説明

シート状ビームクライストロンにおける多重出力空洞

RF生成器が、入力部分と出力部分、さらに前記入力部分と前記出力部分との間に伸長する開口部を有する構造物を含んで成り、出力部分は第1の空洞および第2の空洞を有し、前記第1および第2の空洞は互いに電磁気的に結合しないように互いに離されている。RFエネルギーを与える方法が、電子ビームを受け入れる工程と、前記電子ビームを使用して生成される第1のRFエネルギーを、第1の空洞を通して与える行程と、前記電子ビームを使用して生成される第2のRFエネルギーを、第2の空洞を通して与える行程と、を含み、前記第1および第2の空洞が、互いに電磁気的に連結されないように、互いに離れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にクライストロンといった高周波(RF)源に関し、特にシート状ビームを生成するクライストロンに関する。
【背景技術】
【0002】
クライストロンは、直流(DC)電子ビームの運動エネルギーを高周波(RF)エネルギーに変換する装置である。クライストロンは広範囲に利用されている。たとえば、クライストロンは、電子加速器といった粒子加速器にRFエネルギーを与えて、加速器に所望の特徴をもつ粒子ビームを生成させるように使用することができる。例として、粒子ビームは治療または診断目的に、放射線ビームを生成するための使用することができる。クライストロンはまた、スーパーへテロダインレーダー受信機のための基準信号を生成するため、通信のための高出力搬送を生成するために、使用することもできる。
【0003】
クライストロンは、電子銃、電子ビームが伝播する二つまたはそれ以上の共振空洞、および使用済み電子ビームを捕捉し、生じた熱を消散するコレクターを含むことができる。単純なクライストロンは、二つの空洞、すなわち入力空洞および出力空洞を有する。入力空洞では、マイクロ波エネルギーが空洞共振を生じさせる。ビームトンネル内で生成された電場はDC電子ビームを変調する。RF波の二分の一周期で、電子は共振器の電場からエネルギーを失い、減速する。つぎのRF波の二分の一周期で、電子はエネルギーを得て、加速する。速度の変化は僅かであるが、ビームエネルギーにおける正弦曲的な変化により、電子は集群し、正弦曲線的に変化するRF電子ビーム流が形成される。
【0004】
クライストロンの出力空洞は、RF電流が所望の値、たとえば最大値に達するビーム経路のそった位置に位置づけられてもよい。電子の集群が出力空洞を通過するとき、電子の集群は空洞壁の表面上に電流を誘導し、順に出力空洞に共振モードを形成する。共振モードは電子の集群を減速し、電子ビームの運動エネルギーをRFエネルギーに変換する電場を形成する。RFエネルギーはそして共振器の出力空洞から離れる。ある例では、付加的な共振空洞が、クライストロンの利得を増加させ、または装置の周波数応答および帯域を変更するために、入力空洞と出力空洞との間に配置してもよい。
【0005】
励起したクライストロンは円形断面をもつ円筒状電子ビームを形成するが、その電子ビームは、円筒状のビームトンネルを伝播し、回転形状の共振空洞と相互作用をする。しかし、発明者は、細長い断面をもつ電子ビームを生成するクライストロンを得ることが望ましいと判断した。さらに、発明者は互いに結合していない一つ以上の出力空洞をクライストロンに与えることが望ましいと判断した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施例にしたがって、RF発生器が、入力部分、出力部分、および入力部分と出力部分との間に伸長する開口部を含む構造物を含み、ここで出力部分は第一の空洞および第二の空洞を有し、第一および第二の空洞は、それら空洞が互いに電磁気的に結合しないように、互いに離れる。
【0007】
本発明の他の実施例にしたがって、RFエネルギーを与える方法が、電子ビームを受け取る工程、第一の空洞を通して第一のRFエネルギーを与える工程(ここで、第一のRFエネルギーは電子ビームを使用して発生される)、および第二の空洞を通して第二のRFエネルギーを与える工程(ここで第二のRFエネルギーは電子ビームを使用して発生され、第一の空洞および第二の空洞は、それら空洞が互いに電磁気的に結合しないように互いに離れている)を含む。
【0008】
他の、およびさらに他の態様および特徴は、本発明を説明することを意図するものであるがこれに限定することを意図しない、以下の発明を実施するための例の記述を読めば明らかになるであろう。
【0009】
