説明

シール構造

【課題】シール性を向上することができると共に、組付性を向上することができるシール構造を提供する。
【解決手段】ケーシング3と、このケーシング3に収容され回転可能に支持された回転部材5と、ケーシング3と回転部材5との間に配置されケーシング3の内部と外部とを区画するシール手段7とを備えたシール構造1において、シール手段7が、ケーシング3に固定され弾性変形可能なリップ部9が設けられたシール部材11と、回転部材5に固定されリップ部9と摺動する防御壁部材13とを有し、防御壁部材13が、シール部材11のリップ部9と摺動する摺動部15と、回転部材5に固定される固定部17と、摺動部15よりもケーシング3の外部側に設けられ摺動部15を保護する保護部19とを有し、摺動部15と固定部17と保護部19とを、連続する一部材で形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用されるシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーシングと回転部材との間に配置され、ケーシング外部からケーシング内部への泥水などの浸入を防止するシール手段を備えたシール構造としては、ケーシングとしてのハウジングと、回転部材としての円筒部材と、ハウジングに固定されたシールと、円筒部材に固定されたダストカバーとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このシール構造では、シールのリップがダストカバーと摺動することにより、ハウジングの内部に塵や水分などの異物が外部から侵入することを防止している。また、シールのリップをダストカバーと摺動させることにより、円筒部材との直接摺動による異常摩耗を防止している。
【0004】
しかしながら、このようなシール構造では、シールのリップとダストカバーとの摺動部が全体的に外部に露出されている。このため、飛び石のような比較的硬い物質がダストカバーに当たった場合、ダストカバーが変形し、シールのリップの摺動部において、シール性が低下する懸念があるのでダストカバーの変形を防止すべく、その肉厚を十分に厚くする必要があった。
【0005】
これに対して、シール部材のリップ部の摺動部を保護するために、摺動部の外側にダストカバーを配置したシール構造が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
このシール構造では、シール部材のリップ部が摺動する摺動部材を回転部材に固定させ、この摺動部材の外側に摺動部を保護するダストカバーを回転部材に固定させている。このように摺動部の外側にダストカバーを配置することにより、飛び石があったとしても、ダストカバーに飛び石が当たるため、シール部材のリップ部と摺動する摺動部材が変形することを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−13978号公報
【特許文献2】特開2008−248937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2のようなシール構造では、シール部材のリップ部と摺動する摺動部材と、摺動部材を保護するダストカバーとが別体で設けられている。このため、シール部材と、摺動部材と、ダストカバーとを別々に組付けなければならず、組付性が低下すると共に、各部材の組付誤差によってシール性が低下する可能性があった。
【0009】
そこで、この発明は、ダストカバーが飛び石などの外的要因による変形を考慮しても、シール性を向上することができると共に、組付性を向上することができるシール構造の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、ケーシングと、このケーシングに収容され回転可能に支持された回転部材と、前記ケーシングと前記回転部材との間に配置され前記ケーシングの内部と外部とを区画するシール手段とを備えたシール構造であって、前記シール手段は、前記ケーシングに固定され弾性変形可能なリップ部が設けられたシール部材と、前記回転部材に固定され前記リップ部と摺動する防御壁部材とを有し、前記防御壁部材は、前記シール部材のリップ部と摺動する摺動部と、前記回転部材に固定される固定部と、前記摺動部よりも前記ケーシングの外部側に設けられ前記摺動部を保護する保護部とを有し、前記摺動部と前記固定部と前記保護部とは、連続する一部材で形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のシール構造であって、前記防御壁部材の摺動部と前記