説明

シール材及びその製造方法

【課題】 150℃という高温下における優れた耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪を発揮することができ、リサイクルできるシール材を提供する。
【解決手段】 成分(A)(アクリルゴム)、成分(B)(熱可塑性ポリエステル樹脂)、成分(C)(オレフィン系共重合体セグメントと、ビニル系共重合体セグメントとからなるグラフト共重合体又はその前駆体)、場合によっては、成分(D)(可塑剤)、成分(E)(酸化防止剤、紫外線安定剤、加工助剤、着色剤、顔料)及び成分F(充填剤、難燃剤)からなる原料組成物を、成分(A)の100質量部当たり0.05〜5質量部の架橋剤を加えて動的架橋することによって得られる熱可塑性エラストマー組成物を用いて、熱可塑性ポリエステル樹脂の融点からアクリルゴムの分解開始温度までの温度範囲で成形したシール材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐油性、圧縮永久歪などの特性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を用いて成形したシール材に係り、特に自動車部品、工業部品などとして使用することができ、リサイクルすることのできるシール材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シール材としては、一般的なものから自動車部品として使用されるような耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪などの特性が必要とされるものまで、加硫ゴムが主体として用いられてきた。加硫ゴムを用いたシール材は、ゴム練り工程及び加硫工程が必要なため製造工程が煩雑であり、一度加硫したゴムは加熱による再成形を行うことができず、リサイクル性に乏しいといった欠点を有していた。近年、加硫ゴムに代わる材料として、加硫工程を必要とせず、成形加工性及びリサイクル性の点で熱可塑性樹脂と同様のレベルを有する熱可塑性エラストマーが自動車の内外装部品や電機分野で幅広く使用されるようになってきた。
【0003】
このような流れの中で、シール材に関しても熱可塑性エラストマーで代替しようとする試みがなされている。例えば、アクリル系ゴムと、オレフィン系共重合体セグメント及びビニル系共重合体セグメントからなるグラフト共重合体と、架橋剤と、共架橋剤とを溶融混練して得られるオレフィン系熱可塑性エラストマーを使用したシール材が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
また、アクリル酸エステルを主成分とする熱可塑性ポリマーと芳香族ポリエステルオリゴマーとのグラフト共重合体からなる熱可塑性エラストマーを用いて成形したシール材が知られている。(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−002651号公報(第20頁〜第23頁)
【特許文献2】特開平7−138556号公報(第5頁〜第7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載のシール材は、150℃という高温下では、グラフト共重合体が溶融するために耐熱性及び耐油性が不足する結果を招いていた。
一方、特許文献2に記載のシール材は、アクリル酸エステルを主成分とする熱可塑性ポリマーが架橋されていないため、耐油性や圧縮永久歪が不足していた。
したがって、現状では150℃という高温下においても優れた耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪を有する熱可塑性エラストマーで形成されたシール材は開示されていない。そこで、本発明の目的は、150℃という高温下で優れた耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪を発揮することができるシール材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明における第1の発明のシール材は、下記に示す成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、成分(E)及び成分(F)からなる原料組成物を、成分(A)の100質量部当たり0.05〜5質量部の架橋剤を加えて動的架橋することによって得られる熱可塑性エラストマー組成物を用いて、熱可塑性ポリエステル樹脂の融点からアクリルゴムの分解開始温度までの温度範囲で成形することを特徴とする。
成分(A):アクリル酸エステルを主成分とし、エポキシ基含有単量体を0.5〜15質量%含む単量体混合物を共重合してなるアクリルゴムを、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中50〜85質量部。
成分(B):熱可塑性ポリエステル樹脂を、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中15〜50質量部。
成分(C):エチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系共重合体セグメントと、アクリル酸エステルを含むビニル系単量体混合物から形成されるビニル系共重合体セグメントとからなり、一方のセグメントが他方のセグメントにより形成されるマトリックス相中に分散相を形成しているグラフト共重合体又はその前駆体を、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部当たり1〜35質量部。
成分(D):可塑剤を成分(A)100質量部当たり60質量部以下。
成分(E):酸化防止剤、紫外線安定剤、加工助剤、着色剤及び顔料からなる群から選択される1種以上のその他添加剤を成分(A)100質量部当たり5質量部以下。
成分(F):充填剤及び難燃剤からなる群から選択される1種以上のその他添加剤を成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計100質量部当たり70質量部以下。
【0007】
第2の発明のシール材は、第1の発明において、前記成分(D)がトリメリット酸エステル類又はポリエステル類であることを特徴とする。
第3の発明のシール材の製造方法は、射出成形法、押出成形法又はプレス成形法により第1又は2の発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いて成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明のシール材は、熱可塑性エラストマー組成物から形成されたシール材は、150℃という高温下で優れた耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪を発揮することができる。使用後に回収して、再度形成用の原料とすること、すなわちリサイクルできる。
【0009】
第2の発明のシール材では、可塑剤が耐熱性を示すと同時に、良好な可塑化効果を発現することができる。従って、第1の発明のいずれの効果を発揮でき、特に耐熱性が優れている。
【0010】
第3の発明のシール材の製造方法では、製造工程が簡単であり、かつ第1の発明の効果に加えて成形品の外観が優れるシール材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態のシール材は、下記に示す成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含有する原料組成物を、成分(A)の100質量部当たり0.05〜5質量部の架橋剤で動的架橋することによって得られる熱可塑性エラストマー組成物から成形されるものである。ここで、シール材とは、パッキン、ガスケットに代表される気密性が必要とされる軟質ゴム材料のことである。
