説明

シールド工法及びシールド掘進機

【課題】砂礫地盤のような崩壊性の可能性が高い地山においても、シールド掘進機により、標準部分の施工と、地盤改良の施工、拡幅部分の施工が並行して行うことができ、効率的に一部の区間の断面を拡幅できるシールド工法及びシールド掘進機を提供する。
【解決手段】一部の区間の断面を拡幅して地山に覆工体を形成するシールド掘進機であって、先端に装着され、標準断面を掘削する第1カッター11と、拡幅すべき部分を掘削する第2カッター14と、第2カッター14が掘削する拡幅する部分及び外側の地山を地盤改良する地盤改良装置19と、掘削した拡幅する部分に配置すべき拡幅セグメント22を拡幅方向に押し出す押し出し装置と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一部の区間の断面を拡幅して掘削するシールド工法及びシールド掘進機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、シールド工法によるトンネル工事は多用されており、特に近年その用途の多様化に伴い、トンネルの一部の断面形状を本線トンネルより拡幅することが求められていた。このような要求に対して、例えば、本線トンネルを施工した後、地上部からの地盤改良後にセグメントを取り外し、坑内から切り広げて、トンネルの一部分を拡幅させる工法が用いられていた。このシールド工法では、地上部から拡幅部分を切り広げるため地上部を一定期間専有することが要される。
【0003】
しかし、近年の都市化に伴い、場所によっては地上部を占用することが困難であることが多々あった。従来、このような問題を鑑みて、地下部のみで施工できるシールド工法が考えられた。このようなシールド工法としては、例えば、本線トンネルを構築後、一旦組み付けた拡幅部のセグメントを取り脱して施工する拡大シールド工法やNATM工法などが例示される。しかし、前記従来工法では、シールド掘進機による掘削作業と拡幅部の掘削作業とは別個に行われ、効率の悪いものであった。
【0004】
また、砂礫地盤のように、透水性が高く、崩壊の可能性が高い地山では、地山の安定が技術的に困難な場合が多い。このような場合に有効な手段である地盤改良は、地上部から施工することが一般的である。
【0005】
しかしながら、従来の工法では、(1)地上部を一定期間占有すること、(2)シールド掘進機による標準部分の掘削作業と別個に地盤改良、拡幅部分の掘削作業が行われて効率が悪いといった問題が生じる。
【特許文献1】特公平3−41637号公報
【特許文献2】特公平5−20556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題を鑑みて成されたものであり、砂礫地盤のような崩壊性の可能性が高い地山においても、シールド掘進機により、標準部分の施工と、地盤改良の施工、拡幅部分の施工が並行して行うことができ、効率的に一部の区間の断面を拡幅できるシールド工法及びシールド掘進機を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の課題を解決するために、以下の手段を採用した。
すなわち、本発明のシールド工法は、標準断面を掘削する第1カッターと、この標準断面に対して拡幅する部分の地山を掘削する延伸可能な第2カッターと、この第2カッターが掘削する前記拡幅する部分の地山を地盤改良する地盤改良装置と、を備えたシールド掘進機を用いて、一部の区間の断面を拡幅して地山に覆工体を形成するシールド工法であって、
前記拡幅すべき部分まで、前記第1カッターで掘削しつつ、セグメントを組み立てて標準断面の覆工体を形成する工程と、
前記拡幅する部分及び外側の地山に地盤改良体を形成し地盤改良する工程と、
前記第2カッターを延伸させて前記地盤改良体を充填した部分から拡幅すべき部分を掘
削する工程と、
前記拡幅する部分に配置すべき拡幅セグメントを拡幅方向において延伸可能に組み立てて、前記拡幅する部分の覆工体を前記標準断面内で形成する工程と、
掘削した拡幅する部分に地山を安定させる充填材を充填する工程と、
