説明

シールド線の車両配線構造

【課題】シールド線が振動発生区域で芯線に損傷が発生するのを防止する。
【解決手段】芯線を絶縁樹脂層で被覆したコア線を、金属線を編組してメッシュチューブとしたシールド層あるいは金属箔テープを巻き付けるシールド層で被覆し、該シールド層の外周を絶縁樹脂層からなるシースで被覆しているシールド線の車両配線構造であって、車両に搭載されるエンジンを含む振動発生源からの振動が伝達される領域に配線され、車両走行時に負荷される振動の振幅が設定値以上で、該設定値以上の振幅の振動が生じる電線長さが設定長さ以上であるシールド線は、少なくとも前記振動発生区間の前記シースを剥離して柔軟で撓みやすくしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシールド線の車両配線構造に関し、詳しくは、自動車のエンジンルーム内に配線されるシールド線にエンジン振動が負荷されて、該シールド線に断線等が発生するのを防止するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、自動車内において、電子制御ユニット(ECU)等と接続する信号線としてシールド線が汎用されている。該シールド線1は、図5(A)(B)に示すように、芯線2を絶縁樹脂層3で被覆したコア線4の絶縁樹脂層3の外周を、金属線を編組して設けたメッシュチューブからなるシールド層5で囲み、該シールド層5の外周を絶縁樹脂からなる厚肉のシース6で被覆している。(特開2009−21146号公報参照)
前記シールド層5は金属箔テープをコア線4に巻き付けて形成する場合もある。
前記シールド線1はシールド層5でノイズの影響を除去し、該シールド層を厚肉のシース6で被覆しているため、比較的剛直となっている。
【0003】
エンジン側に接続されるシールド線1が増加しており、図6(A)に示すように、エンジンルームERを囲む車体B1とエンジンボデイB2との間の空間にシールド線1を含むワイヤハーネスが架け渡されている。詳細には、図6(B)に示すように、シールド線1を三相の高圧電線等の他の電線と共に集束したワイヤハーネスW/Hからシールド線1を分岐させ、分岐位置にエンジンボデイ固定用のブラケット100を取り付けていると共に、前記分岐させたシールド線1の中間位置に車体への係止用のバンドクランプ102を取り付けている。該シールド線1は例えばD/V線からなる。
【0004】
前記ブラケット100を介してエンジンに固定する固定点P1から、クランプ102を介して車体に固定する固定点P2との間でシールド線1は「く」の字状に屈曲し、この屈曲した区間が車体とエンジンボデイとの間の空間に架け渡されている。
エンジン駆動時にエンジンボデイに振動が発生すると、空間に架け渡されたシールド線1に比較的大きな振動が発生する。其の際、シールド線は前記のように比較的剛直であるため振動を吸収できずに共振し、特に「く」の字状に屈曲した頂点部分に応力集中が生じてシールド線1の芯線に断線が発生しやすくなる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−21146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記問題を解消せんとするもので、シールド線に発生する振動を減衰し、振動によりシールド線の芯線の断線発生を防止することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、芯線を絶縁樹脂層で被覆したコア線を、金属線を編組してメッシュチューブとしたシールド層あるいは金属箔テープを巻き付けるシールド層で被覆し、該シールド層の外周を絶縁樹脂層からなるシースで被覆しているシールド線の車両配線構造であって、
車両に搭載されるエンジンを含む振動発生源からの振動が伝達される領域に配線され、車両走行時に負荷される振動の振幅が設定値以上で、該設定値以上の振幅の振動が生じる電線長さが設定長さ以上であるシールド線は、少なくとも前記振動発生区間の前記シースを剥離して柔軟で撓みやすくしていることを特徴とするシールド線の車両配線構造を提供している。
【0008】
本発明では、シールド線の大きな振幅で振動しやすい領域ではシースを剥離して、シールド線を柔軟で撓み易くして振動減衰を図ると共に、応力を分散し、芯線に切断等の損傷が発生するのを防止している。
【0009】
前記シースを剥離する振動発生区間における前記振幅の設定値は9mm、該振幅の振動が発生する電線長さの設定値は100mmとすることが好ましい。
即ち、振動の振幅が9mm以上で、該振幅の振動が発生する区間の電線長さが100mm以上である振動発生区間ではシールド線のシースを剥離している。
【0010】
前記シースを剥離する振動発生区間の振動振幅および振動発生長さを前記設定値としているのは、該設定値以上の振動発生区間ではシールド線の芯線に断線が発生しやすいことを、本発明者が実験を重ねて知見しことに基づく。
