説明

シート状物の巻取り方法および巻取り体の製造方法

【課題】分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなる炭素繊維シート状物を巻き取った際に巻き端面が揃っており、かつ巻取り時に破断することのないシート状物の巻取り方法および巻取り体の製造方法を提供する。
【解決手段】分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなるシート状物を、巻取り軸と該巻取り軸の上流側に設けられ、前記シート状物をニップするニップロールと、該ニップロールの上流側に設けられたシート状物の端部位置検出手段と、該検出手段からの検出信号により前記巻取り軸を巻取り軸の中心軸と平行な方向に移動させる移動手段と、該移動手段を制御する制御部とを有してなるシート状物の巻取り装置を用い、初期巻取り張力T1が単位幅当たり40N/m以上、最終巻取り張力T2が、D1を初期巻取り直径、D2を最終巻取り直径とした際に、T1≦T2≦(D1+D2)/D1×T1の関係を満足する条件で巻き取ることを特徴とするシート状物の巻取り方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、分散している炭素短繊維が熱硬化性樹脂の炭化物で結着されてなる炭素繊維シート状物のような脆性の高いシート状物の巻取り方法および巻取り体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題に関し様々な開発が行われている。その中でも発電効率が高いことによるCO削減や、排出物が水だけであることなどの特徴を活かした燃料電池が注目を浴びている。
【0003】
燃料電池は主に電解質膜を中心として、触媒、電極、セパレータにより構成されており、電極基材として多孔質炭素繊維シート状物が用いられている。燃料電池の更なる普及にはコストダウンが必要不可欠であり、このため、電極基材についてももちろんコストダウンが要求されている。
【0004】
かかるコストダウンのためには、燃料電池の生産性を向上させることが必要であり、電極基材である多孔質炭素繊維シート状物を長尺品として燃料電池製造工程へと供給し、同燃料電池製造工程での連続性を確保することが効果的である。そのため、電極基材である長尺なシート状物を巻取り体として供給することが望まれている。
【0005】
しかしながら、従来の電極基材である多孔質炭素繊維シート状物の製造工程では、例えば、硬化処理ではホットプレス装置等を用いたバッチ方式が主流であった。
【0006】
長尺な電極基材を得るため、製造工程の連続化が必要であり、さらには、長尺な電極基材を巻き取るための技術も必要となる。
【0007】
多孔質炭素繊維シート状物を巻き取る方法として、該シート状物に加える初期巻取り張力を単位幅当たり30N/m以上、最終巻取り張力を単位幅当たり20N/m以上とし、かつ巻き始めから巻き終わりにかけて巻取り張力を漸減させる方法がある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、表面の摩擦係数が小さく、脆性の高いシート状物を巻き取る際には巻取り張力が低いと巻きズレが発生し、巻取り張力が高いと巻きズレは発生しないが、シート状物の端部に微小な傷が存在した場合に破断しやすいという問題があった。また、表面の摩擦係数が小さく、剛性の高いシート状物を150m以上巻き取る際に張力を漸減させる方法で巻き取ると半径方向に及ぼすシート状物の締め付け力Fは、巻取り張力をT、巻取り直径をDとした際に、下式(2)のとおり、巻取り直径Dに反比例するため、巻取り直径が大きくなるに従い、軸方向にずれやすくなる問題点があった。
F=2T/D ・・・(2)
【0008】
また、多孔質炭素繊維シート状物を巻き取る方法として、巻取り軸と該巻取り軸に平行に配されたプレッシャーロールを有する巻取り装置で巻き取る方法がある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、巻取り軸上でシート状物を押さえるため一旦巻きズレが発生すると巻きズレの抑制が困難となり巻きズレが大きくなる問題があった
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−302557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来の技術における上述した問題点に鑑み、分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなる炭素繊維シート状物を巻き取った際に巻き端面が揃っており、かつ巻取り時に破断することのないシート状物の巻取り方法および巻取り体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、次の手段を採用する。すなわち、