図面は、実施形態の設計および有用性を示し、同様の要素は、共通の参照番号によって示されている。これらの図面は、必ずしも原寸に比例して描かれてはいない。上述ならびに他の利点および目的が得られる方法をよりよく理解するために、添付図面に示される本実施例のより具体的な説明が提供される。これらの図面は、典型的な実施例のみを示しており、したがってその範囲を限定すると考えられるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は実施例にしたがったクライストロンを図示する。
【図2】図2は実施例にしたがった電子源を図示する。
【図3】図3はシート状のビームを円形状のビームと比較する図である。
【図4A】図4Aは実施例にしたがったクライストロンの一端部を図示する。
【図4B】図4Bは実施例にしたがった、図4Aのクライストロンの一端部の斜視図である。
【図5A】図5Aは他の実施例にしたがったクライストロンの一端部を図示する。
【図5B】図5Bは実施例にしたがった、図5Aのクライストロンの一端部の斜視図である。
【図6A】図6Aは出力空洞に関連した四つのモードを図示する。
【図6B】図6Bは実施例にしたがったモードの分離を図示する。
【図7】図7は実施例にしたがったクライストロンを含む輻射を伝送するシステムを図示する。
【図8】図8は実施例にしたがった図7の放射源を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明にしたがったクライストロン10を図示する。本明細書で使用されるように、用語“クライストロン”は、DC電子ビームの運動エネルギーをRFエネルギーのようなエネルギーに変えることができる装置を示す。クライストロン10は粒子加速器のような装置に使用する線形ビーム真空管であってもよい。しかし、他の実施例では、クライストロンはWバンド、Xバンド、Sバンド、Lバンドなどの周波数で動作するように構成されてもよい。したがって、用語“クライストロン”は特定の動作周波数、動作周波数の範囲に限定されるべきではない。他の実施例として、クライストロン10はスーパーヘテロダインレーザー受信機のための低出力基準信号を生成するために使用されてもよい。他の実施例として、クライストロンは通信のための高出力搬送波を生成するために使用することができる。さらに他の実施例として、クライストロンは、材料加工、材料の保存処理、または料理のためにエネルギーを与える電力源として使用することができる。
【0012】
図示のとおり、クライストロン10は、入力部分15をもつ第1の端部14、出力部分17を有する第2の端部16、および両端部14,16に間に伸長する胴体部18を有する構造物12を含む。本明細書で使用されているように、用語“入力部分”は、エネルギーを受信する要素を含むクライストロン10のどの部分も示し。同様に、用語“出力部分”は、エネルギーを出力する要素を含むクライストロン10のどの部分も示す。構造物12はまた、両端部14、16の間に伸長する開口部20、および直列に並ぶ複数の中間空洞22a−22dを含む。4つの中間空洞22のみが図示の実施例に示されているが、クライストロン10は、4つ未満の数の空洞、または4つを超える数の空洞22をもってもよい。図示の実施例では、共振空洞22はカットオフで動作する導波管部である。空洞22のそれぞれは、ドリフト空間領域により隣り合う空洞22と間隔が空けられている。図示に実施例では、各空洞22は長い(たとえば、矩形の)断面をもつ。空洞の断面の垂直な範囲50は水平な範囲52よりも大きく、したがって、空洞22の共振周波数は垂直な範囲50により決定される。他の実施例では、各空洞22は他の断面形状をもってもよい。
【0013】
入力空洞24が入力部分15に設けられ、開口部28を通って、入力空洞24にエネルギーを向け、結合するための構造物12の一部により形成される(たとえば、通路の形状した)入力部25を含む。さらに、複数の出力空洞26a−26dが出力部分17に設けられ、開口部29a−29dをそれぞれ通って、出力空洞26a−26dにエネルギーを向け、結合するための構造物12の一部により形成される複数の(たとえば、通路の形状した)出力部27a−27dを含む。或る場合では、各出力部27のルーメンは対応する出力空洞26の一部として考えてもよく、この場合、出力空洞26は出力部27の空間を含むことになる。図示の実施例では、入力部分15は第1の端部14にあり、出力部分17は第2の端部16にある。他の実施例として、入力部分15および出力部分17は他の位置に位置してもよい。