【0011】
また、前記設定値以上の振幅ではないが、屈曲部を有する場合には、屈曲部の頂点に応力集中が生じて芯線に損傷が発生しやすい。よって、シールド線のシースを剥離する区間は屈曲部の頂点がある振動発生区間とすることが好ましい。
【0012】
前記シースを剥離する区間は前記振動発生区間および該振動発生区間から前記振動発生源から離れる側のシールド線の端末までとしてもよい。
このように、振動発生区間だけでなく、シールド線の一端側の端末までのシースを剥離しているのは、振動発生区間だけシースを剥離することが非常に難しいことによる。よって、シールド線の端末までシースを剥離し、かつ、剥離する端末側は振動発生源から離れる方向の端末側としている。
【0013】
前記従来例に記載したエンジンと車体との間の空間に屈曲させて架け渡すシールド線は、エンジン固定点と、車体固定点との間は前記振動発生区間となるため、少なくとも、該振動発生区間ではシールド線のシースを剥離している。
【0014】
前記シールド線には、少なくとも前記シースを剥離した区間は絶縁樹脂製のコルゲートチューブまたはプロテクタからなる外装材を外装し、該外装材内にシールド線を撓み可能に挿通している。
シースを剥離するとシールド層が露出し、該シールド層は金属編組糸からなるため、他の通電材料と接触すると短絡が発生しやすくなる。かつ、シールド層およびシールド線全体を保護するために、前記のように絶縁樹脂材からなるコルゲートチューブあるいはプロテクタで覆い、その内部でシールド線は振動を減衰するように撓み可能に挿通しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
前記のように、本発明では、車両に配線するシールド線に対して設定値以上の振動が負荷される領域では、シールド線のシースを剥離して振動し易くさせて無理なく振動を減衰させている。これにより、簡単にシールド線の芯線に断線が発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一実施形態を示す斜視図である。
【図2】第一実施形態のシールド線を示し、(A)は真っすぐにのばした状態のシールド線の正面図、(B)は(A)のB−B線断面図、(C)は(A)のC−C線断面図である。
【図3】シールド線の屈曲部の屈曲角度と振幅の関係を示し、(A)は下面図、(B)は正面図、(C)は側面図である.
【図4】第二実施形態のシールド線の概略図である。
【図5】汎用のシールド線を示し、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
【図6】(A)(B)は問題となるシールド線の配線箇所を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
自動車のエンジンルームに配線するシールド線10の構造は前記図5に示すシールド線1と同一構造であり、芯線2を絶縁樹脂層3で被覆したコア線4の外周を金属繊維をメッシュ状に編組したシールド層5で覆い、該シールド層5を厚肉の絶縁樹脂層からなるシース6で被覆している。
【0018】
図1に示すように、シールド線10はD/Vケーブルとして、前記図6と同様に、三相の高圧電線を含む他の電線と集束したワイヤハーネス20としてエンジンルームER内に配索している。該ワイヤハーネス20にブラケット100を突設した取付筒101を取り付け、該ブラケット100をエンジンボデイB2にボルト・ナット(図示せず)を用いて固定点P1で固定している。該固定点P1から前記シールド線10が分岐し、該分岐位置から「く」の字状に屈曲した後に、さらに折り返し状にシールド線10の端末10e側を延在している。
【0019】
図2(A)に示すように、前記固定点P1から分岐したシールド線10は端末10eまでシース6を剥離して、図2(C)にも示すようにシールド層5を露出させている。また、シース6を剥離したシールド線10をコルゲートチューブ12に遊挿し、該コルゲートチューブ12に図1に示すようにコルゲートクランプ13を取り付け、屈曲した中間位置を車体ボデイB1に固定点P2で固定している。
【0020】
本実施形態では、図2(A)に示すシールド線10の前記固定点P1とP2間の寸法は150mmであり、固定点P1はエンジンボデイB2への固定点であるため、自動車走行時にはエンジン振動が固定点P1から伝わり、該固定点P1から固定点P2までの間が振動発生区間Xとなる。
【0021】
前記振動発生区間Xは「く」の字に屈曲しており、該屈曲角度は図3(A)で示す下面図では屈曲角度θ1は28.5°、図3(B)に示す正面図では屈曲角度θ2は約41.5度、図3(C)に示す側面図では屈曲角度θ3は21.5°である。
シールド線1の固定点P1とP2の間は振動発生区間Xが空間に架け渡されるため、振動が非常に発生し易くなっている。