前記充填材を覆工体内に流入させつつ、前記拡幅セグメントを拡幅する部分に押出する工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るシールド工法は、前記構成により、第1カッターにより標準断面で掘削し、この標準断面の覆工体を形成し、地盤改良装置により拡幅すべき部分の地山を例えばセメント系硬化剤等を用いて地盤改良体を形成して地盤改良しつつ、第2カッターにより拡幅部分を掘削する。標準断面内で形成された拡幅セグメントは放射方向に延伸可能であるため、この拡幅セグメントを拡幅すべき部分に押出することにより、拡幅する部分を構築することが出来る。また、砂礫地盤のような崩壊性の可能性が高い地山においても、シールド掘進機により、標準部分の施工と、拡幅すべき部分の地盤改良施工、拡幅部分の施工が一連の施工として行うことができ、効率的に一部の区間の断面を拡幅できる。すなわち、砂礫地盤のように、透水性が高く、崩壊の可能性が高い地山においても、地盤改良体を形成して地盤改良しつつ、一部の区間の断面を容易に拡幅して、覆工体を構築することが可能となる。
【0009】
また、本発明は、拡幅すべき部分の地山を地盤改良体を形成して地盤改良すると共に、地盤改良後に掘削した拡幅部分に充填材を充填しているため、掘削した地山の安定を図ることが出来る。なお、掘削した拡幅部分に充填する充填材は、拡幅する部分が掘削されてから覆工体が構築するまで地山を安定させるものであり、拡幅セグメントを配置する際には覆工体内へ流入させる必要がある。そのため、前記充填材は、円滑に覆工体内へ流入できるよう一定の流動性が必要とされる。しかし、流動性が高すぎると地山の安定を十分に図ることが出来ないため、一定の塑性も必要とされる。さらに、前記充填材は、掘削時の泥水及び標準断面部分の裏込め材と混ざりにくい材料または混ざりにくい方法とすることが必要とされる。このような観点から前記充填材及び充填方法は、土質条件,地下水圧等の諸条件を考慮して、拡幅セグメント構造等と併せて種々検討することが望ましい。例えば、次のものを例示することができる。
【0010】
まず、ベントナイト,水ガラス,セメント等を主成分とする塑性流動化材料が挙げられる。この充填材の充填方法としては、拡幅すべき部分を掘削した後、シールド掘進機の後端部から直接充填し、ゲル化させる。一定の塑性を有するまでの時間(ゲルタイム)は、シール掘進機の能力等に応じて適宜に調整することが望ましい。
【0011】
また、充填材は、一定区間を掘削する毎に充填することが望ましく、掘削先端方向では前記第2カッターにより掘削していることが多々ある。このような場合に充填材を直接充填すると、掘削によって発生した泥水と混合する恐れがある。そのため、前記塑性流動化材料を充填材として用いる場合には、前記第2カッターの掘削方向後端部には、遮断壁を設ける等の手段を講じることが望ましい。そして、覆工体内に流入させる際には、拡幅セグメントの背面に予め充填材を流入させる流入口を設けておき、この流入口から流入させれば良い。
【0012】
次いで、例えば水等の流動性の高い充填材が挙げられる。このような流動性の高い充填材は、前述の塑性流動性材料のように直接掘削部分に充填すると泥水等と混合し適当でない。従って、流動性の高い充填材を用いる場合には、予め拡幅セグメントの背面に袋を装着しておき、この袋に充填材を充填することが望ましい。その充填方法は、まず、拡幅セグメントの背面に予め袋を装着する。そして、シールド掘進機による拡幅掘削時には、一旦泥水で地山を保持させておく。次いで、シールド掘進機の後端部から拡幅セグメントが
地山に出たときに、充填材に圧力をかけつつ袋内に充填し、地山を安定させる。そして、拡幅時には、拡幅セグメントを押し出すと同時に、袋内の充填材をポンプ等で排出する。尚、拡幅セグメントで押し出した後は、袋内に一般に用いられるセメント等から成る裏込め材料を充填する。
【0013】
加えて、前記充填材として、発泡スチロールを用いてもよい。発泡スチロールは一定の強度を有しているため、地山の安定を十分に図ることができる。覆工体内へ充填材を流入させる際には、セグメントの背面に電熱線を配して発泡スチロールを加熱したり、発泡スチロールにリモネンを含む溶剤を加える等して、発泡スチロールを溶かし、覆工体内へ流入させれば良い。
【0014】