シール部材の端面、及び前記防御壁部材の保護部と前記ケーシングは、それぞれ微少隙間が設けられて対向配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のシール構造であって、前記シール部材と前記回転部材との間には、微少隙間が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1のシール構造は、摺動部よりもケーシングの外部側に摺動部を保護する保護部が設けられているので、飛び石などにより保護部が変形したとしても、摺動部に飛び石などが当たることがなく、摺動部の変形を防止することができ、シール部材のリップ部と摺動部との摺動を正常に維持することができる。
【0014】
また、摺動部と固定部と保護部とが連続する一部材で形成されているので、組付けにおいて、シール部材と防御壁部材とを組付けるだけでケーシングと回転部材との間をシールすることができる。加えて、シール部材のリップ部と防御壁部材の摺動部とが当接するように組付ければよいので、組付誤差を軽減することができ、ケーシングと回転部材との間のシールと、摺動部の保護とを確実に行うことができる。
【0015】
従って、シール性を向上することができると共に、組付性を向上することができる。
【0016】
請求項2のシール構造は、防御壁部材の摺動部とシール部材の端面、及び防御壁部材の保護部とケーシングがそれぞれ微少隙間が設けられて対向配置されているので、ケーシングの外部から摺動部とシール部材のリップ部とが摺動する部分までをラビリンス構造とすることができ、摺動部とシール部材のリップ部とが摺動する部分へ泥水などが浸入することを低減することができる。
【0017】
請求項3のシール構造は、シール部材と回転部材との間に微少隙間が形成されているので、シール部材と回転部材とが摺動することがなく、摺動によって発生するフリクションを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】車両の動力系を示す概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るシール構造が適用された動力伝達装置の断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るシール構造が適用された動力伝達装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、図1を用いて本発明の実施の形態に係るシール構造が適用された動力伝達装置を搭載した車両の動力系について説明する。なお、ここでは、第1実施形態のシール構造が適用されたものとするが、他の実施形態のシール構造についても第1実施形態のシール構造と同様に適用することができる。
【0020】
図1に示すように、車両の動力系は、エンジン301や電動モータ303などの駆動源と、変速機構としてのトランスミッション305と、前輪側の左右輪の差動を許容する差動機構としてのフロントデフ307と、前車軸309,311と、前輪313,315と、トランスファ317と、プロペラシャフト319と、動力伝達装置201と、後輪側の左右輪の差動を許容する差動機構としてのリヤデフ321と、後車軸323,325と、後輪327,329などから構成されている。なお、トランスミッション305の近傍には、変速用としての電動モータ331がトランスミッション305と連結して配置されている。
【0021】
駆動源の駆動力はトランスミッション305からフロントデフ307のデフケース333を介してピニオン335に伝達され、一対のサイドギヤ337,339に連結された前車軸309,311から前輪313,315に配分されると共に、デフケース333と連結した中空軸341に分岐されてトランスファ317に伝達される。このトランスファ317に伝達された駆動力は、中空軸341から変換ギヤ組343によって方向変換され、プロペラシャフト319を介して動力伝達装置201側に伝達される。
【0022】
この動力伝達装置201に伝達された駆動力は、断続機構205がスロットルやアクセル開度、エンジン回転数、車速、前後輪や左右輪回転数、ステアリング角度などを検知する各種センサの情報が入力されるコントローラ(不図示)によって制御可能に接続されると、ギヤ組345を介してリヤデフ321に伝達される。このリヤデフ321に伝達された駆動力は、デフケース347を介してピニオン349に伝達され、一対のサイドギヤ351,353に連結された後車軸323,325から後輪327,329に配分され、車両は前後輪駆動の4輪駆動状態になる。また、断続機構205の接続が解除されると、車両は前輪駆動の2輪駆動状態になる。