【0014】
クライストロン10はまた、構造物12の上下にそれぞれ位置する第1の磁気構造30および第2の磁気構造32を含む。磁気構造30、32のそれぞれは、構造物12の長さにそって直列ではあるが交互に配置される複数の磁石とポールピース(たとえば、鉄製バー)を含む。磁気構造30、32は、構造物12の内部に電子ビームを限定するために、構造物12の長さにそって磁場を形成するように構成される。
【0015】
クライストロン10はまた、構造物12の第1の端部14に連結された電子源(たとえば、電子銃)を、構造物12の第2の端部16に結合されたコレクター42を含む。電子源40は電子ビーム44を与えるように構成されているが、その電子ビームは構造物12の開口部20内に入る。電子ビーム44はDCエネルギーを与えるために使用され、そのDCエネルギーはRFエネルギーに変換され、出力空洞26a−26dから離れる。コレクター42は減少してエネルギーをもつ消耗した電子ビームを収集するように構成される。ある実施例では、コレクター42は電位低減コレクター(電子を収集するために電子ビームからエネルギーを受け取る)であってもよい。
【0016】
図2は、実施例にしたがった電子源40を図示する。電子源40は、カソード60、アノード62、および、カソード60およびアノード62に連結された電圧源64を含む。使用の間、電圧源64はカソード60とアノード62の間に電位差を与え、これにより電子ビーム44が生成される。図示のとおり、アノード62は細長い開口部68を有し、カソード60は、直交する方向のうちの一方が長いトラック66を有する。このような形状により、細長い断面をもつ電子の生成が可能となる。本明細書において使用されているように、用語“細長い”とは、矩形または楕円(一方の方向が、その方向に垂直な他の方向よりも長い形状)のような形状を示す。同様に、用語“シート状のビーム”とは、シートのような形状をもつビームに限定されるものではなく、細長い断面(一方の方向が、その方向に垂直な他の方向よりも長い形状)をもつビームを示す。
【0017】
図3は、シート状のビームと、同じ厚さをもつ円形ビームとの比較を示す。図において、Jは電流密度であり、Bは磁束密度である。図ではビーム44に対する動作パラメータとともに例示されているが、ここで記述する実施例がこの例示に限定されるものではないことに留意されたい。細長い断面をもつビームを与えることには、いくつかの利点がある。第1に、細長い断面をもつビームビーム44は比較的高いピークと平均的なパワーを支持する増加した表面を与える。同じビーム電圧および電流であっても、ビームトンネルおよび共振空洞の表面領域が、同じ厚さをもつ円形ビームを形成する丸いビームクライストロンよりも、シート状のビームクライストロンの方が大きい。同じ厚さ(高さ)をもつ円形のビームと、細長いビームとを仮定すると、細長いビームのアスペクトはまたビーム領域の比である。また、同じビーム電流に対して、断面が細長いビームは、空間電荷のデフォーカシング力(すなわち、互いに集群した電子から生ずる力)は、断面が丸いビームの場合よりも小さい。このことは、ビームをフォーカスするのに必要な磁場を減少させることに役立つ。さらに、断面が細長いビーム44は低インピーダンスを形成し、同じ厚さの断面が円形のビームと比較して依然として同じ出力を与える。
【0018】
図4Aは、実施例にしたがった構造物12の出力部分17を図示する。図示されているとおり、出力部分17は出力部27a−27dをそれぞれ有する4つの空洞26a−26dを含む。4つの空洞26a−26dのそれぞれは唯一の共振周波数を有する。図示の実施例では、空洞26のそれぞれは細長い形状(たとえば、矩形)形状をもつ。しかし、他の実施例として、空洞26のそれぞれは他の形状をもってもよい。図示の実施例では、各出力空洞26は(側方から出力空洞26を見たとき)矩形の断面(垂直方向の方80が水平方向の方より長い)を有する。他の実施例では、各空洞26は、矩形、円形、楕円形または必要とされる形状のような他の断面形状をもってもよい。各出力部27は、空洞26の水平方向の長さ82より短い厚さをもってもよい。他の実施例として、各出力部27は、空洞26の水平方向の長さ82と同じの厚さをもってもよい。
【0019】
