説明

シール構造

【課題】少なくとも2つの部材の結合面に、塗布後に弾性を有する状態で固まる性質のペースト状ガスケットが介在されてシールされるシール構造において、前記少なくとも2つの部材を再結合する際の作業を、プラズマ処理装置を用いることなく、簡単に行えるようにする。
【解決手段】ペースト状ガスケット20の内部に、少なくとも2つの部材2,6を結合後に分離するときに凝集破壊の起点となる部材21が埋め込まれている。これにより、分離時にペースト状ガスケット20が埋め込み部材21を境として凝集破壊されて、界面剥離せずに済む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの部材の結合面に、塗布後に弾性を有する状態で固まる性質のペースト状ガスケットが介在されてシールされるシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車等の車両に搭載される内燃機関(エンジン)では、シリンダブロック等にタイミングチェーンカバー、オイルパン等を結合する場合、前記2つの部材の結合面にシールを介在させるようにしている。
【0003】
このシールとしては、例えばFIPG(Formed In Place Gasket)と呼ばれるペースト状ガスケットが用いられる(例えば特許文献1〜3参照。)。
【0004】
この種のペースト状ガスケットは、塗布された後で、適度の弾性や粘性を有する状態で固まるものである。
【0005】
特許文献1に係る従来例では、金属材料からなる部材どうしの結合面に液状のシール材を塗布する場合に、前記シール材にゴム粒子を分散混入させることで、金属どうしの接触を防止させるようにしている。
【0006】
特許文献2に係る従来例には、2つの部材の結合面に介在される液状ガスケットをシート状に形成しておいて、その両面に保護シートを設けるようにすることが開示されている。
【0007】
この特許文献2に係る従来例では、液状ガスケットを使用するまでに使用場所に適した形状に成形しておいて、使用時に保護シートを剥がして使用場所に接着させるようにしている。つまり、特許文献2に係る従来例では、その段落番号0018に示されているように、液状ガスケットを使用するまでの間で揮発性溶剤が揮発して硬化してしまうことを防止するために、保護シートを用いるようにしている。したがって、保護シートは、2つの部材を結合した後、結合面間に存在していない。
【0008】
特許文献3に係る従来例では、2つの部材の結合面間に介在される接着剤の内部または表面に、メッシュ状導電性シートあるいはメッシュ状補強性シートを設けるようにしている。
【0009】
つまり、特許文献3に係る従来例は、2つの部材間で導電性を持たせること、あるいは接着剤の機械的強度を高めさせることを目的として、接着剤の内部もしくは表面にメッシュ状導電性シートあるいはメッシュ状補強性シートを用いるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−19345号公報
【特許文献2】特開2003−269614号公報
【特許文献3】特開2005−187686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜3に係る従来例は、いずれも、2つの部材の結合面に、形の崩れにくい液状のシール材を介在することが開示されているものの、2つの部材を結合する際の課題を解決するための発明であって、2つの部材を分離して再結合する際の課題を解決するための発明ではない。
【0012】
特に、特許文献3に係る従来例は、2つの部材の結合面に介在する接着剤の内部または表面に導電性を持たせるためのメッシュ状導電性シートあるいは機械的強度を高めるためのメッシュ状補強性シートを設けることが記載されているが、次のような不具合が発生するおそれがある。
【0013】
つまり、例えば樹脂材料からなる部材と金属材料からなる部材とを結合する場合には、前記樹脂材料からなる部材に対する接着剤の接着力が弱いために、仮に前記2つの部材を結合後に分離するときには、接着剤が樹脂材料からなる部材から界面剥離するようになる。そのため、再結合するときには、前記樹脂材料からなる部材の結合面に新たな接着剤を塗布する必要があり、それらの接着力が弱いために結合過程において、樹脂材料からなる部材の取り扱い姿勢によっては接着剤が結合面から垂れ落ちるおそれがある等、作業性が悪くなることが懸念される。
【0014】
