説明

シームレスベルト及びその製造方法

【課題】転写ローラ、定着ローラ等のローラの回りを回転する際に蛇行して転写ムラや定着ムラが発生したりすることがなく、しかも、定着効率及び転写効率がいっそう向上した形状保持性及び耐久性に優れたエンドレスベルトを低コストで提供する。
【解決手段】多数の耐熱性繊維からなる糸1,2でガーター編み(パール編み)されて形成された、表目3と裏目4とで構成される表層5と裏層6とを有する、環状編成布7にて補強されたシームレスベルト20において、前記糸1,2を構成する多数の耐熱性繊維が硬化されたシリコーン系樹脂で構成される接着剤で部分的に接着され、前記環状編成布7の裏層6の外側部分からその外表面に出た部分にかけて前記硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜9が設けられ、前記薄膜9にその外側表面に通じる多数の微細通気孔12が設けられ、そして、前記薄膜9の外側の表面に平滑面11が設けられているものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、ファクシミリ、プリンター等の画像形成装置において、定着転写ベルト、転写ベルト、中間転写ベルト、昇華転写ベルト等として用いられるエンドレスベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンドレスベルトとしては、例えば、熱可塑性樹脂とゴム又は熱可塑性エラストマーとで構成されるフィルム状ベルトを複写機・プリンターの中間転写ベルト用のシームレスベルトとするもの(特許文献1を参照。)、樹脂を樹脂液、溶液、分散液、溶融液等の形態で円環状織布に含浸、塗布、噴霧等の手段により接触させ、乾燥、硬化、固化させて、該円環状織布の少なくとも一方に樹脂被覆層を設けることにより、消防ホース、脱出シート、包帯、ロータリースクリーン、コンベアベルト、インクリボン、タイヤ用チューブ等の用途に用いられる円環状織布とするもの(特許文献2を参照。)、及び、少なくとも一成分が溶融異方性芳香族ポリエステルポリマーで構成される繊維からなる編物、織物、カット繊維、パルプ状、紙、不織布のいずれかの形態のものでフィルム状ベルトを補強して、高速化が可能で印刷耐久性に優れるエンドレスベルトとするもの(特許文献3を参照。)が提案されていた。
【特許文献1】特開平2000−172088号公報
【特許文献2】特開平1−92445号公報
【特許文献3】特開2005−292698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1に記載された複写機・プリンターの中間転写ベルト用のシームレスベルトでは、該シームレスベルトがハード系材料である熱可塑性樹脂とソフト系材料であるゴム又は熱可塑性エラストマーとで構成されているので、このゴム又は熱可塑性エラストマーが該シームレスベルト外力を加えた際に伸びて割れなどの機械的強度の低下を補うことができると共に、該シームレスベルトの寸法精度を安定させることができたが、長期の使用によってもたらされる該シームレスベルトの機械的強度の低下及び寸法精度の低下を防止することができるところまでは至っていない。それ故、シームレスベルトの耐久性に依然として問題があった。
【0004】
前記特許文献2に記載された円環状織布では、樹脂を樹脂液、溶液、分散液、溶融液等の形態で円環状織布に含浸、塗布、噴霧等の手段により接触させ、乾燥、硬化、固化させて、該円環状織布の少なくとも一方に樹脂被覆層を設けたので、該円環状織布を有することによって、該円環状織布の耐久性が向上したが、該円環状織布の伸縮性が十分でないために定着ローラ、転写ローラ、定着ローラ等のローラの回りを回転する際に蛇行して転写ムラや定着ムラが発生するという問題、該円環状織布の表面に被覆された樹脂被覆層が平滑でないために転写されたトナー像に模様ズレが生じたり不自然なカラー模様が形成されたりするという問題、該円環状織布の表面に被覆された樹脂被覆層に通気性がないために加熱時の熱伝導性及び熱保存性が十分に確保することができなくなって定着効率及び転写効率が低下したりするという問題、並びに、該円環状織布の表面に被覆された樹脂被覆層に通気性がないために加熱時に昇華インクが昇華する時の蒸気の逃げ場がなくなってインクがにじむという問題があった。
【0005】
前記特許文献3に記載されたエンドレスベルトでは、少なくとも一成分が溶融異方性芳香族ポリエステルポリマーで構成された繊維からなる編物、織物、カット繊維、パルプ状、紙、不織布のいずれかの形態のものでフィルムベルトを補強したので、該エンドレスベルトの耐久性が向上したが、前記特許文献2に記載されたものと同様に、該エンドレスベルトの伸縮性が十分でないために定着ローラ、転写ローラ、定着ローラ等のローラの回りを回転する際に蛇行して定着ムラ及び転写ムラが発生するという問題、該エンドレスベルトにおける樹脂被覆層の表面が平滑でないために転写されたトナー像に模様ズレが生じたり不自然なカラー模様が形成されたりするという問題、並びに、該エンドレスベルトにおける樹脂被覆層に通気性がないために温度分布が不均一となって均一な定着ができなくなったりするという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。
