説明

シート状成形物

【課題】本発明は、柔軟性と難燃性のバランスに優れ、かつ耐久性や防水性も優れたシート状成形物を提供する。
【解決手段】本発明は、(A)樹脂水性分散液の固形分を100質量部と、(B)粒子の50%以上が30μm未満の粒径を有するセメント質物質を50〜2000質量部と、(C)無機難燃剤を50〜500質量部とを含有する水性スラリーによって成形されたシート成形物であって、シート成形物の酸素指数が32以上であるシート状成形物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性スラリーによって成形されたシート状成形物とその製造方法に関し、特に柔軟性と難燃性のバランスに優れ、かつ耐久性や防水性の優れたシート状成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂水性エマルジョンにセメントを配合したポリマーセメント組成物が報告され、また、このような組成物を塗料、被覆材などとして用いられることが開示されている(特許文献1)。前記組成物を用いることにより、皮膜の各種基材への接着力、耐凍結融解性、柔軟性や耐水性はセメントに比べると向上するが、樹脂水性エマルジョンの存在により、燃えやすくなる。
【0003】
また、特許文献2には、ガラス転移点が5℃以下の樹脂の水性エマルジョン、水硬性無機質セメント粉末、発泡体粒子を含有する樹皮状及び木板状シート成形用組成物が開示されている。しかし、この場合もシートが燃えやすい。建築材料として使用するには、ポリマーセメント組成物の耐水性、柔軟性等を有しながらも、一定の難燃性を有するものが望まれる。
【0004】
【特許文献1】 特公昭第50−29731号公報
【特許文献2】 特開平第5−339043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、柔軟性と難燃性のバランスに優れ、かつ耐久性や防水性も優れたシート状成形物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(4)樹脂水性分散液の固形分を100質量部と、(B)粒子の50%以上が30μm未満の粒径を有するセメント質物質を50〜2000質量部と、(C)無機難燃剤を50〜500質量部とを含有する水性スラリーによって成形されたシート状成形物であって、前記シート状成形物の酸素指数が32以上であるシート状成形物である。
【0007】
前記シート状成形物は、23℃で、直径200mmの円筒に巻いて曲げたときにクラックが発生しないものであってもよく、シート成形物表面のデュロメータD硬さが65以下でもよい。また、前記シート状成形物は、複数の層からなり、前記スラリーによって形成された層を具備してもよい。
本発明に係るシート状成形物は、前記水性スラリーを吹き付けして形成されてもよく、流し込んで成形されてもよい。
さらに、本発明に係るシート状成形物は、酸素指数が32以上で、且つシート成形物中に含まれる空隙ドメインの平均大きさが500μm以下であってもよい。
【0008】
本発明に係るシート状成形物は、酸素指数が32以上である。また、本発明に係るシート状成形物は、引張伸率が5%以上であり、柔軟性に優れ、かつ23℃で直径200mmの円筒に沿って曲げたときにクラックを発生しない特性を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るシート状成形物は、高い酸素指数を有し、難燃性に優れているのみならず、柔軟性にも優れているために、建築材料として、特に外形に曲線などがあり、形状の複雑な建築物の仕上げ材、病院や老人ホームなど介護施設の内壁の仕上げ材を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の樹脂水性分散液は下記の共重合性のあるビニル単量体を通常の方法で乳化重合することにより得られる。
かかる共重合性のあるビニル単量体は、
アクリル酸エステルとしては、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロビル、アクリル酸n−プロピル、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸n−プロピル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−ブチル等のメタアクリル酸アルキルエステルなどを挙げることができる。
【0011】
また、スチレン、アクリルニトリル、メタアクリルニトリルを挙げることができ、さらにアクリルアミド誘導体としては、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタアクリルアミドなどを挙げることができる。