成分(A):アクリル酸エステルを主成分とし、エポキシ基含有単量体を0.5〜15質量%含む単量体混合物を共重合してなるアクリルゴムを、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中50〜85質量部。
成分(B):熱可塑性ポリエステル樹脂を、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中15〜50質量部。
成分(C):エチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系共重合体セグメントと、アクリル酸エステルを含むビニル系単量体混合物から形成されるビニル系共重合体セグメントとからなり、一方のセグメントが他方のセグメントにより形成されるマトリックス相中に分散相を形成しているグラフト共重合体又はその前駆体を、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部当たり1〜35質量部。
成分(D):可塑剤を成分(A)100質量部当たり60質量部以下。
【0012】
次に、これらの各成分について順に説明する。
〔成分(A)アクリルゴム〕
アクリルゴムは、熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られるシール材について柔軟性、耐熱性及び耐油性を発揮させるための成分である。係るアクリルゴムは、アクリル酸エステルを主成分とし、エポキシ基含有単量体が0.5〜15質量%含まれる単量体混合物を共重合して得られるものである。
アクリルゴムを構成する主成分であるアクリル酸エステルとしては、アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシエステルが好ましく、これらの1種又は2種以上が適宜選択して使用される。
【0013】
アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル等が挙げられる。これらの中で、優れた柔軟性と耐油性を発揮できるという点で、アルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルキルエステルが特に好ましい。
【0014】
アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−2−エトキシエチル、アクリル酸−2−ブトキシエチル等が挙げられる。これらの中で、優れた耐油性を発揮できるという点で、アルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルコキシアルキルエステルが好ましく、アクリル酸−2−メトキシエチルが特に好ましい。
【0015】
アクリルゴム中に含まれるアクリル酸エステルの含有量は、85〜99.5質量%であることが好ましい。この含有量が85質量%未満の場合には、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性が低下し、良好な外観を有するシール材を得ることができなり、アクリル酸エステルの含有量が99.5質量%を超える場合にはアクリルゴムの架橋が十分に行われなくなり、シール材の圧縮永久歪が劣る傾向にある。
【0016】
エポキシ基含有単量体とは、分子内にエポキシ基を有するビニル系単量体を意味する。このエポキシ基含有単量体としては、一般的なエポキシ基含有単量体は全て使用することができる。その例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。好ましいエポキシ基含有単量体は、(メタ)アクリル酸グリシジルである。なお、本明細書ではアクリルとメタクリルを(メタ)アクリルと総称する。アクリルゴム中に共重合されるエポキシ基含有単量体の含有量は0.5〜15質量%であり、好ましくは1〜10質量%である。エポキシ基含有単量体の含有量が0.5質量%未満の場合にはアクリルゴムの架橋が十分に行われず、熱可塑性エラストマー組成物より得られるシール材の圧縮永久歪が劣り、15質量%を超える場合にはアクリルゴムが過度に架橋されるため、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性が低下し、良好な外観を有するシール材を得ることができない。
【0017】
また、柔軟性、成形加工性、耐油性等の物性を向上させる目的で、単量体混合物にその他の共重合性単量体を配合して共重合させることができる。そのような共重合性単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸−2−メトキシエチル、メタクリル酸−2−エトキシエチル等のメタクリル酸アルコキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有単量体;2−クロロエチルビニルエーテル、モノクロロ酢酸ビニル、アリルクロロアセテート等の活性塩素含有単量体;(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル等のフッ素系(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル;アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のビニルアミド;エチレン、プロピレン、イソブテン等のα−オレフィン類;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類;二官能性(メタ)アクリレート類、三官能性(メタ)アクリレート類及び酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。
【0018】
これらの共重合性単量体の単量体混合物中における含有量は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。この含有量が40質量%を超える場合、アクリルゴムの耐熱性、耐油性、成形加工性、低温特性等の物性のバランスを損なうおそれがある。
【0019】
成分(A)アクリルゴムのガラス転移温度(Tg)は好ましくは−15℃以下、さらに好ましくは−20℃以下である。Tgが−15℃よりも高いと、熱可塑性エラストマー組成物の脆化温度が高くなるため、熱可塑性エラストマー組成物より形成したシール材が実用的な使用に耐えることができなくなる場合がある。
熱可塑性エラストマー組成物中に含まれる成分(A)アクリルゴムの含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部中50〜85質量部、好ましくは60〜75質量部であることが、圧縮永久歪と成形加工性のバランスに優れるために必要である。アクリルゴムの含有量が50質量部未満の場合、熱可塑性エラストマー組成物から形成されるシール材の圧縮永久歪が劣り、85質量部を超える場合、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性が損なわれるため不適当である。
【0020】
〔成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂〕
成分(B)の熱可塑性ポリエステル樹脂は、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性を向上させ、成形したシール材の耐熱性及び耐油性を発揮させるための成分である。係る熱可塑性ポリエステル樹脂は、主鎖中にエステル結合を持つ全ての熱可塑性飽和ポリエステル樹脂が含まれる。熱可塑性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジヒドロキシ(ジオール)との重縮合や、オキシカルボン酸の重縮合や、ジカルボン酸、ジヒドロキシ(ジオール)及びオキシカルボン酸の重縮合等の公知の方法により得ることができ、ホモポリエステル、コポリエステルのいずれであってもよい。熱可塑性ポリエステル樹脂は、これらの1種又は2種以上が適宜組み合わせて使用される。