【0023】
次に、図2を用いて本発明の実施の形態に係るシール構造が適用された動力伝達装置について説明する。
【0024】
図2に示すように、動力伝達装置201は、ケーシング3と、内側回転部材203と、回転部材としての外側回転部材5と、断続機構205とを備えている。ケーシング3は、筒状に形成され、リヤデフ321(図1参照)を収容する静止系部材としてのキャリア355(図1参照)に連結固定される。このケーシング3には、内側回転部材203と外側回転部材5とが相対回転可能に収容されている。
【0025】
内側回転部材203は、中空状に形成され、内周の中間部に隔壁207が設けられている。この隔壁207の軸方向一側の内周には、リヤデフ321に駆動力を伝達するギヤ組345(図1参照)側に連結されるスプライン形状の連結部209が形成されている。また、隔壁207の軸方向他側の外周には、断続機構205の断続部237の内側クラッチ板が係合されるスプライン形状の係合部211が形成されている。この内側回転部材203の外周側には、Xリング213とベアリング215,217とを介して外側回転部材5が内側回転部材203と相対回転可能に配置されている。なお、Xリング213は、シール手段としても機能しており、隔壁207と共にケーシング3の内部とキャリア355の内部とを区画している。
【0026】
外側回転部材5は、ケーシング3に対してベアリング219を介して回転可能に支持され、クラッチハウジング221と、ロータ223とを備えている。クラッチハウジング221は、有底の筒状に形成され、底部に外側回転部材5の内部に封入される潤滑油を供給させる供給孔225が設けられ、この供給孔225は潤滑油の供給後に蓋部材227によって閉塞される。また、クラッチハウジング221の底部は、プロペラシャフト319(図1参照)側に外側回転部材5の端壁に推込み固定されたスタッドボルト308及び図示外の連結フランジを介して一体回転可能に連結され、駆動源からの駆動力が外側回転部材5に伝達される。また、クラッチハウジング221の筒状部の内周には、断続部237の外側クラッチ板が係合されるスプライン形状の係合部229が形成されている。このクラッチハウジング221の筒状部の端部外周には、ねじ形状の連結部231が形成され、ロータ223と一体回転可能にねじ締結されている。
【0027】
ロータ223は、磁性材料からなり、アクチュエータ239の電磁石241と軸方向に隣接配置され、電磁石241の励磁による磁束を透過して磁路を形成させる。なお、ロータ223とクラッチハウジング221との径方向間にはシール手段としてのOリング235が配置され、Xリング213及び隔壁207と共に外側回転部材5の内部空間と外部空間とを区画している。このような外側回転部材5と内側回転部材203とは、断続機構205によって駆動力の伝達が断続される。
【0028】
断続機構205は、断続部237と、アクチュエータ239とを備えている。断続部237は、複数の内側クラッチ板と、複数の外側クラッチ板とを備えている。複数の内側クラッチ板は、内側回転部材203の外周に形成された係合部211に軸方向移動可能で内側回転部材203と一体回転可能に係合されている。複数の外側クラッチ板は、複数の内側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され、外側回転部材5のクラッチハウジング221の内周に形成された係合部229に軸方向移動可能で外側回転部材5と一体回転可能に係合されている。この断続部237は、複数の内側クラッチ板と複数の外側クラッチ板とで構成された多板クラッチであり、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の摩擦クラッチとなっている。この断続部237は、アクチュエータ239によって制御可能に断続操作される。
【0029】
アクチュエータ239は、ロータ223を含め、電磁石241と、アーマチャ243と、パイロットクラッチ245と、カム機構247と、プレッシャリング249とを備えている。電磁石241は、ベアリング251を介して外側回転部材5に支持されると共に、静止系部材であるケーシング3に対して回り止め部材233によって回り止めされ、電磁コイル253とコア255とを備えている。コア255は、リード線257を介して通電を制御するコントローラに接続されており、コントローラの制御によって断続部237に必要な摩擦トルクを生じさせるように電磁コイル253に通電される。この電磁石241の励磁により、アーマチャ243が吸引移動される。
【0030】