また、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸を挙げることができる。
【0012】
また、マレイミド誘導体としては、N−フェニルマレイミド、N−(メチル)フェニルマレイミド、N−(ヒドロキシ)フェニルマレイミド、N−(メトキシ)フェニルマレイミド、N−安息香酸マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミドなどを挙げることができる。
本発明に係る樹脂水性分散液には、マレイミド誘導体を含有するアクリルエステル系共重合体エマルジョンを使用することがより好ましい。例えば、マレイミド誘導体0.2〜10質量部と、他のビニル単量体99.8〜90質量部とを通常の方法で乳化重合することにより得られるアニオン性樹脂水性エマルジョンを使うこともできる。
【0013】
このほか、アクリル酸シアノメチル、アクリル酸2−シアノエチル、アクリル酸3−シアノプロピル、メタアクリル酸シアノメチル、メタアクリル酸2−シアノエチル、メタアクリル酸3−シアノプロピル、エチル、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、プロピオン酸ビニルなどを挙げることができる。
前記樹脂水性分散液には、アクリル酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、マレイミド誘導体及びアクリルアミド誘導体からなる群から選ばれるいずれか1つ又は2つ以上を含むホモ重合体又は共重合体を含有してもよい。
【0014】
さらに、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、スチレン、アクリルアミド、アクリル酸、メタアクリル酸、N−フェニルマレイミド、N−(メチル)フェニルマレイミド、アクリルニトリルからなる群から選ばれるいずれか1つ又は2つ以上のものを組み合わせて、ホモ重合体又は共重合体にすることができる。
【0015】
上記のアクリル酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、マレイミド誘導体及びアクリルアミド誘導体は、得られる水分散性エマルジョン共重合体のガラス転移点が35℃以下に、好ましくは20℃以下に、さらに好ましくは5℃以下になるように調整して使用してもよい。柔軟性、伸展性の優れたシートを得る観点から、特に好ましくは、ガラス転移点が−50℃〜0℃で、さらには−45℃〜−5℃である。
【0016】
本発明に係る樹脂水性分散液の乳化重合に使用する乳化剤としては、たとえば、アニオン性、ノニオン性界面活性剤などを挙げることができる。具体的には、ジアルキルスルホンこはく酸ナトリウム、硫酸化油ナトリウム塩、アルキルスルホン酸のナトリウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウムアルキルサルフェート、スルホン酸のアルカリ金属塩、オキシアルキル化されたC12〜C14脂肪族アルコールのアルカリ金属塩及びオキシアルキル化されたアルキルフェノールのアルカリ金属塩、並びに他のオキシエチル化された脂肪酸、脂肪族アルコール及び/又は脂肪族アミド、オキシエチル化されたアルキルフェノール、更に脂肪族酸のナトリウム塩たとえばステアリン酸ナトリウム及びオレイン酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の各種のものが使用できる。
【0017】
保護コロイド剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ソーダ塩、CMC、ポリビニルピロリドン等があげられる。乳化剤または保護コロイド剤は樹脂分に対して、多くの場合、0.2〜3質量%の割合で用いる。
本発明に係る樹脂水性エマルジョンは前記の重合性単量体を乳化剤または保護コロイド剤を用いて乳化重合させることにより40−60質量%の樹脂濃度のものとして製造されるが、これを更に水で希釈して使用しても良い。エマルジョンは樹脂粒径が0.1−3ミクロンの状態で使用されてもよい。
【0018】
本発明に係るセメント質物質は、その粒子の少なくとも50%以上が粒径30μm以下の粒子である。このような粒子の存在により、シート状成形物の難燃性を高くするが可能になる。さらに、前記粒子を混合液の中によく分散させることにより、シート中における空隙のドメインの平均サイズが小さくなり、シート成形物の酸素指数を向上するのに大きく寄与し、シート状成形物の難燃性をさらに高くすることを可能にする。すなわち、より少ないセメント又は難燃剤の配合量で、酸素指数を高くすることができ、難燃性を向上することが可能である。配合するセメント又は難燃剤の低減は、シート成形物の柔軟性を高くすることができ、よりフレキシブルなシート状成形物を得ることが可能になる。