【0021】
熱可塑性ポリエステル樹脂は非結晶性であってもよいが、結晶性である方が耐油性に優れるという点から好ましい。また、融点が100℃以上であることが好ましく、さらに160〜280℃の間にあることが高温下での耐熱性と耐油性に優れるという点で最も好ましい。熱可塑性ポリエステル樹脂の好ましい例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びポリブチレンナフタレートが挙げられる。
【0022】
熱可塑性エラストマー組成物中に含まれる成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部中15〜50質量部、好ましくは25〜40質量部であることが、圧縮永久歪と成形加工性のバランスに優れるために必要である。熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量が15質量部未満の場合、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性が損なわれ、50質量部を超える場合、熱可塑性エラストマー組成物から得られるシール材の圧縮永久歪が損なわれるため不適当である。
【0023】
〔成分(C)グラフト共重合体〕
成分(C)グラフト共重合体は、前記成分(A)アクリルゴムと成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂とに相溶性(親和性)を示し、成分(A)の機能と成分(B)の機能とを十分に発揮させると共に、相乗的作用を発現させるための成分である。このグラフト共重合体により、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性を維持しながら、良好な成形加工性を付与することができる。係るグラフト共重合体は、エチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体セグメントと、アクリル酸エステルを含むビニル系単量体混合物から形成されるビニル系共重合体セグメントからなり、一方のセグメントが他方のセグメントにより形成されるマトリックス相中に分散相を形成しているグラフト共重合体である。
【0024】
オレフィン系共重合体セグメントは、エチレン及び極性単量体から形成されるものであり、その具体例としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸−n−ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ジメチルアミノメチル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレンオキサイド付加物、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体又はエチレン−メタクリル酸共重合体の分子間をナトリウム、亜鉛等の金属イオンで分子間結合したアイオノマー等が挙げられる。
【0025】
オレフィン系共重合体セグメントにおける極性単量体の割合は、エチレンと極性単量体の合計100質量部中10〜50質量部が好ましく、15〜40質量部がより好ましい。極性単量体の割合が10質量部未満の場合には、グラフト共重合体は硬度が高く、耐油性が低いため、熱可塑性エラストマー組成物から得られるシール材の柔軟性や耐油性を損なう場合がある。一方、極性単量体が50質量部を超える場合には、グラフト共重合体は、柔軟で耐油性に優れるという反面、機械的強度に劣るため、熱可塑性エラストマー組成物から得られるシール材の引張強度、伸び等の機械的物性低下する。
【0026】
ビニル系共重合体セグメントは、アクリル酸エステルを含むビニル系単量体混合物から形成される。ビニル系共重合体セグメントは、成分(A)アクリルゴムと相溶することによって、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性及びシール材の外観を向上させ、さらにシール材の機械的物性を向上させることができる。
【0027】
ビニル系共重合体セグメントに含まれるアクリル酸エステルとしては、アクリルゴムとの相溶性に優れるという点でアクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル等が挙げられる。これらの中で、耐油性と成分(A)アクリルゴムとの相溶性の点で特に好ましいのは、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル等のアルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルキルエステルである。
【0028】
ビニル系共重合体セグメント100質量部中に含まれるアクリル酸エステルは20〜100質量部であることが好ましく、30〜100質量部以上であることがより好ましい。アクリル酸エステルが20質量部未満の場合、グラフト共重合体とアクリルゴムとの相溶性が十分に得られないため、熱可塑性エラストマー組成物から形成されるシール材について機械的強度の低下や外観の悪化が起こり、好ましくない。
【0029】
ビニル系共重合体セグメントはアクリル酸エステルに加えて、1種又は2種以上のビニル系単量体を共重合させて形成することができる。共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシエステル;(メタ)アクリル酸グリシジル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有単量体;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有単量体;スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルスチレン等の芳香族ビニル化合物;α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のα−置換スチレン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル等が挙げられる。これらのビニル系単量体は、ビニル系共重合体セグメント100質量部中に好ましくは0〜80質量部、より好ましくは0〜70質量部である。
【0030】
ビニル系共重合体セグメントとなるビニル系共重合体の数平均重合度は、通常5〜10,000、好ましくは10〜5,000、最も好ましくは100〜2,000である。この数平均重合度が5未満であると、熱可塑性エラストマー組成物の成形性を向上させることは可能であるが、耐熱性および耐油性が低下したり、成分(A)アクリルゴムとの相溶性が低下し、熱可塑性エラストマー組成物から成形したシール材の外観が悪化する傾向にある。一方、数平均重合度が10,000を超えると、溶融粘度が高くなり、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性が低下する。
【0031】
グラフト共重合体100質量部中に含まれるオレフィン系共重合体セグメントの含有量は、通常5〜95質量部、好ましくは20〜90質量部、最も好ましくは30〜85質量部である。従って、ビニル系共重合体セグメントの割合は、グラフト共重合体からオレフィン系共重合体セグメントを除いた残部であり、通常5〜95質量部、好ましくは10〜80質量部、最も好ましくは15〜70質量部である。オレフィン系共重合体セグメントの割合が5質量部未満又はビニル系共重合体セグメントの割合が95質量部を超える場合には、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性が不十分となる。その一方、オレフィン系共重合体セグメントの割合が95質量部を超える場合又はビニル系共重合体セグメントの割合が5質量部未満の場合には、成分(A)アクリルゴムとの相溶性が低くなり、熱可塑性エラストマー組成物から得られるシール材について機械的物性や外観が悪化する傾向にある。