このような事情に鑑み、本発明は、少なくとも2つの部材の結合面に、塗布後に弾性を有する状態で固まる性質のペースト状ガスケットが介在されてシールされるシール構造において、前記少なくとも2つの部材を再結合する際の作業を、プラズマ処理装置を用いることなく、簡単に行えるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、少なくとも2つの部材の結合面に、塗布後に弾性を有する状態で固まる性質のペースト状ガスケットが介在されてシールされるシール構造であって、前記ペースト状ガスケットの内部に、前記少なくとも2つの部材を結合後に分離するときに凝集破壊の起点となる部材が埋め込まれている、ことを特徴としている。
【0016】
この構成によれば、前記少なくとも2つの部材を結合した後で分離すると、既に固まっているペースト状ガスケットが前記埋め込み部材を境として凝集破壊されることになって、界面剥離を起こしにくくなる。
【0017】
これにより、前記分離される2つの部材の結合面にそれぞれペースト状ガスケットが残留付着される状態になるとともに、片方の部材に残留付着しているペースト状ガスケットの外面に前記埋め込み部材が残留保持された状態になる。
【0018】
そのため、前記2つの部材を再結合する際には、例えば片方の部材側に残留保持されている埋め込み部材の外面に、新たなペースト状ガスケットを塗布すれば、この新たに塗布したペースト状ガスケットが残り片方の部材の結合面に残留付着しているペースト状ガスケットに接着されることになって、すべてのペースト状ガスケットが一体化されることになる。
【0019】
好ましくは、前記少なくとも2つの部材のうちの少なくとも一方部材が、その結合面に官能基が存在する密度の少ない材料で形成され、前記ペースト状ガスケットは、前記一方部材の結合面にプラズマ処理が施されてから塗布される1層目のペースト状ガスケットと、この1層目のペースト状ガスケットの上に貼り付けられる前記埋め込み部材と、この埋め込み部材の上に塗布される2層目のペースト状ガスケットとを含む積層構造とされる。
【0020】
なお、結合面に官能基の存在する密度が少ない材料とは、例えば樹脂材料あるいはマグネシウム合金等が挙げられる。これら樹脂材料やマグネシウム合金等は、一般的に公知のように、表面に官能基が存在する密度が少ない。
【0021】
このような樹脂材料やマグネシウム合金等に対して、前記のペースト状ガスケットの接着力が弱いことが知られている。
【0022】
そのため、前記のような材料の組み合わせとする場合には、ペースト状ガスケットの塗布直前に、前記一方部材の結合面にプラズマ処理を施すと、ペースト状ガスケットの接着力が高まる。
【0023】
というのは、前記の素材にプラズマ処理を施すと、前記素材の表面の酸化膜が除去されて、当該表面が粗くなるとともに、当該表面に多数の官能基が付加される。これにより、樹脂材料やマグネシウム合金等の表面積が増したうえに、表面に官能基が存在する密度が高くなるから、その樹脂材料やマグネシウム合金等にペースト状ガスケットを塗布すると、前記樹脂材料やマグネシウム合金等の官能基とペースト状ガスケットの官能基との結合の密度が高くなって、ペースト状ガスケットの接着力が高まる結果となる。
【0024】
このことから、ペースト状ガスケットの塗布後に2つの部材を結合する過程において、樹脂材料やマグネシウム合金等からなる部材の取り扱い姿勢に関係なく、その部材からペースト状ガスケットが垂れ落ちる心配がない。そのため、結合作業が容易に行えるようになる。また、樹脂材料やマグネシウム合金を材料とする部材とそれの結合相手部材との結合面に介在されるペースト状ガスケットによる密封性が良好となる。
【0025】
そして、このような場合、2つの部材を一旦結合した後で分離するときには、既に固まっているペースト状ガスケットがその内部の埋め込み部材を境として凝集破壊されやすくなる。つまり、従来例のように2つの部材を分離するときに、いずれか一方の部材の結合面からペースト状ガスケットが界面剥離されてしまう現象がさらに起こりにくくなる。そのため、従来例のように、前記2つの部材を再結合するにあたって、ペースト状ガスケットが界面剥離した側の部材の結合面に新たなペースト状ガスケットを塗布するときに、その接着力を高めるためのプラズマ処理を施す必要がなくなる。
【0026】
このように、前記のような材料の組み合わせであっても、プラズマ処理を施すための高価なプラズマ処理装置を装備していない環境において極めて簡単に再結合することが可能になる。
【0027】
好ましくは、前記ペースト状ガスケットが、シリコンゴム系のFIPGとされる。
【0028】
なお、前記のFIPGは、一般的に公知のように、Formed In Place Gasketの略である。そして、シリコンゴム系のFIPGは、例えば少なくとも2つの部材の結合面に線状または帯状に塗布することが可能であるとともに、塗布直後に形が崩れにくく、また、塗布後に弾性を有する状態で固まるという性質があるので、前記結合面への塗布作業が容易となるとともに、結合面の密封性が良好となる。
【0029】