[1]分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなるシート状物を、巻取り軸と該巻取り軸の上流側に設けられ、前記シート状物をニップするニップロールと、該ニップロールの上流側に設けられたシート状物の端部位置検出手段と、該検出手段からの検出信号により前記巻取り軸を巻取り軸の中心軸と平行な方向に移動させる移動手段と、該移動手段を制御する制御部とを有してなるシート状物の巻取り装置を用い、初期巻取り張力T1が単位幅当たり40N/m以上、最終巻取り張力T2が、D1を初期巻取り直径、D2を最終巻取り直径とした際に下式(1)を満足する条件で巻き取ることを特徴とするシート状物の巻取り方法。
T1≦T2≦(D1+D2)/D1×T1 ・・・(1)
【0012】
[2]前記ニップロールが、該巻取り軸の直前に設けられていることを特徴とする[1]に記載のシート状物の巻取り方法。
【0013】
[3]前記シート状物の50〜95%のニップ幅を有するニップロールが設けられていることを特徴とする[1]または[2]に記載のシート状物の巻取り方法。
【0014】
[4]前記シート状物の曲げ弾性率が3〜50GPa、静摩擦係数が0.1〜0.7であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のシート状物の巻取り方法。
【0015】
[5]前記シート状物が、150m以上の長さに巻取られることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のシート状物の巻取り方法。
【0016】
[6]連続して搬送された前記シート状物を、[1]〜[3]に記載のシート状物の巻取り方法により巻取って、シート状物の巻取り体とする、シート状物の巻取り体の製造方法。
【0017】
[7]前記シート状物の曲げ弾性率が3〜50GPa、静摩擦係数が0.1〜0.7である、[6]に記載のシート状物の巻取り体の製造方法。
【0018】
[8]前記シート状物が、150m以上の長さに巻取られたものである、[6]または[7]に記載のシート状物の巻取り体の製造方法。
【0019】
上述したように、本発明はニップロールを巻取り軸の上流側に配したことにより、ニップロールと巻取り軸との間の張力をニップロールの上流側の張力より大きくすることができ、巻取り装置全体に亘ってシートにかかる張力を増加させることなく、巻取り張力を大きく設定することが可能となる、またニップ幅をシート状物の50〜95%の幅とすることで、シート端部をロールがニップし、端部に大きな張力がかかることを防止できるため、巻き端面が揃っており、かつ巻取り時に破断することのないシート状物の巻取り方法および巻取り体の製造方法を得ることができるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シート状物の巻取り張力を大きく設定することが可能で、巻き端面が揃っており、かつ巻取り時に破断することのない、シート状物の巻取り方法を得ることができる。
【0021】
また、本発明によれば、以下に説明する実施例と比較例との対比からも明らかなように、巻きズレの少ないシート状物の巻取り体の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による巻取り方法を説明する巻取り装置の一例を示す側面概略図である。
【図2】シート状物の端部位置検出手段の配置の一例を説明する正面図である。
【図3】シート状物の幅とニップ幅との関係を説明する正面説明図である。
【図4】本発明により巻き取られたシート状物の巻取り体の一例を示す概略斜視図である。
【図5】上記シート状物の巻取り体の全体の巻き層状態の一例を示す説明図である。
【図6】本発明による巻取り方法を説明する巻取り装置の他例を示す側面概略図である。
【図7】本発明による巻取り方法を説明する巻取り装置の他例を示す側面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態の一例について図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1、図6,図7は、本発明による巻取り方法の一例を説明する巻取り装置の側面概略図である。図2は、シート端位置検出手段の配置の一例を説明する正面図である。図3は、シート状物の幅とニップ幅との関係を説明する正面説明図である。図4は、本発明により巻き取られたシート状物の巻取り体の一例を示す概略斜視図である。図5は、上記シート状物の巻取り体の全体の巻き層状態の一例を示す説明図である。