【0019】
本発明に係るシート状成形物における空隙ドメインのサイズの平均値は、好ましくは500μm以下で、より好ましくは400μm以下で、さらに好ましくは300μm以下で、特に好ましくは、200μm以下である。
なお、シート状成形物における空隙ドメインのサイズの測定は、液体窒素中で試料を切断してから、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真を計測することによって実施される。計算方法として、例えば、空隙ドメインのサイズを40個ぐらい測定して、その平均値を平均のドメインサイズとする。また、形状が不規則な空隙ドメインについては、ドメインの長軸方向の長さを空隙ドメインのサイズとする。
【0020】
また、セメント質物質の粒子の少なくとも50%以上が粒径30μm以下の粒子にすることにより、セメント質物質の粒子がスラリーにおける分散がより均一になり、その結果、前記セメント質物質は無機難燃剤と協働してシート状成形物の難燃性を高くするという相乗効果を得ることができる。
好ましくは、粒子の少なくとも50%以上が粒径25μm以下、より好ましくは、粒子の少なくとも50%以上が粒径20μm以下、特に好ましくは、粒子の少なくとも50%以上が粒径15μm以下の粒子を有する。
【0021】
セメントの粒径分布はJISR1629で記載されているレーザ回折・散乱式方法で測定することができる。たとえば、堀場LA−910型レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を使用することによって測定することができる。
【0022】
本発明のセメント質物質は、普通、早強、超早強、白もしくは耐硫酸塩等の各種ポルトランドセメントを用いることができる。さらには高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、シリカセメント等の混合セメントやエーライトやLD−Slagを原料としたエーライト、高炉スラグとアルカリ刺激材の組み合わせなども用いられる。
【0023】
本発明のセメント質物質は、前記樹脂水性分散液の共重合体の固形分100質量部に対して、50質量部〜2000質量部、好ましくは50質量部〜800質量部、さらに好ましくは50質量部から500質量部で用いられる。50質量部未満では、形成されたシートの強度が弱くなり、2000質量部を超える場合は、シートが硬くなり脆くなる。
【0024】
本発明の無機難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、二水和石こう及びアルミン酸化カルシウム等の含水無機化合物、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩物質、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブテン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン等の金属酸化物、アルミニウム、チタン、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、ニッケル、銅、タングステン、スズ、アンチモンなどの金属粉、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、リン酸硼素等のホウ素系化合物が挙げられる。これらの難燃剤は、高温加熱時に分解して、吸熱作用や脱水剤としての作用により難燃効果を示すものである。これらの難燃剤は単独で使用しても良いが、複数の難燃剤を混合して使用しても良い。
【0025】
前記難燃剤の中で、最も好適に使用されるのは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、二水和石こう及びアルミン酸化カルシウム等の含水無機化合物である。含水無機化合物の何れを用いても良いが、入手のし易さと価格等の経済性を考慮すると水酸化アルミニウムが好適である。なお、これらの含水無機化合物は各種のカップリング剤による表面処理や化学的に改質したものを使用しても良い。
【0026】
本発明の無機系難燃剤は、含水無機化合物と他の難燃剤を併用してもよい。たとえば、含水無機化合物と炭酸塩物質と併用する。前記炭酸塩物質としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸ベリリウム、炭酸亜鉛等を挙げることができ、入手し易さや価格等の経済性を考慮すると炭酸カルシウムが最適である。なお、含水無機化合物と炭酸塩物質との好ましい混合比率としては質量部比で、100/0〜50/50である。