好ましくは、前記埋め込み部材が、メッシュあるいは多孔シートとされる。
【0030】
なお、メッシュとは、線材を適宜のパターンで編み込んだ網目部材のことである。前記の線材は、例えば樹脂材料、金属材料、繊維材料等、任意とされる。また、多孔シートとは、シートに多数の貫通する孔を適宜のパターンで設けたもののことである。この多孔シートの素材についても、例えば樹脂材料、金属材料、繊維材料等、任意である。
【0031】
このようなメッシュあるいは多孔シートがペースト状ガスケットの内部に埋め込まれると、メッシュあるいは多孔シートの多数の孔からペースト状ガスケットの一部が通過するようになる。
【0032】
そのため、前記2つの部材を結合するときには、前記メッシュあるいは多孔シートの孔から通過するペースト状ガスケットが前記2つの部材の結合面間に跨って接着されることになる。
【0033】
また、前記2つの部材を一旦結合した後で分離するときには、前記メッシュあるいは多孔シートの孔を通過しているペースト状ガスケットが千切れるようになって、前記メッシュあるいは多孔シートがいずれか一方の部材側にペースト状ガスケットの一部と共に残留保持されることになる。そのときの状態としては、メッシュあるいは多孔シートの孔からペースト状ガスケットの一部が露出または突出するようになる。
【0034】
これにより、前記2つの部材を再結合する際には、前記メッシュあるいは多孔シートの外表面に新たなペースト状ガスケットを塗布すれば、このペースト状ガスケットが前記孔から露出または突出しているペースト状ガスケットの一部に接着されやすくなる。
【0035】
好ましくは、前記少なくとも2つの部材が、分離された後で再結合されるときに、前記一方部材側に残留付着しているペースト状ガスケットに残留保持されている埋め込み部材の凝集破壊面に、前記ペースト状ガスケットと同種の新たなペースト状ガスケットが塗布された状態で、前記2つの部材の結合面にそれぞれ残留付着しているペースト状ガスケットどうしが一体化される。
【0036】
このように、2つの部材を分離した後で再結合するときの作業を特定すれば、プラズマ処理を行うための高価な装置を備えていない環境においても極めて簡単に再結合することが可能になる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、少なくとも2つの部材の結合面に、塗布後に弾性を有する状態で固まる性質のペースト状ガスケットが介在されてシールされるシール構造において、前記少なくとも2つの部材を再結合する際の作業を、プラズマ処理装置を用いることなく、簡単に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るシール構造の適用対象となる内燃機関の一実施形態を示す側面図である。
【図2】図1に示す内燃機関の分解斜視図である。
【図3】図1の(3)−(3)線断面の矢視図である。
【図4】図3のペースト状ガスケット内における埋め込み部材の配置形態を示す斜視図である。
【図5】図3においてタイミングチェーンケースのフランジにペースト状ガスケットおよび埋め込み部材を設ける過程を模式的に示す斜視図である。
【図6】タイミングチェーンケースの官能基(ヒドロキシ基)とペースト状ガスケットの官能基(ヒドロキシ基)との結合の様子を示す断面図である。
【図7】図2のタイミングチェーンケースをシリンダブロックおよびシリンダヘッドから取り外した直後の状態を示す図である。
【図8】図7のタイミングチェーンケースを再び取り付ける過程を示す図である。
【図9】図4においてペースト状ガスケット内における埋め込み部材の他の配置形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0040】
図1から図8に本発明の一実施形態を示している。ここで、図1および図2を参照して、本発明の特徴を適用する対象となる内燃機関の概略構成について説明する。
【0041】
図1および図2において、1は内燃機関の全体を示しており、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はシリンダヘッドカバー、5はオイルパン、6はタイミングチェーンケース、7はPCVプレート、8はオイルシールリテーナである。
【0042】
タイミングチェーンケース6は、クランクプーリ11と吸気カムプーリ12や排気カムプーリ13とに巻き掛けられるタイミングチェーン(あるいはタイミングベルト)14を外部から隠蔽保護するものである。PCVプレート7は、PCV装置のブローバイガス取り出し部分に取り付けられるものである。オイルシールリテーナ8は、シリンダブロック2から突出するクランクシャフト9の後端の外周面との間を密封するためのオイルシール(図示省略)を保持するものである。