【0025】
本発明は、図1に示すように、矢印の方向から連続して搬送されるシート状物6をロール状に巻き取る巻取り軸2と、該巻取り軸2の上流側にシート状物6をニップするニップロール4と、該ニップロール4の上流側に設けられたシート端部の位置検出手段5と、該位置検出手段5からの検出信号により、前記巻取り軸2を巻取り軸中心軸と平行な方向に移動させる移動手段と、該移動手段を制御する制御部とを有してなるシート状物の巻取り装置で巻き取ることに特徴がある。
【0026】
本発明によりシート状物6を巻き取ることで、前記ニップロール4と前記巻取り軸2との間の巻取り張力とニップロール4の上流側の搬送張力とを分離することができ、ニップロールより上流側の張力を増加させることなく、巻取り張力を大きく設定することが可能となるため、巻き端面が揃っており、かつ巻取り時に破断することのない、シート状物の巻取り体1を得ることができる。
【0027】
ここで、シート状物6としては、炭素短繊維を含む短繊維を抄造したシート状物、炭素繊維を含む織編物や不織布、あるいは炭素繊維を一方向または多方向に引き揃えたシート状物などに、マトリックス樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなる炭素繊維シート状物などが挙げられる。さらに、前記炭素繊維シート状物をさらに不活性雰囲気中で炭素化して得られる多孔質炭素シート状物などが挙げられるが、炭素繊維以外の繊維強化プラスチックのシート状物や、フィルム、織物、不織布、紙などシート状物6の材質に特段の制限はない。特に分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなる炭素繊維シート状物は、曲げ弾性率が高く、静摩擦係数が低く、脆い性質を有するので、本発明の巻取り方法および巻取り体の製造方法に適用することが重要である。ここで、分散した状態とは、炭素短繊維がシート面内において顕著な配向を持たず概ねランダムに、例えば、無作為な方向に存在している状態であることが多い。具体的には、後述する抄造法により短繊維が分散した状態である。炭素短繊維の繊維長は、3〜20mmが好ましく、さらに好ましくは5〜15mmである。炭素短繊維の繊維長を上記範囲とすることにより、炭素短繊維を分散させ抄紙して炭素繊維シートを得る際に、炭素短繊維の分散性を向上させ、目付ばらつきを抑制することができる。
【0028】
前記炭素繊維シート状物をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂で撥水処理した炭素繊維シート状物や前記炭素繊維シート状物の表面にカーボンブラックとPTFEの混合物などを塗布した炭素繊維シート状物も元の炭素繊維シート状物同様に曲げ弾性率が高く、静摩擦係数が低く、脆い性質を有しており、その巻き取りにも、本発明の巻取り方法および巻取り装置と、その巻取り体の製造方法は有効である。
【0029】
シート状物6をロール状に巻き取る方法としては、巻取り軸2に配されたコアボビン3に長尺なシート状物6を連続して巻き取ることにより行うことができる。巻き取ったシートの割れを防止するため、コアボビンの外径は直径76mm以上が好ましく、より好ましくは直径152mm以上である。コアボビンの外径が直径76mmより小さい場合、特にシートの厚さが0.2mm以上の場合に割れやすくなる。巻取ったロールをコンパクトにするためコアボビンの外径は直径330mm以下が好ましい。
【0030】
図7に示すように、前記ニップロール4と前記巻取り軸2の間には他のガイドロール7を設けることも可能であるが、ニップロール4から送り出されたシート状物は直接巻取り軸2で巻き取られ、他のガイドロール7等と接触しないことが好ましい。
【0031】
また、本発明において、巻取り軸2の直前にシート状物6をニップするニップロール4を配する場合には、巻取り軸2とニップロール4との間には他のガイドロール7などを設けず、ニップロール4から送り出されたシート状物が直接巻取り軸2で巻き取られるようにする。ニップロール4でシート状物への張力を付与した状態で、シート状物が他のガイドロール7等と接触すると、シート状物が切れる可能性が高まる。また、ニップロール4のニップ部と巻取り軸2の間の高張力区間が長いと張力によりシート状物が切れる可能性が高まるため、ニップロール4のニップ部と巻取り軸2の距離は1m以下であることが好ましく、0.5m以下であることがさらに好ましい。
