゲル組成物に関して、破断応力及び破断距離の測定、並びにシート物性の評価を行った。破断応力及び破断距離の測定は、レオメーター(サン科学社製)を使用し、サンプルの品温を20℃で行った。破断応力及び破断距離の測定は、実施例1乃至3、並びに比較例1に係るシート状ゲル組成物そのものではなく、実施例1乃至3、並びに比較例1の原液を直径5.0cm、高さ5.5cmの円柱型の器に流し込み、冷却することにより、作製したゲルをそれぞれ用いて行った。破断距離とは、破断応力の最大荷重に達するまでの距離を意味する。シートの評価は、シートの柔軟性、強度で評価した。これらの結果を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
シートが硬いためには、破断応力が大きな値を示すことが良く、曲げに対しても破断せずに柔軟性を持つためには、破断距離が大きな値を示すことが良い。したがって、この両方の値が大きいことが優れたシート特性を示すことになる。
【0024】
実施例1乃至3に係るシート状ゲル組成物は、比較例1に係るシート状ゲル組成物に比し、柔軟性及び硬さの両方に優れていて良好なシートであることがわかる。
【0025】
実施例4乃至8
次に、表3に示すようにネイティブ型ジェランガム(CPケルコ社製)と、寒天(伊那食品工業社製)、カラギナン(伊那食品工業社製)、グアーガム(伊那食品工業社製)、アルギン酸ナトリウム(大日本住友製薬社製)、又はペクチン(CPケルコ社製)を1:1の割合で配合し、これら多糖類の総濃度が2質量%となるように水溶液を作製し、その水溶液を厚さ1mmになるように型に流し込み冷却することにより、実施例4乃至8に係るシート状ゲル組成物を得た。また、同様にネイティブ型ジェランガムからなるシート状ゲル組成物を比較例2として作製した。
【0026】
【表3】

【0027】
実験例2
次に、実施例4乃至8、並びに比較例2に係るシート状ゲル組成物に関して、破断応力及び破断距離の測定、並びにシート物性の評価を行った。破断応力及び破断距離の測定は、レオメーター(サン科学社製)を使用し、サンプルの品温を20℃で行った。破断応力及び破断距離の測定は、実施例4乃至8、並びに比較例2に係るシート状ゲル組成物そのものではなく、実施例4乃至8、並びに比較例2の原液を直径5.0cm、高さ5.5cmの円柱型の器に流し込み、冷却することにより、作製したゲルをそれぞれ用いて行った。シートの評価は、シートの柔軟性、強度で評価した。これらの結果を表4に示す。
【0028】
【表4】

【0029】
表4に示すように、ネイティブ型ジェランガムを単独で使用した比較例2は、破断距離が長く柔軟性を有するが、破断応力が十分でない。そのためにシートを作製した場合、シートの保形性を維持できない。実施例4乃至8に係るシート状ゲル組成物は、比較例2に比し、ハイドロコロイドを含有させることにより、柔軟性と共に強度を有する。
【0030】
実施例9乃至12
次に、表5に示す配合でネイティブ型ジェランガム(CPケルコ社製)と、寒天(伊那食品工業社製)、カラギナン(伊那食品工業社製)、又は脱アシル型ジェランガム(CPケルコ社製)をこれら多糖類の総濃度が5質量%となるように配合し、それにグリセリンを加えて水溶液を作製し、その水溶液を金属板上に流延し乾燥することにより、実施例9乃至12に係る厚さ50μmのフィルム状組成物を得た。また、同様にカラギナン又はプルランからなるフィルム状組成物を比較例3及び4として作製した。
【0031】
【表5】

【0032】
実験例3
次に、実施例9乃至12、並びに比較例3及び4に係るフィルム状組成物について、吸液量の測定及び吸液後のシート物性の評価を行った。吸液量の測定は、2.5cm×5.0cmのフィルム片をイオン交換水へ15分間浸漬させたものの重量を浸漬前の2.5cm×5.0cmのフィルム片の重量で割って算出し、膨潤倍率として表した。これらの結果を表6に示す。
【0033】
【表6】

【0034】
実施例9乃至12に係るフィルム状組成物は、イオン交換水に浸漬後、吸液し、良好なシート状ゲル組成物を得ることができた。一方、比較例3及び4に係るフィルム状組成物は、イオン交換水に浸漬後、徐々にフィルムが溶解しシートを得ることができなかった。
【0035】
実施例14
次に、実施例14に係るシート状ゲル組成物として、シート状化粧料を作製した。実施例14に係るシート状ゲル組成物は、表7に示す配合でネイティブ型ジェランガム、寒天、1,3−ブチレンブリコール及びパラベンを混合して精製水に溶解し、水溶液の温度が60℃以下になった時に、ビタミンCを攪拌混合して全体を100%とし、次いで、この水溶液を厚さ2mmになるように型に流し込み、冷却してゲル化させることによって得た。
【0036】
【表7】