【0043】
これらのタイミングチェーンケース6、PCVプレート7、オイルシールリテーナ8は、適宜の樹脂材料で形成されることがある。また、シリンダヘッドカバー4やオイルパン5についても適宜の樹脂材料で形成されることがある。これらの樹脂材料としては、エンジニアプラスチックス全般、例えばポリプロピレン、ポリアミド等がある。
【0044】
その一方で、これらの樹脂材料からなる部品が取り付けられる相手となるシリンダブロック2やシリンダヘッド3等については、アルミニウム合金あるいは鋳鉄等のような金属材料で形成される。
【0045】
この実施形態では、樹脂材料からなる部品をタイミングチェーンケース6とする例を挙げる。このタイミングチェーンケース6は、シリンダブロック2やシリンダヘッド3に対してボルト15等の締結部材で固定されるようになっている。
【0046】
具体的に、図2および図3に示すように、タイミングチェーンケース6の外周には、外向きに突出するフランジ6aが設けられており、このフランジ6aには、ボルト15が適宜の隙間を持つ状態でルーズに挿入されるための貫通孔6bが設けられている。
【0047】
また、タイミングチェーンケース6の取り付け相手となるシリンダブロック2およびシリンダヘッド3の前面には、ボルト15をねじ込むためのねじ孔2a,3aが設けられている。
【0048】
そして、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3にタイミングチェーンケース6を取り付けるには、タイミングチェーンケース6のフランジ6aの外側から貫通孔6bにボルト15を差し込み、このボルト15をシリンダブロック2およびシリンダヘッド3のねじ孔2a,3aにねじ込むようにすればよい。
【0049】
このタイミングチェーンケース6とシリンダブロック2およびシリンダヘッド3との結合面には、密封性を確保するために、ペースト状ガスケット20が介在される。
【0050】
このペースト状ガスケット20は、塗布後に弾性を有する状態で固まる性質を有し、例えば一般的に公知のFIPG(Formed In Place Gasket)が用いられる。ここでのFIPGは、例えばシリコンゴム系で接着成分を有するものが用いられる。
【0051】
そして、ペースト状ガスケット20の内部には、メッシュまたは多孔シートからなる部材21が埋め込まれている。なお、メッシュとは、線材を適宜のパターンで編み込んだ網目部材のことである。この線材は、例えば樹脂材料、金属材料、繊維材料等、任意とされる。また、多孔シートとは、シートに多数の貫通する孔を適宜のパターンで設けたもののことである。この多孔シートの素材についても、例えば樹脂材料、金属材料、繊維材料等、任意である。また、メッシュや多孔シートの孔の個数や大きさについては、下記するように2層に重ねるペースト状ガスケット20が一体化するときの状態や凝集破壊のしやすさ等を考慮して適宜に設定することができる。
【0052】
この埋め込み部材21は、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3にタイミングチェーンケース6を一旦取り付けた後で取り外すときにペースト状ガスケット20が凝集破壊するときの起点となる役割を果たすためのものである。
【0053】
この実施形態では、図4に示すように、ペースト状ガスケット20において外側面(タイミングチェーンケース6の外部に露出する面)や内側面(タイミングチェーンケース6の内部に露出する面)に、単一の埋め込み部材21の周縁を略面一に揃えるような形態にしている。
【0054】
前記のように略面一と表現としているのは、タイミングチェーンケース6をシリンダブロック2およびシリンダヘッド3に取り付ける際に、タイミングチェーンケース6を押圧することに伴い、ペースト状ガスケット20がタイミングチェーンケース6の外側や内側に張り出すことがあって、埋め込み部材21の周縁がペースト状ガスケット20の外側面や内側面の中に埋没する状態になることも考えられるからである。
【0055】
次に、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3にタイミングチェーンケース6を取り付ける際の作業について詳しく説明する。
【0056】
ここでは、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3をアルミニウム合金や鋳鉄等の金属材料とし、タイミングチェーンケース6を樹脂材料とする場合を例に挙げる。
【0057】
タイミングチェーンケース6を樹脂材料とする場合、この樹脂材料に対してFIPGからなるペースト状ガスケット20の接着力が弱い、つまり親和性が悪いことが知られている。というのは、樹脂材料は、一般的に公知のように、表面に官能基としてのヒドロキシ基が存在する密度が少ない。そのために、樹脂材料のヒドロキシ基とペースト状ガスケット20のヒドロキシ基とが水素結合する密度が極めて少なくなり、結果的に接着力が弱くなるのである。