【0032】
前述のように、グラフト共重合体は、一方のセグメントが他方のセグメントにより形成されているマトリックス相中に分散相を形成している多層構造体である。一方のセグメントは他方のセグメント中に平均粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として分散相を形成しているものである。分散相の平均粒子径が0.001μm未満の場合及び10μmを超える場合のいずれも、成分(C)グラフト共重合体と成分(A)アクリルゴムとの相溶性が低くなり、熱可塑性エラストマー組成物から得られるシール材について機械的物性や外観が悪化する傾向を示す。
【0033】
グラフト共重合体を製造する際のグラフト化法は、一般に知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法等いずれの方法でもよいが、下記に示す方法が最も好ましい。その理由は、製造方法が簡便で、グラフト効率が高く、熱によるビニル系共重合体セグメントの二次的凝集がないために、成分(C)グラフト共重合体を成分(A)アクリルゴムや成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂と混合しやすいからである。
以下に、そのようなグラフト共重合体の製造方法を説明する。水中に懸濁させたエチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系共重合体に、アクリル酸エステルを含むビニル系単量体混合物、下記の一般式(1)又は(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物の1種又は2種以上の混合物及びラジカル重合開始剤を含浸させる。その後、ビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物とをエチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系共重合体中で共重合させて、グラフト化前駆体を得る。
【0034】
グラフト化前駆体は、エチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系共重合体粒子中に、アクリル酸エステルを含むビニル系単量体混合物とラジカル重合性有機化酸化物とのビニル系共重合体が分散された構造体である。グラフト化前駆体は、その中に分散されているビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物の共重合体が、活性酸素量として0.003〜0.73質量%を含有していることが好ましい。活性酸素量が0.003質量%未満の場合、グラフト化前駆体のグラフト化能が極度に低下して好ましくない。一方、0.73質量%を超える場合、グラフト化の際にゲルの生成が多くなるため好ましくない。なお、この場合の活性酸素量は、グラフト化前駆体から溶剤抽出によりビニル系共重合体を抽出し、このビニル系共重合体の活性酸素量をヨードメトリー法により求めることができる。
【0035】
前記ラジカル重合性有機過酸化物とは、エチレン性不飽和基と過酸化結合基とを有する単量体である。好ましくは下記一般式(1)又は(2)で示される化合物である。
【0036】
【化1】

【0037】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1又は2のアルキル基、Rは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。mは1又は2である。)
【0038】
【化2】

【0039】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、Rは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、R10は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。nは0、1又は2である。)
【0040】
一般式(1)で表されるラジカル重合性有機過酸化物としては、例えばtert−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−アミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、tert−アミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート等が挙げられる。
【0041】
一般式(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物としては、例えばtert−ブチルペルオキシアリルカーボネート、tert−アミルペルオキシアリルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシアリルカーボネート、tert−ブチルペルオキシメタリルカーボネート、tert−アミルペルオキシメタリルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシメタリルカーボネート等が挙げられる。これらの中でも好ましくは、tert−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ブチルペルオキシアリルカーボネート又はtert−ブチルペルオキシメタリルカーボネートである。
【0042】
成分(C)グラフト共重合体は、グラフト化前駆体を加熱下に溶融混練することにより得ることができる。溶融混練中の加熱により、ビニル系共重合体中の過酸化結合が開裂し、生成したラジカルがオレフィン系共重合体に対して水素引き抜き反応を行い、それに引き続くグラフト化反応によりグラフト共重合体が製造される。溶融混練する際の混練機としては、具体的には、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、加圧ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、ロール等が使用される。混練温度は通常100〜300℃、好ましくは120〜280℃の範囲である。混練温度が100℃未満の場合、溶融が不完全であったり、溶融粘度が高過ぎるため、混合が不十分となって、グラフト共重合体の相分離や層状剥離が現れるため好ましくない。一方、300℃を超える場合、グラフト化時に分解又はゲル化が起こり易くなるため好ましくない。
【0043】
このようにして得られる成分(C)グラフト共重合体は、そのオレフィン系共重合体セグメントが成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂に配向し(相溶性を示し)、ビニル系共重合体セグメントが成分(A)アクリルゴムに配向する(相溶性を示す)ものと考えられる。そして、熱可塑性エラストマー組成物中において、成分(A)と成分(B)とが成分(C)によって相溶化され、成分(A)及び成分(B)の機能が相乗的に発揮されるものと推測される。
【0044】
熱可塑性エラストマー組成物中に含まれる成分(C)グラフト共重合体の含有量は、成分(A)アクリルゴムと成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂の合計100質量部当たり1〜35質量部、好ましくは2〜25質量部である。グラフト共重合体の含有量が1質量部未満の場合、成形加工性の改良効果が不足し、成形されたシール材の外観が劣り、35質量部よりも多い場合、熱可塑性エラストマー組成物から得られるシール材の耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪が損なわれる。