次いで、前記第1カッターと第2カッターについて詳細に説明する。前記第1カッターは、標準断面を掘削するカッターであり、通常シールド掘進機の先端に装着されている。一方、前記第2カッターは、標準形断面の放射方向に対して延伸可能であり、拡幅する部分のみを掘削する。そのため、第1カッターと第2カッターは独立して設けることが望ましく、第2カッターはシールド掘進機の外周面に設けると好適である。この第2カッターの構成としては、例えば、2つの回転カッターを組み合わせたアーム式の掘削機が挙げられる。この第2カッターは、標準形断面において径方向及び周方向に延伸可能であることが望ましく、径方向と周方向へ延伸を組み合わせることにより、拡幅に必要な最小限の空間を掘削することが可能となる。さらに、前記第2カッターは、掘進停止時、覆工体を形成しつつ拡幅する部分のみ掘削するため、標準断面を掘進する際は、シールド掘進機内に格納していることが望ましい。
【0015】
次に、地盤改良装置について詳細に説明する。地盤改良装置は、前記拡幅する部分及び外側の地山を地盤改良する部分として掘削する第3カッターと、この第3カッターを用いて掘削した前記地山に前記地盤改良体を形成する地盤改良体形成装置と、を有する。そして、地盤を改良する工程は、前記拡幅する部分及び外側の地山を地盤改良する部分として掘削する工程と、掘削した前記地山に前記地盤改良体を形成する工程と、を有する。
【0016】
前記第3カッターは、機械式撹拌により地盤を掘削するもの(スタビライザ方式あるいはチェーンソー方式)やコラムジェットグラウト(CJG)方式のものを用いる。機械式撹拌によるスタビライザ方式は、地盤をかき起こしながらセメント系硬化剤等を用いて固化させ地盤改良体を地盤に形成するものである。また、チェーンソー方式は、地盤改良する部分の地山を撹拌チェーンで細かく切り崩しながらセメント系硬化剤等を高圧噴射し強制的に撹拌混合して固化させ地盤改良体を地盤に形成するものである。一方、コラムジェットグラウト(CJG)方式は、セメント系硬化剤等を圧縮空気と同時に横方向に噴射、回転、引き上げをすることにより、地盤に円柱状固結体を造成することで地盤改良するものである。
【0017】
前記拡幅セグメントは、標準断面の放射方向に延伸可能であるため、標準断面内で形成された後、必要に応じて拡幅すべき方向へ押出でき、拡幅する部分を容易に構築することが可能である。すなわち、拡幅セグメントは、標準断面と拡幅する部分を兼ねて構築することができる。従って、新たに拡幅する部分を形成するセグメントを設ける必要がなく、効率のみならず、経済性をも向上させることができる。
【0018】
また、本発明のシールド掘進機は、一部の区間の断面を拡幅して地山に覆工体を形成するシールド掘進機であって、
先端に装着され、標準断面を掘削する第1カッターと、
前記標準断面の放射方向において延伸可能に装着され、拡幅すべき部分を掘削する第2カッターと、
この第2カッターが掘削する前記拡幅する部分の地山を地盤改良する地盤改良装置と、
掘削した拡幅する部分に配置すべき拡幅セグメントを前記拡幅方向に押し出す押し出し装置と、
を備えることを特徴とする。
【0019】
更に、本発明のシールド掘進機は、前記地盤改良装置は、前記拡幅する部分及び外側の地山を地盤改良する部分として掘削する第3カッターと、この第3カッターを用いて掘削した前記地山に前記地盤改良体を形成する地盤改良体形成装置と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係るシールド掘進機は、前記構成により、第1カッターにより標準断面で掘削し、この標準断面の覆工体を形成し、地盤改良装置により拡幅すべき部分の地山を例えばセメント系硬化剤を用いて地盤改良体を形成して地盤改良しつつ、第2カッターにより拡幅部分を掘削する。標準断面内で形成された拡幅セグメントは放射方向に延伸可能であるため、この拡幅セグメントを拡幅すべき部分に押出することにより、拡幅する部分を構築することが出来る。また、砂礫地盤のような崩壊性の可能性が高い地山においても、シールド掘進機により、標準部分の施工と、拡幅すべき部分の地盤改良施工、拡幅部分の施工が一連の施工として行うことができ、効率的に一部の区間の断面を拡幅できる。すなわち、砂礫地盤のように、透水性が高く、崩壊の可能性が高い地山においても、地盤改良体を形成して地盤改良しつつ、一部の区間の断面を容易に拡幅して、覆工体を構築することが可能となる。
【0021】
更にまた、本発明のシールド掘進機は、前記第2カッターで拡幅する部分の地山を安定させる充填材を充填する充填装置を有し、
前記第2カッターで掘削した拡幅する部分に充填材を充填した後、前記充填材を覆工体内へ流入させつつ、前記拡幅セグメントを拡幅する部分に配置することを特徴とする。