【0058】
そこで、この実施形態では、タイミングチェーンケース6に対するペースト状ガスケット20の接着力を高めるために、タイミングチェーンケース6にペースト状ガスケット20を塗布する前に、タイミングチェーンケース6のフランジ6aの結合面にプラズマ処理を施することによりフランジ6aの結合面を改質し、その直後にフランジ6aにその周方向に沿って1層目のペースト状ガスケット20を帯状に塗布するようにしている。
【0059】
このように、樹脂材料にプラズマ処理を施すと、前記樹脂表面の酸化膜が除去されて、当該表面が粗くなるとともに、当該表面に多数の官能基としてのヒドロキシ基が付加される。これにより、樹脂材料の表面積が増したうえに、表面にヒドロキシ基が存在する密度が高くなるから、その樹脂材料に1層目のペースト状ガスケット20を塗布すると、前記樹脂材料のヒドロキシ基とペースト状ガスケット20のヒドロキシ基との水素結合(図6参照)の密度が高くなって、1層目のペースト状ガスケット20の接着力が高まる結果となる。
【0060】
この後、図5に示すように、フランジ6aに塗布した1層目のペースト状ガスケット20の表面に、埋め込み部材21を貼り付けてから、この埋め込み部材21の表面に、さらに2層目のペースト状ガスケット20を重ね塗る。これにより、上下2層のペースト状ガスケット20がメッシュからなる埋め込み部材21の多数の孔を相互に通過することにより上下2層のペースト状ガスケット20が一体化するようになる。
【0061】
こうしてから、タイミングチェーンケース6のフランジ6aをシリンダブロック2およびシリンダヘッド3の前面に押し付けることにより、フランジ6a側に塗布したペースト状ガスケット20の外面がシリンダブロック2およびシリンダヘッド3の前面に接着されるようになる。このとき、タイミングチェーンケース6側の貫通孔6bを、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3側のねじ孔2a,3aに合致させるようにしておく。
【0062】
この取り付け過程において、粘性を有するペースト状ガスケット20を用いるとともにプラズマ処理で接着力を高めているから、タイミングチェーンケース6の取り扱い姿勢に関係なく、ペースト状ガスケット20がフランジ6aから垂れ落ちる心配がない。そのため、結合作業が容易に行えるようになる。
【0063】
この状態で、タイミングチェーンケース6のフランジ6aの外側から貫通孔6bにボルト15を差し込み、このボルト15をシリンダブロック2およびシリンダヘッド3のねじ孔2a,3aにねじ込む。
【0064】
参考までに、前記のプラズマ処理は、所定の圧力(低気圧または大気圧)のガスに対し直流または交流電界により放電を発生させて、高度に電離したガス状態のプラズマを適宜の噴射ノズル(図示省略)からジェット噴射して、樹脂からなるタイミングチェーンケース6のフランジ6aにおける結合面に照射させる。このプラズマの照射は、フランジ6aの周方向に沿って前記噴射ノズルを所定速度で動かしながら行う。この噴射ノズルの移動ラインを追いかけるようにして、プラズマの照射直後に前記した1層目のペースト状ガスケット20を塗布するのが好ましい。
【0065】
このプラズマ処理の放電条件は、特に限定はないが、前記圧力を10(Torr)以下とすることが好ましい。また、電源のプラズマ励磁電界周波数は、50(Hz)等の定周波交流、1(kHz)〜100(kHz)程度の交流、13.56(MHz)等のラジオ波、2.45(GHz)等のマイクロ波等のいずれかが利用できる。また、前記ガスは、例えばアルゴンガス、酸素、空気、窒素、ヘリウムガス、フッ素系ガス、アンモニア等を利用できるが、そのうち、アンモニア、酸素、アルゴンガス、窒素等のいずれかとするのが好ましい。さらに、プラズマ処理の形態については、ICP高密度プラズマ照射、RIE汎用プラズマ照射、大気圧プラズマ照射等、任意である。
【0066】
次に、図7および図8を参照して、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3からタイミングチェーンケース6を取り外し、さらに再結合する際の作業について詳しく説明する。
【0067】
つまり、ボルト15をすべて取り外してから、タイミングチェーンケース6をシリンダブロック2およびシリンダヘッド3から引き離すようにすると、既に固まっているペースト状ガスケット20が、埋め込み部材21を境にして凝集破壊されるようになる。このとき、埋め込み部材21としてのメッシュあるいは多孔シートの孔を通過していたペースト状ガスケット20が千切れる。この現象は、前記したように樹脂材料からなるタイミングチェーンケース6のペースト状ガスケット20の塗布対象面にプラズマ処理を施して、ペースト状ガスケットの接着力を強くしているから、発生しやすくなる。