【0027】
以上の難燃剤に併せて、ガラス繊維、ロックウール繊維、石綿、テフロン繊維、アラミド繊維等火種のドリップ防止やシートの表面亀裂防止などの効果を発揮する繊維状物質も好ましく使用される。
これらの無機難燃剤は本発明の樹脂水分散液の固形分100質量部に対して、50質量部〜500質量部、好ましくは80質量部〜350質量部で用いられる。50質量部未満では難燃の効果が発揮できず、500質量部を超えると得られるシートの柔軟性が低下する。
本発明によって得られたシート成形物の酸素指数は32以上のものである。また、シート成形物表面のデュロメータD硬さが65以下であってもよく、引張伸率は5%以上を有するものであってもよい。また、前記シート成形物を23℃で直径200mmの円筒に沿って曲げたときにクラックを発生しない特性を有する。
【0028】
本発明において、上記スラリーの加工性、寸法安定性、粘度安定性を改良するために、さらに水溶性高分子ポリマーを添加することができる。水溶性高分子ポリマーとしては、例えば、ヒドロキシアルキルアクリレートを含有する分子中に水酸基を有する水溶性ポリマー、ヒドロキシアルキルアクリレートとアクリルアミド及び/またはメタアクリルアミドと其の他のビニルモノマーとの共重合体の水溶性ポリマー等を挙げることができる。これらの水溶性高分子ポリマーはかかるシート状成形物の加工過程を容易にしたり、加工後のシートの寸法安定性を高めたりすることができる。前記水溶性高分子ポリマーは分子量としては、1000〜500000であり、好ましくは、2000〜100000のものを用いる。水溶性高分子ポリマーは(B)成分のセメント質物質100質量部に対して、固形分で0.1から10質量部、好ましくは0.2から8質量部の割合で使用する。
【0029】
本発明において、必要に応じ目的に合せて、種種な増量剤、補強剤、骨材、機能性添加剤を添加することができる。例えば、増量剤や骨材として、フライアッシュ、石粉、硅砂、珪藻土、耐火粘土、シリカ、耐火性酸化物、ゼオライト、炭酸カルシウム、石英、カオリン、タルク、マイカ等が制限なく添加できる。また、膨張パーライト、膨張バーミキュライト、膨張頁岩、ガラスバルーンやシラスバルーン等の各種バルーン、シリカゲルの発泡させたもの、ガラス屑を発泡させた物、粘度質系発泡体等の軽量骨材が好適に使用できる。
【0030】
補強材や機能性添加剤としては、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、モスハイジ、ゾノトライト、セピオライト、針状炭酸カルシウム、針状水酸化マグネシウム等の針状フィラー、また、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ステンレス繊維等の無機繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、炭素繊維等の有機繊維、ガラスフレーク、板状水酸化アルミニウム等の板状フィラーが制限なく添加できる。また、カーボンブラック、磁鉄鉱、ステンレス粉末、黒鉛、金属粉、金属箔、SnO2、ZnO2、各種フェライト、磁性酸化鉄、Sm−Co、Nd−Fe−B、アルミナ、AIN、BN、BeO、鉄粉、鉛粉、硫酸バリウム、木炭粉、黒鉛、ガラスビーズ、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、MOS、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイド等の機能性添加粉体も制限なく使用することができる。
本発明のシート状成形物は、さらに磁鉄鉱、特に遠赤外線を輻射する磁鉄鉱を含むことができ、病院や老人ホームなどの介護施設での内壁仕上げ材として好適に使用することができる。
【0031】
本発明のシート状成形物をガラス繊維、石綿、岩綿、パルプ繊維、セルロース繊維、炭素繊維、無機繊維、金属繊維等の繊維を用いて補強することができる。また、それらの繊維で作った網状のものを用いて、複合シートの形で補強しても良い。
本発明の組成物のかかるシート状成形物を成形する際、粘性調整剤としての水可溶性樹脂、流動調整剤としての界面活性剤、減水剤、分散剤等は、シート状成形物の難燃性や機械的物性と付着性等を低下させない範囲で、適量配合させることができる。また、セメント質無機物の硬化を調整する硬化促進剤や硬化遅延剤などは制限なく使用できる。また着色などの目的では顔料等の着色剤も適量配合させることができる。
本発明のスラリーには、さらに、天然の大理石などのような天然石の風合いを出すために、天然の大理石を粉砕した粉を添加することができる。
【0032】