出力空洞26a−26dは、それぞれ出力部27a−27dを介して導波管(出力空洞26a−26bからのRFパワーを加速器のような他の装置150に伝送するように構成されている)に結合される。図示に実施例では、導波管100が100はツリー状の構成となっている。特に、導波管100は出力空洞26a−26bのそれぞれに連結された複数の管体120a−120dを有する。管体120aおよび120bは管体130aに連結され、管体120dおよび120dは管体130bに結合される。管体130aおよび130bは順に管体140(RFエネルギーを装置150に伝送する)に結合される。4つの出力空洞26a−26dのみが図示の実施例に示されているが、他の実施例として、クライストロン10は、出力空洞26の数が4つ未満でも4つを超えるものでもよい。したがって、他の実施例では、クライストロン10が4つ未満または4つを超える数の出力空洞をもってもよく、そのときは出力部27の数は出力空洞26の数に対応する。
【0020】
図4Aの装置の斜視図が図4Bに示されている。要素42、導波管100は目的を明りょうにするために省略されている。図示のとおり、出力空洞26の出力部27は構造物12の上面へと伸長している。この構成では、磁気構造物30は、出力部27a−27dにそれぞれ連結された管体120a−120dを収納するための1つまたはそれ以上の開口部を必要とする。
【0021】
他の実施例として、出力空洞26の出力部27a−27dは、図5A(ここでも、目的を明りょうにするために、要素42および導波管100は省略されている。)に示されているように、構造物12の片側に向かって伸長してもよい。図5Bは図5Aの装置の斜視図を示す。図示の実施例では、出力部27a−27dが各出力空洞26の側面から伸長していることから、導波管100は構造物12の側方で出力部に結合されている。この構成には、導波管100の管部120を収納するために磁気構造物30に開口部を設ける必要性をなくすという利点がある。
【0022】
クライストロン10は、電子ビーム44の運動エネルギーを高周波パワーに変換することによりRF信号を増幅するように構成されている。クライストロン10の使用の間、電子源40は、シート状のビームを形成するために、細長い断面をもつ電子ビーム44を生成する。電子ビーム44は、構造物12の開口部20へと入射され、構造物12の長さにそって下流へと伝送される。RF信号は、電子ビーム44に作用する電圧を生成するために、固有周波数でまたはその近傍の周波数で入力空洞24へと供給され、構造物12は、電子ビーム44を速度変調するために、電子ビームと相互作用する高周波数回路として機能する。その結果、反対の電場の中を通過する電子は加速され、後の電子は減速し、このことにより電子ビームは入力周波数で集群し、電流変調が生ずる。共振空洞22a−22dは電流集群を所望のレベル、たとえば最大値に増加せるために使用される。電流集群は出力空洞26a−26dのそれぞれのギャップにRF電流を誘導する。出力空洞26a−26dのそれぞれのインピーダンスはギャップ電圧(集群した電子ビーム44を減速し、ビームの運動エネルギーをRF出力パワーに変換する)を形成する。
【0023】
形成されたRFエネルギーは構造物12の出力部分17で、出力部27a−27dを介して出力空洞26a−26dから離れる。特に、空洞26a、26bからのRF出力は、出力部27a、27bを介して管体120a、120b(これら管体は出力を管体130aに伝え、空洞26a、26bからのRF出力を結合する)にそれぞれ伝送される。同様に、空洞26c、26dからのRF出力は、出力部27c、27dを介して管体120c、120d(これら管体は出力を管体130bに伝え、空洞26c、26dからのRF出力を結合する)にそれぞれ伝送される。管体130a、130bは順に管体140へ出力を伝え、これにより、空洞26a−26dからの出力が結合する。そして、結合されたRF出力は装置150へ出力される。空洞26a−26dからの、エネルギーが減少した電子ビームは、出力空洞22a−22dから遠くに位置するコレクター42により捕捉される。
【0024】
図示の実施例において、出力部27a−27dは、RF出力を出力空洞26のそれぞれから個々に抽出できるようにする。したがって、DCビーム電圧に等しいかそれより大きい1つのギャップ電圧を形成する代わりに、クライストロン10は、ビーム44を減速するために使用される電圧をいくつかの出力空洞26a−26dにわたって分配する。各出力空洞26における損失抵抗がV/R(Vは電圧、Rは抵抗)に比例することから、Vtを多数の空洞に分けることは、全体の損失抵抗を減少させる(Vt>>(V+V+・・・+V))。また、RFパワーを抽出するために複数の出力空洞26を使用することには、個々の空洞インピーダンスの合計が(ひとつの出力空洞の場合に比べて)より高い全インピーダンスを与え、それ故によりより回路効率を与えるという利点がある。したがって、クライストロン10の実施例は、ひとつの空洞でのRF源の場合を超えて顕著な性能をもたらす。ひとつの出力空洞がRFエネルギーを出力するために使用されるときに、出力の大半が、出力空洞において抵抗損失として消費され、その結果RF源の回路効率が低くなる。これは、ひとつの共振出力空洞が空洞インピーダンスを減少させる高い容量をもたらし、さらに回路効率を悪化させることなくひとつの出力空洞のギャップに十分なギャップ電圧の形成を困難にするためである。