【0068】
これにより、例えば図7に示すように、ペースト状ガスケット20の厚み方向の略半分20aがタイミングチェーンケース6側に、また、残り略半分20bがシリンダブロック2およびシリンダヘッド3に残留付着したままになる。そして、埋め込み部材21は、前記残留付着している2つのペースト状ガスケット20a,20bのいずれか一方に残留保持されるようになる。なお、図7の例では、シリンダブロック2およびシリンダヘッド3側に残留付着しているペースト状ガスケット20b側に埋め込み部材21が残留保持されている。
【0069】
このような状態においては、詳細に図示していないが、埋め込み部材21としてのメッシュあるいは多孔シートに存在する多数の孔からペースト状ガスケット20bの千切れた部分が露出または突出する状態になる。
【0070】
そこで、前記取り外したタイミングチェーンケース6を再取り付けする場合には、例えば図8に示すように、埋め込み部材21としてのメッシュあるいは多孔シートの外表面に既存のペースト状ガスケット20と同種の新たなペースト状ガスケット20cを塗布する。このとき、新たに塗布したペースト状ガスケット20cが前記埋め込み部材21としてのメッシュあるいは多孔シートに存在する多数の孔から露出または突出しているペースト状ガスケット20bの一部に接着されることになる。
【0071】
この後、タイミングチェーンケース6のフランジ6aをシリンダブロック2およびシリンダヘッド3の前面に押し付けてから、ボルト15を必要部位にねじ込めばよい。
【0072】
このとき、タイミングチェーンケース6のフランジ6a側に残留付着しているペースト状ガスケット20aの分離面がシリンダブロック2およびシリンダヘッド3の前面側の新たなペースト状ガスケット20cに接着されるようになり、すべてのペースト状ガスケット20a,20b,20cが一体化されるようになる。
【0073】
このように、ペースト状ガスケット20a,20b,20cが原子レベルでの共有結合により一体化されるので、一体化後にはペースト状ガスケット20a,20b,20cに層状の境界が存在しない。そのため、タイミングチェーンケース6とシリンダブロック2およびシリンダヘッド3との結合力が強固となり、結合部分の密封性が良好となる。これにより、タイミングチェーンケース6を再取り付けする現場でプラズマ処理を行うといった手間を省くことが可能になる。
【0074】
以上説明したように、本発明の特徴を適用した実施形態によれば、タイミングチェーンケース6を取り外すときに、ペースト状ガスケット20がタイミングチェーンケース6側またはシリンダブロック2およびシリンダヘッド3側から界面剥離せずに、ペースト状ガスケット20内に埋め込んだ埋め込み部材21を境にして凝集破壊するようになる。
【0075】
これにより、タイミングチェーンケース6をシリンダブロック2およびシリンダヘッド3に再取り付けする際の作業を、高価なプラズマ処理装置を用いることなく、簡単に行うことが可能になる。したがって、タイミングチェーンケース6を再取り付けする現場に、プラズマ処理を施すためのプラズマ処理装置を常備する必要がなく、例えば整備工場等に過大な設備投資を強いることが無くなる。
【0076】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。以下で例を挙げる。
【0077】
(1)上記実施形態では、タイミングチェーンケース6のフランジ6aに2層のペースト状ガスケット20を塗布し、それらの間に埋め込み部材21を挟むようにした積層構造とした例を挙げている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、図示しないが、例えばタイミングチェーンケース6のフランジ6aにペースト状ガスケット20を塗布してからその上に埋め込み部材21を貼り付ける一方で、タイミングチェーンケース6の取り付け相手であるシリンダブロック2およびシリンダヘッド3にもペースト状ガスケット20を塗布しておいて、両者のペースト状ガスケット20どうしを接合させるようにしてもよい。
【0078】
(2)上記実施形態では、ペースト状ガスケット20に対する埋め込み部材21の埋め込み形態について、図4に示すように、ペースト状ガスケット20において外側面(タイミングチェーンケース6の外部に露出する面)や内側面(タイミングチェーンケース6の内部に露出する面)に、単一の埋め込み部材21の周縁を略面一に揃えるような形態にしているが、本発明はこれに限定されない。