【0032】
また、シート状端部の位置検出手段5としては、図2に示すように、シート状物6の進行方向の左右いずれかの一端、または両端の位置を検出できるよう設置されることが好ましい。シート状物端部の位置検出手段5には一般的にEPC(エッジポジションコントロール:株式会社ニレコ登録商標)と呼ばれる非接触式のシート状物端部位置検出手段を用いることが好ましい。前記シート状物端部の位置検出手段5のセンサ部は光源に赤外線発光ダイオードを用いた光電式センサや超音波センサ、空気圧による検出方法などがあるが特段の制約はない。
【0033】
また、前記シート状物端部の位置検出手段5の検出信号に応じて、図1、図6や図7に示すようにシート状物端部の位置検出手段5の下流側に配された巻取り軸2、ニップロール4、およびガイドロール7などを、巻取り軸2の中心軸と平行な方向、すなわちシート状物6の進行方向に対して左右に移動させ、シート状物6の蛇行に追従制御させることが好ましい。この追従制御により巻き取ったロールの巻きズレ量を小さくすることができる。
【0034】
図3に示すように、前記ニップロール4によるニップ幅Wはシート状物の幅Wの50〜95%であることが好ましく、60〜90%がより好ましく、さらに好ましくは70〜85%である。前記ニップ幅Wがシート状物の幅Wの50%より小さいと、前記シート状物6の中央部分にかかる圧力が大きくなり、該シート状物6に変形や損傷を及ぼす恐れがある。前記ニップ幅Wがシート状物の幅Wの95%より大きいと、前記シート状物6の端部にかかる張力が大きくなり、該シート状物6の端部に微細な傷が存在した場合に破断することがある。ニップ幅Wは2本のニップロールでシート状物6を挟む幅であり、2本のロール長さは同じでも、異なる長さでも構わないが、ロール長さが異なる方がニップ幅変更やロール位置合わせが容易になり好ましい。
【0035】
ニップロール7の端部は面取り加工を行うことが好ましい。特に2本のニップロール長さが異なる場合、短いニップロールの端部を面取り加工することが好ましい。ニップ幅端部ではニップ圧力が高くなるが、端部面取り加工によりニップ圧力の増加を抑制することができる。
【0036】
前記ニップロール4の少なくとも一方は硬度30〜80度のゴムロールであることが好ましく、30〜70度がより好ましく、さらに好ましくは40〜60度である。前記ニップロール4の硬度が30度よりも小さいと、該ニップロール4が変形し、前記シート状物6の搬送が困難になることがある。前記ニップロール4の硬度が80度よりも大きいと、前記シート状物6は該ニップロール4のニップ部分ですべりが発生し、巻取り張力と搬送張力との分離が困難になるため、搬送中のガイドロール7で前記シート状物6にかかる曲げ応力が大きくなったり、シート状物全長に亘って高い巻取り張力がかかったりして破断することがある。
【0037】
ゴムロールの硬度は、JIS K 6253(1997)に規定される方法に準拠して求めることができる。このとき、ゴムロールの硬度は、デュロメータ硬さ試験で求めたデュロメータ硬さで表すものとする。
【0038】
前記ニップロール4は双方フリーロールであることが好ましく、該ニップロール4の少なくとも一方はブレーキ機構を設けてあることが好ましい。
【0039】
前記ブレーキ機構のブレーキ方式に特段の制約はないが、単純な機構でブレーキ力を付与することができる摩擦方式であることが好ましい。
【0040】
ガイドロール7はフリーロールでも固定ロールでも構わないが、シート状物6との摩擦低減のためにフリーロールであることが好ましい。またシート状物6の割れを防止するためガイドロール7の直径は76mm以上が好ましく、152mm以上がさらに好ましい。ガイドロール7の直径が76mmより小さい場合、特にシートの厚さが0.2mm以上の場合に割れやすくなる。設備をコンパクトにするためガイドロール7の外径は330mm以下が好ましい。
【0041】
前記シート状物6の初期巻取り張力T1は単位幅当たり40N/m以上であることが重要である。なかでも40N/m〜1000N/mであることがさらに好ましく、より好ましくは60N/m〜600N/m以上である。また、最終巻取り張力T2は下式(1)を満足する巻取り方法であることが重要である。
T1≦T2≦(D1+D2)/D1×T1 ・・・(1)
ここに、T1:初期巻取り張力(N/m)
T2:最終巻取り張力(N/m)
D1:初期巻取り直径(mm)
D2:最終巻取り直径(mm)
【0042】