【0045】
〔成分(D)可塑剤〕
熱可塑性エラストマー組成物には、シール材の柔軟性を得るために可塑剤が配合される。該可塑剤としては、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、アゼライン酸エステル類、セバシン酸エステル類、リン酸エステル類、トリメリット酸エステル類又はポリエステル類或いはそれらの混合物が用いられる。可塑剤を含ませることによる具体的な利点は、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性、シール材の柔軟性、耐油性及び耐寒性が向上する点にある。一方で、可塑剤の耐熱性が低い場合や揮発性が高い場合には熱可塑性エラストマー組成物に悪影響を及ぼす場合がある。すなわち、可塑剤の分解による熱可塑性エラストマー組成物の劣化や可塑剤の揮発による熱可塑性エラストマー組成物の硬化や収縮などである。このような熱可塑性エラストマー組成物の劣化、硬化及び収縮が起こる場合、成形したシール材に亀裂が発生したり、シール性が低下するといった問題が発生し、結果としてシール材としての耐熱性が低下する。
従って、熱可塑性エラストマー組成物に配合される可塑剤としては、耐熱性が高く、揮発性の低いものが好ましい。
【0046】
そのような好ましい可塑剤としては、トリメリット酸エステル類又はポリエステル類が挙げられる。トリメリット酸エステル類としては、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリ−n−オクチル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸トリイソデシル等が挙げられる。ポリエステル類としては、アジピン酸ポリエステル、セバシン酸ポリエステル、トリメリット酸ポリエステル、ピロメリット酸ポリエステル、ポリエーテルエステル、ポリエーテルポリエステル等が挙げられる。これらの可塑剤は、1種又は2種以上を組合せて使用することができる。
可塑剤の配合量は、成分(A)アクリルゴム100質量部当たり60質量部以下であり、5〜50質量部であることが好ましい。可塑剤の配合量が60質量部を超える場合、可塑剤のブリードアウトが起こったり、熱可塑性エラストマー組成物から得られるシール材の機械的強度の低下が大きくなる。
【0047】
〔成分(E)酸化防止剤、紫外線安定剤、加工助剤、着色剤、顔料〕
熱可塑性エラストマー組成物中には、上記の成分以外に酸化防止剤、紫外線安定剤、加工助剤、着色剤及び顔料からなる群から選択される1種以上のその他添加剤を成分(A)100質量部当たり5質量部以下で適宜配合する。そのような添加剤として例えば、フェノール系、アミン系等の酸化防止剤、ヒンダードアミンのような紫外線安定剤、ステアリン酸等の加工助剤、二酸化チタンのような着色剤及び顔料が挙げられる。
【0048】
〔成分(F)充填剤、難燃剤〕
また、熱可塑性エラストマー組成物中には、さらに充填剤(補強剤)及び難燃剤からなる群から選択される1種以上のその他添加剤を成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計100質量部当たり70質量部以下で適宜配合する。そのような添加剤として例えば、カーボンブラック、ホワイトカーボン、クレー、タルクのような充填剤(補強剤)、水酸化マグネシウム等の難燃剤等を挙げることができる。
【0049】
〔架橋剤〕
熱可塑性エラストマー組成物に架橋構造を形成するために用いられる架橋剤は、アクリルゴムのエポキシ基と共有結合することによりアクリルゴムを架橋する機能を有する。係る架橋剤としては、ポリアミン、ポリオール、ポリカルボン酸、酸無水物、有機カルボン酸アンモニウム塩、ジチオカルバミン酸塩等を挙げることができ、この中で特に好ましい架橋剤はポリカルボン酸又は酸無水物である。
【0050】
ポリカルボン酸の具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロペンタントリカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸、フタル酸、トリメット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。酸無水物の具体例としては、これらのポリカルボン酸の酸無水物が挙げられる。
【0051】
架橋剤の使用量は、選択する架橋剤の種類によって異なるが、成分(A)アクリルゴム100質量部に対して0.05〜5質量部、好ましくは0.1〜2質量部の範囲で設定される。架橋剤量の使用量が0.05質量部未満の場合には、架橋が不足し、熱可塑性エラストマー組成物から得られるシール材が耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪に欠ける結果を招く。その一方、5質量部を超える場合には、熱可塑性エラストマー組成物が過度に架橋されるため、良好な成形加工性や外観の良好なシール材が得られない。
【0052】
〔熱可塑性エラストマー組成物〕
熱可塑性エラストマー組成物は、前記各成分を含有する原料組成物について架橋剤で動的架橋を行うことによって製造される。ここで動的架橋は、成分(A)アクリルゴム、成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂、成分(C)グラフト共重合体及び成分(D)可塑剤を熱可塑性ポリエステル樹脂の融点より高い温度で溶融混練し、混練中に高剪断の下でアクリルゴムのエポキシ基を架橋させることを意味する。
動的架橋を行う装置としては、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、加圧ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、ロール等を使用することができる。
通常、こうして動的に架橋されたアクリルゴムは、熱可塑性ポリエステル樹脂のマトリックス相中に微分散される。このような相構造(海島構造)を形成することにより、アクリルゴムが架橋されているにも係わらず、エラストマー組成物は熱可塑性を示すことができる。
従って、熱可塑性エラストマー組成物は、押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法等のような従来の熱可塑性樹脂の成形方法(加工技術)及び成形装置により加工及びその加工後の再加工を行うことができる。
【0053】
熱可塑性エラストマー組成物を製造する際には、グラフト共重合体ではなく、グラフト化前駆体を使用して行うこともできる。なぜならば、グラフト化前駆体は熱可塑性エラストマー組成物を製造する過程の溶融混練によってグラフト化反応を起こし、グラフト共重合体となるからである。つまり、グラフト化前駆体を使用することによって、グラフト化反応工程と動的架橋工程を同時に行うことができるのである。このようにグラフト化前駆体を使用して熱可塑性エラストマー組成物を製造する方法は、製造工程の簡略化という面から好ましい。
【0054】
前記架橋反応は溶融混練中に架橋剤が配合されていることによって進行する。架橋剤は、成分(A)アクリルゴム、成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂、成分(C)グラフト共重合体又はグラフト化前駆体及び成分(D)可塑剤とともに混練機へ同時に投入ないし適当な添加手順で添加して動的架橋を行うことができる。多くの場合、アクリルゴム、熱可塑性ポリエステル樹脂、グラフト共重合体又はグラフト化前駆体及び可塑剤を混練機に投入し、十分に溶融、混練を行った後に架橋剤を投入して動的架橋を行う方が有効である。但し、反応速度の遅い架橋剤又は遅効性架橋剤を使用するような場合には、アクリルゴム、熱可塑性ポリエステル樹脂及びグラフト共重合体が十分に溶融、混練される前に架橋剤を添加することができる。