【0079】
まず、埋め込み部材21は、2つ以上とすることが可能である。また、ペースト状ガスケット20に対する埋め込み部材21の埋め込み形態について、例えば図9に示すように、埋め込み部材21の周縁をペースト状ガスケット20の前記外側面や前記内側面に届かないように完全に埋没させるような形態とすることが可能である。このような場合でも、上記実施形態と同様の作用、効果が得られる。
【0080】
(3)上記実施形態では、樹脂製のタイミングチェーンケース1を金属製のシリンダブロック2およびシリンダヘッド3に結合する例を挙げているが、本発明はこれに限定されない。
【0081】
例えばシリンダヘッドカバー4、オイルパン5、PCVプレート7、オイルシールリテーナ8等を適宜の樹脂材料で形成する場合には、これらを金属製部材としての例えばシリンダブロック2やシリンダヘッド3に取り付ける際に、それらの結合面に前記したシール構造を適用することが可能である。
【0082】
また、シリンダヘッドカバー4、オイルパン5、PCVプレート7、オイルシールリテーナ8等については、マグネシウム合金を材料として製造される場合がある。このマグネシウム合金は、一般的に公知のように、樹脂材料と同様、表面に官能基が存在する密度が少ない。しかし、その場合も、上記実施形態と同様にプラズマ処理をしてからペースト状ガスケット20を塗布するようにすればよいので、上記実施形態と何も変わらない。さらに、シリンダブロック2やシリンダヘッド3についてもマグネシウム合金で製造する場合がある。この場合には、シリンダブロック2やシリンダヘッド3の結合面にペースト状ガスケット20を接着する前にプラズマ処理を施すようにするのが好ましい。
【0083】
(4)上記実施形態では、内燃機関1の構成要素の結合部分に本発明を適用する例を挙げているが、いろいろな装置の部材間の結合部分に本発明に係るシール構造を適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 内燃機関
2 シリンダブロック
2a シリンダブロックのねじ孔
3 シリンダヘッド
3a シリンダヘッドのねじ孔
6 タイミングチェーンケース
6a タイミングチェーンケースのフランジ
6b フランジの貫通孔
15 ボルト
20 ペースト状ガスケット
21 埋め込み部材(メッシュまたは多孔シート等)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの部材の結合面に、塗布後に弾性を有する状態で固まる性質のペースト状ガスケットが介在されてシールされるシール構造であって、
前記ペースト状ガスケットの内部に、前記少なくとも2つの部材を結合後に分離するときに凝集破壊の起点となる部材が埋め込まれている、ことを特徴とするシール構造。
【請求項2】
請求項1に記載のシール構造において、
前記少なくとも2つの部材のうちの少なくとも一方部材が、その結合面に官能基が存在する密度の少ない材料で形成され、
前記ペースト状ガスケットは、前記一方部材の結合面にプラズマ処理が施されてから塗布される1層目のペースト状ガスケットと、この1層目のペースト状ガスケットの上に貼り付けられる前記埋め込み部材と、この埋め込み部材の上に塗布される2層目のペースト状ガスケットとを含む積層構造とされる、ことを特徴とするシール構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシール構造において、
前記ペースト状ガスケットが、シリコンゴム系のFIPGとされる、ことを特徴とするシール構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のシール構造において、
前記埋め込み部材が、メッシュあるいは多孔シートとされる、ことを特徴とするシール構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のシール構造において、
前記少なくとも2つの部材が、分離された後で再結合されるときに、前記一方部材側に残留付着しているペースト状ガスケットに残留保持されている埋め込み部材の凝集破壊面に、前記ペースト状ガスケットと同種の新たなペースト状ガスケットが塗布された状態で、前記2つの部材の結合面にそれぞれ残留付着しているペースト状ガスケットどうしが一体化される、ことを特徴とするシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−164065(P2010−164065A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4364(P2009−4364)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】