【0007】
即ち、本発明は、転写ローラ、定着ローラ等のローラの回りを回転する際に蛇行して転写ムラや定着ムラが発生したり、転写されたトナー像に模様ズレが生じたり不自然なカラー模様が形成されたり、通気孔がないために加熱時に昇華インクが昇華する時の蒸気の逃げ場がなくなってインクがにじんだりすることがなく、しかも、定着効率及び転写効率がいっそう向上した形状保持性及び耐久性に優れたエンドレスベルトを低コストで提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、多数の耐熱性繊維からなる糸でガーター編みされて形成された、表目と裏目とで構成される表層と裏層とを有する、環状編成布にて補強されたシームレスベルトにおいて、
(イ)前記糸を構成する多数の耐熱性繊維が硬化されたシリコーン系樹脂で構成される接着剤で部分的に接着され、
(ロ)前記環状編成布の裏層の外側部分からその外表面に出た部分にかけて前記硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜が設けられ、
(ハ)前記薄膜にその外側表面に通じる多数の微細通気孔が設けられ、そして、
(ニ)前記薄膜の外側の表面に平滑面が設けられている
ことを特徴とするシームレスベルトである。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記耐熱性繊維が、芳香族ポリアミド系耐熱性繊維、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、炭素系繊維、及び、ポリアリレート繊維から選ばれる少なくとも1種の耐熱性繊維であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載された発明において、前記シームレスベルトの通気度(JIS L1096 6.27.1)が、3〜8cm3 /cm2 /秒であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載された発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載された発明において、前記シームレスベルトが、前記平滑面を転写面として有している転写ベルトであることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5に記載された発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載された発明において、前記シームレスベルトが、前記平滑面を転写面として有している中間転写ベルトであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6に記載された発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載された発明において、前記シームレスベルトが、定着ベルトであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7に記載された発明は、
(a)鏡面に加工された金属ドラムの外表面に多数の耐熱性繊維からなる糸でガーター編みされて形成された、表目と裏目とで構成される表層と裏層とを有する、環状編成布を外挿する工程、
(b)前記金属ドラムの外表面に外挿された前記環状編成布の表層の外表面にシリコーン系樹脂を含有する塗布液を1.9〜3.2Kg/m2 の塗布量となるようにドクターブレードで塗布して、該塗布液を前記多数の耐熱性繊維で構成される糸に含浸させると共に、該塗布液による塗布薄膜を該環状編成布の裏層の外側部分からその外表面に出た部分にかけて形成する工程、
(c)前記塗布液の塗布された環状編成布を前記金属ドラムの外表面に外挿したままの状態において、該環状編成布に60〜70℃で加熱乾燥処理を施して、該塗布液の溶剤を乾燥させる工程、及び、
(d)前記加熱乾燥処理の施された環状編成布に130〜140℃で加熱硬化処理を施して前記シリコーン系樹脂を硬化させることにより、前記糸を構成する多数の耐熱性繊維を硬化されたシリコーン系樹脂で構成される接着剤で部分的に接着すると共に、前記金属ドラムの外表面に面した側の環状編成布の裏層の外側部分からその外表面に出た部分にかけて硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜を形成し、該薄膜にその外側表面に通じる多数の微細通気孔を形成し、且つ、該薄膜の外側の表面に平滑面を形成する工程