【0025】
図示の実施例では、出力空洞26(およびそれらに対応する出力部27)は、それらが互いに電磁気的に結合しないように、互いに離されている。出力空洞が互いに電磁気的に結合しないことにより、出力空洞26の共振周波数は他のものと関係をもたず、このことにより、互いに相互作用をする出力空洞と比べてモード競合が防止され、または少なくとも減少する。モード競合は、第二のモード(およびより高いモード)で生成されるエネルギーが失われて、装置10により捕捉されず、装置10の効率が低下するため、装置の動作には望ましくない。図6Aは、個々の空洞が隣接しているとき(電磁気的に結合しているとき)存在し、個々のギャップからの場が隣のギャップと強く結合する4つのモードを示す。この場合、空洞26a−26dは、実際に、図6Aにグラフで示された4つの可能なモードパターンをもつ1つの伸長した相互作用空洞である。図6Bは、1つの空洞内で形成される場が隣の空洞と結合しないように、出力空洞26a−dを離す結果から生ずるモードの分離を示す。図6Bに示されているとおり、2つの出力空洞26が、電子ビーム伝播の方向の電場ベクトルを表す個々の曲線600a、600bの少なくとも1つが、2つの出力空洞の中間点における最大レベルの1%またはそれ以下、好適には0.5%またはそれ以下の値をもつように、それら空洞が離されているならば、互いに電磁気的に結合していないと考えられる。この例では、最大のレベルは1に規格化され、曲線600aは、2つの出力空洞の間の中間点で、0.002の値をもつ。他の実施例としては、出力空洞26は少なくとも2π、より好適には4πの電子集群位相で互いに分離される。クライストロン10の実施例は、伸長した相互作用出力回路からの望ましくないモードに関連した問題(たとえば、モード競合、振動、低下した効率)をなくす。他の場合では、結合していない出力空洞26を設けることにより、クライストロン10の設計に関連した多くの複雑な要因を除去することができる。
【0026】
出力空洞26が結合されていないことがどの断面形状をもつビームに対しても望ましいが、特にシート状のビームに利点があることに留意されたい。これは、シート状のビームにおいて、インピーダンス(すなわち、集群に対する空洞の応答に関連する)が円形ビームに対するよりも非常に小さいからである。このように複数の出力空洞を設けることにより、装置10は、ビームを停止するために、必要とされるインピーダンスを生成することができる。したがって、シート状ビームを生成するように構成されたクライストロン10の実施例では、減少したシャントインピーダンスR/Qは、ビームを低速にするために十分な電圧を達成するために、複数の出力空洞を使用することが望ましくする。他方、電磁気的に結合していない空洞は、それらの相互作用インピーダンスが十分に高く、一つの空洞だけがビームを減速することを要求されることから、円形ビーム管には必要とならない。
【0027】
実施例として、クライストロン10は加速器にRFエネルギーを与えるように構成されているが、このような場合、装置150は加速器、あるいは加速器の一部である。加速器は医療装置の要素であってもよい。たとえば、ある実施例では、加速器は、患者を治療するために、X線、陽子ビームのような治療ビームを送り出す治療装置の一部であってもよい。他の実施例として、加速器は、患者の一部を映像化するための画像ビームを送り出すための診断装置の一部であってもよい。さらに、他の実施例として、加速器は、対象を走査するために、セキュリティーシステムのような対象検査装置の一部であてもよい。さらに、他の実施例として、クライストロン10は、スーパーヘテロダインレーザー受信機のための低出力基準信号を生成するために使用されてもよい。さらに、他の実施例として、通信のための高出力搬送波(この場合、クライストロン10は通信システムの一部である)を生成するために使用されてもよい。他の実施例として、クライストロン10は、たとえば、木材を乾燥させるため、セラミックを硬化させるため、接着剤を乾燥させるため、食物を料理するため、その他工業的な加熱処理のために材料加工処理システムの一部であってもよい。