初期巻取り張力T1が40N/mよりも小さいと、前記シート状物6を巻き取った際に巻き端面が揃わないことがある。また、前記シート状物6の搬送状態が不安定になり、蛇行の原因となることがある。前記初期巻取り張力T1が1000N/mよりも大きいと、前記シート状物6を巻き取る際に変形や破断が起こることがある
最終巻取り張力T2が初期巻取り張力T1よりも小さいと、半径方向に及ぼすシート状物の締め付け力Fは巻取り張力をT、巻取り直径をDとした際に、下式(2)のとおり、巻取り径に反比例するため、巻取り直径Dが大きくなるに従い、軸方向にずれやすくなることがある。
F=2T/D ・・・(2)
ここに、F:半径方向に及ぼすシート状物の締め付け力(N/m
T:巻取り張力(N/m)
D:巻取り直径(mm)
【0043】
前記シート状物6の曲げ弾性率は3〜50GPaであることが好ましく、3〜30GPaがより好ましく、さらに好ましくは3〜20GPaである。前記シート状物6の曲げ弾性率が3GPaより小さいと、例えば、燃料電池の電極基材用途で使用する場合にハンドリング性が悪く、またセパレータの溝への落ち込みが生じることがある。前記シート状物6の曲げ弾性率が50GPaよりも大きいと、前記シート状物6をコアボビン3にロール状に巻き取る際、剛性によりコアボビン3に該シート状物6が沿いにくく、巻き取りやすさが低下し、巻きズレの原因となることがある。
【0044】
シート状物の曲げ弾性率は、JIS K 6911(1995)に規定される方法に準拠して求めることができる。このとき、試験片の幅は15mm、長さは40mm、支点間距離は15mmとする。また、支点と圧子の曲率半径は3mm、荷重速度は2mm/minとする。シート状物の曲げ弾性率は、ロール状への巻き取りやすさや、ハンドリング性の良否を示す指標となる。
【0045】
前記シート状物6の静摩擦係数は0.1〜0.7であることが好ましく、0.2〜0.6がより好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.5である。前記シート状物6の静摩擦係数が0.1よりも小さいと、該シート状物6の層間の摩擦力が小さいため、巻き取り後に端部ズレが発生しやすくなる。前記シート状物6の静摩擦係数が0.7よりも大きいと、従来の技術で巻き端面が揃っている前記シート状物6の巻き取り体を得ることができる。
【0046】
シート状物の静摩擦係数は、新東科学株式会社製静摩擦係数測定機“ポータブル摩擦計ミューズ Type:94i”を用いて測定する。直径25mmに切り取った一方のサンプルを、測定器下面にある重りに貼り付け、測定器を他方のサンプル上に置き、測定開始すると、自動で重りを水平方向に移動させる荷重が加えられていく。滑り始める瞬間の荷重を最大静止摩擦力F、重りの重さを垂直力Gとし、静摩擦係数μを測定する。静摩擦係数μは下式(3)より求めることができる。測定回数は10回とし、10個の平均値から静摩擦係数を算出する。
μ=F/G ・・・(3)
ここに、μ:静摩擦係数
F:最大静止摩擦力(N)
G:垂直力(N)
【0047】
本発明の巻き取り方法によれば、好ましくは150m以上の、より好ましくは150m〜1000mの長尺な、分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなる炭素繊維シート状物6を、巻きズレ量tが3mm以下で、かつ巻取り時に破断することないシート状物の巻取り体1として巻取ることができる。
【0048】
前記シート状物の巻き取り体1の巻き端面が揃っていると、該シート状物の巻き取り体1の搬送時に前記シート状物6の端部が梱包資材に接触することによる該シート状物6の端部の欠け、さらには巻き出し時の破断を防止することができる。また、前記シート状物6を巻き出し時の蛇行を抑制することができ、後工程での撥水処理や塗工工程での幅方向位置調整が容易になるとともに、蛇行制御による破断を未然に防止できる。
【0049】
巻きズレ量tは、図5に示すとおり、巻取り体の巻きズレを含む全幅Wとシート状物の幅Wをスケールやノギスを用いて測定し、下式(4)より求めることができる。
t=W−W ・・・(4)
ここに、t:巻きズレ量(mm)
W:巻取り体の巻きズレを含む全幅(mm)
:シート状物の幅(mm)
【実施例】
【0050】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0051】
実施例1