を順次有することを特徴とするシームレスベルトの製造方法である。
【0015】
請求項8に記載された発明は、請求項7に記載された発明において、前記耐熱性繊維が、芳香族ポリアミド系耐熱性繊維、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、炭素系繊維、及び、ポリアリレート繊維から選ばれる少なくとも1種の耐熱性繊維であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項9に記載された発明は、請求項7又は8に記載された発明において、前記シリコーン系樹脂を含有する塗布液が、シリコーン樹脂4〜6重量部、無機充填剤0.5〜1重量部、及び、溶剤3〜5重量部を含有していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1,4〜6に記載された発明によれば、多数の耐熱性繊維からなる糸でガーター編みされて形成された、表目と裏目とで構成される表層と裏層とを有する、環状編成布にて補強されたシームレスベルトにおいて、
(イ)前記糸を構成する多数の耐熱性繊維が硬化されたシリコーン系樹脂で構成される接着剤で部分的に接着され、
(ロ)前記環状編成布の裏層の外側部分からその外表面に出た部分にかけて前記硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜が設けられ、
(ハ)前記薄膜にその外側表面に通じる多数の微細通気孔が設けられ、そして、
(ニ)前記薄膜の外側の表面に平滑面が設けられているので、転写ローラ、定着ローラ等のローラの回りを回転する際に蛇行して転写ムラや定着ムラが発生したり、転写されたトナー像に模様ズレが生じたり不自然なカラー模様が形成されたり、通気性がないために加熱時に昇華インクが昇華する時の蒸気の逃げ場がなくなってインクがにじんだりすることがなく、しかも、定着効率及び転写効率がいっそう向上した形状保持性及び耐久性に優れたエンドレスベルトを低コストで提供することができる。
【0018】
請求項2,8に記載された発明によれば、前記耐熱性繊維が、芳香族ポリアミド系耐熱性繊維、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、炭素系繊維、及び、ポリアリレート繊維から選ばれる少なくとも1種の耐熱性繊維であるので、該耐熱性繊維が定着温度に加熱されても炭化されることがない。
【0019】
請求項3に記載された発明によれば、前記シームレスベルトの通気度(JIS L1096 6.27.1)が3〜8cm3 /cm2 /秒であるので、前記薄膜に設けられたその外側表面に通じる多数の微細通気孔を通じて加熱された空気が移動しやすくなり、そのために、加熱時に昇華インクが昇華して多数の微細通気孔を通じて逃げるためにインクがにじんだりすることがなく、また、前記シームレスベルトの加熱時の熱伝導性及び熱保存性十分に確保することができるようになるために定着効率及び転写効率がいっそう向上することとなる。
【0020】
請求項7,9に記載された発明によれば、(a)鏡面に加工された金属ドラムの外表面に多数の耐熱性繊維からなる糸でガーター編みされて形成された、表目と裏目とで構成される表層と裏層とを有する、環状編成布を外挿する工程、(b)前記金属ドラムの外表面に外挿された前記環状編成布の表層の外表面にシリコーン系樹脂を含有する塗布液を1.9〜3.2Kg/m2 の塗布量となるようにドクターブレードで塗布して、該塗布液を前記多数の耐熱性繊維で構成される糸に含浸させると共に、該塗布液による塗布薄膜を前記環状編成布の裏層の外側部分からその外表面に出た部分にかけて形成する工程、(c)前記塗布液の塗布された環状編成布を前記金属ドラムの外表面に外挿したままの状態において、該環状編成布に60〜70℃で加熱乾燥処理を施して、該塗布液の溶剤を乾燥させる工程、及び、(d)前記加熱乾燥処理の施された環状編成布に130〜140℃で加熱硬化処理を施して前記シリコーン系樹脂を硬化させることにより、前記糸を構成する多数の耐熱性繊維を硬化されたシリコーン系樹脂で構成される接着剤で部分的に接着すると共に、前記環状編成布の裏層の外側部分からその外表面に出た部分にかけて硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜を形成し、該薄膜にその外側表面に通じる多数の微細通気孔を形成し、且つ、該薄膜の外側の表面に平滑面を形成する工程を順次有しているので、転写ローラ、定着ローラ等のローラの周りを回転する際に蛇行して転写ムラや定着ムラが発生したり、転写されたトナー像に模様ズレが生じたり不自然なカラー模様が形成されたり、通気性がないために加熱時に昇華インクが昇華する時の蒸気の逃げ場がなくなってインクがにじんだりすることがなく、しかも、定着効率及び転写効率がいっそう向上することとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本実施の形態を説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施の形態を示すシームレスベルトの拡大横断面図である。図2は、本発明の一実施の形態を示すシームレスベルトの拡大平面図である。図3は、本発明の一実施の形態を示すシームレスベルトを構成するガーター編みされた環状編成布の拡大説明図である。