【0022】
前記シールド工法又はシールド掘進機で用いる拡幅セグメントは、標準断面の放射方向に延伸可能であり、隣り合うセグメントと組み合わされることにより標準断面と略同形の外形を構築するとともに、放射方向に押出されることにより拡幅部分に配置され、かつ、前記充填材を覆工体内へ流入するための流入口が複数設けられていることが望ましい。前記流入口が複数設けられていることにより、容易に充填材を覆工体内へ流入させつつ、拡幅セグメントを配置することが可能となる。
【0023】
また、この拡幅セグメントは、構築する覆工体内への漏水を防止する観点から止水対策することが望ましい。例えば、拡幅セグメントの表面は、止水シールの施工、特殊防水剤の湿布が挙げられ、前記流入口等の穴部には、止水ボルトを装着する等の止水対策が挙げられる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明に係るシールド工法およびシールド掘進機によれば、シールド掘進機により、標準部分の施工と、拡幅すべき部分の地盤改良施工、拡幅部分の施工が一連の施工として行うことができ、効率的に一部の区間の断面を拡幅できる。すなわち、砂礫地盤のように、透水性が高く、崩壊の可能性が高い地山においても、地盤改良体を形成して地盤改良しつつ、一部の区間の断面を容易に拡幅して、覆工体を構築することが可能となる。
【0025】
また、従来行っていた地盤改良等の補助工法を行う必要がない。そのため、地上部が占有できない箇所、地下埋蔵物が輻輳する箇所、大深度の場所等でも容易に施工を行うことが可能であり、場所に制限がなく好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施の形態に用いるシールド掘進機の概略図であり、図2から図9は、本実施の形態に係るトンネル掘削の工程説明図である。本実施の形態では、図示するX位置まで標準形のトンネルを施工し、X−Y位置(図9参照)まで下方に拡幅してトンネルを構築する。
【0027】
本実施の形態に用いるシールド掘進機1は、円筒状であり、先端に標準形断面を掘削する第1カッターとしてのカッターヘッド11と、外殻としてのスキンプレート12と、このスキンプレート12に設けられた開閉自在なスリット扉13a,13bと、前記スリット扉13aから外周方向に延伸可能な第3カッターとしての外カッター(チェーンソー方式機械撹拌機)19と、前記スリット扉,13bから外周方向及び径方向に延伸可能な第2カッターとしての内カッター(アーム式掘削機)14と、外カッター19に隣接してスキンプレート12上に形成された地盤改良体30を形成して地盤を改良する地盤改良装置(図示せず)と、充填材16の充填装置(図示せず)と、この充填装置の注入口15と、シールド掘進機1の内部に配置され、セグメント21を組み立ててトンネル2を構築するエレクタ(図示せず)と、セグメント21を拡幅すべき部分に押出しする押出し装置としての押出しジャッキ17とを備えている。なお、スリット扉13aは、外カッター19用であり,スリット扉13bは、内カッター14用である。
【0028】
まず、標準断面のトンネルを施工する状態では、前記カッターヘッド11のみを駆動させる。そして、前記エレクタでセグメント21を組み立てつつ、標準断面のトンネル2の掘進を行う。この際、外カッター19及び内カッター14は、シールド掘進機1内に格納されており、前記スリット扉13a,13bは閉じている(図2参照:ステップ1)。そして、前記スリット扉13a,13bが拡幅する部分の起点となるXに位置したら、スリット扉13aを開け、外カッター19をシールド掘進機1の径方向に伸張させる(図3(a)参照:ステップ2)。
【0029】
外カッター19は、図3(b)に示すように、機械式撹拌により地盤を掘削するチェーンソー方式である。この外カッター19は、図10に示すように、地盤改良する部分の地山を撹拌チェーン19aで細かく切り崩しながらセメント系硬化剤(例えば、セメントミルク)を高圧注入口19bより高圧噴射して強制的に撹拌混合して地盤を固化させて地盤を改良する装置であり、この外カッター19が1リング掘進中に、地盤改良装置により地山側の地盤を改良する。
【0030】
シールド掘進機1は、地盤改良体30の造成後、カッターヘッド11のみを駆動させ、標準断面のトンネル2の掘進を行う(図4参照:ステップ3)。