【0055】
一般的に、種々の添加剤は、架橋剤を添加する前に原料組成物中に十分に混合(ブレンド)されていることが好ましい。それは、架橋反応の途中や反応が終了した後に種々の添加剤を添加しても、原料組成物中に十分に分散されない場合が多いからである。従って、種々のその他の添加剤は架橋反応が始まる前、即ち、混練の最初又は極力早い段階から添加し、原料組成物中に十分に混合された後に架橋剤を添加する方法が好ましい。溶融、混合及び動的架橋を行う温度としては、熱可塑性ポリエステル樹脂の融点からアクリルゴムの分解開始温度に相当する100〜350℃の範囲が適当である。この温度はより好ましくは150〜300℃であり、特に好ましくは180〜280℃である。
【0056】
〔シール材〕
本実施形態のシール材は前記熱可塑性エラストマー組成物を一定の温度条件下で成形して得られる。シール材を得るための成形法としては、射出成形法、押出成形法又はプレス成形法が採用され、各成形法で常法に従って成形することができる。成形はシール材の形状となるように直接行ってもよいし、シート状に成形後打ち抜いて最終形状のシール材に加工してもよい。
【0057】
シール材の成形を行う温度としては、成形方法に係わらず、熱可塑性ポリエステル樹脂の融点からアクリルゴムの分解開始温度までの温度範囲が好ましい。この温度範囲に相当する100〜350℃の範囲が適当である。この温度はより好ましくは150〜300℃であり、特に好ましくは180〜280℃である。このようにして得られるシール材は、使用後に回収して再度成形用の原料とすることができ、すなわちリサイクルすることができる。
【0058】
本実施形態のシール材としては、O−リング、各リング、ガスケット等の静的シールやオイルシール、メカニカルシール、グランドパッキン等の運動シールとして使用することができる。これらのシール材のうち、特に耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪が要求される自動車部品や工業部品などとして用いられることが好ましい。
なぜなら熱可塑性エラストマー組成物は、例えば150〜180℃、1000時間という厳しい耐熱性及び耐油性試験において優れた耐性を示し、150℃における圧縮永久歪が優れているからである。
【0059】
自動車用のシール材の使用例としては、ドアシール、ダストシール、トランクリッドシール、フードシール、ウインドウシール、クランクシャフトシール、バルブステムシール、ミッションオイルシール、パワーステアリングオイルシール、エアコンディショニングシール、ロッカーカバーガスケット、オイルフィルターシールリング、オイルパンパッキン、ヘッドカバーパッキン、シリンダーライナーパッキン等を挙げることができる。
【0060】
さて、本実施形態の作用及び効果について以下にまとめて説明する。
・熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)のアクリルゴム、成分(B)の熱可塑性ポリエステル樹脂、成分(C)のグラフト共重合体及び成分(D)の可塑剤からなる原料組成物を、架橋剤により動的架橋することによって調製される。得られる熱可塑性エラストマー組成物は、成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂がマトリックスとなり、そのマトリックス中に成分(A)のアクリルゴムが細かく分散された構造をなしている。
【0061】
さらに、成分(C)グラフト共重合体が成分(A)と成分(B)とに相溶(親和)するように存在しており、各成分がその状態で安定して保持されている。従って、成分(A)の機能と成分(B)の機能とがそれぞれ十分に発現され、しかも相乗作用によりそれらの効果が高められるものと推測される。熱可塑性エラストマー組成物から得られたシール材は150℃以上の高温(例えば150〜180℃)下における優れた耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪を発揮することができる。またアクリルゴムが架橋されているにも関わらず、エラストマー組成物は熱可塑性を有するために優れた成形加工性や柔軟性を有している。
【0062】
・前記成分(D)可塑剤が、トリメリット酸エステル類又はポリエステル類であることにより、これらの可塑剤が耐熱性を示すと同時に、良好な可塑化効果を発現することができる。従って、シール材の耐熱性を維持したまま、さらに成形加工性、柔軟性及び耐油性を向上させることができる。
【0063】
・以上のシール材は、自動車用のシール材に好適に用いることができ、それらの用途において前述の効果を発揮することができる。
・加えて、該シール材を加熱することにより、マトリックスを構成する成分(B)の熱可塑性ポリエステル樹脂が溶融し、再度成形が可能となり、リサイクル性を発揮することができる。例えば、熱可塑性エラストマー組成物を使用したシール材の製造工程で発生したスクラップや、使用後の製品を、従来の成形方法及び成形装置を用いて容易に再加工することができ、リサイクル性において優れている。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各実施例及び比較例で使用した材料の合成例を以下に示す。
〔合成例1、アクリルゴム(A−1)の製造〕
攪拌機、温度計、冷却器、滴下装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコにイオン交換水1000g、ドデシル硫酸ナトリウム10g、亜硫酸水素ナトリウム0.5g、硫酸第一鉄0.005g及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.01を仕込んだ後、窒素ガスを吹き込みながら撹拌下に30℃まで昇温させた。その後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム5gを添加し、そこへ、単量体混合物(アクリル酸エチル250g、アクリル酸−n−ブチル230g、メタクリル酸グリシジル(GMA)20g)500gを3時間かけて滴下した後、さらに3時間重合を行うことにより乳化液を得た。次に、この乳化液を0.5質量%塩化カルシウム水溶液に1時間かけて滴下することにより塩析を行った。そして十分に水洗した後、80℃で乾燥して、GMAを4質量%含むアクリルゴム(A−1)を得た。このアクリルゴム(A−1)のガラス転移温度(Tg)は−27℃であった。
【0065】
〔合成例2、アクリルゴム(A−2)の製造〕
単量体混合物の組成を、アクリル酸エチル250g、アクリル酸−n−ブチル100g、アクリル酸−2−メトキシエチル130g及びGMA20gに変更した以外は合成例1と同様にして、GMAを4質量%含むアクリルゴム(A−2)を製造した。このアクリルゴム(A−2)のTgは−25℃であった。
【0066】
〔合成例3、アクリルゴム(A−3)の製造〕
単量体混合物の組成を、アクリル酸エチル268.5g、アクリル酸−n−ブチル100g、アクリル酸−2−メトキシエチル130g及びGMA1.5gに変更した以外は合成例1と同様にして、GMAを0.3質量%含むアクリルゴム(A−3)を製造した。このアクリルゴム(A−3)のTgは−28℃であった。
【0067】
〔合成例4、アクリルゴム(A−4)の製造〕
単量体混合物の組成を、アクリル酸エチル190g、アクリル酸−n−ブチル100g、アクリル酸−2−メトキシエチル130g及びGMA80gに変更した以外は合成例1と同様にして、GMAを16質量%含むアクリルゴム(A−4)を製造した。このアクリルゴム(A−4)のTgは−21℃であった。
【0068】
〔合成例5、グラフト化前駆体(C−1)製造〕