【0023】
図1〜3に示されているように、本発明のシームレスベルト20は、多数の耐熱性繊維からなる糸1,2でガーター編み(パール編み)されて形成された、表目3と裏目4とで構成される表層3と裏層6とを有する、環状編成布7にて補強されている。図3に示されているように、この環状編成布7では、1コース毎に表目3と裏目4とが交互に形成されているので、表目3と裏目4とで構成される表層3と、表目3と裏目4とで構成される裏層6と、を有した二重編成組織を有したものとなる。但し、前記環状編成布7においては、表目3及び裏目4は、仮に決めたものであって、これを裏返せば、前記表目3が裏目4となり、そして、前記裏目4が表目3となるものである。本明細書においては、このように定義される表目3及び裏目4を表目及び裏目という。本発明においては、前記環状編成布7は、表目3と裏目4とで構成される表層5と裏層6とを有しているので、平編布のように巻かれるようなことがなくなって、平坦な形状を保持することができ、しかも、強度を向上させることができ、それらのために、かかる環状編成布7を有するシームレスベルト20は、形状保持性及び耐久性の向上したものとなる。
【0024】
前記シームレスベルト20においては、前記糸1,2を構成する多数の耐熱性繊維が硬化されたシリコーン系樹脂で構成される接着剤8で部分的に接着されている。このように、前記糸1,2を構成する多数の耐熱性繊維が硬化されたシリコーン系樹脂で構成される接着剤8で部分的に接着されていると、耐熱性繊維相互の間で多少のズレが許容されることとなるので、前記シームレスベルト20の裏部分となる表層5を有する部分は、柔軟性を有したものとなる。それ故、かかる環状編成布7を有するシームレスベルト20は、従来の主として樹脂で構成されたシームレスベルトに補強材として環状織成布を有するものと比べて、柔軟性に優れたものとなるので、定着ローラ等のローラの回りを回転する際に該ローラに対する密着性が良くなって蛇行することがなく、そのために、転写ムラや定着ムラが発生したりすることがなくなる。
【0025】
また、前記シームレスベルト20においては、前記環状編成布7の裏層6の外側部分からその外表面に出た部分にかけて前記硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜9が設けられていて、その薄膜9の外側の表面に平滑面11が設けられている。このように、前記環状編成布7の裏層6の外側部分からその外表面に出た部分にかけて前記硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜9が設けられていて、その薄膜9の外側の表面に平滑面11が設けられていると、前記薄膜9が前記環状編成布7で補強されて変形しなくなって、該平滑面11の平滑性がそのまま維持されることとなり、そのために、転写されたトナー像に模様ズレが生じたり不自然なカラー模様が形成されたりすることがなくなる。
【0026】
また、前記シームレスベルト20においては、前記薄膜9にその外側表面に通じる多数の微細通気孔12が設けられている。このように、前記薄膜9にその外側表面に通じる多数の微細通気孔12が設けられていると、該前記シームレスベルト20で加熱された空気がこの微細通気孔を通じて移動しやすくなり、そのために、加熱時に昇華インクが昇華して多数の微細通気孔を通じて逃げるためにインクがにじんだりすることがなく、また、前記シームレスベルト20の加熱時の熱伝導性及び熱保存性を十分に確保することができるようになって定着効率及び転写効率がいっそう向上する。
【0027】
したがって、(イ)前記糸1,2を構成する多数の耐熱性繊維が硬化されたシリコーン系樹脂で構成される接着剤で部分的に接着され、(ロ)前記環状編成布7の裏層5の外側部分からその外表面に出た部分にかけて前記硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜9が設けられ、(ハ)前記薄膜9にその外側表面に通じる多数の微細通気孔12が設けられ、そして、(ニ)前記薄膜9の外側の表面に平滑面11が設けられていると、転写ローラ、定着ローラ等のローラの周りを回転する際に蛇行して転写ムラや定着ムラが発生したり、転写されたトナー像に模様ズレが生じたり不自然なカラー模様が形成されたり、通気性がないために加熱時に昇華インクが昇華する時の蒸気の逃げ場がなくなってインクがにじんだりすることがなく、しかも、定着効率及び転写効率がいっそう向上したエンドレスベルトを低コストで提供することができる。