アーマチャ243は、磁性材料からなり、外側回転部材5内に軸方向移動可能で軸方向にパイロットクラッチ245を挟んでロータ223と対向配置されている。このアーマチャ243は、電磁石241が励磁されたとき、コア255、ロータ223、パイロットクラッチ245、アーマチャ243を介した磁力線が循環されて形成される磁束ループによって電磁石241側に吸引移動され、パイロットクラッチ245を接続させる。
【0031】
パイロットクラッチ245は、外側回転部材5内でロータ223とアーマチャ243との軸方向間に配置され、クラッチハウジング221の軸方向端部に軸方向移動可能で外側回転部材5と一体回転可能に連結する複数の外側プレートと、カムリング259の外周に複数の外側プレートに対して軸方向間に配置され軸方向移動可能でカムリング259と一体回転可能に連結する内側プレートとで構成されている。このパイロットクラッチ245の締結トルクは、カム機構247を介して軸方向推力に変換され、プレッシャリング249で断続部237を押圧して所定の駆動トルクが伝達される。
【0032】
カム機構247は、カムリング259とプレッシャリング249とに周方向に形成されたカム面を対向させ、この間に介在させたカムボール261を備えている。カムリング259は、内側回転部材203の外周に軸方向移動可能に配置され、パイロットクラッチ245の内側プレートが一体回転可能に連結されている。このカムリング259とロータ223との軸方向間には、カム機構247で生じるスラスト反力を受けるスラストベアリング263が配置されている。
【0033】
カムボール261は、カムリング259とプレッシャリング249とに形成されたカム面の間に配置されている。このカムボール261は、パイロットクラッチ245の接続によってカムリング259とプレッシャリング249との間に差回転が生じることにより、パイロットクラッチ245に生じる摩擦トルクに応じた強さでプレッシャリング249を断続部237の接続方向へ軸方向押圧移動させるカムスラスト力を発生させる。
【0034】
プレッシャリング249は、内側回転部材203の外周に軸方向移動可能に配置されている。このプレッシャリング249は、カム機構247で生じるスラスト力によって断続部237の接続方向に軸方向移動され、断続部237に押圧力を付与して接続させ、内側回転部材203と外側回転部材5とを接続させる。
【0035】
このように構成された動力伝達装置201は、電磁石241への通電制御によってアーマチャ243が吸引移動され、パイロットクラッチ245を押圧し、パイロットクラッチ245が制御された摩擦トルクをもって接続される。パイロットクラッチ245が接続されるとカム機構247でカムスラスト力が発生してプレッシャリング249が断続部237側に押圧移動される。このプレッシャリング249の移動により断続部237が接続され、内側回転部材203と外側回転部材5とが接続される。この内側回転部材203と外側回転部材5との接続により、プロペラシャフト319側から断続部237を介してリヤデフ321側へ駆動力が伝達され、必要な駆動力を後輪側へ伝達することができるように車両が前後輪駆動の四輪駆動状態となる。
【0036】
このような動力伝達装置201のケーシング3と外側回転部材5との間には、ケーシング3の内部と外部とを区画するためにシール構造がとられている。以下、図2,図3を用いて本発明の実施の形態に係るシール構造について説明する。
【0037】
(第1実施形態)
図2を用いて第1実施形態について説明する。
【0038】
本実施の形態に係るシール構造1は、ケーシング3と、このケーシング3に収容され回転可能に支持された回転部材としての外側回転部材5と、ケーシング3と外側回転部材5との間に配置されケーシング3の内部と外部とを区画するシール手段7とを備えている。
【0039】
そして、シール手段7は、ケーシング3に固定され弾性変形可能なリップ部9が設けられたシール部材11と、外側回転部材5に固定されリップ部9と摺動する防御壁部材13とを有し、防御壁部材13は、シール部材11のリップ部9と摺動するために径方向に延設された環プレート状の摺動部15と、外側回転部材5の端部外周に所定の軸方向圧入面をもって固定される固定部17と、摺動部15よりもケーシング3の外部側であって固定部17から第1に径方向に延設して設けられ摺動部15を保護する保護部19とを有し、摺動部15と固定部17と保護部19とは、連続する一部材で形成されている。
【0040】