容積5リットルのステンレス製オートクレーブに、純水2000g、懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。この中にエチレン−アクリル酸エチル共重合体(商品名:NUC6570、エチレン75質量部、アクリル酸エチル25質量部、日本ユニカー(株)製)700gを入れ、攪拌、分散させた。そこへ重合開始剤として、ベンゾイルペルオキシド(商品名:ナイパーBW、日本油脂(株)製)2g、tert−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート6g、及びビニル系単量体混合物(アクリル酸−n−ブチル150g、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル150g)300gからなる単量体混合物を前記オートクレーブ中に投入した。
【0069】
次いで、オートクレーブを60〜65℃に昇温し、2時間攪拌することにより、重合開始剤、ラジカル重合性有機過酸化物及びビニル系単量体をエチレン−酢酸ビニル共重合体中に含浸させた。次いで、80〜85℃に昇温し、その温度で6時間維持して重合を完結させた後、水洗、乾燥してグラフト化前駆体(C−1)を得た。このグラフト化前駆体(C−1)を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製)により観察したところ、平均粒子径0.3〜0.5μmの真球状樹脂が均一に分散された多層構造体であった。
【0070】
〔合成例6(グラフト共重合体(C−2)の製造)
ビニル系単量体混合物の組成を、アクリル酸−n−ブチル150g、メタクリル酸グリシジル100g及びスチレン50gに変更した以外は合成例5と同様にして、グラフト化前駆体を得た。得られたグラフト化前駆体は、平均粒子径0.3〜0.5μmの真球状樹脂が均一に分散された多層構造体であった。このグラフト化前駆体をラボプラストミル一軸押出機((株)東洋精機製作所)により180℃、回転数100rpmにて押出し、グラフト化反応をさせることによりグラフト共重合体(C−2)を得た。このグラフト共重合体は、平均粒子径0.3〜0.4μmの真球状樹脂が均一に分散された多層構造体であった。
【0071】
〔合成例7(グラフト化前駆体(C−3)の製造)
オレフィン系共重合体セグメントを、ポリエチレン(商品名:スミカセンG401、住友化学(株)製)に変更した以外は合成例5と同様にして、グラフト化前駆体を得た。得られたグラフト化前駆体は、平均粒子径0.3〜0.5μmの真球状樹脂が均一に分散された多層構造体であった。
【0072】
〔合成例8(グラフト化前駆体(C−4)の製造)
ビニル系単量体混合物の組成を、スチレン150g、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル150gに変更した以外は合成例5と同様にして、グラフト化前駆体を得た。得られたグラフト化前駆体は、平均粒子径0.5〜0.6μmの真球状樹脂が均一に分散された多層構造体であった。
【0073】
その他の材料として、以下に記載する市販品を使用した。
熱可塑性ポリエステル樹脂:ジュラネックス600JP(ポリブチレンテレフタレート、融点205℃、ウィンテックポリマー(株)製)、ジュラネックス2002(ポリブチレンテレフタレート、融点225℃、ウィンテックポリマー(株)製)
可塑剤:アデカザイザーC8(トリオクチルトリメリテート、旭電化工業(株)製)、ポリサイザーW−230−S(アジピン酸ポリエステル、大日本インキ化学工業(株)製)
架橋剤:リカシッドBT−W(ブタンテトラカルボン酸、新日本理化(株)製)
酸化防止剤:イルガノックス1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)、ノンフレックスDCD(アミン系酸化防止剤、精工化学(株)製)
【0074】
〔熱可塑性エラストマー組成物の評価〕
次に、熱可塑性エラストマー組成物の評価方法を以下に記載する。試験片は熱可塑性エラストマー組成物を240℃の加熱プレスによって厚さ2mmのシート状に成形し、各種評価に供した。各種試験方法及び条件を以下に記載する。なお、常態物性は、常温、常圧における物性を意味する。
【0075】
(引張試験)
JIS K 6251に準拠し、試験速度500mm/minにて引張強度(MPa)、100%応力(MPa)及び伸び(%)を測定した。
(硬さ)
JIS K 6253に準拠し、スプリング硬さ試験機A形によって硬さを測定した。
(圧縮永久歪)
JIS K 6262に準拠し、圧縮率25%にて150℃の温度下で22時間後の圧縮永久歪(%)を測定した。
(耐熱性)
JIS K 6257に準拠し、ギヤー式老化試験機中で150℃、1000時間放置した後の引張強度変化率(%)、伸び変化率(%)及び硬さ変化量(ポイント)を測定した。
(耐油性)
JIS K 6258に準拠し、IRM903オイルに150℃、1000時間浸漬した後の引張強度変化率(%)、伸び変化率(%)、硬さ変化量(ポイント)及び質量変化率(%)を測定した。
【0076】
〔実施例1〕
合成例1のアクリルゴムA−1を65質量部、ジュラネックス600JPを35質量部、合成例5のグラフト化前駆体体C−1を5質量部、アデカサイザーC8を23質量部、イルガノックス1010を0.5質量部及びノンフレックスDCDを1質量部の割合で250℃に加熱した加圧ニーダーに投入した。そして、回転数42rpmにて溶融混練を行った。全ての材料が溶融し、均一に混合されることによってトルクが一定値を示すまで混練した。トルクが一定になったところで、架橋剤としてリカシッドBT−W0.2質量部を投入し、混練を続けた。架橋剤を投入した直後からトルクが上昇する様子が観察され、トルクが一定値となったところで混練を終了した。
得られた熱可塑性エラストマー組成物をニーダーから排出し、ニーダールーダーに投入し、230℃でストランド状に押出し、冷却後カットして熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。これを用いて240℃の加熱プレスにてペレットから厚さ2mmのシール材シートに成形し、前記の各種評価を実施した。熱可塑性エラストマー組成物の配合及び評価結果を表1に示す。
また、前記シートから外径115mm、内径95mmの環状に打ち抜きシール材を得た。
【0077】
【表1】

【0078】
〔実施例2〜7〕
表1に示す配合割合で実施例1と同様の操作にて熱可塑性エラストマー組成物及びシール材を製造した。各成分の配合割合や各種評価を実施した結果を表1に示す。
【0079】
〔実施例8〕
実施例2で得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットから、射出成形機(日精樹脂工業(株))を用い成形温度260℃にて外径70mm、内径59mmのO−リングを成形した。得られたO−リングは柔軟で外観の優れたものであった。
【0080】
〔比較例1〜10〕
表2に示す配合割合で実施例1と同様の操作にて熱可塑性エラストマー組成物及びシール材を製造した。各成分の配合割合や各種評価を実施した結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
(まとめ)
表1に示したように、実施例1及び2では各種材料の配合割合によって硬さの異なるシール材を得ることができた。これらのシール材は150℃という高温下での優れた耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪を有していた。実施例3では、実施例1においてアクリルゴム及び可塑剤の種類を変えた結果、実施例1と同様に耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪はいずれも良好であった。実施例4では、実施例2においてアクリルゴム、熱可塑性ポリエステル樹脂及び可塑剤の種類を変えた結果、実施例2と同様に耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪はいずれも良好であった。
【0083】