東レ株式会社製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T−300−6K(平均単繊維径:7μm、単繊維数:6,000本)を12mmの長さにカットし、水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの10重量%水溶液に浸漬し、乾燥して、炭素繊維の目付が約32g/mの長尺の炭素繊維紙を得てロール状に巻き取った。ポリビニルアルコールの付着量は、炭素繊維紙100重量部に対して20重量部に相当する。
【0052】
株式会社中越黒鉛工業所製鱗片状黒鉛BF−5A(平均粒径5μm)、フェノール樹脂、メタノールを1:4:16の重量比で混合した分散液を用意した。上記炭素繊維紙に、炭素繊維紙100重量部に対してフェノール樹脂が110重量部になるように、上記分散液に連続的に含浸し、90℃の温度で3分間乾燥することにより炭素繊維と熱硬化性樹脂を含むシート状物を得てロール状に巻き取った。フェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを1:1の重量比で混合した樹脂を用いた。
【0053】
株式会社カワジリ社製100tプレスに上面盤および下面盤(ともに面盤サイズは縦120cm、横120cm)が互いに平行となるようセットし、面盤温度200℃、面圧1.5MPaで、プレスの開閉を繰り返しながら炭素繊維と熱硬化性樹脂を含むシート状物を間欠的に搬送しつつ、同じ箇所がのべ90秒間加熱加圧されるよう圧縮処理した。この際、面盤の有効加圧長LPは1200mmで、間欠的に搬送する際の前駆体繊維シート状物の送り量LFを200mmとした。すなわち、15秒の加熱加圧、型開き、炭素繊維紙の送り(200mm)、を繰り返すことによって圧縮処理を行い、得られた炭素繊維強化プラスチック長尺シート状物をロール状に巻き取った。
【0054】
得られた炭素繊維強化プラスチック長尺シート状物を、窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2,000℃の加熱炉に導入し、加熱炉内を連続的に走行させながら、約500℃/minの昇温速度で焼成し、得られた多孔質炭素シート状物をロール状に巻き取った。得られた多孔質炭素シート状物は幅500mm、厚さ0.2mm、目付80g/m、長さ300m、曲げ強度50MPa、曲げ弾性率10GPa、静摩擦係数0.3であった。
【0055】
得られた多孔質炭素シート状物を、図1に示す、ロール状に巻き取る巻取り軸2と、該巻取り軸2の直前にシート状物6をニップするニップロール4と、該ニップロール4の上流側に設けられたシート状物の端部の位置検出手段5と、該位置検出手段5からの検出信号により、前記巻取り軸を巻取り軸中心軸と平行な方向に移動させる移動手段と、該移動手段を制御する制御部とを有してなるシート状物の巻取り装置を用いて、巻き取り速度2m/min、コアボビンの外径d(初期巻取り径D1)が170mmで前記シート状物を長さ300m巻き取った。このとき、ニップロール4はニップ幅Wが400mmで双方硬度50度のゴムロールのフリーロールを用い、ニップロール4のニップ部と巻取り軸2の距離は0.38mとした。最終巻取り径D2は350mmであった。
【0056】
初期巻取り張力T1を160N/m、最終巻取り張力T2を320N/mとし、多孔質炭素シート状物の巻取り体1を得た。ニップロールより上流側でシート状物にかかる張力は40N/mとした。
【0057】
巻き取り後の端部の巻きズレ量tは1.2mmで、破断や欠けなどの問題を生じることなく安定的に巻き取ることが可能であった。
【0058】
実施例2
初期巻取り張力T1を300N/m、最終巻取り張力T2を300N/mとしたこと以外は実施例1と同様にして多孔質炭素シート状物の巻取り体を得た。
【0059】
巻き取り後の端部の巻きズレ量tは1.6mmで、破断や欠けなどの問題を生じることなく安定的に巻き取ることが可能であった。
【0060】
実施例3
初期巻取り張力T1を160N/m、最終巻取り張力T2を80N/mとしたこと以外は実施例1と同様にして多孔質炭素シート状物の巻取り体を得た。
【0061】
破断や欠けなどの問題を生じることなく巻き取ることが可能であったが、70m以降巻き終えたところから軸方向にずれ始め、実施例1と比較して巻き取り後の端部の巻きズレ量tは8.6mmと大きくなった。
【0062】
比較例1
ニップロール4によるシート状物のニップを行わなかったこと以外は実施例1と同様にして多孔質炭素シート状物の巻取り体を得た。ニップを行わなかったため、巻取り装置の全長に亘って、シート状物には巻取り張力と同じ張力がかかった。
【0063】