【0028】
図7は、いくつかの実施例にしたがったクライストロン10を利用する放射線システム700を示す。システム700は、ガントレー712(アーム形状)、患者を支える患者支持部714、およびガントレー714の動作を制御するための制御装置718を含む。システム700はまた、患者が支持部714上に支持されている間患者に向けてビーム726を放射する放射線源720、および放射線源726の送り出しを制御するためのコリメータシステム722を含む。放射線源720は、円錐状ビーム、ファン状ビーム、または異なる実施例において他のタイプの放射線ビームを生成するように構成されている。図示の例では、放射線源720はアームガントレー712に連結している。これに代え、放射線源は穴の中に配置されてもよい。
【0029】
図示の実施例では、制御システム718は、制御器740に接続されたコンピュータプロセッサのようなプロセッサ754を含む。制御システム718は、データを表示するモニター756およびデータを入力するためのキーボードやマウスといった入力装置758を備えてもよい。図示に実施例では、ガントレー714は患者728の周りで回転可能で、治療処置の間、ガントレー714は(アーチ治療の場合)患者の周りを回転する。他の実施例では、ガントレー712は回転せず、患者支持部714が回転する。放射線源720、コリメータ722、およびガントレー712(ガントレー12は回転可能)の動作は制御器740により制御される。この制御器は放射線源720およびコリメータシステム722に電力およびタイミング信号を与え、プロセッサ754から受信した信号に基づき、ガントレーの回転速度および位置を制御する。制御器740はガントレーおよびプロセッサ754から離れた要素として示されているが、これに代えて、制御器740はガントレー712またはプロセッサ754の一部であってもよい。
【0030】
図8に示されているように、放射線源720は電子ビーム定在波加速器730を含む。加速器730は、電子を生成する電子源734および電子を集群し、加速する電子源734に連結された主体736を含む。主体736は、直列に連結した複数の空洞738(電磁気的に結合した空洞)を含む。加速器360はまた、複数の結合体部739を含み、各結合体部は、二つの隣接する共振空洞にアイリスまたは開口部を介して電磁気的に結合させる結合空洞(図示せず)を有する。結合体部739は、主体736の側方で結合された側方結合体部のように図示されているが、他の実施例として、結合体部739は加速器730の全体のプロファイルを減少させるために、軸上にそった結合セルとして構成されてもよい。使用中、電子源734は電子735を生成し、加速器730へと射出する。定在波
加速器730はその共振周波数に近い周波数、たとえば、1000MHzと20GHzの間、より好適には2800と3000MHzの間の周波数で、クライストロン10により送り出されるマイクロ波パワーにより励起される。クライストロン10は、ここで説明されたクライストロン10の実施例のいずれかでよい。
クライストロン10からのRFパワーは一連の開口部(図示せず)にそって共振空洞738のひとつに入る。その結果、定在波が適用されたRFエネルギーにより共振空洞738に誘導される。励起された加速器730は電子(放射ビーム726を生成するために磁石材料(図示せず)と相互作用する)を加速する。図に示されているように、電子ビーム735は、所望の方向へと伝えられるように磁石(図示)を使用して偏向される
【0031】
図示の実施例では、放射線源720は治療エネルギーを与えるための治療用放射線源である。他の実施例では、治療用放射線であることに加え、放射線源720はまた、診断用のエネルギーを与えるために診断用放射線源であってもよい。このような場合、システム700は、放射線源720に対する動作位置(たとえば、支持部714の下)に位置する、画像手段800のような画像手段を含む。ある実施例では、治療エネルギーは一般的に、160キロ電子ボルト(keV)またはそれより大きいエネルギーまたは典型的には1メガ電子ボルト(MeV)またはそれより大きいエネルギーであり、治療用エネルギーは一般的に、高エネルギー以下、より典型的には160keVのエネルギーである。他の実施例では、治療用エネルギーおよび診断用エネルギーは他のエネルギーレベルをもってもよく、治療および診断の目的のためにそれぞれ、使用されるエネルギーと参照される。ある実施例では、放射線源720は、約10keVと約20MeVとの間の範囲にある複数のフォトンエネルギーレベルのX線放射を発生させることができる。さらに、他の実施例として、放射線源720は診断放射線源であってもよい。