実施例5では、実施例3においてグラフト共重合体の種類を変えた結果、実施例3と同様に耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪はいずれも良好であった。実施例6では、実施例3においてグラフト共重合体及び可塑剤の含有量を増加させた結果、実施例3と同様に耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪はいずれも良好であった。実施例7では、実施例3においてアクリルゴム、熱可塑性ポリエステル樹脂及び可塑剤の種類及び含有量を変えた結果、実施例3と同様に耐熱性、耐油性及び圧縮永久歪はいずれも良好であった。
【0084】
表2に示したように、アクリルゴム中のGMA量が単量体混合物中に0.3質量%という過少である場合(比較例1)には、引張強度及び圧縮永久歪が劣る結果であった。アクリルゴム中のGMA量が単量体混合物中に16質量%という過剰量である場合(比較例2)には、成形加工性が不良となり、評価用シール材シートがひび割れており、各種評価を行うことができなかった。
【0085】
アクリルゴムの配合量を過少にすると同時に、熱可塑性ポリエステル樹脂の配合量を過剰にした場合(比較例3)には、シール材としては使用不可能な領域にまで著しく硬度が高くなった。アクリルゴムの配合量を過剰にし、熱可塑性ポリエステル樹脂の配合量を過少にした場合(比較例4)には、比較例2と同様に成形加工性が劣っていた。グラフト化前駆体の配合量を過剰とした場合(比較例7)には、シール材の耐油性が低下した結果、耐油性試験中に試験片が崩壊した。
グラフト化前駆体のオレフィン系共重合体セグメントに極性単量体が含まれていない場合(比較例5)やビニル系共重合体セグメントにアクリル酸エステルが含まれていない場合(比較例6)、アクリルゴムと熱可塑性ポリエステルとの相溶性が低下し、シール材の引張強度、伸び及び圧縮永久歪が低下する結果となった。
【0086】
可塑剤の配合量を過剰とした場合(比較例8)には、熱可塑性エラストマー組成物中に可塑剤を保持できなくなり、可塑剤がブリードアウトした。架橋剤の配合量を過少とした場合(比較例9)には、架橋が不十分となっているため引張強度及び圧縮永久歪が劣っていた。架橋剤の配合量を過剰とした場合(比較例10)には、アクリルゴムの架橋が過度に進行し、成形加工性が不良となり評価用シール材シートが作製できなかった。
本発明によって得られるシール材は、高温(150℃)における耐熱老化性ならびに耐油性が優れているばかりでなく、高温における圧縮永久歪が良好であることは明白であり、特に自動車部品、工業部品などとして用いることができる。
【0087】
なお、本実施形態は、次のように変更して実施することも可能である。
・ 目的に応じて、成分(A)アクリルゴム、成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂及び成分(C)グラフト共重合体の各成分につき、それぞれ複数種類を適宜組合せて配合し、熱可塑性エラストマー組成物から形成されるシール材を調製することができる。
さらに、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
・ 前記架橋剤は、ポリカルボン酸又は酸無水物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシール材。このように構成した場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、シール材中のアクリルゴムの架橋機能を向上させることができる。
【0088】
・ 前記原料組成物には、酸化防止剤が含有されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシール材。このように構成した場合、シール材の酸化劣化を抑制することができ、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を向上させることができる。
・ 前記成分(A)アクリルゴムのアクリル酸アルキルエステルはアルキル基の炭素数が2〜4のものであり、アクリル酸アルコキシアルキルエステルはアルキル基の炭素数が2〜4のものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシール材。このように構成した場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、熱可塑性エラストマー組成物から形成されるシール材の柔軟性及び耐油性を向上させることができる。
【0089】
・ 前記成分(C)グラフト共重合体は、ビニル系共重合体セグメントを形成するアクリル酸アルキルエステルがアルキル基の炭素数2〜4のものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシール材。このように構成した場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、グラフト共重合体とアクリルゴムとの相溶性を高めることができると共に、熱可塑性エラストマー組成物から形成されるシール材の耐油性を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示す成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、成分(E)及び成分(F)からなる原料組成物を、成分(A)の100質量部当たり0.05〜5質量部の架橋剤を加えて動的架橋することによって得られる熱可塑性エラストマー組成物を用いて、熱可塑性ポリエステル樹脂の融点からアクリルゴムの分解開始温度までの温度範囲で成形したシール材。
成分(A):アクリル酸エステルを主成分とし、エポキシ基含有単量体を0.5〜15質量%含む単量体混合物を共重合してなるアクリルゴムを、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中50〜85質量部。
成分(B):熱可塑性ポリエステル樹脂を、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中15〜50質量部。
成分(C):エチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系共重合体セグメントと、アクリル酸エステルを含むビニル系単量体混合物から形成されるビニル系共重合体セグメントとからなり、一方のセグメントが他方のセグメントにより形成されるマトリックス相中に分散相を形成しているグラフト共重合体又はその前駆体を、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部当たり1〜35質量部。
成分(D):可塑剤を成分(A)100質量部当たり60質量部以下。
成分(E):酸化防止剤、紫外線安定剤、加工助剤、着色剤及び顔料からなる群から選択される1種以上のその他添加剤を成分(A)100質量部当たり5質量部以下。
成分(F):充填剤及び難燃剤からなる群から選択される1種以上のその他添加剤を成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計100質量部当たり70質量部以下。
【請求項2】
前記成分(D)がトリメリット酸エステル類又はポリエステル類であることを特徴とする請求項1に記載のシール材。
【請求項3】
射出成形法、押出成形法又はプレス成形法により請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いて成形することを特徴とするシール材の製造方法。

【公開番号】特開2008−37933(P2008−37933A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211261(P2006−211261)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】