【0031】
次に、シールド掘進機1は、前記エレクタでセグメント21を組み立てつつ、カッターヘッド11を駆動させ、標準断面のトンネル2の掘進を行と共に、外カッター19を掘進させ、1リング掘進中に、地盤改良装置によりセメント系硬化剤を噴出し地山側の地盤を改良する。更に、スリット扉13bを開け、内カッター14をシールド掘進機1の径方向に伸張させる(図5参照:ステップ4)。
【0032】
この内カッター(アーム式掘削機)14は、図11に示すように、泥水式の掘削方法であり回転掘削する二つの回転式カッター14aと、この回転式カッター14aを移動させるアーム14bとからなる。前記回転式カッター14aは、外周に多数のカッタービットが突設されており、隣り合うリング同士が対向して回転することにより、地山を掘削し、その掘削土砂と泥水をトンネル内へ流入する(図5(b)参照)。前記アーム14bは、シールド掘進機1の径方向への伸縮機構と、シールド掘進機の円周方向への旋回機構を有
しており、この機構を組み合わせることにより、拡幅に必要な最小限の空間を掘削することができる。
【0033】
前記カッターヘッド11によりアーム式掘削機14をシールド掘進機1に格納した状態で標準断面を掘削し、セグメント21を組み立てつつ、外カッター19を掘進させて1リング掘進中に地盤改良装置によりセメント系硬化剤を噴出し地山側の地盤を改良すると共にアーム式掘削機14で拡幅する部分を掘削する。そして、セグメント21を組み立てて1リング分形成する毎に、この掘削した拡幅する部分とシールド掘進機1の外周面との間に設けられた空間に注入口15から充填材16を充填する(図6(a)(b)参照:ステップ5)。この地盤改良体30及び充填材16を充填することにより、地山を安定させるとともに、地山との摩擦抵抗を低減させることができる。
【0034】
次に、シールド掘進機1は、前記エレクタでセグメント21を組み立てつつ、カッターヘッド11を駆動させ、標準断面のトンネル2の掘進を行と共に、外カッター19を掘進させ、1リング掘進中に、地盤改良装置によりセメント系硬化剤を噴出し地山側の地盤を改良すると共にアーム式掘削機14で拡幅する部分を掘削する。そして、セグメント21を組み立てて1リング分形成する毎に、この掘削した拡幅する部分とシールド掘進機1の外周面との間に設けられた空間に注入口15から充填材16を充填する(図7参照:ステップ6)。
次に、シールド掘進機1は、図3〜図7に示すステップ2〜6までの工程を拡幅セグメントを押し出す位置(Y面)まで繰り返す(図8参照:ステップ7)。
【0035】
一方、シールド掘進機1の後端部では、シールド掘進機1の推進に伴いエレクタによりセグメント21が組み立てられリングを構築されている。図12,13は、拡幅する部分に配置されるリングの断面形状である。図12は拡幅する前の状態を示しており、図13は、拡幅した時の状態を示している。このリングは、複数のセグメント21がボルト,ナットにより連結され一体化している。拡幅する部に配置すべき拡幅セグメント22は、隣接するセグメント21と接触する面22aが長く形成されており、この面22aには複数個所のボルト穴が形成されている。
【0036】
また、拡幅する部分の両端部に配置される拡幅セグメント22、換言すれば、X面、Y面(図9参照)に配置される拡幅セグメント22は、妻壁22bを有しており、拡幅した時に地山からの漏水を防ぐよう形成されている(図14参照)。すなわち、この拡幅セグメント22は、拡幅する前には、標準断面と同じ外形状を形成しており、径方向へ押出されることにより拡幅構造を構築することができる。
【0037】
また、拡幅セグメント22は、リングの外周面を構成する背面に充填材16をトンネル2内へ流入させるための流入口(図示せず)が設けられている。この流入口は、充填材16をトンネル2内へ流入させる際のみ開口すれば良いため、容易に開閉できる構成にすることが望ましい。また、このリング内には、拡幅セグメント22を押し出すための押出しジャッキ17と、リング内の形状を保持するための形状保持柱18が配置されている。本実施の形態では、この押出しジャッキ17と形状保持柱18を各々別々に設けたが、二つの機能をシステムとして一つにまとめた台車とすることも可能である。この台車とすることにより、拡幅の施工性、品質を向上させることができる。