本発明において、先ず水性スラリーを調製し、予め、樹皮、木板状、石目、タイル状、砂岩状などの所要の形状を有する型に流し込み、スプレー、吹き付けなどの方法でシート状に成形した後、硬化、乾燥させて、シート状成形物に仕上げ製造する。シート状成形物の厚さは、0.5mm〜30mm、好ましくは、0.8〜15mm、さらに好ましくは、1〜10mm、特に好ましくは、2〜5mmである。
【0033】
本発明にける水性スラリーを作成する際に使用するミキサーとしては、セメントが良く分散できるものであれば特に限定はしない。セメントの分散の良さの観点から、好ましくは、攪拌機がタービン翼型攪拌機の場合、例えば、エジッドタービン、ビッチドタービン、カーブトタービン、オーブンタービン等が挙げられる。また、ダブルコーン翼型攪拌機の場合、例えば、ダブルコーン+ディスクソウ、ダブルコーン+ディスク型などが挙げられる。その他、プロペラ翼型の攪拌機、例えば、PPプロペラ、SPプロペラ型なども挙げることができる。シート状成形物の難燃性の向上の観点から攪拌機の分散能力は水性スラリー中におけるセメントの分散をよりよくすることが好ましい。
更に、本発明における水性スラリーを作成する際には、樹脂水性分散液とセメント質物質を均一に混合してから、その他の成分を加えて混合する方法が好ましい。
【0034】
また、シート成形物は、成形、硬化と乾燥を繰り返して行う複数の層からなる積層状に成形する製造方法を取ることができる。乾燥温度は常温の室温〜80℃の範囲で、好ましくは、25℃〜60℃の範囲で行ってもよい。本発明のシート状成形物は均一な組成でシートを構成しても良いが、全体の物性を低下させない範囲で、厚さの方向で層と層の間で配合を異なるようにして複層のシートを構成させても良い。
【0035】
本発明で得られるシート状成形物の表面には耐候性向上、艶消し、汚れ防止、反射性の付与、特殊着色等の目的でクリヤー樹脂溶液のコーディングやゾルゲルコーディング、無機物の溶液と其の他の塗料をコーディングや塗付することができる。
本発明のシート状成形物は、コンクリート、コンクリート二次製品、木性構造体、各種無機質サイディング板、金属サイディング板、合成樹脂板、石膏ボート、石綿セメント板、繊維板、鉄板、鋼板、または有機質、無機質系発泡体材層からなる外断熱構造体などの構造体の表面に好適に貼ることができ、各種の建築物や構造物の内外層の表面仕上げ材料として好適に使用することができる。
【0036】
本発明のシート状成形物は、コンクリート、木、鉄鋼などの建築物用の屋根、外壁、内壁などの仕上げ材、柱、鋼管等の金属の被覆材として用いることができる。本発明のシート状成形物は、その柔軟性を生かして、特に外形に曲線などがあり、形状の複雑な建築物の仕上げ材として好適である。また、柔軟性と耐水性などの特性を生かして、病院や老人ホームなど介護施設の内壁の仕上げ材として使用することができる。また、有機質系発泡体及び無機質材層からなる外断熱工法における仕上げ材としても好適に使用できる。
【0037】
以下、具体的に例を挙げて本発明を説明する。本実施例は本発明を具体的に説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
1.評価方法
シートの酸素指数は、JIS K7201 1995による測定方法に従い、シートを85×6.5×3.0mmの試験片に切り出し、23℃、58%RHの条件で測定した。
低温における曲げ柔軟性の測定は次の方法に従って行った。120mm×20mmの試験片を切り出し、−20℃に一時間置いた後、試験片を直径200mmの円筒に沿って折り曲げた。折り曲げた後に目視の方法でクッラクの発生有無について観察した。クッラクが発生した場合は×、発生していない場合は○とした。
【0038】
シートのデュロメータD硬さ(HDD)は、JIS K7215 1986による測定方法に従い、50×50×3.0mmの試験片に切り出し、二枚の試験片を重ねて、測定を行った。
シート状成形物における空隙ドメインのサイズの測定は、液体窒素中で試料を切断してから、金属で蒸着し、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真を計測した。40個の測定データの平均値をもって空隙ドメインのサイズとした。また、形状が不規則な空隙ドメインは、ドメインの長軸方向の長さを空隙ドメインのサイズとした。
【0039】
粘着性の評価方法は次のとおりである。シート成形物の上にサラシを敷き、その上に500gの重りを載せ、一時間後にその重りを取り除いた時にサラシが試料にくっ付いた場合は×、くっ付いていない場合は○とした。
引張伸度の評価方法は次のとおりである。ASTM(American Society for Testing and Materials、米国材料試験協会)に記述されている引張試験用の4号ダンベルの試験片を切り出し、500mm/minの速度で引張テストを行い、破断時のつかみ間の伸長(ΔL)を測定し、次の式に従って引張伸率(%)を計算した。