多孔質炭素シート状物を巻き取っている際、シート状物の端部に微小な傷が存在したことが原因と思われる破断が発生し、それ以上の巻取りができなかった。
【0064】
比較例2
ニップロール4によるシート状物のニップを行なわずに、初期巻取り張力T1を30N/m、最終巻取り張力T2を50N/mとしたこと以外は実施例1と同様にして多孔質炭素シート状物の巻取り体を得た。ニップを行わなかったため、巻取り装置の全長に亘って、シート状物には巻取り張力と同じ張力がかかった。 破断などの問題を生じることなく巻き取ることが可能であったが、端部の巻きズレ量tが32mmの巻きズレが発生し、良好な巻き形態を得ることはできなかった。
【0065】
以上のように、本発明の巻き取り方法によれば、分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなる炭素繊維シート状物を巻き端面が揃っており、かつ巻き取り時に破断することなく巻き取ることができ、安定したシート状物の巻き取り体を供給することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によって得られる巻取り体に巻き取った炭素繊維シート状物は、固体高分子型燃料電池の電極基材に限らず、各種電極や電波吸収体などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0067】
1:シート状物の巻取り体
2:巻取り軸
3:コアボビン
4:ニップロール
5:シート状物の端部位置検出手段
6:シート状物
7:ガイドロール
:シート状物の幅
:ニップ幅
d:コアボビンの外径
D:シート状物の巻取り直径
W:巻取り体の巻きズレを含む全幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散している炭素短繊維が樹脂および/または有機物の炭化物で結着されてなるシート状物を、巻取り軸と該巻取り軸の上流側に設けられ、前記シート状物をニップするニップロールと、該ニップロールの上流側に設けられたシート状物の端部位置検出手段と、該検出手段からの検出信号により前記巻取り軸を巻取り軸の中心軸と平行な方向に移動させる移動手段と、該移動手段を制御する制御部とを有してなるシート状物の巻取り装置を用い、初期巻取り張力T1が単位幅当たり40N/m以上、最終巻取り張力T2が、D1を初期巻取り直径、D2を最終巻取り直径とした際に下式(1)を満足する条件で巻き取ることを特徴とするシート状物の巻取り方法。
T1≦T2≦(D1+D2)/D1×T1 ・・・(1)
【請求項2】
前記ニップロールが、該巻取り軸の直前に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のシート状物の巻取り方法。
【請求項3】
前記シート状物の50〜95%のニップ幅を有するニップロールが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のシート状物の巻取り方法。
【請求項4】
前記シート状物の曲げ弾性率が3〜50GPa、静摩擦係数が0.1〜0.7であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシート状物の巻取り方法。
【請求項5】
前記シート状物が、150m以上の長さに巻取られることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシート状物の巻取り方法。
【請求項6】
連続して搬送された前記シート状物を、請求項1〜3に記載のシート状物の巻取り方法により巻取って、シート状物の巻取り体とする、シート状物の巻取り体の製造方法。
【請求項7】
前記シート状物の曲げ弾性率が3〜50GPa、静摩擦係数が0.1〜0.7である、請求項6に記載のシート状物の巻取り体の製造方法。
【請求項8】
前記シート状物が、150m以上の長さに巻取られたものである、請求項6または7に記載のシート状物の巻取り体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−32228(P2013−32228A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−225724(P2012−225724)
【出願日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【分割の表示】特願2008−52958(P2008−52958)の分割
【原出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】