【0028】
前記耐熱性繊維は、好ましくは、芳香族ポリアミド系耐熱性繊維、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、炭素系繊維、及び、ポリアリレート繊維から選ばれる少なくとも1種の耐熱性繊維であると、該耐熱性繊維が定着温度に加熱されても炭化されることがない。
【0029】
前記シームレスベルト20の通気度(JIS L1096 6.27.1)が、3cm3 /cm2 /秒未満であると、前記薄膜9の外側表面に通じる微細通気孔12を通じて移動される加熱された空気の量が少なくて該シームレスベルト20の加熱時の熱伝導性及び熱保存性を十分に確保することができず、また、前記シームレスベルト20の通気度(JIS L1096 6.27.1)が、8cm3 /cm2 /秒を越えると、微細通気孔12となる。したがって、本発明においては、前記シームレスベルト20の通気度(JIS L1096 6.27.1)は、好ましくは、3〜8cm3 /cm2 /秒である。このように、前記シームレスベルト20の通気度(JIS L1096 6.27.1)が3〜8cm3 /cm2 /秒であると、前記薄膜9の外側表面に通じる微細通気孔12を通じて移動される加熱された空気が移動しやすくなり、そのために、前記シームレスベルト20の加熱時の熱伝導性及び熱保存性を十分に確保することができるようになって定着効率及び転写効率がいっそう向上することとなる。
【0030】
本発明のシームレスベルト20は、好ましくは、前記平滑面11を転写面として有している転写ベルトであるか、前記平滑面11を転写面として有している中間転写ベルトであるか、又は、定着ベルトである。
【0031】
本発明のシームレスベルト20は、
(a)鏡面に加工された金属ドラム(図示せず)の外表面に多数の耐熱性繊維からなる糸1,2でガーター編み(パール編み)されて形成された、表目3と裏目4とで構成される表層5と裏層6とを有する、環状編成布7を外挿する工程、
(b)前記金属ドラム(図示せず)の外表面に外挿された前記環状編成布7の表層5の外表面にシリコーン系樹脂を含有する塗布液を1.9〜3.2Kg/m2 の塗布量となるようにドクターブレード(図示せず)で塗布して、該塗布液を前記多数の耐熱性繊維で構成される糸1,2に含浸させると共に、該塗布液による塗布薄膜を前記環状編成布7の裏層6の外側部分からその外表面に出た部分にかけて形成する工程、
(c)前記塗布液の塗布された環状編成布7を前記金属ドラム(図示せず)の外表面に外挿したままの状態において、該環状編成布7に60〜70℃で加熱乾燥処理を施して、該塗布液の溶剤を乾燥させる工程、及び、
(d)前記加熱乾燥処理の施された環状編成布7に130〜140℃で加熱硬化処理を施して前記シリコーン系樹脂を硬化させることにより、前記糸1,2を構成する多数の耐熱性繊維を硬化されたシリコーン系樹脂で構成される接着剤8で部分的に接着すると共に、前記環状編成布7の裏層6の外側部分からその外表面に出た部分にかけて硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜9を形成し、該薄膜9にその外側表面に通じる多数の微細通気孔12を形成し、且つ、該薄膜9の外側の表面に平滑面11を形成する工程、
を順次経て製造される。
【0032】
前記(a)工程において用いられる鏡面に加工された金属ドラムは、好ましくは、ステンレススチールで構成されているが、本発明の目的に反しない限り、ステンレススチール以外の金属であってもかまわない。また、前記鏡面に加工された金属ドラムは、その表面に離型性を有する樹脂、例えば、フッ素樹脂が被覆されてあってもかまわない。このように、前記鏡面に加工された金属ドラムの表面に離型性を有する樹脂が被覆されていると、シームレスベルトの離型がいっそう容易となる。
【0033】
前記(b)工程においては、前記金属ドラム(図示せず)の外表面に外挿された前記環状編成布7の表層5の外表面にシリコーン系樹脂を含有する塗布液を1.9〜3.2Kg/m2 の塗布量となるようにドクターブレード(図示せず)で塗布するが、このように、シリコーン系樹脂を含有する塗布液を1.9〜3.2Kg/m2 の塗布量となるようにドクターブレード(図示せず)で塗布すると、前記塗布液は、まず、ドクターブレードで扱かれながら前記表層5の側に塗布されて多数の耐熱性繊維で構成される糸1,2に含浸され、次に、前記裏層6の外側部分からその外表面に出て鏡面加工された金属ドラムの表面に塗布されて該塗布液による塗布薄膜が形成される。前記塗布液の塗布量は、1.9Kg/m2 未満であると、少なくなりすぎて前記塗布膜が形成し難くなり、また、前記塗布液の塗布量は、3.2Kg/m2 を越えると、多くなりすぎて全体に塗布膜が形成されることとなって、前記薄膜9が形成され難くなり、また、前記微細通気孔12も形成され難くなる。それ故、本発明においては、前記塗布液の塗布量は、好ましくは、1.9〜3.2Kg/m2 である。