伸び率(%)=(ΔL/25)×100%
水中浸漬後の物性の測定方法は次のとおりである。シート成形物を20℃の水中に一年間浸漬した後に外観観察した上、低温曲げ柔軟性、引張伸率を測定した。外観上、色の変化、寸法の変化、クラックなどが発生していない場合は○、発生した場合は×とした。
【0040】
2.樹脂水性分散液の調製
表1に示した混合物を100質量部用いて、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5質量部、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル1.5質量部、過硫酸カリウム1.0質量部、イオン交換水100部の混合物を90℃で、4.5時間重合反応させ、固形分溶液50%のエマルジョン乳化液を得た。
【0041】
【表1】

【0042】
3.セメント質物質の調製
セメント質物質は、市販の白色セメントを30μmの篩を使い、分離作業によって、次のようにセメントを分級した。粒径30μm未満の粒子が100%、粒径30μm未満の粒子が50%以上、粒径30μm以上の粒子が100%を有する3つに分級した。
【0043】
4.シート形成物の調製方法
実施例1:上記方法で合成した水性乳化液の共重合体(a)の固形分100質量部に粒径30μm未満の粒子が50%のセメント質物質150質量部、市販の水酸化アルミニウム(粒径25μm)80質量部、減水剤マイティ150 5質量部、骨材(7号硅砂)200質量部を配合し、攪拌機で混練して粉体を樹脂水性液に十分に分散させて水性スラリーを調製した。前記スラリーをシリコーン樹脂で被覆している剥離木板上に、厚さが2.0mm〜3.0mmのシートが得られるように塗布し、40℃で24時間乾燥してからシートを剥がし、25℃の部屋で10日間養生した。
他の実施例及び比較例も実施例1と同様に、表2に示した配合に従い、シート状形成物を調製した。
【0044】
5.結果
表2に示したとおり、実施例1では、樹脂水性分散液の共重合体(a)と、30μm未満の粒子を50%含有するセメント質物質と、水酸化アルミニウム(25μm)とを含有させて、混練して形成されたシートは、シートの空隙ドメインサイズが200μm以下で、酸素指数が38であり、難燃性が高いとともに、デュロメータD硬さ(HDD)が30以下で、シートが柔軟であり、低温曲げ柔軟性が浸漬の前後ともによく、引張伸率も高かった。
これに対し、比較例1においては、実施例1のセメント質物質の代わりに30μm以上の粒子を100%含有させて混練した結果、形成されたシートの柔軟性はよかったが、酸素指数が27であり、難燃性が低かった。また、シートの空隙ドメインサイズが大きくなった。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例2では、実施例1のセメント質物質の代わりに、30μm未満の粒子を100%含有させて混練して形成されたシートは、酸素指数が55とより高くなり、難燃性がより高くなった。また、シートの空隙ドメインサイズも100μm以下でより小さくなった。
樹脂水性分散液の共重合体は実施例1と異なるが、実施例3の場合は30μm未満の粒子を50%含有するセメント質物質が含有し、実施例5の場合は30μm未満の粒子を100%含有するセメント質物質が含有しており、形成されたシートが、酸素指数が高く、難燃性が高いとともに、デュロメータD硬さ(HDD)が25以下で、シートが更に柔軟になり、低温曲げ柔軟性が浸漬の前後ともによく、引張伸率も高かった。
【0047】
これに対し、比較例2の場合、樹脂水性分散液の重合体は実施例3,4と同じであるが、30μm以上の粒子を100%含有するセメント質物質を含有しており、形成されたシートが、酸素指数が27と低くなり、難燃性が悪くなった。また、シートにおける空隙ドメインサイズが大きくなった。比較例3の場合、樹脂水性分散液は実施例5と同様であるが、30μm以上の粒子を100%含有するセメント質物質を含有しており、形成されたシートが、酸素指数が27と低くなり、難燃性が悪くなった。また、シートにおける空隙ドメインサイズも大きくなった。
【0048】
実施例4は、共重合体(b)と30μm未満の粒子を100%含有するセメント質物質とを含有している例であり、表2に示したとおり、酸素指数は60であり、難燃性が高く、デュロメータD硬さ(HDD)が25以下で、かつ柔軟性にも優れている結果であった。
これは樹脂水性分散液に含まれる共重合体(b)と30μm未満の粒子を100%含有するセメント質物質とが協働して両者の相乗効果によるものであると推測している。