また、防御壁部材13の摺動部15とシール部材11の端面(実施形態として詳述すると、シール部材の取り付け基部の端部の軸方向端面)、及び防御壁部材13の保護部19とケーシング3は、それぞれ微少隙間21,23が設けられて対向配置されている。なお、後述するラビリンス機能に係るが、微少隙間21,23は、寸法として0mmを超え5mm程度の隙間を意味し、摺動部15、固定部17、保護部19及びケーシング3の端部で取り囲まれた空間部20の容積を微少隙間21,23により区別するようにしてラビリンス機能を持たせる隙間が形成されればよい。
【0041】
さらに、シール部材11と外側回転部材5との間には、微少隙間25が形成されている。
【0042】
図2に示すように、シール手段7は、シール部材11と、防御壁部材13とを備えている。シール部材11は、ケーシング3の内周面に圧入して軸方向位置が固定され、リップ部9が設けられている。また、シール部材11と外側回転部材5との径方向間には、微少隙間25が設けられ、シール部材11と外側回転部材5とが摺動しないように設定されている。このシール部材11のリップ部9は、弾性変形可能に設けられ、所定の接触圧をもって防御壁部材13の摺動部15に当接されている。
【0043】
防御壁部材13は、摺動部15と、固定部17と、保護部19とを備えている。摺動部15は、シール部材11に隣接配置され、シール部材11のリップ部9と当接して外側回転部材5の回転によって摺動する。このリップ部9と摺動部15との当接により、ケーシング3内部への泥水などの浸入が防止され、ケーシング3の内部がシールされる。また、摺動部15の径方向突出高さはケーシング3と摺動しないように設定されており、摺動部15とシール部材11の軸方向端面との間には微少隙間21が設けられて摺動部15とシール部材11とが軸方向に対向配置されている。
【0044】
固定部17は、摺動部15と連続する一部材で形成され、外側回転部材5の外周面に圧入によって外側回転部材5と一体回転可能に固定される。なお、摺動部15とシール部材11のリップ部9とが重複して記載されているが、実際には、リップ部9が撓んで摺動部15に摺動する状態になっている。また、固定部17と外側回転部材5の外周面との間には液状ガスケットのようなシール手段を用いて圧入部の気密性を確保してもよい。
【0045】
保護部19は、摺動部15よりもケーシング3の外部側、詳細には固定部17の摺動部15が設けられた反対側の端部に固定部17と連続する一部材で形成されている。この保護部19は、摺動部15からケーシング3の外周側までを覆うように設けられている。この保護部19により、例えば、摺動部15に向けて飛び石が発生したとしても、飛び石が保護部19に当たるため、万一、保護部19が変形させられても、摺動部15に飛び石が到達することがなく、摺動部15の変形を防止することができる。また、ケーシング3の外周面と保護部19の対向面との間には、ケーシング3と保護部19とが摺動しないように微少隙間23が設けられてケーシング3と保護部19とが径方向に対向配置されている。この微少隙間23と、摺動部15とシール部材11との間の微少隙間21により、微少隙間23から摺動部15とシール部材11のリップ部9とが摺動する部分までをラビリンス構造とすることができる。
【0046】
このようなシール構造1では、摺動部15よりもケーシング3の外部側に摺動部15を保護する保護部19が設けられているので、摺動部15に飛び石などが当たることがなく、摺動部15の変形を防止することができ、シール部材11のリップ部9と摺動部15との摺動を正常に維持することができる。
【0047】
また、摺動部15と固定部17と保護部19とが連続する一部材で形成されているので、組付けにおいて、シール部材11と防御壁部材13とを組付けるだけでケーシング3と外側回転部材5との間をシールすることができる。加えて、シール部材11のリップ部9と防御壁部材13の摺動部15とが当接するように組付ければよいので、組付誤差を軽減することができ、ケーシング3と外側回転部材5との間のシールと、摺動部15の保護とを確実に行うことができる。
【0048】
従って、シール性を向上することができると共に、組付性を向上することができる。
【0049】
また、防御壁部材13の摺動部15とシール部材11の端面、及び防御壁部材13の保護部19とケーシング3がそれぞれ微少隙間21,23が設けられて対向配置されているので、ケーシング3の外部から摺動部15とシール部材11のリップ部9とが摺動する部分までをラビリンス構造とすることができ、摺動部15とシール部材11のリップ部9とが摺動する部分へ泥水などが浸入することを低減することができる。
【0050】