【0037】
実施例14に係るシート状化粧料は、柔軟性を有し、非常に扱いやすく、シートの絡み合いもなく皮膚に貼付することができた。シート強度が高いため、やや乱雑に扱ってもシートの破損は見られなかった。
【0038】
実施例15
次に、実施例15に係るシート状ゲル組成物として、冷却ゲルシートを作製した。実施例15に係る冷却ゲルシートは、表8に示す配合でネイティブ型ジェランガム、寒天及びグリセリンを混合して精製水に溶解し、水溶液の温度が60℃以下になった時に、L−メントールを攪拌混合して全体を100%とし、次いで、この水溶液を厚さ2mmになるように型に流し込み、冷却してゲル化させることによって得た。
【0039】
【表8】

【0040】
実施例15に係る冷却ゲルシートは、1.5時間以上冷却時間が持続した。また、実施例15に係る冷却ゲルシートは、シート強度が高く、扱いが乱雑であっても試験に使用したものは、全て破損が見られなかった。
【0041】
実施例16
次に、実施例16に係るシート状ゲル組成物として、火傷・創傷被覆シートを作製した。実施例16に係る火傷・創傷被覆シートは、表9に示す配合でネイティブ型ジェランガム及び寒天をイオン交換水に加えて、加熱溶解後、グリセリンを添加し、さらに少量の水に加熱溶解したメチルパラベン、塩化ナトリウム及び塩化カリウムを加え、pHを調整後、グリチルリチン酸ジカリウムを十分に溶解し、さらに水を加えて水分量を調製し、溶液を厚さ5mmになるように型に流し込み、冷却してゲル化させることによって得た。
【0042】
【表9】

【0043】
実施例16に係る火傷・創傷被覆シートは、使用後のツッパリ感が見られず、また剥がす際に皮膚への付着が認められなかった。また、実施例16に係る火傷・創傷被覆シートは、シート強度が高く、扱いが乱雑であっても試験に使用したシートに破損は見られなかった。
【0044】
実施例17
次に、実施例17に係るシート状ゲル組成物として、ソフトカプセル用シートを作製した。実施例17にソフトカプセル用シートは、先ず、表10に示す重量部で、ネイティブ型ジェランガム、並びに寒天、カラギナン、キサンタンガム及びローカストビーンガムよりなるハイドロコロイドを溶解タンク中の水に攪拌しながら少量ずつ加え均一に分散し、その後80℃〜98℃で攪拌しながら加温し、ダマが生じないように溶解し、脱泡後、溶液をドラム上に流延し冷却させることによって得た。
【0045】
【表10】

【0046】
実施例17に係るソフトカプセル用シートは、ロータリー式ソフトカプセル製造装置を用いることによって、ソフトカプセルを得ることができた。この実施例17に係るソフトカプセル用シートは、引っ張り強度が優れており、カプセル成型中にシートが切断されることがなく、良好なソフトカプセルを得ることができた。また、実施例17に係るソフトカプセル用シートは、乾燥後の強度にも優れており、液漏れ等は全く見られなかった。さらに、実施例17に係るソフトカプセル用シートは、対吸湿性に優れておりカプセル同士の付着は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネイティブ型ジェランガムと、
寒天、カラギナン、ファーセレラン、アルギン酸、アルギン酸塩類、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガム、タマリンドガム、ペクチン、脱アシル型ジェランガム、カードラン、キサンタンガム、グルコマンナン、ゼラチン、カラヤガム及びサイリュームシードガムのうち少なくとも1以上からなるハイドロコロイドと、
を含むシート状ゲル組成物であって、ネイティブ型ジェランガムと前記ハイドロコロイドの質量比が、99:1乃至40:60であることを特徴とするシート状ゲル組成物。
【請求項2】
ネイティブ型ジェランガム及び前記ハイドロコロイドの含有量が、組成物全量に対して0.2乃至10.0質量%であることを特徴とする請求項1記載のシート状ゲル組成物。
【請求項3】
ネイティブ型ジェランガムと、
寒天、カラギナン、ファーセレラン、アルギン酸、アルギン酸塩類、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガム、タマリンドガム、ペクチン、脱アシル型ジェランガム、カードラン、キサンタンガム、グルコマンナン、ゼラチン、カラヤガム及びサイリュームシードガムのうち少なくとも1以上からなるハイドロコロイドと、
を含み、液体を吸収して膨潤することによりシート状ゲル組成物になるフィルム状組成物であって、ネイティブ型ジェランガムと前記ハイドロコロイドの質量比が、99:1乃至40:60であることを特徴とするフィルム状組成物。
【請求項4】
自重の5〜150倍の液体を吸収して膨潤するよう調整されたことを特徴とする請求項3記載のフィルム状組成物。

【公開番号】特開2007−176886(P2007−176886A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379599(P2005−379599)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】