これに対し、比較例2は30μm以上の粒子を100%含有するセメント質物質を含有している点で実施例4と異なり、酸素指数は27であり、難燃性が大きく低下した。
【0049】
【表3】

【0050】
表3に示したように、実施例6と実施例7は、共重合体(b)と30μm未満の粒子を50%及び30μm未満の粒子を100%含有するセメント質物質とを含有している点では、実施例3及び実施例4と同じであるが、樹脂水性分散液の含有量をより低くしたことにより、デュロメータD硬さ(HDD)が30以下で、シートが柔軟でありながらも、酸素指数が60以上で、難燃性が一段と高くなった例である。
これに対して、比較例4は、30μm以上の粒子を100%含有するセメント質物質を含有している点で、実施例6と実施例7と異なり、酸素指数は30まで下がり、難燃性が低下した。
【0051】
通常、水酸化アルミニウムの粒径の小さいものをたくさん配合すれば、酸素指数が高くなり、難燃性が高くなると報告されている。比較例5は、比較例2の場合より水酸化アルミニウムの粒径が小さい例であり、難燃性は比較例2より多少高くなったものの、実施例3又は4と比較した場合に難燃性が低い。また、低温曲げ柔軟性が悪くなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)樹脂水性分散液の固形分を100質量部と、
(B)粒子の50%以上が30μm未満の粒径を有するセメント質物質を50〜2000質量部と、
(C)無機難燃剤を50〜500質量部と
を含有する水性スラリーによって成形されたシート状成形物であって、
前記シート状成形物の酸素指数が32以上であるシート状成形物。
【請求項2】
23℃で、前記シート状成形物を直径200mmの円筒に巻いて曲げたときにクラックが発生せず、かつ、前記シート状成形物表面のデュロメータD硬さが65以下である請求項1に記載のシート状成形物。
【請求項3】
前記酸素指数が35以上である請求項1又は2に記載のシート状成形物。
【請求項4】
前記樹脂水性分散液には、アクリル酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、マレイミド誘導体及びアクリルアミド誘導体からなる群から選ばれるいずれか1つ又は2つ以上を含むホモ重合体又は共重合体を含有する請求項1乃至3のいずれかに記載のシート状成形物。
【請求項5】
前記樹脂水性分散液は、マレイミド誘導体を含有するアクリルエステル系共重合体エマルジョンである請求項1乃至4のいずれかに記載のシート状成形物。
【請求項6】
前記シート状成形物中に含まれる空隙ドメインの平均大きさが500μm以下である請求項1乃至5に記載のシート状成形物。
【請求項7】
前記樹脂水性分散液には、ガラス転移温度が5℃以下で、アクリル酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、マレイミド誘導体及びアクリルアミド誘導体からなる群から選ばれるいずれか3つ以上を含む共重合体を含有する請求項1乃至6のいずれかに記載のシート状成形物。
【請求項8】
前記シート成形物中に含まれる空隙ドメインの平均大きさが400μm以下で、シート成形物表面のデュロメータD硬さが50以下である請求項1乃至5、7のいずれかに記載のシート状成形物。
【請求項9】
前記無機難燃剤は含水無機化合物である請求項1乃至8のいずれかに記載のシート状成形物。
【請求項10】
前記無機難燃剤は含水無機化合物物質と炭酸塩物質の混合物である請求項1乃至9のいずれかに記載のシート状成形物。
【請求項11】
前記水性スラリーには、さらに(D)分子量が1000〜500000の水溶性ポリマーを含有する請求項1乃至10のいずれかに記載のシート状成形物。
【請求項12】
前記水性スラリーには、遠赤外線を輻射する磁鉄鉱がさらに含まれる請求項1乃至11のいずれかに記載のシート状成形物。
【請求項13】
前記シート状成形物は、複数の層からなり、前記スラリーによって形成された層を具備する請求項1乃至12のいずれかに記載のシート状成形物。
【請求項14】
前記シート状成形物は、砂岩、樹皮、木板、石目及びタイル状のいずれか一つ以上の表面外観を有する請求項1乃至13のいずれかに記載のシート状成形物。
【請求項15】
前記シート状成形物は建築用壁材である請求項1乃至14のいずれかに記載のシート状成形物。
【請求項16】
請求項1乃至請求項15のいずれかに記載のシート状成形物の製造方法。

【公開番号】特開2006−151801(P2006−151801A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328048(P2005−328048)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504438141)
【Fターム(参考)】