【0034】
前記(c)工程においては、前記塗布液の塗布された環状編成布7を前記金属ドラム(図示せず)の外表面に外挿したままの状態において、該環状編成布7に60〜70℃で加熱乾燥処理を施すが、前記塗布液の塗布された環状編成布7を前記金属ドラムの外表面に外挿したままの状態において該環状編成布7に60〜70℃で加熱乾燥処理を施すと、塗布膜が鏡面に加工された金属ドラムの表面に接した状態で乾燥されることとなるので、金属ドラムの表面に接した塗布膜の面は、平滑面となる。
【0035】
前記(d)工程においては、前記加熱乾燥処理の施された環状編成布7に130〜140℃で加熱硬化処理を施して前記シリコーン系樹脂を硬化させるが、このように、前記加熱乾燥処理の施された環状編成布7に130〜140℃で加熱硬化処理を施すと、前記糸1,2を構成する多数の耐熱性繊維が、硬化されたシリコーン系樹脂で構成される接着剤8で部分的に接着されることとなると共に、硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜9が、前記環状編成布7の裏層6の外側部分からその外表面に出た部分にかけて形成される。そして、前記薄膜9の外側表面に通じる多数の微細通気孔12が該薄膜9中に形成され、かつ、平滑面11が該薄膜9の外側の表面に形成される。
【0036】
したがって、前記(a)工程、前記(b)工程、前記(c)工程、及び、前記(d)工程を順次有していると、転写ローラ、定着ローラ等のローラの回りを回転する際に蛇行して転写ムラや定着ムラが発生したり、転写されたトナー像に模様ズレが生じたり不自然なカラー模様が形成されたり、通気性がないために加熱時に昇華インクが昇華する時の蒸気の逃げ場がなくなってインクがにじんだりすることがなく、しかも、定着効率及び転写効率がいっそう向上したエンドレスベルトを低コストで提供することができる。
【0037】
(実施例1)
(a)多数のメタ型タイプのポリアミド系耐熱性繊維(帝人社製、コーネックスSF HT)で構成される糸をガータ編み機(シマ精機社製、SWG−X)で編成して厚み1.5mm、周長1300mmの環状編成布とし、これを鏡面に加工された周長1830mmのステンレススチールで構成される金属ドラムの外表面に外挿する工程、
(b)前記金属ドラムの外表面に外挿された前記環状編成布の表層の外表面にシリコーン系樹脂(信越化学工業社製、KE−1950−70A)18.88WET%、シリコーン系樹脂(信越化学工業社製、KE−1950−70B)18.88WET%、二酸化ケイ素(日本アエロジル社製、アエロジル#200)1.50WET%、及び、トルエン60.75WET%よりなる塗布液を1.5Kg/m2 の塗布量となるようにドクターブレードで塗布して、該塗布液を前記多数の耐熱性繊維で構成される糸に含浸させると共に、該塗布液による塗布薄膜を前記環状編成布の外側部分からその外表面に出た部分にかけて形成する工程、
(c)前記塗布液の塗布された環状編成布を前記金属ドラムの外表面に外挿したままの状態において、該環状編成布に60〜70℃で加熱乾燥処理を施して、該塗布液の溶剤を乾燥させる工程、及び、
(d)前記加熱乾燥処理の施された環状編成布に130なIS140℃で加熱硬化処理を施して前記シリコーン系樹脂を硬化させることにより、前記糸を構成する多数の耐熱性繊維を硬化されたシリコーン系樹脂で構成される接着剤で部分的に接着すると共に、前記環状編成布の裏目層の外側部分からその外表面に出た部分にかけて硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜を形成し、該薄膜にその外側表面に通じる多数の微細通気孔を形成し、且つ、該薄膜の外側の表面に平滑面を形成する工程
を順次経てシームレスベルトを得た。
【0038】
(実施例2)
前記(b)において、塗布液を2Kg/m2 の塗布量となるようにドクターブレードで塗布した以外は、実施例1と同様にしてシームレスベルトを得た。
【0039】
(実施例3)
前記(b)において、塗布液を2.5Kg/m2 の塗布量となるようにドクターブレードで塗布した以外は、実施例1と同様にしてシームレスベルトを得た。
【0040】
(実施例4)
前記(b)において、塗布液を3Kg/m2 の塗布量となるようにドクターブレードで塗布した以外は、実施例1と同様にしてシームレスベルトを得た。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施の形態を示すシームレスベルトの拡大横断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態を示すシームレスベルトの拡大平面図である。