さらに、シール部材11と外側回転部材5との間に微少隙間25が形成されているので、シール部材11と外側回転部材5とが摺動することがなく、摺動によって発生するフリクションを確実に防止することができる。
【0051】
(第2実施形態)
図3を用いて第2実施形態について説明する。
【0052】
本実施の形態に係るシール構造101は、防御壁部材103の保護部105とケーシング3は、微少隙間107が設けられて対向配置され、微少隙間107は、径方向位置が微少隙間21よりも径方向外側に位置されている。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、構成及び機能説明は第1実施形態を参照するものとし省略するが、得られる効果は同一である。
【0053】
図3に示すように、防御壁部材103の保護部105は、先端部がケーシング3の内周面と対向するように形成されている。この保護部105の先端部とケーシング3の内周面との間には、ケーシング3と保護部105とが摺動しないように微少隙間107が設けられてケーシング3と保護部105とが径方向に対向配置されている。この微少隙間107は、摺動部15とシール部材11との間の微少隙間21よりも径方向位置が外側に位置している。このように微少隙間107,21の径方向位置を設定することにより、微少隙間107から摺動部15とシール部材11のリップ部9とが摺動する部分までをラビリンス構造とすることができる。
【0054】
このようなシール構造101では、微少隙間107の径方向位置が微少隙間21よりも径方向外側に位置されているので、ケーシング3の外部から摺動部15とシール部材11のリップ部9とが摺動する部分までをラビリンス構造とすることができ、摺動部15とシール部材11のリップ部9とが摺動する部分へ泥水などが浸入することを低減することができる。
【0055】
また、ラビリンス構造とするために微少隙間107の径方向位置と微少隙間21の径方向位置とを異ならせるだけでよいので、保護部105の形状や保護部105の周辺に位置する部材の形状を簡易化することができる。付記すると、微少隙間107は、第1実施形態における微少隙間23相当の機能も有する。
【0056】
なお、本発明の実施の形態に係るシール構造では、回転部材として断続機構を有する動力伝達装置の外側回転部材を例示しているが、これに限らず、断続機構を有さない動力伝達装置や他の伝動機構を有する動力伝達装置など静止系部材と回転部材との間をシールする構造であれば、どのような形態であっても適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1,101…シール構造
3…ケーシング
5…外側回転部材
7…シール手段
9…リップ部
11…シール部材
13,103…防御壁部材
15…摺動部
17…固定部
19,105…保護部
21,23,25,107…微少隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、このケーシングに収容され回転可能に支持された回転部材と、前記ケーシングと前記回転部材との間に配置され前記ケーシングの内部と外部とを区画するシール手段とを備えたシール構造であって、
前記シール手段は、前記ケーシングに固定され弾性変形可能なリップ部が設けられたシール部材と、前記回転部材に固定され前記リップ部と摺動する防御壁部材とを有し、
前記防御壁部材は、前記シール部材のリップ部と摺動する摺動部と、前記回転部材に固定される固定部と、前記摺動部よりも前記ケーシングの外部側に設けられ前記摺動部を保護する保護部とを有し、前記摺動部と前記固定部と前記保護部とは、連続する一部材で形成されていることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
請求項1記載のシール構造であって、
前記防御壁部材の摺動部と前記シール部材の端面、及び前記防御壁部材の保護部と前記ケーシングは、それぞれ微少隙間が設けられて対向配置されていることを特徴とするシール構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載のシール構造であって、
前記シール部材と前記回転部材との間には、微少隙間が形成されていることを特徴とするシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−99521(P2011−99521A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254933(P2009−254933)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】