【0032】
放射線システム700が異なる実施例では異なる構成をもってもよく、クライストロン10の実施例が、示されたサンプルと異なる放射線システムとともに使用されてもよいことに留意されたい。
【0033】
電磁気的に結合されていない出力空洞26は、クライストロン10(一種のRF源と考えてもよい)を参照して記述されているが、他の実施例として、電磁気的に結合した出力空洞26が他の装置用に使用されてもよい。たとえば、他の実施例として、電磁気的に結合されていない出力空洞26は、(クライストロンであるとも、またはそうでないとも考えられる)誘導出力管(IOT)のようなRF源の一部であってもよい。
【0034】
さらに他の実施例として、電磁気的に結合されていない出力空洞26、および/またはシート状のビームの特徴は、アクティブ・デニアル・システム(ADS)(群衆整理のために使用できる致命的とならない武器)の一部であってもよい。ADSは、ある周波数(たとえば、3.2mmの波長で95GHz)の高周波数マイクロ波放射線をひとり、または複数の人に向けることができるように構成されている。マイクロ波は表皮内にある水分子を励起して高温(たとえば、55℃)にし、そのために人は、傷つけられることなく激しい痛みを感じる。この場合、焦点が合わされたビームが1ヤードから500ヤードの距離にいる人に向けられ得る。他の実施例として、焦点が合わされたビームが500ヤード以上離れた距離のところにいる人に向けられ得る。他の実施例として、結合していない出力空洞26および/またはシート状のビームの特徴は、高周波数マイクロ波放射を生成するためのマイクロ波発生器の一部であってもよく、ここでマイクロ波発生器はADSの一部分である。クライストロンからの出力放射はパラボラアンテナのような高利得アンテナへと与えられる。ADS用の現行のRF源を超えたシート状ビームのクライストロンの利点は、クライストロンのセットアップ時間が、電子銃にあるカソードを加熱することに関連することである。このことは、装置の動作が用意できるまでに12時間を超える時間が、極低温ビーム焦点磁石の冷却に必要となる既存のADSを超えた利点である。
【0035】
本発明の特定の実施例が示され説明されたが、本発明を好ましい実施形態に限定することは意図しないことを理解されたい。また、様々な変更および修正が、本発明の精神および範囲から逸脱することなくなされてよいことは、当業者には明らかであろう。したがって、明細書および図面は、限定的意味ではなく、例示的意味とみなされるべきである。本発明は、特許請求の範囲により定義されているように本発明の精神および範囲に含まれ得る代替手段、変形形態、ならびに均等物を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RF生成器であって、
入力部分と出力部分、さらに前記入力部分と前記出力部分との間に伸長する開口部を有する構造物を含んで成り、
出力部分が、第1の空洞および第2の空洞を有し、前記第1および第2の空洞は、互いに電磁気的に結合しないように互いに離れている、
ところのRF生成器。
【請求項2】
前記第1の空洞に関連した電子ビームの伝播の方向の電場ベクトルは、前記第1および第2の空洞の中間点で、多くても1%の値をもつ、請求項1に記載のRF生成器。
【請求項3】
電場ベクトルが多くても0.2%の値をもつ、請求項2に記載のRF生成器。
【請求項4】
前記第1および第2の空洞が互いに、少なくとも2πの電子集群位相値の分、離れている請求項1に記載のRF生成器。
【請求項5】
電子集群位相値は少なくとも4πである、請求項4に記載のRF生成器。
【請求項6】
さらに、出力部分に結合された導波管を含み、
前記導波管がRFエネルギーを加速器へと送り出す、
請求項1に記載のRF生成器。
【請求項7】
導波管がツリー状の構成となっている、請求項6に記載のRF生成器。
【請求項8】
さらに、前記構造物に結合された電子源を含み、
電子源が伸長した断面を有する電子ビームを形成するように構成される、
請求項1に記載のRF生成器。
【請求項9】
さらに、前記構造物に結合される凹状のコレクターを含む、請求項1に記載のRF生成器。
【請求項10】
前記開口部が伸長した断面を有する、請求項1に記載のRF生成器。
【請求項11】