【図3】本発明の一実施の形態を示すシームレスベルトを構成するガーター編みされた環状編成布の拡大説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1,2 糸
3 表目
4 裏目
5 表層
6 裏層
7 環状編成布
8 接着剤
9 薄膜
11 平滑面
12 微細通気孔
20 シームレスベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の耐熱性繊維からなる糸でガーター編みされて形成された、表目と裏目とで構成される表層と裏層とを有する、環状編成布にて補強されたシームレスベルトにおいて、
(イ)前記糸を構成する多数の耐熱性繊維が硬化されたシリコーン系樹脂で部分的に接着され、
(ロ)前記環状編成布の裏層の外側部分からその外表面に出た部分にかけて前記硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜が設けられ、
(ハ)前記薄膜にその外側表面に通じる多数の微細通気孔が設けられ、そして、
(ニ)前記薄膜の外側の表面に平滑面が設けられている
ことを特徴とするシームレスベルト。
【請求項2】
前記耐熱性繊維が、芳香族ポリアミド系耐熱性繊維、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、炭素系繊維、及び、ポリアリレート繊維から選ばれる少なくとも1種の耐熱性繊維であることを特徴とする請求項1に記載のシームレスベルト。
【請求項3】
前記シームレスベルトの通気度(JIS L1096 6.27.1)が、3〜8cm3 /cm2 /秒であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシームレスベルト。
【請求項4】
前記シームレスベルトが、前記平滑面を転写面として有している転写ベルトであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシームレスベルト。
【請求項5】
前記シームレスベルトが、前記平滑面を転写面として有している中間転写ベルトであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシームレスベルト。
【請求項6】
前記シームレスベルトが、定着ベルトであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシームレスベルト。
【請求項7】
(a)鏡面に加工された金属ドラムの外表面に多数の耐熱性繊維からなる糸でガーター編みされて形成された、表目と裏目とで構成される表層と裏層とを有する、環状編成布を外挿する工程、
(b)前記金属ドラムの外表面に外挿された前記環状編成布の表層の外表面にシリコーン系樹脂を含有する塗布液を1.9〜3.2Kg/m2 の塗布量となるようにドクターブレードで塗布して、該塗布液を前記多数の耐熱性繊維で構成される糸に含浸させると共に、該塗布液による塗布薄膜を前記環状編成布の裏層の外側部分からその外表面に出た部分にかけて形成する工程、
(c)前記塗布液の塗布された環状編成布を前記金属ドラムの外表面に外挿したままの状態において、該環状編成布に60〜70℃で加熱乾燥処理を施して、該塗布液の溶剤を乾燥させる工程、及び、
(d)前記加熱乾燥処理の施された環状編成布に130〜140℃で加熱硬化処理を施して前記シリコーン系樹脂を硬化させることにより、前記糸を構成する多数の耐熱性繊維を硬化されたシリコーン系樹脂で部分的に接着すると共に、前記金属ドラムの外表面に面した側の環状編成布の裏層の外側部分からその外表面に出た部分にかけて硬化されたシリコーン系樹脂で構成される薄膜を形成し、該薄膜にその外側表面に通じる多数の微細通気孔を形成し、且つ、該薄膜の外側の表面に平滑面を形成する工程
を順次有することを特徴とするシームレスベルトの製造方法。
【請求項8】
前記耐熱性繊維が、芳香族ポリアミド系耐熱性繊維、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、炭素系繊維、及び、ポリアリレート繊維から選ばれる少なくとも1種の耐熱性繊維であることを特徴とする請求項7に記載のシームレスベルトの製造方法。
【請求項9】
前記シリコーン系樹脂を含有する塗布液が、シリコーン樹脂4〜6重量部、無機充填剤0.5〜1重量部、及び、溶剤3〜5重量部を含有していることを特徴とする請求項7又は8に記載のシームレスベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−256786(P2008−256786A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96446(P2007−96446)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(592205045)株式会社北村製作所 (10)
【Fターム(参考)】