【0022】
本発明者がシールド線のシースを剥離しない状態で、エンジン駆動時の前記振動発生区間Xにおけるシールド線の振動状態を測定した。
その結果、振動発生区間Xでは、エンジン駆動時に、図3(A)で示す前後方向に22mmの振幅で振動し、図3(B)に示す左右方向に9mmの振幅で振動し、図3(C)に示す上下方向で20mmの振幅で振動する。詳細には下記の表1に示す通りであった。
【0023】
【表1】

【0024】
前記のように、前後方向、左右方向、上下方向の振幅がいずれも9mm以上であり、かつ、該振幅の振動発生区間の長さが150mmで100mm以上であるため、さらに、45°以下の急角度で屈曲しているため、シールド線のシースを剥離する設定条件に適合している。よって、前記のように、シールド線10の固定点P1からP2までの振動発生区間Xはシース6を剥離している。かつ、シールド線10の中間領域である振動発生区間だけシース6を剥離することは困難であるため、シールド線10の振動発生源となるエンジンルーム側の端末ではなく、反対側の端末10eまで固定点P1からシース6を剥離している。
【0025】
前記シース6を剥離したシールド線10の領域、即ち、固定点P1から端末10eの領域は前記のようにコルゲートチューブ12に通し、該コルゲートチューブ12の内部でシールド線10が振動できるようにしている。該コルゲートチューブ12は環状の山部と谷部とを軸線方向に交互に設けた樹脂成形品からなるチューブであり、湾曲および伸縮可能である。
【0026】
前記のように、シールド線10は振動発生区間Xを含む領域でシース6を剥離し、シールド線10に柔軟性を持たせ、撓み易くしているため、応力が分散され、シールド線の芯線の切断を防止することができる。
【0027】
図4に第二実施形態を示す。
第二実施形態のシールド線10は金属線をメッシュチューブに編組したシールド層5ではなく、金属箔テープを巻き付けたシールド層50としている。該シールド線10では、振動発生区間Xのみでシース6を剥離している。具体的には、振動発生区間Xから一端末へシース6を移動して取り出し、その後、剥離長さ分だけ切断し、残余のシース6をシールド線10の端末から挿入して、振動発生区間Xのみシースを剥離している。
このシース剥離区間では、樹脂成形品からなるプロテクタでシールド線を覆っている。
【符号の説明】
【0028】
2 芯線
3 絶縁樹脂層
4 コア線
5 シールド層
6 シース
10 シールド線
12 コルゲートチューブ
P1、P2 固定点
X 振動発生区間
B1 車体ボデイ
B2 エンジンボデイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線を絶縁樹脂層で被覆したコア線を、金属線を編組してメッシュチューブとしたシールド層あるいは金属箔テープを巻き付けるシールド層で被覆し、該シールド層の外周を絶縁樹脂層からなるシースで被覆しているシールド線の車両配線構造であって、
車両に搭載されるエンジンを含む振動発生源からの振動が伝達される領域に配線され、車両走行時に負荷される振動の振幅が設定値以上で、該設定値以上の振幅の振動が生じる電線長さが設定長さ以上であるシールド線は、少なくとも前記振動発生区間の前記シースを剥離して柔軟で撓みやすくしていることを特徴とするシールド線の車両配線構造。
【請求項2】
前記シースを剥離する振動発生区間における前記振幅の設定値は9mm、該振幅の振動が発生する電線長さの設定値は100mmである請求項1に記載のシールド線の車両配線構造。
【請求項3】
前記シースを剥離する区間に屈曲部の頂点がある振動発生区間である請求項1または請求項2に記載のシールド線の車両配線構造。
【請求項4】
前記シースを剥離する区間は前記振動発生区間および該振動発生区間から前記振動発生源から離れる側のシールド線の端末までである請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシールド線の車両配線構造。
【請求項5】
前記シールド線には、少なくとも前記シースを剥離した区間は絶縁樹脂製のコルゲートチューブまたはプロテクタからなる外装材を外装し、該外装材内にシールド線を撓み可能に挿通している請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のシールド線の車両配線構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−188616(P2011−188616A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50872(P2010−50872)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】