前記開口部が矩形の断面を有する、請求項10に記載のRF生成器。
【請求項12】
さらに、前記開口部と通信する複数の共振空洞を含む、請求項1に記載のRF生成器。
【請求項13】
さらに、
前記第1の空洞と結合した第1の管体と、
前記第2の空洞と結合した第2の管体と、
を含む、請求項1に記載のRF生成器。
【請求項14】
さらに、前記第1および第2の管体に結合された第3の管体を含む、請求項13に記載のRF生成器。
【請求項15】
さらに、
前記出力部分にある第3の空洞と、
前記出力部分にある第4の空洞と、
を含み、
前記第3および4の空洞は互いに結合していない、
請求項1に記載のRF生成器。
【請求項16】
さらに、
前記第1の空洞に結合した第1の管体と、
前記第2の空洞に結合した第2の管体と、
前記第3の空洞に結合した第3の管体と、
前記第4の空洞に結合した第4の管体と、
を含む、請求項15の記載の生成器。
【請求項17】
さらに、
前記第1および第2の管体に結合した第5の管体と、
前記第3および第4の管体に結合した第6の管体と
を含む、請求項16の記載の生成器。
【請求項18】
前記出力部分がRFエネルギーを加速器に送り出す構成となっている、請求項1に記載のRF生成器。
【請求項19】
前記加速器が対象物検査装置の一部である、請求項18に記載おRF生成器。
【請求項20】
前記加速器は、患者を治療または映像化するための放射システムの一部である、請求項18に記載のRF生成器。
【請求項21】
RFエネルギーを与える方法であって、
電子ビームを受け入れる工程と、
前記電子ビームを使用して生成される第1のRFエネルギーを、第1の空洞を通して与える行程と、
前記電子ビームを使用して生成される第2のRFエネルギーを、第2の空洞を通して与える行程と、
を含み、
前記第1および第2の空洞が、互いに電磁気的に結合しないように、互いに離れている、
ところの方法。
【請求項22】
前記第1の空洞に関連した電子ビームの伝播の方向の電場ベクトルは、前記第1および第2の空洞の中間点で、多くとも1%の値をもつ、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
電場ベクトルが多くても0.2%の値をもつ、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第1および第2の空洞が互いに、少なくとも2πの電子集群位相値の分、離れている請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記電子集群位相値は少なくとも4πである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記電子ビームが伸長した断面を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記電子ビームが矩形の断面を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
さらに、前記第1および第2のRFエネルギーを混合することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記第1および第二のRFエネルギーが加速器へと与えられる、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記加速器が対象物検査装置の一部である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記加速器が患者を治療するまたは映像化する放射システムの一部である、請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−526360(P2012−526360A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509942(P2012−509942)
【出願日】平成22年5月5日(2010.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/033702
【国際公開番号】WO2010/129657
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(591030673)バリアン・メディカル・システムズ・インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】