【0038】
そして、シールド掘進機1の掘進が進行し、拡幅セグメント22を拡幅する部に押し出す際には、隣接するセグメント21と連結されたボルト、ナットによる締結を外し、拡幅セグメントの表面に設けられている流入口を開く。そして、押出しジャッキ17を用いて、隣接するセグメント21との接触面22aとスライドさせつつ、拡幅部に押し出す。この際、掘削された拡幅部に予め充填された充填材16は、前記流入口からトンネル2内へ
流入する。本実施の形態では、3リング毎に前記拡幅セグメント22を拡幅部に押し出した(図9参照:ステップ8)。
【0039】
そして、配置すべき位置まで拡幅セグメント22を押し出した後、隣接するセグメント21と連結する。また、地山からの漏水等がリング内に流入するのを防ぐため、流入口22cを密閉する。この際、止水性を向上させることが望ましく、本実施の形態では、流入口22cを塞ぐボルトにゴム製のワッシャを装着した。
【0040】
この工程を繰り返し、前記拡幅すべき部分にトンネル2を構築する。そして、アーム式掘削機14がYの位置まで掘削したら、アーム式掘削機14の掘削を止めて、アーム式掘削機14をスリット扉13b内へ格納する。そして、カッターヘッド11のみで毎リング掘削し、トンネル2本体を施工する。
【0041】
以上のように、本実施の形態に係るシールド工法、シールド掘進機によれば、砂礫地盤のような崩壊性の可能性が高い地山においても、シールド掘進機により、標準部分の施工と、拡幅すべき部分の地盤改良施工、拡幅部分の施工が一連の施工として行うことができ、効率的に一部の区間の断面を拡幅できる。すなわち、砂礫地盤のように、透水性が高く、崩壊の可能性が高い地山においても、地盤改良体を形成して地盤改良しつつ、一部の区間の断面を容易に拡幅して、覆工体を構築することが可能となる。また、従来行っていた地盤改良等の補助工法を行う必要がない。そのため、地上部が占有できない箇所、地下埋蔵物が輻輳する箇所、大深度の場所等でも容易に施工を行うことが可能であり、場所に制限がなく好適である。
【0042】
前述の実施の形態では、第3カッター(外カッター)をチェーンソー方式の装置の場合で説明したが、第3カッターは、機械式撹拌により地盤を掘削するスタビライザ方式のものであっても、コラムジェットグラウト(CJG)方式のものであってもよい。なお、機械式撹拌によるスタビライザ方式は、地盤をかき起こしながら地盤改良体を地盤に形成するものである。また、コラムジェットグラウト(CJG)方式は、セメント系硬化剤等を圧縮空気と同時に横方向に噴射、回転、引き上げをすることにより、地盤に円柱状固結体を造成することで地盤改良するものである。
【実施例1】
【0043】
図15は、前記実施の形態と異なる態様の充填方法を示した図である。他の部分の実施態様は、前記実施の形態と同様である。本実施例1では、拡幅セグメント22の背面に予め充填材を充填する袋22dを装着している(a)。まず、拡幅する部分を掘削した後、充填材16を袋22d内に充填する(b)。そして、拡幅セグメント22の押出に伴い、トンネル2内に充填材を流入させる。次いで、充填材16を排出した袋に通常の裏込め材を再注入する(c)。
【実施例2】
【0044】
図16は、前記実施例1同様、前記実施の形態と異なる態様の充填方法を示した図である。他の部分の実施態様は、前記実施の形態と同様である。本実施例2では、充填材として発泡スチロールを用い、掘削断面に直接充填する。まず、拡幅する部分を掘削した後、発泡モルタルを充填する。この充填された発泡モルタルは硬化して発泡スチロール16aとなる(a)。拡幅セグメント22を押出する際には、発泡スチロール16aに溶剤(リモネン)16bを噴射して、発泡スチロール16aを溶かす(b)。そして、溶けた発泡スチロール16aをトンネル2内へ流入しつつ、拡幅セグメント22を拡幅部分に配置する(c)。
【0045】
本実施例では、発泡スチロールを溶かす方法として溶剤を用いたが、拡幅セグメント2
2の背面を熱する電熱線を拡幅セグメント22の内側に予め配置しておき、電熱線で熱することにより発泡スチロールを溶かしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施の形態に係るシールド掘進機の斜視図である。
【図2】本実施の形態に係るトンネルの掘削工程の説明図である。
【図3】本実施の形態に係るトンネルの掘削工程の説明図である。
【図4】本実施の形態に係るトンネルの掘削工程の説明図である。
【図5】本実施の形態に係るトンネルの掘削工程の説明図である。
【図6】本実施の形態に係るトンネルの掘削工程の説明図である。
【図7】本実施の形態に係るトンネルの掘削工程の説明図である。
【図8】本実施の形態に係るトンネルの掘削工程の説明図である。
【図9】本実施の形態に係るトンネルの掘削工程の説明図である。
【図10】チェーンソー方式の外カッターの説明概略図である。
【図11】内カッター(アーム式掘削機)の説明概略図である。
【図12】セグメントを組み立てたリングの断面図である(押出前)。
【図13】セグメントを組み立てたリングの断面図である(押出後)。
【図14】拡幅セグメントの斜視図である。
【図15】実施例1に係る充填材の充填方法の説明図である。
【図16】実施例2に係る充填材の充填方法の説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1 シールド掘進機
11 カッターヘッド
12 スキンプレート
13a スリット扉
13b スリット扉
14 内カッター(アーム式掘削機)
14a 回転式カッター
14b アーム
15 注入口
16 充填材
16a 発泡スチロール
16b 溶剤
17 押出しジャッキ
18 形状保持柱
19 外カッター(チェーンソー方式)
2 トンネル
21 セグメント
22 拡幅セグメント
22b 妻壁
22c 流入口
22d 袋
30 地盤改良体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準断面を掘削する第1カッターと、この標準断面に対して拡幅する部分の地山を掘削する延伸可能な第2カッターと、この第2カッターが掘削する前記拡幅する部分の地山を地盤改良する地盤改良装置と、を備えたシールド掘進機を用いて、一部の区間の断面を拡幅して地山に覆工体を形成するシールド工法であって、
前記拡幅すべき部分まで、前記第1カッターで掘削しつつ、セグメントを組み立てて標準断面の覆工体を形成する工程と、
前記拡幅する部分及び外側の地山に地盤改良体を形成し地盤改良する工程と、
前記第2カッターを延伸させて前記地盤改良体を充填した部分から拡幅すべき部分を掘削する工程と、
前記拡幅する部分に配置すべき拡幅セグメントを拡幅方向において延伸可能に組み立てて、前記拡幅する部分の覆工体を前記標準断面内で形成する工程と、
掘削した拡幅する部分に地山を安定させる充填材を充填する工程と、
前記充填材を覆工体内に流入させつつ、前記拡幅セグメントを拡幅する部分に押出する工程と、を備えることを特徴とするシールド工法。
【請求項2】
前記地盤改良する工程は、前記拡幅する部分及び外側の地山を地盤改良する部分として掘削する工程と、掘削した前記地山に前記地盤改良体を形成する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のシールド工法。
【請求項3】
一部の区間の断面を拡幅して地山に覆工体を形成するシールド掘進機であって、
先端に装着され、標準断面を掘削する第1カッターと、
前記標準断面の放射方向において延伸可能に装着され、拡幅すべき部分を掘削する第2カッターと、
この第2カッターが掘削する前記拡幅する部分の地山を地盤改良する地盤改良装置と、
掘削した拡幅する部分に配置すべき拡幅セグメントを前記拡幅方向に押し出す押し出し装置と、
を備えることを特徴とするシールド掘進機。
【請求項4】
前記地盤改良装置は、前記拡幅する部分及び外側の地山を地盤改良する部分として掘削する第3カッターと、この第3カッターを用いて掘削した前記地山に前記地盤改良体を形成する地盤改良体形成装置と、を有することを特徴とする請求項3に記載のシールド掘進機。
【請求項5】
前記第2カッターで拡幅する部分の地山を安定させる充填材を充填する充填装置を有し、
前記第2カッターで掘削した拡幅する部分に充填材を充填した後、前記充填材を覆工体内へ流入させつつ、前記拡幅セグメントを拡幅する部分に配置することを特徴とする請求項3または4に記載のシールド掘進機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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